誤解 (131-273)

Last-modified: 2010-08-22 (日) 11:30:06

概要

作品名作者発表日保管日
【誤解】131-273氏10/07/2810/08/03

 
2008年に「続きをたのむ」と言われてた92スレの「誤解」
一応やってみましたので、記念に投下します。
 
92スレ誤解より

作品

寝坊した。
 
急いで朝食を食べて、着替えた。
髪はカチューシャで誤魔化せるから便利よね。
学校に着いたらきちんと整えようと思う。 
走って登校してるんだけど、右足に違和感を感じる。
どうしたんだろ、昨日は体育もなかったし。 
学校も近くなった頃、いつもの後姿を見つけた。
後ろから声をかける。
「あんた、いつもこんな時間に来てるのね」
ああ?って感じで振り返る。
「お前がいつも早いんだよ」
ったく、なんで朝っぱらからそんな憎まれ口なのよ。 
学校について、靴を履き替える。
・・・右足の違和感の正体に気づいた。
靴下に穴が開いていた。
ああ、もう、寝坊なんてするからっ!!
気になって仕方ないじゃない。 
「大丈夫か?」
珍しいわね、あんたが心配なんて。
「いや、何か歩き方がおかしいから」
・・・気にしないで。
靴下に穴が開いてるなんて言えるはずないじゃない。 
 
さて、キョンと一緒に教室に入った。
「おいおい、夫婦で登校か?」
アホの谷口が何か言ってるが無視。
「おはよう、涼宮さん。どうしたの、歩きづらそうなのね?」
・・・心配してくれる阪中さんには悪いけど、理由が理由だけに、
「いや、その・・・」
と、どう説明しようかと言いあぐねていると、
「歩きづらい・・・キョン君と一緒に登校・・・説明できない・・・」
阪中さんはぶつぶつ言い出したかと思うとハッと何かに気づいたように顔を上げた。
 
「ま、まさかキョン君と・・・?」
 
「?」

靴下の穴がキョンとどんな関係が?と、混乱した刹那もんのすごい誤解を彼女がしてるのに
気づいた。
あたしがこいつといたしたんじゃないかと邪推するなんて、んなアホなことを!?
あわてた。
「っさ阪中さん!ななぁんのこと?」どもり声で答えてる自分にさらにあわてた。周囲が
ざわついてる!
「ハルヒ?やっぱり今日はちょっとヘンだぞ。・・・いつもヘンだが」とキョン。
あんたなに平然としてんのよ。あたしだけバカみたいじゃない。
「あ・・・」阪中さんは、自分の軽率さにすぐ気づいたらしく、慈愛のこもった目であたしを
見つめると、「ううん。なんでもないです・・・」と言って席にもどっていく・・・
もどって・・・・も少ししっかりフォローしてよ!足りない。足りないのよ。ああ・・・
先生が来た。
・・・いったん教室は静まったが、かえって状況は悪化したかもしれない。
 
授業中、クラスの連中が何かささやきあってるような気がする。あたしとキョンのことを。
意を決して、あたしはキョンに投げ文した。
『あんた、みんながあたしたちのことヘンな目で見てるって気づかないの?』
・・・しばらくして返事が来た。
『そうか?俺はそのヘンな目にずっと耐え続けたんで、もう慣れた』
・ ・・なんだとぅ?じゃあなに。周りのやつら、ずっと前からあたしらを普通でないと思
ってたわけ?いや。キョンの言ってる「ヘンな目」は、団活の特殊任務のことであって
男女の秘密探検のことではない。違う。違うのだ。この鈍感なバカと対策を練るのは愚かだ。
現状を知らせてもあわてて役に立つまい。二人してアホな行動をすればますますヘンなこと
になる。
あたしは熟考した。
クラス全員の誤解を一度に解く方法。一瞬で火災を鎮火させる方法を。しかも、その方法
はこの恥なうわさが蔓延するよりは、相対的に小さい恥でも我慢しなくてはならない。
厳しい条件下、団員の支援も一切ない中で成功させねばならないSOS団最大の孤独なミッション。
数学の吉崎がひねった証明問題を黒板に書き始めた。皆の嫌がる板書による解答だ。
「はい、先生!」
肩をちぢこめるクラスのかぼちゃどもに抗いあたしは手を上げる。
「おっ、珍しいな。じゃあ、涼宮さんやってみて」
あたしは勢いよく立ちあがり、バカキョンを横目でねめつけてから黒板前に進んだ。
ここが肝心。あたしはぎごちなく歩いた。わざと。分かりやすく。キョンってばすごく強引で
さすがのあたしもまいったまいった・・・なんて一時でも思わせるなんて・・くやしい。
猛烈にくやしい。ぐぎぎぎぎ。
あたしがチョークで板書する体勢になったころには、みんなのざわつきは無視しがたくなっていた。
・・・さぁ今だ。
「センセイ」
あたしは、吉崎に猛然と頼んだ。
「ミギアシノ クツシタニ アナガ アキマシタ。ヌギタインデス。イイ デショウカ」
・・・平静を装ったが、背中からじわりと汗が噴き出す。
「ああ・・・いいよ」吉崎はどんぐり目になりながらも了解する。
「アリガトゴザイマス」
あたしは両足の靴下をぐいと脱ぎ捨て、裸足になって上履きを履きなおした。
そして、黒板に向かい罪なき清楚な白墨を破砕する勢いで証明を一気に書き記した。
黒板への打撃音が森の啄木鳥のようにこだまする。逆境の神へのあたしの渾身のカウンターだ。
・・・・・
「ぱきっ」
とチョークの哀しげな断末魔を聞きつつ、証明を終えた。
この間、およそ25秒。
残った勢いで体を半回転し教壇を向いたあたしはシメル。
「以上!」
・・・吉崎がわずかな沈黙の後「・・・正解」と述べると、スイカどもは「おおっ」と
どよめき思わず拍手の旋風が巻き起こった。おっ。キョンまでも手をたたいてる。感心感心。
あたしは脱いだ欠陥靴下を両手にひらひら揺らしながら教室を一周、「ゆるぎない足取り」で
颯爽と席にもどったのだった。
*    *    *
「涼宮さん、靴下のせいだったのね」阪中さんが休み時間に寄ってきた。
「そうなのよ。ほんと寝坊なんてするもんじゃないわね。」
自分のはやとちりに赤くなってる彼女の顔を見ると、わだかまってるのがあほらしくなってくる。
「さすが団長さんだ。今日ばかりは俺も冷やかす言葉もない。と、いうより偉いよ。お前」
キョンが輪に入ってきた。ふん、何も知らないくせに。おだてたって優しくしないわよ。
個人教授ならやってあげてもいいけどね。
 
こうして、あたしの誤解払拭作戦は目的を達成し、恥なスキャンダルを未然に防ぐのに成功した。
でも靴下の穴はなぜか噂にもならない。へんなの。
誰かに自慢したいけど団員のみんなには話せやしない。
キョンにシャミセンを貸してもらおうかな。