涼宮ハルヒの七変化/涼宮ハルヒの七変化2

Last-modified: 2007-01-25 (木) 02:22:08

概要

作品名作者発表日保管日(初)
涼宮ハルヒの七変化215-817氏06/08/2406/09/08

作品

んで、火曜日。

 

前日のネトラレハルヒにすっかり勢力を消耗した俺は、遂に妹コントロールによるスカッド空爆に耐えぬいた。
母親が階下から叫んでいるが、耳に入ってもその先が無限回廊で脳内にまで侵入して来ない。
もうそのまま永遠の世界へと旅立とうとしていたのだが──────

 

「お────い、起きろ────!」

 

何だこの聞き覚えの有るウザい声は。

 

「起きなさ────いこら────!!」

 

まるで真夏の太陽光線の様な声が脳内に差し込んでくる。

 

「お────きんかバカキョーン!!!」

 

超覚醒!ハルヒ!?ハルヒか!?驚きの余り目やにで封印された瞼をムリヤリ開放した瞬間、
ハルヒ「とりゃっ」
あ゛も゛ッ?
必殺ハルヒ流コロニー落とし炸裂。別の意味で眠らせる気かコイツは!?

 

ハルヒ「ほらとっとと起きる!あーもーキタナイ顔して!顔洗ってきなさい!!」
遂に俺の自宅侵入まで果たしたお楽しみ日替わりハルヒ。何だ今日は?幼馴染キャラか!?
髪型もいつもと違う。ポニーテールだ。ただちょっと失敗したのか位置が歪んでいる。
ハルヒ「ほら学校遅刻するよ!?ちゃんと着替えて食パン齧って、んもうネクタイ曲がってる!!」
妹  「わーいハルにゃーん♪おはよー」
あああ朝からうるさいぞお前ら。分かった分かった。五分で用意して家を出る。もちろん食パンを咥えさせられて。
つかハルヒ、何時もより10分位早いぞ?何企んでる?
ハルヒ「何言ってるの、早く行きましょ学校に!!」

 
 

ふう。走ったおかげでむちゃくちゃ早く学校に着いたぞ。汗だくだ。
ハルヒ「ったく。ホラタオル!ちゃんと拭いとかないと風邪ひくわよ!ほらほらぁ」
俺にタオルを手渡し、なおかつ自分もタオルを出して俺の汗を拭く。 ………正直ハルヒ、何か気味悪いぞ。
ハルヒ「何言ってんのよいつもの事じゃない、あたしのお兄ちゃんなんだから!」

 

へいへい。         ……は?

 

ハルヒ「今日も頑張りましょ、お兄ちゃん!」

 
 

永遠に輝く大尺花火の様な笑顔が俺の眼前で炸裂する。
腕に抱きついてきた。おい、胸当たってるぞ胸。ほお擦りずるなほお擦り。
ハルヒ「んふふ~ん、お兄ちゃん♪」

 

ぺきーん!やりました俺の心を形作る大理石の宮殿の何処かにヒビが入りましたー!

 

……あの、涼宮ハルヒのお兄ちゃんは何を頑張ればいいんでしょう?

 
 

最初から気付くべきだった。
よく見ればハルヒの失敗ポニーテールは失敗ではない。結ぶ箇所が我が妹(本物)と同じなのだ。
ただ元の髪の長さが違うのでポニーテールに見えたのだ。まあそれでもポニーテールには短すぎだが。

 

で、授業中。黒板をひたすら写すしかない数学の授業中。
俺の机の下を何かが走った。何だ?白さと大きさからして消しゴムだと思うが。と、背中を突付く感触。
ハルヒ「お兄ちゃん、消しゴム頂戴、無くしちゃった……」
ああ、もしやさっきのはお前のか?しょうがない。おい瀬能?すまんがお前の足元辺りに────
ハルヒ「やだ!お兄ちゃんの消しゴム頂戴?」

 

上目遣いでまるで捨てられた雑種の子犬の拾ってくださいオーラの如き視線を放つハルヒ。
すまんがな、俺の消しゴムも有限だ。マヨヒガのおにぎりじゃ無いんだぜ?
ハルヒ「むぅ~────────……」
子犬オーラにアヒル口と涙目が合成された。何だこのニュージーランドの河川に居そうな珍生物は?

 

しゃーない、貸してやる。  ………だがその前に、ちゃんと返せよ?
ハルヒ「何で返さなきゃいけないの?」
当たり前だ!全くこういうところは演技しない。しょうがないので下敷きで消しゴムを切って半分渡す。
ハルヒ「わ~いお兄ちゃんとお揃い!使わないで取っとこうかな~?フフフッ」
……既に目的がズレてるぞ。勝手にしろ。
ハルヒ「え?お兄ちゃんも使わないでよぅ!」
何でだよ。

 

見ると豊原や阪中が必死で笑いを堪えている。
笑ってないで止めてくれ。ブリブリハルヒを止めてくれ。

 
 

そして昼休み。見ると谷口が弁当を持ってきてない。

 

谷口 「どうせお前今日はハルヒ弁当だろ?お前の母ちゃんの弁当旨いんだよなー」
人んちの弁当アテにするなこの欠食児童。ま、とりあえず持ってきてる俺も何だが。
ハルヒ「お兄ちゃーん、一緒にゴハン食べましょ~!」
おう来たか来たか。で?今日の俺の弁当は何処だ?
ハルヒ「え?何言ってんの?今朝作ったやつ持ってるでしょ?」
この弁当の事か?いやコレは俺の母親が作ったものだぞ?で多分谷口の午後の活力になる予定だぞ?
ハルヒ「ひど~い!今朝早起きしてお母さんと一緒に作ったのにー!いじわる!」
……────今朝家に居たのはソレが理由か!?
ハルヒ「そうよ?ほら早くッ、中庭のいい場所無くなっちゃうゾ!」
口調がブリブリなのに行動が何時も通りなハルヒに俺は襟首を掴まれ、中庭へと引きずられていった。
すまん谷口。無慈悲なハルヒを許してくれ。

 

その後、予想通りハルヒはブリブリっぷりを発揮してくれた。
誰しも一度は幻視するであろうあの『はい、あ~ん♪』を俺にかましてくれたのだ。ハルヒが。
更に弁当の中身はフリカケでご飯にハートマーク、ハンバーグまでハートに型抜きされている。

 

そして食後、ハルヒの頬っぺたにあからさまな米粒が一つ。…────ふーん?
ハルヒ「────ねえお兄ちゃん、何か私付いてない?」
コレは何かハルヒ、俺に昨日お前が森さん相手にやってたのを俺にやれってか?ほおう?
────無造作に指先で米粒を摘んで取ると、ピンと後ろの草群に弾き飛ばしてやる。
ハルヒ「あ゛────────!!!?何それー!!」
そう言うと仕舞ったばかりの自分の弁当をささっと開き、弁当箱のスミに整列している米粒を一つ頬に付けると、
ハルヒ「はい、もう一回やり直しっ!!」

 

ぺきぴきーん!俺の心を形作る大理石の宮殿の床に亀裂が入りましたー!
もう勘弁してください。

 

教室に帰ると、谷口が居なくなっていた。
国木田「……───さっき、泣きながら食堂の方に走ってったよ」
そうか。急がねばこの時間ではろくなモノが残ってないからな。悪かった谷口。
国木田「…キョン、それちょっと鈍感……」

 
 

さて放課後、の前に体育の授業の帰り、靴箱を開けるとメモが一つ入っていた。

 

『放課後、屋上に出る階段の踊り場に来てください  ハルヒ』

 

何ですか──?遂に妹が兄に禁断の愛の告白ですか───?
つか俺の場合、靴箱に手紙入れられると殺人予告か未知との遭遇としか取れないんですが、実際。
とことん王道でブリまくるなハルヒ。分かった。お前の告白聞いてやる。それで本日のサプライズ終了!
つかな、ヤバイんだよハルヒ。俺一応リアルに妹居るんだから。
お前のせいでリアル妹が妙齢のお年頃に成長した時、ヘンな気起こして間違いがあったらどうする?

 

踊り場の石膏ブルータスの前でハルヒが待っていた。
さあバッチ来い。お前の妄想全部受け止めてやる。ソレで今日はオシマイだ。ビバ日常!!
ハルヒ「お兄ちゃん………」
何だ、ハルヒ?
ハルヒ「実は、お兄ちゃんに、言わなきゃいけない事が……」
何だ、言ってみろ。
ハルヒ「実は………」
早く言えって。
ハルヒ「実は、私お兄ちゃんの本当の妹じゃないの……」
成る程その設定の方が健全でよろしい。五十歩百歩だが。

 

ハルヒ「実は私、この世界とは全く別の、魔法の世界から来たお姫様なの!」

 

あら?

 
 

ハルヒ「お願いお兄ちゃん、力を貸して!凶悪なカラクリ暗黒魔女、ミクルーを倒す為に!」

 

俺の心の宮殿が崩壊すると思いきや、何か謎の放射能怪獣に踏み潰されました。
と、屋上への扉が勢いよく開き、其処には────

 

古泉 「ハルヒ姫お早く!もう持ちません!!」
長門 「その男が我らに力を貸してくれるのか否か、早急に回答を頂きたい」
もうもうと煙に覆われる屋上。周辺に散らばる機械の破片や鉄くず。その中に、
妙にカッコつけた姿勢で背中を向ける古泉と、何故かお座りして同じく背中を向ける長門と、

 
 

みくる「わ、わわたしはカラクリ暗黒魔女のミクルーです!この世界を占領する為に侵略しに来ました!」
   「はわわっおおとなしく降伏すれば命だけはたすけェてやります!うひー」
謎の超巨大パワードスーツに乗り込んだ朝比奈さんが立っていた。

 
 
 

え────────────────────!!!!??

 
 
 

ハルヒ「HARUHI SUZUMIYA メークアーップ!!」
大音量とレーザー光線と共にハルヒの制服がパージされ、けったいな衣装へと様変わりする。
あの、新川さんと田丸ご兄弟、できればあまり視界に入らないよう特殊効果をお願いします。

 

ハルヒが妙な長口上を述べている間に俺は古泉を捕まえる。何なんだ今回は!!?
古泉 「見た通り妹系魔法少女ですよ。ソレ以外の何に見えるんですか?」
確かにソレ以外には見えん。だが昨日の森さんに続き新川さんと田丸兄弟まで巻き込むのかよハルヒのわがままに。
古泉 「いえ、森さんの件を発表した所彼ら三人からも何かしたいと希望が有りまして。特撮大好きみたいですね」
………何でノリノリなんだよお前の組織は。悲しくなってくるぞ。

 

で、お前の役は何だ?
古泉 「魔法の国の美少年摂政『イツキ』だそうです。お姫様を影から支えるお目付け役です」
で、長門?お前は何でお座りなんだ?しかもバニーの耳まで着けて。
長門 「私は、マスコットの小動物『ユキ』。涼宮ハルヒの人間界でのお伴。例えるならキュベレイのファンネルに該当」
…………ちょっと違うと思うぞ?
長門 「………そう」
誰だウソ教えたのは。こら古泉目を逸らすな目を。

 

で、朝比奈さんは悪役か。また何つうミスキャストだ。
古泉 「ソレなんですが、少々問題が発生しましてね───」
何だ?またカマドウマとか雪の洋館とか犬限定浮遊霊の親戚じゃ無かろうな?
長門 「そう」
………マジか?
古泉 「実は、あの朝比奈さんはちゃんとした衣装を着て戴いてるはずだったんですよ」
   「それが先程、スタンバイ終了した直後から巨大化し始めまして────」
長門 「恐らく干渉してきているのは、あの雪山の時と同じ存在」
広域宇宙的存在、ってヤツか?
長門 「そう。今回私の能力は制限されていないものの、この建造物の屋上付近は彼らの影響下にある」

 

ハルヒ「ミクルー覚悟ーっ!!」
みくる(ミクルー)「うみゃあああああああああああああああ!?」
朝比奈さんの着ているのは、どう見ても妙な技術で製造されたパワードスーツにしか見えない。
高さは朝比奈さんの頭までで5mを超えているだろう。ソレがどっすんばったん暴れている。
ハルヒが何処からか取り出したオモチャ刀を改造したステッキを振りかざすと、ミクルーから火花が飛び散る。

 

古泉 「……やっぱり」
何がだ古泉。
古泉 「アレは我々の仕込みでは有りません。すなわち、広域宇宙的存在の仕業でしょう」
長門 「広域宇宙的存在のこれまでの干渉の具合から予測するに、彼らにこの遊戯の妨害の意図は無い」
   「むしろ積極的にこの遊戯を扇情的に煽っていると思われる」
………つまり?

 

長門 「彼らもノリノリ」
うわあい。

 

みくる(ミクルー)「ひああ……し、しねー、必殺ディバウアーほーるぅ!?」
ハルヒの前に、妙な黒い回転体が出現した。ハルヒの体が引っ張られる。
長門 「まずい」
ん?あれ演出じゃないのか?
長門 「涼宮ハルヒに対して時空間転移の為にワームホールが開かれようとしている」
古泉 「ドサクサに紛れて、という事ですか?」
長門 「そう。非常に危険。頼む」
え、俺?
古泉 「天下無敵のお姫様ですよ?でも、その力の鍵となるのは貴方なんですから。さ、早く」

 

ハルヒ「え?ちょ、キョじゃなかったお兄ちゃん!?」
あーもーハルヒー。いいかー、お前に秘められた力は無限だー。自分の力を信じて解き放てー。
ハルヒ「ええ?う、うんわかった」
後ろからハルヒの右手を握る。ハルヒが構える。ええい何処の三流ラノベのクライマックスだオイ。
ハルヒ「消えろ────!!」
ハルヒの号令と共に、目の前の回転体は急速に縮小し、最後にカンシャク玉みたいな音を立てて消え去った。

 

ハルヒ「さあ………行くわよミクルー、覚悟しなさいッ!!」
みくる(ミクルー)「ひいっ」
ハルヒ「さあユキ、カモン!!」
長門(ユキ)「了解」
長門がハルヒの脇に走り寄り、左手を掴む。でもやっぱりおすわりの姿勢。パンツ見えるぞ長門。
ハルヒ「必殺!ユキ・レインショット!!」
ハルヒが長門を思い切り宙に放り投げる。高い空中で長門がくるくる回りだすと光を放ち始め────
────────光の雨が屋上に降り注ぐ!そしてそこに現れたのは、ちっちゃい長門がいっぱい。

 

え────────────!!!?

 

ミニミニ30cmの長門の群れは、ミクルーの体に這い上がって朝比奈さんの頭に辿り着き、
みんなでぽこぽこ殴るとまた光の雨に戻り、空中で合体すると元の長門になって着地した。
訂正する。長門やっぱりお前はファンネルだ。

 

ハルヒ「いくわよ………最終奥義!!!!」
さあ何が出るのだハル姫様。レーザーとか単分子ワイヤーとかミサイルとかブラックホールは無しだぜ?
ハルヒ「はあああああああああ……」
何か何処かで見たことのある姿勢で両手を腰に構えて踏ん張ってるハルヒ。まさか……!

 
 

ハルヒ「真空!ハルヒ拳────!!!」
やっぱりパクリですありがとうございました────!!!!!

 
 

みくる(ミクルー)「にゃう────────んん!!!??」
屋上を横に貫く光の柱と共に、朝比奈さんの体を覆っていた謎パワードスーツは吹っ飛んでいった。
後には、バニーガール姿で目を回した朝比奈さんがぽてふと倒れた。つか元はバニーだったのかよ。

 
 

もうもうと立ち込める煙の中、たちつくすハルヒ姫。
ふらりと倒れそうになる所を俺が受け止める。大丈夫か、ハルヒ?
ハルヒ「お兄ちゃん、やったよ……私やった……」
おおやった。やりすぎたな。もうそろそろで職員室から強制査察団が屋上へ派遣されてくるぞ。
ハルヒ「お兄ちゃん……ごほうびちょうだい……あたしに、キス………」

 

そう来ましたか。
まあいい、今日ここまでやったごほうびだ、キスの一つや二つくれてやる。ただしもう二度とするなよ。

 
 

ほれ、顔上げろ。

 

ハルヒ「ん…………」

 
 
 
 

こんな訳で、妹系ブリブリハルヒ改め少年漫画風魔法少女大作戦は秘密裏に終了した。
このすぐ後警察も交えた高校教師SAT部隊が屋上に乱入したので、面倒を避ける為屋上から逃亡したのだ。
新川さんや田丸御兄弟の煙幕と妨害工作により脱出は滞り無く成功した。ご苦労様です。
全く今回のハルヒはタチが悪い。一つ説教でもと叱っていたら、新川さん達に止められた。
古泉 「感謝してるんですよ、楽しませてもらったってね」
成る程、皆さん三人そろっていい笑顔といい汗をかいてらっしゃる。
         ……………古泉、どうも俺は秘密結社についての認識を改めねばならんようだ……
古泉 「何故です?」
もうええわいこのマニアック軍団。晴海で本でも売っとれ。

 

ハルヒは大成功の作戦に上機嫌。大して朝比奈さんはふらふらのクラゲ状態。
今日の敢闘賞は、実は彼女かもしれない。お大事に。
ハルヒ「じゃあまた明日ね、お兄ちゃん!!」

 

まだ続いてたのかよ。じゃあな。

 
 
 

翌日、ついに最終日。
これで最後と気を抜いていた俺を、悪夢が襲った。勘弁してくれ。

 
 

 

さてさて。

 

ハルヒが妙な変化術を使い始めて本日で七日目。これで最終日な訳だ。
何でそんな事が分かるのか?実は、1日目に密かにSOS団長専用PCを昼休みにチェックしたのだ。
お気に入りにハルヒが登録したらしいサイトがある。何処かのオタク用語の説明をしたブログ。

 

『萌え属性について語る俺様!!』

 

誰だコイツ。そう思いながら読んでいくと、次々と属性の説明が現れる。
『ツンデレ』
『素直クール』
『和服お嬢様』
『ゴスロリ』
『電波』
『ネトラレ』
『妹』
『魔法少女』

 

……………まあ何というか、その日は各属性の説明を流し読みしていたのだが、6日目にやっと気付いた。ニブイぞ俺。
ハルヒめ、これをそのまんまトレースしてやがる。そうかそうだったか。ハハハ。
1日目の女王様だけは違ってるが。まあツンデレはいつもの事だし。
────だが、それらの羅列の最後に説明が載っていない単語が一つ。
『ヤンデレ』

 

なんじゃこら。ヤンヤンしてデレデレ?そのまんまじゃねえか?その時はそう思った訳だ。
その後一週間ハルヒの隙をみてそのブログをチェックしていたが、更新する事は無かった。
思えばそこからググるとか山根に聞くとか、俺が長門並みの知識欲をもって行動できればよかったのだが────
まあ、後悔の女神涼宮ハルヒは先に立ってくれない訳で。

 
 
 

7日目は何故か、妹反物質砲によるインドリーム俺星系消失が行われる直前に目を覚ました。
「あー、キョンくんもうおきてるぅー」等と残念がり何度も特攻してくる妹を回避し、俺は学校に向かう。
さすがに今日まで家にハルヒは居なかった。外は快晴、静かな水曜日。うむ、いいこと有りそうだ。
まあ、コレは鉄血の暴風雨の前のクリスマスの如き静けさであった訳でして。

 

通学路をえっちらおっちら汗かいて登校しせっかくの朝のさわやかな気分を心ならず胡散霧消していると、
鶴屋 「おー、キョン君おはよっぴー」
見慣れた長髪のサワヤカサン上級生が視界に飛び込んできた。朝から元気ですね~鶴屋さん?
つか鶴屋さん徒歩通学なんですか?てっきり漆黒のリムジンにお付に囲まれて登校てイメージだったんですが。
鶴屋 「いやーそんな妙な所にはおやじさん無駄金使わないっさ。学生は歩く歩くそれが元気の素だねっ!」
カラカラと笑顔を振りまく鶴屋さん。ハルヒが赤いハイビスカスならこの人は初夏の輝く新緑だな。

 

鶴屋 「はっはっはウマい事言うね~!何かい?あたしのおデコにでも興味でもあるのかい?」
俺の顔を覗き込む小悪魔鶴屋さん。初めて見る顔。おおっと俺のココロのコンパスが────────!!?

 

鶴屋 「それとも髪?地位?財産?その辺含めてねるねるねるねでも食べながら話し合おうかいふぇっふぇっふぇっふぇ」
OKグッジョブ磁気嵐は過ぎ去ったぜ。つか鶴屋さん貴方もねるラーですか。
鶴屋 「ま、また今度みくとか長門っちやはるにゃんと一緒にね!ほいじゃ!」
元気に走り去っていく鶴屋さん。ホントに本心が読めない人だ………

 

それから5分余り、ゆっくりハイキングを楽しみながら校門に辿り着いた俺が見たものは、

 
 
 

ブレーキ跡と血溜まりの中に倒れる、鶴屋さんの姿だった。

 

担任の岡部が、今朝起こった事故について後ほど通達があると説明した。
結構校内でも人気があったのだろう、谷口と山根が揃ってNoooooo!!とアメコミ風嘆きの雄叫びを上げている。

 
 

二種類の赤色灯車両が校門前に停まり、ぐったりした鶴屋さんを乗せて過ぎ去っていく。
数分前親しく話していた上級生が、まるでモノの様に力無く転がっているのを、俺はこの目で見た。

 

ハルヒ「キョン………」
はっと声に気付き振り返る。ハルヒが青い顔をして俺を見ていた。
ハルヒ「キョンは、見たの………?鶴屋さんの…………」
不安げに俺を見つめる。浮かぶ表情は───心配だろうか。そんなに俺は凄い顔をしていたか。
ハルヒを安心させる為、頭を撫でて大丈夫だと連呼する。そう大丈夫、大丈夫、大丈夫────……

 

力なく薄目を明ける鶴屋さんの顔が、授業中もフラッシュバックした。

 
 

谷口 「一応、命はあるが予断を許さないって────何つうか、参ったぜ……」
机に突っ伏す谷口。お前、確かあまり鶴屋さんに接点無かったよな?其処まで入れ込んでたのか?
谷口 「お前、かなりお気に入りだったアイドルが自分の目の前で大怪我負うの見て、平常心で居られるのか?」
ぐったりと動かない谷口。国木田と一緒に慰める。廊下では山根が雄叫びを上げながら走っていった。
谷口 「………すまん、ちょっと顔洗ってくるわ」
ふらりと立ち上がる谷口。付き添おうとするが、「いいって!」と一喝、断られた。脚を引きずって教室を出て行く。
国木田「ごめんキョン、俺ちょっと様子見てくるよ」
走って出て行く国木田。    …………谷口、国木田が女だったら良かったのにな……

 

手持ち無沙汰になり、窓辺の自分の席に座る。例によってハルヒは居ない。
俺も混乱していたが、大分落ち着いてきた。まあそれよりも────────考えるべきことがある。
山の上の中学校の校門前、しかも登校時間。轢き逃げをするにはあまりにもリスキーな時と場所。
なのに犯人は未だ捕まっていない。警察も30分少々で引き上げてしまった。
……────疑わしい。『機関』絡みか?古泉に確認する必要がある。
阪中さんが不安げな表情で俺に目線を飛ばす。大丈夫、と念を込めて頷き返す。

 

その時。外から女子生徒の悲鳴。一瞬考えた後、ついさっき考えていた事と繋がって、体が動いた。
便所の方に皆の視線が向く。男子便所の前で、

 
 

谷口と国木田が血を吐いて倒れていた。

 

再びやってくる警察と救急車。授業は一時中断し、谷口と国木田は運ばれていった。
救急車まで付き添って見送る。毒物による急性中毒が何とかと救急隊員が喋っていた。
ハルヒは俺の横で、珍しく静かに見送っている。そうだろう、結構こいつも堪えたハズだ。
救急車が校門から出て行った後、古泉に電話をかける。────……出ない。
何か妙な事態でも起こってるのか?ならば直接クラスに行ってみるか?いや────────
長門だ。長門なら古泉に頼らずとも事態の説明をしてくれるだろう。あまつさえ事態打開の導きも……
駄目だ。これ以上長門に頼らない。迷惑を掛けないと誓ったハズだ。
では────────────……?

 

みくる「キョン君……」
教室への帰り際、階段で朝比奈さんに出会った。……そうか、鶴屋さんがあんな事になって、不安でたまらなかったのだろう。
教室に帰る道筋から離れ、階段の踊り場に朝比奈さんを連れ込む。
朝比奈さんは不安と悲しみの表情を────────瞳に抱えてはいなかった。
代わりに抱えて居たのは────……恐れ?恐怖?

 

みくる「キョン君……未来から通信が有って……涼宮さんが、大変な事に」
大変な事?ハルヒならいつも大変でしょうに、一体何を?何が起こってるんです!?
みくる「禁則事項です!早く教室に行って、涼宮さんを押さえてください!でないと……早く!!」
朝比奈さんに促され、教室に急ぐ。何だってんだ!?一体何事だ!?今度は一体何をしたハルヒ!!?
2段飛ばしで降りていく階段。兎に角、今はハルヒを。

 

教室がまた騒がしくなっていた。岡部が叫ぶ。
岡部 「お前何処行ってた!?大変な事になってる、早く席に着け!俺は職員室に行ってくる!」
まさか。
扉を開ける。

 

ハルヒは居ない。その代わりに、
教室の中央でプラトーン状態の山根と、

 
 

泡を吹いて横たわる坂中さんが居た。

 
 

全身に走る戦慄と、一瞬の安堵感。────俺の心の中に潜む外道さを嘲笑うように、
『────ひゃあああん────』
窓の外を聞き覚えのある悲鳴が走った。

 
 
 

鈍い音。窓辺の男子が下を見て、一瞬後悲鳴を上げる。駆け寄る俺。窓の下、見覚えのある栗色の髪。

 

朝比奈さんが血まみれでうつ伏せに倒れていた。

 

なぜそこから視線を動かしたのか分からない。朝比奈さんのはるか向う、校庭の端の木陰に女生徒の人影。
なぜその距離で分かったのだろう。間違いない。

 

ハルヒが、涼宮ハルヒの姿をしたモノが、
夏の木陰で笑っていた。

 
 
 

それでしまいだ。阪中さんと朝比奈さんがまた救急車で運ばれた後、学校は臨時休校。
早急に生徒は下校させる事となった。教師連中及び警察は不審者が学校に侵入していると思ったらしい。
だが俺は、それを否定する。否定するしかない。

 

ハルヒだ。ハルヒがやっているとしか思えない。しかも下校前のHRにハルヒの姿が無かった。
岡部はわざと無視する態度を取った。───事なかれ主義か?トラブルメーカーに気を裂く暇は無いってか?
だが恐らく、そのトラブルメーカーはシリアルキラーにクラスアップしてるかもしれないんだぞ?
ああそうさ俺だって信じたくねえ。世界を照らす太陽が実は暗黒の星だなんて誰が信じられるか?
だが、あの影は────ハルヒだった。
あの場には信じられない位輝いた笑顔が、俺の心に突き刺さる。

 

HR終了後、すぐさま長門に電話。1秒で出た。
……長門、信じられんのだが、ハルヒが、
長門 「知っている」
ハルヒの居場所分かるか?
長門 「知って、如何する?」
止める。何が有ったが知らんが、俺が止めてこんな事した理由を聞き出してやる。

 

長門 「…………駄目」

 

何?
長門 「貴方は行っては駄目」
何故だ!?俺ではムダだってのか!?俺にだって切り札が
長門 「兎に角、駄目」

 
 

長門 「涼宮ハルヒは、私が止める」

 
 

そのまま、長門は一方的に連絡を切った。
何故だ長門。お前はハルヒに戦いを挑むつもりか!?確かにお前は無敵だし、勝てるヤツなぞ地球上に存在しないだろう。
ハルヒを除いて。
何を考えているハルヒ。何をしようとしている長門。
二人の姿を求め、誰も居なくなった校舎内を走って行くと────────

 

誰かが倒れている。男子生徒だ。駆け寄り顔を確認すると────……
見た事のあるメガネの顔。口に咥えたタバコがポロリと落ちた。生徒会長だった。
向うは教室の敷居をまたいで女生徒が倒れている。髪からして喜緑さんだろう。二人とも血みどろだ。

 

悲鳴が聞こえた。見ると廊下の向うで初老の男性が倒れる所だった。────新川さん!?
『来ないで!!』
聞き覚えのある声。──────森さんだ。柱の影に隠れて銃を構えている。
その反対側、はるか彼方の廊下の端に────ハルヒの姿。何かを構えている。
森  「そこの教室に隠れて!古泉も居るから!!」
声に押されて慌てて教室に入る。其処に居たのは  ……血まみれでうずくまる男子生徒。

 

古泉 「……やあ、随分久しぶり、のような気がしますね」
古泉!?……息が荒い。お前、その傷は!?まさかお前も!?
古泉 「やられましたよ。貴方も見たでしょう?あの、涼宮さんの姿をした影を」
森さんが応戦している。一体何が起こっているんだ、あのハルヒは何だ、またイタズラ暴走か!?
古泉 「暴走………そうですね、そうとも言えますが、想定外でした。クッ……」
傷が痛むのか?待て、今どうにかして手当てを────
古泉 「結構です。もう長くありませんから……それよりお知らせしておきましょう、原因は貴方ですよ」

 

俺、が?
古泉 「ここ一週間、涼宮さんが妙なコスプレをしてたのはご存知でしょう。何故だと思います?」
   「貴方の気を引く為ですよ。いつもそっけない貴方に業を煮やして、実験してたんです」
   「ネットで見た萌え属性を次々試して、貴方が一番満足する属性を探してたんですよ」
あのお気に入りにあったブログか。
古泉 「そうです。ですが色々試しても貴方の態度は変わらなかった。いつも通りでしかなかった」
   「そこで涼宮さんは、最後の禁断の属性に手を出したのです。己の内なる欲望と共に」

 

………もしや、あの『ヤンデレ』とか言うヤツか!?ヤンヤンデレデレじゃ無かったのか!?

 

古泉 「『ヤンデレ』というのはですね、”病む”と”デレる”……つまり狂気の愛、ということですよ」
   「そして今日彼女がそれを演じようとした時、己の欲望、独占心と結びついてしまったんです」
   「今の彼女は貴方を独占する為、自分以外に貴方に関わる者全てを排除しようとしている」
ハルヒの力が、その方向に今働いているということか?
古泉 「そうです………今の貴方には分かりにくいでしょうが、現在この学校は閉鎖空間に似た空間となっています」
   「あの涼宮さんに似た影は、言うなれば”神人”の亜種ですよ。彼女の欲望を忠実に遂行する」

 

ならあの赤い光球になれよ古泉!あれならあんな小さな”神人”なぞイチコロだろ!?
古泉 「それが……何故かなれないんです。涼宮さんが制限しているのか………グフッ!」

 

古泉が赤黒い血を大量に吐く。古泉!!おい、しっかりしろ!!
古泉 「最後に……貴方だけが頼りです。涼宮さんを、止めてください」
   「止めに来た『機関』の仲間も、ほとんど殺されました。田丸兄弟も……」
喋るな古泉!気をしっかり持て!!目を開けろ!!
古泉 「彼女は、現在、部室に居ます。早く、お願い、しま……………  …  」

 

古泉ィィィ────────!!!

 
 

動かなくなった古泉。静かになった廊下に出ると、

 

森さんが柱の隅で息絶えていた。

 
 

何故か心が平穏だった。
出なければならないハズのものが出なかった。涙も、嗚咽も。
みんな居なくなった。
鶴屋さん、谷口、国木田、阪中さん、朝比奈さん、生徒会長、喜緑さん、新川さん、田丸兄弟、森さん、古泉………

 

そうだ。

 

長門。

 

あいつが居る。

 

長門の事だ、きっとハルヒの居場所も突き止めている筈。────『彼女は、現在、部室に居ます』
古泉の遺言。無駄にできるか。
脚が動いた。
これ以上ハルヒに罪を犯させない為。長門に罪を犯させない為。

 

僅かな希望に向かい、部室へと走り始めた。

 
 
 

部室棟に入ると、また何人か倒れていた。
コンピ研の面々だった。文芸部室の前には部長殿が右手を出したまま、倒れていた。

 

部室をノックする。中から返事。ゆっくりと開けると、
ハルヒ「ちょっとキョン遅いわよ!折角今日は早引けになったのに」
────────────輝く南国の太陽の笑顔。いつもも通りの明るいハルヒが、其処に居た。

 

誰も居ない部室。俺のネクタイをハルヒが引っ張り、夏なのに寒々とした空間に俺を連れ込む。
ハルヒ「キョン、ほら見て!面白いHP見つけたのよ!」
俺を団長席の横に立たせ何処かのUMA探検隊系HPの日記を見せる。内容を逐一解説していく。
何故明るいハルヒ。何故笑うハルヒ。何故喜ぶハルヒ。皆死んだんだぞ。お前のせいで死んだんだぞ。
ハルヒ「それにね、SOS団のメールにも変のが────」

 

はしゃぐハルヒの肩を抱き、静止させる。
ハルヒ「………キョン?」
ハルヒ、お前は何も思わないのか!?お前が消したんだぞ!?俺以外の全てを消したんだぞ!?

 

キョトンとした顔のハルヒ。……やがて、さも当然とでもいうように、
ハルヒ「……だって、私とキョン以外、誰も要らないじゃない」
この世の全てを明るく照らし出す筈の日輪が────────────狂っていた。病んでいた。
ハルヒ…………違う。それは違う。自分の力に狂ってんのか?ならば戻ってきてくれ。
あの閉鎖空間から戻ってくる時、俺がお前に言った事。もう忘れちまったのか?

 

お前は、そんな奴じゃ無いだろう?
ハルヒ「……──────キョ、ン?」

 
 

と、部室のドアがゆっくりと開いた。其処に立つ少女が一人。
長門 「……涼宮ハルヒ」

 

ハルヒが俺を押しのけた。
ハルヒ「………有希、未だ生きてたのね」

 
 

<<続>>

 

え!?続くの!?
ハルヒ「そよ?問題ある?」

 
 

 

はっきり言おう、シャレにならない。
俺とハルヒと長門を残し、SOS団関係者は全員居なくなった。死に様を目撃した者も居る。古泉のように。
そして今、俺の目の前で、ハルヒと長門が睨みあっていた。

 

ハルヒは長門を始末する為、長門はハルヒを止める為。

 
 

何時の間にか長門は白木の棒を持っていた。
端のほうを握ると、銀色に光る刃をぬらりと引き抜く。同時にスカートを捲ると、ホルスターから拳銃を引き抜いた。
……────長門?それはもしやガンカタとかいうやつか?笑えんぞ?
長門 「……大丈夫」
長門が構える。
長門 「………私が使えば、最強の武術となる」

 

ハルヒ「甘いわね、有希」
ハルヒが何処から出したか、巨大なナイフを構えた。
やめろハルヒ、北高制服にナイフというのは俺の心的外傷に抵触する。勘弁してくれ。
ハルヒ「グルカナイフって言ってね……現在じゃ色んな所の軍隊が使ってんのよ。実践に勝るものは無いわ」
更にもう片手に小さなナイフを幾つもハルヒが構える。
止めろ。止めてくれ。
ハルヒ「じゃ、  ……行くわよ」

 
 

線が交錯する。何かがはじける音がした。
下げた長門の頭の後ろにナイフ。ハルヒの頭の後ろに弾痕。

 

それを合図に、二つの影が急速に動く。
部室内を銃声と刃物が空を裂く音が渦を巻き、その中をハルヒと長門が舞う。火花が散り、剣戟が踊る。
一拍の隙を置いて巨大ナイフと日本刀が机の上で激突し、二つの影が停止した。

 

ハルヒ「……やるわね、有希」
長門 「……貴方も」
数秒の鍔迫り合いの後、再び展開される二つの剣の舞いの闘い。

 

その間俺はというと、腰を抜かして部室の隅にもたれかかったまんまだった。
俺がこんな体験をするのは正直二度目。知り合い同士の殺し合い。一回目は長門と朝倉だった。
あの時は統合思念なんちゃらの内輪もめな訳だったが、今回はSOS団の内輪揉め。
だが待てよお前ら、ハルヒは無茶苦茶な能力持ってても一応人間の女の子だぞ?
長門は無表情な宇宙人製アンドロイドだが折角人間らしい心が芽生えてきたんだぞ?
それが何故こんな事になる?

 

────────────ハルヒがそう、望んだから?
ハルヒの欲望?独占欲?
馬鹿言うな。あいつは多少ムチャな所はあるが、こんな展開を望むような奴じゃない。
長門だってそうだ。あいつが何よりこんな事を望まない事を俺はあの3日間に知った筈だ。

 

長門が構え、ハルヒが動き、互いが決死の激突へ進みだす瞬間────────

 
 

だから俺は、二人の前に飛び出していた。

 

ハルヒ「キョン、どいて」
長門 「……邪魔」

 

駄目だ。二人とももう止めろ。悪ふざけはお仕舞いだ。
────目の前にハルヒ。後ろに長門。互いに未だ構えたまま。
ハルヒ、俺はこんなバトルロワイヤル的展開は望んじゃいない。元に戻れ。長門もだ、剣を収めろ。

 

ハルヒ「何で?……あたしは、キョンの為に」

 

俺は自分の欲望の為に他人を手に掛けるハルヒなぞ見たくない。ヤンデレだったか?俺の一番嫌いな属性だ。
二人とも早く武器を捨てろ。今この俺の、一番嫌いな奴になりたくなければ。

 
 

──────カランと静かな音を立てて、ハルヒが武器を捨てた。
──────長門も、銃と白木の刀を置いた。

 

ハルヒ「………キョン」
ハルヒが涙を流していた。そっと肩を抱く。
その瞬間。

 

長門 「く…」
小さな口から一筋の血を流し、小さな声を立てて、小さな長門の細い身体が、ぽとりと倒れた。

 
 

ハルヒ「あはっ、あははっ、あはははははははははははははははははははははははははっ!!」
振り向いた俺の後ろで、狂ったように笑うハルヒ。最高に明るい、最高に狂った太陽。
ハルヒ「やった、やっちゃったぁ!有希にね、青酸カリ入りの飴玉あげてたのよ!やっと効いてくれるなんて!」
───その言葉に俺は劇昂し、反射的に右手を上げ、

 

ハルヒの頬を張り飛ばした。

 

数歩よろめいて団長机に寄りかかるハルヒ。信じられない事をされたという顔で俺を見る。
ハルヒ「キョン………」
真っ赤になった頬を押さえるハルヒ。俺の心の何処かが疼く。
ハルヒ「あたしの事、嫌いになっちゃった………?」
そのままふらりと立ち直る。足元の投げナイフを取り上げた。それを弄び、逆手に持つと、

 

ハルヒ「キョン……………ごめん」
    「……ごめんなさい」

 
 

胸を一突きし、血を吐いて、ゆっくりと────────……

 
 

ハルヒ?

 

……ハルヒ!?

 

………ハルヒ!!!!?

 

倒れ伏す寸前のハルヒを抱きとめる。触れた手にべっとりと赤い血が付いた。
何度もハルヒの名前を呼び揺する。涙に溢れた薄目を開けると、
ハルヒ「……ごめんねキョン、……許して?」
    「………だから嫌いにならないで?」

 

ああ許してやる。俺が悪かった。一瞬でもお前を傷つけたのが。いや、今回のような行為にお前を駆り立てたのが。
嫌いにならないから目を開けてくれ。もう一度その目を開いてお前の瞳の中の銀河系団を見せてくれ。
全宇宙を照らし出す真夏の太陽の様なあの笑顔を見せてくれ。懇願する俺の手から、
いつの間にか暮れている夕日の朱の中、

 

ハルヒの手が、滑り落ちた。

 
 

………ハルヒ────────────!!!!!

 
 
 
 
 

いつも通りの夕方のSOS団の部室。
真っ赤な夕焼けがハルヒの顔を照らし出す。部室の中心には倒れた長門の体。
今の俺は、一体どういう顔をしているのだろう。
中途半端な気持ちのまま、中途半端に望んだ為に全てを失った愚者なる俺の顔。

 

まるで惨劇など無かったとでも言うように、夕方の下校を促す放送が校内に響いた。
只、いつもとは言っている内容が違う。その内容は────……

 
 
 

『WAWAWA忘れ物~………プピー』

 
 
 
 
 
 

はい?

 

どうも放送ではなく、外からスピーカーで生で歌っているらしい。

 

ハルヒを抱いたまま窓際に寄って外を見る。夕焼けの運動場には、

 
 

大笑いしている鶴屋さん。苦笑いの国木田。スピーカー大熱唱の谷口。谷口を見て笑う阪中さん。
ぴょんぴょん跳ねている朝比奈さん。タバコを吸いながら頭を掻く生徒会長。ニコニコ笑いの喜緑さん。
いつものキマった姿勢の新川さん。何か筒持ってる森さん。大荷物の軽トラから手を振る田丸兄弟。
いつもの糸目笑いの古泉。ノートPCをいじっているコンピ研部長と他4人。

 

森さんと鶴屋さん、朝比奈さんが筒に見えた横断幕をばっと広げた。

 

『SOS団涼宮ハルヒ七変化大作戦大成功!!キョン君(×)お疲れさま!!!』
なぜか『君』の文字に×が入っている。

 
 
 
 

ハルヒ「……キョン、ほっぺた痛い」

 
 

腕の中のハルヒが呟く。見ると、見慣れたアヒル口の団長様が涙目で俺を見上げている。

 

後ろで起き上がった気配を感じ振り返ると、長門が口から血を流して正座し、ピースしていた。
長門「……大成功」

 
 
 
 

谷口 「ほらキョン、そんなにむくれんなって」
国木田「………涼宮さんむちゃくちゃ元気だね、あれだけやったのに」
その日の夜のファミリーレストラン。皆揃って席についている。

 

ハルヒ「さあみんな、打ち上げパーティ始めるわよっ!!!」
せえのでカンパーイ。俺もカンパーイ。へっ、もうやる気なんざ残っちゃいねえ。
田丸兄「本日は皆さんの為にこのレストランを貸切にしました。どうぞ大いに楽しんでください!!」
楽しめやしねえ。一人端のほうの席に座ってジンジャエールを飲む。むむ、シブいぜ俺。

 

古泉 「一週間どうもお疲れ様でした」
狸寝入り野郎がやってきた。 ……全く、お前の『機関』とやらの存在意義事態疑うぞ。
古泉 「まあいつも涼宮さん絡みの時は必死ですからね?まあ今回は皆楽しんでましたし」
あのハルヒ型神人うんぬんてのもウソだよな?全く毎度毎度のお前の口先八丁のウソには感心するわ。
古泉 「やさぐれてますね?まあ一杯、どうですか?」
その手に持つのが子供ビールでも俺は要らん。あっちいってろ。
古泉 「はいはい」

 

あ、ちなみに俺以外は皆、団長命令により髪型がポニーテールにされている。
ただしハルヒ以外は本物ではなく、ポニーテールに似た髪型になっているのだが。
ちなみにさっきの古泉は後ろ手に短く縛っている。ポニーというか豚の尻尾だぞ古泉。

 
 

朝比奈さんを中心に、鶴屋さんと森さん、坂中さんがやってきた。意外な取り合わせだ。

 

みくる(ツインテール)「キョン君ごめんなさい、今日は驚いたでしょう?」
まあ驚きましたよ。皆さん全員の死に様を目撃させられたんですから。

 

鶴屋(黒柳哲子×1.5)「にゃははっ!トップバッターのあたしの死に様どうだった?感じ出てたにょろ?」
怖すぎでしたよ特に目が。つか何処で覚えたんですかあんな演技?

 

森(三つ編みお下げ二つ)「私が今回演技指導しました。特殊効果は田丸兄弟が、男性陣には新川が」
……貴方ですか。まあ納得というかなんというか。というか今日まで給仕なんですね?

 

阪中(三つ編み一つ)「あのキョンさん……ごめんなさいなのね?涼宮さんに進められて、面白そうだったのね」
構わんですよもう。……それより阪中さんまで俺をそう呼びますか。

 

聞くとあの朝比奈さん墜落シーンも森さんが演技したのだという。見事に朝比奈さんの悲鳴を真似てくれた。
ていうか、森さんあんな高さから落下して平気だったんですか?
森  「ええ、最低五階から落ちても平気なように訓練していますので」
恐るべし森園生。『機関』の未来は貴方に掛かっていますよ。

 
 

真ん中のテーブルで谷口(昆虫風6つお下げ)が国木田(ミニツインテール)とカラオケでデュエットを始めた。
お前そんなだからもてないんだ、鶴屋さんぐらい誘って見ろよ?
と思ったら田丸兄弟(クモ風8つお下げ?とミニ茶せん髷)が誘われて加わった。何だお前ら。

 
 

奥の方では喜緑さん(おだんご頭)が生徒会長(ボルボックス風多数お下げ)にお酌している。
生徒会長はこちらを一瞥すると、やれやれといった様子でくいっと煽った。
喜緑さんはその様子を見てにこにこしている。まるで熟年夫婦だな……。

 
 

新川さん(ミニトリオテール)がジンジャエールの代わりを持ってきてくれた。
ソファにもたれて飲んでいると、後頭部につんつんと何か当たる。
────振り向くと長門(佐代ちゃんヘアー)だった。もくもくと料理を平らげている。
よう、今日は名演だったな? ……ミリ単位で結び目が動く。
長門 「……怖かった?」
ああ。
長門 「…何処が?」
皆が死んでいくところだな。お前も死んで、ハルヒまで死んで。
長門 「……私が死ぬのは、怖い?」
ああ、怖いさ。
長門 「………そう」
長門の小さなお下げ髪をちょいちょいいじる。少しだけくすぐったげに動いた。

 

ハルヒ(ポニーテール)「キョン、歯を食いしばりなさい」

 

何だいきなり。何する気だ?と言うまもなく────────────スパーン!!ハリ手一閃!!!
はうっ!ソファに倒れこむ俺。南国ハイビスカスみたいな顔でハルヒが微笑み覗き込む。
ハルヒ「これでおあいこよっ!」
そういえばハルヒの頬には湿布が張ってある。……そうだな、ハルヒとはいえ女の顔にすまん事をした。
ハルヒ「痛かったんだからね~~責任取りなさ~~い?んん?んん?」
ああすまんわかったからえぐるなえぐるな頬をえぐるな。

 

ハルヒ「ふふん、さあ皆さん、本日メインイヴェーントゥ!!」
妙な巻き舌でハルヒが宣言!何だ?まだ何かあるのかよ!?
ハルヒ「『SOS団涼宮ハルヒ七変化大作戦 キョンのあたふた一週間』上映開始しまーすっ!!」

 

え?

 

ハルヒ「はいじゃコンピ研部長以下略頼むわよ~」
いつのまにか壁面に即席スクリーンが施され、コンピ研部長以下略(ツイン縦ロール以下略)が機械をいじる。
そして映し出されたのは────────

 

夕方の部室で胡坐かいて待ちぼうけしてる俺。
和服ハルヒに照れまくっている俺。
昼飯食いながら放心している俺。
ハルヒの頬のご飯粒をつまんで食ったら直接食えと説教される俺。
動かないハルヒを抱えて号泣する俺。

 

  …………待てェ!!いつの間に撮ったこんな映像────────!!!?

 

ハルヒ「ふっふーん、一日目にコンピ研に手伝ってもらって、隠しカメラ仕掛けておいたのよ!」
みれば部室に限らず廊下、教室、あらゆる角度から撮影されている。校外でも同様だ。
ハルヒ「ていうか今回のはあたしの萌え七変化であんたの慌てっぷりを観察する為の計画だったんだからね!!」
うわハルヒの手からお茶飲んでるよ俺。待て止めろ!お前ら!!

 

ハルヒ「みんなっ!!!」

 

みくる「ふぁいっ!?」ガシ。
長門 「…了解」ガシ。
鶴屋 「はいよー!」ガシ。
阪中 「ごめんなさい、なのね!」ガシ。
森  「失礼します」ガチャン。

 

な、なにをするきさまらー!!てゆーか森さん何で手錠ですかー!?
ハルヒ「キョン、恥ずかしがらずにちゃんと見てなさい!前の映画じゃ出れなかったんだから初舞台よ!?」
そのままイスに座らされる。どんな羞恥プレイだよ!!一日目の続きかオイ!?
ハルヒ「はいはい早送り早送りー」
………何だ今の映像?
ハルヒ「つまんないとこ。さあどんどんやっちゃって────!!」

 
 

イヤアアアアー!?

 
 
 

●<マッガーレ
!?出てくるな古泉!

 
 
 
 
 

こうして俺の地獄の七日間は、最後に究極の羞恥プレイを衆目の前で敢行することにより終了した。

 

結局あの映像はそれっきりでSOS団サイトに晒されたり、一般上映されたりはしなかった。
ただ団長専用PCの妙に奥まった所にフォルダがあり、そこにこの時の映像が無編集のも含め納められていた。
こっそり見てみると、あの早送りした所は────

 

俺のおでこにキスするハルヒ。
屋上で俺とキスするハルヒ。

 

………成る程。こんなものが公衆の面前で晒された日にゃ、
俺は緑色の巨人となって閉鎖空間に突入し青カビ大魔神と世紀の大決戦を敢行していたかもしれない。
ちなみに森さんとのキスシーンは映像自体残ってなかった。コンピ研部長による配慮だったらしい。
部長、貴方は世界の救世主です。是非今度奢らせてください。ハルヒ抜きで。

 
 

後、あのブログについて。
あのブログでは一番初めが『ツンデレ』だったのに一日目は『女王様』だった。その理由を聞いたところ、
ハルヒ「え?『ツンデレ』ってSM女王の事じゃないの?」
誰だウソ教えたのは。ハルヒに『ツンデレ』について何故か訥々と説明するハメになった俺の視界の端で、

 

長門 「……大成功」

 

ピースをした長門が居た。何気に嬉しそうだ。
ハルヒ「ちょっといつものあたしが『ツンデレ』ってどういうことよ!?あたしはいつも自分に正直に生きてるわよっ!!」
   「ツンデレはあんたでしょーがこのアホキョン!!」
何でだこのツンデレハルヒ。
ハルヒ「黙りなさいツンデレツンデレアホキョンツンデレ!!!」

 
 

ま、これらも後日の話な訳で。
今はレストラン内に響く音響と映像に見ざる言わざる聞かざるで耐え、食事に舌鼓を打つとしよう。

 

<< 終 劇 >>

 
 
 
 
 

ハルヒ「さあみんなどんどん食べまっしょーい!!全部キョンの奢りだからねー!」

 

待て────────ィ!!!?