Photo ’K’ollage (76-385)

Last-modified: 2008-01-12 (土) 23:16:30

概要

作品名作者発表日保管日
Photo ’K’ollage76-385氏08/01/1208/01/12

作品

 どうしてキョンの奴はこうも落ち着きが無いのかしら?って、ああん、もう、また動いちゃう。
「こら、アホキョン!あんたってもう少し位じっとしてられないの?」
「じゃあ、一体どうしろってんだ?動かなかったら動かなかったで『もっと力抜いて自然にしなさい』とか言いやがったくせに」
「いちいち文句言わないの。――ほら」
 やれやれ、とか言ってうんざり気味のキョン。ちょっと、そんなに憂鬱そうな顔しないでくれる?それだと全然絵にならないじゃないのよ。
 デジカメのファインダーから目を離して溜息を吐くあたし。はあ、そもそもなんでこんなことする羽目になっちゃったんだろう。
 
 ………
 ……
 …
 
 先週の美術の時間のことだったわ。
・グループ単位で、身の周りにある物からアルファベットのAからZまでの各一文字をイメージさせる部分を切り出して、一つの作品にまとめて提出せよ。
・ただし、文字そのものは使用禁止、また、作品のテーマやメッセージ性を考察し、レポート用紙五枚にまとめよ。
 とかいう変な課題が出されたのよね。意味わかんないわよ。
 ちなみに、あたしは阪中たちと同じ班分けだったの。他の面子は、大野木、佐伯、成埼っていう総勢五名。みんな阪中と仲がいいみたいね。
「涼宮さんが一緒だと頼もしいわ。こういうのって、あたしちょっと苦手なのね」
 貸し出されたデジカメを前に、阪中を始め他のみんなもどうしたものやら、途方にくれている感じみたい。
 ああ、もう。こういう面倒臭いのはさっさと終わらせてしまいたいわ、ほんと。
 仕方なくデジカメを手に取り、あたしはみんなを連れて校舎外に繰り出した。適当な風景とか、建物の一部分などから、あたしはとりあえず『H』と『S』に見えなくもないところを撮影して、みんなに示した。
「こんな感じでいいんじゃない?でも、二十六文字全部って、結構大変かもね」
 あたしが適当に例を示したためか、程なく成埼が『W』の文字をゲットした。でも、そんなこんなでその日の美術の授業時間は終わってしまった。
「これって案外難しいのね。でも、さすがは涼宮さんだわ。あんな短時間で二文字も撮っちゃうなんて。やっぱりすごいのね」
 でも、成埼の分も入れて、残り二十三文字もある。来週の提出まであまり時間もなさそうだけど。
「そうね――。残りはみんなで分担しましょう。五人で二十六文字だから、一人頭五文字ってところよね。余った文字もあたしがやっとくから、あたしと成埼さんはあと四つで、残りの阪中さん、大野木さん、佐伯さんは五つずつ、ってのでどう?」
 あたしの提案にみんなも肯いた。それで適当に各人担当分の文字を割り振ることになった。結果、あたしの担当分の残った文字はというと、『K』、『N』、『O』、『Y』の四つに決定。
 ああ、『Y』じゃなくて『W』だったら『KNOW』って意味のある単語になったのに、とか、ついどうでもいいことを考えてしまう。でも『W』はもう既にあるんだし、仕方ないことよね。
 あたしが阪中にそういうと、
「はあ、せっかくあたしたちが気を利かせてあげたのに、全然解ってないみたいなのね」
 とかいって、なにやら呆れられてしまったんだけど、あたし、なにか変なこと言ったかしら?
 
 でも、それからが結構大変だったの。残りの内『N』、『O』、『Y』の三つはなんとかなったんだけど、『K』だけがまだ撮れていない。ちなみに、明日は美術の授業がある日だった。
 放課後の部室で、あたしはひたすらどこかに『K』が見つからないか考えつつも、ついついみくるちゃんにポーズをつけさせて悩殺写真を撮るばかりだった。
「ふええ、涼宮さん、あんまり際どいのはちょっと……いやあ、か、カンベンしてくださいー!」
 みくるちゃんの嬌声が聞こえてないかのように、有希は黙々と読書してる。そういえば有希も同じ課題が出てたはずだけど、あたしがさっき訊いたところ返ってきたのは
「終わった」
 の一言だった。相変わらずの完璧超人万能文化娘っぷりに、ちょっとだけあたしも羨ましいとか思ってしまう。
 ちなみに、これは後で教えてもらったことなんだけど、有希が取ったのは『D』、『K』、『N』、『O』、『S』、『Y』の六つだって。なんだ、あたしと一文字違いじゃないの。
「おや、涼宮さん、また撮影ですか。僕も何かお手伝いしましょうか?」
 古泉くんは、いつものように笑いながら話しかけてくる。でも今は手伝ってもらう以前の問題だったからね。
「ありがとう、古泉くん。でもこれは試し撮りみたいなもんだから、別に構わないわ」
 興味を示した様子の古泉くんに、あたしは例の課題と、残った『K』がなかなかうまく撮れないことを一通り説明したわ。
 古泉くんはなにやらしばらく考え込んでいたんだけど、
「ふむ、そうですね……。ここは一つ、『彼』を被写体にしてみるのは如何でしょうか?」
「えっ?何でキョンなんか――」
 思わず声が裏返ってしまった。古泉くんはそれが受けたのだろうか小さく笑ってる。
「ふふふ。僕は『彼』とだけしか言わなかったのですが……。いえ、別に何でもありません。とにかく、彼に協力してもらえば、きっと涼宮さんの望んだものが撮影できると、僕は信じています」
「そうですよ。涼宮さんにとって、『K』といえばキョンくんも同然です。キョンくんの写真なら、『K』の文字が入ってなくてもみんなきっと、納得しちゃうと、その……わたしは思いまーす」
 ちょっと、みくるちゃんまでなんか変なノリじゃないのよ。なに言い出すんだか。後でバニーちゃんの刑よ、覚えてらっしゃい。
 と、そこに計ったようなタイミングで、キョンの奴がマヌケ面で現れた。
「ちぃーっす。……なんだ、ハルヒ。みんなで何やってんだ?」
 同時に、他の三人もあたしに注目する。
 なんだかもう引っ込みがつかなくなったあたしは、ついキョンに対して、こう怒鳴ってしまった。
「こら、バカキョン!来るのが遅いのよ、あんた。いいからそこに座って、あたしの写真のモデルになりなさい!」
 
 …
 ……
 ………
 
 キョンの奴は、パイプ椅子に座って、まだブツクサ文句を垂れていた。
「しかし、何かと思えば、この前の美術の課題か。全く、モデルなんて言い出すから、俺はてっきりヌードにでもさせられ――」
 キョンの言葉が終わらないうちにあたしは思わず踵落しを喰らわせていた。
「うごっ!――おい、そんなに足上げたりしたら、スカートの中が全部見え――」
 続けざまに顔面を鷲掴みにしてギリギリ締め上げてやる。
「……ハルヒ、お前もうちょっと力の加減ってモノをだな」
「うるさい、エロキョン!なによ、大体あんたこそまだ何にもできてないんじゃないの?」
「そんなのとっくに終わったぞ。何も考えずに適当でいいだろうが。そもそも、どうして俺がモデルなんだ。てか、残ってる文字はいったい何だ?まさか俺にその字のポーズを取らせるつもりか?」
 あたしも一瞬それは考えたけど、あまりにもマヌケすぎるのでちょっと却下よね。
「いいから、ほら。……んー、あんた、もうちょっとマシな顔しなさいよ。そんなに退屈そうにしてると、ただでさえ不景気な顔が余計に酷く見えるじゃない!」
 そのときは、あたしも、もうなにを撮っているのか半分以上忘れてたのかもね。
「それがモデルに対しての言葉か。でも不景気って言われてもなあ、なんかこう、目の前に心和ませるようなものでも、たとえば朝比奈さんに座っててもらうとか」
「ふぇ、わ、わ、わたしですかあ?」
「不許可の却下!このエロキョン!」
 あたしとみくるちゃんの声が同時に室内ににこだまする。全くもう、これだからキョンの奴ってば、油断もスキもないじゃない。あんたの鼻の下伸ばしたニヤケ顔なんての撮ったら、デジカメ内のチップが腐っちゃうわよ。
「では、僕があなたの前で笑って差し上げましょうか?」
「いらん!止めろ!気色悪い!」
「そうですか。……それでは仕方ありませんね」
 古泉くんの提案をバッサリ切り捨てるキョン。古泉くんも何だかすごくがっかりしてるみたいね。って、あたしはこんな漫才に付き合ってる場合じゃないのに。
「ユニーク」
 有希は読書の姿勢のまま、なにやら呟いたみたい。よく聞こえなかったんだけど、そうよね、こんなんじゃ、何事にも動じない有希でも、呆れるってモノよね。
 
 時間だけが無為に流れていく。それまでに増えていったのは、あたしのイライラ感と、あとで丸ごと消失させられる運命にあるはずの、キョンの不景気顔画像ばかりだった。
 
「それでだ、ハルヒ。さっきも訊いたはずなんだが、お前が撮ろうとしてるのは、一体何の字なんだ?」
 心底もう付き合いきれない、といった表情でキョンが尋ねる。あたしは、しぶしぶと、どうしても『K』の字だけが撮れていないことを白状した。
「へえ、『K』か。俺の分にはそれはなかったけどな。……ん、待てよ、確かそういえば――」
「え、ちょっとキョン、なにか心当たりでもあるの?早く教えなさいよ!」
「あ、い、いや。気のせいだった。あはははは、なんでもないぞー、ハルヒ」
 むう、あからさまに怪し過ぎる。キョンが無意識に、ポケットの辺りに手をやったのを、あたしの目は見逃さなかった。
「隠しても無駄よっ。とりゃぁ!」
 瞬間、あたしは『暴走特急』のコック長のような俊敏さで、キョンの奴に向かって跳びかかっていた。
 そのとき、うっかりデジカメを放り出してしまってたみたいだけど、それは古泉くんが危なげなくキャッチしていてくれたのだった。さすがは副団長ね。
「うおっ、ちょ、お前、ま、待てって。おいこら、何しやがる!」
 動揺したキョンの下半身にタックルをぶちかましたあたしは、寝技に持ち込むと関節を極めながら、ポケットに隠されているものをまさぐった。
「止めろ、おい、痛えぞ。どこ触ってやがる。こら、くすぐった――って、こら古泉。お前、ドサクサにまぎれて何撮ってやがる!」
 みくるちゃんは、両手で真っ赤にした顔を隠しながらも、指の隙間からこっちを見てるみたいね。有希も、本から顔を上げて、何事か、とこっちを伺ってる様子だわ。
 と、キョンのポケットから携帯電話が転がり出た。獲物はこいつね、きっと。
「へへん、お宝はゲットしたわよ。素直に渡してくれたら、キョンも痛い思いをせずに――」
 と、待ち受け画像を目にしたあたしは、意表を突かれて絶句してしまった。
 
 そこには、自分でも意識したこともないぐらいの、あたしの嬉しそうな横顔画像が表示されていた。
 
「……ハルヒ」
「ねえ、キョン――」
「いい加減、離してくれ――」
「これって、……一体」
「頼む、――折れそうなんだが」
 折れる?って、ちょっと、なによ?
 と、そこで初めて我に返ったあたしは、キョンの上から飛び退いた。床の上でズタボロ状態のキョンは、しばらく動けないみたいだったけど、やがてゆっくりと、その身体を起こした。
「――全く、病院送りはもう懲り懲りなんだがな」
「あの、えっと、その――ゴメン」
「やれやれ、あんまり無茶苦茶するもんじゃないぞ。本当に」
 あちこちをさすりながら、しかめ面をしたキョンは、おもむろにあたしの方に向き直ってから、切り出した。
「――んで、見ちまったのか?」
「あ……うん」
「そうか」
 
 沈黙。
 
 って、なに、これじゃ、あたしが一方的に悪者みたいじゃないのよ。
「ちょっと、キョン。こんな写真、一体いつ撮ったりしたのよ?答えなさい!」
 キョンは真っ赤な顔で、目を逸らしながら呟いた。
「一体何時かは、正直、俺も知らん。それから撮影したのは俺じゃない。誰が撮ったかはそいつとの取引の条件として守秘義務があるので教えられないが、俺ではないことは真実だ。そのとき、俺はお前に引き摺られている最中だったからな」
 ずいぶんとイイワケじみているけど、多分本当だろう、とあたしは思った。自分でも何故そう確信したのか、ちょっと理由が思いつかないけど。
「べ、別に隠す程のことじゃないでしょ?まあ、あたしもちょっと、ていうか、――かなり恥ずかしいんだけど。……で、これのどこがさっきの話に関係あるのよ」
「ああ、そうだな。ちょっと返してくれ」
 キョンはあたしから携帯を取り戻すと、パソコンに向かってなにやら始めた。例の画像を取り込んでるらしい。
「ちょっとキョン、一体なにやってんのよ」
「まあ、待てって。……っと、ほらよ」
「早く見せなさ――あっ」
 
 思わず驚嘆してしまった。
 
 そのパソコン画面の拡大画像には、あたしのカチューシャに付けたリボンが、風になびいて黄色い『K』の文字を結んでいたのだった。
 
「――よく気付いたわね」
「……ああ、今まで俺、ずっとお前のことばかり見てたからな」
「そう……。って、キョン?」
「あっ――!」
 
 またしても沈黙
 
 顔から火が出るってのはこういうことを言うのかしら。同じく真っ赤な顔してるキョンに画像データをメモリーカードにコピーさせている間、他の三人がなにか話してたみたいだけど、あたしの耳にはキョン以外の他の誰の声も入ってくることはなかった。
 
「灯台下暗し、というわけですか。まあしかし、彼も涼宮さんのことを心底熟知しておいでだ、というところでしょうか。先程からも御二人の世界を構築されている様子ですし、僕なんかでは、とても割って入れませんね」
「キョンくん、やっぱり素敵です。なんだかんだいっても、ちゃんと涼宮さんのこと、大事に思っているんですね。ぐすっ、あたし、感動しちゃいました」
「……ハンカチ」
 
 翌日の美術の時間。
 妙にこっ恥ずかしい状態のままだったあたしは、阪中に素材画像と自分の文字分のレポートを渡すと、体調が悪いといって保健室に逃げることにした。
 でも、どうやらそれが間違いの元だったみたい。
 さらに、その次の日、校内ですれ違う生徒が一様にあたしに注目している様子だった。こちらを指差してクスクス笑ったりして、なんだろう、ムカつくわね。
 その放課後、自分たちの班の作品を見てあたしは引っくり返りそうになった。
 あたし以外の四人分の文字でハートマークが描かれていて、その中に、あたしの分の文字が二段に分けて、『HS』と『KYON』といった感じで並べられていた。
 なにこれ、いったい誰の陰謀なのよ?
 と、一人憤慨するあたしの前に阪中が現れた。
「あ、涼宮さん、見てくれたのね」
「阪中……さん。ちょっと、これ……」
「先生が『感動を表現しなさい』っていってたの。で、あたしたちみんな、涼宮さんの画像見て、特に『K』って、あれキョンくんが発見したんでしょ?すっごく感動したのね。だから、思い切ってこういう感じで並べてみたんだけど」
 どういうことよ。キョンが発見したこととか、あたし、誰にも教えてないのに。
「あの……こんな配置にして、だめだった……?」
「…―――…」
「えっとね、長門さんだっけ、最初はただの丸で囲んでたのを、『こっちの方がいい』って、ハート型にするように、勧めてくれたのね」
「ええっ?有希が?」
 有希の仕業?そういえばキョンとの一件もあの娘は知っていた。とすると――
 あたしは、心の中で声にならない雄叫びを上げ、阪中の前から駆け出した。
 
 
 
 
 
 バターン!
「有希!ちょっと有希!出ていらっしゃい!ねえ、みくるちゃん、有希がどこにいるか知らない?」
「ふ、ふえっ、な、長門さんなら、『クイーン・オブ・目覚まし時計道』を究める、って言い残して、鳩さんをいっぱい引き連れて、す、スイスの時計マイスターのところまで修行の旅に出ちゃいましたー!」
 
 
「ところで、後から僕が聞いた話なんですけど、長門さんの六枚の画像全てに、あなたの一部が写っていた、とのことです」
「だから古泉、お前何が言いたい?」