風雨の夜に (67-160)

Last-modified: 2007-11-03 (土) 00:45:32

概要

作品名作者発表日保管日
風雨の夜に67-160氏07/11/0307/11/03

作品

< H >
 
 ようやく朝昼晩ともに涼しくなってきた土曜日の夜。時計は7時を指している。
 外は激しく雨が降り、風が吹いていた。率直に言えば、台風が直撃している。
今日あたしの両親は旅行。帰ってくるのは日曜の夜。
いつもならこのくらいの台風なんでもないんだけど、この少し広い家に一人だけだと少しだけ寂しいと言うか、なんとなく心細い。
そんな心細さを紛らわすかのように、あたしはずっとTvを見ていた。
別に面白いわけではない。気を紛らわすために過ぎなかった。
ぼーっとしながら見ていたが、突然上からガタン!と大きな音がした。2階からだろうか?
柄にもなくびくっと肩を震わせる。誰が居るはずでもないのにキョロキョロと辺りを見回す。
そして、気が付くとTvが映らなくなっていた。ザーっと耳障りな音を出しながら、俗に言う「砂嵐」の状態になっている。
そこであたしは気付いた。つまり、音は二階からではなく…屋根のアンテナが風で倒れたか何かで壊れたんだ。
このまま嫌に耳につくTvをつけておくのも気になるから、電源を切る。
途端に静寂が辺りを包んだ。
窓がガタガタ揺れている。外は暗く、ひどい雨だった。激しく窓を打ちつけている。
幸いにも雷は鳴っていない。
しかしそれでも不安がついて回った。
「どうしよう…」
誰にでもなく呟く。
いつかの夢のときのような不安が襲った。
おそらく、あの夢のときの既視感のようなものも不安を助長させているんだろう。
そして、その夢のことを思い出し、赤くなると同時に思いつく。
「そうだ!」
急いで部屋においてある携帯電話を掴んでボタンを押した。
 
< K >
 
 秋らしいと言ってはなんだが、例年通りというか、台風が直撃している今日。
こんな日に、俺の家にはミヨキチが泊まりに来ていた。
どうもミヨキチの両親が旅行に出るから、と、家に預けにきていたのだ。
今はそのミヨキチと妹、両親、俺で飯をTvを見ながら食べている。
風雨が窓を叩き、少なからずTvから聞こえてくる音声を邪魔していた。
時々強く窓を雨が叩き、ガタン!と言う音にミヨキチはびくんとしていた。
…この様子を知ってて両親は家に一人じゃ無理だと判断したんだろうな…。
おそらく正しい選択だろう。ミヨキチはこんなに人が居るのに不安なようだ。
ひどく新鮮な気持ちだ。
我が妹には残念ながらと言うか、そのような素振りは全く見せていない。
周りには、朝比奈さんくらいだからな。こんな女の子らしいと言うか、可愛らしい素振りを見せるのは。
妹に、お兄ちゃん、怖い!と呼ばれ抱きつかれるのも… …って俺は何を考えている。
これではまるでシスコンだ。断じて俺は違う。違うんだ。
俺はただ少し新鮮な気持ちになっただけで…
さらに加えて言えば、キョンというマヌケなニックネームで呼ばれるのが嫌なだけで…そこまで考えたところで携帯電話が鳴った。
電話のようだ。
食事も済んでいたので簡単に片付け、部屋に戻り電話に出た。
『もしもし?』
『…キョン?』
『あぁ。ハルヒか。どうした。何か用か?』
『遅いわよ、バカキョン!もっと早く取りなさいよ!あたしがこうやって電話をかけてあげてるのに…もっと早く取りなさいよ!』
2度同じ事を繰り返すと馬鹿みたいに聞こえるぞ。
『あぁすまん。ちょっと飯を食っててな…。で何だ?何の用だ?明日の不思議探索の中止か?明日の朝もまだ台風みたいだもんな。』
『違うわよ!明日もまだ雨と風が強かったら無しだけど、そのときになってみないと分からないの。もし中止ならその日に連絡するわ。そうね…朝の7時くらいに。』
さながら部活動である。多くの高校生にとって休日のその時間はまだ就寝時間だ。
『そうか、わかった。じゃあ何の用なんだ?』
『ぁ、うん。あのね、1回だけ言うからよく聞きなさい。今からあたしの家に着なさい。20分以内ね。じゃあね。』
プツン… そこまで言って電話は切られた。断る以前に反論をすることすら出来なかった。
「まったく…なんだってこんな日に…やれやれ。」
 
ちょっと出かけてくる、とそう親に伝え、雨合羽を着て自転車に俺は跨った。
 
< K >
 
 ひどい雨と風の中、ようやく俺はハルヒの家に到着した。
自転車に乗っていると倒れそうになる所は押してきた。
向かい風と上り坂が一緒になった時は最悪だった。
平日のハイキングコースと比べても断然こっちがきつかった。
兎にも角にも到着した俺は、ハルヒの家のインターフォンに手を伸ばした。
『ピンp「キョン!」
バタン!と勢いよく扉を開き、ハルヒが顔を見せる。
おいおい…インターフォンを押した瞬間にドアが開いたぞ…。
「良かった…。」
胸を撫で下ろし安心した様子のハルヒ。
「お前は大丈夫か?」
「ぇ、ぁ、うん。全然平気。とりあえず中に入りなさいよ。 あ、先に洗面所に行ってその雨合羽脱いでおいでよ。後でドライヤーで乾かすわ。」
了解の意を伝え、脱いで洗面台の中にとりあえず置いておく。
 
まず着いてからすぐに聞こうと思ってたことがあったが、その前に気になったことがあった。
「なぁ、ハルヒ。さっき俺がインターフォンを押したらすぐ開いたけど、お前ずっと扉の前で待っててくれたのか?」
「そうよ。ちょっと遅くなったから心配になって。あ、団長が団員の心配をするのは当然でしょ?」
つけ足したように言わなくても…
「そういえば、20分を過ぎたことにお咎めはないんだな。」
「うん。外を見て気付いたの。20分じゃ間に合わない、って。自転車で来てるって事は、途中押さないと、転んじゃいそうな所が結構無かった?」
そのとおりだ。
「あぁ。押してきたところもあるな。」
「だから、20分はもう気にしなくていいわ。」
「そうかい。で、本題だ。ここまで来て言うのも今更なんだが、何の用だ?」
「えっと…最初は、テレビのアンテナを直してもらおうと思ったの。ほら、テレビがこんな風になっちゃって映らなくなってさ…けど、あんたを待ってる間に外を見てたら気付いたの。いくらなんでもこんな日に屋根に登らせるなんて危険すぎる、って。」
お前は俺を何だと思ってるんだ…。外が晴天晴れで風がなくても俺はそんなこと出来ない。
まぁやったことないから、実際のところはわからないんだが。
「だから、その、用事…なくなっちゃった…。」
苦笑して言いにくそうに告げるハルヒ。
 
 < K >
 
さっきから思っていた事だが、どこか今日のハルヒは元気がない。
言葉を変えればらしくない。さっき見たミヨキチに近いものがある。
まさかコイツもミヨキチの様に…?いや、まさかな。
「そうか。じゃあ、俺は帰ればいいのか?」
「っ!そ、それはダメ!」
一転して強く言うハルヒ。
「俺はアンテナを直せる気がしないぜ?したことないs・・クシュンっ」
くしゃみが少し出る。無理も無い。いくら雨合羽を着てたとはいえ、この雨だったからな。
多少体が冷えているようだ。
「あ、じゃあキョン!あんたお風呂に入ってきなさい!もう沸いてるから、すぐ入ればいいわよ。着替えはー…親父のを借りればいいかな。サイズはそう違わないはずだし。」
「おいおいハルヒ、さすがにそれはまずいだろ?それにこんな時間にあまり長居するのも…
 っと、そういえば両親はどこに居るんだ?見当たらないんだが。」
「2人なら今旅行に行ってるわ。今この家にはアンタとあたしだけよ。」
これって結構爆弾発言…だよな?
一応俺も健全な男子高校生。夜に両親が居なくて健康な男女が二人きり。意識するなって方が無理だ。
「そういうことは先に言え…」
「いいじゃないそんなこと。とにかく、早く入ってきなさい。あたしのせいで風邪引いたら、ものすごく悪いじゃない。」
ハルヒがこれと決めたらそう簡単に折れてくれないのはとっくの昔に学習済みだ。
反論するだけ無駄だとわかっていたから、俺は素直に甘えることにした。
「ありがとよ。そうさせてもらおう。」
 
「脱いだ服はここに置いて、バスタオルはここに置いておくから。シャンプーはこれかこれを使ってね。はい、タオル。これ石鹸ね。」
「あぁわかった。」
ハルヒの事細かな説明を聞きながら、この状況を谷口辺りに説明したら間違いなくあいつは勘違いするだろう、などと考えていた。俺がハルヒの家の風呂に入ろうとしている、だもんな…国木田でさえ勘違いするかもしれない。
まぁ恐らく谷口の馬鹿はその後もなどと考えるんだろうが。…俺も考えすぎか。
ハルヒが扉を閉めてしばらく経った後、気を緩めた。
「しかし…変なことになったもんだ。」
ハルヒが妙に元気が無いのは何故だろうね。古泉のやつは、今頃アルバイトで忙しいのだろうか?
気になるが、とにかく風呂に入るべく服を脱ぎ、風呂場に入った。
 
 < H >
 
 キョンがお風呂に入ってもうすぐ10分。
少しでも人の気配を感じたくて、お風呂の水の音が聞こえる部屋であたしは待っていた。
 
キョンは20分を過ぎても、家に到着しなかった。
すごく心配だった。
いつかのように、どこかでこけたりして、頭を打ってるんじゃないか、って。
だから、あたしは扉の前で待っていた。
『団長だから~』って言ったのはもちろん建前。
そして、来てくれて本当に嬉しかった。
こんな台風の日にいきなり呼び出して、来てくれないかもしれない、とも半分考えていた。
それでも来てくれた。20分じゃなかったけど、相当急いで着てくれたはずだ。
改めて感謝する。口には出せないのが歯がゆい。
「ハルヒー、着替えはどこにあるんだ?」
しまった。着替えを出すと言ってて忘れていた。
「ごめん、すぐ持っていくから待ってて!」
急いで親父のたんすからいくつか取り出し、キョンの所へ急ぐ。
そして、扉を開けた。
 
「ごめん、すっかりわすれてt…?!?!!~~~~~~~っっ!!!」
 
バタン!
 
………………。
キョ…キョンの…は…はだ…はだか…!!~~~~~~!!!
「き、着替えここに置いとくから!」
急いでその場から離れる。
キョンは髪を拭いてた。何も着てなかった。
幸いにも?後ろを向いてたからその…見えなかったけど…
でも、でもでもでも…あーもうばかばかばか!
キョンが服を着て部屋へ入ってきた。
「は、ハルヒ…あー…その、なんだ。…すまん。」
 
< K >
 
「うるさい!バカキョン!鍵くらい閉めときなさい!」
「鍵なんてついてなかったんだが…」
「うるさい!バカバカバカバカ!!大体アンタは・・・」
ハルヒは延々と俺に対して文句を言っている。
理不尽だ。
俺はどうしていればこの事態を防げたのだろうか?
ゆっくり来てくれればいいものを、走ってきていきなり開けやがったからな…。
やれやれ。
「ちょっと、キョン!聞いてるの?!」
「だからすまなかったって言ってるだろう?俺だって見られたくて見られたわけじゃない。」
ハルヒの方を向いてなかったのは不幸中の幸いだ。
後ろを向いてたのにハルヒは真っ赤に紅潮して怒っているからな。
ハルヒの方を向いてた場合、どれほど恐ろしいか想像も出来ない。
しかし…
「やっとハルヒらしくなったな。」
「え?」
「さっきまであまり元気無かっただろ?これでも少し気にかけてたんだぜ?俺はやっぱり元気の良いハルヒの方が好きだからな。」
「っす…?!~~~~~っ!」
…俺はいま何を口走った。ようやく収まりかけてたのにまた顔が真っ赤になっちまった。
今回はしちまった、か。
「あ、いや、その、なんだ。好き嫌いじゃなくて、元気の無いハルヒより良い方がハルヒらしいというか…。」
自分でも何を言っているのかわからない。
「…わかってるわよ。─そうね。さっきまでの不安も無くなってるみたい。」
「不安?」
ハルヒにもやっぱり不安はあるんだと再確認する。まぁ当然なんだが。
 
 < K >
 
「本当のこと言うと、少し不安だったの。外はこんな台風がすごくてさ。窓はガタガタ言ってるし、Tv見て気を紛らわそうとしてても、急に屋根のほうから大きな音がしてアンテナが壊れるし。それで、Tvも消してなんだか少し怖くなっちゃって。それでね、前に夢を見たことを思い出したの。夜の学校にアンタとあたしだけの夢。」
あのときのことか。
「あの時も、最初は凄く怖かった。世界は灰色に包まれてて、誰も居なかった。正確に言えば、あたしとアンタだけが居た。けど、そのうちに不安はなくなって、希望だけが残ってた。そのことを思い出して、あたしはあんたを呼び出した。ごめんね突然呼び出して。…あたしはあんたと居れば自然なあたしで居られる。あんたはあたしの世界に色をつけたの。一度消えた色をもう一度あんたが、ね。高校に入ってからよ。こんなに毎日が楽しいのは。SOS団を作ったのだって、あんたのおかげみたいなもんだし。だから…キョン。あたしはもうアンタがいないとダメみたい。あたしは…あんたのことg「ハルヒ。」
言葉を遮る。俺ももう心のどこかでは気付いていた。
俺もハルヒ無しの生活は考えられなかった。
12月の出来事は正直本当にキツかった。あれほどまでにハルヒは俺の生活に関わっていたんだと思い知らされた。
──俺はハルヒの事が好きだった。
「ハルヒ。俺はお前が好きだ。付き合ってくれ。」
「─あたしもアンタが好き。返答はもちろんYESよ。」
その日、俺たちは二度目の口付けを交わした。
 
 
結局、俺はそのままハルヒの家に泊まった。
その後の話?ご想像にお任せしよう。
あぁ、そういえば朝にハルヒの家を出るときに谷口に見られたな…何かを叫びながら走り去って行ったが。
まぁもう実際に付き合いだしたから別に何を言われようとかまわん。
多分谷口のことだろうから誇張して話は伝わるんだろうけどな…。
やれやれ。
そして今は待ち合わせへ急いでいる途中だ。約束の時間の20分前なんだが…
「キョーン!遅いわよ!早くしなさい!」
予想通りだ。一体こいつは何分前から待ってるんだろうね。
お察しのとおり今日はこれから不思議探索だ。2人きりで、な。
 

< END >