16-507 無題

Last-modified: 2007-02-16 (金) 01:07:59

概要

作品名作者発表日保管日(初)
無題(普通になったハルヒ)16-507氏06/08/2906/09/08

作品

「人は何故生きているのか?」などということは、普通の人間なら一度は考えたことがあるのではないだろうか。
「俺は何の為に生きているのか?こんなに広い世界の64億分の1の命に意味などあるのだろうか?」などと、ノスタルジックな気持ちになったりする時も人生には少なからずあるだろう
まぁ、15年やそこら生きただけの人間が人生について語るなどおこがましい話である。
こういう事を考えていても、大半の人間は毎日を惰性とやりきれない思いで過ごすものである。俺もその大半の人間の内の一人ではあったのだが…突如、宇宙人や、未来人、超能力者…いや、全世界に注目される64億分の1になってしまったのだ。これはそんなお話だ。

 

妹に無理矢理起こされ、顔を洗って歯を磨く。着替えを済ませて朝食を取り、家を出た。ここまではいつもの、極めて普通の日常だった。

 
 

異変に気付いたのは俺の席の後ろに陣取る涼宮ハルヒの姿を見てからだった。
いつもと違うのは見て取れた。何せハルヒはどこから見ても完璧なポニーテールで登校していたのだから。
机に鞄を置き、俺的美人度3割増しのハルヒに振り返り話かけた。
「よう。今日は何か特別な日なのか?それともついに宇宙人でも捕まえて、それの対策か?」
などとくだらない会話に対し、予想外の反応が返ってきた。
ハルヒは目を丸くし、俺の顔を驚いたような顔で見つめ、少し頬を紅潮しながらこう言った
「あ…あの…キョン君が…ポニーが好きって聞いたから………どうかな?」
俺はキョトンとすることしか出来なかった。だってそうだろう?
今までのハルヒを考えたらあまりにありえない反応だったのだ。行動にしても、台詞にしてもだ。
あの天上天下唯我独尊女が、こんな可愛らしい反応をするなんて誰が予想できるだろうか?
いーや、誰も予想出来ないね。ノストラダムスも真っ青なはずだ。
そんなことを考えていたもんだから、返事の無い長い時間に耐えられなくなったのだろう。ハルヒはしょんぼりした表情を顔に浮かべ、少し目を伏せながら
「やっぱり…わたしなんかがしたって…全然可愛くないよね…」と呟いた。
その反応と台詞にも脳内ツッコミをいれたいところだが、ひとまずそれは置いといて、目の前の傷ついた美少女を慰めないわけにはいくまい。
「そんなことないぞ、とてもよく似合ってる。当社比3割増しだ」と返すと、「本当?よかった…誉めてくれて凄く嬉しい」と太陽のような笑顔を見せた。ここでちょっとクラっときたことは勿論誰にも内緒だ。
普通の高校生なら、なんかのボケか?なんでそんな喋り方なんだ?とか聞くことだろう。
しかし、それなりにおかしな体験をしてきた俺はここでそんな意味の無い質問をしたりはしない。
「あぁ…また変な事態になってるんだな…」と、変な物分かりのよさを身につけてしまったのである。
こんな時に頼りになるのはもう決まっている。俺は昼休みになると、弁当も食わずに部室へと足を向けた
そこにいたのは勿論SOS団に不可欠な無口キャラ、宇宙人長門である。
部室のドアを後ろ手で閉めた途端に、長門は本から目を離さずに語り始めた。
「涼宮ハルヒは現在ただの人間と同等の価値である。世界は今まで涼宮ハルヒを中心に動いていた。しかし、彼女は意識的にしろ、無意識的にしろ、その能力をあなたに譲渡した。」

 

「………」

 

「それが涼宮ハルヒの望んだこと。涼宮ハルヒが現在あのような状態になっているのは、涼宮ハルヒの望んだことではない。あのような変化が生じたのはあなたに能力を譲渡した後。」

 

「………」

 

「故に涼宮ハルヒの今の状態はあなたの願望によって成り立っている。あなたは深層意識の中で涼宮ハルヒがあのような状況になることを望んでいた。だから涼宮ハルヒはあの状態を維持し続けてる。」

 

「………」

 

「涼宮ハルヒの監視を続けていた我々にとっても予想外の出来事。情報思念体は以後、あなたの監視、及び制御を私に言い渡した。古泉一樹、朝比奈みくるの上層部も同じ決断を下す可能性が高いと思われる。」

 

「あ~…ちょっといいか?端的に言えば、世界は俺中心に回りだしたってことか?」

 

「そう」
長門が首を小さく縦に振る。いよいよ世界の運命はフリーマーケットにでもだされたみたいだ。タダで頂いた俺はほとほと困り果てていた。

 

俺はいくつかの質問を長門にしてみた。こんな状況でも自分が落ち着いているのは慣れのせいか?慣れって恐いもんだな。
「古泉や朝比奈さんも変わっているのか?」

 

「今の所、涼宮ハルヒの性格と、あなたへの能力譲渡以外に変化は観測されていない。しかしあなたが望むなら変化させるのは極めて容易。」

 

「どの程度の希望を胸に思い浮べれば変化するんだ?そうしょっちゅう世界が変わるのも困るぞ。」

 

「以前古泉一樹の述べた通り、常識論でありえないと思う気持ちをあなたの希望が越えた時に変化が生じると考えられる。しかし、詳細は現時点では不明。」

 

「………最後だ。俺はどうしたらいい?」

 

「あなたが現時点で世界を創造する力を持ち、進化の可能性を秘めていることは事実。しかし、あなたは涼宮ハルヒのケースと決定的な違いを持っている。」

 

「………」

 

「それは自分自身の能力を自覚しているということ。今まで説明したのは、あなたに情報を与えなくとも近い将来、自覚する可能性が非常に高いという結論に至ったから。」

 

「………」

 

「しかしあなたが世界を崩壊させる力を持ち、自覚していることは事実。これを危険視する声も少なくない。過激派もじょじょに増え始めている。」

 

「命を狙われるのはご容赦ねがいたいね。」

 

「しかし、上層部の決定は、あなたの好きにさせて様子を見守るというもの。たとえ世界が滅んだとしても…これが情報統合思念体が私に下した任務。………ただ」
長門がようやく本から顔をあげて、少し寂しげな目で俺の顔を見つめる。

 

「ただ?」

 

「私という個体はあなた達ともっと一緒に居たいと感じている。」
5秒位見つめあった所で昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。長門は本をパタンと閉じ、部室から出ていった。
俺は放課後まで様々なことを考えさせられた。世界崩壊、世界新生、ハーレム王国などなど…が、とても2時間やそこらで考えがまとまるわけはなく、希望や陰謀や不安を抱えたまま放課後の部室へ向かった。
部室の前に着くと、ドアに三枚の貼り紙があった。どの貼り紙も「今日は部活にでれません」という内容の物だった。
あいつらも今日はさぞかし忙しかろう。考えをまとめるにはちょうどいいや。などと思いながら、ドアを開けるとポニーテール姿のハルヒが立っていた。

 

ハルヒは俺が入って来たことに気付くと、あっ…と小さく声を漏らした。
「よう」と軽く挨拶をし、パイプ椅子にどっかりと腰をおろした。
ハルヒはしばらくチラチラ視線を送りつつも、何か躊躇っているようで、少し頬を紅潮させながら部室をウロウロしていた。
こんなハルヒを当然見たことが無いので、新鮮味を覚えつつ、視線を送った。女の子らしいハルヒが可愛らしく、少し愛しいと思えたほどだった。
しばらくするとハルヒもこちらの視線に気付いたのか、躊躇いを捨てて話かけてきた。
「あ…あのっ…今日は…その…二人っきり…ですね♪」少し声を上ずりながらも、恥ずかしさを精一杯隠した笑顔が夕日に映っていた。
「そうだな」と生返事をし、少しからかってやろうという気持ちが芽生えた。
「嬉しいか?誰も居ない部室で俺と二人っきりになれて。」
ハルヒは少し驚いた顔をした後、照れながら下を向き「………はい♪」と答えた。
なんだか一つ一つの行動が凄く愛らしい。長門は俺の深層意識がどうこう言ってたな。俺はこんな属性あったんだな。と考えていると、ハルヒが意を決したように話し掛けてきた。
「あ…あのっ!!」
少しびっくりしてハルヒに顔を向けると、少し足を震わせながら、しかししっかりとした意思表示の目で俺を見ていた。
「えっと…その…言いたいことがあるんです…聞いてくれますか?」
こくりと頷き、ハルヒと正面から視線を合わせた。
「わ…私は…!ずっと…ずっとキョン君のことが好きでした…!」
おいおいちょっと待ってくれ、早急に俺の脳内会議が行なわれた。
今世界は俺を中心に回っている。その状態でハルヒが俺に告白してきた。つまりは俺が望んだことか?俺はハルヒが好きだったのか?ハルヒに恋愛感情を抱かせたかったのか?
そんなに早急に形にして深層意識を引き出さなくてもいいだろ?俺にだって準備期間ぐらい欲しいぜ。
またしても、脳内会議が行なわれている無言の時間に耐えられなくなったのか、ハルヒが信じられない行動をとってきた。

 

ハルヒはセーラー服を脱ぎ捨て、下着姿で涙を目いっぱいに溜めていた。
「おま…何を…早く服を着ろ!」あまりにも普通すぎる反応に自分自身に怒りを覚えるね。
そんな俺の純朴高校生的反応には構わず、ハルヒは潤んだ瞳で俺を見据えて、声を震わせながら言った。
「私…本当に大好きなの…キョン君には…全部見てほしい…キョン君になら…私…」
待て待て待ってくれ。どうやら第三回脳内会議を早急に執り行う必要があるようだ。今のこの状況はなんだ?あのハルヒが…今まで散々俺に横柄な態度をとってきたハルヒが…何故こんなことを言っている?いやいや、誰に聞かずとも分かっている。他でもない俺が望んだからだ。
しかし本当にそうか?俺はハルヒにこうなって欲しいと望んでいたのか?心の奥底ではあの天真爛漫で傍若無人な涼宮ハルヒに愛情を抱いていたんじゃないのか?どうなんだ?
一時思考を停止させ、ハルヒに目を向ける。ハルヒは目にいっぱいの涙を溜め、今にも泣きだしそうな不安な表情を浮かべていた。
しばらくハルヒの顔を見つめる。整った顔立ちに夕日が差し込み、憂いの表情を浮かべるハルヒは格段に愛しく思えた。
恐らくこれが俺の望んだハルヒの姿なのだろうな…そんなことを考えながら、俺の中で一つの答えが見つかった。

 

俺は世界を動かすだけの力をもっているかもしれん。が、それは俺には過ぎた力だ。
俺の改編なんざ、知れたもんだ。せいぜい気になる娘の性格をいいように変えるぐらいしか出来ない。チキン野郎と罵るなら罵れ。俺は昨日までの日常や、ハルヒの作り出す非日常を楽しいと感じていたんでね。
勿論目の前にいる、いかにも乙女なハルヒを元に戻すのは、非常に勿体ないとは感じる。断腸の思いさ。しかし、こんな状況の中でやっと俺は気付いたんだ…。俺は少し華奢なハルヒの肩に手を置き、泣きだしそうなハルヒの顔をしっかりと見つめながら言った。

 

「ハルヒ…俺はハルヒのことが好きだ。」

 

「………」

 

「でもそれは、お前じゃないんだ。俺が好きなハルヒはハルヒであるハルヒであってお前じゃない。」

 

理解できない。という表情を浮かべながらも、ハルヒはしっかりと俺の目を見つめている。

 

「確かにお前は俺が望んだことによって作り出したハルヒかもしれない。だけど今俺はあいつに逢いたいいんだ。あの天上天下唯我独尊女にな。」

 

「………」

 

「だから…お前には悪いが…元の世界に戻す…。俺の肩には世界の運命は重すぎる。お前以外には…きっと背負えないんだよ…」

 

「キョン…君…」

 

「キョンでいいぞ。ハルヒ。」

 

「キョン…」
もうハルヒの表情に悲しみの色はなかった。安らかで、全てを受け入れた柔らかな微笑みを浮かべていた。
「ハルヒ…俺はお前とも出会えてよかった…ポニー…似合ってるぞ…」
互いに微笑みを浮かべて、俺とハルヒは柔らかに唇を重ねた。

 
 

目を覚ますと朝日が昇っていた。どうやら俺の記憶には乙女ハルヒとのその後の甘い一時は存在しないらしい。なにやら勿体ない気もするがね。
いつも通りの朝の行事を済ませ、学校に向かう途中のハイキングコースで俺は考えていた。
俺は乙女ハルヒとのキスの後、世界をもとのあるべき姿に戻すよう願った。いや、このいい方では語弊があるかもしれん。ハルヒに力を返して、気性を激しくするよう願ったと言っておこう。
さて、大まかな事しか決めてない内に俺の記憶はすっとんでいるのだから、現在の詳細情報は、世界創造主の俺でもまだ把握出来ていないのである。
しかし俺は焦りの気持ちなど微塵もなかった。逆に、俺はいまどんな状況に置かれているのだろうか?と少し胸をときめかせながら、教室に足を踏み入れた。

 

「この馬鹿キョン!!アンタどういうつもり!?」

 

教室のドアをくぐると、仁王立ちで入り口で待ち構えていたハルヒが怒鳴ってきた。あぁ…帰ってきたんだな…と怒声を心地よく思う。

 

「なぁに嬉しそうにしてんのよこの馬鹿!!昨日は学校がおわり次第市内の不思議探索って言っといたでしょ!?なんでサボったのよ!!」

 

どうやらそういうことになってるらしい。大体自分の置かれている立場が理解出来てきた。

 

「あぁ…すまなかった。少し頭が痛くて寝込んでたんだ。勘弁してくれ。」

 

「ふ~ん。まぁいいわ。放課後までにアンタに課す罰を考えておくから。」
ふんっ。と鼻を鳴らし、ハルヒは自分の席に着いた。俺は昨日までの乙女ハルヒとのギャップを楽しみつつ、その日の放課後を迎えた。
いつも通りに部室へ向かう。ノックをすると朝比奈さんの「ひゃーい」という可愛らしい声がしてドアが開いた。
もう既に他の4人は来ていた。昨日の部活をさぼったことになっている俺への三者三様の対応を楽しんでいると、ハルヒから俺への罰が下された。

 

「キョン!アンタはみんながせっせと部活に勤しんでいるなか、ぐうぐう寝てたんだからね!」

 

「悪かったよ。で?どうすればいい?また茶店で奢ればいいのか?」

 

「いいえ!罰を言い渡すわ!今度の日曜!!他の部員を除くアンタ一人。遊園地に謎を探しに行ってきなさい!」

 

「………俺一人でか?」

 

「ふんっ。アンタ一人で行かせても、どーせ遊んで帰ってくるだけに決まってるわ!だから団長であるあたしも付いていってあげるわ!!感謝しなさい!」
ハルヒは俺と顔を合わせないようにしながら、少し照照れたような口調で言った。
「ハルヒ…」

 

「な、何よっ!?」
頬をやんわり紅潮させながら俺の顔を睨み付ける。

 

「デートに誘ってるのか?」
みるみる内にハルヒは顔を真っ赤にし、この上なく動揺した口調で言った。

 

「なっ…この馬鹿キョン!!ペナルティよペナルティ!!他の団員に申し訳が立たないから言ってるのよ!!でなきゃ、誰がアンタなんかと…」
最後の方は口籠もりして聞こえなかったが、何といわれようと俺の台詞は決まっていた。

 

「俺は嬉しいぞハルヒ。出来ればポニーで来てくれないか?そっちの方がデートっぽい。」

 

「こ…この馬鹿っ!いいわね!?今週の日曜!10時に駅前だからね!ちゃんと来なさいよ!!もう今日は解散!!」
ハルヒは、真っ赤に顔を染めながらずかずかと部室を飛び出していった。
俺は昨日一日でわかったことがある。それは俺がハルヒに抱いていた気持ちだ。直面して、改めて自覚した気持ちだ。

 

俺はハルヒが好きだ。

 

この気持ちを伝える為に世界を構築したと言ってもいいね。さぁ、今日は一日楽しもう。一時間前にポニー姿で待っている少し不器用な女の子と…。

 

おしまい♪