38万キロの虚言 (114-997)

Last-modified: 2009-08-07 (金) 01:22:41

概要

作品名作者発表日保管日
38万キロの虚言114-997氏09/08/0709/08/07

作品

「おーい、ハルヒ。ああ、こんなとこにいたのか。一体何してんだ?」
「別に……何でもないわ」
 って、こんな時間に外に出て空を見上げていたんだから、大方あの満月でも観ていたんだろうぜ。
 しかし、夕方は空が殆ど隠れるぐらいだったけど、今は丁度いい感じに雲が切れてるな。
「そうね、せっかくの満月なんだし、天気が悪かったらなんとなく損しちゃったって気分だけど、まあ、さすがはあたしの日頃の行いがいいってこともあって、ちゃんと晴れてくれるってわけよ」
 その日頃の行いとやらに関してはイマイチ釈然としないものがあるんだが、とにかく晴れてくれたおかげで綺麗な満月が観賞できるってのは素直にありがたいと思うことにしておく。
「しかし、あの月が二週間ぐらい前には太陽を隠しちまってたってことか。でも何で月と太陽って同じ大きさに見えるんだろうな?」
「あら、実際には公転軌道の関係で見かけ上の大きさって変わってるのよ。この前のは丁度接近してる時期だったから皆既日蝕が見られる地域があったけど、仮に距離が離れているときだったら金環蝕になってたはずだわ」
 すると、大きさがほぼ同じってのはただの偶然でしかないってことか。
「そうね。偶然っていえば、月って自転と公転の周期が殆ど同じなの知ってた?」
 何か、そんな話聞いたことがあったような……で、それがどうかしたのか?
「やっぱあんたって解ってないじゃないの。いい? 自転と公転の周期が一致してるから、月の裏側って地球上からは直に観測できないってわけ」
 そういわれてみると確かにその通りだとは思うが、実際にその模式図を脳内に浮かべてみたものの、結局はよく解らんので適当に頷いておくか。
「でもね、キョン。あたしはそれって本当は偶然なんかじゃないと思ってるの」
 そりゃ一体どういうことだ?
「月の裏側ではね、あたしたち人類に秘密で、宇宙人の前線基地が建造されてて、侵略の機会を虎視眈々と窺っているの」
 そこかで聞いた話だな、そりゃ。
「でも安心しなさい! このあたしがいるからには侵略計画なんてのは失敗に終わるも同然。まあでも、そいつらを全滅させたりはしないわ。慈悲深いこのあたしの温情に感激した宇宙人軍団は、武装解除して我がSOS団の軍門に下るって寸法よ」
 色々ツッコミどころが多いのはこの際放置し他方がいいのかも知れん。
「それで、その宇宙人軍団を引き連れて全宇宙の支配にでも乗り出すってのか」
「そんな無駄なことする必要ないわ。この宇宙は既にもうあたしのものなんだからね」
「じゃあ一体どうするつもりだ?」
「決まってるじゃない、一緒に遊ぶの! だから、あんたも楽しみに待ってなさい」
 ううむ、こうまで言い切られると、呆れるを通り越して、むしろ尊敬してやってもいいのかも知れんぞ。
 
 
 
 
 
 
 
 そのころ、実際に月の裏側から大怪獣が地球に飛来しようとしていたのを長門が迎撃、敵の頭部から打ち出されたブーメランを見事に真剣白刃取りにて返り討ちにした、なんてことを、俺が知る由もなかったのだ。