涼宮ハルヒの決心 (90-625)

Last-modified: 2008-05-30 (金) 23:57:26

概要

作品名作者発表日保管日
涼宮ハルヒの決心90-625氏08/05/3008/05/30

作品

「はい、お茶どうぞ♪」
「ありがとうございます、朝比奈さん」
ニコニコ顔の朝比奈さんが皆にお茶を入れてまわっている。あーいいね、このお茶を飲んでる瞬間。だがその至福の時は長くは続かなかった。ハルヒが熱いお茶をあっという間に飲み干したと思ったら、いきなり立ち上がって俺に命令した。
 
「キョン!焼肉パーティーするわよ!」
 
ハルヒの唐突な発言はいつもの事ながら、あいかわらず食い意地張ってるのな。まぁそんな事指摘したらハルヒにぶん殴られそうなので黙っておこう。まずその意図から確認しようじゃないか。
「なんで焼肉なんだ?ハルヒ?」
「何でもいいじゃない!あたしが食べたいからよ!」
うん、いつもの気まぐれだな。どうせどっかの雑誌かテレビか何かで焼肉食ってるとこ見た、とかなんだろう。
「まさか、この部室でするとか言わないよな?」
「何よ、そんなにすぐ食べたいの?キョンったら食い意地張ってるのね!」
ちょっと待て、言い出したのはお前だろう、ハルヒ。俺が食い意地張ってることにするなよな。
「まぁいいわ。いくらなんでもここじゃ焼肉なんて出来ないわよ。」
ふ~やれやれ。その程度の常識は持ち合わせてたんだな。
「で、いつ、どこでするんだ、焼肉なんて?」
「そーねー、土曜の夜に有希のお家、ってのはどうかしら?」
本を読んでた長門が、こちらに顔を向けた。”どうかしら?”って、ハルヒが長門に先に許可取ってないのはいつもの事だろうが…
「私はかまわない」
まぁ長門が拒否するはずはないわな。だが問題はそこじゃなくて……
「そりゃそうと、肝心の鉄板とか食材……とくに肉はどうするんだ? 最近は和牛でなくても高いんだぞ。」
「それは解決済みよ!? ね、古泉くん!」
「はい、もちろん。」
ニコニコスマイルの古泉が答えた。ああ、なるほど、こいつが首謀者なのか。
「僕の親戚の結構な富豪でおられる方が……」
 
古泉の話は面倒だから省略だ。というか、聞かなくてもわかるだろう?どーせ例の機関とやらの差し金で全部準備したって事だ。
 
「じゃ、決まりよね!! あと、キョン!あんた何にも準備してないんだから、肉焼く係よ!わかった!?」
「わかったわかった、ハルヒ。雑用係は何でもするよ。」
「みくるちゃんはあたしと一緒に食材の準備よ。」
「は、はい」
「じゃ、みんな、いいわね!!」
まぁ俺が金を出さずに済むんならそれでいいし、これでハルヒの気が晴れるならそれでもいいだろう。
 
そう、俺はこの時はそう気楽に思ってたんだ。
 
 
「おい、古泉」
「なんでしょうか?」

あっという間に土曜の夕方だ。長門のマンションに来た俺たちは食材やら何やらを持ち込んだわけで……俺はというと焼肉焼く係だそうだから、一応肉を見てたんだが……そうそう、ハルヒと朝比奈さんはキッチンで野菜を切ってる。キャーキャー言いながら切ってるみたいだが、朝比奈さんは包丁使っても大丈夫なのか? まぁそんな事はハルヒに任せるか。
長門はといえば俺の横で本を読んでる。まぁ場所を提供してもらってるわけだから、このまま静かにしていてもらえばいいわけだが……
 
「これだ、これ。お前、神戸牛なんてどこから調達したんだ?」
「どこといっても、ここから近所じゃありませんか。」
「そうじゃない。こんな高い肉をたかだか高校生の焼肉パーティーに持ってくるなよ。」
「ご不満ですか?」
「俺はどうでもいいが、問題はハルヒだ。あいつの舌が肥えたら、またいろいろとうるさいぞ。」
「いいじゃありませんか。またその時は我々が色々と準備させていただきますよ。」
ちぇ、古泉にいろいろと貸しを作りたくないんだが……と思ったら台所から大声で呼ぶ奴がいる。
 
「ちょっとキョン!こっち来て、野菜持っていって!」
へいへい、そっちに行きますよ。行って見ると皿一杯に玉ねぎにジャガイモ、ニンジン、いろいろ切ってある。しかしなんだこの量は。そもそも野菜皿だけでいくつあるんだよ。
「おいおい、ハルヒ、肉以外にもこんなに食うのか?」
「いいじゃない。それにせっかく用意してもらったのに悪いわよ。食べないともったいないお化けが出るわよ、キョン。」
「小学生じゃあるまいし、何が”もったいないお化け”だよ、ハルヒ。」
と思いつつテーブルの食材を眺めてて……焼肉するには見慣れないものが……なんだこれ? なんでマツタケがあるんだ?
「あ、キョンくん。それは鶴屋さんの差し入れですよ♪」
「鶴屋さん?」
「はい。”今日は用事があって来れないから代わりにょろ♪”と言って差し入れてくれたんですよ♪」
朝比奈さんが鶴屋さんの口癖を真似つつ説明してくれた。ああ、相変わらずいい人だな、鶴屋さん。
しかしマツタケって今の時期のものだっけか?
「ちょっとキョン!!みくるちゃん見て何にやにやしてんの!! さっさとこれ運ぶ!」
「わかったよ」
 
ん?ハルヒの奴は何かマツタケ見て立ち止まってるが………どうした?
「それよりもこのマツタケね……そうね、食べたら性格が変わるとかだったら面白くない?みくるちゃん?」
隣で危なっかしい手つきで一生懸命に玉ねぎ切ってる朝比奈さんに声かけた。
「ええ?このマツタケさん食べちゃうと、性格が180度変わっちゃうんですか?」
「そうよ!! どうかしら?」
ちょっと待て、ハルヒ。そういうのはマジ止めてくれ……ただでさえお前はそれを実現させかねないんだぞ。危ないから話を変えさせよう。
「ハルヒ、それ面白くないな。せっかくの焼肉で毒キノコを食べるなんて考えたくも無いぞ。」
「なによ、キョン、あんたつまんないわね。」
「つまらなくて悪かったな。じゃ、これ持ってくぞ。」
ふ~危ない危ない。ハルヒの奴、あのまま話したら無意識のうちにマツタケを毒キノコに変えかねないからな。
 
だが、今から思うとこの時はもう事が起こってたんだよな。
 
 
「さすが古泉くん!美味しいわ!」
「お褒め頂き、ありがとうございます。」
ちぇ、こいつが自腹で用意したんじゃないぞ。まったく…
「ほら、キョン!何ぼけっとしてんのよ。さっさと肉を鉄板に置く!!」
「ちょっと待てハルヒ、お前の前にまだ肉が一杯あるじゃないか。」
「空いてる場所がもったいないから焼くのよ!」
ひょいパク!ひょいパク!ひょいパク!ひょいパク!ひょいパク!
「あ!有希、あたしが焼いてたの取ったわね!!」
「待て待てハルヒ、いまそこに肉置いてやるから。いちいち長門を責めるな。」
「キョンくんやさしいですね♪」
「ちょっと、みくるちゃん、キョンは雑用なんだから、そんなのでいちいち褒めたら駄目!!」
「ふえぇぇ~」
なんだそりゃ。まぁこんな感じで、つつがなく焼肉パーティーの方はは進んだ。いつものようにハルヒは豪快に食うし、長門は延々と食べ続けてた。肉自体は最高級に近いものだけあって、大変美味しい。ま、不本意ながら、その辺については古泉の貢献大なのは認めざるを得ないがな。んで、俺は肉を焼くのに忙しくて、実はマツタケを食べそこねてしまったわけだが、そんな事どうでもいいくらいお腹一杯だ。
 
 
さて焼肉が終わって、このあとまったりした後の事だ。いや酒は飲んでないぞ。未成年云々と細かいこと言う気はないが、孤島でいろいろあったし、それ以前にお腹に入らないけどな。そうこうしているうちに、いつの間にか妙な状態になってた。
 
「涼宮さん、いいこと!? いつもいつもキョンくんといちゃいちゃしてて、さ」
「み、みくるちゃん!? あ…あたしがいつキョンと……」
「いいからまず黙って聞くの!!! でもね、キョンくんが優しいことをいいことにキョンくんを顎でこき使ってて…彼がかわいそうだと思わないの!?」
「…い、いや…その…」
「キョンくんは優しいし、あなたが好きだから文句言う振りしてるけど。まずそこ、わかってる?」
「…そ、そうなの?……」
ハルヒに食って掛かるように説教してるのは……なんと驚くべきことにマイスイートエンジェルの朝比奈さんだ。いつもハルヒにおもちゃ扱いされていつも泣きそうな顔してるのに、毅然としてハルヒと対等に…というかハルヒが圧倒されてる。
これは見ものだな……って違う違う、そうじゃない。というか、どさくさにまぎれて朝比奈さんは何を言ってるんだ?
 
俺の隣で成り行きをじーっと見てる古泉に近づいて小声で話しかけた。ハルヒに聞こえちゃいけないから仕方ないとはいえ、何が悲しくて俺がこいつの耳にささやきかけんといかんのか……いつもと逆だな。
「おい古泉、あれ放置してていいのか?ハルヒの機嫌を損ねたらまたいつもの閉鎖空間が頻発するぞ。」
「顔が近いぞ!俺の知ったことじゃない。それに閉鎖空間なんて、初期段階なら俺が行かなくたって組織の誰かが何とかするさ。」
おい、「顔が近い」は俺がいつも使ってる台詞だぞ、古泉よ……というか古泉が”俺”?……酒でも飲んだのか?頭でも打ったか?
だめだこりゃ、よーしここは一番頼りなる長門に聞いてみよう。
 
「だーいじょうぶ♪だーいじょうぶだって♪ すぐ元に戻るって。もぉ~心配性なんだから、キョンくんったら♪このこの♪」
そこには100Wの笑顔の長門。このこの、と言いながら俺の右頬を人差し指でツンツンしてる……うーむ、長門もこんな女の子らしい表情やゼスチャができるんだな。というか、お前も俺をその名前で呼ぶのかよ。いや、そんな事言ってる場合じゃない。
朝比奈さん、古泉、長門、それぞれの性格が大変な変わりよう……というか逆転してる?これはどういうことだ??
 
 
とにかくこの状態を何とかしないといかんが……閉鎖空間とかじゃないみたいだし、例のカマドウマの時とは違うようだ…さてはて。
「何だよ。俺を見るなよ。今の俺には何も能力無いぞ。」
そんなこったわかってる、古泉。今回はお前の出番はないみたいだし相手をしてると面倒だから、そのままそこでおとなしくしてろ。
朝比奈さんには悪いが聞くだけ無駄どころかハルヒ相手に説教して事態を逆に面倒にしてるので、ここはやはり長門に頼るしかないな。
「長門、質問がある。」
「なになに♪あたしに出来ることなの?」
100Wの笑顔の上に愛想のいい長門か……何か調子が狂うが、とにかく目の前のこれを解消するほうが先だ。
「率直に聞こう、長門や朝比奈さん、古泉の性格が変わってしまった原因はなんだ?」
「これ♪」
笑顔の長門が指差してるものは…うすく切ったキノコみたいなものだが……これ?
「マツタケ?」
「そう♪」
「実は毒キノコとか、マツタケもどきとか?」
「キョンくんったら、違うって。これは本物のマツタケ♪でも涼宮ハルヒが変な成分を与えただけ。」
ああ、なるほど、そういう事か……いつものハルヒの能力って奴か。だから言わんこっちゃ無い。なるほど俺はマツタケ食べてないから普通なんだな。なるほど原因はわかった。
 
「じゃぁ長門、どうやったら元に戻るんだ?」
「だ・か・ら、しばらくしたら直るって♪」
「しばらくって、どのくらい?」
「個人差があるからはっきりとしたこといえないけど……1時間から2時間ってトコかな♪」
笑顔で話す長門を見てると一瞬このままでもいいかなと思ったが、そこでハルヒを説教している朝比奈さんを見てその考えは即座に否定した。
「長門、お前の能力ですぐ元に戻せないか?」
「それが駄目なの。涼宮ハルヒの能力が強くて、わたしじゃ干渉できないの。ごめんねキョンくん♪」
笑顔で謝る長門についクラ!と来てしまったが……その瞬間、朝比奈さんと目があった。う、目が坐ってる…これはまずい!
 
「ちょっとキョンくん、あなたもこっち来て座りなさい!」
「は…はい」
逆らったらやばそうなので、朝比奈さんの言うとおりにした。ハルヒと並んで正座してみる。ハルヒ、お互い何か無様だよな。
「キョンくん、あなたはあなたでぜんぜん女心というのがわかってないわ。」
いや、俺は女じゃないので女の心はわかりません……というボケツッコミが通じる状況じゃないみたいだから素直に答えよう。
「は、はい」
「あれだけ涼宮さんの事が好きなのに、そのそっけない態度は何なの?」
え~と、いつからそう決まってたんでしょうか?……とそこで少し反論しようとしたのが、この後の悲劇の始まりだった。
「いや、あの~~~いつから好きだというのが規定事項に…??」
「違うというの?」
「いや、違うと言うわけじゃない…というかなんというか…」
いや、どう答えればいいのか…俺の頭が混乱中名ところに古泉の余計な一言が拍車をかけた。
「アレだけ夫婦喧嘩しておいて、いまさら否定もへったくれもないだろう。」
くそ!ため口で語る古泉、むかつく!? と思ったら笑顔で俺に微笑みかけてるけど朝比奈さんと目があった。あ、目は笑ってない……こ、怖い……
「ち・が・う・の・か・し・ら♪」
「あ、いいぇ、違うとかじゃなくて……その……」
「そ、そうよ、みくるちゃん! きょ、キョンは只の団員その1であって、そ、それ以上じゃないわ…」
まてまてハルヒ、今の朝比奈さんに反論したら大変な事になるぞ、と思った時は遅かった。
 
 
「ふ~ん、そう♪ ホントに二人とも素直じゃないんだから……じゃぁ、たとえばあたしがキョンくんとキスしても問題ないってこと?」
へ?何を言ってるんだ、朝比奈さん???
「べ、別に、キョンが……みくるちゃんとキスしたくらいじゃ……な、何ともないわよ。勝手にすれば!?」
「そう、わかったわ♪」
え?何で朝比奈さん、俺ににじり寄ってくるんですか?あの……ちょっと待って!?!?
「じゃ、キョンくん、許可も出たことだし、遠慮なくいくわよ♪」
次の瞬間、俺の唇が朝比奈さんのやわらかい唇に押された。あ、あ、あ、あの~~~~これって……硬直した俺の唇に延々とキスし続けてる朝比奈さん……ちらっと隣を見ると、ハルヒが唖然としていている。あ、まずい!!
 
次の瞬間、ハルヒが俺を朝比奈さんから引き離した……
 
ぱぱぱぱぱぱぱっぱっぱん!!!ぱぱぱぱ☆!バンバン!!!!!!!!
いていていていていててててて!いたいいたいいた!
 
ハルヒに馬鹿力で往復ビンタをされた!!!!うおぉぉぉ!頭がくらくらする……
 
「キョン!!!あんた、みくるちゃんと何してんのよ!!!!?!?!?」
顔を真っ赤にしてお怒りモードのハルヒがそこに……い、いや、俺は何もしていないぞ……朝比奈さんが勝手にしたんだぞ。
「い、いや、その…」
そこに朝比奈さんが横から余計な一言。
「キョンくん、キスが上手♪」
「ちょ、ちょっとみくるちゃん!!!あなたも…」
そう言いかけたハルヒが朝比奈さんに向いた瞬間、俺の頭が誰かに掴まれた……って長門?いつのまに俺の横に???
と思った瞬間、俺の頭がぐいっと引き寄せられた……長門、何をするんだ????
「朝比奈さんだけじゃ不公平だから、わたしもするね♪」
え?何を?というのを考える前に、今度は長門が俺の唇に触れた……おいおいおいおいおいおい、これって……
またまた硬直した俺の唇にキスし続ける長門。おい舌まで使ってきて……
 
「キョン!?あんた有希にも何するのよ!!!!!!」
次の瞬間、俺はハルヒに掴まれて長門から離されたと思ったら
ドス!!!!!!!
ハルヒの右パンチが俺の鳩尾に決まった! は、ハルヒ、お、お前、どこでこんなパンチ習ったんだ……と思ったが、そこまでだった。俺の意識は、はるかかなたの天国へ飛ばされていった。
 
 
うーん……???
俺は目を覚ました。なんだか頭の後ろがやわらかいが……と目をあけると俺を心配そうに覗き込む黄色いリボンをつけた女の子…ハルヒ???
「お、起きた??」
「あ、ああ」
え?この体勢でってことはハルヒの膝枕????
あわてて起き上がったらハルヒと目があった。あれ目が…赤い…??
「よかった。この前みたいに目覚めないんじゃないかと……キョン、心配したのよ!?」
「ちょ……っとまてハルヒ。今回はお前が俺をぶっ飛ばした直後に俺の意識が無くなったんじゃ……」
「もういいじゃない、そんなこと。」
よくないぞ、ハルヒ……まぁ往復ビンタやパンチされても仕方が無いことした気もするが、あれは俺のせいじゃない気が…
「それよりキョン、はい、あーん♪」
まだ寝ぼけてた俺は、泣いたせいか少し目が赤いハルヒの右手から差し出されたものを何の疑いもなくパク!とたべた。
もぐもぐ、ごっくん。うん、なかなかおいしい…これマツタケ?うんうん……っておいハルヒ、まさか!?!?

インターミッション(鶴屋さん&みくる)

「最初は焼肉パーティーの話だったんだけど、長くなったから後半はまた明日の夜にょろ♪」
「あ、鶴屋さん、こんばんわ。キョンくん、あのマツタケさん食べたら、どうなっちゃうんでしょう?」
「お、みくる、お疲れさま。でもそれは次回のお楽しみにしていてってことっさ。」
「う~ん、心配ですぅ…」
「そりゃそうと、キョンくんとキス出来た感想はどうだい、みくる?」
「え?え?え?え? その~あの~その~」
「うむ、よかったみたいってか」
「いや、その…」
「まぁそれは明日ゆっくり聞こう。じゃね♪」

後半

「かかったわね、キョン♪」
「ひ、卑怯だぞ、ハルヒ……”涙”で動揺させておいて、これを食べさせるとは…」
「失礼ね!? あたしほんとに泣いたんだからね。女の子泣かせた罪は重いのよ!それにあたしも食べたんだから。さぁキョン!
あんたも食べて本性を現しなさい!!」
いや、あれ食べたって、お前だけ性格変わってなかったじゃないかよ。それに本性って、あれは性格が逆転するんじゃなかったのか!?
いやいや、その前に何でこれが原因だと知ってる?
「ハ、ハルヒ、なんでマツタケの事知ってる…んだ?」
「有希に問い詰めたら簡単に教えてくれたわ♪」
ああ、やっぱり……そんな動揺する俺に満足したらしい100Wの笑顔のハルヒ。ああ、お前の陰謀にこんなに簡単にはまるとは。
 
「んふふふふふ♪ あまいわ、キョン!そ・れ・に、みくるちゃんや有希とキスしておいて、何もなしで済ませる団長だと思って?」
いや、あれは朝比奈さんと長門が勝手にだな……あれ、なんか意識が遠くなっていた……いや、遠くなったんじゃない。
なんか何重ものガラスの向こうに風景があるような感じだ……なんか自分が自分じゃなくなってきた気がする…
「そろそろ効いてきたみたいね。さぁ、いくわよ、キョン!」
くそーどうなってるんだ。誰が何とかしてくれ……ああ、こんな時に長門がいない。どこいった~~~。ああ、目の前にいるのは天使の笑顔した魔女ハルヒ。万事休す!!!
 
「それじゃ、質問よ。キョン、あんたあたしの事、本当はどう思ってる?」
お前、ストレートに聞いてくるんだな。まぁ適当に答えてやる……と思った俺の口から出た言葉に俺自身が驚愕した。
「そりゃ大好きだ。いや、好きとかじゃない、この世の誰よりも愛してる。」
ちょ、何を言ってるんだ、俺!?!?
「え……ちょ、ちょっとキョン。真面目に答えるのよ!それともまだ効いてないの?」
「効いてるから、こうして正直に答えてやってるんじゃないかよ、ハルヒ。」
ああ、このマツタケ恐ろしい効き目だな、長門の言うとおりだ……ぢゃない!ちょっとまて、止まれ俺!!!
「いつもの俺じゃ、こんな言葉を素面じゃ言えないんだよ。悪かったな、ハルヒ。」
「………」
 
あ~だめだ~ハルヒが長門モードに入ってる。またぶっ飛ばされる……いや、落ち着け俺。
「お前はまっすぐだけどわがままだから、俺はいつも振り回されてる。でも嫌だと思ったことはない。」
ここはまぁまぁ本心だ。なんだ、落ち着けば大丈夫じゃないか……と思った俺は甘かった。
「それにハルヒ、大好きなお前と一緒にいられるなら……いや、お前を守る為だったら世界中を敵にまわしてでも何だってする。」
「………」
い、いや、まぁそれに近いことはしたかもしれんが……ちょ、ちょっとまて。まるでどっかの下手な恋愛ドラマみたいな台詞ポンポン噛ますな、俺。ハルヒはハルヒで真っ赤になって俺をじーっと見てやがる。おい、ハルヒ、こうなったのもお前のせいなんだぞ。
 
「キョ…キョン、それ本気で言ってるの?」
「もちろん!」
と言いつつ、ハルヒの肩を抱いた……って俺!即答するな!ハルヒ抱くって、おい何してんだ!止まれ!!!
「………じゃぁ、なんでみくるちゃんや有希とキスしたのよ!?」
「おい、あれは俺が望んでしたことじゃないぞ。というか、ハルヒ、お前から”あの”朝比奈さんや長門をけしかけておいてそれはないだろう?」
「う……うん、わかったわよ……」
おお、言い訳能力も長けているようになってるのか、俺は。なんて恐ろしいマツタケ…
 
 
 
「じゃ、じゃぁ、もうひとつ聞くわ。そんなにあたしの事好きなら、普段のあんたがなぜそう面と向かって言わないのよ!?」
「そりゃ、怖いから、さ。」
「え?」
ハルヒはわからない、という表情で俺を見てる。いや、俺も自分で何を言い出すかわからないんだから、そんなうるうるした目で見ないでくれ、頼むよ。
「だって、ハルヒ。お前、中学までは告白してきた相手を全部フッてたんだろ。」
「あ、あれはあれよ。何よ、キョン、もしかしてあんたが告白してきても同じようにすると思ったの?」
「違うのか?」
「そ、そんな事……あたしが、キョンに……す、するわけないじゃない。」
「でも、俺にはそうだという100%の確信が無い。もし違ったら……俺はSOS団にも居られなくなるだろう? 今までお前と一緒にいた楽しい高校生活を全部崩壊させることになるんだ。何より、ハルヒ、お前と一緒に行動できなくなるんだし、それが怖いと思っても仕方がないだろう。」
 
あ~もう何とでも言え、俺。こんな恥ずかしい台詞がなんで止まらないんだよ。
「な、なによ、キョン!今までそんな事思ってたってこと? そ、そうよ、あんたが告白してきたら……そうね、つ、付き合ってあげても…い、いいわよ。」
「本当にそうなのか、ハルヒ?」
「なによ、疑ってるの、キョン?」
「確証がほしいんだ。普段の俺は小心者だから、さ。」
ああ、俺は小心者だ。悪かったな。そう思ってたら、少し目をそらしていたハルヒが俺の目をじーっと見てこう言い放ちやがった。
 
「じゃ、じゃあ、あたしに……キスしてみなさいよ。ほら、さっきみくるちゃんや有希にしたように、ね。そうしたら、確証になるでしょ!?」
そ、そうか??? それ何か違うような気がするぞ。ああ、でもハルヒの綺麗な目を見てるとなんか吸い込まれそうだ。いや、今の俺ならこのままじゃ普通にキスしてしまうぞ。ああ、止まれ俺!!
 
そう思った瞬間、俺はつかんでいたハルヒの両肩を抱き寄せた。あ、あれ?
「今の俺は普段の俺じゃない。そんな状態でこのままキスをしたら絶対後悔すると思う。」
「え?」
「だからハルヒ、キスは普段の俺に、お前の方からして欲しい。それにお前がそれを本当に望んでるのなら、俺は命を懸けてでもそれに必ず答えてやるから、さ。」
あ~俺、聞いてて恥ずかしい台詞がポンポン出るんだな。どうなってるんだよ、全く。ハルヒはハルヒでうるうるした目で見てるし。
「う…うん、わかったキョン。」
「ありがとう、ハルヒ。」
「で、でも、キョンのキスが……みくるちゃんや有希に先に取られた……なんか悔しい。」
 
ああ、ハルヒは相変わらずの負けず嫌いなんだな。こんなときでも負けたくないのか?でも、そんな事今となってはどうでもいい事じゃないか、そうだろ、ハルヒ。
 
 
 
「ハルヒ、もう一つお願いがある。」
「なによ?」
「俺、実は…ポニーテール萌えなんだ。」
「なに?」
「いつだったかのお前のポニーテールは反則的なまでに似合ってたぞ。」
「そ…それって」
いや、ちょっとまて俺。その台詞はまずいぞ。
「キョン、あれって夢じゃない…の???」
「ああ、俺の夢だ。ハルヒ、お前も同じ夢見たのか?」
「え?え?え?ど、どういうこと?」
「あの時、俺はお前にキスしたんだ。朝比奈さんや長門よりも先にキスしたんだ。だから、お前は負けてない。」
「そ、そうなの??」
唇を指でなぞるハルヒ。何だか可愛いな……じゃない、危ない危ない、あれは夢だと信じ込ませないと後々大変だ。ああ、もう思ったのと違うことを延々と語るなんて危なっかしい。何とかしないと……ってあれ、何だか眠くなってきた……そうだ、このまま寝てしまえばいいんじゃないか。
 
「は、ハルヒ」
「な、なによ?」
猫のようにおとなしくなったハルヒをだきしめつつ、俺は語りかけた。そうだ、このまま眠りについてしまえば…この現状からは逃げ出せる………
「今はこのまま抱きしめていたい……それでいいか?」
「うん…」
おお、でも何か俺かっこいいこと言ってるな……ハルヒはハルヒで俺の腕の中で真っ赤になって俺を見てる……ハルヒを抱いたまま、俺は横になった。
「しばらくこのままで……いてくれ、ハルヒ…」
「……うん」
……何だか眠くなってきたんだ……おやすみハルヒ、ZZZZzzzz.......
 
 
うーん……???
俺は目を覚ました。
 
周りが明るくなってるな、ああ、焼肉パーティーの後は長門の家でそのまま寝てしまったんだっけな。しかし、ひどい夢を見た。
例の3人の性格が逆転したり、朝比奈さんや長門とキスしたり、俺がハルヒに迫ったりとか。俺、鬱憤がたまってたのか?
って腕が重い。誰だ俺の右腕に乗っかってるのは?誰が寝てる?おい風邪引くぞ。そう思ってゆっくりそっちを見た。
ん?ポニーテール?誰だ? 黄色いリボンしてるがハルヒか?なんでポニーテール……??
 
って、まさか!?
 
 
 
あ、あれは夢じゃない!!血の気が引いていくのが手に取るようにわかった。とりあえずハルヒは寝てるみたいだから、一時撤退して長門に頼んで……と思ったが遅かった。
 
「キョン、起きたの?」
顔をこっちに向けずにハルヒが話しかけてきた。え?ハルヒ起きてたのか!?
「よ、よぉ、ハルヒ。」
「………」
やばい、こっちを見もしない。本気で怒ってるな。まぁ好きだの愛してるだの死ぬほど恥ずかしい台詞ぶつけて何度も抱きしめてたら怒らないわけないわな。だからここは素直に謝っておこう。
「い、いや、昨日はすまない。あれは……例のアレの勢いでだな……その…言った事であってだな…」
それを聞いて急にこっちを見たハルヒ……あれ、顔が真っ赤?? そう思った瞬間に頭をつかまれ引き寄せられた。
「やっぱり昨日の夜聞いた通りね!!」
「ハルヒ…ど、どうした???」
「ほんと、意気地なしなんだから!責任取るのよ!いいわね!!」
「へ?責任って???」
というか、えーと、ちょっとハルヒさま、あの…そのですね…そんなに引き寄せたら…顔が近づきすぎ……
 
ちゅ♪
 
え?え?え?え?ハルヒからキス??な、なんだ? 硬直してる俺にお構いなしに、ハルヒは情熱的にキスを続けてきた。
あ、舌入れてきやがった……ちょっとお前、なんでこんなのどこで覚えたんだ……おい、ハルヒ……
 
「ぷは~♪」
 
何分キスし続けたのか……大混乱して硬直してる俺をよそにハルヒは離れたと思ったら、真っ赤な顔をして言い放った。
「もう決心したのよ。あたし迷わないわ!……って言うか、あんたがこうしろ、って言ったんだからね!!」
いや、ちょ、ちょっと待て!
「は、ハルヒ。ちょっとまて、お、俺、そんな事言ってたか?」
「どっちにしろ同じよ! あれだけ恥ずかしい思いさせられたんだから!」
まて、ハルヒ、何か違うし。というか、話せばわかる、ちょっと待て……ああ、頭が混乱して何から話していいんだ……
「それに、あんたのファーストキッスはみくるちゃんに取られたんだし、有希にも先越されたなんて団長として許せないわ!」
いや、俺はこれよりもずーっと前に、してるんだが……どうするよ俺、どーする、どーするよ……
 
しかし混乱する俺にハルヒの一言がトドメをさした。
「だから、キョン!あんたに一生かけてこの償いさせるわ! 覚悟しなさいよ!!」
「い、一生?償い? 覚悟?」
「そうよ、キョン!みくるちゃんや有希には絶対渡さないわ!あんたをあたし無しじゃいられない体にしてやるから!!」
ハルヒはそう言い放った直後、俺に抱きついてきた。おい、ハルヒ、い、一生って……ま、まさか……あのときの俺の言葉を真に受けてかよ! いや、ハルヒがそういう覚悟決めたなら……俺だって、そのだな……あああ、何を考えているんだ俺!? いや、俺にも覚悟決める時間が欲しい。そうだ、時間といえば朝比奈さんがいるじゃないか!
 
あ、朝比奈さん!時間戻してくれぇぇぇ!
 
 
 
涼宮さんの告白を聞いてるわたしの顔は真っ赤かもしれません。それに、あんなにわたしや長門さんに嫉妬する涼宮さんは
初めてじゃないでしょうか。
 
と、隣の部屋で涼宮さんとキョンくんのラブラブな話が続いてるせいで、わたしたちはここに缶詰です。もっともキョンくんが気を失った直後は大変でした。気を失ったキョンくんを抱きかかえて、涙を流す涼宮さん……そんなのも初めて見ました。キョンくんが階段から落ちて入院したときも涙を見せなかった涼宮さんが、です。さすがにその光景を見て、3人ともだんだんと正気に戻りました。いや、もしかしたら涼宮さんが正気に戻ることを望んだからかもしれませんね。長門さんはいつもの無表情でしたが、古泉くんは顔面蒼白になって笑顔が消えていました。おそらくわたしも……
 
その後、少し落ち着いた涼宮さんは長門さんに原因を聞いた後、キョンくんと二人っきりにして欲しいと言ったので、わたしたちはリビングを出て今までずーっとこの部屋にいました。その後は……皆さんご存知ですよね。でも涼宮さんとキョンくんの距離はぐっと縮まったみたいで……それでよかったかも。
 
でもまだ古泉くんは少し焦った顔をしています。長門さんはいつものように無表情ですが、心持ち頬が赤い気が……?? しばらくして古泉くんが小声でわたしたちに話しかけました。
「いや、朝比奈さんに長門さん、大変申し訳ありません。この混乱を止めるどころか拍車をかけるような真似をしてしまいました。」
「ううん、それを言ったらそもそもあたしが涼宮さんを説教するなんて事したのもそもそもの原因ですし。」
おまけにキョンくんにキスまでしちゃいましたから……とは恥ずかしくて言えませんです。
「ところで長門さん、マツタケがあんな効果を持ったのはやはり涼宮さんが原因ですか?」
ああ、それはわたしも知りたいです。古泉くんはじーっと長門さんが語りだすのを待っています。そのうち小声で長門さんは話し始めました。
「涼宮ハルヒが調理中、彼とマツタケについて話した際に無意識に性格が反対になるような効果を与えてしまった。」
「あ、あの…キョンくんがマツタケについて聞いてきた後の事ですね?」
「そう。でも涼宮ハルヒ自身には効かなかった模様。」
そういえば涼宮さんも食べてましたけど、性格変わらなかったですね。それはそれで何だか見てみたかった気もします。
 
「なるほど。そういう事ですか。しかしまぁ”雨降って地固まる”と言いますし、収まるトコに収まりそうですから結果オーライなのかもしれません。いや、でも僕も今回は焦りましたよ。」
古泉くんはいつもみたいに一人で納得してなにやらホッとした顔をしてます。彼もいろいろと大変なんでしょう。でもこうでもなければ、わたしはキョンくんとキスなんて出来なかったでしょうから、マツタケさんには感謝しておかないといけないかもしれません。
 
でも……だとすると、一つ疑問が出てくるのです。
「長門さん。あの、一つ聞いていいですか?」
「なに?」
「そこまでわかってて、なぜ長門さんもあのマツタケ食べたんですか?」
「……」
沈黙する長門さん。も、もしかしてもしかすると?
「も、もしかして、長門さんもキョンくんと…キスしたかったとか???」
あ、長門さん、顔が真っ赤!!