雨の日は嫌い (48-853)

Last-modified: 2007-07-17 (火) 02:44:24

概要

作品名作者発表日保管日
雨の日は嫌い48-853氏07/05/1507/05/15

作品

雨の日だった。雨の日は嫌い。なんでだろう。
部室に行くと有希が一人だけ。いつもみたいに本を読んでた。
有希が本を読んでいるってことは我がSOS団の常識。いつもと同じ。変わりない日。
有希と二人きりだとなぜだか昔を思い出す。何も変わらない日常。変化のない毎日。
キョンがいないとあたしはこんな風になってしまうのかな。
 
「ねえ有希、キョンのどう思ってる?」
なんでこんなことを聞いてしまったのだろう。
「…わからない」
有希は答えてくれなかった。答えられなかったのかもしれない。
「そ、でもね。キョンは有希のこと好きよ」
自然に言ってしまっていた。そうだ、わかっていた。キョンはきっと有希のことが好き。
「…」
言葉にしたら、なぜか知らないけれど、とても、とても、寂しくなった。
「有希もキョンのこと好きでしょ。おめでと」
胸が苦しい。締め付けられるみたい。でも、でも。
「ま、あいつはあたしのことどうでもいいみたいだし、まあ有希に会わせたことくらいは感謝して欲しいけど」
言えば言うほど胸が苦しい。なんであたしは自分を苦しめているんだろう。
「だから…」
「違う」
有希の、強い否定。聞いたことのない有希の声。
「彼は私に好意を持っている。でもそれは恋愛と言うものとは似て非なるもの」
「でも、キョンは」
「彼は、あなたのことをとても大切にしている」
「嘘!だって、だって」
「嘘ではない。あなたは知らないけれど、彼はあなたの為に努力している。きっと今このときも」
有希が立ち上がる。
「知らないところで何かされても嬉しくないわよ!だったらちゃんと言葉にしてよ…」
「あなたは今不安定。気象と体調が情緒に影響を与えている」
有希があたしの頭に手を伸ばす。
「だから、少し眠って欲しい」
まぶたが重くなる。有希が何か言ってる。覚えておきたい。
「…あなたと彼はよく似ている。彼はあなたと共にありたいと願っている。あなたが彼と共にありたいと願っているのと同じくらいに、だから、彼を信じて、自分を信じて。私は絶対にあなたたちを守るから」
頭を撫でる優しい感触。あたしはまどろみの中で絶対この感触を忘れるもんかって思った。
 
「ハルヒ、おい起きろ」
目を覚ますとキョンが目の前にいた。
「団長が寝ててどうするんだ。それとも今日は何もないのか?」
そうだ、あたしはSOS団の団長なんだ。
「何言ってるのよ!あるに決まってるでしょ。今日はね…」
目を覚ましたとき、キョンがいてくれるのが嬉しかった。
なんでそんな風に思うんだろう。でも理由なんかない。理由がないならそのままを受け入れよう。
「キョン、起こしてくれてありがと」
キョンがびっくりしてる。面白い顔。
有希があたしを、いやあたしたちを見ているのに気がつく。
その瞳から感情は感じられない。でもなんだか胸が苦しかった。
それが我慢できなくて、近づいて抱きしめた。
みんな驚いた顔であたしを見てる。心なしか有希も驚いている気がする。
「有希も、ありがとうね」
自分でもびっくりするくらい優しい声。あたしはこんな声が出せるんだ。
そのまま有希の頭を撫でる。なんか赤ちゃんを抱いてる気分。
なぜかキョンが顔を赤くしてたけどまたなにか変なことを考えてるに違いない。エロキョンめ。
「なにかやりたいことがあったらなんでも言って。絶対力になるから。たぶんキョンも手伝ってくれるし」
「俺もか…まあいいけど」
「ね、有希。あたしを信じて」
きっとあたしはいい笑顔が出来てる。どんな男だってメロメロにできる自信がある。
でも今はたった一人の女の子をメロメロにしたかった。
有希は、かすかに、本当にわずかだけコクリと首を縦に振った。
それが、あたしが雨の日を嫌いでなくなった日の出来事。