記念日 (52-881)

Last-modified: 2007-07-07 (土) 22:22:26

概要

作品名作者発表日保管日
記念日52-881氏07/07/0707/07/07

作品

「ただいまー」
「お邪魔します」
本日のSOS団の活動を終えて我が家へ帰宅する、なんて事のない日常だが
問題は何故か猫を被り気味のハルヒが一緒に俺の家に来ている事である。
 
何故こんな事になったかと言うと、あいつがまた無茶を言った訳では無く、驚くなかれなんと俺が原因である。
いや別にハルヒに付いて来てくれと頼んでいる訳ではないのだが
ハルヒ含む団員に俺が相談を持ちかけた結果こいつが来る事になったのだから、やはり原因で言うなら俺になるのである。
 
その相談と言うのは、うちの母親が持つ俺の成績に対しての不満の結果として
俺のSOS団での活動を止めろとは言わないまでも、半分ぐらいにしてその分の時間を学習塾か予備校通いに回さないかと言外に含みを持たせ始めたので、これはやばいと皆に相談した訳だ。
 
「しょうがないわね、それならこのあたし自ら家庭教師してあげるわ!」
結果このようなありがたいお言葉を賜り、それ以来度々家まで一緒に付いてきて俺の勉強を見てくれている、で今日も勉強を見てくれる日と言うわけだ。
ちなみに今は高校生活二度目の三月、春休みが明ければ三年に昇級である。
 
妹はもちろんハルヒが来ると大喜びだが、それに加え母親までもハルヒに対して大歓迎の賓客扱いだ、挙句に俺とハルヒの関係を誤解している節まである。
…おれ自身も、こいつが自分の時間を割いてまで俺の勉強を見てくれている事については本当にありがたいと思っている。
こいつには何時も引き釣り回されて面倒をかけさせられている、と思っていたのだが
最近はむしろ面倒をかけてるのは俺の方だなって気分になることも少なくない。
 
 
俺がハルヒの作った問題集と格闘している間、暇をもてあましたハルヒは
人の部屋を勝手にあさって発掘した去年のカレンダーをパラパラ捲っていた
「ねえキョン、カレンダーのこの丸って何?、なんかの記念日?」
 
キョンに問題集をやらせている間にキョンの部屋を探索していたら去年のカレンダーが出てきた、なんともなしにパラパラ捲っていると
4月の某日に丸が書かれていた、丸が書かれているのはその日ぐらいのものだったのもあり何となく気になったので聞いて見る。
「ねえキョン、カレンダーのこの丸って何?、なんかの記念日?」
「…ああ、その日は俺の誕生日だ」
「なんだ日本では知られていない面白い記念日かなんかかと期待したのに、ガッカリね」
と口では言いながらも、内心では祝ってやっても良いかなと思っていた
…退屈しのぎぐらいにはなりそうだしね。
 
キョンが掃除当番の日を見計らって、他のみんなに計画を伝える
「なるほどそれは素晴らしい計画ですね」
「…同意」
「キョン君も喜ぶと思います」
「別にキョンを喜ばせるためにやるわけじゃないわ、あたし達が楽しむためにやるのよ!」
「うふふ、そういう事にしておきますね」
「…みくるちゃん」
「ヒッ、ご、ごめんなさ~い」
「いい、開始時刻は当日の授業終了後、場所はこの部室、キョンには開始まで絶対に気付かれないようにね、あいつを驚かせて楽しむのも目的なんだから!」
 
市内探索の日、キョンと別の組みになったらプレゼントやパーティーの準備用品を買うって事になっているんだけど、珍しくあたしとキョンの二人になった
二人で街をぶらぶらしているとシルバーのアクセサリーを売っている店があった
キョンはこういうの興味あるかな?っとちょっと横目でうかがって見ると何故かキョンもこっちを見てた。
「ちょっと見ていくか?」
興味有るみたいね
「良いわよ」
見てみると確かに良い感じのアクセサリーが一杯置いてある、この竪琴の奴なんかあたしも自分で欲しいぐらい。
「なかなか良い感じだな」
「そうね」
この鷲のペンダントなんかキョンに似合うかも…今買うわけには行かないけど後で買いにこよう。
 
そして三年に進級した誕生日の当日、パーティーのケーキと軽食を用意する予定になっている。
授業サボって料理しようかとも思ったけどそれだとキョンに気付かれるかも知れないから早起きして部室で料理する事にした。
冷めてもおいしいものって事で、クラブハウスサンド等のサンドイッチ中心の献立、
もちろんケーキも作った。
途中で他のみんなも来たので部室の飾りつけをしてもらう。
「うわー、涼宮さんこのお料理お一人で作られたんですか?」
「そうよ、なんか今日はちょっと早く目が覚めちゃったから、暇つぶしにね」
「……」
「…みくるちゃーん」
「ヒ、今度は何も言わなかったのに、何でですか~」
「そのニヤニヤ顔が何となく気に食わないわ!」
 
授業中あたしはキョンが部室に近づかないように見張っていた
「珍しいなお前が教室で昼食ってるなんて」
「そうだっけ」
この様子だとまるで気付いていないようね、まあこの鈍感男が気付くとも思えないけど。
 
「どうぞ~」
放課後、二人並んで文芸部部室前、みくるちゃんの返事を聞いたキョンが扉を開くと、クラッカーが鳴り響いた。
「誕生日おめでとうございます」
「おめでとう」
「おめでとうございます~」
「いちおう、あたしも祝ってあげるわ、キョン」
「……すまん」
…なんでそこで謝るのよ、ここは驚いてから喜ぶ場面でしょ
 
「今日が誕生日っての、嘘だったんだ…」
なんで…そんな悲しそうな顔するのよ、あんたのそんな顔が見たくて準備した訳じゃないのに。
「…何でそんな嘘ついたの?それにカレンダーのあの印は何だったの?」
「……お前に始めて会った日だ」
「は?」
「だから2年前に教室で例の挨拶を聞かされた日だ…今日は」
なんか脱力してきた…何よそれ…
「嘘ついたのはすまなかった、恥ずかしくてついな…、こんな事になるとは思わなかったし」
「は、恥ずかしいのはこっちよ、何でそんなのカレンダーに記してるのよ、こっちはあんたのまぬけ面ぐらいしか憶えてないわよ」
「…なんでだろうな?、自分でも良く分からん」
「怒るわよ!」
「怒ってくれて良い、色々準備してくれてたみたいなのに無駄にさせちまったな…」
そんな事言ってる訳じゃないわよ!
 
「…無駄にはならない」
「そうですね主役を彼一人からお二人に変更すればすむ事です」
「じゃあ誕生日パーティーから、お二人の記念パーティーに変更ですね」
 
「まあそうね、折角の準備を無駄にする訳にもいかないし!、あんたもまさか文句は無いでしょうね?」
「…ああ、そうしてくれるとありがたい…ハルヒ、みんな、ありがとうな」
ふん、その顔は反則よ!
 
そうして誕生日と書かれて部分は2周年記念と書き換えられた飾り付けの中
あたしお手製のサンドイッチとケーキを皆で食べた、キョンもおいしそうに食べてくれた。
 
「…これを」
「受け取ってくださいね~」
「どうぞ、涼宮さんの分は用意出来ていないので後日改めてお渡しします」
「はい、これ」
みんなでキョンにプレゼントを渡す、みくるちゃんは湯のみ、有希は携帯のストラップ、古泉くんはSOS団のロゴ入りプリントTシャツだ、キョンが皆に礼をのべる。
「ハルヒもありがとよ…ほら」
キョンが何かの包みを差し出してきた
「何よこれ?」
「何ってお返しのプレゼントだ」
何でそんなのが用意出来るのよ?おかしいじゃない
「あー、このところお前に色々世話になってるんでな、その感謝の気持ちって奴だ…こんな形で渡す事になるとは俺も思っていなかったが」
…ありがと
「…そんな素直に礼を言われるとは思わなかった、ってもう開けるのかよ?」
「なによじゃあそっちも開ければ良いじゃない」
開けて見ると中からは竪琴形のペンダントが出てきた、先日のアクセサリーショップであたしが見ていたものだ。
そしてキョンの手には同じ店で買った鷲型のペンダントが、あの日キョンの反応を見てたらキョンもこっちを気にしていた事を思い出す。
「…お揃い」
「お揃いですね」
「わー、良いですねそういうの」
お揃いって…偶然でしょ!、偶然!
 
 
「そういえば罰ゲームの発表がまだだったわね」
「…今回は俺が全面的に悪いからな、大抵の事はやるぞ」
「今回の罰としてあんたは来年のこの日にパーティーを主催する事!」
今年はあたし達が準備したんだから罰としては適当でしょ?
「そんなんで良いのか?なんだったら来年と言わずに毎年開いても良いぞ?」
「…まあ、あんたが開きたいんなら毎年開いてもかまわないわよ」
「…プロポーズ?」
「「!?」」
「なるほど確かに二人の出会った記念日を毎年祝わせてくれ、って言うのはプロポーズの言葉にも取れますね」
「ふえ~ロマンチックです~」
ちょ、ちょっとあんたたち!
「い、いや俺はどうせ一生忘れられそうに無いから、毎年祝っても良いかなってだけで、他意はないぞ!」
い、一生って、あんたも何言ってんのよ、もう!
 
例のパーティーの数日後の不思議探索、
俺は古泉デザインのSOS団Tシャツを着込んで参加させられた、ちなみにハルヒも同じ格好だ
くじの結果こいつとペアで歩いているから、ペアルックみたいで少し恥ずい。
「みたいじゃなくて、そのものでしょこれは!まったく…」
 
あの後ハルヒにも古泉からこのTシャツが贈られ、朝比奈さんからは俺の湯飲みと対になるような湯飲みを、長門からは俺にくれたのと同じ携帯ストラップがお送られた。
結果、部室ではセットの湯飲みを使う破目になり、教室では携帯を出し難くなってしまった、色々と周囲の目が痛い。
もちろん俺とハルヒのお互いの首にかかっているペンダントも原因の一端を担っているので他人のせいばかりには出来んのだが。
ちなみにこのペンダント、星型の飾彫りが幾つか施されている、どうも星座にちなんでデザインされたもののようだ
ハルヒの竪琴にはべガと俺の鷲にはアルタイルと刻印されている
 
…織姫と彦星、偶然なのかどうなのかは俺にはわからない。
 
だが思う、俺にとってハルヒと初めて会った一生忘れられない日があのぶっ飛んだ挨拶だとしたら
ハルヒにとって一生忘れられない日は中一の七夕なんじゃないかと。
「なにボケっとしてんの、さっさと行くわよ!」
…何時かこいつに全てを話せる時が来たら、その時は七夕の日も二人で毎年祝いあいたいと、少なくとも俺は思っている。
 
END