月と徒花 (90-30)

Last-modified: 2008-05-25 (日) 12:22:29

概要

作品名作者発表日保管日
月と徒花90-30氏08/05/2008/05/21

作品

期末試験も終わりセミたちが合唱を始め、我らが団長様が七月初旬のメランコリー状態を脱した頃の話だ。
二年の夏休みを目前に控えているのにこの文芸部室はいつもと変わらない俺の試験の結果は上々で担任の岡部教師もおどろいていた。
それもそのはず、中間試験での俺の惨憺たる結果に激怒したのは、親でも教師でもなくハルヒだった。(谷口にはハナ差で勝っていた)
「あんたこんな成績で栄えあるSOS団の団員が務まると思ってるの?」
「仕方ないわねこれも団長の勤めよ私や有希までとは言わないけどせめて国木田ぐらいの結果が取れるように勉強みてあげるわよ、全く団長の手を煩わせないでよ、バカキョン」
と一方的に宣言された。言葉とは裏腹にどこかハルヒが楽しそうだったのは俺を合法的にいたぶる口実ができたからだろうか?
その後文芸部室はハルヒの私塾となり旧帝国陸軍の鬼軍曹のようなやさしさで新兵の俺を鍛え上げていた。周りでは長門がいつもの様に分厚い本を読みふけり古泉はニヒルな笑みを浮かべたまま春先にフリマで購入した碁盤で本を片手につめ碁をしている。
 
朝比奈さんは先日ハルヒがネット通販で購入した夏用メイド服に身を包みいつものようにすごしている。(ちなみに俺がその姿を網膜に焼き付けんとすると塾長の腕章をつけたハルヒの罵声と鉄拳が飛んだ)
受験を控えた三年生だから参考書と必死に格闘していた。わからない所は古泉に、時々恐る恐る長門に教わっていた。進学クラスのエリートと万能宇宙人端末の指導のお陰で成績もかなり上がったようだ、朝比奈さん自体かなりの努力家だしな
どこの大学を受験するのかと聞きたい所だったが聞かずとも判るよ         、来年ハルヒが受ける大学だろう、                         
おそらく古泉と長門も彼女らの目的は大学に進学する事ではなくハルヒのそばにいることだからな、一番恐れているのは俺も同じ大学に進学する事をハルヒが俺に求めたらどんな恐ろしい個人授業が待ってるのかあまり考えたくない
下手すりゃ古泉が「機関」に手をまわして俺を合格させるだろうがこんな俺にだってミジンコ並みのプライドがある、奴に借りは作りたくないハルヒが俺に合わせた大学を受験するかもなんてのは俺の自惚れだろう。
アイツは頭も良いし運動神経抜群、ルックスも文句なし性格のみが問題だったがSOS団結成後は友達も増えて性格もよくなった。入学直後が嘘のようだ
この先俺がどうなるなんてわからんし未来人に聞いても「禁則事情です」と返事が返って来るのは確実だ。どう考えても俺じゃハルヒとつり合いが取れなくなる。
おいおい俺達付き合ってるわけじゃないだろう、何を言っているんだろうね
アイツに大学で彼氏ができたらせいぜい祝ってやるさメルトダウン必至の原子炉を引き渡せてせいせいするよ良かった良かった。そんな事考えながら空を見上げると俺の心理状況とは逆に雲ひとつ無い青空だった。そんな時俺にとっての大事件が起きた。
 
部室の冷蔵庫にアイスがないと気づいたのは俺だった。
この暑い中アイスが無いと知った団長様がどの様な態度に出るか俺にだってわかる
ますます暑さが増すだろうし古泉は急なバイトで部室から消えるであろうそんなのはマシなほうで北半球と南半球が入れ替わるおそれも出てくる
この時この場に居合わせたのは古泉、長門、俺の三人、いくらなんでも長門に炎天下の中地獄の行軍訓練をさせるわけにはいかない
自然と俺と古泉のジャンケンになり結果負けてしまった。
古泉はハルヒの集めたガラクタの中からクーラーボックスを取り出し「暑い中ご苦労様です。僕はガリガリ君で結構ですから」とにこやかスマイルでクーラーボックスを俺の肩にかけた。
「長門は何がいい?」
暑さを忘れたように読書に没頭していた長門は風鈴の音のような微かな響きで
「あずきアイス」
と振り向きもせず答えまた何事も無かったように読書をつづけていた。
ちなみにこのとき長門が読んでいたのは民明書房の「我氷をアイス」だった。
(古泉、間違った知識を得る前にこの本をとりあげてやってくれ)
 
ふもとのコンビニでアイスを購入し(今月のSOS団のお菓子代は授業料がわりに俺が全額払う事が団長様の有難いお言葉により決定した)クーラーボックスにアイスと大量のドライアイスを満載した俺は再び炎天下のハイキングを開始した。
肩にかかるベルトが食い込んでくる。あまりの暑さに坂の上がぼやけてみえる
しかしこの任務を放棄したらとんでもない事になる、進むも地獄退くも地獄自称「元グリンベレー」だった世界史と日本史のT教師が語ったインパール攻略作戦とはこのようなものであっただろうと創造しながら歩きやっと校門についたとき鶴屋さんとばったり会った。
 
「やあ!今度は何の罰ゲームだいっ、この暑い中にそんな荷物かついでさ」
鶴屋さんは手にしていたペットボトルを俺の頬にあてながら笑い続けていた。
多分このSOS団名誉顧問には夏バテの二文字はないだろう
ペットボトルの冷たさが気持ちいい
「飲ませてあげてもいいんだけどさっ!そんなことしたらハルにゃんに悪いからね」
いえいえ滅相もございません。これを飲ませて頂けたらエリクサーより効果がありますよ。
「あっそうだキョン君、終業式の日の夜にうっとこの別邸でパーティーするからさっ是非来てよ、実はさっきまでハルにゃんとその打ち合わせをしてたんだ詳しくはハルにゃんにきいてね」
「夏休み終わったら今までみたいに遊べなくなるよ来年は受験なんだし、ハルにゃん
との距離を一気に縮めるチャンスじゃないか」
「できたら今よりもっとハルヒとは距離をひろげたいのですが」
俺が冗談交じりに答えると驚く無かれ鶴屋さんの表情が一変した
声は笑っていたが目は鍛え上げられた日本刀のようだ
昨年末あの悪夢の三日間、朝比奈さんに話しかけた俺の手首を古武道の技でひねりあげたときと同じ目だ。どうやら鶴屋さんを怒らしてしまったらしい
「何言ってるの?勉強まで見てもらって、ハルにゃんがどんな気持ちで教えていたかわからないの少年?」
「私がいないと危なっかしいとか、どうしてあのぐらいの問題が解けないのあのバカキョンとかいってる割にはニコニコしててほとんど、いやどう考えてもタダのノロケ話だったのさっ、たとえ冗談でもハルにゃんの気持ち踏みにじるような事言ったらお姉さんは許さないよっ!」
このとき俺は暑さで頭がおかしくなっていたのかもしれない、いやきっとおかしくなっていたに違いない次の瞬間信じられないような事を口にした。
「俺じゃ駄目なんです!アイツは俺の心配なんてするよりもっといい男見つけて幸せになってくれれば俺はそれで充分なんですよ。普通に考えたら俺なんかじゃつり合いがとれませんって、なんか変ですね付き合ってるわけでもないのに暑さで頭おかしくなったかな?」
我にかえると鶴屋さんはいつもの表情に戻っていた。
「女の子ってさ、そうゆうものじゃないとおもうんだけどね」
「安心して今の発言ハルにゃんには秘密にしとくからさっ!」
坂をくだりはじめていたが突然振り向き
「パーティーは必ず参加するにょろよ!」
と言い残しふたたび坂をくだっていった。
なんつーはずかしい発言しちまったんだ俺はこのまま日射病で倒れちまえばどんだけ楽だろう?蝉の大合唱のBGM、照りつける太陽を照明に俺はひとり舞台に取り残された役者のようだった。
 
「遅いわよ!キョンせっかく素晴らしいお知らせがあるのに」
「なんだ?ツチノコでもみつかったか?それとも徳川埋蔵金の場所がわかったとか?」(いい加減に言うのがコツだ)
「なによそのそっけない態度」
「パーティーのことならさっき校門で鶴屋さんから聞いたよ」
「わかってるなら話がはやいわ、みんな聞いて終業式の日の夜に鶴屋家の別邸でパーティーを開催します。なんでも高校生活最後の夏休みだから学校の友達をたくさん集めて思い出をつくりなさいって親父さんがOKしてくれたらしいわ
俺の買ってきたアイスを食べながら職員室からガメてきた扇風機を独占しつつ胸元をはだけさせたハルヒは例の100Wの笑顔全開で団長席の上に立ち上がった。
いくら何でも目のやりばに困る、年頃の娘が生足、はだけた胸元、汗ばんだシャツの下には薄っすらとブラまで確認できる。今日は黄色か・・・こいつは俺も古泉も男として意識していないのだろう。
「コラ!エロキョンなにジロジロみてるのよ」
やっぱり少しは意識してるのか?ハルヒ
 
壇上の団長様は御神託をつげる卑弥呼のように下々の民に告げた。
「鶴屋さんと決めたんだけど今回のパーティーは今までのようなドンチャン騒ぎでは無く女性はドレス、男性はスーツ、ネクタイ着用のフォーマルスタイルで行います。異論はもちろんないわよね」
「あのう涼宮さん、あたしお洋服は結構もってるけどドレスとかは持ってないんですがどうしましょう?」
朝比奈さん貴女のドレスアップすがたなんてみたら男性の95%は舞い上がって地球の重力圏を脱出してしまいますよ。そこにいる涼宮ハルヒに任せたらどんな衣装着せられるかわかったもんじゃありませんが、それはそれでたのしみであって・・・
「何考えてるのよエロキョン、そんなに楽しみ?あた・・みくるちゃんのドレスアップ」
「安心してみくるちゃん、ドレスは鶴屋さんが用意してくれるからさ、着てないドレスがたくさんあるんだって、鶴屋さんは有希におしゃれさせるのが凄く楽しみみたいよ、いいわよね?有希」
それはそれでみたい気がする休日恒例の不思議探索にも制服で来て私服の時も地味な服装しかしない長門のドレスアップ、もともと顔立ちはかなり整っているのだからかなりの期待がもてる。
長門は本から顔をあげると俺のほうをジッと見ている。
常人なら無表情にしか見えないが俺にはわかるこの目は許可を求めるものだ
長門のマネをしてミクロン単位でうなずいてやった。
「問題無い」
 
このやりとりをみていたハルヒは何故か口をアヒルのように尖らせていた
「大丈夫よ有希、みくるちゃん悪い虫がつかないようにあたしが守ってあげるから、でもあたしに悪い虫がよってきたらどうしようかしら?」
ハルヒは小悪魔のような表情で俺をチラ見しやがった。
「わざわざ食肉花に近づく虫はいねえよ」
「誰が食肉花よ!バカキョン」
「それに俺はそんなパーティーに着てゆけるスーツはおろかネクタイだって持ってないぞ」
「よろしいですか?」
急な声におどろきふりむくとそこには古泉が苦笑を浮かべて立っていた。
「急に話しかけるな、息を吹きかけるな、顔が近いんだよ!」
「失礼しました。よろしければあなたの衣装は僕が用意させていただきますがいかがでしょうか?」
「遠慮しとくよ、おまえに借りは作りたくない」
「何意地はってるのよキョン古泉君に甘えちゃいなさいよ」
「古泉君SOS団団長としてお願いするわこの哀れなキョンに衣装を用意してあげて」
「うるせえー!」
気がつけば俺は大声を出していた。さすがのハルヒも驚いたらしくキョトンとしている。朝比奈さんは今にも泣き出しそうだ。古泉はにこやかスマイルのままだったし長門にいたっては振り向きもしなかったが、この二人がべつのリアクションを起こしたら逆に怖い部室に居づらくなった俺はカバンを手に取りドアにむかった
しばし呆然としていたハルヒだったが
「キョン待ちなさいよ!ちょっと待ってよキョン」
そんな声を無視してドアを開け俺は帰宅の途についた。
古泉スマンまたおまえのバイトを増やしてしまった。ボチボチ携帯電話が鳴るだろう
良く考えたら俺は古泉に借りを作ってばかりいる。どれだけの負債総額だ
想像もしたくない。この件だってハルヒは何も悪くない、悪いのは変なコンプレックスに苛まれてる俺だからな、しかし今日は部室に居たくはなかった。
明日放課後ふたりに謝ろう、古泉はともかくとしてハルヒに教室内で謝罪なんかしたら谷口や国木田にどんな誤解をされるかわからない。
 
翌日朝のハイキングを終え教室にたどり着く、俺の後ろの座席にハルヒの姿はなかった。
休み時間にいなくなるのはいつものことだが毎朝の始業前はいつも仏頂面で座っているのに今日はどうしたんだろう。
「オッスどうしたキョン今日は涼宮との朝の痴話喧嘩はないのか?」
「谷口、朝っぱらから喧嘩売ってんのか、まあ例えハルヒであっても喧嘩する女もいないより100倍マシだぜ」
「なんだとコラ!羨ましくなんかねえぞ!」
ここで国木田登場
「なにやってるの二人とも、ああキョンさっき九組の教室で涼宮さんみかけたよ古泉君だっけ?あのキョンの仲間のニコニコしてる人、彼と楽しそうに何か話してたよ」
「バカ!国木田余計な事言うな」
谷口は小柄な国木田を引っ張っていった。
「キョン俺と国木田も鶴屋さんのパーティーに呼ばれたんだよ楽しみにしてるぜいろんな意味でよ」
くそっ何勘違いしてるんだ二人ともハルヒがどこの誰と楽しそうに話してたなんて俺には関係ねえよ相手があの胡散臭いニヤケハンサムでもな
おかげで謝る気がうせちまったじゃねえか、忌々しいああ忌々しい忌々しい
始業のベルが鳴り岡部教師の入ってくる直前にハルヒは戻ってきた。表情はいつもの仏頂面やはり昨日の事で怒ってるのだろう。
結局休み時間も昼休みもハルヒは教室に居なかった。
どの様な理由かしらんが阪中さんや他のクラスメートから次々と休み時間に古泉と何か話してたとか二人で学食で仲良く食事をしてたとか要らぬ報告が舞い込んだ。
クラスメートの視線が痛い、午前中は好奇心でスキャンダルに見舞われた俳優のようだったが午後にはいると明らかに同情と憐れみの視線に変わった。
勘弁してくれ仮にあいつらが付き合い始めたとしても知った事ではない
SOS団なる地下組織はうまくいけば解散し晴れて俺も自由の身だ。
ハルヒも彼氏ができればまともな人間になるだろう古泉も監視をし易くなりバイトの回数も減るだろう。
あの悪夢の三日間で他校の制服を着て共に下校するふたりの姿を思い出した。ひねくれたただの女子高生のハルヒ
そのハルヒを好きだといった学ランを着た古泉、悔しいぐらいにお似合いだった。単純に俺と古泉を比較すれば鬼戦車T-34と九七式中戦車ぐらいの差があるよ。
だが腑に落ちない。あいつらが付き合い出せば「鍵」は俺から古泉に移る事になるそうなれば・・
宇宙人、未来人、超能力者がせめぎあうハルヒの不思議パワーについては「機関」が圧倒的有利になる。
もしそれが目的であいつがハルヒと付き合いだしたなら俺は古泉を絶対に許さない。そうであったなら・・・
俺はハルヒにジョン・スミスだと名乗り出て洗いざらい全てをぶちまけてこの世界を作り変えてやる
たとえ世界を敵にまわしてもあいつの幸福は俺が守る。我ながら恐ろしい事を夢想したがある事実に気づき愕然とした。
「これじゃただの嫉妬じゃないか、それにあいつを悲しませたりするのはいつも俺だ」
気がつくと午後の授業もHR終わり着席したままの俺を掃除当番の谷口があきれ返った表情で俺を見つめていた。
「キョン、そこどいてくれ掃除が始まらん、あと涼宮からの伝言だ『当分団活動は自主参加、帰ってもいいわよ』だってさ」
俺は執行を宣言された死刑囚の如く立ち上がりとぼとぼと歩き始めた。
「キョンまだ諦めるなよ!変な気おこすんじゃねえぞ」
との谷口のあまり有難くない激励も俺の耳には入らなかった。誰かと話をしたかった。
このまま家に帰っても多分部屋でひとり泣いてお袋や妹に心配をかけるだけだ。部室にはハルヒはいないだろう、居るのだったらあんな伝言は残さない
朝比奈さんの入れてくれたお茶を飲み、頃合をみて長門に相談しよう頼ってばかりいるのは気が引けるがこのままじゃおかしくなってしまう。あのニヤケハンサムの面は見たくもないが仕方ないやっと部室に着きドアをあけた。
「長門おまえだけか?他のみんなはどこにいった。」
「涼宮ハルヒと古泉一樹は当分ここには来ないとメッセージを受け取った。」
「朝比奈みくるは受験対策の補修を受けているためここにはいない」
長門は指定席でいつもの様に本を読んでいた。どこかその姿はさびしそうだ、部室には風鈴の音だけが響いている。
ハルヒに不法占拠される前の文芸部室はこんな感じだったのだろう。俺に白紙の入部届けを渡したもう一人の長門を思い出した。
「長門よかったら、これから図書館にいかないか?ひとりでいてもつまらんだろ」
長門は一瞬俺に目をむけたがまた本に眼を移した。
「行かない・・・」
再び俺を見つめた長門の瞳はこれまでみたこともない程の悲しみを映していた。
「わかった無理にとは言わないよ、戸締りよろしくな」
気まずい雰囲気から逃げるように俺は部室を後にし校門を出た。
 
家に入るとそのまま部屋に引きこもってしまった。今日は金曜だから二日間の休みだ気分を切り替えよう。
「キョン君、キョン君、ご飯だよー」
妹がシャミセンのごはんのうたを俺バージョンに変更し夕飯を知らせてきた小学6年とは思えぬほど幼い
本当にミヨキチと同じ年齢なのか疑いたくなる、
「お袋に今日は調子が悪くて食事がとれないと伝えてくれ」
「ええ!キョン君だいじょうぶ?おくすりもってこようか」
「いらない、あと少し静かにしてくれ」
「わかった・・・」
ドア越しに妹の落ち込んだ声が聞こえる。すまん妹よ今の俺にはおまえと遊んでやる余裕が無い。
しかしなんで俺は落ち込んでいるのだろう最大の謎はそれだ正解がわかる方至急ご連絡ください。
さて翌日の土曜日は不思議探索はもちろん無く暇をもてあました俺はひとり買い物に出かけた、家にこもっていたら鬱が悪化するから気分転換も必要だろう。昨夜真っ暗な部屋でラジオをつけたら鬱が悪化した。
「マリコの部屋へ電話をかけて~」
ながれてきたのはよりによって中島みゆきの「悪女」だったこの時俺は神も仏もいやしないことを実感したよ
 
街に出ると何の気もなくデパートに足を向けた。ハルヒの希望で世界が動くならこれもおまえの希望なのかハルヒ?
紳士服売り場をフラフラしていると遥か向こうに一組の男女の姿が見えた。何故俺が隠れなければならんのだ?
間違いないハルヒと古泉だ、二人はネクタイ売り場で仲良く品定めをしている。
俺と二人でいるときには見せない笑顔で古泉となにやら話し店員に質問していた。
彼氏へのプレゼントですか?なんて聞かれているのだろうか、凄く楽しそうだ。まるで俺はストーカーだ
情けなくなってすぐ家に帰りはずっと寝ていた。月曜に眼を覚ましたときには余程悪い夢をみたのか寝汗で下着は濡れており顔面蒼白、眼の下にはクマができていた。
その後五日間、終業式の日まで何とか学校に通ったのは確かだがあまり記憶が無い
ハルヒは空き時間全て教室におらず放課後は部室にも行かず毎日猛ダッシュで下校していた。
教室にいると思った爆睡しており話もできない、矢吹との試合後のホセ・メンドーサな俺に話しかける奴もいなかった。
ただ一度長門が教室の出入り口で俺の様子を伺っていたときがあったがもう動く力も俺には無かった。
 
終業式の日、岡部教師から通知表を受け取り一学期が終了した。HR後久しぶりにハルヒに話しかけられた。
「あんたここんとこ毎日ボーっとしてるじゃない?SOS団は年中無休よわかってる!」
「今夜のパーティー絶対に来なさいよ来ないと死刑だからね、あんたに話もあるから」
言いたいことだけ言ってハルヒはさっさと下校してしまった。
いよいよ今日が最後の日か、さよならハルヒ幸せになってくれ俺はピエロで充分だ・・・
家に帰ることもせず部室に向かう俺の私物を引き払うつもりだ。ドアをあけると誰もいないのは好都合
みんなパーティーの準備に向かったのだろう今のうちに片付けてしまおう。
ひとり部室にたたずみ部屋を眺めていた。全てはこの部屋から始まったのだいろいろな事が記憶から甦る。
かなり疲れていたのだろう、そのまま俺は眠ってしまった。
楽しい夢を観た入学式の日の伝説の自己紹介、SOS団結成を思いついた100Wの笑顔、幾度となく続く喧嘩
そしてあの閉鎖空間からの脱出、あの時俺は脱出したいだけであんな行動取ったわけじゃない!
眼が覚めると時間は5時をすぎていた。
 
「ようやく、お目覚めですねあまりにも幸せそうな寝顔なのでしばらく眺めていましたよ」
「おまえなんでこんなとこにいるんだ?今夜はパーティーだろ速くハルヒのとこに行けよ」
「おや?それは僕の台詞ですよ口調は違いますが、まだ寝ぼけているようですね」
「何言ってやがる、だがなハルヒは絶対におまえになんか渡さん、そんな世界作り変えてやる」
確かに寝ぼけていたのか疲れていたのか通常の精神状態ではなかったのは事実だ、酒は飲んでいないが何でこんな台詞言ってしまったんだ俺は、頼む古泉この場で俺を殺してくれ
「これで僕のミッションは完了しました。そろそろ種明かしをしたいのですが」
しばらく俺は口をポカーンとあけて間抜け面をさらしていた。多分気を失っていたと思う
「実はある方から依頼を受けましてね、あなたを追い詰めて正直な気持ちを引き出せと」
「機関ではありませんよそれに近い方と言えばお分かりになるとおもいますが」
俺は先週アイス買出しの日校門前で立ち話をした長い髪の先輩を思い出していた。
「無論涼宮さんは何も知りません、しかし朝比奈さん谷口さん国木田さんはこの計画に賛成してくれました。」
「長門さんはあなたを苦しめることはしたくないと言われましたが何とか納得してもらいましたよ」
「全員グルだってことか?」
「まあそんなところです」
「しかし今から行くのか?制服じゃいけないだろ」
「問題ありません」
ドアが開くと執事の新川さんが入ってきた。なにやら包みを開くとそこにはスーツ一式が入っていた。
「おまえに借りは作りたくないって言ったろ、気持ちは有難いけど」
「逆ですよ「機関」はあなたにたくさんの借りがありますからそれを返しただけです」
「それにそのスーツは涼宮さんがデザインしたんですよオーダーメイド品です」
古泉の話はまわりくどいので俺が説明する。話はこうだあの日俺が帰った翌日ハルヒから相談を受けたらしい
どうにかして俺をパーティーにだせるようにしてくれといろいろ話した結果、まずデザインだと気づいたハルヒは手芸部に突入したが江口部長は不在
たまたま居合わせた副部長の津山さんという女性に頼み込みあれやこれや言いながらデザインを完成させた。
古泉から事情を聞かされた津山さんはハルヒに同情しノリノリで手伝ってくれたそうだ。
そのデザインを古泉が洋品店に持ってゆき先程完成して俺を探したがなかなか見つからず苦労したらしい
「機関」てのはなんでもありかよ
「さあ早く着替えてください車の用意もできてます。時間に遅れると急にバイトが入ってしまいます。」
「ネクタイが無い様だが」
「あんなものは飾りです偉い人にはそれがわからんのです」
「なんだって?」
「いえ冗談です。ネクタイはここに」
古泉はあのデパートの包みを開けるとなかには俺でも知ってるブランド物のネクタイが出てきた
「あのとき僕らをあなたが遠巻きにみてたときに選んだものですよ」
「知っていたのか?」
「すいません朝比奈さんに尾行してもらい行き先を確認して先回りしました」
「大変でしたよ『これはキョンにはあわない』とか、『もっといい品が有るはずよね古泉君』ですって」
「やっと納得したのは一本五万円のブランド物、彼女の手の出る金額ではありません」
「僕が払うといっても『大丈夫よ五日間あるからバイトして買うわ団長として当然よ』言い切り予約してました」
「覚えてますか?彼女が今週毎日すぐに下校してたのを、この暑いのに着グルミ着て子供に風船くばったり・・」
「もういいよ古泉わかったから、それ以上いわないでくれ頼む・・・」
俺はなんてバカなんだアイツは俺の為にそんなことまでしてたのかそれに引き換え俺は情けない
情けなくて涙出てくる
「涼宮さんにとっての主役はあなたです。その演技力は未知数ですが」
「はっきり言う、気にいらんな」
「気休めかもしれませんが、あなたならうまくやれますよ」
「ありがとう信じよう」
俺はジオン・・違った新川さんの運転するハイヤーにのりパーティー会場に向かった。
「古泉おまえはそれでよかったのか?」
「涼宮さんは太陽です。あなたは空、僕は河原に咲くヨルガオで充分です」
「すまない、ありがとう」
「その言葉と彼女の笑顔が僕にとっての一番の報酬ですよ」
 
パーティー会場には時間ギリギリに間に合った。まず主催者(黒幕)のもとに挨拶に向かう、会場は結構広く北高生やその友達、良く見ればうちの妹とミヨキチも来ている
かたや七五三でかたやどこかの令嬢のようなギャップあるが仲の良い親友同士だ
おい!谷口なにミヨキチに近づいてるんだヤメロおまえはしらないだろうがその子は小学生だ犯罪だぞ犯罪
「やっほーキョン君良くきたっさ、良く似合ってるにょろよ」
「鶴屋さん反省しましたからもうあんなことしないでくださいおねがいしますよ」
「ああ あれね大変だったよっ、みくるはキョン君の姿みてかわいそうだからもうやめようって泣き出すし」
「だってこのままじゃキョン君しんじゃいそうだったから心配でしょうがなかったんですよう」
朝比奈さんあなたがそんなにも俺のこと心配してくれていたなんて光栄です。正直たまりません
「コラ!みくるにおイタしちゃだめっさ、今度はもっとすごい罰ゲームをするにょろよ」
スイマセン本当に勘弁してください、あなたには絶対に頭が上がりません
「ハルにゃんならキョン君来るのが遅いからってドレスのまま会場飛び出そうとしたのよ」
「そういえばハルヒをみかけませんが?」
「実はね会場にキョン君来るのが遅いから来たらすぐ屋上に来るように伝言頼まれてるのさ」
恐ろしい決闘じゃあるまいし何故屋上によびだされなきゃならんのだ?
「今日のハルにゃんはとってもきれいにょろよ、キョン君めがっさ驚くよ」
「ありがとうございます、それじゃちょっと屋上にいってきますね」
「あのう、キョン君今夜は涼宮さんにやさしくしてくださいね、おねがいします」
わかりました。あなたの頼みならどんな無茶でもしましょう、もうすこしそのヒラヒラのついたドレス見ていたかったのですが、はやくいかないと古泉に急なバイトが入ってしまうのでこれで失礼します
 
屋上に向かう途中長門をみかけた。いや多分長門だったと思う、窓際に無表情で月を眺める美女を見た。
薄い水色のドレスに身をつつみ控えめなメイクを施されたどこかの国のお姫様を確かにこの眼で見た。
まわりにいた男共数人も見惚れていたのいたのだが間違いないだろう
あとで声をかけてやろう、おしゃれした感想なんかも聞いてみたいしな、さて早く屋上にいかねば
意外な二人にばったり会った。生徒会長と喜緑さんだふたりは腕を組みながら堂々と歩いていた。高校生だよな?
「やあ諸君らも招待されていたのか?まったく鶴屋は何を考えているのだ」
「喜緑君少し席をはずしてくれたまえ、彼と話があるのでね」
「さて、やっと仮面をはずせるぜもっとも最近どっちが仮面かわからねえがな」
「一服つけたいどころだがまさか高校生のパーティーで喫煙はまずいからしょうがねえよ」
正体を現した不良生徒会長は眼鏡をはずしニヤリと笑った。
「この夏が終わればお役御免さ、脳内お花畑女の面倒は頼んだぜ」
「ところで俺は生徒会指名の後継者を今日この場で発表するつもりなんだが古泉を見かけなかったか?」
俺は会場までは一緒にいたがその後はみていないと答えた。なんでも会長最後の仕事はハルヒの立候補を断念させるために古泉を後継候補に指名することらしい。話を終えると会長は喜緑さんを迎えにいった。
はやく屋上に行かないとやばいとおもい急ぎ階段をのぼるとこんどはコンピ研の部長氏に話しかけられた
「ああ君か、長門さん見かけなかった?この場でコンピ研部長就任を発表する予定なのに見当たらない」
さっき窓のところで見ましたよと聞くと部長は足早に去っていった。
やれやれ、やっと屋上に着いたな
 
「遅い、遅い、遅い、罰金よ罰金」
第一声がそれかい!しかし突っ込みも忘れて俺は立ち尽くした。赤いドレスが月明かりに映える
付け髪をした髪型はポニーテール、見たことが無い別のハルヒがそこにいた。
「おまえ本当にハルヒだよな?凄い似合ってるぞ」
「なにいってんのよバカキョン、当たり前じゃないそれより話があるんだけど」
「なんだ今度は洞窟探検か?それともミステリーツアーの場所決まったのか」
「違うわよもっと大事な事あんたあたしのこと・・」
赤面しあさっての方向をむいてハルヒが何事か言いかけたがそれは言わせるわけにはいかない
普通男から女に伝えるものだ
「まってくれ俺も話があるんだハルヒこれからも勉強教えてくれないか?
「こんなスーツやネクタイの似合う男になりたいからと頼むよ」
ハルヒは振り向き100Wの笑顔で答えた。
「しょうがないわね、あんたはあたしがが側にいないとだめだから」
「でも個人教授は厳しいわよ覚悟しなさい」
いつものように胸をはってポーズを決めようとしたハルヒだったが履きなれぬハイヒールのせいかバランスを崩し俺のほうにもたれてきた。俺はハルヒを抱きとめるとそのまま両肩に手をかけ告白した。
「ひとつ伝えておきたい事がある」
「なによ突然、」
「実は俺ポニーテール萌えなんだ。」
「今日のおまえのポニーテールは反則的に似合ってるぞ」
ハルヒは驚いた様だったが何かを思い出したらしく、眼を閉じてあごを僅かに上に向けた
今度は閉鎖空間での夢オチではない正真正銘の本物だ。
二度目のキスをしようとしたそのとき聞き覚えのある歌が三半規管に伝わってきた
「WAWAWAわすれもの~」
屋上のドアを開けた谷口がそこにたっていた。谷口は俺たちの体勢を確認するといつぞやのようにネクタイを締めなおし
「邪魔したな、どうぞごゆっくり!」
と叫び階段を下っていった。ガシャーンと凄い音がした多分階段を踏み外したのだ
ハルヒは顔を真っ赤にして俺を突き飛ばし谷口の口を封じるべくハイヒール脱ぎ捨て階段を下っていった。
結局ハルヒとの距離は延びたのか縮んだのかはわからない、ただこの一週間でどれだけあいつを俺は必要なのかはよくわかった。
「おいハルヒ谷口の口は封じても息の根まで止めるなよ」
俺はハルヒの後を追った。
 
さて余談、会場の庭に小川が流れており河原に白い花が咲いている。月明かりの下背の高い笑顔の青年と小柄な少女のふたりが佇んでいる。
「探しましたよ長門さん、あなたには謝らなければなりませんから」
「どうして」
「辛いお願いをしてしまいました。許してください」
「仕方ない、それに辛いのはあなたも同じ」
「涼宮さんは太陽、そして彼は空そして僕はこの白い花です。」
「この花はヨルガオもしくは夕顔といいまして夜の間だけ咲くことがゆるされる徒花なんですよ」
「使って」
少女はハンカチを青年に差し出しました。
「あれ?ごみでも眼に入ったかな?では長門さん有難くお借りします」
「先程の続きですが、こんな詩をご存知ですか?」
   
ならぬ徒花
ましろに見えて
憂き中垣の夕顔や(咲いたところで実を結ばぬ徒花はことさら美しい)
  
「今のあなたの精神状態を私は理解できる」
「涼宮ハルヒに対するあなたの感情は私の彼に対する感情に極めて類似している」
「彼女が太陽なら私は月、太陽が沈むときだけ空は私をみてくれる」
「古泉一樹。私はあなたに依頼する」
「なんなりと伺いましょう」
 
おっつきさま、おっつきさま、おつきさまがきれいだなキョン君もハルにゃんに会って元気になったし
ミヨキチはキョン君のおともだちとなにかおはなししてるみたい。
つまんないからお庭にでてきちゃった。あっちに白いお花がさいてる
あれ?だれかいるよ有希ちゃんと一樹くんだ、えいがのばめんみたい
ふたりでだきあってるこれってらぶしーん?
あれ有希ちゃん泣いてるみたい、よおくきいたら有希ちゃんの泣き声がきこえるよ
一樹くんが泣かしちゃったのかな?ちがう一樹くん背中をさすってあげてる、なぐさめているんだ
わかった有希ちゃんはかぐや姫なんだ月にかえりたくなくて泣いちゃったんだ
このことはキョン君やハルにゃんにはひみつにしておこう
有希ちゃんが泣いちゃったなんてきいたらキョン君またおちこんじゃうから
おつきさまおねがいです。有希ちゃんも一樹くんもみんなしあわせにしてあげてください