12-261 無題

Last-modified: 2007-01-25 (木) 23:13:56

概要

作品名作者発表日保管日(初)
無題(イタ電と勘違い)12-261氏06/07/2806/08/10

作品

プルルルル…ガチャ
「ハアハア…お姉ちゃんパンツ何色?…ハアハア」

 

『……最低……』ガチャ

 

とある事件――朝比奈さん誘拐事件と市内散策の大幅遅刻――以来、俺は毎晩、バツゲームとしてハルヒにイタ電風の電話をかけなければならなくなったのだが、「馬鹿馬鹿しい」とか、「何やってんだろうな俺は」とか、「やれやれまったく」とか、いつもの定型句を吐きながらも、こうやって、けなげにもイタ電しているわけだ。
決して怪しい趣味に目覚めたとかそういうのではない事だけは主張しておきたい。
しかしなんだ、相手がわかっているとはいえ、イタ電というのは、このどきどき感がたまらない。今のハルヒの侮蔑のこもった言い方は迫真に迫っていて、とても良かった、だんだん癖になってくる。
やばいね……これは……

 

という冗談はまあさておき、もう一度ハルヒの携帯にリダイアルした。
『おやすみ』をハルヒに言うためだ。
あー、それもハルヒが無理矢理俺に言わせているのだという事だけは、補足しておく。決してバカップルのまねごとなんかではない。

 

ツーツーツー……
ん?話し中か?またあとでかけ直すか。
10分後
ツーツーツー……
30分後
ツーツーツー……
60分後
ツーツーツー……

 

おかしい……こんなハルヒが長電話をするなんて考えられん。
あいつの電話はほとんど一方的に用件を伝えて終了するのが常だ。
男が出来て歯の浮くようなラブラブ長電話をしているとかそういう事は人類どころか生命が全て死滅し太陽が赤色矮星になったとしてもあり得ない。

 

まさか……着信拒否??……why?なぜ?

 

不審に思った俺は、試しに家の固定電話からハルヒにかけてみる事にした。もう一度ハルヒの声が聞きたいとかそういうのでは決してないから誤解のないようにしていただきたい。

 

プルルルル――つながった――プルルルル…ガチャ

 

『あんたの声なんか聞きたくない!もう二度とかけてこないで!』

 

……ツーツーツー
その瞬間、俺の背後で何かが音を立てて崩れ去ったような気がした。

 

なぜだ?
パンツの色を聞いただけだぞ?それだけでここまで嫌われる????――いや、ふつうなら嫌われるどころか完全に変質者、犯罪者だが――おれとハルヒの仲、あ、いや、SOS団の自称心優しき団員思いの団長とその一の子分だろうが、その程度でここまでの仕打ちなぞありえない。

 

夢ならさめてくれ!あーそうだ夢だ。一晩ぐっすり寝ればきっと明日には……

 

………
……

 

結局、眠れなっかったわけだが、まあよくよく考えてみれば、俺はまったく悪くない。きっとあいつの勘違いだろうし……

 

しかし、それにしてもあいつがここまで怒る事とは何だ?

 

そんな事を考えながら答えのない問題、いわゆるジレンマってやつ解き明かそうと無駄な努力をするギリシャの哲学者のようにアクロポリスの丘を黙々と上り続け、いつもの教室に着いたわけだが、教室にはまだハルヒの姿はなかった。

 

ハルヒはHRがはじまる寸前、時間を見計らうように教室にはいると、無言で俺の後ろの席に着いた。

 

空気が鉛のように重い……やはりまだ怒っているのか。
担任の岡部が何か喋っているが、突き刺すような背中からの視線のせいでまったく耳に入らない。
すぐに後ろをふり向いて問いつめたい、何故にここまで虐待をうける訳を小一時間問いつめたい。
そのとき、唐突に岡部のその一言だけが耳に入ってきた。

 

「それでは、席替えをはじめるぞ」

 

な、なんだって!?この時期に席替え!??

 

俺の世界はどうやら大回転をはじめたようだ。
クラス恒例のクジ引きによる席替えが行われ、俺は廊下側の一番前。
そしてハルヒはいつもの窓際の一番後ろ。

 

やばい……
本格的に怒っているどころか、深層意識下でも嫌われたらしい。

 

一限目が終わり、俺はハルヒの元に向かった。
「ハルヒ、ちょっといいか?ここじゃ何だから、別の……」
「うるさい。あんたの声を聞きたくないって言ったでしょ。」
「だから何でそんなに怒ってるんだ?」
「はぁ?本気で言ってんの?あんたが、そこまで鈍い男だったなんて…」
「だからマジでわかんねーって言――」

 

パンッ!!

 

短い乾いた音がして、一瞬目の前が真っ白になった。
強烈な一撃で俺はバランスを崩して側の机の群れにつっこむしかなった。

 

「―――――!」

 

教室が一気に静まりかえる。
俺を殴ったハルヒは、俺に顔を見せないようにして外に飛び出した。

 

「おい!キョン!いったい涼宮に何をしたんだ?」

 

谷口が俺に突っかかってくるが、わからんまったくわからん。
俺が教えて欲しいくらいだ。

 

まさか、また世界改変が行われて俺が知らないうちに何かハルヒにしでかした事になっているとか……それ以外に考えられん。
長門に聞けば何かわかるかもしれん。そう思い俺も飛び出そうとしたところに、二時限目を告げるチャイムが鳴った。
今から、長門のいる教室に行くわけにも行かない。
次の休み時間に…。激しく左の頬が痛む……訳がわからない……
そして、ハルヒは結局戻って来なかった。

 
 

次の休み時間、長門に会いに行くが長門はまったく異常はないと言った。

 

長門が嘘をつくとは思えない。
仕方がない、こう言うときは涼宮ハルヒ心理分析官を自称するあいつに会うしかないだろう。

 

渋々9組に足を向かわせようとするとその時携帯のバイブがうなりだす。
授業中は電源を切っているんだが、朝からのごたごたのせいで、マナーモードのままになっていたみたいだな。必死にうなる電話を取るために物陰に隠れて、俺は受話ボタンを押した。
電話の主は……古泉一樹だった。

 

『あなたは涼宮さんに一体何をしたんですか?!一大事ですよ!これは!』

 

ヤツはいきなり、あり得ないくらいの大音量で、そうぬかしやがった。
何が大変なんだ。俺の今が一番一大事だ。

 

『閉鎖空間が一度に多数発生しています。急に呼び出されて一限目で早退しましたが、それでも追いつかないぐらいなんですよ。しかも《神人》がいつもより強くなっています。僕も少々傷を負ってしまい、今、傷の手当て中なのですが、まさかと思い、あなたに電話したんです。いったい、涼宮さんに何をしたんですか!?』

 

それを俺が一番聞きたい。

 

『本当にわからないんですか?』

 

とりあえず昨日の夜の電話の事から事細かに話してやる。
ありがたく思え。

 

『本当にその程度で、ここまであの涼宮さんががお怒りになられるとは思 えませんね。昨日の事を、もう少し事細かに、そう何気ない事でもいいです。教えてください。』

 

いつも通り、午前中も午後も特に変わった事などない。
部室に行ったときも変わった事など無かったはずだろ。お前も知っている通りだ。確か昨日は、ハルヒが新入団員を今のうちからめぼしいのを見つけるとか言い出して、まずは俺の母校に行くといいやがって、バニーで乗り込まれたら下手すれば大問題になるので俺が、何とかなだめてやめさせた。

 

あー、そのときお前が、「母校に昔の彼女がいるから都合が悪いんじゃないですか?」とか変なツッコミを入れやがったな。
そのときは機嫌が悪かったが、帰る間際には元のハルヒになっていたはずだ。

 

そしてまっすぐ家に帰って…いや、ちょっと寄り道をしたら、中学校の同級生にあったな……そういえば。声をかけたんだが、何か思い詰めた感じで、なんかあわていたみたいだったから、じゃあまたと言ってすぐ別れた。

 

それで家に帰ったら、母親から電話がかってきて、買いものしてきてくれって言うんでぶつぶつ言いながら買い物に出かけてた。あー関係ないが買いものの途中携帯の電池が急に切れたな。
あとは、だらだらと時間をつぶしてメシ食って風呂に入って、さっき話した電話をした。それだけだ。

 

『その同級生が元彼女とかだったってことは無いですよね?』

 

殺すぞ、お前。
だいたい中学生時代にはそんなのはいないって、何度も言ってる!
ただ、まあ、会ったのは確かに女だったが、それほど親しくもなかった。

 

『しかし、その同級生が何か鍵を握っていそうな感じがします。もし連絡が付くならば、その人に聞いてみてくれませんか?出来るだけ早急に!』

 

そういうと、古泉は電話を切った。
だから親しくなかったっていってるだろうが。電話番号なんてまったく知らないし、だいたい、昨日ばったり会ったが名前がすぐに出てこないくらいだったんだからな。困った、国木田にでも聞いてみるか。

 

そこでやっと気が付いたのだが、もうすでに3時限目ははじまっている。
今から、教室に潜り込むのも面倒だ。
時間をつぶせる場所といえば、あそこしかないか……
俺はいつもの場所に重い足を向かわせたのだっのだが――

 

その場所には先客がいた。
その場所の主ってヤツだな。ここにいそうな事ぐらい気が付けば良かった俺も迂闊だったぜ。

 

まあとにかくドアを開けると、そいつはあらん限りの罵声を浴びせてきやがった。ただ、その声はいつもと違って悲壮感に満ちあふれていたのだ。

 

「誰あんた?部外者はこの部屋には立入禁止よ!とっとと出てって!今すぐ!今すぐ出てけ!!」

 

おいハルヒ・・・・

 

何故そんなに目が真っ赤なんだよ?
何でそんなにお前が悲しんでいるんだ?
何をそんなに思い詰めてるんだ?
俺にはわけがわからないんだよ。

 

「あんた、まさか、いまだにSOS団の団員のつもり?あんたなんか、もうとっくにクビになってるわよ。だから出て行って!ここに来る理由は全くないのよ!大体、学校なんて来ているよる余裕があるわけ?いまは、あんたがしっかりやらな……きゃだめ……」

 

ハルヒは突然、泣き崩れた。
声を出して泣いていやがる。
ちくしょう、まったく全然にあわないぞ!お前には!

 

「なあ、ハルヒ。俺がお前をそんなに悲しませたってのはわかる。心から謝る。本当にすまない。ごめんなハルヒ。
でもな……俺はお前をここまで悲しませるようなことをしていないと神に誓ってもいい。きっと勘違いがそこにあるはずなんだ。だから頼むからそのわけ俺に教えてくれたのむ。」

 

ハルヒは、涙をぬぐいながらも俺をまだ疑いの目でにらみ返して言った

 

「じゃあ、昨日、あの病院の前で出会っていたあの子は何よ?」

 

病院の前?そういえばあそこは産婦人科の前だったっけか?

 

「ただの中学生の時の同級生だ。卒業して以来久しぶりにあっただけで絶対何もない。特に親しかったわけでもない。」

 

「嘘よ!あの子も言ってたわ、ぼろ雑巾のように捨てられたって。それに、それをあたしが真実を確認しようとあんたの携帯に電話したけど、出ないからあんたんちに電話したの!そしたら、妹ちゃんが電話に出て、あんたは慌てて出かけたって、しかも出かける前に『妊娠がどうとか、おろすとか認知がどうとか電話でもめてた』って!」

 

俺はそこで一気に疲れが出た……
原因は妹か……。
妹よ帰ったらたっぷり可愛がってやるからな。

 

そう、確かに昨日、俺は電話で、もめていた。
その相手は俺の母親で、晩ご飯の買いものを頼んだその内容でのことだ。

 

晩ご飯のメニューはおろしハンバーグステーキ。

 

俺が買ってこいと言われたのは、にんじん、おろし大根、ミンチ肉。
どういうやりとりがあったのかはご想像にお任せする。
それを妹が聞いてどう勘違いしたのか、そうハルヒに伝えたというわけだ。

 

さて、状況を理解して真っ赤になったハルヒが目の前にいるのだが、どうしようか。
ちょっとかわいいと、思っちまったぜこんちくしょうめ。

 

「あ、あははは。私はあんたの事信じてたわよ。あんたがそう、節制のない男なわけないって。SOS団団員がそんな破廉恥な事するわけ無いってしんじてましたとも。」

 

俺は苦笑いするしかなかったな。こういう状況では。
勘違いして突っ走るところもハルヒらしいといえばそうだが、この先苦労が増えそうだなと俺は思った。

 

ただ、どっと肩の荷が下りたせいで、急に睡魔が襲ってくる。
昨日ほとんど寝ていないせいだ。

 

俺は長テーブルに突っ伏していった。
『やれやれ……まったく』

 

おれの脳がノンレム睡眠をはじめる前に俺の耳は確かにこういう声を聞いた。

 

「キョン……本当にゴメン。ゴメンネ……。」

 

さてそのあとはというと、じつは放課後まで俺たち二人はそこで寝ていたらしい。やべえ、明日クラスのみんながどういう反応するのかが恐ろしい。

 

そしてSOS団のいつもの活動がはじまったりしたのだが、それは別の話で。

 

あと、補足しておくが、次の日何故かもう一度席替えが行われた。
原因は谷口がクジ引きに細工をしていた事がばれたからだそうだ。
そして俺たち二人は、いつも通りの定位置を獲得する事になったのだが、ただ問題が一つある。

 

例の同級生の『ぼろ雑巾のように捨てられた』発言である。

 

いったい何だったのか、真相は闇の中であるが、古泉曰わく

 

『たぶん涼宮さんがそれを望んだんじゃないでしょうかね?』
ということだった。さっぱりわからん。

 

おわり