映画を巡る物語 撮影編 (46-441)

Last-modified: 2007-04-16 (月) 22:54:08

概要

作品名作者発表日保管日
映画を巡る物語 撮影編46-441氏07/04/1507/04/15

作品

ブザーの音が鳴り、100人前後の観客を納めた劇場の明かりが落とされていく。
先ほどまで周囲を満たしていた観客達の雑談が収まっていき、耳が痛くなるほどの沈黙に取って代わる。
ナレーションを勤める少女が壇上に上がり、緊張を秘めた表情でマイクに向かう。
『次は、県立北高校 映画研究会とSOS団の共同作品 7人の恋人達です』
台詞を言い終えた少女が壇上から去り、幕が上る。画面に背を向けた一人の少年が映し出された。

 

 『しらなかった…恋をすると言うことが、ここまで残酷な事だとは』
 そう切なげに呟く少年、画面が引き夕焼けを映し出すとオープニングと共にタイトルが流る。

 

スクリーンに映し出された自分の姿を見ながら、俺はこの映画を撮ることになった経緯を思い返していた。
そう今回の話も結局は、ハルヒが厄介ごとを引っ張ってきたのが原因だった。

 

★ ○ ★ ○ ★

 

北高での2年目の文化祭で、SOS団によって生まれちまった『長門ユキの逆襲 Ep 00』を流し終え。
二度と映画作りをハルヒにさせないと誓いを立てた数週間後、その誓いはあっさり破られる事になった。
直接の原因となったのは、SOS団の映画撮影で何かと世話になった映研が持ってきたDVDである。
なんでもそれは、西東京高校映画祭なる祭典で放映された作品であり、『原柏賞』を2年連続受賞した都立陣代高校の『恋する7人』というタイトルだった。
この映画を見終わったハルヒはやおら席を立ち上がると、大きな声で「コレよッ! あたしはこういうのを撮りたかったのよッ!」と宣言した。
いつもならここで俺がつっこみを入れるところなのだが、それより早くハルヒに同調する奴らが居た。
それは誰か…映研の連中である。
ハルヒの宣言を聞くと「涼宮さんならそう言ってくれると思ってましたッ!」と映研の部長は叫び。
その場の勢いで共同映画撮影が決定してしまった。なんてこった。

 

後になって聞いた話であるが、映研の部長は最近スランプに悩んでおり。
その時に見たハルヒの映画に強烈な衝撃を受けこの話を持ってきたそうである。
ちなみに『恋する7人』作品は俺にはドコに感動すれば良いのか、むしろ笑えばいいのか分からない作品であったが、
朝比奈さんや長門は真剣に画面を見ており何かしらの感嘆をえていたようである。
古泉は映画の内容を長々と講釈していたが全て聞き流していたので覚えていない。

 
 

さて、そんな経緯で始まった映画撮影なのだが、俺達は最初の段階で大いに頭を抱えることとなった。
それはハルヒがほぼ一年ぶりとなる<超編集>の腕章を着けて、
「今回はみんなにも脚本を書いて貰うわ。みんなの脚本を合わせて一つの作品にしましょう! お題は恋よ」と言いだした為だ。
つまり、俺たちが書いた小説がハルヒの手で一つの話となり。その話を映研部長が脚本にするそうだ。
どうやらコレも映研部長の入れ知恵らしい。部長さんは去年の文芸部の会誌も読んでいたそうだ。SOS団に変な影響を受け過ぎだと思うぞ。
かくして俺たちSOS団の団員4名と団外協力者の阪中、鶴屋さんは執筆活動にいそしむ事となった。
一週間の執筆期間の後、完成した作品のあらすじはそれぞれこんな感じである。
なお実際に俺が長門達の話を読んだのは映画が完成してからなので、話が前後する事になるがその辺りは承知して欲しい。

 

長門が書いた作品は、引っ込み思案な文学少女主人公であり、彼女が図書館で困っているときに助けてくれた同世代の少年に恋に落ちるという古典的なラブストーリーだった。
朝比奈さんの作品は、親友に付き合って入った部活で主人公の少女がある少年に惹かれていく、しかしその少年は親友が好きな相手でもある…という物。
阪中の書いたものも古典をベースにしたもので、愛犬の散歩中にであった青年を犬を通じて親しくなると言う話だ。
鶴屋さんは、何かとトラブルに巻き込まれる後輩を優しい視点で見守る上級生という話を書いてくれた。
会誌でのコメディ話から一転繊細な描写が多く鶴屋さんの底知れなさを改めて思い知った気分だ。
古泉は、一番最初に二人の青年の友情を描く相棒映画<バディ・ムービー>風の話を書き上げたのだが、お題について失念した所為で唯一ハルヒに没を喰ら事になった。
しかしハルヒはこの話も脚本の何処かにねじ込むつもりらしい。

 

さて、俺はというと古泉が没を喰らった分も含め2作品書くこととなった。
一つは、主人公の妹の友達の少女との恋愛話であり。もう一つは、下駄箱に入っていた手紙が元でクラス委員と付き合うという話だ。
かなり手を抜いて適当に書いた2つの話を受け取ったハルヒは、難しい顔をしながら一通り読み終え。
見慣れてくると愛嬌が無いわけでもない不機嫌なアヒル顔でOKを出した。
こうして出そろった6作品の恋愛話と1つ友情風小説に、ハルヒ自身が書いた話を加え一つにまとめることになるのだが…。どう考えても闇鍋脚本になりそうだ。
ハルヒも3日ほど延々と悩み続け、古泉が「編集を変わりましょうか?」と切り出したのを受け入れ編集役を降りる事となった。

 
 

かくして、古泉の手で編集された話は映研の手に渡り、『7人の恋人達』と名前を付けられ映画として生まれ変わった。
キャストはSOS団全員と鶴屋さん・阪中に決定し、さらに俺とハルヒが主演男優・女優をやることになった。
「古泉くんはお題を守れなかったし、丁度良かったわ。でもキョン? 古泉くんに頼んであたしの話を見せて貰おうとしても無駄よ、固く口止めしておいたから」
とはハルヒの弁である。口止めも何も映画が完成したら分かってしまうだろう。
「何を言ってるの? どんな話が飛び出すか分からないから物語は面白いんじゃない、内容を知ってたらそれはただの確認作業よ」
そう熱弁を振るうハルヒを引き連れて、俺は映画で使う為の道具を買うため次の店に向かった。
俺たち以外の団員と阪中・鶴屋さんは映研の元演技指導を受けており、ハルヒと俺が買い出しに行くこととなったのだ。
古泉によると何でもコレも映画撮影の為の一環らしい。
溜息混じりに「あなた方は素直ではありませんからね」と言っていたがどういう事となのだろうか。

 

しかしハルヒ、本当に良かったのか?
「なにが?」
映画監督を映研部長にに譲ったことだ。
いつもの様にハルヒは監督をやりたがるのだと思っていた。
「キョン、あたしね」
そう考えたとき、ハルヒが少しだけ前に出て髪を踊らせながらくるりとこちらを振り返った。
「今、すっごく楽しいの」
その顔には笑顔が浮かんでいる。いつも部室で見せるような、いやそれ以上の透明感さえある幸福の笑みが。
「今までずっと中心に居たから気付かなかったのかもしれないわ。祭りは中心で盛り上げるだけじゃない、みんなで参加するから楽しいのよ」
そう言って俺の手を掴むと次の店に向かって走っていく。
ハルヒに牽引されながら俺は喜びと寂しさの混じった複雑な感情を覚えていた。
ひょっとしたらハルヒはもうすぐ、SOS団なんて必要のない普通の女の子になるのかもしれない、その時俺はどうするのか…。
なんてな、そんなのはガラじゃないさ。大体ハルヒがSOS団を手放すわけ無い。そうだろ、団長さん?