花嫁修行から嫁入り (86-861)

Last-modified: 2008-04-14 (月) 23:37:50

概要

作品名作者発表日保管日
花嫁修行から嫁入り86-861氏08/04/1308/04/14

作品

4月なのにと言うのはおかしいかもしれないが雨がしとしと…ではなく何故かざぁざぁと降っている週末の金曜日。
坂を登り、学校へ行き、いつもなら睡眠時間へとシフトしているはずの授業も中途半端な寒さのせいで起きていて眠たいままその日の授業を終えた。
その後は普段通りに部活を終え帰宅。
そこまではいつもと全く変わらないいつもの日常だった。のだが、イレギュラーな奴がイレギュラーなことをしてくれた。
「…なんでお前ついて来たんだ」
「暇だからに決まってるじゃない」
そう言われるとそうですかと言いそうになるが、
「暇なら自分の家で寝てろ」
「それこそ時間の無駄よ」
ここにいても時間の無駄にしかならないと思うんだが。
「ねぇそれよりタオルか何か貸してくんない?雨で濡れちゃったわ」
そう言って髪についた水滴を払う。
ここで払うなよ!床が濡れるじゃねぇか。
「俺の部屋でちょっと待ってろ。すぐ持っててやるから」
「ん、ありがと」
ハルヒを自分の部屋に促しタオルを取りに風呂場まで行く。
全く、帰り道歩きながら俺の腕にしがみつこうとなんかするから濡れるんだ。
そんなことを思いながらタオルを1枚持って部屋に行くベッドの真ん中にハルヒは座っていた。
「ねぇあたしの服どこ?」
「だからちょっと待ってろって」
タオルをハルヒの頭に放り投げタンスから北高の女子の制服を取り出す。
誤解するなよ?決して俺の趣味とかじゃねぇからな。ハルヒが替え用とか言って置いていったんだ。どうやって手に入れたのかは知らん。他にも色々あるが言いたくない。
「ほら」
カチューシャを外し頭を拭いていたハルヒに手渡す。
「ありがと」
「さっさと着替えろよ。風邪ひくぞ。俺は下で着替えてくるから」
そう言って部屋着をタンスから引き出し、
「分かってるわよ」
の声を背中で聞きながらドアを閉め、俺は風呂場へ。
そこで着替えながら思った。
何をやってるんだ俺は。思いっきりアイツのペースじゃないか。
よし部屋に戻ったら帰るよう申告しよう。
そう思い自分の部屋のドアを開け、
「なぁハル…」
「ねぇキョン」
着替えた制服姿で先程と同じようにベッドの上に座るハルヒに先に声をかけられた。
「なんだ」
「ご両親と妹ちゃんは?」
「ああそれなら親戚の結婚式に行ってる。まだ帰って来て無いみたいだな」
「あんたは行かなくて良かったの?」
「面倒だからな行かなかった」
「おいしいもん食べれたかもしれないじゃない」
お前みたいに食い意地はってないんだよ。
「何よ」
「なんも。それよりお前もう帰れ。親が心配するぞ」
「大丈夫よ。あたしのうちも今日誰もいないし」
「………」
なんだそのドンピシャなタイミングは。誰の仕込みだ。
そんなことを考えているとハルヒは急にぴょんとベッドから立ち上がり、
「ってことだからキョン!」
「なんだよ」
そのとっておきの悪戯が浮かんだ!みたいな笑顔は。
「今日あんたのうちに泊まるわ!」
「あぁ、なんだそんなことか、別に良い…って良いわけあるか!お前は何を…」
「いいじゃないの別に」
良くないぞ。これっぽちも良くありません。
そんなアヒル口にしても無理なもんは無理だ。
だいたい、
「パジャマも下着の替えもお前持って来てないだろ」
って俺は何を言ってるんだ!
あれば良いみたいじゃねぇか。
そうじゃなくてだな、付き合っても無い…っておい、聞いてるか?
「心配しなくても大丈夫よキョン。確かこの辺に…」
何をあさってやがるこら。
ハルヒは俺が言い訳じみたことを言っている間、俺の引きタンスを勝手に漁っていた。
「ほらあった!」
見せびらかすように広げたそれは、
「…なんでそんなもんが俺のタンスの中にあるんだ」
それは正しく下着であった。
真っ赤な紐パ…
いかん変な想像をしてしまった。
「エロキョン」
しょうがないだろ!
じゃなくて、
「だから何でそんなもんがうちにあるんだよ!」
「そ、それは今日みたいな日のために…」
「意味が分からん!」
「もう。ほんっとにニブキョンね」
だから意味分からんて。あとニブキョンってなんだ。
「まぁいいじゃないの。パジャマはあんたのジャージか何か借りれば良いし」
「まぁそりゃ替えのジャージくらいあるが…じゃねぇってだから」
「グダグダ言わないの!ていうかこんな雨の中女の子一人帰す気なの?あんたは」
こんな中ってそりゃ結構降ってるが帰れない激しさじゃ…って、
「…なんだこりゃ」
外を見ればざぁざぁどころか台風?
いつの間にか風まで吹いていて確かにこれはあまり外に出たく無い。
「分かった?」
勝ち誇った顔で胸をはるハルヒ。
はぁ、こうなったらもう誰にも止められないのは自然の摂理とでも言おうか。
「やれやれ、分かった、泊めてやるよ」
「やった!それでこそあたしのキョンよ!」
あたしのって何だ。
 
「夕飯美味かったぞ」
「そう?」
時間は過ぎハルヒ特製の夕飯をゆっくりと頂いたあとハルヒが入れたコーヒーをすすりながらの休憩タイム。
辺りは当然真っ暗闇ですっかり夜だ。
夕飯はカップラーメンから今日泊めてもらうお礼とか言うハルヒの手作りの夕食に変わった。
味はやっぱりと言うかハルヒ特製夕食は美味しかった。よくもまぁ有り合わせであんな美味いモノが出来るもんだ。
きっと良い嫁さんになるんだろうな…とか思ったり、こんな夕食を毎日食えるなら俺が…とか考えてしまった自分が憎い。
だけど一応正直に答えた。
「ああ」
「まぁあたしが作ったんだからね。当然よね」
100Wの笑顔でそう言い放つハルヒはとことん上機嫌だ。
その笑顔を何となく眺めていると、
「ねぇそろそろお風呂入らない?」
「ん~そうだな。さっき沸かしといたし丁度いいか。先入れよ。俺後でいいから」
一応レディーファーストみたいなことを言ってみる。が、
「いいわよ。あたしは夕食の片付けしなきゃだし、あんた先に入りなさいよ」
「いいのか?」
「別にいいわよ。泊めてもらってる身だし」
何と珍しい。あのハルヒが殊勝な態度を取っているではないか。
と言うか、なんだかこっちが悪い気がしてきたんだが。
「気にしなくていいから入って来なさいって」
そこまで言うなら、
「じゃ、悪いが先に入ってくるな」
「いってらっしゃい」
言うが早い、エプロンを着けてお皿洗いを始めたハルヒの後ろ姿にそう言い残し風呂へ行く。
しかし、同級生にエプロン着けさせて夕飯作らせ皿洗いさせてる高校生ってどうなんだ?
何となく花嫁修行なんて言葉が浮かんだが、身体を風呂のお湯に沈めると共に沈めた。
「ふぅやっぱり風呂はいいな、落ち着くぜ」
…何だか言ってることがオヤジっぽいな、俺。
そのまま数分湯船につかりバシャッとお湯を溢しながら身体でも洗おうかとしたところでガラッと風呂場の戸が開き、
「キョン!喜びなさい!あたしが背中流してあげるわ!」
バスタオルを身体に巻いたハルヒが入って来た。
俺はバッとタオルを取り前を隠した。
「ハ、ハルヒお前!」
座ったところだったから色々見られてはいないはずだ。
「何よそんなに嬉しいの?」
「いやまぁそうだが…じゃなくて!」
さっきからこのツッコミばかりだが察しろ。
「ふ~ん、そうなんだ」
何でそこで頬を紅くするんだよ!
風呂場の熱気で少し上気し頬を紅くしてタオルの上をちょこんと摘まむその姿は色々な意味でヤバい。
ハルヒもスタイルが良いとは思っていたが…これは…
「ちょっとそんなジロジロ見ないでよ!あたしだって恥ずかしいんだから…」
だったら入って来るなよ!
「だからお礼よお礼。あたしは団長なんだからそういうことは一応ちゃんとするの!」
いやもう夕飯で十分お返ししてもらったから良いって。
だから直ぐ様引き返しなさい。それ以上は俺のデッドラインだ。
「あたしの気がすまないの!」
そう言いぺたぺたと近寄って来るのを見てそれこそ凄い勢いで俺は前を向いた。
…もう好きにしてくれ。
何度か死線をくぐり抜けその場をやり過ごした。
ハルヒは意外にも丁寧にやってくれたが、背中に時々当たる柔らかく弾力な感触のせいで俺はその間ずっと心頭滅却を続けることになった。
はぁ、色々な意味で疲れたぜ。
出る時には一応「ありがとな」と言って早足に出たが、着替え置き場に先程のハルヒの下着や脱いだものと思われる下着があって更に気力を振り絞り出来るだけ見ないようにし着替えた。
自分の部屋に戻った俺は直ぐ様ベッドに倒れ込んだ。
アイツは今頃はゆっくりと湯船につかってることだろうが。
ふと時計を見れば既に十一時をまわっていた。
なんとなく今日は時が過ぎるのが早く感じるな。
しばらくして、眠気と戦いながらベッドの上でうとうとしていると、コンコンとドアがノックされた。
ガチャと開ければやはりハルヒで、
「よう長かったな」
「女の子はね、あんたたち男と違って時間がかかるものなのよ」
そうなのか?
まぁ髪を乾かしたりと男には分かろうとしても分からないことがあるんだろう。
「もう寝るか?」
「うん」
「妹の部屋は分かるよな?」
「うん」
ハルヒも疲れているのか眠たそうである。
パジャマ代わりは俺の学校指定のジャージを渡した。丁度持って帰ってきた後、洗っといて良かった。
ただし下は下着をはいてるが上はジャージだけ、だ。
おふくろのを、と思ったが流石に高校生であるハルヒに着させるのもどうかと思った俺は、
「悪いが直ジャーで勘弁してくれ」
と言ったところ、
「え、あ、うん」
と何とも気の抜けた返事をもらいそうしてもらった。
決して狙ったとかじゃないからな、仕方なく、だからな?な?
…が、今は猛烈に反省している。
少し胸元が開かれたジャージ、眠たそうな眼、風呂上がりでまだ熱を帯びた頬、そして唇。
上目遣いに見られ、無意識に唇を見てしまう。
艶やかな唇は思わずキスをしたくなるほど…って意識を他へ飛ばせ。何を考えてるんだ俺は。
おやすみの挨拶をしてハルヒを促す。
「じゃ、お、おやすみハルヒ」
「うん、おやすみキョン。色々ありがとね」
裸足でぺたぺたと妹の部屋へ向かうハルヒの足取りは何となく寂しそうで、一瞬呼び止めようかとも思ったが、その後ろ姿にもう一度、
「おやすみハルヒ」
と呟くだけに止め、俺は電気を消しベッドで眠りについた。
 
翌朝。
「お母さ~ん、キョンくんがハルにゃんといっしょにねてる~」
と言う声で脳だけが先に目覚めた。
…妹?もう帰って来たのか。随分早かったな。
ん?待て、声の主を先に判別したがそれよりも今何と言ったアイツは。
ハルにゃんと一緒に?
そう言えばやけに右腕が重たいし、昨日味わった感触が…って、
「ハルヒ!?」
ガバッと上半身だけ起こして見れば、俺のジャージを着たハルヒがそれはもう快眠と言う感じ横で眠っていた。
寝顔は可愛い…じゃねぇ!
部屋を見渡すが間違いなく俺の部屋だった。
「…何故ここに?」
浮かんだ疑問を口に出したのがまずかったのか右腕を掴んだままハルヒが目を覚ました。
よろよろと身体を起こす。
「あ、おはよキョン」
「あぁ、おはようハルヒ」
「え?あれ?キョン?」
ヤバい。
そう直感が伝えた時にはもう時既に遅しで、
「こんのエロキョン!寝てる間に何したのよ!と言うかなんであたしがここにいるのよ!まさか連れ込んだの!?」
ベッドの上で押し倒されて、襟を掴まれ首をガクンガクン揺らされる。
「ま、待てハルヒ!俺は無実だ!何もしてない!」
「う、嘘おっしゃい!あんたがあたしを…!」
「何もしてねぇって!」
そのままの体勢で言い争ってる間に母親が部屋まで来てベッドの上で暴れる俺たちがバッチリ見られたのはお約束だ。
「責任取りなさい!!」
ハルヒの声が部屋に響く。
やれやれ、今日も慌ただしい1日になりそうだ。

後日談

「なぁハルヒ?」
「なぁにキョン」
俺の腕にしがみついて歩くハルヒにあの時のことを聞いてみる。
「あの時何でうちに泊まっていったんだ?」
後の古泉談によるとあの台風並の大雨と暴風はうち周辺のみの局地的なものだったらしい。
つまり、コイツはわざわざ俺の家から出れないようにした、ということになる。
翌日には快晴だったからな。
「…暇だったからよ」
確かにあの時もそう言ってたな。でも、
「嘘だろ。ホントは一人で寂しかったんじゃないのか?」
あの夜の後ろ姿を思い出す。
「…だったら何よ」
そう睨むなよ、涙目で。可愛い過ぎて抱きしめてしまいそうだぞ。
「なんも。じゃぁ朝に俺の布団に入って腕にしがみついて寝てたのも寂しかったからか?」
「違うわよ。トイレに起きたとき寝惚けてたからかしらね?帰りにキョンの部屋に行ってそのまま寝ちゃった」
寝惚けてただけかよ。
じゃぁ、あの「責任取りなさい!!」で思わず「分かった」って言ってしまった俺は一体何だったんだよ。
「いいじゃない別に。それとも何?嫌なの?」
だからそんな涙目で言ってくれるな。
今度こそ抱きしめてしまうじゃないか。
「嫌なわけ無いだろ?」
「ばか」
そのまま俺の胸に顔をうずめて抱き返してくる。
きっとずっとこうしたかったんだろうな俺も。
しかし…何かはめられた感じがするのは俺の気のせいだろうか?
ま、いいか。
可愛いこいつが笑顔で隣にいる。それだけで十分だ。だろ?
ああ、今更だが念のために言っておくと、俺は何もしてないからな。
俺はハルヒと腕を組み直し俺の家へ向かって歩き出した。