涼宮ハルヒの動乱 序章 (112-773)

Last-modified: 2009-06-30 (火) 23:40:20

概要

作品名作者発表日保管日
涼宮ハルヒの動乱 序章112-773氏09/06/2809/06/30

作品

序章
 
物騒なこととは縁のない毎日を世界中の多くの人々が過ごしているわけであるが、俺の後ろの席に例外が居た。やれやれ。
涼宮ハルヒ。一見すると、どえらい美人なのだが、そのツラに引きつけられて安易に関わろうとする者がいるなら、数時間の後にはエフ5クラスの竜巻に根こそぎマイホームを持っていかれた家主のようなほうほうの体で、ただただ疲れきって肩をおとすだろう。
って痛いな。ハルヒ、いいかげんにペンの先で俺の背中をツンツンつっつくのはやめろ。
 
ハルヒ「ねえ キョン、今度はみくるちゃんになにを着せたい?」
数々のコスプレをあれだけ集めておいて・・・欲張りだなハルヒ。
そうだな、今度は×××・・・ってイカン!よこしまな考えがっ!
ハルヒ「って、あたしのはなし真剣にきいてるの!?」
怒らせてハルヒのかんしゃく玉を破裂させると面倒なので、ここは真面目に答えておくとするか。
 
キョン「俺からはとくにないな。でも、朝比奈さんならどれを着せても似合うさ。」
ハルヒ「ふーん。そうね。みくるちゃんはSOS団自慢のマスコット、似合わないものがあるわけないわよね。キョン!たまにはいいこと言うじゃない!」
こんな些細なことでも喜ぶ今日のハルヒはやけに機嫌が良い。
そして、ハルヒは鼻歌を歌いながらごそごそと何かを紙袋から出そうとしている。
ハルヒ「もってきたのよ。家から。」
 
紙袋の中から出てきたのはなんと、どういう名前の服かわからないが大昔の中国で着られるような美しい服だった。
いったいどこから手に入れたんだ。
 
キョン「おいっ!なんだそれは。」
ハルヒ「これ、すっごく可愛くない?」
俺の驚きなんかきいちゃいねえなこいつ。
キョン「可愛いけどさ、いや、どこでそれを手に入れたんだ。」
ハルヒ「いやー、家にあたし宛の身に覚えない荷物が届いてね。親父が勝手に受け取っちゃたのよ。開けてみてびっくりよ。凄く可愛いんだから!」
その入手方法は問題だ。大いに問題だ。
キョン「いや、待て、ハルヒ。それは夕方のニュースに出てくる送り付け商法というやつじゃないのか?」
ハルヒ「バカじゃないのキョン。これはあたしたちSOS団の隠れたファンが送ってきた貢物よ。み・つ・ぎ・も・の!」
いつも自分に都合のいい捉え方をするんだよな、こいつは。
繰り返された8月後半を加えて、北高に入学してからおそらく5万回を超えているであろう深い溜息をふとつきそうになったその時、ハルヒはなにやら悪いことを企んでいそうな不敵な笑みで俺に話した。
ハルヒ「実は、キョンの分もあるのよね。」
おい、謎の荷物には男用の服も入っていたのか。
キョン「言われる前に言っておこう。着るのはお断りだ。」
俺にそんな趣味はない。
ハルヒ「ふーん。そう。」
ハルヒはそう言ったきり黙ったままになってしまった。
 
それから、授業が終了するまでハルヒは萎れたような様子で窓側の席に佇んでいた。
ハルヒ「帰るわ。今日の活動は休み。特別よ。あたしに感謝しなさい。」
そう言うと、ハルヒは小走りに教室を出て行った。
 
俺がコスプレの着用を断ってからハルヒは明らかに様子が違う。
このまま何事もなく明日を迎えられればよいのだが。
顔を近づける癖のあるあいつとは、
なぜか顔を合わせたくない気分のために部室にも寄らず、いつも通りではない時間帯に、家に帰ることにした。
まだ日が高い時間帯の通学路は閑静でのどかな雰囲気が漂っていた。
さて、家に帰ったわけだが、俺は何かをするわけでもなく部屋のベッドで、ぼーっとこの希少な部活のない放課後を過ごし、そのまま眠ってしまった。
 
俺の顔に生暖かい風が当たる。
いや、風だけではない、
細かい砂みたいなものも俺の顔に当たり、痛い。
木材が焼けたような焦げ臭いにおいもする。
とても目を開けられなさそうな状況、横たわった体の肌から伝わる明らかにベッドの上ではない固い感触。
なぜ俺はここにいるのだろうか。
暫くすると風が弱くなり、顔に当たっていた細かい何かも当たらない。
目を開けて良さそうだ。俺はうっすらと目を開いた。
 
俺は愕然とした。金属の靴を履いた何者かの足と鈍く光沢を発する刃先が俺の目の前にあった。
謎の男「動かれるのは困るぜ。蒼天の奴隷よ。」
なんなんだ、そーてん?へ?
まだ顔も分からぬ謎の男は俺に再び話しかける。
謎の男「動けばいつでもお前の命を奪うぜ。なんぜお前の周りには5本の刃先があるんだからな。おまえは、黄天のために生け捕りになるのだ。」
俺の背中が震えだした。
俺の周りには男以外に4人が俺に刃物をかざしているというのか。
 
ドシッ!
急に目の前の男の足がふらつき、
男に比べてすらっとした別人の足が見えた。
誰かが体当たりをこの男にしたようだ。
「キョンに何するのよ!キョンに手を出す者はあたしが・・・・」
ブスッ!
「ウッ・・・・」ガクッ、バタン。
まさか、ハルヒか!ハルヒ!
キョン「ハルヒ!」
俺は動いた。とっさに近くの男の足をつかみ引っ張り倒す。
そして、起き上がろうとしたその瞬間。
俺の腹に冷たいものが差し込まれた。
 
ブスリ!
くそっ!やられたか!
瞬時に動作を止めることができない俺の腹筋は、なおも起き上がろうと踏ん張ろうとするも力が全く入らず、代わりに生暖かいものが流れ出るのを肌で感じる。
そして、腹部からの強烈な激痛と全身の抑えようのない震えが俺を襲う。
謎の男「ちっ、仕方がない。生け捕りは諦めてとっとと帰るか。」
謎の男の悔しがる声を聞き終えると、俺の意識は飛んだ。
 
逃れようのない強烈な痛みと寒気、そして口の乾きに俺は目を覚ました。
ああ、まだ俺は生きている。
ぼやけた視界に細くて小さい手が映る。
俺は無意識にその手に向かって、必死に腕を伸ばし、その小さな手を硬く握り締めた。
「キョン・・・」
キョン「ハルヒ・・・」
ハルヒ「キョン・・・ごめんね・・・」
キョン「ハルヒ・・・」
ハルヒ「キョン・・・キョン・・・キョ・・・ン・・・」
硬く握り締めているハルヒの小さな手が強張り、冷たさを感じ始める。
ハルヒが・・・ハルヒが・・・
頭の中で俺をここまで痛みに耐えさせたものがプツンと切れる。
もう限界だ。ああ、死んでしまう。なぜだ。なぜこんなことになった。
 
突然、俺の背後に誰かがいるのを鈍く感じた。
あいつらでなけれりゃ、誰でもいい、俺はもう死にそうだ。助けてくれ。
??「XX。」
??「キー入力完了。ファーストエイドモード。」
不意に、腹から流れ出る生暖かいものが止まった気がした。
しかし、寒気と激痛は収まらない。まさか・・・
??「YYYYYYYYXXXXXXXXXXXXXYYYYYYYYXPQWXXXXXXYZ。」
??「情報改変キー入力完了。ケアモード。」
とたんに激痛と寒気が収まる。
全身が燃え上がるぐらいに熱くなり、汗が髪の毛から滴り落ちはじめ、乾いていた口の中は唾液で満たされ始める。
全身が活力で満たされる、起き上がれる。
 
長門「私が到着した時点で涼宮ハルヒはあと12秒、あなたはあと28秒で肉体の活動が不可逆的に停止する見込みだった。私はケアモードでは間に合わないと判断し、すぐに実行可能なファーストエイドモードを選択し、実行した。ファーストエイドモードにより、両者の肉体の機能の維持を2分14秒間延長することに成功した。そして、私は両者の肉体機能を完全に回復させるため、私はケアモードを実行し、あなたと涼宮ハルヒは肉体の機能を完全に回復させた。」
キョン「そうか、長門・・・長門・・・」
俺はなぜかつばを飲んだ。
キョン「ありがとよ。」
長門「いい。当然のことを行ったまで。」
遠くから誰かが走ってきて、俺に近づいたかと思えば頭を俺の顔に近づける。
古泉か、顔が近い!
しかし、顔の左頬には青々としたあざがあるのに気づいた。
キョン「顔が近いぞ。古泉。それとそのあざは何だ?」
古泉「まず皆さんにお伝えしなければいけないことがあります。涼宮さんが先ほど目を覚ましました。どうやら、元気なようです。目を覚ました途端に、僕の顔に強烈なひじ撃ちを入れましたよ。どうしましょうね、このあざ。」
キョン「お前はそんな心配をしているのか。少しは周りを見たらどうなんだ。」
俺の周りには、焼け野原が広がる。焼け野原だ。何もない焼け野原だ。
ただ1軒の家を除いてだが。地震にでも遭ったのだろうか、幼い頃にテレビで見たあの強烈な光景と似ている。
しかし地震ではさっきの謎の男達は説明できない。
古泉「とりあえず、涼宮さんのところへ向かいましょう、彼女があなたを探しに勝手にふらふらと外に出ては困りますからね。」
 
俺たちは、古泉の案内の下、俺が気になった1軒の焼け残った家へと向かい、中へ入ろうとした。
長門「待って。」
不意に長門が発した警告に俺と古泉は足を止めた。
長門「この家には何らかの情報の歪みが発生している可能性がある。
私が安全を確かめる。」
長門はしばらく立ち止まったまま、家を眺める。
この家、俺が住む地域に見られるような代物ではなく、古代中国に出てくるような外観をしている。
もしかして、かなり大昔まで時間潜行してしまったか?
いや、おかしい。
朝比奈さんが言うには俺が高校入学した時から約3年前以上の時間潜行は無理なはずだ。
 
長門「情報の歪みが発生しているが、安全。入れる。」
長門がすたすたと家の中に入り、俺たちも続いた。
ハルヒ「キョン!遅い。」
おい、叱りつけるのは俺だけか?
ハルヒ「まあいいわ。有希も来たし、あれ?みくるちゃんは?」
古泉「朝比奈さんはまだ見ていませんね。」
長門「現在、朝比奈みくるはこの付近に居ない。」
ハルヒ「ふーん。じゃあ、まずはみくるちゃんを探しましょう。」
そうするのがこの状況では一番かもな。
 
ハルヒ「んー、その前にのどが渇いたわ。さっき、家の中を捜索してみたんだけど、甕の中に水が入っていたのよ。変なにおいもしなかったから、多分飲めるわ。」
ハルヒはそう言うと、甕に向かって歩き出した。
長門「甕に入っている水の安全を確認。」
長門が呟く。そうか、安全か。なら良かった。
キョン「なあ、長門。この家だけ焼け残って、情報の歪みが生じているのはなぜなんだ?」
長門「あれ。」
 
長門が壁に張られた御札らしきものを指す。
キョン「あれのせいなのか?」
長門「そう。」
古泉が俺と長門のやり取りに気づき、調べようとしているのか御札に近づく。
古泉「これは、護符というものですね。古代中国の御札です。僕はこの護符に見覚えがあります。これは、古代中国の後漢末期に『黄巾の乱』を起こした太平道という宗教が配ったとされる護符です。文献に出てくるのみで現物の史料が全く存在しないため、存在は永遠の謎でしたが、まさか現物を見てしまうとは、驚きです。」
古泉、いつの間に歴史マニアになっていたんだ?
キョン「つまり、俺らは今、その黄なんとかの乱というやつに巻き込まれているのか?」
古泉「勘が鋭いですね。おそらく、そういうことでしょう。」
なんてこった。
ハルヒが持ってきた古代中国の衣装らしきコスプレの着用を俺が断ったから、ハルヒはまた大宇宙レベルのパワーを発揮してしまったのだろうか。
 
序章 完。