犬ハルヒ (21-469)

Last-modified: 2007-02-07 (水) 23:37:19

概要

作品名作者発表日保管日(初)
犬ハルヒ21-469氏06/10/0406/10/07

作品

朝、教室に来た俺の目にまず飛び込んだのは、ハルヒの座席に鎮座する子犬だった。
「??」
白くて毛のふっさりした座敷犬だ。俺はイヌの種類は解らないが、ちょっと前まで金融会社のCMに出ていたアレと同じ種類だな。
いぶかしげに見る俺に尻尾を振って、イヌはくーんくーんと哀願めいた音を出している。
ん?よく見るとそのイヌ、黄色いリボンをしてるではないか!
首輪の代わりだろうか?その犬の首にはいつも見ているあのリボンが結ばれていた。
えっ?コイツまさか・・・・ハルヒか?
ああ、そう言われてみれば何となく、大きくて漆黒の宇宙空間を宿していそうな瞳とか、雰囲気がハルヒっぽい。
「どうしちまったんだよハルヒ。こんなイヌ畜生になんか成りさがっちまって・・・。」
犬の前足のわきに手を入れて、目線の高さまで持ち上げた。
すると犬は待ってましたという感じで、俺の顔をぺろぺろ嘗めようと舌を伸ばす。
「うぉっ!ハルヒ!くすぐったい!」
思わず手から犬を落としちまった。が、犬はすぐに立ち上がり机の脚のニオイをかぎ始め、
その周りをぐるぐると回ると片足を上げて小便を始めた。
「あっ、こらハルヒ!そんなところでおしっこしちゃだめだろっ!」
「す、するかー!」
いきなり後頭部を蹴られて、俺は湿った机の脚に顎を思いっきりぶつけた。
「う・・・・」
「ちょっと、アンタ頭に虫でも湧いた?なんで私が教室でおしっこしてなきゃいけないの?ワケわかんない!」
背中越しに振り返ると仁王立ちで顔を真っ赤にしたハルヒが抗議している。
クラス内は、数人が興味津々という顔でこちらを盗み見ている。
なんだ・・・勘違いか・・・・。
結局、犬は校舎に紛れ込んできたどこかの飼い犬のようだ。黄色いリボンは、その飼い主が結んだ物だったのか?
犬はその後も教室に居座り続け、なぜか俺の足の辺りをうろうろしてたり眠ったりしていた。

 

放課後、文芸部室に顔を出す。犬も俺の後を付いてきた。
懐かれたのか?どうしたもんかな・・・・
部室のドアをノックすると間髪入れずにドアがガバッと開いて制服姿のままの朝比奈さんが
「キョン君っ!長門さんが・・・・!」と叫び、俺を部室に引っ張り込んだ。
なんだかいつもとは様子が違う朝比奈さんに少しドキドキしながら、彼女の視線の先を追う。
「長門・・・・」
長門は椅子に座って本を手にしているのはいつも通りなんだが、ちょっと問題的な行動をとっていた。
いわゆる「呪文」だ。
あの何か宇宙的な力を発揮するときに発するあの倍速リバースがかったような呪文。
長門は虚空を見つめたままそれを延々と繰り返して発していた。
コレやばくないか?ハルヒが来る前にやめさせないと面倒なことになるんじゃないか?
俺はとりあえず長門の両肩を掴んで「おい」と呼びかけてみた。
すると、呪文は停止し数秒のインターバルを置いて、長門は「再起動」とつぶやいた。
「えっ?おい、長門、大丈夫か?」
「問題ない。システムチェック完了。カーネル、シェル共に異常なし。」
「そ、そうか・・・」
わけが解らないけど、問題は無さそうだ。
「今、どうなってたんだ?」
「私のメインプログラムのダウンロードおよびアップデートをしていた。現行バージョンは4.0にアップデート。」
「ふーん、アップデートすると何が変わるんだ?」
「今回のアップデートで、物体の属性情報の変換や置換が可能になった。」
「属性情報?」
こくんと頷く。
「たとえば・・・その犬。」
長門は俺の足元にいた犬を小脇に抱えた。犬が長門の頬をぺろぺろなめ始めたので、長門もくすぐったそうだ。
「この犬の属性情報を、別の物と置換してみる。」
長門が呪文を一瞬だけ唱えた。
「おっはよー」
だがそのとき、ドアを開けてハルヒが入ってきた。なんて間の悪い奴・・・・
「あ・・・」
長門が一瞬だけ戸惑ったような顔をしたのを俺は見逃さなかった。しかし、それどころじゃない事態が俺を待っていた。

 
 
 

「・・・・・」
「おぃ・・・ハルヒ?」
「停まっちゃいましたよ・・・・涼宮さん」
俺と朝比奈さんがハルヒの顔をのぞき込む。口を小さく開けたまま、ハルヒは停止していた。
だが。数秒後・・・
「キョンーーー!!」
いきなりだ!ハルヒが俺に思いっきりタックルをかましてきた。
「ぐぉ!」
「キョン!あそぼ!あそんでよー!」
俺を押し倒してもなお、ハルヒは俺に迫ってきた。
顔中をぺろぺろなめられて、もうなにがなんだかわからない。
そして犬の方はと言うと、あろうことか朝比奈さんのスカートの端をくわえて必死に脱がそうとしていた。
「いやん、やめてくだひゃ~い」
なんちゅうか、エロ犬?
「わかりました!ちゃんとメイド服に着替えるから、脱がさないで~!」
ああ、そういうことか。ハルヒが犬属性に変わって、犬がハルヒ属性に置き換わったのか。
「そう・・・。朝比奈みくる属性と入れ替えるつもりだったけど、タイミング悪く涼宮ハルヒが割り込んできたので
 こうなってしまった。」
それでも一応結果に満足してるのか、長門はその光景をしっかりとまなこに焼き付けているかのように眺めている。
「で、わかったから早く元に戻してくれよー」
俺のシャツを掴んで顔を胸にスリスリしてるハルヒは正直もの凄く可愛かった。
それはもう、主人に懐いた犬そのものの喜びようで、ハルヒ自身ににぶんぶん降られる犬の尻尾が付いているような
錯覚に陥ったほどだ。
でもさすがにこの事態は異常だ。惜しいと思う気持ちもあるがとりあえず元に戻してほしい。
しかし長門はちょっと困ったような目をこちらに向け、こう言った。
「問題が発生したため長門有希を終了します。ご不便をかけて申しわけありません。」

 

「うわっどうしたんですかコレは!」
古泉が来たとき、文芸部室はちょっとしたカオス状態だった。
ハルヒは床に仰向けになった俺に上からしがみついては、ほっぺた同士をスリスリこすりつけたりぺろぺろなめたりしてるし、
朝比奈さんは犬にスカートの裾を引っ張られながら泣いてるし、長門は直立したまま壁に頭をぶつけたような状態で
斜めまっすぐにその壁に寄りかかってるし、さすがの古泉も面食らったようだ。
「こ、古泉!うわぶっ!長門が強制ン終了した!再起動できるか?うぷっ」
叫んでる途中もハルヒが「キョン!キョン~!」っと言いながらぺろぺろなめてくるので喋りにくいったらありゃしない。
「しょ、少々お待ちください!」
古泉は本棚の上の段から何かのマニュアルのような本を取り出した。
タイトルは、「TFEI 困ったときに開く本」と書かれてる。ってそんな本あったのか!?
「はやく~」
朝比奈さんの悲鳴のような訴え。見るともうスカートは彼女が引っ張ってる部分以外は完全にずり落ちてるではないか!
恐るべきパワーだ、ハルヒ犬!
「ええ~っと、あった!」
「対処法が見つかったのか?早くナントカしてくれ!」
「まだです。とりあえず、サポートセンターの電話番号を見つけたので、そこにかけてみます。」
古泉は携帯を取りだしてその番号を打つ。これは時間かかりそうだなぁ・・・。
「キョン!お散歩行きたい!お散歩いこ!」
ハルヒに首根っこから持ち上げられ、半ば窒息状態で俺は立ち上がった。
「対処法を聞いておきますから、しばらく涼宮さんと散歩してきてください。」
古泉に送られて、俺はハルヒに強引に引かれながら部室から飛び出した。
古泉、お前も外に出てろ!朝比奈さんは今アラレもない姿なんだぞ!

 
 
 

渡り廊下を歩く俺とハルヒ。
ハルヒは俺の腕にぎゅっとしがみついて、もうゴキゲンな表情だ。
「ねぇねぇキョン!楽しいね!」
「ああ、そうだな。はぁ・・・ハルヒ、外じゃ粗相の無いようにしろよな。」
「うんうん、だーいじょうぶ!まっかせて!」
ホント、超ゴキゲンだな。まるで盆と正月とクリスマスとこどもの日がいっぺんに来て、
お年玉月年賀はがきの一等と宝くじに当たったような上機嫌ハルヒ。
対する俺は、周囲の目が気になって仕方ない。
そりゃそうだろ。学校内でこんなラブラブバカップルが人目をはばかりもせずに練り歩いてるんだから。
しかもこんな時に限って知り合いに出会いまくるときたもんだ。
まず鶴屋さんに大笑いされ、国木田と谷口には好奇の目で見られた。
俺はもう真っ赤になるしかなくて、そんな様子も笑いのタネとしては十分のネタだっただろう。
ハルヒはず~っと俺にしがみついてて、離そうとしてもイヤダヤダと拒みまくるし。
だが同じクラスの佐伯や成崎と鉢合わせたときハルヒは、犬同士が牽制し合うように露骨に嫌悪感を顔に出して
「何見てんのよ!あっちってよ!」
と喚きちらしてた。困惑顔の二人。すまんね、あとで謝っておくとするか。
「キョン~、おしっこしたくなった」
「えっ、ちょっとまて。こんな所でするな!今トイレに連れていくからな!」
「え~、平気だよ。」
「俺が平気じゃない!」
「じゃ。一緒に入る?」
と、ハルヒが指さしたのは女子トイレだった。なんだ杞憂か。驚かせるなよ・・・・。
部室に帰ると、朝比奈さんはバニーガールに変わっていた。
古泉はまだサポートセンターと連絡をとっているようで、長門はいまだ壁に立てかけられたままだ。
今夜は長い夜になりそうかな・・・・

 

で結局、日付けが変わった頃に長門は自動的に再起動した。
古泉はもう根も果てたのか、その場にへなへな崩れ落ちてしまうし、ハルヒは俺を掴んだままくーくー寝てるし、
朝比奈さんはバニー姿のまま犬を抱いて机に頭を預けて突っ伏している。
そんな状況を見て長門は
「ユニーク」
とのたもうた。初めて、コイツを心の底から憎いと思ったね。

 

翌朝、長門の自動デバッグ機能で不具合が取り除かれたらしいプログラムでハルヒは元に戻った。
「今回は私の責任。この属性変換機能は封印する」
と愁傷に言う長門に、誰が怒りをぶつけられただろうか。
長門のおごりでお好み焼きでも食べに行こう・・・という話で、今回の騒動はすんなりとまとまった。
ただ、ハルヒはその後に目を覚ましてから、
「ん・・・なんだかわかんないけど凄く疲れた」
と言って、そのまままた寝てしまった。俺の胸で。
おーいハルヒ!俺はいつまでこうしてればいいんだ?