貞操の危機 (100-180)

Last-modified: 2008-10-16 (木) 23:13:22

概要

作品名作者発表日保管日
貞操の危機100-180氏08/10/1608/10/16

作品

外が薄暗くなってきてる中、更に薄暗い部屋の中で、悲しいかな力いっぱい重そうなこの鉄の扉を開けるという何とも情けない状況に陥っていた。
 
「ぐぬぬぬぬ」
「もっと腰に力入れなさいよ、キョン!」
体操服のハルヒは俺に向かって叫んだ。
「くそ、ハ、ハルヒ、お前見てるだけなのにぃぃ。偉そうに言いやがってぇ」
「何よ、男のくせにもうへばったの!?」
「びくともしないんだぞ。だからお前も手伝え、ハルヒ」
「わかったわよ、もぉ。いちいち五月蠅いんだから」
 
いやお前ら、変な想像するんじゃない、俺はこの重い扉開けるのに必死なんだよ。それなのにハルヒのやつはずーっと見てるだけの癖に口ばっかり出してきやがって。
 
「さ、力入れんのよ、キョン!」
「俺はさっきから力いっぱいだ!」
「ふん、いくわよ! ぐぅぅぅぅ」
「このおおおお」
 
しかし2人で力を入れても、いやハルヒの馬鹿力を加えてもこの鉄の扉はぴくりとも動かなかった。そうこうするうちにハルヒの方が根を上げたのか扉からささっと手を離してしまった。
 
「何よキョン。これ、全然動かないじゃない!」
「はぁはぁ…だからだな…はぁはぁ…さっきからそう言ってるだろうが…」
「もう使えないわね、まったく」
 
誰のせいでこうなったのか、と喉まで出かかって口にするのを止めた。ここで正論を言ったところで、ハルヒが理不尽に怒り狂うだけだとわかってるからな。まぁ少し息を整えるため俺も手を離した。そこに可憐な声が後ろからした。
 
「あ、あのぉ…」
「なに、みくるちゃん?」
「あ、あたしも手伝った方がいいんでしょうか?」
「そぉねぇ」
 
朝比奈さんはメイド服で困惑した感じで立っている。そう朝比奈さんも俺と同じくとばっちりでここにいるのだ。ハルヒは少し思案しているようだが、朝比奈さんに手伝ってもらってもこの扉はびくともしないというのが俺の結論だった。
「朝比奈さん、申し出はうれしいですけど、こいつはびくともしないですよ、きっと」
「ちょっと、試しもしないであきらめるの、キョン!」
横からハルヒがちゃちゃを入れてきた。
「ハルヒ、俺達2人が力入れてもびくともしないんだぞ」
「何事もやってみなきゃわからないわよ!」
どこまでもあきらめが悪いハルヒだが、馬鹿力を持つお前と違って朝比奈さんが力仕事したら倒れてしまうかもしれない。だから他の方向に話を逸らすことにした。
「ハルヒ、ここのカギは外からかかるはずだろ?」
「そ、そうだっけ、キョン?」
「中からだと鍵が壊れない限りあかないぞ、これは。だから、外と連絡取る方法を考えた方がいい」
「うーん」
ハルヒは考え込んでしまった。
 
さて、この間にハルヒに朝比奈さんに俺の3人が陥ってるこの困った状況について30分ほど前の状況を思い出していた。
 

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部室にはメイド姿の朝比奈さんと俺しかいなかった。古泉はともかく長門がいないのは珍しいが、俺は朝比奈さんが出してくれたお茶を堪能しつつ、この至高のひと時を存分に楽しんでいた。だがしかし、その時間は長くは続かなかった。突然、部室の扉がバーンと大きな音とともに開いたと思ったら、体操服のハルヒの大きな声が響き渡った。
 
「みんなー、道具調達に行くわよ!ってあれ、何よみくるちゃんだけ?」
 
どうも俺の存在は無視らしいが、いちいちツッコンでもキリがないので、とりあえずハルヒに質問してみる事にした。
「俺もいるぞ。それより道具調達ってどこへだよ、ハルヒ?」
「どこって、あたしの姿見てわからないの!体育館横の倉庫に決まってるじゃないの、キョン」
おいおいハルヒ、体操服は倉庫への侵入用の服なのか? まぁそれはともかくどうやら俺の存在に気が付いてなかったわけじゃないらしい。
「倉庫に何を取りに行くんだ、ハルヒ?」
「何って、テニス道具よ、テニス道具!」
「あのな、SOS団がそんなの取ってきてどうするんだよ?」
「相変わらず察しが悪いわね、キョン。これからはテニスの時代よ!」
 
しばらくハルヒの演説が続いたわけだが面倒だから省略。倉庫の使ってないテニスのラケットやボールを奪取して、SOS団でテニスするそうだ。おおかたテニスの日本人プレーヤーが活躍してるニュースでも見て感化されたんだろう。そういえばハルヒは仮入部したテニス部でも上手だったよな。しかし引出しの多い奴だ。
 
まぁそんなこんなでハルヒは俺と朝比奈さんをひきつれて倉庫に侵入したはいいが、奥でごそごそ探している間に扉を閉められてしまったというわけだ。

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俺の回想終了を待ってたかのようにハルヒが俺に質問してきた。
 
「キョン、あんた携帯持ってる?」
「残念だがかばんに入れたままだ」
「いつもながら使えないわね。みくるちゃんは?」
「あたしも部屋に置いてきてしまいました…」
「何よ、これじゃ外と連絡とれないじゃない! どうすんのよ!?」
その前にハルヒ、お前も部室に携帯おいて来たんだろうが…と指摘するとうるさいので、俺は諭すように答えた。
「大丈夫だ。長門か古泉が俺たちのかばんが部室にあるのを妙に思って探し始めるだろう、それを待てばいい」
「本当にそれで大丈夫なの、キョン?」
「団長だろ、ハルヒ。あいつらを信じろ」
「そ、そうね」
 
まぁ古泉はともかく、長門は何とかしてくれるだろう。信じてるぞ、長門。
 
だがしかしハルヒは待つことが我慢できないらしく、自分で出口を探す!と宣言して奥でごそごそ壁を調べ始めた。だから隣にいるのはマイスイートハニーなメイド姿な朝比奈さんだけだ。朝比奈さんと俺はとりあえず体操用のマットの上に座った。倉庫内も少々暗くなって朝比奈さんの美しい顔がはっきり見えないのが残念だったが、まぁこうやってじーっと見てられるだけでも…
 
「キョンくん、あの、その、こんなはずじゃないんです」
朝比奈さんが唐突に、そして小声で俺にささやいた。
「俺もこんなとこに閉じ込められるとは思わなかったですよ」
しかし帰って来た返事は思いがけないものだった。
「いやそうじゃなくて、あたしは本当はここにいちゃいけないんです」
 
そ、それはどういう意味なんですか、朝比奈さん?
 
「詳しくは禁則事項なんですけど、涼宮さんとキョンくんの2人だけここに閉じ込められて…」
ふむふむ。
「その…閉じ込められてる間にいろいろと…禁則事項な事をして」
なんですと!?
「それはそれで一歩前進というか何というか、2人の仲が…いや、そこからは禁則事項です」
あの~もしもし朝比奈さん、禁則事項って言いつつほとんど話してしまってますけど。
 
…などとツッコンでいる場合ではない。朝比奈さんの言葉に俺は愕然とした。俺は何を血迷うのかハルヒとこの中で”禁則事項”な事をしでかすらしいのだ。朝比奈さんが未来人じゃなければ一笑に付すところだがそうは問屋がおろさない。
 
「朝比奈さん、ここで俺が雰囲気に負けてハルヒに襲いかかるとでも言うんですか?」
俺は多少冗談を込めて聞いてみたが、帰って来た答えはその冗談を打ち砕くブーメランとなって襲ってきた。
「それが…逆です…でも、詳しくは禁則事項です」
「…」
俺は朝比奈さんが話すそのあまりの内容に長門みたいに黙ってしまった。禁則事項ってなんだ? まさか閉鎖空間の続き…いやいや、まさか、それ以上の…あ~それよりも逆とは?まさか、ハルヒが血迷って俺を襲うって事なのか!?これってもしかして…俺の貞操の危機なのか!?
 
いや~貞操は女側の言い方だよな…って、何一人ボケツッコミしてるんだ、俺は! そんな場合じゃないぞ。
どーするよ俺、どーするよ、どーする…
 
「ちょっとキョン!なにみくるちゃんとデレデレしてんのよ!」
俺はハルヒの声にハッとなり、朝比奈さんは俺から弾かれるように少し離れた。どうも俺も朝比奈さんも自分の世界に入り込んでたらしい。
「みくるちゃんから離れなさいよ、エロキョン!」
ハルヒは俺にしがみついたかと思うと、朝比奈さんのいるのと別の体操用マットに俺を引き倒した。
「みくるちゃんが危険だから、あたしの横にいるのよ、キョン!」
そう言いつつ俺の腕を放そうとはしないハルヒ。
「わかったから、放せよハルヒ」
「駄目よ。暗くなったらみくるちゃんにそーっと近づいて悪さするかもしれないから絶対放さないわよ」
「あのなハルヒ、俺は狼じゃないぞ」
 
だがハルヒは決して俺を放そうとしなかった。ハルヒの胸が俺の腕にあたっているが、そんな事気にしないかのようにぴくりとも動かなかった。
 
あのなハルヒ、危険なのは俺じゃなくてお前らしいぞ…とは言えないし、さて困った。
 
あれから何分経ったのだろう。
「す~す~」
朝比奈さんは隣のマットで寝てしまったらしい。いや、この状況で寝られるとは意外と朝比奈さんは大物なのかもしれない。暗くなって見づらいが、メイド姿のままマットで寝ている朝比奈さん、実に妙な感じだ。ハルヒはハルヒで朝比奈さんが寝てしまった事を咎める気はないらしく、俺にしがみついたままだ。だがさすがに痛くなってきた。
 
「なあハルヒ…お願いがあるんだが」
「なによ?」
「もういいかげん腕を放してくれないか。さすがに痛くなって…」
「だ~め!」
俺の言葉を遮るようにハルヒは即答した。
「キョン、あんたを放したらそこで寝てるみくるちゃんに襲いかかるかもしれないでしょ!?」
ハルヒの中では俺はマイスイートハニーな朝比奈さんに悪さから襲い掛かかる役に昇格したらしい。やれやれ。
「”襲いかかる”というが、じゃあ俺が朝比奈さんの代わりにハルヒ、お前に襲い掛かったらどうするんだよ」
「あんたがあたしにそんな事できるわけないでしょ?」
 
ああ、そうかい。俺がそういう事するはずないと本当に思ってない口調だな、ハルヒ。
”襲いかかる”…さっき朝比奈さんがその言葉を口にしてたな。
 
朝比奈さんは”逆”、つまり”ハルヒが俺に襲いかかる”と言っていた。そういえば何時だったかハルヒのやつ”健康な若い女なんだし身体をもてあましたりもする”とかトンでも無い事言ってたが、それだからと言って俺に襲いかからなくてもいいんじゃないか?
 
そこまで思ってよいアイディアに気がついた。
俺が先にハルヒに襲いかかってしまえばいいんじゃないか!?
 
いやまてお前ら勘違いするな、襲いかかると言っても別にハルヒにHな事を強要するとかじゃないぞ。
 
未来人の朝比奈さんが言うからには状況が多少異なってもここで”ハルヒが俺に襲いかかる”状況になる可能性だってある。だがしかし、今ここで俺がハルヒを押さえつけて襲いかかるマネでもすれば、ハルヒは条件反射で俺をぶん殴るに違いない。そうなれば、少なくともハルヒは俺にどうこうしようとする気を無くすって段取りだ。朝比奈さんの言う状況がいつ起こるか知らないが、少なくとも今この時は切り抜けられるだろう。まぁ俺が殴られるという代償が伴うが、事ここに至ってはそれも仕方あるまい。
 
どうだ、完璧じゃないか、俺のプラン!
 
「キョン、あんた、なにを一人でうなずいてるのよ?」
おっといけない、でも独り言を言ったわけじゃないのでハルヒはこの作戦に気が付いていないみたいだ。しかもハルヒは俺の次に出る言葉に気を取られてるのか、少し腕にかかる力を緩めてる。チャンス!膳は急げだ!
「ハルヒ、俺は…」
俺の言葉を聞こうとハルヒは俺の腕に絡めた力を緩めた。いまだ!!
 
俺はハルヒを振りほどくと、ハルヒの左手をかばいつつ右肩をつかんで、くるっと反時計回りにハルヒの身体をマットに押し倒した。驚いた事にハルヒは俺の動きに対しほとんど抵抗せずポフ!っという音とともに倒れた。いつものハルヒの馬鹿力はどこへやら、ハルヒは仰向けになり、俺はそのハルヒに覆いかぶさるような、まさに”襲いかかる”体勢になった。
 
「ハルヒ、俺にはできないんだろ?」
 
少々暗くてはっきりしないが、体操服姿のハルヒは口をパクパクさせて少し驚いた表情をしている。ハルヒ、お前そんな表情できるんだな。まぁいいさ、遠慮なく…あ、いや少し手加減してほしいが…俺を殴るなり突き飛ばすなりしろよ。
 
俺は覚悟して待った。
 
外から鈴虫の声と朝比奈さんの寝息が聞こえる。あれ?
 
ハルヒの反応がない。ハルヒの左手と右肩をつかんでいるが、なんか人形みたいで全く力が感じられない。あ、いや、体温は感じるから人形って言うのは変だよな…って何を言い訳しているんだ、俺は。だがおかしい、ハルヒがじっとしているなんて。いつもなら考えるより先に手か足が出るのに、どうしてこういう時は反応鈍いんだよ、まったく。
 
ハルヒはといえば…いやこの倉庫も薄暗くて薄暗くて見えにくいんだが…顔を真っ赤にさせているかと思いきや、びっくりした表情のままだった。なあ、そんなに俺の行動が意外だったのか、ハルヒ? そう思ってるとハルヒが口を開いた。
 
「キョン…」
それだけかよ。
「なんだよ、ハルヒ?」
「…」
ハルヒは長門みたいに黙ってしまった。どうも調子が狂うな、全く。しばらくしてまたハルヒが話しかけてきた。
「あ、あんた、こんな事して…」
「悪かったな、ハルヒ。だけど俺だってお前を襲うことだってできるんだぞ。ああ、もちろん覚悟はしてる」
「…」
 
傍から聞いたら恥ずかしい台詞言ってる気がするがこういう時に何を言っていいかわからないから仕方がない。というか、ハルヒが長門化して無口になるなんて初めて見た気がする。そう思ってるとハルヒの表情がいつの間にか真っ赤になっている事に気がついた。
「キョン、やっぱり…やっぱり…」
そろそろハルヒのパンチが来そうな予感がしたので、覚悟を決めた。
「いや!!」
小さく叫んだかと思うと、ハルヒは俺の手を振り払った。
 
パン!バターン!
 
気がつくといつの間にか俺は仰向けになっていて、ハルヒは俺の肩を抑え込んで俺の腰のあたりにデン!と乗っかっていた……ってさっきと逆の体勢だ!? 何と俺は完全にハルヒに組み敷かれていたのだ。ちょっと待てハルヒ、何をしたいんだ!?
 
「キョン、ヒラの団員のあんたがSOS団長のあたしを襲うなんて100万年早いわよ!」
唐突に俺に話しかけてくるハルヒ。まあ同意しておこう。
「そ、そうかもしれないな、ハルヒ」
「そうよ。それにあんたがあたしをリードするのは夢の中だけでたくさんよ」
どうもハルヒの話の前後がつながらないが、夢とはあの閉鎖空間だろうか。
「だ、か、ら、あたしがキョン、あんたを襲う事にしないと納得できないわ!!」
 
え?え?え?いや、ちょっと待て、ハルヒが俺を襲う? 朝比奈さんが言ってたのは、まさか!?それはマズイ!
俺はハルヒを引き離そうと上半身に力を入れたが、びくともしなかった。なんて馬鹿力なんだ。
「ハルヒ、いや、ちょっと待て、何か間違って…」
「何よキョン、あんた覚悟したんでしょ!?おとなしくあたしに襲われなさいよ!」
いや覚悟したのは、ハルヒ、お前に殴られるとかであってお前に襲われる事じゃない!
「それともキョン、あたしが…その…あたしが嫌?」
「え!?」
何だかハルヒらしからぬセリフに俺はびっくりした。少し暗くて気がつかなかったがハルヒは俺をじーっと見ていた。ハルヒの大きな目がうるうるとなっているじゃないか。そんな魅力的なハルヒの目に引き込まれた俺は金縛りにあったかのように動けなくなっていた。
「い、嫌なわけ…ないだろ、ハルヒ」
「ふーん。ところでキョン、あんたそんな表情もできるんだ」
俺、どんな表情してるんだ?さっきのハルヒみたいに驚いてるんだろうか?
 
しかしハルヒは自分の顔をじりじりと俺の顔に近づいてきている。ちょい待て、何考えてるんだ、ハルヒ!?息がかかるほど近づいてきた。これってもしかして…俺の…その…貞操の危機なのか!ちょっと待てハルヒ!!
 
「むきゅ!」
唐突に俺の横で突然大きな声がした。その瞬間、ハルヒが弾かれるように俺から離れた。
 
「うみぃ~すみません……つい…寝てしまいましたぁぁ」
さっきの大声はメイド姿の朝比奈さんだった。いや、ナイスなタイミングで起きてくれて助かった。
 
「み~く~る~ちゃ~ん」
「ひゃぃぃぃ、な、なんですかぁぁぁ!?」
ハルヒの恐ろしい声に飛びあがって驚く朝比奈さん。ハルヒはいつの間にかその朝比奈さんに抱きついていた。
「びっくりしたじゃないの!この~」
「ひゃぅん、耳かまないでくださいぃぃぃ」
ハルヒは朝比奈さんにターゲットを変えたらしい。とりあえず俺の事は眼中になくなったなら、それはそれで…
 
カチ!!カチャン
 
その時、扉から大きな音がした。ハルヒと朝比奈さんもそれに気がついて扉を見ている。
 
ガラガラガラ…
 
「遅くなってすみません。少々手間取ってしまいまして」
扉が開いたかと思ったら古泉の声がした。
「古泉くん、さすが。助かったわ。さ、キョンにみくるちゃん、部室戻るわよ!」
ハルヒはそう言ったかと思うとこっちも見ずにあっという間に駈け出して行ってしまった。さっきまでの事はなかった感じだ。そう思って扉の方を見ると、古泉の後ろに長門の姿がちらっと見えた。
「長門、古泉、よくここがわかったな?」
「あなたや朝比奈さんの鞄が置きっぱなしでしたからね。でもここを見つけるのは簡単でしたよ」
どうも外まで聞こえる大声で話をしてのか、俺達? そう思ってると古泉が顔を近づけてきた。
「いや、そうではありませんよ。実は…ここに閉鎖空間ができてたんですよ」
 
なに!?
 
「だから見つけるのは簡単だったのですが、僕も長門さんも侵入することが出来ず困っていた次第です」
「古泉、お前が入れない閉鎖空間ができてたのか?」
「ええ」
少し困惑した風に答える古泉。すると長門がそれを補完するように説明を始めた。
「涼宮ハルヒはその時間に何者もこの倉庫に入れたくなかったと推測される」
「長門、でも朝比奈さんが中にいたんだぞ?」
「わからない。でもその時間に朝比奈みくるは涼宮ハルヒの邪魔となっていなかったものと思われる」
すると後ろから朝比奈さんが話しかけてきた。
「そ、そういえばあたしはさっきまでマットで寝てしまってましたから…」
 
ハルヒが古泉も入れない閉鎖空間を作り出してたとは驚きだ。まぁあの瞬間に扉でも開けられたら色々と面倒な事になってたろうからわからないでもないが…
「じゃあ古泉に長門、お前たちどうやってこの扉を開けたんだ?」
「それはつい先ほど閉鎖空間が急に消滅したからですよ」
古泉はさも当然という顔で答えた。つい先ほどというと…
「それはあたしが目を覚ましたから…です。邪魔してごめんなさい、キョンくん」
神妙な表情で話す朝比奈さん。いや朝比奈さん、なんで邪魔したとあなたは知ってるのですか?
そう思ってると古泉がニヤニヤ顔で俺に質問をしてきた。
「で、先ほど涼宮さんは顔を真っ赤にして出て行きましたが、朝比奈さんが目を覚ますまであなたは何をされたんですか?」
「顔が近いぞ古泉。それに話したくないからそれ以上聞くな」
「おや、そうですか」
 
部室に戻ってみるといつの間にかハルヒは制服に着替え終えていた。その後のハルヒは何事もなかったかのようにいつものハルヒに戻ってた。やれやれ、危機は去ったらしい。
 

---それから数日後----
 
部室にはメイド姿の朝比奈さんと俺しかいなかった。俺は朝比奈さんが出してくれたお茶を堪能しつつ、この至高のひと時を…と思ったら突然、部室の扉がバーンと大きな音とともに開いた。
 
「キョン、道具調達に行くわよ!」
 
体操服のハルヒの大きな声が響き渡った。今度は朝比奈さんの存在を無視らしいが、どうしたハルヒ?まぁいちいちツッコンでもキリがないので、とりあえずハルヒに質問してみる事にした。
「朝比奈さんもいるぞ。それより道具調達ってどこへだよ、ハルヒ?」
「どこって、あたしの姿見てわからないの!体育館横の倉庫に決まってるじゃないの、キョン」
おいおいハルヒ、またあの倉庫への侵入するのか?
「あの倉庫に今度は何を取りに行くんだ、ハルヒ?」
「何って、卓球道具よ、卓球!」
「あのな、SOS団がそんなの取ってきてどうするんだよ?」
「相変わらず察しが悪いわね、キョン。これからは卓球の時代よ!」
「北京オリンピック終わってから何か月もたった後で?」
「いいから来るのよ、キョン。あ、それからみくるちゃん、留守番よろしくね!」
へ!?
「はい、あたしはここで待ってます。キョンくんがんばってね?」
あの~朝比奈さん、何でニコニコ顔で俺に手を振ってるんですか?
 
”涼宮さんとキョンくんの2人だけここに閉じ込められて…いろいろと…禁則事項な事をして”
 
唐突に数日前の朝比奈さんの言葉が俺の脳裏によみがえった。
「あ、朝比奈さん、まさか…まさか…」
「禁則事項です♪」
朝比奈さんはニコニコして答えた。
 
しかし、俺はそれ以上朝比奈さんに問いかける時間は与えてもらえなかった。
 
「キョン、何ぼやっとしてんのよ!さっさといくわよ!」
ハルヒは俺の手をつかむと、あっと言う間に廊下に俺をひっぱり出した。
「キョン、今度は邪魔が入らないうちにちゃっちゃとやっちゃうわよ!!」
ちょっと待て、それどういう意味だ、ハルヒ!
 
いや~今度はもしかして…本当に俺の貞操の危機なのか!?
どーなるよ俺、どーなるよ、どーなるんだ…