500年後からの来訪者1-1(163-39)

Last-modified: 2017-03-09 (木) 21:49:01

概要

作品名作者
500年後からの来訪者1-1163-39氏

作品

 

プロローグ

 

ただの人間が宇宙人・未来人・超能力者たちと当たり前のように共存している世界。宇宙人と当たり前のように挨拶を交わし、くだらない話で笑う。未来人と過去の歴史について語り合い、超能力者と力比べをもした。俺はそこで何不自由なく日々を過ごしていた。……あの日が来るまでは。

 

第4次情報戦争。それはかつてないほどの規模を誇り、人類対宇宙人の一大戦争へと姿を変えた。能力者はその能力を問わず全員が駆り出され、あらゆる能力者がその能力によって持ち場を振り分けられた。俺のような攻撃を主とする能力者は戦場では前線に配置される。生き残れる可能性は極めて低い。積み上がる屍、仲間の血飛沫が顔や服にかかる。俺は生き抜くため戦い抜いた。能力の持たないものは防護シェルターに避難するものの、食べ物もろくにありつけない日々が続いた。だが、その防護シェルターですら宇宙人にたやすく侵入され、亀裂が入って真っ二つにされるもの、シェルターごと破壊されるものが相次ぎ、死者は何百、何千億人と数え切れぬほどの被害にわたった。
俺は一人、荒野に立っていた。見渡す限り、壊れた建物、砂漠。水や食料はおろか、植物、動物もいない。荒野を行き先も分からず歩き、誰でもいい、人がいないか探しまわった。どこに行っても、大声で叫んでも反応はない。飲めるならなんでもいい、汚くても飲める水。食べられるもの。ずっと続いていた空腹状態を打破できるものを求めた。

 

そして、宇宙人の総元締めである情報統合思念体なるものは、地球人類全滅のため地球の破壊を決行に移した。大地が揺れ、津波が街を襲う。地面がひび割れ、底からマグマが噴き出し、火山は噴火する。空は暗く、雷が降り注ぐ。これは…やばいな…。もうこれ以上地球はもたない。傷を負い、これ以上は俺も生きられない。走馬灯のようにこれまでの思い出が頭の中に浮かぶ。その中に一つの希望が脳に蘇った。その光を辿るべく最後の力を振り絞って、過去へ飛ぶことを決めた。こんな誰もいなくなってしまう世界なんていらない。仲間が殺されるなんてもううんざりだ。全部最初から変えてやる。この時代の誰もが歴史の授業で聞かされる先祖とやらに会いに行こう。宇宙人、未来人、超能力者を一同に集めた、我らの始祖と呼べる人間。涼宮ハルヒのいる時代へと。

 

北高入学式前日、俺は今、高校入学に先駆けて中学までのものを整理していた。明日配られるであろう新しい教科書や参考書などを詰めるためのスペースを確保するためである。まぁ、なんで前日にやっているかというと、
「今のうちに整理しておかないと、部屋の中にいられるところなくなるわよ!」
と母親に言われたからである。母親にそんなこと言われるほど掃除や片付けを出来ない人間ではないので、ある程度はスッキリとしているのだが、新たにものが増えるとなると話は別だ。そう思って部屋の整理を続けていると、妹が勝手に部屋の中に入り込み部屋の中を無邪気に遊びまわり、俺がせっかく整理した本の山は崩され俺の部屋はあっという間にぐちゃぐちゃになってしまった。今まで俺が片付けに費やした時間は何だったのかと言いたい。本人は悪意が全くないのだが、小五にもなって何も考えずにはしゃぎ回る妹に対して憤怒を感じていると
『お邪魔します』
今度は誰だ?・・・ん?誰もいない、気のせいか。
『ここだよ、ここ』
「ここってどこだよ?どこにいる?」
妹の新手のかくれんぼか何か?それにしては声が違うしな…
『面倒な奴だな。俺はお前の頭の中にいるんだよ!』
「なんだそれは!新手の詐欺か何かか?国木田や佐々木が俺にドッキリを仕掛けているわけじゃあるまいな」
『だから、頭の中にいるって言っているだろう。それと、あんまり一人で騒いでると、周りから変人だと思われるぞ?』
「キョン君、誰と喋ってるの?」
「いや、なんでもない。ただ片付けを邪魔されて苛立っていただけだ。特にお前にな」
ここは馬耳東風というべきだろうな。俺の悪意が全く通用していない。
『俺の言った通りだろう?それよりおまえ、妹に名前で呼ばれているのか。お兄ちゃんじゃなく』
「それは関係ないだろう。あれは因みに俺のあだ名だ。なんでそんな名前がついたかは聞かんでくれ」
「やっぱりキョン君、誰かと喋ってる。おかあさ~ん、キョン君が変になった~」
すぐさま俺の部屋への立ち入り禁止令を発動。次に部屋に入ってきやがったら蹴り飛ばしてやる。
『あだ名ね、まぁいい。それと、お前が声に出さなくても頭の中で考えるだけで俺に聞こえる。変人だと思われないための配慮だ。次からそうしてくれればいい』
なんでそれを先に言わなかったんだおまえは!しかし、勝手に人の頭の中に入り込んできて、おまえ一体何者だ?突っ込み所が多すぎて何から聞けばいいかわからんぞ。
『あぁ、自己紹介が遅れたな。俺は、え~と……お前がキョンだから、ジョンでいいや。ジョン・スミス』
自己紹介それで終わりかよ。もっとなんかあるだろ!しかもその名前、日本版だと山田太郎みたいなもんだろうが!
やれやれ…匿名希望もいいがもうちょっと考えろよな、まったく。
『それもそうか。んー…何から話すかな。そうだ、俺は今から500年後からきた未来人だ』
何?今なんて言った?500年後?未来人?わけがわからん。大体な、仮に未来からやって来たんだとしても人間には変わりないんだから人の形をしているはずじゃないのか?なんでよりによって俺の頭の中にいるんだよ!
『全部説明すると長くなるから要点だけ言っていくと…』
その後の話で、とりあえず、人類最後の生き残りがこの時代にやってきた。ここまでは分かった。信じる、信じないは別としてだけどな。で、質問だ。なんで俺なんだ?どうして俺に寄生した?
『寄生とかいうなよ。俺はウィルスや虫じゃないぞ。それについてだが、俺のいた時代の人間なら誰もが習うこの時代の重要人物がいるんだ。教科書にも載っている……おっと、あんまり未来のことは話さないほうがいいか。とりあえず明日の入学式でわかるとだけ言っておくよ。なんで俺がおまえの頭の中に入ったのかも含めてな』
明日ねぇ…どうか普通の入学式でありますように。
『式自体は普通の式典だ』
普通に返されてしまった。もう何を言ったらいいのかわからん。

 

……そう言えば、おまえいつまで俺の頭の中にいるつもりだ?あまり長い間居られると気になって仕方がない。
『さっきも言った通り超能力を使い果たしたからな。まずは英気を養うことだ。それから、第4次情報戦争をなんとしても防ぐこと。どうすれば解決できるのかは俺にもまだ不明だ。だが、人類絶滅や地球崩壊だけは防ぎたい。そう思ってくれ』
だから、いつまでだ?
『その目的が達成されるまでだな』
先が長そうだなぁ…おい。
『まぁそういうなって。居候が一人いると思ってくれ』
そんなふうに思える人間がいたらここに連れて来てくれ。即変わってやるから。
『家賃代わりと言ってはなんだがな。超能力がまったくないってわけでもない。俺がここにいることで、おまえも超能力が使えるようになったんだぞ?』
なんだそれは。俺にも超能力を使える?本気で言ってるのか?コイツは…
『勿論だ。試しに、そこにある国語辞典を見て、辞典が浮くイメージをしながらゆっくり目線を上にする』
目を疑うというのはこういうときに使うものなのだろう。辞典が勝手に目線を動かした通りに浮いた。
『今度は上にあげた辞典をゆっくり下ろす』
辞典はゆっくりと下がり、元の位置に戻った。信じられん。俺が超能力を使えるようになったってことか?
『できただろ?……まぁ、乱用すると俺が充電しているエネルギーが切れてしまうから、超能力を使うのはそうせざるを得ないときだけだ。それに趙能力が使えるようになったなんて、友達にも家族にも言えないだろ?超能力を使ってるところを目撃されたら、翌日から即有名人だしな』
そりゃあまぁ、そうだが…なんとなく、宇宙人や未来人、超能力者や幽霊、妖怪などいれば面白いだろうなぁとは思っていた。だが、それは現実世界にはあるわけがないと確信めいたものを持っていたのだが、現実に起きてしまった。高校生活開始直前にして俺は未来人兼超能力者と会ってしまったなんて誰にも話せないだろうな。後から聞かされることになるが、これは数多の時間平面の中で自称ジョンが俺の頭の中に入り込んできたというこの時間平面上だけの物語。俺がこれから高校で出会う奴等と一緒に繰り広げる唯一無二の物語だ。

 

翌日、北高入学式。式典事態はつつがなく進行し、俺たちは各クラスへと戻った。国木田が同じクラスで正直安心している。九クラスもあれば、バラバラになってもおかしくなかったはずなんだが、偶然に感謝することにしよう。しかし、ジョンの言った通り式自体は至って普通の式典だった。ということは、この後何かが待ち受けているのだろうか。あまり周りにガンをつけるような視線でみてはいけないと思いながらも周囲を見回す行動が多かったかもしれない。そこへ1-5の担任として配置された岡部教諭が入ってきて一通りの学活が終わり、出席番号順で最初の奴から自己紹介を行うことになった。まぁ、至って普通だ。俺の順番がまわってきたところで普通に挨拶をして、よろしくお願いしますと告げる。俺が座ると同時に、1つ後ろの席に座っていた女子が立ち上がる。俺は生涯この瞬間を忘れないだろう。
「東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間に興味はありません。この中に、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところへ来なさい。以上!」
『どうやら俺がそれにあてはまることになりそうだ。未来人兼超能力者だからな!』
馬鹿、聞こえたらどうする!
『聞こえるわけないだろ。昨日のやりとりをもう忘れたのか?それにしても、教科書にはとんでもない婆さんが載ってたが、まさかこんな美人の女子高生だったとはな。歴史の教科書作ってる奴が間違えているとしか思えない』
今、ジョンはなんて言った?教科書にはとんでもない婆さんが載っていただと?この涼宮ってのが500年後には教科書に載っているのか?
『ああ、宇宙人と未来人と超能力者を一堂に集めた第一人者だってな』
ってことは何か?こいつがこれから宇宙人や未来人や超能力者を集めるっていうのか?ジョンが俺に寄生した理由がこれではっきりした…ような気がする。やれやれ…面倒事に巻き込まれないように傍観することにしよう。

 

それから一月ほど経ち、巻き込まれないようにしていたはずが、涼宮ハルヒなる女子にあれこれ雑用を押し付けられ、終いにはものの見事に部室を占拠し、無口読書キャラ・長門有希(宇宙人)朝比奈みくる・萌え要素(未来人)、古泉一樹・謎の転校生(超能力者)を集め、SOS団を結成した。
『ここはおめでとうと言っておこう。これで涼宮ハルヒを中心として、宇宙人、未来人、超能力者が一堂に会した。まさか、その瞬間に俺が立ち会えるとは思わなかった。これで教科書に書いてあった話は本当だったってことか』
それ、何年生のときの話だ?中2くらいか?
『いや、小学校でまず一番に教えられる内容だ。この時間平面上の憲法にもあるだろ?何の差別もなく、みんな仲良くってやつだ』
…なるほどね、納得。因みに、俺とハルヒ除く3人が、自分は宇宙人・未来人・超能力者だと俺に暴露してきたときのこと。長門からは一通りの説明の後、
「あなたは、一体何者?」
と変な質問をしてくる始末。自分が宇宙人だと名乗ったからとはいえ、おいそれとこっちも未来人兼超能力者がいるなんて暴露するわけにもいかん。
「普通の一般人だよ。何の取り柄もない。俺の中に取り柄なんてものが存在するのなら教えて欲しいもんだ」
「あなたには、あなたとは別の意識を感じる」
「何だそりゃ、俺が二重人格だとでもいうのか?」
とごまかしておいた。朝比奈さんからは、
「キョン君は一体いつの時代の人間なんですか?」
「あのー…朝比奈さん?俺はいたって普通の人間で時代も何もないんですが。家に帰れば普通に妹や両親いますしね」
「でも、多分…キョン君がわたしの時代で使っている時間移動装置より高性能なものを持っているはずなんです」
どうやら500年後から来たっていうのは本当らしいな。朝比奈さんよりさらに未来からジョンが来たから、より高性能なタイムマシンを持ってて当たり前ってことか。どうしてこういうところばっかり頭が働くんだ俺は。とりあえずごまかすしかなさそうだ。
「朝比奈さん、持ってるってどこにです?今の俺は手ぶらですし、ポケットの中身は家の鍵に財布に携帯くらいですよ?」
「そういうんじゃなくて、えーと、あの…キョン君、おでこ触ってもいいですか?」
「『えぇ~~~~~~~~~!!』」
ジョン、これはどういうことだ?頭触られたら何かあるのか?
『触られることで俺が持ってる時間移動装置がバレる。朝比奈みくるが持つTPDDという代物は、俺らからすれば、欠陥品なんだ。キョンにとっては未来でも朝比奈みくるは俺にとっては過去の人間だ。未来のものを見せるわけにはいかない。それこそ禁則事項になってしまう』
何か方法は?
『とりあえず隠す』
なんとかなりそうか?
『たぶんな』
ジョンがタイムマシンを隠したところで朝比奈さんが俺の額を触り、どうやら隠せたらしい。いきなりおでこを触らせてくれなんて言われるとは思いもよらなかった。最後に古泉からは、
「一番の謎はあなたです。初めてお会いしたときにあなたは感じたはずです。僕が超能力者だと。よろしければ、あなたの超能力を見せていただけませんか?」
確かにハルヒに部室に連れて来られた瞬間、コイツがジョンと似たようなものがある気配は感じていたが…こっちもバラすわけにはいかん。ある条件でしか発動できないっていうのも、自分の超能力を見せない言い訳かもしれん。
「申し訳ないが、禁則事項ってやつだ」
「おや、おかしいですね…それは未来人が使う言語のはず。もう一度お伺いします。あなた一体何者なんですか?」
おいジョン。どうすりゃいい?
『当然、見せるわけにはいかない』
だろうなぁ。
「すまん古泉、やっぱり話せない。人類滅亡がかかっていてな」
「そうですか。あなたの力を見られないのは残念ですが、いいことを聞かせていただきました。人類滅亡がかかっていれば、そうやすやすと使うわけにはいかないでしょうね。僕の超能力もいずれお見せする時が訪れるでしょう」
三人ともジョンの超能力とタイムマシンに確信をもっているわけではなさそうだが、俺から何かしら感じとっているようだった。

 

数日後、下足入れに入っていた無記名のルーズリーフの切れ端の指示通り放課後の1-5の教室に足を踏み入れると、学級委員の朝倉が待ち構えていた。二言、三言話した直後、ナイフを持って俺に襲いかかってくる。
『キョン、避けろ!!』
朝倉が後ろ手に隠していたナイフで一閃。さっきまで俺の首があった空間を鈍い金属音が薙いた。ジョンの叫び声がなかったら俺は死んでいたかもしれない。
「ふーん、死ぬのっていや?殺されたくない?わたしには有機生命体の死の概念がよく理解出来ないけど」
朝倉の理解不能な発言を聞きながらそろそろと立ち上がる。有機生命体ってなんだよ。死ぬことがどういうことか俺よりも優等生委員長のおまえの方がよく分かるだろ!立ち上がるのを待っていたかのように、ナイフを腰だめに構えた姿勢で突っ込んできた。速い!だが、今度は俺にも余裕があった。朝倉が動く前に脱兎のごとく走りだし、教室から逃げ出そう……として俺は壁に激突した。教室の側面は、塗り壁さながらにネズミ色一色で染まっていた。
『キョン、緊急事態だ』
緊急事態?そんなもん言われなくてもこんな状況に陥れば誰だって分かる。
『今すぐ俺と交代しろ』
交代?なんだそりゃ?
『今の俺とキョンの立場を入れ替えるんだ』
入れ替わったら何かあるのか?
『俺が朝倉涼子と戦う。キョンの体でな』
そんなこと可能なのか?だが、逃げることしかできない俺より、ジョンの方が生存率が高そうだ。悠長に考えている時間も与えてくれんらしいな。朝倉がこっちに近づいてくる。とにかく、俺とジョンが入れ替わるにはどうすればいいのか教えてくれ!
『スポーツで見かける、交代のときに互いの手をパチンと叩くイメージを持て!』
「ねえ、何を考えているのかしらないけど、諦めてよ。結果はどうせ同じことになるんだしさぁ」
朝倉を見据えながらイメージを開始する。
「最初からこうしておけばよかった」
その言葉で体が動かせなくなっていたことに気付いた。そんなんアリかよ!反則だ。
「あなたが死ねば、必ず涼宮ハルヒは何らかのアクションを起こす。多分、大きな情報爆発が観測できるはず。またとない機会だわ」
『こいつ、情報爆発を誘発する気か』
「じゃあ、死んで」
朝倉が動いた。ナイフが俺にふりかかってくる。だが、ベラベラと喋ってくれたおかげで、選手交代のイメージができたぜ。頭の中で二人の手がタッチされた。

 

俺は目を疑った。いつの間にか、教室の後ろにあるロッカーの前にいた。さっきは教室の黒板寄りの出入口にいたはずだ。同じように朝倉もその場でその状態で固まったまま、何が起きたのかわかっていないようだ。ようやく朝倉が振り向き、こちらを見据える。
「あなた今、何をやったの?瞬間移動?ただの有機生命体にしちゃ、ずいぶんな能力ね」
『なぁに、ただ単純に金縛りを解いて、高速移動しただけだ。自分の目で俺を追えなかったからといって、テレポートだと疑っているようじゃ、あんたの目もよっぽど節穴だ』
ギリッと朝倉が表情を強張らせる。
「だとしても、この空間ではわたしには勝てないわ」
『キョン、ちょっとそこで観戦してな。宇宙人対超能力者の戦いがどんなものか見せてやるよ』
とジョンが言いきる前にすでに朝倉は動いていた。ナイフで俺を……いや、ジョンを刺そうとナイフを突き出してくる。
『さっきと同じ手とはくだらない』
「また、消えた…」
『消えたのではなく高速移動だとさっき言ったはずだ。らしくないんじゃないのか?成績優秀な委員長さん?』
「そんな仮面ももうかぶる必要なんてなくなったわ。本気であなたを殺してあげる」
『あんたにそれができるかな?』
またしても、ジョンが言い終わる前に朝倉は動いていた。
『こっちだ』
朝倉の攻撃を全て紙一重で避けている。ギリギリまで相手の攻撃を待つ必要もないと思うんだが…。しばらく朝倉の攻撃をジョンが避けるだけの時間が続く。
『こっちだ』『こっち』『どこを見ている』『いい加減、気が付け』
『頭に血が上りすぎなんだよ。もっとも宇宙人に血なんてあるのか知らんがな?』
「うるさい!」
これで何度目なのかは忘れたが、ナイフを更に強く握った朝倉が何の策もなく突っ込んでくる。先ほどと同様、ジョンはギリギリでそれを避ける。
「出てきなさいよ!!」
『いちいち言われないと探せないのか。後ろだよ』
「うああああ!!」
ナイフもっていた腕を反回転させて後ろのジョンに攻撃を仕掛ける。今度は高速移動ではなく普通の移動だった。朝倉はすでに冷静さを欠いている。一目散にジョン目がけて飛び込んでくる。
『余興は終わりだ。そろそろ攻撃させてもらう』
刹那、俺にはその瞬間がスローモーションに見えた。ジョンが指二本だけで朝倉のナイフの刃を捉え、そのままナイフを折る。それと同時に、右手には丸いエネルギー弾のようなものを出し朝倉の腹部に押し当て発射した。放たれたエネルギー弾に朝倉が吹っ飛ぶ。朝倉に対して残心を怠らない。というより隙がない。ようやく朝倉がゆっくりと起き上がる。セーラー服の腹部が破けていたものの外傷はないらしい。
「そう。あたしもナイフにこだわり過ぎていたようね。これならどう?」
もはや教室とは呼べない異空間で、あちこちに散らばった机や椅子が大きな千本に姿を変えた。ジョンへ照準を合わせた千本は何の前触れもなくジョンに総攻撃を開始した。バックステップで距離をとると、両手を左右に大きく開く。その開いた空間に黒い円のようなものがだんだんと大きくなっていく。あたかもブラックホールのようにすべての千本はその円の中に吸い込まれていった。
「そんな…」
『さて、あんたの大事な武器だ。返してやるよ』
パチンとジョンが指で音を鳴らす。目の前で朝倉が呆けていた。俺にも『返してやる』の意味がわからん。
「何のこ…っ」
朝倉が言いきる前に朝倉の斜め上から先ほどの黒い円が現れ、そこから先ほどの千本が朝倉めがけて降ってきた。慌てて避ける朝倉だが、全てかわすことはできず、ダメージを受けていた。ゆっくりと朝倉が立ち上がる。セーラー服はボロボロ。だが、服が破けただけで肉体には何の損傷も見られない。どうする気だ?ジョン。
『こいつらは受けた傷をすぐに回復してしまうが、それも限度がある。目には見えなくてもダメージはちゃんと蓄積されている』
なるほどね。さっきのエネルギー弾も効果があったわけか。
「一人で何を考えているのかしら?あたしも混ぜてほしいものね」
『おっと、あんたに休んでいる暇はない』
セリフを言いきる前に、右手人差し指で空中に横線を描いた。ジョンの指の軌跡が光っている。
「…っ!」
何かに察知した朝倉が素早くしゃがと、次の瞬間、朝倉の後ろの壁が真っ二つに割れた。ジョンの描いた横線が趙強力な刃となって朝倉に襲い掛かった。あの細い線にどれだけのパワーを秘めていたのか壁の跡が物語っていた。朝倉の髪はさっきの一閃で後ろ髪が斜めに斬られている。なんなんだよこの戦い。ジョンが朝倉を圧倒している?さっきのスピードといい、エネルギー弾や俺にもよくわからんがカッターみたいなものまで…超能力者の戦いってのはここまで凄いのか?朝倉が普通の人間じゃないことは分かったが、それを更に超えている。いくらなんでも次元が違いすぎる。

 

『さて、もう少し戦ってやってもよかったが、残念ながら時間切れだ。脇役は引っ込むとするよ』
「何を言ってるの?」
教室の廊下側だったはずの壁にピシッと亀裂が入った。
『主役の登場だ』
ジョンがそう告げると、亀裂を大きくなり壁が破壊された。
「そんな、わたしの空間が破られるなんて……」
壁の破片と一緒に長門が飛び込んできた。
「一つ一つのプログラムも天井部分の空間閉鎖も情報封鎖も甘い。だからわたしに気づかれる。もっともわたしが来る以前にほとんど破壊されていた。これは予想外」
「あなたも邪魔する気?」
「あなたはわたしのバックアップ。独断専行は許可されていない。わたしに従うべき」
「嫌だと言ったら?」
「情報結合を解除する」
「やってみる?ここでは私のほ…っ。何よこれ、どういうことよ」
「すでに大部分が破壊され、あなたの構築する空間は崩壊直前だった。冷静さを欠いたあなたはそれに気付かなかった。そして自分の空間にいる限り絶対負けないという傲慢、わたしが壁を破るまですべて彼に翻弄されていた。あなたは既に相当のダメージを負っている。あとはあなたの情報結合を解除するだけ」
長門が言い終わると同時に、朝倉は白い結晶となって消えていった。

 

無事に難を逃れたらしいな。ジョン、お疲れ様。
『早速だがキョン、言わなければならないことがある』
なんだよ、急に改まって。
『例えばさっきの高速移動は、超能力で筋肉を強化して移動するんだが……』
それが何か問題でも?
『肉体が超能力に慣れてないと、戦いの度合によって筋肉に負荷をかけるんだ界○拳のように』
つまりどういう意味だ?大体な、なんで500年後の住人が500年も前の漫画を知っているんだよ。
『えーと…全身筋肉痛に襲われる。因みにそれについては有名なものは後世にも残っているんだ』
なんだとぉ!?  パチン
「痛たたたたたた…なんだよこれ!!」
再度タッチした瞬間、ジョンの言った通り全身筋肉痛に襲われた。こんな状態でどうやって帰れっていうんだ、おい。
『要するに、筋トレしておけってことだ』
「そういうことはもっと早い段階で言え!!」
……どすん。全身の痛みに立っていらず、床にうつ伏せで寝る形で倒れてしまった。
「大丈夫?」
「……ちょっと一人で歩くのは厳しいな」
「そう」と告げて長門が俺の身体を起こす。
「あれ?痛くなくなった」
「あなたの情報結合を部室を出るときにまで巻き戻した」
はぁ・・・俺の周りはなんでもありな奴ばっかりだよ、まったく。長門は俺とジョンが話している間に教室の再構築をしていた。
「長門、眼鏡はどうしたんだ?」
「あ………わたしのミス。朝倉涼子の情報結合を解除したときに一緒に解除してしまった」
「お前らしくもないな。そんなミスを起こすなんて」
「わたしじゃない。あなたの超能力のせい」
ジョン、どうする?バレちまったぞ。俺も声に出して喋ってしまったが…
『どうもこうも、あんな緊急事態じゃ仕方ない。キョンが死ねば、俺も一緒に死んでしまう』
本当のこと伝えてもいいのか?
『長門有希なら問題ないだろう』
ジョンの許可を得て、長門になぜ俺に超能力が使えるかを話した。「そう」とだけ長門は答える。
「眼鏡が無い方が可愛いと思うぞ」
「そう」
「とにかく、助けにきてくれてありがとな」
「私は何もしていない。あなたのもう一つの意識が、朝倉涼子の空間をほとんど壊してくれていた」
「もう日もくれちまったし帰るか」
というと、長門はコクリと頷いた。

 

その夜、晩御飯と風呂を済ませた俺は、今日のことを振り返る。あの朝倉が長門と同じ宇宙人で、ハルヒを怒らせるために俺の命を狙ってくること。なんかどっかの漫画で見た記憶がある展開だなぁ、おい。俺は某漫画の誰かさんみたいに爆死したくない。
『ク○リンのことか―――っ!』
だからなんでそんなに詳しいんだよ、おまえは!
『だいぶボロボロだけど全巻持っている。ところでキョン、俺と朝倉涼子の対決はどうだった?』
どうだったっていわれても、開いた口が塞がらない。なにが起きているのかさっぱりわからない。理解できたときには、既に二人とも次のアクションを起こしている。もう自分の眼で見たことが未だに信じられん。
『俺のいた時代には、ああいう戦いが常に起こっていた。自分の力の限界と相手の力を見極めて、退く時は退いて、攻撃するときは攻撃する。それの繰り返しだ。さっきの戦いも駆け引きだった。朝倉涼子のように、自分に優位な状態で相手をなぶるような奴には、こっちはそんな状況をも簡単に覆すことができると思わせる。それを繰り返すうちに相手が混乱して、同じ攻撃パターンを繰り返すことになる』
なるほどね、ジョンとタッチしてもナイフでの突貫が続いていたのはそのせいか。
『実を言うと、俺が時間切れだと朝倉涼子に告げたのは、あのとき長門有希が侵入して来なかったらやばかったからなんだ』
なぜだ?あのままダメージを与え続けていればジョンの勝ちだろうが。
『要するに電池切れだ。朝倉涼子より俺の方が上回っていると見せつけるために、わざと大技使ったんだ。その分自分のエネルギーも一気に減る』
なるほどな。ジョンは今エネルギー充電中ってわけか。
『そうなるな。ところでキョン、大事な話が一つある』
なんだ、改まって。何か掴んだのか?
『まぁ、そんなところだ。SOS団三人の話と朝倉涼子の発言をまとめると、こういうことになる。涼宮ハルヒは自覚がないにせよ、第一次情報爆発を起こした張本人であり、今もなお、情報爆発を起こせるだけのパワーを秘めている。そして、この時間平面上の情報統合思念体には、涼宮ハルヒの第二次情報爆発を故意に引き出させようとする派閥が存在する。さらに、三次、四次の情報爆発が起こった原因は、涼宮ハルヒの子孫が先天的に同じ力を身につけており、その子供に対して一定の事象を与えることで、内在していたパワーが一気に放出され、情報爆発になったと考えられる。後半は俺の予想だ』
じゃあ何か?ハルヒの家族、子ども、孫、それ以降に至るまで監視し続けることになるのか?
『そういうことになる。どうやっても、一人や二人の力だけで、情報爆発を防ぐのは極めて難しい。いつ、どこから、どういうアプローチで襲ってくるか解らないんだからな』
じゃあ、俺たちは一体何をすればいい?ジョンがここに来た理由がわからなくなってしまったぞ。
『最も簡単な方法が一つある』
あるんなら、それをやってしまえばいいだろうが?
『涼宮ハルヒを殺すことだとしてもか?』
……確かに、できないな。
『俺もこれ以上自分の仲間が殺されるのは御免こうむりたい。誰一人として死なせたくはない』
ジョンはどうする気なんだ?
『SOS団の他のメンバーと同様、涼宮ハルヒの内在している力を監視する。万が一、今回のような危険が突如として起こってしまった場合、さっきのようなバトンタッチのイメージをキョンがすることなく、瞬時に俺が前に出る。そのことを予め覚えておいてくれ。本当に緊急事態の場合に限りだ。事が終わればすぐキョンと交代するから、心配する必要はない』
なるほどね。因みに、朝倉のときにそれをしなかったのはなぜだ?
『こうしてキョンに話す前に俺が前に出ていったら、誰だって怒るだろ?ナイフがキョンに突き刺さる一歩手前でキョンがイメージしてくれたから交代ができた。もう駄目だって時は後で謝ることを前提にして前に出ていた』
そこまで考えてくれていたとは……感謝の一言に尽きるな。
『俺の方からも礼を言う。ところで……』
これ以上まだ何かあるっていうのか?出来の悪い頭がパンクしてしまいそうだ。
『筋トレしないか?俺流のな』
筋トレ?どんなやつだ?
『まず、ベッドに寝てくれ。今から俺がキョンの全身に低周波を一定の間隔でおくる。そうすると筋肉が弛緩・収縮を繰り返して、寝ながら筋トレができるってやつだ』
ホントに何でもありな世界になってきたな。特に俺の周辺。ジョンに言われた通りベッドに横になった。
『今から低周波を浴びせる。少しずつ強くしていくから痛くなる一歩手前で合図をくれ』
………ストップ。
『今度は少しずつ弱めていくから、この程度なら寝ようとしていても気にならないっていう所までいったらまた合図を』
………ストップ。
『OK、これでキョンは寝ながらにして筋トレができるようになった。もちろん授業中もな』
あまりムキムキになるのだけは勘弁してくれ?頼むから。って、これやっていたら、ジョンは寝られない上に充電もできないんじゃないか?
『俺がずっと低周波を浴びせているわけじゃない。自動で低周波を送るようにしただけだ。低周波は微量のエネルギーで済むから、エネルギーを回復できないなどいうことはない』
ならいいか。ジョンも今日はお疲れ様。ありがとな、おやすみ。
『長い一日だった。キョンも疲れを癒してくれ』

 
 

…To be continued