四月バカキョン! (85-669)

Last-modified: 2009-04-08 (水) 23:14:51

概要

作品名作者発表日保管日
四月バカキョン!85-669氏08/04/0108/04/01

作品

Side:H

 新年度最初の市内不思議探索パトロールの日、あたしが駅前の集合場所に着いたのは丁度八時十分の事だった。
「やっほ~! おっはよう、みんな!」
「どうも、おはようございます、涼宮さん」
「あ、あの、おはようございます」
「……おはよう」
 ジャケットにネクタイ姿の古泉くん。みくるちゃんはまたおニューのワンピかしら? 女のあたしからみてもぐっとくるわ。まさに北高一の萌えアイドルだけのことはあるわね。
 有希は相変わらずカーディガンを羽織った制服姿。ちょっとファッションに無頓着すぎないかしら? でも、それが有希らしい、といえばそういうものなのかもしれない。
「って、やっぱりキョンの奴はまだ来てないのね」
「まあ、さすがにいつもの集合時間まで後五十分程もありますしね。僕の予想では彼は集合時間の十五分から二十分前の範囲で現れるもの、と思っていますけど」
 まあ、古泉くんの予想したぐらいの時間にならないと、あのマヌケ面はこないでしょうね。って、あら?
「どしたの、有希。なにか言いたいことあるんじゃないの?」
「なにも」
 なんだか、あたしは有希の様子がいつもと違うように見えたんだけど、やっぱり気のせいだったのかしら。
「まあいいわ。ところでみんな、今日はちょっと、あそこに入りましょう」
 あたしは駅ビルの一階にあるカフェ付きのベーカリー店を指差してみんなに促した。
「ええっ、今からですかぁ? でも、あの――キョンくんが――まだきてないんですけど」
「いいの、みくるちゃん。寧ろキョンがいない今がチャンスなんだから」
「おや、涼宮さんには何か考えがおありのようですね」
「まあね。ほら、有希。あなたも早くいらっしゃい!」
「…………」
 
 みんなで適当にドリンク類をオーダーすると、あたしたちは窓際の席を陣取った。ここからなら集合場所の様子もよく解るじゃない。
「さて、これから何が始まるのでしょうか?」
 古泉くんだけじゃなく、みくるちゃんも有希もさっぱり解らないみたいね。
「ねえ古泉くん。今日は一体何の日?」
「ええ、本日は四月一日……なるほど、エイプリルフールというわけですね」
「その通りよ! まあでも、ただ嘘を吐いたりするだけじゃつまんないし、せっかくだからちょっとキョンを驚かせてやろうと思ってるの」
「えっ、えっ、あ、あのー、どういうことなんですか?」
「僕が想像するには、待ち合わせ場所に現れた彼が、時間になっても我々の姿が見えない場合、果たしてどのような反応をするのか、というのをみんなで観察しようという趣向だと思うのですが」
「まあ、そんなところね」
「ふえっ? で、でも、それだと何だか、キョンくんが可哀想じゃありませんか?」
「いいのよ、みくるちゃん。大体キョンは普段から緊張感が足りないんだから。もっとSOS団のことを真剣に考えるためのきっかけをわざわざあたしたちで作ってあげてるようなモンでしょ? 感謝してもらってもいいぐらいよ」
「……………」
「ところで、みんなのケータイをちょっとここに出してくれる?」
「はあ、携帯電話を、ということでしょうか?」
「は、はいい! で、でも、これどうするんですか?」
「…………これ」
 みんなの携帯が電話テーブルの上に並ぶ。あたしもそこに自分の分を、裏蓋を外して電池を取り出してから置いた。
「さあ、みんなのも電池を外してもらうわよ。いいでしょ?」
「ひえっ、で、電池ですかぁ?」
「…………外した」
「ちょっと、古泉くん。どうしたの?」
「申し訳ありません。あの、どうしても外さなければダメでしょうか?」
「なによ、今すぐにでも緊急の電話連絡がありそうなの? だったら、あたしたちなんかと一緒にいないで、家で待機してないといけないんじゃない? 古泉くんのバイトって、そんなに大変だったわけ? どんなバイト?」
「いえ、あの――解りました。僕のも外します」
「別に、無理しなくてもいいのよ」
「いえ、彼が合流するまでの間ならちょっとの間でしょうから」
「…………来た」
 有希の言葉で窓の外に注目するあたしたち。
 キョンは不思議そうにキョロキョロ辺りを見渡している。うふふふ、思った通りのマヌケ面よね。ここからならバッチリ観察できるわ。
 って、しまった。逆にキョンからもこっちが見えちゃうかもしれない。
「ちょっと、みんな。伏せて!」
「ふえぇっ!」
 逆に立ち上がろうとするみくるちゃんを捕まえて俯かせる。有希も古泉くんも何とか身を逸らしてくれたみたい。
 キョンは頭を掻きながらまだキョロキョロしている。よかった。どうやらバレてなかったみたいね。
 
 そうこうしてる間に集合時間の九時が来た。
 
 キョンはポケットから自分のケータイを取り出すと、どこかに電話を掛けているみたいだった。
 通話を試みること四回、って結構あっさり諦めちゃったみたいじゃない? あの調子だと、あたしたち一人に一回ずつしか掛けてないってことでしょ?
「それはどうでしょうか? もしかしたら四回とも全て涼宮さんのところに電話していたのかもしれませんよ」
 そ、そりゃそうかも知んないけど、わかんないじゃないの、そんなの。あーあ、電池抜いちゃったのは、ちょっと失敗だったかしら。
「あっ、でも今、キョンくん、頭を抱えてケータイさんとにらめっこしてるみたいですよ。やっぱり、とっても困ってる感じだし、早くこっちに呼んであげた方がいいんじゃ――」
「まだダメよ、みくるちゃん。あの調子だと、いつもの遅刻の反省はまだまだ足りないんだから」
 正しくは遅刻してるわけじゃないんだけど、あたし的には最後にノコノコと来るなんて遅刻も同然なんだから。
「しかし、このまま放置しておくというのもどうでしょうか?」
「このままでは、彼は我々が現れないものと判断し、そのまま帰途につく可能性は高い」
 古泉くんと有希に指摘されたあたしが考え込んでいると、キョンはしばらく操作していたケータイをポケットに仕舞って、そのまま駅の方に向かって歩き始めたじゃないの!
「ああっ、涼宮さん、キョンくん、やっぱり帰っちゃいますよぉ!」
「ちょっと、なに考えてんのよ、あのバカ!」
 ついあたしは席を立ってキョンを追いかけたくなってしまったけど、うっかりしてた、あたしのケータイ、電池をバラしてテーブルに置きっぱなしだったじゃないのよ!
「ああん、もう! さっさと帰っちゃうなんて、酷いんだから、キョンは!」
「酷いのは僕たちの方なのかも知れませんけどね」
 と、そのとき、急に有希が立ち上がった。
「!」
 と、ほぼ同時に、外から急ブレーキの音がした。何だろう、交通事故かしら? ってちょっと有希、あんた、自分のケータイ!
「……迂闊」
 あたしたちの席からはちょうど事故現場らしきところが陰に隠れて見えない。そういえばキョンはさっき帰ろうとして駅の方に歩いていった。――まさか!
 外からは救急車のサイレンが聞こえてくる。
「ちょっと、みんな急ぐわよ!」
 あたしはいてもたってもいられなくなって、すぐにでも飛び出していきたかった。でも――、
「うわひゃぁ!」
 慌てて急っ突いたのがいけなかったのかしら、みくるちゃんは躓いた弾みに隣のテーブルに前の客が置いてあったトレー一式をひっくり返してしまったのだった。
「ふ、ふえぇっ、ごめんなさーい」
 見事なドジっ娘ぶりを発揮したみくるちゃんを責めるなんてこともできないし、あたしたちは仕方なくみんなで床に散らばったモノを必死に片付けた。店員さんたちが妙に恐縮してくれたんだけど、今はハッキリ言ってそれどころじゃないわ。
 あたしたちが店の外に出た時には、救急車はもう走り去ってしまっていた。あたりの野次馬共はいまだにざわついている。
『ひき逃げだってよ』
『ひでーな、おい』
 ひき逃げ、って、まさか――。
「キョン――キョン?」
「涼宮さん、落ち着いてください」
「古泉くん、だって、キョンが」
「確かに彼は救急車に乗って病院に向かっているようです。搬送先はどうやら、以前のあの病院のようですね。今タクシーを手配しました。僕たちも急いで彼の元に――」
 そのとき、あたしのケータイがメールの着信を知らせた。――キョンからのメールだった。
 
 大したもんだな、ハルヒ。
 すっかり忘れてたぜ。
 きょうはエイプリルフールか。
 だまされた俺がマヌケなんだろうけど、でも
 ハルヒ、お前がが電話してきたのは昨日だろ
 ルール違反って感じがちょっとしなくもないんだがな。
 ヒマ潰しとしてはまあわるくないとは思うぜ。じゃあ、俺はもう帰るわ。
 
「キョン……」
 あたしの視界は突然滲んでしまった。
 あたしがあんなイタズラさえしなかったら、きっとキョンは……。あたしのせいだ、あたしがキョンを――、
 
「……大丈夫」
 気付けばそこはタクシーの後部座席だった。
 あたしを真ん中にして有希とみくるちゃんが、あたしの肩を抱きかかえるように寄り添ってくれていた。
「そうですよ、涼宮さん。キョンくんなら、きっと平気ですから」
「有希、みくるちゃん――ありがと」
 あたしはそういうのが精一杯だったわ。
 タクシーが病院に近付くにつれ、あたしの目の前はぼやける一方だった。
 お願い、キョン。あたしが行くまでちゃんと待っててよね。
 

 Side:K

 突然ハルヒが映画次回作の予告編を撮影するとか言い出したために、春休みだというのに毎日のように北校内で面を付き合せている俺たちSOS団のメンバーだったのだが、そんなある日の帰り間際の事。
 下駄箱を開けた俺は見覚えのある可愛らしい便箋を発見すると、誰にも見つからないように制服の内ポケットに滑り込ませたのだった。
 帰宅後にすぐさま自分の部屋に篭ると、俺はとある予感を胸に、乙女チックな封書の内容を確認すると、そこには――やはり見覚えのある几帳面な文字で――以下のようなメッセージが記されていたのだった。
 
『明日の不思議探索には、いつもより一時間早く出かけてくださいね☆ みくる☆』
 
 やはり思った通りだ。朝比奈さん(大)からの手紙に間違いない。しかし、明日に不思議探索? 今日はハルヒの奴、何も言ってなかったような――。
 その直後、携帯電話が着信を告げるべく鳴り響く。
『ねえキョン、さっき言うの忘れてたんだけど、明日は撮影の作業はお休みにして、久しぶりに市内不思議探索パトロールを決行することにしたわっ! いい? ちゃんと遅れずに来なさいよ!』
 一方的に捲し立てた挙句、切れてしまう通話。まあ毎度のことだから今更何を気にする必要があろう。
 やれやれ、しかし一時間早く出るとなると、逆算して今晩俺は何時に寝なければならないんだ?
 いつもなら夜更かしとかしてしまったりするのだが、その日俺は夕飯後にさっさと一風呂浴びると、まるで心を入れ替えたかのように早い時間からベッドに潜り込んだのだった。
 
 
 翌朝、予め仕掛けた目覚まし時計の設定時刻よりも早く目覚めた俺は、いつもこんな感じならハルヒたちに遅れを取ることもないのかも知れんな、とか思いながら自転車を引っ張り出していた。と、そこに背後から、
「おはようございます、キョンくん」
 との声。振り向いた俺の目には、自宅前の路上に佇む朝比奈さん(大)の姿が映ったのだった。
「えーと、その、おはようございます」
「うふふ、何だかやっぱりちょっとだけ眠そうね。無理言ってごめんなさい」
 いえいえ、別にこんなの全然平気ですから。それよりも、あなたが今ここにいるってことは……、
「キョンくんにお願いがあります。今日これから、このメモに書いてあることに従って行動して欲しいんです」
 えーと、今回は俺一人だけなんですか?
「はい。……例によって詳しいお話は『禁則事項』なのでできないの。いつもごめんなさいね。――それじゃ、よろしくね」
 そう言ってウインクすると、ヒールの軽やかな音と共に朝比奈さん(大)は歩き去って行ってしまった。
 受け取ったメモを片手に頭を掻く俺。ははは、さて、今度は何が待っているんだろうな。
 
 
『集合場所から少し離れた位置で、みんなに見つからないようにキョンくん以外の四人が揃うまで待っていてください。集合時間の五十分前にはみんな集まっていると思います』
 
 五十分前ね。それでは俺なんかがちょっとばかり早めに行ったところで全然間に合ってないってことじゃないか。
 溜息を吐きながら俺は、遠巻きに駅前の集合場所を見通せる位置に陣取った。って何だ? あの見覚えのあるカーディガンを羽織ったセーラー服姿――長門は既に集合場所に到着しているではないか。
 あれ、今一瞬こっちを見られてしまったような気がする。俺がここに隠れていることなんてきっとバレてしまったんじゃないか?
 まあ、長門のことだ。自分一人で知っていながら、他のみんなには知らぬ振りを通してくれるってのを祈るしかない。実際そうなりそうな予感もするのだが。
 しばらくして古泉、更に数分後には朝比奈さん――今日の俺のことは多分知らされてないんでしょうけど――そして集合時間の五十分前丁度にハルヒが到着したのであった。
 って、やっぱりこれでは俺が最後、ってことだよな。やれやれ、今日も奢りなのか。
 半ば諦めきれない心境で次のメモを見る俺。
 
『みんな駅前のカフェに移動するはずです。いつもの喫茶店じゃありません。みんながお店に入ったのを確認してください。ちなみに、これは今日限定のことみたいです』
 
 そういえば駅前にはすぐ近くにパン屋さんもやってるカフェの店舗があったが、何故か一度も利用したことが無かったっけ。と、メモに書いてある通り、ハルヒたちは揃ってその店内に入っていくではないか。
 と、ここで今更気付く。俺ってひょっとして仲間ハズレにされてるのか?
 いや、メモには『今日限定』って書いてあるし、大方ハルヒがロクでもないことを思い付いたとかそんなことだろう。
 
 でもなあ、どうしてこんなに寂しい気分になってしまうんだろうね、コンチクショウ!
 いい加減ヤケクソ気味に次のメモを確認する。
 
『いつもキョンくんが到着するぐらいの時間、大体集合時間二十分前に合わせて集合場所に行ってください。みんなを探すように適当にキョロキョロと周りを見てね。あっ、お店の方はあんまり見ないで』
 
 何だろう、こんな妙な小芝居の真似事をする意味は? これだったらいつも通りの時間に何も知らずに来た方がよっぽど自然な気もするんだがな。
 まあいい、指令通りに辺りを見回す俺。ついうっかり店の方を見てしまうと、なんと窓際の席にハルヒたちの座っていたのが丸見えである。
 って、何だそのワザとらしい隠れ方は。これじゃあ気付かない振りをするこっちが凄くマヌケみたいじゃないか、おい。
 
『集合時間を過ぎたら、みんなの携帯電話に掛けてみてください。きっと誰にも繋がらないと思います』
 
 言われるままに四人全員に通話を試みる俺なのだったが、誰に対して掛けた場合でも、無機質な女性オペレータの音声案内が返ってくるのみだ。
 しかし、ここまでくればさすがに鈍いと言われる俺でもそろそろピンとくるものがある。
 
 今日は四月一日、エイプリルフールだ。
 
 どうやらハルヒの奴は他のみんなと協力して俺に幼稚なイタズラを企んだに違いない。集合場所に誰もいなくて焦る俺のことを、そこの店内から笑いものにでもしてるのだろう。
 だが、もし朝比奈さん(大)から何も伝えられていなかったとしたらどうだろう? きっとハルヒの思惑通りにハメられて散々うろたえていたかも知れんな。
 
『今のキョンくんの素直な気持ちを涼宮さんにメールしてください。文面はお任せしますね』
 
 素直な気持ちね。『ふざけるな!』とか『いい加減にしろ!』とか、そんなのでもいいんだろうか? いや、さすがにそれはマズイか。うーん、何て書けばいいんだ?
 今日はエイプリルフールだし、何か気の利いた嘘でも吐ければいいのだが、生憎俺にはそんなもののストックなんてのは持ち合わせていない。
 
 まあ、素直に騙されたことを認めるフリして、帰っちまう素振りをしたら、あいつも慌てて姿を現すかもな。そんな感じを狙った文章を適当に入力すると、俺はハルヒにメールを送信したのだった。
 
 
 さて残るメモは一枚だが……。
 
『これで最後です。そのまま駅の方に歩いて行ってください。今日はお疲れ様でした。あっ、黄色の帽子の男の子には気を付けてね』
 
 なんだ、要するにこのまま帰るフリをすればいいってことなのかな。まあ、さっきのメールの文面からすれば自然な行動だし、さっさとこんな茶番は終わらせるに限る。
 俺は駅の方に足を進める、と、後ろから男の子が俺を追い抜くように走って行った。その黄色い帽子をかぶった少年は、駅の方で待っている母親らしい女性の方に駆けて行く――、
「危ない!」
 そのとき、脇からスピードを落とす気配の無い自動車が突っ込んでくるのが俺の視界に入った。
 いつかの記憶が呼び覚まされる。踏切近くの十字路で、俺と朝比奈さんが遭遇したあの、ハカセ君が交通事故に遭いそうになったあの時の光景が。
 無我夢中、というものなのかよく解らんが、やはり俺の身体は勝手に動いていた。
 跳ね飛ばされた少年の身体がふわりと宙に浮かぶ、それにタックルでも咬ますように飛びつくと、俺は自分の背中からアスファルトに落ちて転がった。
 くそっ、受身を取り損ねたか。思ったより強い衝撃で一瞬呼吸ができなくなる。
 まあ、頭を打ったりしなかったのは幸運だったな。しかし、この子は大丈夫だろうか?
 と、そこに妙に良すぎるタイミングで救急車のサイレンが聞こえてきた。って、おかしいぞ、いくらなんでも早過ぎるんじゃないのか、これって?
 母親だろう女の人が、真っ青な顔で俺の腕の中の男の子に呼びかけている。
 やがて少年は野次馬を掻き分けて現れた救急隊員の担架で運ばれ、母親共々、何故か俺まで救急車に乗り込み、病院――前に俺が入院していた場所――に担ぎ込まれることになってしまったのだった。
 
 少年は俺が考えていたよりも重傷で、病院に到着してから程無く手術が始められることになった。
 偶々血液型が俺と同じだったため、何故か輸血をするハメになってしまったのは思いもよらないことだったが、何とか手術は無事に成功し、俺は泣きじゃくる母親と、慌てて駆けつけたらしい父親の両者から大いに感謝され、困惑することしきりであった。
 
 しかし、何が何だかわけが解らん内にいろいろあったな。そういえばうっかり忘れてしまいそうになるが、俺はハルヒたちのことを放ったらかしてここに来ちまったわけだし、ひょっとして心配かけてしまったんじゃなかろうか?
「キョン!」
 と、噂をすれば影、か。
「って、ええっ? 何でキョンがこんなとこ――まさか、幽霊? 足は……ちゃんと付いてるわよね」
 何だそりゃ? ってハルヒ。どうしたんだ、その表情は? おまえ、まるで泣いて――、
「バカーっ!」
 ハルヒは体当たりでもするような勢いで俺の胸に飛び込んできた。
「おい、あんまり動かすな。さっき輸血に協力したせいで、ちょっと貧血気味かもしれんのだ」
「へっ? 輸血に協力って、あんたが事故に遭ったんじゃないの?」
 違う! っていうか、仮に事故に遭ったのが俺だとして、お前はそいつに体当たりをぶち咬ますっていうのか、おい?
「うっさい、バカキョン! あんたなんか大っ嫌いよ! あたしは全然心配なんてしてないんだから! もう二度と顔も見たく――ないんだからぁ!」
 口ではそう言いつつも、ハルヒは俺に抱きついた腕の力を緩めようとはしなかった。こいつ、一体どういうつもり――、
 
 そうか、今日はエイプリルフール、嘘を吐くのは当たり前のことだったな。
 
「俺にはお前の言ってることは全然解らんな。俺だってお前の顔なんか見るのは御免だし、心配掛けて悪かったとはこれっぽっちも思ってない。何より、俺も世界で一番、ハルヒのことが嫌いなんだからな」
「うぐっ!」
 ハルヒは一瞬顔を上げて俺の顔を窺ったが、すぐにまた胸元にくっ付いてしまった。
「ずるいわよ、キョン。そんな顔してさっきのセリフ、全然説得力ないじゃないのよ!」
 俺は返事をする代わりに、ハルヒの背中を両腕でゆっくりと抱きしめてやった。
「キョン――やっぱりあんたなんか――大嫌いよ」
 あのなあ、そう言いながらもっとしがみ付いてくるなんて、お前の方こそ説得力の欠片もないんだがな。
「いいのっ!」
 やれやれ、泣き顔の次は膨れっ面かよ。いつものあの笑顔を取り戻させるためにはどういった嘘を吐かなければならないんだろうな、俺は。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「おやおや、ご両人とも、すっかりいい雰囲気ではありませんか」
「あのぅ、涼宮さんもキョンくんも、嘘を吐こうと必死で、却っていつもより素直になってる気がするんですけど」
「ちなみに…………今日は、私の誕生日……………………うそ」

イラスト

以上です。自分でも無理があるというかいろいろと反省点が orz
 
ラクガキさん。絵が先行だとSSがgdgdになるのは仕方ない?
どっちももっと丁寧にやれってことですね、ハイ。
 
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