古泉の陰謀 (67-594)

Last-modified: 2007-11-06 (火) 00:20:51

概要

作品名作者発表日保管日
古泉の陰謀67-594氏07/11/0507/11/06

作品

高校2年の夏、まぶしい陽気と新緑の香る、ある日のSOS団部室での出来事
 
ホームルームを終え、掃除当番のキョンより一足先に部室にやってきたハルヒは部室に一人きりでいる古泉を見つける
「あれ、古泉くん一人だけなの? 珍しいわね、有希が部室にいないなんて…」
「ええ、実はわけあって長門さんには席をはずしてもらっています。今日は涼宮さんにぜひお話したいことがありましたので」
「ふ~ん、それってあたしと2人だけでないとダメな話なわけ?有希にも聞かれちゃまずいような話ってこと?古泉くん」
「ええ、幸いにも朝比奈さんは3年生の受験対策補講の真っ最中ですし、今日が一番お話しするには適していると思いましたので」
つかつかと団長専用の机に向かい、イスに腰をおろすハルヒ
「それで?それはどんな話なの、古泉くん?」
「申し訳ありませんが、涼宮さん、お話しする前に一度ご起立いただいてよろしいでしょうか?」
「へっ?座って聞いてちゃダメなの?」
「ええ、ついでに申しますとそちらのロッカーの前で僕に背を向ける形で立っていただけると大変ありがたいのですが…」
「変なの、そのロッカーの前で立って聞いていないとダメなわけ?それってそんなに大事な話なの?」
「ええ、SOS団の団員全員の未来に関わる最重要なお話です。お話しするためにも涼宮さんにはどうしても指定の位置に立っていただかないといけないのです」
「えっ!?そんなに大事な話しなの・・・、う~ん、それじゃあ言われた通りにするけど・・・」
しぶしぶとハルヒは、古泉に指定されたロッカーの前に立った。夏の暑い湿気でカビがつくのを防ぐ為、部室内のロッカーはこの時期だけは扉が開かれてる。
「ロッカーの前に立ったわよ、古泉くん。これでいいの?」
「ええ、ありがとうございます涼宮さん、ではSOS団にとって重要なお話をさせていただきます・・・・・・・・・が、その前に、涼宮さん失礼させていただきます」
「エッ!?ちょ、ちょっと、古泉くん!?きゃあ!!!」
突然、古泉はハルヒを背後から両手で押し、ロッカーの中に押し込むと有無をいわざず素早く外側からロッカーの鍵を閉めたのだ。
「ちょっと!古泉くん!コラッ!早くここを開けなさい!一体なんのつもりなの!?」
内側からロッカーの扉をガンガン叩くハルヒ、いつも礼節の行き届いているハルヒにとっては忠臣の古泉からの不意をついた行為にその声色は驚きを隠せないでいた。
ロッカーの外側からはクスクスと、喉の奥で笑いをこらえているようなくぐもった嘲笑が聞こえハルヒはさらにあせりを感じていると
「誠に申し訳ありません、涼宮さん。ですが、今しばらくそこで我慢していただけますでしょうか?もうすぐ彼がこの部室にやってきます。涼宮さんも彼の本当の気持ちが知りたいとは思いませんか?」
「えっ?」
「おや、彼がやってきたようですよ。僕が彼の本当の気持ちを聞きだす間、しばし御静かにしていただけると幸いなのですが」
 
掃除とは名ばかりのホウキチャンバラでの格闘をアホの谷口とまるで小学生のようにしてきた俺は内心うんざり気味だった。まあいい、たまには谷口や国木田のアホ2人組とも普通の高校生らしい親睦を深めておくのも、健全な高校ライフをエンジョイしていく為の必須項目のようなものだし、毎日のようにハルヒ他3名が引き起こすような非日常爆弾な日課と接していては、俺の中の普通人としてのパラメーターが著しく一般人とかけ離れてしまうかもしれないからな。
俺は、心の癒しを求めるべく朝比奈さんのアロマボイスを期待していつものように文芸部室の戸をノックした。
「お待ちしていましたよ、どうぞお入りください」
俺の淡い期待は裏切られ、奈落の底に突き落とされるようなガチボイスが返ってきた。
「なんだ古泉、お前だけか? 長門はどうした?ハルヒも俺より先に部室にむかったはずだぞ」
「ええ、長門さんも、朝比奈さんも、涼宮さんにも席を外していただきました。実はおりいってあなたと2人だけでどうしてもお話したいことがありましたので」
「顔が近いぞ、2人だけならハルヒもいないしそんな俺の耳元でささやき声で話してくる必要ないだろ、気色悪い」
「おっとこれは失礼、ついいつもの癖でしたので・・・ククっ」
こいつはいつも半笑いだなと俺は、我が部の副団長殿のえせポーカーフェイスをながめつつ腰を下ろすといきなり古泉は俺に向かって爆弾発言を投下しやがった。
「実は今日、僕は涼宮さんに愛の告白をしようと思っているのですよ」
朝比奈さんがいなくて良かった。もし朝比奈さんからいつものようにお茶を受け取っていたら俺は間違いなく口に含んだそれをハルヒあたりに正面から吹きかけていたかもしれない。それとなぜか後ろのロッカーあたりで音がしたような気がするが、まあそっちは俺の気のせいだろ。
「すまん、なんだって?お前がハルヒに告白するって?」
「ええそうです。主語も述語もそれで合っていますよ。僕が涼宮さんに告白をするのです。ですので先にあなたにぜひ許可をとっておきたいと思いましてね」
「なんで、俺の許可とやらなんかがいるんだ。お前があいつを好きなら俺なんか関係なしに堂々とすればいい。俺の知ったことじゃない。むしろそれで世界は安定するかもしれんぞ、お前の組織も大喜びだろうよ」
「組織?世界の安定?さあ、何のことやら…、僕には意味がわかりませんね。ですがあなたならきっと反対されると思っていましたので少々予想外なのですが、本当に僕が告白をしてもかまわないとお考えなのですか?」
「ああ、いっこうにかまわんさ。そのまま2人でツチノコ探索デートでもいっちまえばいい」
このとき、俺がどんな表情をしていたかは判らないが、古泉はニヤリと微笑むと急にやさしい声色で俺にこう尋ねてきた
「では、質問を変えましょう。あなたはなぜ、このSOS団に所属しているのですか?」
なんのこった、さあどうしてだろうね、成り行きってやつだろうと俺は思う。ハルヒに無理やりネクタイをつかまれ部室に連れて行かれた日から俺はいつも間にかに団員その1に勘定されていたからな、知りたければハルヒにでもきいてくれ。
「あなたはいつでも断ることが出来たはずです。あなたの判断でいつでもSOS団を辞めることも。ですがあなたはそうしなかった。それどころか毎日のようにこの部室にきて涼宮さんと共に時間を過ごしてる。その理由を僕は知りたいわけです」
「さてね、学校1のアイドル朝比奈さんのメイド姿を見られる特権にあやかれるのはこの文芸部室だけだし、その為には俺はここをのっとってあぐらまでかいてるようなSOS団なる謎の変態サークルに加入していなければならないわけだし、その必要条件をみたす為には俺も必然的にSOS団の末席くらいには名を連ねていないといけないわけであるからして・・・」
「朝比奈さんは最初からメイド姿ではありませんでしたよ、彼女がここにくる前からすでにあなたは涼宮さんとここにいたはずです」
こいつは口だけは達者な奴だからな、だが俺とてそうやすやすは打ち負かされたりはしないのさ、たしかに俺は朝比奈さんより最初にハルヒとこの部室にいたさ。だがそこには長門だっていたじゃないか。
「ええたしかに長門さんは文芸部員としてすでにこの部室に滞在していましたね。ですが彼女はただここに座っていただけです自発的にここにきたわけではない。あなたは涼宮さんに直接いわれてきたのではないのですか?放課後にここにくるようにと。そしてあなたは御自分の意思でここに足を運んだ、違いますか? 」
こいつは一体なにが言いたいんだ。ああ、俺は自分の意思でハルヒに言われた通りにここにのこのこやってきたさ、それが悪いのか。
「なぜ、涼宮さんの誘いを断らなかったのですか?常人なら恐らくほとんどの人がためらうはずです。ですがあなたはここにやってきた。涼宮さんのいる所に」
「さあな、きっとほっとけなかったんだろうさ。アイツは何をしでかすかわからないような爆弾娘だしな、俺がそばで監視してやらないといたる所で迷惑かけてそうな奴だったからな・・・」
またロッカーから音が聞こえた、こんどのはさっきより大きかったが一体なんだ?とうとうハルヒは幽霊やポルターガイスト現象までこの部室に呼び寄せちまいやがったのか?
「フフッ、ではさらにお尋ねします。あなたは涼宮さんをほっておくことが出来なかった。だからそばで見守ることにした。
ならばその監視はいつまで継続する予定なのでしょう?いつかはあなたは凉宮さんから離れていくつもりなのですか?」
部室の空気が凍った。シーンとした静けさが変な緊張感をやけに増長させている気がするな。特にロッカーあたりから異様な緊張感と高鳴る心拍音?のような感じが漂ってるがこれも俺の気のせいだろう。古泉の質問は俺の意表をついていたのは事実だったからな。
俺がハルヒから離れる?さあな、そんなこと考えたこともなかったからな。いつかあいつが変態的パワー発現することもない普通の少女に戻ったなら、そうだな俺がそばで見守ってやる必要もないような気もするが・・・
「・・・・・・」
古泉はだまって俺の返答をまっているようだった。しばしの沈黙の後、俺は光が地球を100回転くらいはしたであろう時間の間思考していたが、それは考えることもない答えであったことに気付いた。だから俺は声高にそれを古泉に告げてやった。
「ハルヒが普通の少女になる?それはありえんな。太陽が東から昇って血迷って南に沈んだとしてもありえないことだ。あいつはいつまでもあのまま唯我独尊、思うがままに生きていく奴だからな。俺はきっと一生ずっとあいつのそばにいるさ。そしてあいつのするいろんな事にこれからも巻き込まれていくのさ」
ドガン!!!
こんどのはダイナマイトが爆発したかのようなすさまじい音がロッカーから響いてきた。もうなんだかよくわからんが大丈夫なのか、我が部室のロッカーは。仮にあの中にハルヒが呼び寄せた異世界人が入っているのだとしたら今のは頭が割れるくらい思いっきり強く頭部を打ったのではないだろうか?なにがそんなに嬉しいのかよっぽど興奮して飛び跳ねたんじゃないかね、あの中で。まあ、これも俺の気のせいだろうが。
「なるほど一生涼宮さんとともに生きていく・・・ですか。とても涼宮さんのことを大切に想われているのですね」
古泉は終始ニヤニヤ顔のままだ。なぜその部分だけを繰り返し強調したのかは意味不明だが、一部俺の発言を勝手に改変してないかそれ?それとまたロッカーから連発であちこちを打ちつける音がしてきたが、本当に大丈夫かあれ?今頃あちこち骨折してるんじゃないのか?少しは落ち着け。自重しろ。
「では、僕が涼宮さんに告白をするのはやめにしておきましょう。あなたという立派な人生の同伴者がいらっしゃる涼宮さんには僕は入り込む余地はなさそうですのでね」
「僕はこれで失礼させていただきます。そうそう、この暑さで部室の空気がこもっているようですので、窓をあけてロッカーの換気をお願いいたします、それでは」
古泉はそういうとあっさりと部室を退室していった。一体なんだったんだアイツは。何がしたかったんだ、俺に説明しろ。
俺は黙って、部室の窓をあけた。涼しい風が部屋に入ってくる。
「ハルヒと一生そばにいる・・・か、たぶんそうなるんだろうな、これからもずっと。だとすると俺はハルヒと同じ大学へいきそしてその後も一生あいつの面倒をみてやるためには・・・、俺があいつと結婚する・・・ことになるのかな」
何いってんだろうな、俺。俺は独り言をやめた。幸い、部室にいるのは俺一人だけだ。たまにはこんな意味不明なことを言ってみたくもなるのさ。この部室はいつだってにぎやかだからな。ハルヒがいるおかげでな。
俺はふと思い出し、古泉にいわれたロッカーの換気を行うことにした。っていうか誰が鍵を閉めたんだこのロッカー。
いつも開けっ放しにしておいたはずなんだがな。
がちゃり。
ロッカーを開けた俺、口をあんぐりあけて沈黙。
中には、滝のような汗をかいて制服がぐしょぐしょになっているハルヒが両手で自分の口を必死に覆いながらそこにいた。しばらく俺とハルヒはお互いを見つめ合っていたが、沈黙にたえられず俺からハルヒに声をかけた。
「お前、ずっとそこにいたのか?」
コクリ。
意外なことにハルヒはずっとだまりっぱなしのままだった。いつもの元気さはどこにいったのか真っ赤に紅潮した顔を静かに動かしうなずくだけだ。
俺はハルヒにかける言葉がみつからなかった。ハルヒはずっとこのロッカーに入っていたらしい。つーことはさっきの古泉と俺の会話、ついでに俺の独り言も全部ハルヒに聞かれていたわけだよな・・・
この一瞬、俺の自殺願望数値はマックス値を大幅に超えていたことはたしかだ、ああそうさ穴があったら入りたいさ。
地下3000メートルくらいの深い穴に入って自分が発した妄言をくやみつづけたいさ。
よりによってなんでロッカーなんかに隠れていやがるんだこいつは。
「・・・古泉くんに、ロッカーに入っているようにいわれたの」
決定。明日、古泉の首は東京タワーのてっぺんからぷら~りとぶらさがっているな。長い付き合いだったが残念だ。
お前は俺を怒らせた。しかしどうしたものかね、この後どうすればいいのか俺は困っていたがとりあえず自分の汗でずぶ濡れになっているハルヒをほっておけず、俺はハルヒの体に俺の着ているブレザーの制服をそっとかけてやった。
「ねえ」とハルヒが俺のそでをそっと指先でつまんできた。
「ん?なんだ」
「・・・さっきのって・・・本当?」
「さっきの?」
「その・・・、古泉くんと話していた時にあんたが言った言葉・・・、あたしのそばに一生いてくれるって・・・」
俺は、素直にハルヒの目を見つめながら本心で答えてやった。
「ああ、一生ずっとお前のそばにいるさ」
ハルヒの顔に、さらに朱色が広がっていく。
「あたし・・・もっともっと今以上に迷惑かけちゃうかも・・・それでも平気?」
「ああ、俺に遠慮なくたくさん迷惑をかけろ。全部俺が、受け止めてやるから」
その後、俺はハルヒの体をしっかりと抱きしめてやったのを憶えている。その後キスもしたかもしれないな。
まあ、そこまでここで語ってやる必要もないだろ、俺だって恥ずかしい想い出話だしな。だがこれがきっかけで俺とハルヒは正式に付き合いだしたことは確かだぜ。ん?古泉はどうしたかって?今頃ぷら~んぷら~ん吊られてるさ。