風邪の処方箋 (131-850)

Last-modified: 2010-08-21 (土) 01:30:39

概要

作品名作者発表日保管日
【風邪の処方箋】131-850氏10/08/1710/08/17

前編

………だるい
 
何時もと違う感覚に目を覚ましたあたしが最初に感じたのがソレだった。
異様に体が熱を帯びてる。頭もズキズキと疼いてる。
 
…何だろう?
 
それがあたしの感想だった。自分の体に起きている異変に頭がついて行っていなかった。
 
…暑いな
 
そう思ってベッドから出ようと思った。
 
カクン   
あれ?
 
力を込めた筈の足があたしの意に反して力なく崩れ落ちた。
そのまま咄嗟に手を突くことも出来ずに倒れこんでしまった。
その時になって自分が凄い汗をかいてる事に気がついた
 
…着替えなくっちゃ
 
そう思ったけど自分の意思とは無関係に視界が暗くなっていく
 
『******』
 
遠くで誰かの声が聞こえた気がした。
誰だっけ?そう思いながら、あたしは意識を手放した。
 
 
~~~~~~~~~~~~~
 
 
「…はれ?……あたし…」
「あ、気が付いたハル?何時もの時間になっても下りて来ないから何かあったのかと思ったわ。」
「…お母さん?」
「はい。お母さんよ。」
「…あたし…一体…」
「ハルったら如何も風邪引いちゃったみたいね。ベッドから落ちて倒れてたから驚いたわ。」
「…そう…だったんだ…」
「知らない間にハルも大きくなったのね。ベッドに抱え上げるのに一苦労だったわ。」
「…あ…ごめんなさい。」
「いいのよ寧ろ嬉しいくらいだったし。熱測れる?」
「…うん。」
 
ココまでの状況を上手く整理出来ないままお母さんの言われるままに体温計で熱を測った。
さっき風邪を引いたって言ったけど自覚がないわ。まだ頭がボ~として霞が懸かった感じがするの。
仕事着のお母さんを見詰めながら熱を測った。
 
PIPIPI PIPIPI
 
「いいみたいね。」
「ん。」
「どれどれ……38度3分、立派な風邪ね。ハルどんな感じ?」
「…頭がボ~ってする。あと熱いしのどが渇いた。」
「汗かいたから軽い脱水症状になってるのね。水しかなかったけど飲める?」
「ん。」
 
コク コク コク
 
思った以上にのどが渇いていたみたい。コップの水はすぐに飲み干しちゃった。
水を飲んだお蔭で少し頭がはっきりしてきたわ。
 
「汗かいてるから着替えましょうか。…えっとハルの下着とパジャマの代えは何処かしら…」
「クローゼットの中のタンスの上から2段目が下着で一番下がパジャマの代え。」
「そ、そう。…ダメねー家の事全部ハルに任せてるからお母さんだけじゃ分からないわ。」
「…それは良いけど…仕事は?」
「ハルが倒れてる位だ物ほっとけないでしょ?会社には遅れるって伝えてあるわ。」
「そう。」
「じゃぁ体拭くから服脱いで。」
「…ん。」
 
確かに汗でいい加減気持ち悪かったから着替えるのは問題ない。
でも一瞬躊躇っちゃった…変なのお母さんに裸見られても何も問題ないのに。
 
「すっかり女の子になったわねハルは…好きな人はいないの?」
「な、、何言ってるのよお母さん…あ、あたしそんな!!!」
「ふふ。中学の時と比べたら高校生のハルは何時も楽しそうだから。友達も出来たみたいだし。」
「………」
「…偶に話してくれる…えっとキョン君だったかしら?何時もハルの前の席に座ってる男の子。」
「ななな、何でココでキョンの名前が出てくるのよ!!!」
「ん~~。ハルの机の引き出しにだらしない寝顔の男の子の写真が入ってるから珍しいなーって思って。」
「か、勝手に人の机を見ないでよ!!」
「はいはい、あんまり暴れると熱が上がるわよ。」
「…誰の性よ。」
 
お母さんに体を拭いて貰ってさっきより気持ちよくなった。
汗で濡れた下着とパジャマを着替えるとさっきよりはマシになったかんじがしたわ。
 
「本当はハルの看病したいんだけどお母さん今日から仕事なの。」
「大丈夫よお母さん。こんなの寝てたらすぐ治るわ!」
「本当に大丈夫?」
「平気よ!今までだってそうだったじゃない。」
「そうだけど…」
「もう、急がないと遅刻になっちゃうわ!後は自分で如何にかするって。熱が引いたら病院に行くから。」
「そう?じゃぁ薬と水は置いておくわね。後コレは病院代とタクシー代ね。」
「ん。」
「じゃぁ…本当に大丈夫ね?」
「これ以上いたらお母さんにもうつしちゃうわ。今日は大人しく寝とくから。」
「ならお母さんもう行くわね。何かあったらお母さんの携帯に電話してね。」
「了解。」
「じゃぁ行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
 
そうしてお母さんを見送ったあたし。まぁ今まで病気になった時も自分で如何にかしてきたし特に問題ないと思う。
取り合えずもう少し熱が下がらないと体が言う事を利きそうに無いわね。
そう思って薬に目をやった。そこで気が付いた。
 
空腹で飲んで大丈夫かしら?
 
正直今は何も食べる気がしてないし、台所まで行く元気がない。
誰か呼ぼうと思ってももうお母さんは出かけた後だから家にはあたし意外誰もいない。
 
「まぁ良いか。空腹で飲んで別に死ぬ訳でもないし。」
 
取り合えず薬を飲んでベッドに入った。
今日までキョンが田舎に行ってるからSOS団はお休み。
ある意味よかったかしら。流石に団長が欠席って格好がつかないもんね。
そう言えばキョンはちゃんと宿題してるかしら去年みたいにギリギリまで手を付けてないなんて事無いでしょうね!
そこで不意にさっきのお母さんの言葉が思い出された。
なんだか顔の熱が上がってく感じがした。
変な事考えたから熱が上がってきたじゃない!これもキョンの性よ!帰って来たらその分も合わせて罰金を払ってもらわなきゃ!
そう考えながら布団を頭から被って横になった。
 
早く治そう!これじゃ折角の夏が勿体無いわ!
そんな事考えながらあたしは眠りの淵に落ちていった
 
………………
……………
…………

中編

気が付いたらあたしは北高の廊下を歩いていた。
心の片隅では『コレはおかしい!』って叫ぶ声が聞こえるけどあたしは足が進むままに歩を進めていた。
如何やらあたしの目的地は文芸部室。つまりSOS団の部室の様だった。
旧校舎の少し暗い階段を上がり、何時もの部室の前に立った。
扉の向こうから声が聞こえる。如何やらみんなは先に来ているみたいだった。
 
やっほーーー!!!まったせたわねーーーー!!!
 
あたしは何時もの調子で扉を勢い良く開けた。ううん、開けたつもりだった。
実際はあたしの口からは言葉は一言も漏れず、淡々と扉を開けただけだった。
 
あ、あれ?
 
戸惑うあたしの心と裏腹に体は意思に反して動いていた。
見ると既にキョンや有希やみくるちゃんや古泉君達は揃っていた。
相変らずキョンと古泉君はレトロなゲームに勤しんでた。アノ感じだと今日もキョンの勝ちみたいね。
窓側に座ってまるで部室の置物のようになって本を読んでるのは有希。正直あそこまでの本の虫って早々にいないわよ。
学校の図書室の本なんて全部読んじゃったんじゃない?
でメイド服を着て甲斐甲斐しくみんなのお茶を準備してるのはみくるちゃん。
本当にみくるちゃんて可愛いわね!やっぱりSOS団のマスコットとして誘k…コホン。勧誘したのは間違いなかったわ!
 
みんなお待たせーーーー!!!
 
第一声を失敗したあたしは改めて皆に声を掛けた。………声を出したつもりだった………
 
『遅れて御免。生徒会長が五月蝿くてね。』
 
あたしの口から毀れ出たのは何時も聞いてるあたしの『涼宮ハルヒ』の声じゃなかった。
でも全く聞いた事がない声じゃなかった。聞き覚えのある声だった。
 
『また生徒会長が難癖付けて来たのか。無視しときゃ良いんだよ。』
『そうも行かないさ。事は僕だけの問題じゃないからね。団の継続にも関わってくる事だよ。』
『まぁな。古泉、なんかアイディア無いか?』
『そうですね。分かりやすい所で地区の奉仕活動に参加してみるのは如何でしょう。表彰されれば知名度も上がりますし。』
『なるほど、一理あるね。さすが古泉君だ、副団長なだけはあるよ。』
『お褒めに預かり光栄です。』
 
何だろう。凄く違和感のある会話だった。あたしじゃないあたしがキョンや古泉君と喋ってる。
それをあたしはまるで空中から眺めてる様な感じだった。
 
『長門さんは何か意見は無いかな?何でもいいよ。』
『…昨今は図書室の利用は年々減少傾向にある。それに歯止めをかける為に読書会を企画しては如何だろうか?』
『ふんふん。具体的には?』
『簡単な。ページ数の少ないような本を各自に配布。一斉に読書後、感想を出して貰う。正解はない事だが、本を読み何を感じたかが大事。』
『なるほどね。色々と根回しや準備は必要だけど面白そうな企画だね。朝比奈さんは何かないかな?』
 
そこで皆にお茶を配っていたみくるちゃんに話が飛んだ。さっきから聞いてると明らかにあたしじゃない他の誰かのようだった。
少なくとも有希やみくるちゃんを苗字で呼ぶような他人行儀な事はあたしはしてない。
それに古泉君と話した時は男口調になってた気がしたわ。
 
『そうですね~。近所の幼稚園のお手伝いに行くのはどうでしょうか?』
『へ~それは興味深いね。』
『最近みんな家に篭ってばかりですから外で遊ぶような事を教えてあげたら良いと思います。』
『確かにそうだね。ついでに余興に文化祭の映画を流すのもいいね.』
『や、やめてください~~~~~!』
 
其処まで話してあたしは………あたしで無い誰かはやっと何時ものあたしの定位置である団長席に移動した。
そこも違和感があった。机の上に乗ってるパソコンがあんまり良い奴じゃなかった。コンピ研にもらった奴は去年の最新型だったはず。
でもコレは明らかに型落ち品にしか見えなかった。
コンピ研の連中あたしが留守の間に勝手に入れ替えたわね!コレは断固たる抗議が必要だわ!!キョン出かけるわよ!!
 
とあたしが意気込んでも、体は全くあたしの意思の通りに動かなかった。
あたしは強制的に映し出される映像を見せられてる感じだった。
 
『で、キョン?』
 
そうよキョンよ!
 
『なんだ?』
 
『なんだじゃないさ。』
なんだじゃないわよ!
 
『君は何か他に意見はないのかい?』
あんた今の状況見ておかしいって思わないの!?
 
『そうだな~。』
 
『遠慮する事はないよ.。』
ちょっとあたしの声聞いてるの?
 
『その前に。』
 
『何だい?』
…なによ
 
『明日の勉強教えてくれないか?俺が当てられる番なんだよ。』
 
『やれやれしょうがないなキョンは。』
こら馬鹿キョン!そんな場合じゃないのよ!
 
『助かる!恩にきるよ。』
 
『別にいいさ僕と君の仲だからね。』
あたしの声聞こえないの?ねぇキョン!!
 
『サンキュウな。佐々木。』
『問題ないさ。』
 
一瞬あたしの頭は空白になった。キョンが親しげに話しかけてるのはあたしじゃない。
あたしじゃなくてキョンの1番近くにいける存在。
あたしの知らない北高以前のキョン。中学3年のキョン。女の子と一緒に下校したことがないって言っておきながら本当は違っていた1年間。
 
『くっくっ、そうだね。今度の日曜に買い物に付き合ってもらう事で手を打つよ。』
『それは助かる。』
『その前にキョンにもSOS団の今後の活動方針について考えてもらわないとね。』
『分かったよ。』
 
あたしは体が崩れ落ちたかのように世界が暗転していた。
実際は自分は只の意識でしかなく、具体的に体が傾いた訳ではなかった。
でも世界が、全てが自分の中から崩れていくような感じに囚われていた。
 
…やだよ
 
『で、何処行くんだ?』
 
あたしを見てよ
 
『それは行ってからのお楽しみさキョン。』
 
その笑顔を他の誰かに向けないでよ
 
『じゃぁ今日も張り切って活動するか。な、佐々木?』
 
あたしに気付いてよ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
キョーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
あたしはまた深い暗闇に沈んで行った。
何も見えない灰色の世界に

後編

=======
=====
===
 
は! 
 
………再びあたしの意識が浮き上がった。
心臓が凄まじい勢いで脈動している。頭の中がキンキンと疼くように響いていた。
体が強張って直ぐに身動きが出来なかった。
 
熱を帯びた体が冷めていくのと同時に自分の状況が何となく分かってきた。
今あたしが見上げてるのは見慣れた天井だった。
眼だけを動かして周りを見回した。
そこは紛れもなくあたしの部屋だった。
 
…夢?
 
如何やら眠っていたようだった。アレからどれだけ時間が過ぎたのか。
辺りは暗く灰色に染められていた。
 
…曇ってきたのかしら?
 
薄暗い部屋を見渡しながら、あたしはそんな事を思っていた。
そして思い出されるさっきの夢。
 
夢…よね
 
正直に言って悪夢だった。SOS団の皆があたしに気が付かないなんて。
よりにもよって団長があたしじゃなくて佐々木さんだ何て。
…そして、キョンが…
 
ありえない!!
 
あたしは夢を振り払うかのように立ち上がった。
寝る前とうって変わって体が軽かった。如何やら寝ているうちに熱が下がったようだった。
一応念の為に病院に行こうと思い身支度を整えた。
少し考えてタクシーで行く事にした。念の為だ。
でも
 
ツー ツー ツー
 
「あれ?繋がらないじゃない。」
 
電話は繋がらなかった。念の為に携帯から掛けてみたが同じだった。
…なんだろう急にあたしの中に不安が鎌首をもたげて来た。
フラッシュバックの様に1年のあの出来事が頭を過ぎった。
 
「…く」
 
あたしは外に飛び出した。
まるで見えない何かに押し潰されそうな感じに耐えられなかったからだ。
しかし
 
「…うそ…」
 
家の玄関から先は見えない壁に遮られて先に進む事が出来なくなっていた。
ガレージから試しても裏口から試しても同じだった。
 
「…これって…」
 
あの夢の出来事全く一緒だった。違うのは…
 
「…キョン」
 
キョンが…いなかった。
言葉に出来ない焦りにも似た気持ちに押されてあたしは携帯に手を伸ばした。
もう頼れるのがソレしかないような錯覚さえ覚えた。
誰かの声が聞きたかった。お父さん。お母さん。有希。みくるちゃん。古泉君。…そして
灰色一色の世界に只1人取り残されたあたし。
コレが不思議だというならば願い下げだった。こんなのちっとも楽しくない。
不思議を見つけたって一緒に楽しめる奴がいないと!
次々と登録してる番号に掛けていく。その度に不通音しか聞こえてこなかった。
 
…そして
 
最後の1人になった
 
  
「…キョン…」
 
 
もしコレで繋がらなかったあたしは壊れてしまうかもしれない。そんな脅迫観念にも似た気持ちに襲われながら、
 
キョンの番号を
 
押した
 
「………」
 
一瞬の空白。虚無と言っていいような時間が過ぎ。そして
 
『ふぅ…やっと繋がった。』
「キョ、、キョン!!?」
 
それは
 
間違いの様のないキョンの声だった。
繋がった、繋がった、この閉ざされた灰色の世界でたった一つあたしの光。
 
「キョン!あんた今何処にいるのよ!これどうなってる訳?変な夢は見るし、あんたは佐々木さんと親しそうだし!
誰に電話しても出てくれないし!もう幾らあたしでもね……あたしでもね…」
 
最初こそ勢い良くキョンに噛み付いてみたが受話器の向こう側って事にまたあたしの心が飲み込まれそうになった。
 
『まぁ落ち着けハルヒ。…あ~~なんて言ったらいいのか問題なんだが。…うん、コレは【夢】だ!』
「夢?…これが?」
『そうだ。夢だから理解しがたい状況なのも仕方がない。しかしな自分の夢なんだ。自分がしたいようにも出来る!』
「…そんな事出来るわけ?」
『出来る!お前が…ハルヒが信じるならな。なんだったら神様になって成れるぞ!何たって夢だからな!!』
「…そう。だったらあたしの願い事は1つね。」
『ほう、そりゃなんだ?宇宙人や未来人や超能力者と遊ぶ事か?』
「そんなんじゃないわ。もっと…とってもあたしに大切なこと!あたしにとって大事な事!そいつがいないと
…あたしは…あたしが【涼宮ハルヒ】になれない位大事な人!!」
『それは誰だ?』
「キョン!」
『…俺か?』
「そ!今すぐ会いたい!会って話したい。ううん!それだけじゃないもっともっと話じゃ足りないくらい事気持ちを伝えたい!!」
『だったら念じてみな。そうすりゃ適うはずだ。』
 
一拍の間をおいてあたしは思いの丈を込めてその名を呼んだ。
何時も読んでいた名前。間抜けなあだ名。不真面目な同級生。SOS団団員その1にして雑用係。
そして、あたしの………あたしの
 
キョーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!
 
「よう、ハルヒ。」
「へ?キョン?」
 
其処には何時もの調子のキョンが立っていた。
間抜けな少し眠そうな顔。だらしない格好。何処からどう見ても普通の代表みたいな奴。
でもあたしの大事な所に何時の間にか入り込んで来た存在。
この灰色の世界であたし達は再会した。
 
「で、早速で悪いんだがハルヒよ。」
「何よキョン。」
「実はコレは【夢】なんだ。」
「は?あんた何言ってんのよ。」
「コレは熱を出したお前が見ている特に意味も無い夢だ。だから夢から覚めれば元通りになる。」
「元通りって?」
「言葉の通りだ。今日俺は還ってきて明日からSOS団の夏の活動が始まる。虫を捕ったり、縁日を見たり、祭りに参加したりな。
市民プールにも行かないといかんしな。」
「…其処にはあんたがいるんでしょうね!」
「当たり前だろ?俺はSOS団団員その1だ。SOS団の活動には無条件で参加する決まりだからな。」
「…」
「それより、この何も無い世界で2人で過ごすか?」
「…そんなの決まってるじゃない!元に戻すのよ!」
「ソレでこそハルヒだ。」
「で?どうやったら戻るわけ?知ってるなら早く教えなさい!」
「古今東西、眠れる美女を起こす方法は1つなんだと。」
「ふぇ?…ちょ、それって………」
 
自然に抱き寄せられた体は不意な出来事にも関わらず拒む事を忘れているようであった。
その中で一面に広がるキョンの顔。自然少しかがんだ格好になっていた。
それに合わせてあたしは少し背伸びをした。
 
それが
 
キョンとの
 
2度目のキスだった
 
>>>>>
 
あたしは沈んだ意識の泉から湧き出るようにしてその意識を覚醒させた。
周りを見渡すと見慣れたあたしの部屋。世界は灰色になっておらず、茹だる様な夏の日差しが照りつけていた。
蝉の鳴き声は精一杯自己主張し夏なんだという事を思い出される。
そこになって体の重ダルさも思い出された……出来れば思い出したくなかったけど
あんまりな夢から覚めたあたしは、正直今が正しい世界なのかと疑っていた。
しかしソレは正しいのだという事を知らしめる人物が現れた。
 
「よ、ハルヒ。お前風邪引いたんだって?」
「キョ、キョン…あんた何で?」
「お前から携帯に掛けてきたんじゃないか。蚊のような声でさ一言『…キョン…』って慌てて帰ってきたんだよ。」
「…で、でもどうやって家に入ったのよ!!鍵がかかってた筈よ!!」
「実はお前のお袋さんから連絡貰ってな。夕方辺りに少し調子がよくなった時にでも見舞いにと思ったんだが、
お前からの切羽詰ったような声にお袋さんの仕事場まで行って鍵借りてきた。」
「…そうなんだ。………ねぇ。」
「何だ?」
「…本当にキョンよね?」
「熱でおかしくなったか?疑うなら折角の土産はやらんぞ!」
「ぬぅなによそれ!あたしの為に持ってきたんでしょ!?その時点であたしの物よ!!さっさと出しなさい!」
「ヘイヘイ、そう言うと思ったさ。まぁ定番のプリンだな。あとゼリーも買ってきた。それにポカリもな。」
「うん、大変宜しい!」
「ところでお前飯は食ったのか?」
「…朝から食べてないわ…」
「そ、そうか。なら台所借りて俺がお粥でも作るからその間に着替えとけよ。」
「へ?」
「何て言うか………扇情的だ。」
「………」
 
この時になってあたしはパジャマ姿であった事を思い出した。
しかも汗で張り付いてるし、髪もボサボサだった。
 
「さ、、さっさと出てけーエロキョン!!!」
「へいへい。」
 
キョンを追い出してから。パジャマ姿でキョンと2人きりって状況に急に気恥ずかしさこみ上げてきた。
急いでタンスから何時かの時の為に買っておいた勝負下着に着替えて、パジャマも野暮ったい奴じゃなくて
所謂見せる為のパジャマに着替えた。
鏡を見ながらボサボサの髪を整える。口臭とか体臭とかが気になるけど流石に全部は消しきれない。
口臭消しと体臭消しのスプレーを軽く振りかけることでごまかした。
 
「ハルヒ入っていいか?」
「ど、どうぞ~~」
 
声、おかしくなかったよね?キョンの前だというのに変に緊張してしまっていたわ。
 
「熱まだあるのか?」
「ど、、どうかしら朝計ったら38度ちょっとあったけど。」
「どれどれ」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
 
な、な、な…い、今キョンがあたしとキョンのおでこを合わせてる。眼の前一杯にキョンの顔が広がった。
その唇に自然と視線が向かってしまう…
 
「まだ熱はあるみたいだな。」
「ふにゃ~~~。」
 
如何やら熱を測ってたみたいだけど、余計に熱が上がるわよ馬鹿キョン!
 
「で?冷蔵庫あさって見つけたご飯を柔らかくしてお粥もどきにしたんだが食べれるか?」
「………」
 
テンパってる頭で何処か冷静なあたしがある提案をしてきた。
そしてテンパってたあたしの頭は直ぐに決断を下したのだった。
 
「あ~~ん。」
「…い!」
「あ~~ん。」
「ハ、ハルヒさん?」
「はやく~」
「くぅ~~~こんな時に限ってー。」
 
こんな時だからでしょ!熱でおかしくなった今のあたしを止めれる奴は誰もいない。
ソレこそ神様でも連れてきなさいよ!その神様を説教してやるから!!
キョンが田舎に行ってる間会えなかった寂しさや、さっきの夢から来る不安とか綯交ぜになってるあたしの気持ち。
決めた!今日は風邪が治るまでキョンにとことん甘えまくってやる!
何時もの理性なんか知った事か!そんなの今はバイバイよ!あたしがしたい事はあたしが決めるの!
今したいのはキョンに甘える事!甘えて甘えて甘えまくってやる!覚悟しなさいキョン!
 
 
 
 
夢だからって2回もキスしたんだからね。
責任取りなさいよ!  
 
 
 
 
何時の間にかあたしの風邪は何処かに行ってしまっていた。
此れって…キョンの御蔭かしらね。
ね?馬鹿キョン♪