王様と奴隷 (92-20)

Last-modified: 2008-06-20 (金) 00:30:18

概要

作品名作者発表日保管日
王様と奴隷92-20氏、36氏、43氏、20氏、50氏08/06/1808/06/19

作品

「……ちょっと、もうダメなの? だらしないわねえ。腰の鍛錬が足りてないんじゃないの?」
 無茶言うな。俺だって初めてなんだ……っ! あくぁっ……スマン、ハルヒ……も、もうダメだ……っ!
「えっ?! ちょ、ちょっと待ってよ! やだ、危ないってば! キョン!」
 非常に残念なことだが、ハルヒの必死の制止も空しく俺は果てた。
 そして文字通り『グッタリ』といった体でハルヒに身体を重ねる。下半身がまるで自分のものではないようにビクビクと痙攣している。
 だめだ。一歩も動けん。
 俺は荒い息を吐き続け、下敷きになっているハルヒにもう一度詫びた。
 すまん……ハルヒ……。
 
*****
 
 放課後の部室。長門も古泉も進路面談で、朝比奈さんは鶴屋さんと大学見学。そんなわけで現在ここには俺とハルヒの二人しかいない。
 俺は読みかけのマンガのページを捲りながら自分で淹れた美味くもないお茶をすすっている。ハルヒはといえば、せっかく俺が淹れてやったお茶を一気飲みしてから味に関して原稿用紙一枚分くらいの苦情を陳べて、現在はネットサーフィン中だ。
 まぁ部室にいるのが二人だけであるということを除けば、いつもと変わらぬ日常風景ってことだな。問題はこいつが退屈しのぎに、またぞろ突拍子もないことを言い出さないかどうかってことくらいかね。
「ヒマねー。まーったくヒマ。ネットも面白い記事とかないし……ねーキョン、つまんないわよ。あんたなんとかしなさいよ」
 相変わらずの無茶振りをしやがる。なんとかしろったってここには何にもないぞ。まぁ強いて言えば古泉のコレクションがあるにはあるが、俺はお前とゲームに興じるつもりはない。俺の読書タイムの邪魔をしてくれるな。頼むぜ。
「読書ったって、あんたそれマンガじゃないのよ」
 バカにしたもんでもないぞ。谷口オススメの一冊だ。まー内容はあってないようなもんだがな。ちなみに今のはシャレってわけじゃない。
「んなこたわかってるわよ。で、どんな本なのよそれ?」
 んー……俺たちが生まれた頃の漫画雑誌に連載されてたラブコメモノだな。なんでも古本屋でまとめ売りしてたのを見て、谷口が『ぴーんと来た』らしい。他にも何冊かあるがヒマなら読むか? 又貸しは出来んがここで読む分にはかまわんだろ。
「ふーん……まぁバカ口のオススメなんて面白いわけもないだろうけど、どーせヒマだしね。でも途中から読んで話のスジとかわかるもんなの?」
 ああ、その心配には及ばん。オムニバスっていうのか? 一話完結、もしくは前後編とかだから別に問題ないと思うぜ。ほれ。
 そういうと俺は通学バッグから二冊ほどの在庫を取りだしてハルヒに渡した。ハルヒは受け取ると団長席にのけぞる様に座って、ペラペラとページをめくり出す。読むというよりは品定めしているらしい。
「へぇ……結構キレイな絵じゃない。でも服装のセンスが古いわねー」
 だから俺たちが生まれた頃のマンガだっつーの。
「あそっか。ま、いいわ。それじゃキョン、あたし読み始めるから、お茶のお代わりちょーだい」
 へいへいっと……。
 
 それから十分ほどだろうか、最初は「はぁ?」だの「バッカじゃないの?」などと時折イラついたような感想を独りごちていたハルヒだったが次第にのめり込み始めたようで、今では熱心に読んでいる。
「……な、なるほどね」
 パタン、と団長専用PC卓に単行本をおくハルヒ。その音に目を向けるとハルヒは顎の下に指をあてて何やら思案顔をしている。
 どうした? なんか発見でもあったのか?
「……え? へ? あ、いや、なんでもないのよ。うん」
 それならそれでいいんだが。ってなんだ?
 思案顔を解いたハルヒは、席を立つと俺のところまでつかつかと音を立てて進んでくる。なんだ? 他の巻貸せってか?
「違うわよ。ね、ねえキョン。ちょっとゲームやんない?」
 は? さっきも言ったがお前とゲームやるつもりはないっつっただろ。将棋もチェスもオセロも、お前と俺とじゃ勝負にならんじゃないか。古泉みたいに負け戦にわざわざネギと鍋背負って立ち向かう趣味はないからな。
「ちっがうわよ。そんな頭使うのじゃなくて……ま、まぁ頭は使うかも知れないけどね。どっちかっていうと頭の体操よ!」
 頭の体操っつってもなぁ。
 仕方なく俺は読みかけの漫画を閉じる。ハルヒはといえば俺の返事も聴かずに朝比奈さんのお茶棚ゾーンでなにやらゴソゴソやっているようだが……。
 で? なんだってんだ?
「えーとね……よしオッケー。じゃーん!」
 セルフ効果音と共に差し出されたのは一対の割り箸。先端を拳で握っている。
「王様と奴隷ゲーム!」
……スマン、なんだって?
「だからー王様と奴隷ゲームよ。このクジを引いて、先っちょに書かれたとおり王様と奴隷になって命令を出すの!」
 この上なく簡潔な説明だが、それのどこが頭の体操なんだ?
「ふふん。このゲームはね、ただの王様ゲームじゃないのよ。なにしろ二人しかいないんだから命令をされる側とする側だけでしょ? だからね、命令に工夫をするのよ。まぁ縛りをいれるってわけね」
 相変わらずよくわからんが、どういうわけだ?
「五十音順に命令をするの。あいうえおかきくけこーってね」
 うーん……? ああ、なんとなくわかったぞ。つまり最初に王様を引いたら「あ」から始まる命令をしなきゃいけないんだな? で、次が「い」から始まる命令ってわけか。
「そ! なかなか察しがいいじゃない! それともう一つね、命令はここですぐ出来る事でなきゃダメ。頭使うでしょ?」
 なるほどね。こりゃ確かに頭の体操にはなりそうだ。確率は二分の一。仮に激運女のハルヒが王様になり続けたとしても、命令の内容は制限されるってわけだ。
 それにハルヒが最初に王様になっても、ここで出来る事っていう縛りがある上に「あ」から始まるものだから、えーと……「アンコールワットに行って地雷を片づけて来なさい!」なんてことは命令出来ない、と。なるほどなるほど。
 逆に俺が王様になる可能性もあるわけだが、その時に普段の復讐とばかりに無茶な命令はできないし、その時の命令の頭文字は指定されるわけだ。
 ふむ。面白そうだ。よし、受けて立とうじゃないか。
 実のところ退屈していた俺は、ハルヒの対戦要求を受けて立つ事にした。ついでに最後の質問をぶつけてみる。
「最後はどうするんだ?『ん』から始まるのはないだろ?」
「それもそうね。まぁその前にきっと降参することになるだろうけど」
 降参? どういうこった? 命令が浮かばないときとかか?
「それもそうだし、その命令にどうしても従いたくないってときは降参すればOKってことね。あと出来ないときも負け」
 ほー。随分とお優しいじゃないか。敗北と引き替えだが拒否権もあるってことだな。
 そこそこの命令ならリベンジの機会もあるわけだし、拒否するか従うかも駆け引きってこったな。OK。全て把握したぞ。日頃の恨みを晴らしてやろうじゃないか。
「ふふん! 雑用係のあんたに永世絶対君主たる団長が負けるわけないでしょ? さ、一回戦行くわよ?」
 
*****
 
 こうして俺とハルヒのゲームは開始された。
 一回戦目、御題は『あ』だ。言い出しっぺのハルヒが優先権を与えてくれたので、俺はハルヒの手から割り箸を一本抜いた。
 念のため目を閉じて引かされたのは言うまでもない。もちろん指先の感覚で割り箸の形を調べるのもナシだ。
 で、王様はというと……なんと一発目は俺だった。
「あーあ、ついてないわねー。で? 命令は?」
 ふむ。御題は『あ』か……。
 俺はしばらく考えてから、空になった湯飲みを視界の隅に捉えて、命令を下した。
 よし、『あ』ついお茶を入れてくれたまえ。
「えー? まったくもー……一発目から地味な命令ねー」
 愚痴愚痴言いながらも朝比奈さんゾーンに向かうハルヒ。地味な命令っつってもなあ。派手な命令なんかしたら、どんな仕返しがくるかわかったもんじゃない。最初はこんなもんでいいんだよ。
 まぁお湯は電気ポットに入っていたので、お茶ガラを一回捨てて淹れ直すだけなんだけどな。
 それでも俺の手元には本人曰く永世絶対君主たるSOS団長の手ずからのお茶という、世にも珍しい一服が献じられたわけだ。うむ。これはなかなか良い気分だ。
 文字通り熱いんで、まだ飲めないがな。
「さー! 次いくわよ!」
 二回戦目の御題は『い』。王様は……ハルヒだ。
「ほっほっほ! さーキョン! 覚悟はいい?」
 わざとらしい女王様ボイスでの派手な笑い声。嫌な予感がひしひしとするぜ。さすがに攻守交代の一手目でギブアップはしたくないところだが……。
「そーね、じゃあキョン! あんた『い』すになりなさい!」
 くっ……そう来たか。どうすりゃいいんだ?……もしかしても、もしかしなくても四つん這いになれってか?
「わかってんじゃないの。下衆な奴隷根性が身に付いてるのかしら?」
 すっかり女王様気分のハルヒだ。誰かムチ持ってこい、きっとえらく似合うぞ。いや、やっぱりいい。叩かれる趣味はないからな。
 仕方なく俺はいつもの口癖を漏らしながら床に手と膝をついた。くっそー屈辱だ。
「貧相な椅子ねー……よいしょっと」
 さほど重いワケじゃないが、勢いをつけて座られたもんだから、ちょっとした衝撃だ。ええいこの際背中に感じる柔らかい何かだのなんだのは気にしていられん。
「やっぱお茶は出がらしよりも一番茶よねー」
 ずずずー……ってオイ! それは俺のだろうが!
「あーら? あんたが出した命令は『熱いお茶を淹れてこい』だけでしょ? 飲むところまでは命令に入ってないわ! それと! 椅子が喋るんじゃなーい!」
 のっしのっしと背中の上で暴れるハルヒ。くっそー! 絶対リベンジしてやる! 次は『う』か?『う』だと? よーし腕立てだ!
 男女の体力差など知ったことか、絶対に腕立てさせてやる! 上から見下ろして鼻歌交じりのE気分になってやるっ!
 
*****
 
 勝負は既に六回戦目を迎えていた。くそーハルヒめ……無茶な命令ばっかしやがって……。
 ちなみにこれまでの流れはこんな感じになっている。
 
 三回戦『う』・王様ハルヒ。命令『腕立て五十回』
 四回戦『え』・王様ハルヒ。命令『笑顔でスクワット五十回』
 五回戦『お』・王様ハルヒ。命令『踊りなさい』
 
……ハッキリ言おう。全敗だ。
 回数自体は問題じゃないが、突然やったもんだから腕もギシギシいってるし、笑顔をはりつけたままスクワットなんてするもんじゃない。古泉にでもやらせとけ。
 しかも一つ前の命令で、俺は五分以上不思議な踊りをさせられた。なんだあの「ウーウーウマウマ」っていうヘンな曲と踊りは! 腰が痛いわっ! 悪いインターネットめっ!
……まとめて言えば、ハルヒの命令は全て体力を消費させるものばかりで、俺は精神力も体力も確実に削られていた。息が荒くなると同時に抵抗力も思考力も低下しているのが認識できる。
「だっらしないわねー! さー次の御題は『か』よ! 引きなさい!」
 俺は呼吸を整えながら目を閉じて手を伸ばす。『か』……『か』……『かっぱえびせん買ってこい!』ダメだ。『カッコイイって言え!』ダメだ、俺が死にたくなる。『カンチョーさせろ!』勿論ダメだ、殺される。下手したらセクハラで法廷直行便だ。
 酸素を必死になって脳に送り込むが、全く有効な考えが浮かばない。そして割り箸をひいた俺が目を開けると……。
「あっちゃー……」
 王様は俺だった。よし、リベンジだ……ぜーぜー……えーと『か』……『か』……ダメだ。ロクな命令が思い浮かばない。
『か』……『か』……カイワレ、角煮、かけそば、果汁100%オレンジジュース、カツオのタタキ、カレーライス……なんで食べ物しか浮かばないんだ? エネルギー切れか?
「はーやくしなさいよー! タイムアップにしちゃうわよー!」
 非情な新規ルールを追加しようとするハルヒ。ええい、なんかないのか! えーとえーと、カレイの煮付け、カロリーメイト、だから食べ物はもういいって!
 えーと、ラ行の次はワ行か。『か』、かわ……。
「かわ? なに?」
 ぬ、しまった。どうやら口に出してしまっていたらしい。
「かわ、なんなのよ?」
 えーとだな、かわ……かわ……えーと……かわあ、かわい……。
「かわい? もーイライラするわね! なんなの?!」
 パニックだ。俺の脳はすっかり思考停止し、今にもタイムアップの審判を下そうとしているハルヒを、とにかく押しとどめることしか考えられないでいた。
「かわいく!」
「はぁ?」
 言ってから呆然とする。かわいく? かわいくの後なんだ? 何を言えばいいんだ?
 えーとえーと……か、かわいく……命令を……。
 そこで絶句してしまう。ダメだ、なーんも思い浮かばん。
「な、なによ……? か、可愛く命令しろっていうの? 次の時に……?」
 なんだかしらんが勝手に解釈されてしまったらしい。タイムアップで負けになるよりはマシだ。よくわからんが。
「そんなのルール違反じゃないのー……? そっ……そりゃ……この場でできることだけど……」
 なんかそわそわしている風なハルヒ。気のせいか顔が若干赤いような気がする。どうしたんだコイツは。
 可愛く命令しろったって、その内容が「死んで?」とかだと困るんだぞ?
……いかん、いらんこと思い出した。
 俺はトラウマ再発掘のセルフサービスを受けて思わず身震いしてしまった。見ればハルヒは相変わらずそっぽを向いてブツブツ言っている。
 とにもかくにも命令は受理されたようで、なんとかギブアップもタイムアップも免れたようだ。さて、続きだが……七回戦目の御題は『き』だ。
 前戦の奴隷が先攻なので、まだブツブツ言いながらハルヒが差し出してきた割り箸をつまんで引き抜く。
 目を開けて確認すると。うん、神さまって存在しねーようだな。再び奴隷に逆戻りだ。
 一方のハルヒは『王』と書かれた割り箸を凝視して固まっている。もしもーし。
「ちょっ……ええー?……まだ心の準備が……こんな予定じゃなかったのに……」
 どうやら独り言らしいが、心の準備をするのは俺の方だろうが。どんな予定だったのか知らんが、さっさと命令してくれ。次当たりでギブアップだ。体力も思考力もペケだしな。
 キルギスタン共和国の首都と都市名を全部言えとか、そのあたりで勘弁してくれるとギブアップもしやすいんだが……。
「え、えっと……じゃ、じゃあ命令するわよ?」
 ああ、好きにやってくれ。可愛らしく命令しろってのが、さっきの俺からの命令だったが、この際無視してくれて構わんぞ。
「……ばーか」
 そう言うとハルヒは本棚にもたれてグッタリしている俺に歩み寄ると、下から俺の眼を上目遣いに見上げた。……なんか知らんが顔が赤い。
 な、なんだ、そんな見た事もないような表情で見るなよ! 俺まで顔が赤くなるじゃないか!
 慌てて目を逸らそうとすると、ハルヒはそれを妨げるかのようなタイミングで俺のブレザーの袖をきゅっとつまんだ。
「……キョン……?」
 な、なんでしょう?
「あ、あたしね。あたし……に……その……あたし……」
 言い淀むハルヒ。可愛く命令っていうさっきのオーダーを果たしているのであれば、大した演技力だ。今のコイツは仕草といい声色といい、見た事もないくらいに、その、なんだ――可愛い。
 思わず喉を鳴らして唾液を飲み下してしまう。
「その……あのね……えっと……キ……」
……『き』……?
 ハルヒは上目遣いに見上げていた顔を伏せてしまう。
「その……キ……」
……『き』……?
「えっと……キ……て……」
……なんだって? ごにょごにょ言ってたんじゃ聞き取れんぞ?
「だ、だからあ! キっ……キ……」
……『き』……?
 そろそろ二人して顔色ごとサルになりかけたとき、我慢しかねたのかハルヒは顔をあげて命令を下した。
 
「キ……騎馬立ち20分しなさいっ!」
 
*****
 
 騎馬立ち。空手や中国拳法の基本姿勢の一つ。文字通り馬に跨るが如く足を拡げ腰を深く落とす立ち方。中国拳法では站椿(馬歩站椿)とも呼ばれ、下半身の安定感と筋力の基礎鍛錬に用いられる――。
 
 そんなことを格闘技経験ゼロの俺が突然やったところで、そうそう長い時間耐えられるわけがなかった。
 オマケに、その前の腕立て&ヒンズースクワット&ウマウマ踊りで俺のライフは限りなくゼロだ。
 深夜に観た若き日のジャッキー・チェン映画の師匠よろしく、キセルではなくアクリル定規でビシビシと姿勢を矯正するハルヒ。
 結局10分はなんとか耐えただろうか……後ろに回ったハルヒに「腰が高い」と膝裏を叩かれた次の瞬間、俺は崩れ落ちるように倒れ込んでしまったわけだ。
 後ろにいたハルヒごと、な。冒頭のアレはそういうわけなんだが……。
 
「いたたたた……ちょっとバカキョン! どきなさいよ!」
 そうしたいのは山々なんだが、足がいうことをきかん。ついでに言うと腕もだ。なんとか転がってどくから、もうちょい待て! よっ……と。
「ったく……! ってどこ触ってんのよ! 変態! エロキョン!」
 いたたたた! 定規で叩くな! 別にどこも触ってねーだろ! って、おわっ……もふっ!
「やっ……ちょっ……こら! 変なトコに顔押しつけるなっ! きゃっ……」
 
――ガチャ。
 
「……おやおや、これはこれは……お邪魔でしたね。それでは失礼します。あ、大丈夫ですよ。長門さんには今日の団活は中止だと伝えておきますので。まだ本校舎にいるはずですから……それでは、ごゆっくり」
 待て古泉! 誤解は後でゆっくり解くとして、とりあえず俺を助けろ!
 そう言ったつもりだったのだが、ハルヒのふくらみに遮られて、もがもがとしか言えない。そして閉まるドア。硬直する俺とハルヒ。
「……こっ……このエロキョン! ど・き・な・さ・いーっ!」
 数秒の沈黙の後、我に返ったらしいハルヒは潜り込ませた両足を思い切り突っ張って……というかナイスなほどの蹴りで、俺の身体を吹っ飛ばした。
 やれやれ離脱成功だと一息吐く間もなく、追加のダウン攻撃。
 いってえ! お前なー! 教科書入りの通学バックは既に鈍器だぞ!
「うっさい、このアホンダラゲ! 帰る! バカ! エロ! アホーーー!」
 言いたい放題に叫んで部室を出て行くハルヒ。それでも理性のカケラが残っていたのか一旦閉めたドアを開くと、まだへたりこんでいる俺に部室の鍵を投げつけてきた。
「バカキョン! 鈍感!」
 二度目の捨て台詞も一緒に。
 なんだってんだ全く……そりゃコケて巻き込んだ俺が悪いのは仕方ないから、どんな罵りを受けようとも甘んじるしかないが、最後のはなんだってんだかね。
 
 俺は口癖をつぶやくと鍵を拾って立ち上がる。あいててて、こりゃ明日筋肉痛決定かね。
 帰り支度をしようと谷口のマンガを拾い集めてカバンに詰めながら部室を見渡すと、机の上には七回戦で王様と奴隷が決まって以来うち捨てられたままの割り箸が一対。
 俺はなんとなしにそれを拾い上げると、制服のポケットにしまった。
 
――騎馬立ち、ねぇ。
 
 あの時、ハルヒが御題キーワードの『き』の後に続けそうになっていた五十音のどれか。
 声にこそならなかったものの口の形は……。
 俺の見間違いじゃなければ、子音こそわからんが母音は『A』じゃなくて『U』の形に見えたんだがね――。
 ま、いいか。
 そう呟くと、俺は我が儘で暴力的な女王……もとい、お姫様を追って、駆け足気味に部室を飛び出した――。

スレの流れ (36氏、43氏、50氏、20氏)

これはいいハルキョンw
よっし、シリーズ化して「ん」まで考えるんだ!

 

「く」=「口づけしなさい」
「け」=「結婚しなさい」
「こ」=「子供を作r(ry

 

10年後のハルキョンなら喜んで実行しそうだw

 

『き』で自分が王様になれなかったら、その『く』でリベンジするつもりだったかとw
『ち』までは粘るつもりだったと思いますよ。策士ハルにゃん(* ´Д`*)