涼宮ハルヒのエイプリルフール (108-158)

Last-modified: 2009-04-02 (木) 23:30:05

概要

作品名作者発表日保管日
涼宮ハルヒのエイプリルフール108-158氏09/04/0109/04/02

作品

「キョン!まだ寝てたの!いい加減起きなさい!」
 
4月1日を迎えた今日、世間じゃまだまだ春休みだってのに、俺は朝の6時からこいつに叩き起こされた。
「なんだ?不思議探索なら土曜日までまだ時間はあるぞ」
「何言ってんのよ!今日が何の日か、あんたわかってて言ってるわけ?」
今日か。
最初に言ったが今日は4月1日だろ?それが何だってんだ。
それを言ってやったら、ハルヒの奴、心底あきれ果てた顔で
「はぁぁぁ~~~~…」
なんて盛大なため息をつきやがった。
ため息つきたいのはこっちだぜ。せっかく春休みに相応しい惰眠をむさぼっていたところなのにな。
「あんた、この日がどんな意味を持っているかわかってて言ってるわけ?」
わかるわけがねえだろうが。お前が何も説明しないんだから。エイプリルフールが何だって言うんだ。
「それよ!1年中でただ一日嘘ついても許される日なの!」
「だから何だよ。ご近所さんたちに嘘ついて回れとでも言うつもりなのか」
「あたしとしたことが、こんな簡単なことを見落としていたなんて失態だわ」
いい加減要領がわかるように説明してくれ。それと出来ればそのまま家に帰ってくれ。
俺は春休みの学生らしく昼まで惰眠をむさぼるつもりなんだからな。
そうしたらいきなりハルヒの奴、俺のパジャマの胸倉引っつかんで、
「あんたそれでもSOS団の一員なの?」
「それとSOS団のどこにつながるのか全くわからんがな」
「いい?あたしたちはこの世の不思議を求めて結成したのよ。今まで思うような成果は上がってなかったけど、
今日のこの日のことを知って、初めて気付いたの」
「何にだ?」
「この嘘をついてもいい日だし、みんな嘘ついて回ってるわ!その嘘に乗じて不思議もやってくるっていうものなのよ!
あたしたちがこの日を見逃してしまったら、もうやってこないかもしれないじゃない!キョン、これは大いなるチャンスなのよ!」
そのために朝の6時に俺を叩き起こしたわけか。
「タイムリミットは今日の正午!本当は0時になってから今までの時間すら惜しかったくらいよ!わかったら今から起きなさい」
「言いたいことはわかったから俺は寝…」
寝ようとして布団を被ろうとして。
瞬間、俺の意識は強制的に覚醒した。
しょうがないだろう。気付けというレベルじゃねえ。
このまま寝てしまったら本当に永遠に寝させられそうだ。そんなオーラをあいつは纏っていたんだからな。
 
で。
俺とハルヒは今、いつもの待ち合わせ場所にいるわけだ。
二人っきりでな。
「で、俺だけか?」
「何よ?」
「他に呼ぶべきメンバーがいるんじゃねえのかよ。古泉とか、長門とか、朝比奈さんとか」
「キョン、あんたの役職は何?」
「雑用係だが?」
「古泉くんは副団長、みくるちゃんは副々団長、有希は文芸部部長なのよ!あんたは平団員!
他に何か言うべき事はある?」
理由になってるのかどうかわからんがこれ以上反論することは、まさに旧日本軍の二等
兵が大将に意見する行為に等しいので、心の中で「やれやれ」とつぶやきつつ、
「お前がそう言うんだったらそうだろうさ」
とだけ言っておいた。
考えれば朝比奈さんにこんな朝早くから起きろなどと言えんし(ハルヒだったら構わず言うんだろうけどな)
長門だったら気にしないでついてきてくれそうではあるがやっぱり一応あいつも女の子なんだし気にせざるを得ない。
古泉はどうでもいい。寧ろ俺がここで行かなければ奴が例のバイトに呼び出されることになるんだろうからな。
「わかったら今日はSOS団特別不思議探索強化版、始めるわよ!さっきも言ったけどリミ
ットは今日の正午!いい?いつもみたいにサボってないでビシッと探しなさい!」
「それはわかったけどどこを探すんだよ?」
「あんた何を聞いてたの?あたしたちに残された時間は少ないのよ!どことかどうとか言
ってる暇あったらちゃきちゃき動く!」
「へいへい」
「返事ははい!そして1回!」
「はいよ」
「何よその気のない返事は!」
逆になんでそんな無駄に気合入れてるんだお前は。
「いくわよ!」
わかったからその手を離してくれ。早朝だし人目が殆どといっていいほどないのが救いだ。
でなければ恥ずかしい。ハルヒの奴はそんな他人の目など全く意に介さないだろうがな。
 
で。
俺たちがいつもの待ち合わせ場所に着いたのは、ハルヒに叩き起こされてからわずか1時間後、つまり早朝7時、だ。
こんな時間に開いている店なんて、24時間営業のコンビニとかファミレスくらいのもんだろう。
外に出ている人間なんてのも、夜勤帰りのお兄さんか早朝出勤のサラリーマンくらいのものだ。
「そのくらいのほうが不思議も安心して出てこれるってものなのよ」
そんなハルヒ的理論で、やっぱりどう見ても当てずっぽうに探して回ってるだけに過ぎないのは気のせいなんだろうな。
いや、そこは突っ込んじゃいけないところなんだろう。
 
そんなこんなで、結局何も見つからないまま、時刻は朝の8時過ぎ。
普通の会社勤めのサラリーマンとか部活の学生とかがぞろぞろと出勤、登校のお時間だ。
まぁ、俺たちも一応「SOS団」という名の部活動をしているのだから、これも部活と考えて間違いないんだろうけど、
それは人によって意見の分かれるところだろうから多くは言わないで置こう。
やってることはいつもの不思議探索と何ら変わりない。
しかし、こうも朝早くからの景色を見ていると、何となく新鮮な気分になってくると言うものさ。
だけど、あれだけ色々やってまだ街に出て1時間程度かよ。いい加減疲れてきたぞ。
「何よ、キョン?休んでいる暇なんてないのよ!タイムリミットまであと4時間しかないんだからね!」
汗一つかいてないこいつが忌々しい。ああ忌々しい。
「なあハルヒ」
「何よ?」
「お前の意気込みも結構だが、いい加減そろそろ一服しないか?朝から何にも食ってねえ
んだ。こんなんじゃ見つけたくても不思議なんて見つかりゃしねえぞ」
「だから午前中しか時間が…まぁいいわ。せっかくあんたが乗り気になろうとしてるのに、
あたしがそれを挫くのも悪いから。じゃ、いつもの喫茶店行きましょ。ただし。モーニング食べたらすぐ行くわよ!」
 
「どうやらお前が期待しているほど、街は嘘にまみれていないようだな」
「何言ってるのよ?人が殆どいない今の時間帯なら嘘もつきようがないじゃないの?」
…だったらこんな朝も早くから人を叩き起こす必要などなかったんじゃないのか、なんて
文句は今更なので言わないことにしよう。ていうか、こいつの不思議基準なんてこの長い
付き合いでも未だにわからずじまいだしな。
「そうよね。こんな時だからこそ、地球人の嘘に乗って宇宙人とか何か不思議な得体の知れないものに出会えると思っていたんだけど、
ここまで人が増えてきたら逆にわからなくなりかねないわ」
そんなもんに乗ってやってくるような単純な連中なら普段の不思議探索でとっくの昔に見つけちまってるはずだろうさ。
何せ現実にお前のすぐ近くに存在しちまっているんだからな。そんな連中は。
そんな事をハルヒの目の前で言うわけには行かないけどな。やれやれ。
今こうやってお冷のお代わり持ってきたあの生徒会書記だってその一員なんだからな。
ああ、今これを口にしてもあいつにはエイプリルフールとしか取られないんだろうさ。
 
「じゃ、朝ごはん食べたわね。行くわよ!」
「ちょっと待て。食ったばかりですぐ動くのは体に悪いんだぞ。もう少し休んでいかないか?」
「何言ってんのよ!あんたがグダグダやってるからもう時間はあんまり残ってないってのに…
ん、まぁいいわ。あんたの頭がまともに動く状態になったらいつでも言いなさい。ただし、こっからはあんた持ちだからね!」
へいへい、何を今更。おかげで大分時間を潰すことも出来たし、こいつもそろそろ飽きてくるだろうよ。
 
なんて考えてた俺が甘かった。
「じゃもう落ち着いたわね。エイプリルフールももう後半戦!これからは今まで以上に気を引き締めてかからなきゃいけないの!
ただでさえ時間食ってるんだから、あんたもビシッと探しなさい!」
ああ、こいつはそういう奴だったな。しかしビシッと探すつったって、二人でくっついてるより、手分けした方がよくないか?
「あたしが見てないと、あんたどっかでサボるでしょ!今日は古泉くんも有希もみくるちゃんもいないんだから!」
じゃあいつらも呼べよ。れっきとしたSOS団の活動なんだろう?そろそろあいつらだって起きてる頃だろうしな。
「今日はあんたの強化訓練もかねてるの!いい?今のままじゃいつまで経っても平団員から昇格できないんだからね!」
そんないかにも「今思いつきました」みたいな理屈付けられてもな。
てか、明確な格付けなんざ、団長たるお前以外に意味なんてないだろうが。
昇格なんぞ望んじゃいないが、果たしてこいつにその意思があるのかすら怪しい。
まぁそんなわけで。
あいつの言う「後半戦」もずっと二人で街の中を回ることになったわけだ。
 
後半戦は店も通常の営みを見せ始めていて。
普段は決して見ることがなかったあちらこちらの店の開店直後の状況とか、まぁ新鮮な
発見と言うのもなかったわけじゃない。
あいつが望む不思議とはかけ離れた発見ではあったけどな。
ハルヒなんざ、途中開店直後のガラガラのゲームセンターに入り込んで、
「いつもはこんなこと出来ないからね」
って連コインプレイまでしてたくらいだぞ。
で、何だかんだでもう11時。
「…何か朝早いと、まだ11時って感じがしないでもないけどな」
「あと1時間しかリミットはないのに、全然見つからないなんてー!エイプリルフールの
嘘にまぎれて本当に不思議が舞い込んでくるものと期待していたのに!」
落ち着けハルヒ。結局やってることはいつも通りじゃねえか。
これまで数時間探し回ってそれでも見つからなかったんだ。諦めてもう帰ろう。てか眠いし。
「それこそ何眠たいこと言ってるのよ!こうなったら意地よ!最後の1分まで付き合いなさい!キョン!」
やれやれだ。そしてこの台詞はそっくりそのまま俺に返してくれ。何だかんだで結局付き合ってるんだからな。
 
「やあ、キョンと涼宮さんじゃないか」
この不思議探しの最後になって、やっと見つけた。てか出てきた不思議と言うか、思わぬ人物。
「随分久しぶりのような気がするが、君達も朝から熱心だね。世間は春休みだと言うのに。
いや、中身のない惰眠をむさぼっているよりははるかに建設的な行為、と形容するべきかな」
それは俺に対しての当てこすりか佐々木。俺だって本当は中身のない惰眠をむさぼっていたかったさ。
「いや、気を悪くしたのならすまない、キョン。僕も本当はそんな行為を久しぶりに楽しめていたところなのだからね」
「佐々木さんは確か、進学校だったっけ?」
「そうなんだよ涼宮さん。今日は数少ない完全休暇、という奴さ。久しぶりに街に買い物にでも、
と思って出てきたらそこに見知った顔がいた。僕がこうしている理由なんてそんなものなんだよ」
ヒマなんだったら、丁度絶好の暇つぶしがあるぞ。ハルヒに振り回されるのは業腹だろうが、
俺なんかよりずっと役に立つだろうし、付き合わないか?
「遠慮しておくよ。今の状況を鑑みるに、僕はどう見ても『邪魔者』だからね。馬に蹴られて死んでしまうには、
僕はまだ自分の人生にそれなりに執着はあるんだよ、キョン」
「そうよ!佐々木さんには悪いけど、これはれっきとしたSOS団の活動中なんだから。ありがたい申し出だけど、
部外者を巻き込むわけにはいかないの。じゃ、佐々木さん、また今度」
「ああ、その時はよろしく頼むよ、涼宮さん」
ってちょっと待て。そこで何故俺の袖を引っつかんで行くんだ。やめろ服が伸びる。わかったから人を引きずって歩くのはやめなさい。
 
「結局、見つからなかったわね」
「ああ。思わぬ闖入者はいたけどな」
「そりゃ同じ街に住んでるんだもの。知り合いの一人や二人会わないほうが不思議なくらいよ」
「よかったじゃねえか、不思議が見つかって」
「そんな次元の不思議じゃないわよ!…そうね、不思議といえばあんたの態度よ」
「何だよ、俺のどこが不思議だというんだ」
そうしたらいきなりハルヒの奴、俺の顔をじー、と見つめて、ってか睨んできやがった。
「あんたって、色々な意味でマヌケよね」
「は、何だそりゃ。いくらなんでも…」
と、言い返そうとしたところで、ハルヒの奴、あらぬほうへ指を差した。
あれを見ろ、という意味なんだろう。俺もその方向へと視線を泳がせる。
 
時刻は12:00。
 
「…嘘よ」
「は?」
「これはあたしが一部始終仕込んだあんたへの大掛かりな嘘だったの。途中から気付いてくれるって思ってたんだけど、
結局最後まで付き合ってくれたわね」
なんだそりゃ。
てか、何か。俺を朝の6時から叩き起こしたのも、
他のメンバーを一切呼ばなかったのも、
佐々木の協力を拒んだのも。
全部このときのための仕込だった、ってことか?
「言ったでしょ?今日はエイプリルフールだって」
…言葉も出てこねえ。
つまり、不思議探索自体がエイプリルフールのネタだった、ということか。
「佐々木さんに出てこられた時は肝を冷やしたわよ。彼女、その手のネタに詳しそうだったし。
ちょっと考えればわかりそうなものではあったけどね」
いや、多分あいつは別の解釈をしていたと思うぞ。
「別の解釈、って何のよ」
言えばお前はきっと怒る。
「言わなきゃ怒るわよ」
どっちなんだ。まぁ、俺もうすうす騙されていた、とは思っていたんだけども。
それでも怒りとかそんな感情が一切浮かんでこなかったのは。
「なんだかんだで、楽しかったぜ」
これは嘘偽りのない心境って奴だ。エイプリルフールは午前中。つまり12時を回った今、これは嘘でもなんでもないって奴だな。
「ふ、ふん!まぁ騙されるのを楽しめるだけでもキョンも大人になった、って言うことなのかしらね!」
失礼な。俺は十分に大人だ。と思う。多分。そこで赤くなりながら言ってるお前の方がずっとガキっぽいぞ。
「あ、赤くなんてなってないわよ!ってことで、今日はこれで解散ね!朝早くから起こしてしまったのは謝るわ!土曜日遅刻するんじゃないわよ!」
遅刻なんてしたことないんだがな。いつも来るのが一番遅いってだけだ。
てか、それだけで終わらせるには、まだ俺の気が済まない。
「ハルヒ」
「何よ?」
「昼飯でも食いに行かないか?」
「…あんたが言い出したんだから、当然あんた持ちよね?」
エイプリルフールは終わったけども、まだ今日という一日は前半を終えたばかりだ。
さて、どんなネタであいつに一矢報いてやろうかね。