涼宮ハルヒの願望 (19-119)

Last-modified: 2007-01-25 (木) 00:46:04

概要

作品名作者発表日保管日(初)
涼宮ハルヒの願望18(実質19)-119氏06/09/1506/09/19

作品

「キョン!イースター島に行くわよ!」
ハア!?
「モアイ像の下から新たな遺跡の入り口が発見されたのよ。古代超文明の秘密が解き明かせるかも!」
本気かよっ・・・て、言いかけてやめた。こいつが本気じゃないわけがないのだ。
100万ワットの明るさの笑顔の主張に比べたら俺の反論は蝋燭の炎くらいしかない。
ふう。それで。いつ行くんだ?
「何言ってんの!?今日に決まってるじゃない!!!!」
何がどう決まってるのか地球上のあらゆる法則を頭の中で確認するため
俺は3秒あまり自分の肉体の時間を停止させた。
と、誰かがドアをノックしている。
嫌な時に嫌な奴が来る嫌な予感がするぜ。
そこには嘘くさい笑顔を振りまくいけすかない総務部長がいた。
「こんにちは、涼宮博士。手配は全て完了です。
今夜8時にハイヤーが自宅にお迎えに行く事になってますので宜しくお願いします。」
古泉・・・お前は一生ハルヒの太鼓持ちをやるつもりなのか?
イースター島だぞ、イースター島。地球の裏側にある孤島だ。
どう考えても手配して出発できるのは早くても1週間後くらいだろ。
遊園地に遊びに行くんじゃないんだ。機関のバックがあるとは言え無茶すぎるぜ。
「あなたもお気をつけて。すばらしい大発見を期待してますよ。」
こいつの社交辞令はもう聞き飽きた。顔に「スマイル・・・0円」と書いてあるぞ。

 

ここは某古都にある国立大学の研究室。
そして俺は日本で超有名な博士の助手兼運転手兼雑用係おまけに婚約者となっていた。

 

それにしてもハルヒの行動は高校時代から変わってない。思いついたことをすぐに実行しちまう。
それで俺が大変な苦労を背負い込むことになるのだ。
アマゾンの密林探検で毒蛇とにらめっこなんざもう二度とごめんだぞ。
しかも偶然かなんだか知らんが、それなりに重要な発見をしちまうんだから余計に性質が悪い。
おかげでこいつのやる研究は自由自在。専門も何も関係なし。予算沢山フリーパスだ。
そのうち国から殺人許可証も発行してくれそうな勢いだ。

 

イースター島か。首の下が「神人」ってのだけは勘弁してくれよ。

 
 

ああそうだ。これまでの事を少しだけ話しておこう。

 

俺がジョン・スミスだと告白した後、ハルヒは人生を惑わされた責任を取れと言い出した。
おかげでSOS団の中で俺だけ同じ大学へと無理やり付き合わされた。それがここ。
つきっきりで勉強を教わった一年間は本当に地獄だったよ。
世界を救って神様から御褒美でもあるのかと思ったら、逆に重い十字架を一生背負わされるとはねえ。
俺は21世紀のイエス・キリストかもな。1000年後には世界の1/3は俺の信者になってるね。

 

朝比奈さんはもう大丈夫だからと(何が大丈夫なんだ?)、未来に帰っていった。
いつかまた会う時が来るって言ってたが、世界の危機じゃなくても会いに来ていいんですよ。
懐かしいとか、ただ会いたくなったとかでも俺は全然OKですからね。

 

長門は感情が生まれたことが進化したとかで情報ナントカ体から独立を許され
ハルヒの監視業務を離れて旅に出た。自分を見つめなおすとか言っていたが、
ごめん。長門。別れ際の泪は今思い出しても切ないぜ。

 

古泉は心配性なのか、はたまたハルヒを利用して世界征服を目論んでるのか
なんだかんだで俺たちの近くにいる。何故か今はハルヒの大学の総務部長だ。
もうハルヒは安定してるらしいし転勤とかしてくれないのかね。

 

朝比奈さんと長門が去って残ったのがハルヒと古泉・・・
これって最悪じゃないのか。もしかしてバッドエンドその4とかか?
ああ、癒されたいぜ、俺。

 

俺は飛行機の中で昔のことを少し思い出していた。

 
 

夜、俺はホテルを抜け出してイースター島を一人散策していた。
静かだ。ここは南半球だから北斗七星の代わりに南十字星が見える。
波の音とそよ風、満天の星、空を見るモアイ像。
恋人とのデートなら最高のムードなんだが。ねえ。

 

「あの・・・」
誰かが後ろから呼び止める。その声は聞き覚えがあるぞ。
その人は俺の記憶通りの可憐でかわいくてすてきな人だった。
朝比奈さん・・・・・・久しぶりですね。
「うん。でもわたしはさっきもキョン君に会ったばかりなんだけど・・・
あっごめんなさい。今の忘れてください。ああ、又怒られちゃう。」
そうは言ってもねえ。もう聞いちゃったし。
ああ、そうですか。大変なんですね。未来はもう大丈夫だったのでは。
それにこういうときは大人の方が来てましたが?
一応朝比奈さん(大)には触れないでおいた。
朝比奈さん(小)はもじもじしながら答えた。
「私、まだ研修中で・・・本当ならそんな重要な任務にはつけないんですけど
色々事情があって、その・・・上司から厳しく命令されてるのでしかたないんです。」
困ったような泣きそうな顔をしながら横を向いた。
「朝比奈さんに無理やりやらせるなんて酷い上司ですね。いつか俺が文句言ってやりますよ。」
「今のキョン君になら話せるんですけど・・・・・・私の上司は長門さんなんです。」
!!なんだって。未来では長門がタイムパトロール隊の隊長なのか。どうなってるんだ?
「それ以上は禁則事項で言えないんですけど。とにかくキョン君にお願いがあって来たんです。」
パーフェクト上司とドジッ子部下か。朝比奈さんが長門を苦手する訳だ。
それで?又世界の危機でも起きそうなんですか?
「禁則事項です。」
「でも、わたしの個人的なお願いでもあるんです。」
もちろん聞いてやらねばなるまい。世界を救い、可憐な乙女の願いを聞くのが勇者というものだ。
「実は、今から涼宮さんと一緒に散歩して欲しいんです。」
おお、勇者よ!そちは世界を救うために今からドラゴンを倒しに行かねばならない。
朝比奈さんがそう言うなら。散歩するだけでいいんですよね。ちょっと念を押しておく。
「はい。それだけでいいんです。ありがとうございます。」
こっちが恐縮するくらいぺこぺこしながら瞳をうるうるさせていた。
「キョン君。世界でたった一人の私の・・・さようなら。」
そう言い残して朝比奈さん(小)は去っていった。

 

一人残された俺はカメラを持って来ていない事に気が付いて死ぬほど後悔していた。

 
 

なあ、ハルヒ、散歩でも行かないか。
普段なら決して言わないような事を言ってみた。
「何。なんか発見したの?」
ハルヒは部屋で寝そべりながらロンゴロンゴ文字の書かれた本に見入っていた。
こいつなら一晩で解読しそうだが、まあ今は世界的発見にはちょっと待ってもらおう。
風が気持ちいいぞ。それに星も綺麗だし・・・・・・
嘘くさいし声がちょっとうわずってる。何か企んでるかのような不自然さだ。
「まあいいわ。あんたが言うなら。」
そう言うとハルヒは本を閉じて髪をまとめ始めた。
説得用のシナリオをいくつか用意したのだがあっけなかったな。
ミッション成功!これで朝比奈さんとの約束は果たしたといってもいい。
5分くらい散歩したら、ハルヒのことだから探索すると言い出して
俺は一人ホテルに戻ることになるだろう。
そうしたら又朝比奈さん(大)or(小)に会えるかもしれない。
「さ、行きましょ!」ジャケットを羽織ると髪を撫で上げた。

 

「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
無言が続く。おい、なんか気まずいぞ。別にけんかした恋人同士が歩いてるわけじゃないし
けんかもしてないし、そもそも俺たちは恋人同士なのか、何故か婚約しているが、それには
訳があって世間一般で言うところの婚約者ではないし、民法上で婚約とは・・・
などど俺がロジックを組みたてていると、ハルヒが先に口を開いた。
「ねえ。憶えてる。七夕の時の事。」
ああ。
「あの時、私は願いを書いた。」

 

『世界があたしを中心に回るようにせよ』
って願いなら、俺から言わせればもう何年も前から実現してるぞ。
あーそうとも。俺は回されてる方だが。

 

『地球の自転を逆回転にして欲しい』
これは宇宙人と未来人と超能力者が全力で阻止してきたし
これからもするだろうけどな。

 

こいつもセンチメンタルな気分になったりするのかね。
ムードとかには絶対流されないやつだと思っていたが・・・。
ハルヒは立ち止まって夜空を見上げた。

 
 

『わたしは、ここにいる』

 
 

「16年後に願いが叶ったわ。」

 

んーと、今日は日本時間で言うと、ああ、そうか7月7日か。
しばらく空を見上げていたハルヒはこっちを向くと
「キョン!」
ハルヒは仁王立ちなり最高の笑顔を見せてくれた。
ああ、本当に最高だったよ。本気度1000%の。
「子供を作るわよ!」
ななな、何を言ってるんだ。
「世界が私を中心に回り出したら忙しくなるじゃない。
次の願いが叶う前に子供を作っとくのよ。」
俺は初めて朝倉に殺されそうになった時より動揺して
自分でも何を言っているのかよくわからないでいた。
どどど、どうやってでしゅか。
「この馬鹿キョン!さ、ホテルに戻りましょ!!」
ただ散歩していただけなのにどうしてこうなるんだ。
朝比奈さん、これがあなたのお願いなんですか?
頼む!誰かこの物語の結末を俺に教えてくれないか。
何か落ちがあるんだろ。どんでんがえしが。
こ、子供ねえ、こりゃまたずいぶん急なことで。
ハルヒの子供なら成績優秀、スポーツ万能だろうなあ。
よかったなあハルヒ、ははは・・・・・・
ついでに超我侭な性格も20%くらい増量されるに違いない。
地球の自転軸が2つ必要になるぞ。いや、世界が2つ必要になるかもな。
これは世界の危機じゃあないのか!!
「だめよ!そんなの!わたしはね、かわいくてドジで守ってあげたくなるような子がいいの。
それがわたしの理想の女の子像なんだから。そうね、例えて言えばみくるちゃんみたいな。」