結婚 (131-376)

Last-modified: 2010-08-03 (火) 21:53:55

概要

作品名作者発表日保管日
【結婚】131-376氏10/08/0210/08/03

作品

鏡に自分の姿を眺めながら、今更ながら緊張してきた。
何時もは適当な格好をしている…それなりの格好をしている俺であるが
今日は一張羅に身を包み、今から向かえる人生最初の節目を迎えようとしていた。
 
コンコン
 
緊張でトイレに行こうか迷っていたところに来客だ。このタイミングに誰だ?一体。
 
「はい、どうぞ!」
「どうも。今日はお招き有難う御座います。」
「…なんだお前か…」
「いや~~、そう露骨にガッカリされると此方も困ってしまうのですが。」
 
そこにはビシッ!とスーツを決めた古泉が立っていた。
ちくしょう!悔しいが似合ってるじゃないか!
 
「そうですか?量販店で売っている様な在り来たりのものですが…」
 
嘘つけ!どうせ機関かなんかであつらえた物だろ!
 
「おや、お判りでしたか。」
 
嬉しそうに話すな!ってか図星かよ!!
 
「しかしお似合いですねー。流石は本日の主役です!」
「お前本気で言ってるか?」
「えぇ大いに本気です。決してお世辞ではありませんよ?」
「ハルヒの太鼓餅だったお前に言われてもな~~」
「いえいえ。確かにあの頃はその様な振る舞いもしていましたが、今は違いますよ?」
「一々疑問系で纏めるな。で?態々そんな事言いに来たんじゃないんだろ?」
「えぇ、式を前に緊張されているのではないかと思いまして、その緊張を少しでも和らげられればと。」
 
やれやれお見通しか。まぁコイツの元の仕事は観察だったからな、そういう事には長けてるんだろ。
正直に言ったら、マジで緊張に耐えられないところだった。
人生でコレほど緊張した事は嘗てあっただろうか?いや無い!
 
「しかし驚きました。」
「何が?」
「貴方と涼宮さんです。僕としましては後2年後かと思っていたのですが。」
「アイツに言わせたら何時やっても同じなんだと、だったら早い方が言いそうだ。」
「なるほど涼宮さんらしいですね。」
「…ところでこの式場も機関関係なんだろ?」
「ご明察です。恐らくこうなるであろうと思いまして準備をしておきました。」
「この為だけにか?」
「勿論一般の方にもお使い頂ける様にもなっています。如何に機関でもこの様な会場を遊ばせておきませんからね。」
 
思えばコイツとの付き合いも結構長くなったな。恐らく…いやきっと一生の付き合いになるんだろう。
今一度自分の姿を見直してみた。
やはり衣装合わせの時から思っていたが不釣合いだな…
 
「…なぁ古泉」
「なんでしょう?」
「……俺はアイツに………ハルヒに相応しいだろうか?」
「その答えは僕ではなくご本人確認された方がいいと思います。勿論、答えは決まってると思いますが。」
「………」
「…もうお時間のようですね。では僕は式場でお待ちしております。…大丈夫です、貴方はこの世界の女神に選ばれた唯一の人です。」
 
そう言い残して古泉は部屋を出て行った。
 
「この世界の女神に選ばれた唯一の人ね…」
 
…あぁもう!うじうじ考えてもしょうがねーーー!!もっと自分に自信を持て俺!!
考えてもみろ、相手は“あの”ハルヒだぞ!
例え世界がこむら返りを起そうとも決して自分の決めた道を行く奴だ!
その道中に不要な奴を一緒に連れて行くか?少なくとも俺はそんな事はしないね。
よく考えろ!何度も自問自答した事だ!
『ハルヒが俺を如何思ってるか』じゃねぇ!『俺がハルヒを如何思ってるか』だ!!
 
「決まってるだろ!俺はこの世界で誰よりもハルヒを愛してる!!」
 
なんだ判ってんじゃねーか。だったらグジグジ考えんな!自分の決めた道を行け!!
アイツに引っ張られるんじゃなくて此れからはあいつを引っ張っていくんだからな!!
 
「よっっっっしゃぁーーーーーーーーー!!!」
 
気合一発!
後にも先にもこの日この時しかない。俺達にとっては大事な、そして一生の式だ。
こんな所で立ち止まってちゃ何にも始まらねーーーー!!!
 
俺は行きよい良く部屋の扉を開け放った。
この先に俺達の未来が待ってるんだ!これはその最初の一歩だ!!
 
ゴン!!
 
「「つ~~~~~~~~!!!!!!」」
 
その第一歩目を早くも躓いてしまった…誰だ?扉の前に立ってたのは??
 
「もう!行き成り出てこないでよパパ!!」
 
………はて?如何いうことだ?俺とは別の控え室にいるはずのハルヒが目の前に立っていた。
しかも北高の制服を着てるじゃないか。
?しかし何処かおかしい?微妙な違和感がある。ハルヒに見えるがハルヒじゃない。
…一番に目に飛び込んできたのはその頭にのってる『赤いカチューシャ』だった。
ん?赤い?
 
「ふ~~ん、コレが若いパパかぁ~~。今と結構違うんだな~~。」
「………お前もしかしなくても、俺とハルヒの「禁則事項だよ」…え?」
「そう言えって言ったのはパパだからね!ついでにあたしがココに居るのは既定事項なんだって。」
「それってつまり。」
「もうビシッとしてよねパパ!コレってあたし達の運命にスッゴク影響するんだから!!」
「…判ったよ。ココから進まないとお前には会えないって事なんだな?」
「そう言う事!」
「しかし良いのか?…その未来に影響しないのか?」
「う~~ん、パパが言うには『こっちも踊らされてばかりじゃない!』だって。」
「…なるほどね。」
「じゃぁあたしもう還るね。本当は若いママにも会いたいんだけどそれは駄目なんだって。」
「そうか。」
「じゃぁ未来でねパパ!」
 
そう言って目の前にいたハルヒに似た女の子は俺が出てきた控え室のドアを開け出て行った。
直ぐ開け放ったがもう其処には影も形もなかった。
朝比奈さんや藤原がやって来た未来は今から10数年じゃすまない先の未来だ。
つまりさっきの女の子は…
 
「…やれやれ、まだまだ退屈には早いようだな。」
 
俺はまた次の一歩を踏みだした。大事な大事な未来に向けて。
 
~~~
 
場面は変わり、今俺は式場の中に入り来賓と共にハルヒの到着を待っている。
長く続くバージンロード。その先にある扉。
その扉が大きく開け放たれた。オルガンの音が鳴り響き聖歌隊に合唱が流れる。
来賓達が見詰める中、ハルヒは親父さんに連れられて静々とバージンロードを歩いてきた。
一歩また一歩と此方に近付いてくる。それは俺達の未来に近付いてるかのようでもあった。
そうして俺の前に立つハルヒと親父さん。
親父さんに手を引かれた純白の衣装に身を包んだハルヒはこの世の誰よりも美しく写った。
 
「キョン君。…ハルヒを…娘を頼んだよ。」
「はい。」
 
短い俺と親父さんとの会話。
そうして俺はハルヒの手をさし延べた。ゆっくりとハルヒの手が重ねられた。その手を強く握り締めその腕を取った。
それに重なるようにハルヒも俺に身を投げ出してきた。
 
「ハ、ハルヒ」
「…もう…どれだけ待たせんのよ。……馬鹿キョン………罰金だからね…」
「あぁ…如何すりゃいい?」
「………決まってるじゃない」
「オホン!」
 
神父………役の新川さんが咳払いを1つ上げた。そこで『はっ!』となる俺達。
そうだった未だ式が始まったばかりじゃねーか。
 
「ほら、行こうぜハルヒ。」
「うん。」
 
そして俺達は歩き始めた。
一歩、また一歩と歩みを進めていく。
 
ここで普通なら夫婦の誓いを立てるのだが。…さてハルヒが普通に誓うだろうか?
 
「…貴方は彼女を妻と認め、共に歩むことを神に誓いますか?」
「誓います!」
 
俺は力強く誓いを立てた。
 
「…貴女は彼を夫と認め、共に歩むことを神に誓いますか?」
 
定番なら『神なんて曖昧な存在なんかに誓える訳無いじゃない!』と言いそうなんだが…
 
「誓います!」
 
ハルヒもまた力強く誓いを立てた。その横顔は晴れやかな笑顔に満ちていた。
 
「よろしい。では互いに指輪の交換を」
 
俺はハルヒの細く小さなてを取りその薬指に指輪をはめた。
ハルヒもまた俺の薬指に指輪をはめた。
互いに見詰め合う。ハルヒの眼が微妙に潤んでいた。
そのゆれる瞳に吸い込まれる様に、
 
俺達は
 
誓いの口付けを交わした
 
今日、俺達は晴れて夫婦となった。
皆からの祝福の声が届く。
長門が朝比奈さんが古泉が鶴屋さんが妹がミヨキチが谷口が国木田が阪中が朝倉が喜緑さんが
部長さんと部員達が生徒会長が佐々木が橘が九曜が藤原が…今まで出会った全ての人達が。
 
俺達は、俺とハルヒは皆からの祝福を受けて今日、ここに永遠を誓った。
 
「キョン?」
「何だ?」
「これからもあたしをヨロシクね!」
「あぁ任せとけ!」
 
この後の馬鹿な、本当に馬鹿な騒ぎは別の機会に語るとするか。
そうだな、生まれてくる娘がこういう事に興味を持った時にでも一緒に語ってみよう。
これから俺とハルヒが歩む長い道のりの最初の一歩として。