妄想デート (54-56)

Last-modified: 2007-07-23 (月) 03:55:17

概要

作品名作者発表日保管日
妄想デート54-56氏07/22(23)07/23

作品

「よお」
「うん、…てあんた遅刻よ」
「ん?ああ、そうみたいだな。悪い」
ハルヒは言うほど怒ってはいないようだ。
肌寒い冬のある日。俺とハルヒは公園で待ち合わせをしていた。
ひとまずベンチに腰掛ける。微妙な間がある。お互いに端と端に座ってるから当然か。
だってしょうがないだろう。こんなことしたことがないんだから。
改めて古泉を恨む。こんなことなら何が何でも反対しておくんだった。
 
「デート?」
「はい、ちょっとした企画ですよ」
「お前が何を企画しようと勝手だが俺を巻き込むな。一人でやってろ」
「そう言われましてもさすがにデートは一人では出来ないですし、涼宮さんの相手といえばあなた以外にはありえません」
意味不明な断定。確かにハルヒの迷惑をこうむるのは俺がメインだと言うことは認めるが。
「だからってデートはやりすぎだ。企画でやるレベルじゃない。そもそもなんでデートなんだ」
「ある映像を拝見しましてね。お二人ならきっとこれ以上のものが出来上がる、と踏んだわけです」
「そんな勝手な思い込みに付き合えるか。却下だ却下」
「すいません、実はもう話は動いてまして機関の全面バックアップで撮影準備も進行中です」
「知るか。だいたいそんな企画ハルヒが許すわけないだろ」
「おや?なぜそう思われるのですか?」
「なんでって、そりゃあ……俺なんかがあいつのデートの相手なんて…」
「涼宮さんはOKを出されましたよ」
ハルヒが?こんな企画に?嘘だろ?
「表面上は『団長としての責任』や『相手がキョンなんて』などとおっしゃっていましたが、僕の主観では満更でもない、いやむしろ乗り気のようでしたよ」
「…そうかよ」
古泉はクスクス笑いながら続ける。
「まああなた方は素直でないですから、騙されたと思ってお願いします」
結局俺はうまい反論が思いつかずその話を受けることになってしまった。
 
「ふぅ」
「…」
俺たちらしくない微妙な間。騙された、と思う。
しかも開始直前にいろいろと古泉から指示が出た。
やらなければなるまい。今の俺は演者だ。
 
『指令そのいち「あなたがリードしてあげてください」』
 
「ハルヒ」
ハルヒが顔を上げ俺を見る。珍しくうっすらと化粧をしているようだ。別にそんなことしなくてもいいのに。
「座ってるだけってのもなんだし少し歩かないか?」
ハルヒはコクリと頷き、公園での散歩が始まった。
 
 
さあ始まった。
カメラは正確無比なカメラワークの長門さんに一任している。
朝比奈さんはその他の雑用をお願いしている。
そして僕は監督だ。
うまく丸め込んでここまで持ち込んだ。
あとは僕の演出しだい。さてやってみるとしよう。
 
 
ハルヒと二人だけで歩くなんて何度目だかわからない。だから慣れているはずだった。
なのに。
「…」
「…」
気まずい、とも違う。なんというか恥ずかしい。何をしゃべればいいかわからない。
 
『指令そのに「恋人らしく」』
 
恋人らしくってなんだったか。混乱してあたりを見渡す。
俺達と同じく散歩しているらしき恋人同士が目に入った。あれをやるのか…。どうしたら出来るよ、あれ。
「ハルヒ、なんか変な感じだよな」
「え!?あ、うん」
ハルヒらしくない。なんでそんな普通の女の子みたいなんだ、ちくしょう。
「変ついでといってはなんだが、より変な感じにしてみないか」
自分でも何を言っているのかわからないが手を差し伸べる。手をつなぐくらい、と思ったが、
「え、ホ、ホントに?」
ハルヒは恥ずかしがっていた。上目遣いとかやめてくれ。いろいろマズイ。
「その、今日は一応デートだろ?だったらカップル的なとこがあってもいいんじゃないか?」
自分でも声が上擦っているのがわかる。らしくないぞ俺。
「…どうしても、したい?」
「え?」
「キョンがどうしても手をつなぎたいって言うならしてもいいけど」
急にハルヒらしい素直でないリアクション。少しだけいつもの自分を思い出す。
「どうしても、といわざるを得ないな。この状況じゃあ」
ハルヒの手を取る。こういうことは何度かあったが俺から手を取るのは…もしかして初めてか?
そう思うとなぜか緊張する。落ち着け、別になんてことはない、はずだ。
「キョンの手、冷たい」
きゅっと手を握られる。ドクンと胸が鳴る。落ち着け落ち着け落ち着け。
「お前だって冷たい」
ぎゅっと握り返す。
ハルヒは「ん」と小さく返した。
 
 
「うん、いい調子ですね」
予想以上といえよう。ここまで甘酸っぱくなるとは思っていなかった。
まあ今回のテーマは『徹底的に恥ずかしく』予想以上となるならばそれは望むところだ。
「はぁ~、なにか、いいですねぇ~」
朝比奈さんが頬に手を当てうっとりと言う。
まあわからなくはない。あれを見た人の反応は2通り。
当てられてうっとりしたりニヤニヤするか。妬ましく思うかのどちらかだろう。
前者に属していてよかったと思う。そうでなければこんなに楽しむことも出来なかったのだから。
 
 
公園を散歩する。正直何もない。
わざわざ寒い中二人で歩くだけだ。いつものハルヒなら文句を言い出す頃だ。
しかしハルヒは黙って俺の手を握っている。気まずいというよりこそばゆい。
なんでこんな時に限ってこんなにおとなしいんだ。ハルヒらしくない。
 
『指令そのさん「キャッチボール」』
 
どうしていいかわからず古泉ことカントクに目で合図を送る。
すると奴はにっこり笑ってボールを投げてよこした。ハンドボールくらいの柔らかいボールだ。
よくわからんがとりあえずキャッチボールをしてみよう。
「そらっ」
「わ」
何とか受けたようだ。いきなり投げたのにいい運動神経してる。
「いきなりなにすんのよっ!」
ビュンとすごいボールが来た。よくこの球であんなスピードが出せるな。
「意味なんかない、ぞっ!」
あっさり俺の球を受けるハルヒ。
「ただ投げててもつまんないわね。しりとりで勝負よ。ちなみに5秒持ってたら負けだから。しりとりの『り』っ!」
いきなりのルール変更だがそれくらいが面白そうだ。というかさっきまでのおとなしいハルヒはどこいった?
「『りんご』っ」
「『ゴマフアザラシ』っ」
「し、『シマウマ』っ」
「『マンドラゴラ』っ」
「それ実在するのか?…ってええい、『ラッキー』」
「『キラー』」
「まさかそれは某マリオの飛んでくるアレか?くそっ『ラー油』っ」
「『ユウカラ』」
「なんだそりゃ!」
「帰ったらアイヌ語でも調べなさい。ほら時間ないわよ」
「くそ…っていうかまた『ら』かよ。ら、ら、ら…」
「こっぺぱん♪5秒たったわ。はいあんたの負け」
満面の笑みのハルヒ。なんだコッペパンて。
「けっこう面白かったわ、うん」
あんないい笑顔見せられたら文句なんて言えないっての。
 
 
さてなんというか、簡単に言えばバカップルなのだろうけれど。
キャッチボール程度であんなに楽しそうにされたら僕達の出番などあるはずもない。
涼宮さんは言うまでもなく疲れた様子の彼でさえ楽しそうに見える。
まったくたまったものではない。
「『ゆうから』ってなんでしょう?」
朝比奈さんの疑問に長門さんは短く答えた。
「歌」
 
 
『指令そのよん「一緒にお弁当」』
 
「キョン、あの木の下で休まない?」
疲れていたのでちょうどいい。賛成だ。
「じゃあお弁当食べましょう」
弁当?ハルヒが?
「誰かのために作ったのなんては初めてなんだからよく味わって食べなさいよ」
「人の弁当を散々食ってる奴の台詞じゃないだろ。まあささやかなお返しとして受け取っておく」
「素直に受け取れないの?あんたは」
「悪かったな。しかしいいのか?俺が初めてで」
「いいわよ。あんたくらいしかいないしね」
「そうか」
 
 
今何かすごい会話を聞いた気がする。
素で「初めて」と言う言葉が盛り込まれていた。照れるでもなく恥ずかしがるでもなく。
少し編集しただけですごいものが出来てしまいそうだ。落ち着け、何を考えている僕。自重しろ。
「いいな、あたしも誰かに作ってあげようかな」
もし彼に弁当を送ったりしたら大変なことになるのを気付いていないのだろうか、この人は。
「そのときは是非僕に」
一応釘は刺しておいた。
 
 
「うまいもんだな」
「当たり前でしょ。このあたしに出来ないことなんてないのよ」
その有り余る自信だけは見習いたいよ。卵焼きを一つまみ。甘くて少し驚いた。ウチはしょっぱい卵焼きだからな。
俺の怪訝そうな顔に気付いたのかハルヒが手を伸ばしてきた。
「あれ?ああ、ちょっと間違えたわ。あんたのは」
ハルヒ別の場所にあった卵焼きを箸でつまんで一口食べた。
「うん。こっちのよ。お母様の味を再現するの大変だったんだから。はい」
そのまま箸を突き出してきた。
ちょっと待て。そのまま食えと?出来るか!と突っぱねたかったが落ち着いて考える。
ここで変に焦るとハルヒは自分がどんなことをしているか理解してしまう。そうしたらハルヒは怒るだろう。
ならばここは気付く前に食べてしまうが吉。出来るだけ自然にかつすばやく食いつく。
「どう?」
「…うまい。普通にウチの味だ」
驚いた。本当にウチの味だ。俺のいつも食べている卵焼きの味だった。
「あんなにおいしいんだからその味を保存しないと人類の損失よね」
簡単に、そして大げさに言っているがこいつは努力なんか見せはしない。
どれだけ練習して、失敗して、そして成功させたのだろう。
「ハルヒ、うまかった。ありがとう」
真っ直ぐに言うと逆にハルヒは照れたようだ。
「わ、わかったらいいのよ、もう。さっさと食べなさい。あとあたしへの感謝を忘れないこと」
「ああ、でもこれ作るのけっこう大変だったろ」
「まあね、でもこんなの最初で最後かもしれないでしょ。せっかくならおいしく食べてもらいたいじゃない」
「なんで最後なんだ。これからも作ればいいだろ」
ハルヒがじっと俺を見ている。なんだ?
「そうね。あたしもまだまだ修行が足りないみたいだし」
「十分な気もするが日々是精進と言うしな」
「頑張ってもっと卵焼きをおいしく作るわ」
「ああそうしろ」
 
 
…もしや今のはプロポーズだったのだろうか。
だとしたらとてつもない場面を記録したと言うことになるが…きっと自覚していないのだろう。
まああの二人なら仕方ない。傍から見れば夫婦にしか見えないのにやきもきさせる。
素であ~んをしていたしな。
朝比奈さんなど真っ赤になっている。気付いていないのは本人たちだけだ。
僕の苦労もまだ終わりそうにない。
できるなら最後の仕事は二人の披露宴の司会をしたいものだ。
 
 
その後町をぶらぶらした。まあいつもの日曜にやっていることなのだが。
だが何も探していないというのは初めてかもしれない。
おかげでゆっくり出来る、と思ったがハルヒはあちこち興味津々らしい。
「ほらキョン、こっち!」
はいはい、とつぶやきながらついていく。
 
『指令そのご「街中を歩く」』
 
ハルヒは子どものように次から次へと興味が移っていく。
何も考えていないのだろう。よく言えば純真とでも言っておこうか。
 
ハルヒが手をつなぐのを拒否した。街中で手をつなぐのは人が多いから嫌だそうだ。
俺もいい加減照れくさかったので同意しておいた。
並んで歩くだけだといつもどおりなだけだな、なんて思っていると服のひじの部分に重さを感じた。
ハルヒが引っ張っていた。
そしてそのまま不器用にちょこんと腕を組んだ。
ハルヒにも指令がきているのかもしれなかったが、そんなことはどうでもよかった。
 
 
どこから見てもカップルだ。誰も否定できない。
この映像を見せるだけであの二人だって認めざるを得ないだろう。
嫌いな相手とあそこまで出来るほど器用な二人ではないからだ。
彼が涼宮さんを見守る目はとても優しい。
撮影班の長門さんがうらやましそうに見ているからわかる。
うらやましそうに、は僕の想像に過ぎないが凝視しているのには違いない。
その後の腕組みだってあまりの初々しさに見ているだけで頬が緩む。
本当に不器用な人たちだ。
ただ僕から涼宮さんには何の指示やお願いもしていない。
つまり涼宮さんから腕を組んだのは自分の意思ということになる。
これは大きな進展だ。
涼宮さんは彼を意識しているのだろう。
  
さて今日も半分を過ぎた。
さてどこまでいけるのだろうか。
 
 
『指令そのろく「一緒に夕食を」』
古泉提供の家に到着。食材なんかはあるので好きに作っていいとのことだ。
とはいえ俺は料理なんてまるで出来ない。ハルヒに任せるしかない。
だが見てるだけってのはアレなので出来るだけ手伝うとしよう。
「ちょっとそっちのとって」「おう」
「水切りくらいちゃんとしなさいよ」「…すまん」
と、まあ怒られながらも何とか手伝う。
エプロン姿のハルヒは新鮮でハルヒなのに家庭的に見えるという不可思議現象が発生していた。
「なによ、なんか変?」
どうもジロジロ見すぎたらしい。
「なんでもない。そんな格好してるとお前でもそれなりに見えるもんだって思っただけだ」
言った後しまったと思った。せっかくうまくやってきたのにいつもの癖で怒らせるようなことを言ってしまった。
でもハルヒは「へぇ~。どんな風に見えるの?家庭的な感じ?」とにっこりと笑った。
そのハルヒは見たことのないハルヒで、変なスイッチが入ってしまいそうだった。
「…そんなもんだ」
「ふ~ん。男は家庭的な女に弱いって言うけどあんたでさえそんな風になるんならホントなのかもね」
ニコニコしながら言うハルヒ。
それが本気なのかからかっているだけなのかわからなかったが、俺はため息をつくことしか出来なかった。
トントンとリズムの良く包丁を扱うハルヒ。
その後ろ姿に惹かれる自分を否定することは出来なかった。
 
苦労は9:1の割り合いとはいえ一応一緒に作った夕食を並べる。
ここでの指令は夕食を食べながら相手のことをどう思っているかを正直に話すということだ。
まあとりあえずは今目の前にあるうまそうな飯にありつくとしよう。
所狭しと並べられた料理、二人で食いきれるかという心配はあるがとにかくうまそうだった。
とりあえず目の前のから揚げを食べる。これは…
「どう?できるだけあんたの家の味に近づけようと思ったんだけど」
慣れた味でとても美味かった。
「うまい」
「もう少し言いようがないの?」
そういいながらハルヒは嬉しそうだった。
ほかにも肉じゃがやらロールキャベツやらどれも絶品で俺はどれについても「うまい」としか言えなかった。
自分が作ったものを食ってもらうというのはそんなに嬉しいことなのだろうか。
「何言ってんのよ。あんただって一緒に作ったでしょ。自信持ちなさいよ」
「俺はちょっと手伝っただけだ」
「別にいいんじゃないの?ちょっとだけど役には立ったし」
「ちょっとで悪かったな」
「ま、あんたはそんなもんよ。いつもちょっとだけ役に立つもん」
「俺みたいな凡人に出来ることなんて少ないんだよ」
「そうね。だからあんたにはあたしがいてあげなきゃダメなのよね」
「よく言うよ。俺はお前のフォローで忙しいんだぞ」
「あたしは細かいことは気にしない主義なの」
「大きなものは小さな綻びから崩れるもんなんだよ。だからお前こそ俺がいなきゃ危ないんだぞ」
「…ふーん。ま、それでもいいわ。ちゃんとついてきなさいよ」
「偉そうに…。まあここまできたら最後まで付き合ってやるよ」
憎まれ口ではあったけれどなんとなく柔らかい空気が流れていた。
相手をどう思ってるかなんて正直に言えるわけがない。それでも互いに必要としてるってことはなんとなく伝わった。
ハルヒが消失して俺がどうにかなっちまいそうだった時、ハルヒも病院で付きっ切りでいてくれた。
理由なんてそれだけで十分だと思う。
 
 
いい雰囲気だ。僕としてはもう少しムードのある恋人同士のような情景を作りたかったがそれには酒がいる。
あの二人に飲ませるわけにもいかなかったのですべて自由にしてみたがうまくいったようだ。
どう見たって夫婦の夕食風景だろう。料理上手な妻と不器用だけれど一生懸命手伝う夫。このままCMにでも使いたいくらいだ。
「あんなふうに手伝ってくれる旦那様がいたら素敵ですね~」
朝比奈さんが顔をへら~っと崩しながら言う。
確かに朝比奈さんのような女性からすればずいぶんと素敵な光景だろう。宣伝ビデオとしても悪くない。
TVの前で皆ニヤニヤしているという気味の悪いものになる可能性はあるがむしろ望むところだ。
この二人は結婚してもきっとこんな調子なのだろうとなんとなく思った。
結婚?そうか、よし。
 
 
『指令そのなな「結婚とは」』
急に古泉から追加の指令が来た。ちくしょう、後一個だと思ったのに。しかもなんだよその質問。
高校生でいきなり結婚はねえだろ。せめて段階を踏んでだな…。
「ハルヒ」
「ん?何?」
「ええとだな、その、お前は好きな人が出来たらどうする?」
「どうするってどういう意味よ」
「う、その…こ、告白するか?それともされるまで待つか?」
なんだか結婚とは離れていっている気がする。
「なんでそんなのあんたに言わなくちゃいけないのよ」
それはもっともな疑問だが答えてもらわないと話が進まん。なら俺から話を進めてやる
「そうか、俺なんかは関係を壊しそうで告白は難しいな。それに一目惚れする性質でもないしな」
「そう?」
「違って見えるか?」
「なんかあんたはそういうとこちゃんとしてそうだから言う時ははっきり言いそう。最終的に責任は取ってくれる感じ」
ハルヒの中での俺のイメージはなぜか男らしいキャラのようだ。
「で、お前は?」
「…あたしはその人って決めたら突撃するわよ。待ってなんかいられないわ。誰かに盗られるのも嫌だしね」
「まあお前ならそうだろうな」
ハルヒは当然と言わんばかりに髪をかきあげた。
「でもなんとなくお前は肝心なところで足踏みしそうな気もする」
ハルヒは俺の言葉に反論せず「…そうかもね」と一言だけ呟いた。
その姿が妙に心に残ったがいつまでもこれを続けるわけにもいくまい。
「つまりもし結婚するならお前は相手の言葉を待っていて」
「あんたははっきりプロポーズするってことね」
結婚の内容までいけなかったがかんなところで十分だろう。ハルヒが「でも」と続けた
「結婚なんていったって当人同士が幸せならそれでいいわよね」
「そうだな、そのとおりだ」
「どうせならうんと幸せになるんだから」
「ああ、そうだといいな」
別に他意はないがなんとなくハルヒと見つめ合ってしまった。
お前と結婚するやつは幸せだろうよ、思ったがさすがに口には出せなかった。
ハルヒも何か言おうとしてやめたようだった。
 
 
一歩間違えればそのままプロポーズじゃないか、あれは。
というか間違えてくれればよかったのに。そうすればこっちの手間も…まあしょうがないか。
きっと二人の新密度は上がっているはず。
見た目だけならもはや十分に恋人同士だ。
できればこのまま告白までいってもらいたい。
 
 
『指令そのはち「ラスト」』
ずいぶん長かった気もするがようやく終わりだ。古泉の奴、次はないからな。
「ハルヒ、用意してきたか?」
「え?ああプレゼントでしょ。ちゃんと持ってきたわよ」
そうなのだ。古泉の最後の指令はプレゼント交換すること。
やってられないが仕方ない。だがハルヒの喜びそうなものを考えるのは一苦労だった。
逆にハルヒから何を渡されるかも不安の種ではある。
「じゃあ早速交換といこう」
「うん」
互いに交換する。開けるのは後でと決まっているのでもうここで終了でもかまわない。
だが視界に古泉の姿が、カンペに『デートらしい終わり方を』と書いてある。
どうすりゃいいんだ。キスなんてもってのほかだし………そうだ、最近見たので最後に抱擁してるのがあった。あれでいこう。
「ハルヒ」
「何?」
「最後くらいデートっぽい終わり方をしてみるか」
疑問符の浮かぶハルヒを尻目に俺は両手を大きく広げる。
「…ちょっとまさか『俺の胸に飛び込んで来い』って?」
「解釈はお前に任せる」
数秒経過。そろそろ両手がきつい。ハルヒがため息混じりに言った。
「もうちょっと格好よく出来ないの?」
「これ以上は俺には無理だな」
ハルヒはしょうがない、みたいな顔をして
「バカ…」
俺の胸にトン、と額を当てた。
ここまでされたらしっかり最後までやるしかないだろ。
だから出来るだけ優しくハルヒを抱きしめた。
 
 
これだ!これを待っていた!
人は時として肉体的接触により相手への好意を自覚することがある。
手を繋いだりはしていたがあのように抱きしめたことはなかったはずだ。
たとえそれが擬似的で演技であってもで『抱きしめた』という事実は変わらない。
しかも今日は彼のほうから行動し、最後も彼から抱きしめた。
彼がただの受身をやめた瞬間だ。
今後二人は時折今日のことを思い出すだろう。
そうすれば意識せずにはいられないはずだ。
もう放っておいたってくっつくだろう。
よし!大成功だ!
「こ、古泉君何か怖いですよ?」
「ああ、すいません。あまりに嬉しいことがあったのでつい」
「よ、よかったですね」
朝比奈さんに気取られるとは僕もまだまだ甘い。
嬉しいのを隠す練習などしなかったからな。
まあいい。次が最後か。
 
 
『指令そのきゅう「プレゼント」』
俺とハルヒは別室へ。あとはそれぞれのプレゼントを開けるとこを撮って終わりだそうだ。
ちなみにこっちには古泉。ハルヒのほうには長門がカメラマンとして行っているらしい
ハルヒが何を仕込んでいるのか正直不安だが開けないわけにもいかない。
さて何が飛び出すのやら鬼でも蛇でもかまわんがパンドラの箱みたいのは勘弁してくれよ。
「これは…まさか…」
 
キョンのプレゼントは何だろう。まあどうせキョンだし期待なんかしてないし。
でももしネタに走ってたりしたら罰金ね。それで違うプレゼント買わしに行かなくちゃ。
早速開けてみよう。パカッと。
「え?これって…」
 
ドアを開ける。
ドアを開ける。
ハルヒのいる部屋へ向かう。
キョンのいる部屋に向かう。
廊下でばったり出くわした。
廊下でばったり出くわした。
「「なんでお前(あんた)も同じの買ってるんだ(のよ)!」」
 
 
さてさて今僕の前には同じ指輪。俗に言うペアリングををしているカップルがいる。
おや?まだカップルではなかったかな?
まあそれこそいまさらだろう。
なにせ打ち合わせ無しでまったく同じものを相手に贈ろうとしたのだから。
お幸せに、という以外に選択肢などあろうか。
駅前でリングの露天商がいて二人ともそこで買ったらしい。
単に偶然でおそらく他にも買った人は大勢いるだろう。
それでもこの二人がプレゼントとして買う確率は相当に低いはずだ。
そんな奇跡に僕は正直感動している。
朝比奈さんは胸の前で指を組み「素敵…」と呟いた。
僕も同じ気分だった。
 
サイズは互いにぴったりだったようだ。聞いていたわけでないにもかかわらず、だ。
いくつかのリングを触り、相手の指の太さの感触を思い出し決めたそうだ。
手を繋いでいる場面はよく見かけたがそれだけでわかるとは思えない。
それでもわかったということは相手をどれだけ刻んでいるかという証拠になるだろう。
 
今回監督を勤めさせていただきました古泉一樹と申します。
さてさてこれにて今回のデートは終了です。
皆様お疲れ様でした。
また機会があれば是非この恥ずかしい二人をご覧になってください。
最後に『相手を一言で言うと』という質問に答えていただきました。
 
「あいつはなんというかめちゃくちゃな奴だよ。とても一言で語れるような奴じゃない。そこを何とか?だからできないっていってるだろ。いいだろ別に、俺はわかってるんだからいいんだよ」
 
「一言…難しいわね。根暗で面倒くさがり屋で愚痴が多くて頭悪くてエロくて…なんか悪口言ってるみたいね…。でもなんていうかキョンとは波長が合うっていうか、居心地がいいって言うか…うん、楽しいの」
 
こんな二人ですが今度とも末永く見守って頂けますようお願い申し上げます。
以上です。

妄想デートあとがき

このSSは某ネットラジオの企画「妄想デート」をフューチャーしたものとなっています。
興味が持たれた方はそちらもご覧になると元ネタ+終始ニヤニヤできること請け合いです。
キーワードは「京四郎」「妄想デート」あたりで。
 
それでは最後までお付き合いくださりありがとうございました。