怠慢で短気で傲慢 (78-16)

Last-modified: 2008-01-27 (日) 22:17:58

概要

作品名作者発表日保管日
怠慢で短気で傲慢78-16氏08/01/2608/01/26

作品

 まったりとしたある日の放課後のこと。
 
「ねえ、キョン。ちょっと教えて欲しいんだけど」
 パソコンに噛り付いているハルヒの声が、俺の優雅なティ・タイム(朝比奈さんプレゼンツ)を、息抜きではなくその単語の意味通りに破壊する。極楽気分から憂鬱地獄へ急降下だ。
 やれやれ、今度は一体何だ?
「この画像をサイトに表示したいんだけど、なんか上手くいかないのよね。どうしたらいいわけ?」
 おい、ハルヒ。そのことだったらこの前も教えたばかりだろ。画像のファイル名の方を統一しておけば、サーバに上書きでアップロードすれば済むってな。
「あら、そうだったかしら?覚えてないわ」
 俺はつい、仰々しい溜息を吐いてしまう。
「一度教えた事で二度手間掛けさせるなよ」
「なによ、その偉そうな口の利き方は。ふんだ、ちょっと忘れちゃっただけじゃないの」
 全く。ハルヒぐらい頭のいい奴なら、一度教えただけで何でも完璧にこなせると思うんだが、どうしてこいつはパソコンのことになると俺にばかり頼ろうとするのだろうか?
「いいじゃない、そのぐらい。そもそもあんたは雑用なんだし、団長のこのあたしが直々にあんたの得意分野の作業で使ってあげてるのよ。退屈せずに済むんだから、感謝の言葉の一つでももらいたいところだわ」
 俺の方こそ、一度でいいからお前の『ありがとうございました』ってお礼の言葉というものを聞いてみたいぜ。ってどこ行くんだ、ハルヒ?
「あたしが何処に行こうがキョンには関係ないでしょ」
 何だ、ひょっとしてトイレか?
「バカ!あんたって、ほんとにデリカシーってモンが無いんだから……」
 叩き付けられるようなドアの音。ハルヒはプリプリ怒って部室内からその姿を消失させた。
 
 ……いかんな。部室内が微妙な空気になってしまった。
 それに、ハルヒの機嫌を損ねたままだと例によって閉鎖空間が発生、神人どもが大暴走、古泉の奴がバイトに――って、なにニヤニヤしてやがる、古泉。
「いえ、別に。僕はただ、『ケンカするほど仲がいい』という言葉の実例を目の当たりにして感心していただけですので」
 ハイハイ、勝手に言ってやがれ。ていうか、どういう見方をすれば俺とハルヒが仲がいいだなんて思えるんだ?
 だが、なんということだろうか。朝比奈さんまでもが、
「あ、でも、わたしも古泉くんとおんなじです。涼宮さんって、キョンくんのことをとっても信頼してると思うの。だから、つい、キョンくんに甘えてるだけなんじゃないかな、って気がするんです」
 と仰るではないですか。
「甘えてる?ハルヒが――俺に――ですか?」
 朝比奈さんの意外な言葉に少なからず動揺する俺だった。あのハルヒが誰かに甘える、なんて想像もつかないんだが。しかも、その対象は俺か?
「ええ。多分――パソコンの事はただの口実。涼宮さんは、キョンくんに話し掛けるきっかけが欲しくて、それでなんとなく質問しただけなんじゃないかな、って、その、わたしは思います」
 はあ、そういうモノなんですかね。でも、短気なあいつのことだから、とにかく目の前の問題を早く解決することを望んでるんじゃないですか?
「キョンくん、知ってますか?――男の人ってすぐに結論を出したがるみたいですけど、女の子って、どっちかっていうと、結論なんかよりも会話すること自体が目的、ううん、会話にならなくても、ただ話を聞いてもらえるだけでも嬉しいものなんですよ」
 優しく微笑んだまま、朝比奈さんは珍しくもハッキリとした口調で、俺を諭すように話を続けた。
 しかし、目から鱗とでもいうのだろうか。まあ、俺は女心だとか、そういうのはまるっきりダメなので、朝比奈さんの御言葉はとても新鮮であったし、大いにありがたみというモノを感じられた。
 
 でもなあ、そもそもあいつにはパソコンでの作業が向いていないんじゃないか、って気が俺はするんだけどな。面倒くさがりで、気が短くて、おまけに超が兆ぐらいつく程の我侭さだ。相手をせにゃならん俺の苦労は……。
 
「……そうとも限らない」
 って、長門。そういえば今日初めてお前の声を聞いた気がするよ。んで、何だって?
 
 長門は屈折率が限りなくゼロに近い透明なその瞳で、俺をじっと見据えたまま続けた。
「例えば、プログラマに必要な素養は『怠慢で短気で傲慢』という説もある」
 えーと、どういうことだか俺にはさっぱり解らんのだが。
「本来、コンピュータにとって得意である単純な反復作業というものを期せずして勤勉な人間が手がけてしまうケースが散見される。それはとても非効率」
 まあ、確かにそれはそうだが。
「でも、不精者であればそのような作業は全てコンピュータに任せる、といった思考をとりがち。単純作業ではなく、創造的な活動を行うためには、それはとても重要な考え方」
 なるほどね、でも、『短気』ってのはどうなんだろう?
「短気な人間は、暢気な人間が見過ごしがちなシステムの不備に因る大局的な時間の浪費を良しとしない。その改善のためにはどのような苦労をも厭わない」
 長門の言葉に、俺は今までのハルヒの行動力というものを思い返していた。確かにあいつは短気でいて、それで何事も本質を見抜いているがごとく、的確にこなしてきた。確かに、それは一理あるな。
「アプリケーション・ソフトウェアというものは作成した者以外の大多数の他者に利用されてこそ価値がある。謙虚な人間の行動ベクトルは内向きだが、傲慢な人間のそれは真逆」
 まさにハルヒのことらしいがな。
「外界に向けられたその自尊心は常に他者を意識してこそのもの。その精神はプログラムそのもののあるべき概念を示している。すなわちそれは『相手に対する想い』」
 ふーむ。言われてみれば、ハルヒみたいに他人を意識しながらも、自分のアイデンティティというものをこれほどまでに確立している人間は滅多にお目にかかることは出来ない気がするな。
 にしても、長門よ。今日のお前、何だかやけに饒舌じゃないか。
「……あなたの気のせい」
 そう言って長門は手元の本に目を向ける。
「なるほど。長門さんの説からすれば、涼宮さんが近い未来に世界に通用する腕利きのコンピュータ技術者として名声を縦にしている、という可能性は大いに有り得ますよ。とすれば、あなたの将来も明るい、というものではないですか」
 どういう意味だよ。ふん、さっぱり解らんぞ。まあ、どうせ俺は中途半端な野郎さ。大学進学も危ういというのに、最先端の技術云々なんて俺には雲の上の話さ。
「だからこそ、主夫という道があるのではないですか?あなたは何かと面倒見はよさそうですし、案外似合っていると僕は思いますが」
 おいおい、俺が主夫かよ。なんとなく、そんな未来図は考えたくないな。
「あ、わたしも、なんか、そんな気がします。……キョンくんがエプロン姿でお料理とかしてるところ、わたしも見てみたいなぁ――えへへっ」
 なんですか、朝比奈さんまで。そんなに俺を主夫にさせたいのだろうか。まさか、みんなしてグルですか?これは何かの陰謀ですか?
 おい、長門。お前もなにか言ってやって――って何だ、その興味津々、といった視線は。
「想像中……保存完了。対象映像を永久保護データとして登録」
 やれやれ、全くどいつもこいつも……。
 
 と、そこにハルヒが戻ってきた。
「あら、キョン、どうしたの?もう。そんな顔してたら、ただでさえマヌケな顔が余計にひどく見えるわよ」
 大きなお世話だ。
「んで、なになに?一体みんなで何の話をしてたわけ?」
「なんでもないぞ。将来ハルヒが世界トップレベルの女性技術者になる、だとか、俺はしがない主夫、だとかそんな下らない話だ」
 ハルヒはその口元を尖らせると、いかにも憤慨したような口調で、
「ちょっと、ダメよ、キョン。あたしが働きに出ている間、あんたが自宅でのうのうとしてるなんて許しがたいわ。会社勤めとまでは言わないけど、在宅でもできるような、せめて翻訳家とか小説家ぐらいにはなってもらわないと困るじゃないの」
 と早速噛み付いてきた。
「それもどうだかな。なんだかんだで結局お前に養ってもらいつつもこき使われる、なんてのが今から目に浮かぶぜ。ハイハイ、解ってますとも。俺には甲斐性がなくて、どうも悪うござんしたね」
「今からそんなこと言っててどうすんのよ。いい?キョン、この際だからハッキリ言っておくけど、あたしが理想とする家庭を築くためには、あんたの協力は必要不可欠なの。大体、キョンはいつだって――」
 
 
「おやおや、これではまるで結婚を誓い合った恋人同士の会話みたいではありませんか。全く、ここは『仲がいいにも程がある』とでも言うべきなんでしょうかね」
「ふえぇ、涼宮さんも、キョンくんも、もう、わたしたちがいることなんか全然気にしてないみたいです」
「……バカップル」
 

 

以上です。
 
上記とは全然関係ない落書き
 
「キョン~、なにしてるの?帰るわよ!」
 
78-16 kyon_kaeruwayo.png

 

スレの流れ

遅レスで申し訳ないけど、
怠慢で短気で傲慢=良プログラマー というわけではなく、
それなりに協調性とか他人とのコミュニケーション能力は必要。
(最初から最後まで1人で開発するソフトはともかく、
 オープンソースにしても、プロプライエタリなものにしても
 多かれ少なかれチームで開発を行うので)
「怠慢で短気で傲慢」なだけじゃ独りよがりなものしかできない。
 
スレ違いもいいとこだけど、変なイメージを持つ人がいても困るので。