21-302 無題

Last-modified: 2007-02-07 (水) 00:26:46

概要

作品名作者発表日保管日(初)
無題(新婚旅行)21-302氏06/10/0206/10/04

作品

あれから3年、なんとか3流国立大学に滑り込んだ俺は
SOS団にいた頃から考えれば、全く平穏無事な心休まる日々を送っていたのさ。
ハルヒの変な力もめっきり収まった後、朝比奈さんは無事未来に帰り、
微妙に表情が表に出るようになった長門は、ハルヒと同じ大学へ進学した。
古泉もどこかの大学へ入ったようだ、「機関のコネがありましてね」とか言ってたが、
俺もご相伴に預かるべきだったか…、後悔は役に立たんな、まぁしょうがない。

 

ま、たまに昔の事を思い出してみたりもする、宇宙人や未来人や超能力者と一緒に行動してた非日常は、
それはそれで楽しかったし、ハルヒに振り回されてた事も「のど元過ぎれば熱さを忘れる」
そんな風に考えられるくらいには大人になったということかね?
大学のクラブ勧誘も一通り収まり、キャンパスにも落ち着きが戻ってきた、そんな頃
妙に見覚えのある、いや決して忘れられない電話番号が俺の携帯に表示された。

 

「よっ…ひさしぶり」
「なによっ!その間の抜けた声は!アンタちっとも変わってないわねっ!」
…おいおい、ひさしぶりに連絡が来たかと思ったら、いきなりマヌケ呼ばわりですか?
相変わらずですね、ハルヒさん
「何か言いたそうね…ま、いいわ!あんたどーせ暇でしょ?今から駅前に集合ね!」
こいつには経年変化ってものは無いんですか?
「って、おぃ俺だってこう見えて大学生だ、昔のようにいつだって暇ってわけじゃ…」
「そーね、今すぐってのはムリか…じゃ~30分後にしてあげるわっ!遅刻厳禁!急いで来なさいっ!」
そう言うと、こっちの予定も聞かずに即切りしやがった!人の言う事を聞かないのは相変わらずだ、
大学生ともなるとイロイロ忙しいとか考えないのかね…
ま、実際のところ暇だったんだけどな。

 

SOS団の集合場所であった駅前に10分遅れで到着すると、
アヒル口で腕組みをしている見覚えのある女が、ベンチの上に仁王立ちしている
「おそいっ!!」
成長って言葉を学習しような……3年あったら赤ん坊だって二足歩行までは進化するだろ
しばらく見ない間に外見だけは20%増量くらいに綺麗になったのは、
身内の贔屓分を差し引いて認めてやってもいいけどさ
「……」
その場の勢いで気付くのが遅れたが、仁王立ちしながら何か呪いの文句を吐いてる
女の影に隠れるようにひっそりと立っているのは
「おぉ!長門か、ひさしぶり」
「…そう」
こっちは見かけ上も成長してるようには見えないな、
制服じゃないってくらいしか違いが見当たらないが、多少感情が表面に出るようになったか?
「アンタッ!もうちょっと気の利いた事言いなさいよ!それとアタシには挨拶無しなわけ?」
ハイハイ、さっきまではちょっとノスタルジーな気分を味わったりしてましたがね、
未開のジャングルで雄叫びを上げるマウントゴリラのようなアナタの姿を拝見した途端に、
そんな気分もブチ壊れたんですのよ、ハルヒさん
「ま、いいわ!本当なら車裂きの上市内引き回しと言いたいところだけど、奢りで勘弁してあげるわよっ!」
車裂きは後だろ?とツッコミたいところだったが、どうせ聞きやしないだろ?
…やれやれだね、まったく

 

その後、常連であった喫茶店に行き、大学はたいしたとこじゃないとか、
面白い奴もいないとかいうハルヒの愚痴を軽く聞き流しつ、
値上げしたであろうメニューを感慨深げに眺め、時間の経過を確認なぞしてた俺に
「聞いてる?今から成田へ行くわよ!」
……。
あー悪い、ボケッとして聞いてなかった俺も悪かったが、何だって?もう一度頼む
「だから、今からイースター島に行くって言ってるのよ!急がないと飛行機間に合わないでしょ!!」
??Why??母さん、変な人がいるよ…
二の句が継げない俺はかなり間抜けな顔をしてたと思う。そんな俺を気にもせず
「ジャジャーン!!安心なさいっ!アンタの分のパスポートもチケットもちゃーんと準備してあげてるんだから、もう少し感謝しなさいっ!」
そうだった…コイツの言う事はいつも突然で突飛だった……久しぶりで忘れてたのかもしれん。
それにしたって何処だって?修学旅行で行った北海道より遠そうな場所だったな…
「おい、ちょっと待てハルヒ…もう少しわかりやすk……」
そう、それはホントにちょっとした違和感だった。
ふと目に入ったパスポートに異様な違和感…むしろ危機感を感じた俺は、
自慢げな笑顔を振りまく暴君の手からパスポートを奪い、あらためて凝視した。
「……なっ!!」
店の客が一斉にこっちを振り向くくらいの叫び声を知らぬ前にあげていたようだ。
だが、そんな事を気にする余裕は今の俺には全く無い。
「…ちょっ!こ、これ…」
考えが上手くまとまらないまま言葉にならないうめき声にも似た声を発した俺は
震える指でパスポートの名前の欄を指差した。

 

【×× ハルヒ】××の部分には見慣れた名字が入っている。って言うかハッキリ言おう!俺の名字だ!!
「あ~、それね。意外と簡単だったわよ」
…なんでコイツは、そんなに自慢気なんだ?
「パスポート作るついでに、婚姻届けも出してきたのよ!保証人を立てるのがちょ~っと面倒だったけどね」
…いや、そういう問題じゃないだろ
「みくるちゃんと古泉くんに頼んだら協力してくれたわっ!」
朝比奈さん?未来に帰ってたんじゃないんですか?戻ってるなら連絡くらいしてくれても……
あ~でも、あの方は極上スマイルを浮かべて「ステキですぅ~」とか言ってそうだな……。
古泉は変わらぬニヤケ笑いをしてそうだ……今度会ったら確実にしとめてやるとしよう。
「あ、そうそう」
まだあんのかよっ!
「なんか戸籍が寂しかったから、有希を養女にしといたからねっ!」
「……パパ」
!!!!
さっき妻帯者になったと思ったら2分後には子持ちか……長門との恋愛フラグもオールリセットだな。
有希の可愛かった子供時代の思い出がフラッシュバック……って、するわきゃねー!
「とにかく急ぐわよ!バカキョン!時間も飛行機も待ってくれないんだからねっ!」
と、言いながら俺の手を掴み外に駆け出して行く。
100Wの笑顔は相変わらず、むしろ20%程光量UPしてるかもしれない。
そんな笑顔を見ながら、コイツに出会った時から、いつかこうなるような気がしてた俺自身に、
思わず笑いがこみ上げてきた。

 

まぁいいか、もうしばらくコイツに付き合ってやるさ。
この歳でバツイチになんてなりたくないしな……

 
 

……って!これ、もしかして新婚旅行なのかっ!?

 

= 糸冬 =