失敗作 (84-59)

Last-modified: 2008-03-15 (土) 12:37:41

概要

作品名作者発表日保管日
失敗作84-59氏08/03/1408/03/15

作品

 本日、三月十四日の放課後の部室。俺は窮地に立たされていた。
 
「で、キョン。これは何のつもりなわけ?」
 ハルヒのジト目が俺を睨みつける。まあ、確かに本日のイベントに和菓子が不釣合いだってのは俺も重々承知しているし、その和菓子に付けられた名前が微妙にアレだってのは誰が見てもそう思うだろう。
「なにが『切腹最中』よ! キョン、あんた今日が何の日だか解ってんの? ホワイトデーよ、ホワイトデー! バレンタインデーの三十倍返しなのよ! それがなによ、縁起でもないったらありゃしないわ。ウケ狙いのつもりだとしたらあんたのセンスを疑うわよ」
 いや、実際俺も今この場で紙袋から取り出してみるまで、中身が何かなんて知らなかったんだが。ってそれもどうかと思うな。
 なんせ、朝の出掛けに何でもいいから贈り物に適当な菓子をくれと親に頼んだのがそもそもの間違いだったわけで。よりによって『切腹』なんてのはねーだろ?
 このままでは俺に本当に切腹を申し付けかねない様子のハルヒを、横から古泉がとりなしてくれたのだった。
「まあまあ、涼宮さん。彼も意味もなくこのような真似をするはずはありません。実は三月十四日というのは、『忠臣蔵』で有名な浅野内匠頭が切腹した日、というのにちなんで『切腹の日』とされているのですよ」
「へえ? そうなの、古泉くん?」
 ちなみついでに、本当切腹の正確な日付はは旧暦の三月十四日なので、本来ならば四月のことなんだ、とは口が裂けても言えない俺である。
「……なお『切腹最中』は、なにかの不始末を詫びる際の手土産に最適、との宣伝文句がある」
 何故そんなことまで知っているんだ長門よ。
「あの、キョンくんは、なにかお詫びをしたいことがあるんですか?」
 素朴な疑問、といった感じで朝比奈さんが俺に訊いてくる。と同時に、ハルヒも長門も俺に注目する。古泉は脇で苦笑しながら両手を広げる例のポーズだ。
 仕方がない。意を決して俺は、
「みんな、済まなかった。――――本当は手作りのクッキーでも、とか思って、昨日晩にトライしてみたんだが、なんだかんだで結局失敗しちまって、…………この通りだ、許して欲しい!」
 と、ハルヒたち三人娘に頭を下げたのだった。
「――まあ、いいわ。そもそもあんたに期待なんかしちゃったあたしがバカだった、ってことよね」
「あ、あの、キョンくん――あんまり落ち込まないでください」
「…………失敗は誰にでもある。それを次回に生かせるかどうかは、あなた次第」
 本当に、面目ないです。
「それよりも、今日はこれからお茶にしましょう! 最中だから緑茶がいいわね。みくるちゃん、大至急でお願い!」
「は、はいぃ~!」
 とまあ、なし崩し的に俺の危機は終わりを告げてくれたようである。ちなみに十五個入りの内、本来なら女性陣で五個ずつの等分のはずだったのだが、朝比奈さん曰く、
「こんなに大っきな最中、一個食べきれるかどうか、ちょっと自信ありませんよ~」
 とのことだったので、ハルヒと長門が一個ずつ追加で計六個ずつ、残りの二個を俺と古泉、という配分に落ち着いたのであった。
「ところでキョン。あんたのその失敗作のクッキーってどうしたの? まさか、もう捨てちゃったのかしら?」
 ハルヒが口の周りを餡子だらけにしながら俺に訊いてきた。すっかり油断していた俺だったのだが、つい自分の鞄の方をちらっとみてしまったことをその直後に後悔する羽目になった。
「ちょっと、キョン? もしかして、今日ちゃんと持って来てたんじゃないの? 怪しいわねっ!」
 脱兎の如く飛び出したハルヒを止められるわけもなく、俺の鞄は奪われてしまった。中から取り出されるありえないぐらい適当な紙袋。ああ、今度は羞恥プレイかよ。
「もうちょっとラッピングとか考えなさ――って、失敗なんだっけ、これ」
 ゴソゴソと中からクッキーとは到底呼べない塊を取り出したハルヒは、何の躊躇いもなく自分の口に放り込んだ。
「…………ゔ 」
 ああ、言わんこっちゃない。吐き出すんならさっさと吐き出せ、とか俺が思っていたのに反して、
「――くっ…………ぷっ――――ひっひっひ、あーっはっはっは! なにこれ、キョン? 可笑しすぎるわよっ!」
 ついに壊れたか、とか一瞬心配になった俺をよそに、ハルヒはなにやら大ウケのようで、
「有希、みくるちゃん、あなたたちもちょっと、これ一口食べてごらんなさいよ」
「ふえっ、す、涼宮さ――――もごっ」
 ハルヒの手によって朝比奈さんの可愛らしいお口に俺の手製ジャンクが投げ込まれた。
「ほえっ? な、なんだか不思議なお味ですねぇ」
 あの、朝比奈さん、平気ですか? 本気でそういう感想を述べていらっしゃいますか?
「…………ユニーク」
 長門はハルヒに手渡されるまでもなく、自ら失敗作クッキーを頬張りながら、何とも平坦な口調でそう告げた。
 っていうか、どうしてみんな平気な顔して食べていられるんだ、そのおぞましいオブジェクトを。
「おやおや、失敗などというのは、実はご謙遜だったのではないですか?」
 どういう意味だよ、古泉。
「本当に失敗作だと感じておられるなら、わざわざここまで持って来たりなどしないはずです。違いますか?」
 なんだ、その、家に置いとくと間違って妹が食べたりしたら大変だからな。何なら、お前も毒見してみるか?
「謹んで遠慮させていただきますよ。御三方の――特に涼宮さんの嬉しそうな表情を見せ付けられてしまってはね」
 まあ、『切腹最中』よりもウケは良かったみたいだが、でもあいつ、そんなに嬉しがってるように見えるか?
「満足、というわけでも無いようですね。もっとも理由は大体想像が付きそうなものですけど」
 何だよ、勿体ぶるな。
「涼宮さんは、自分専用のものを、あなたから受け取りたかったのではないか? ということです」
 生憎だな、今の俺にはそこまでの自信は無いぜ。
「『今の』ということですので、近い将来にでも実現可能であるのだと判断しておきますよ」
 勝手にしてくれ。
「こら、キョン。あんたの味覚って一体どうなっちゃってるのよ? こんなんじゃ、あたしも将来が不安よね。――――そうだ、いいことを思いついたわっ!」
 ハルヒの大きな瞳が煌きを増す。嫌な予感がするが俺の心の準備はまだできていない。
「明日は市内不思議探索パトロールの予定を変更して、キョンの特訓を兼ねたお料理大会を開催することにしたわ。異義のある人は?」
 誰も異議など唱えたりしないことは自明であるので、この問いかけ自体が無駄なのだなあ、とか俺はどうでもいいことを考えるしかなかった。
 
 
 
 
 
 
 ところで古泉、その後ろに隠すように持っている紙袋は何だ?
「僕から御三方へのホワイトデーの贈り物のキャンディです。ええ、当然既製品なんですが、今となってはすっかり渡すタイミングを逸してしまったもので――全く困ったものです」
 あはは、やっぱりそれって、俺のせいだよな。何か色々と……スマン。

イラスト

あ、書き忘れたけど元ネタっていうかト□ステの3/14日分に触発されたものです。
念のため。
 
色々と時間切れなラクガキ
舌出しっていうか、あかんべーをしてるハルにゃんって何か好きだwwww
 
84-59.png