500年後からの来訪者After Future1-1(163-39)

Last-modified: 2017-05-04 (木) 10:36:23

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future1163-39氏

作品

アメリカ支部を立ち上げ運営し始めてから、今まで一緒だった黄青のSOS団メンバー、元機関メンバー、
子供たち、ついでに俺の家族がバラバラになってしまった。
これ以上シェアを広げていってもいいものかと古泉に相談したところ、
「最初は我々が人事や運営に関わる必要がありますが、軌道に乗ってしまえば、
 あとは現地のスタッフで運営していけるでしょう。
あなたや朝倉さんも人材を育てる方に力を注いでいくべきなのではないですか?」
という言葉を受け、日本で全員に話したところ満場一致で『問題ない』と返ってきた。
その後、朝倉は編集長としてふさわしい人材を育成し、俺の方は調理スタッフに誓約書を書かせた上で、
サイコメトリーした新川流料理の数々を伝授。
誓約書には、俺が伝授した料理で独立して店を建てることを禁ずるもの。
要するに、定年を迎えるまであの調理場で仕事をすることを約束させ、
ハリウッドスターがやってきたときのみ俺が調理場に入り、料理を運んでいた。
ハルヒの宣言により、妊娠期間中に覚えた五ヶ国語を全員がサイコメトリーして、
古泉が一等地を抑えたイギリス、フランス、イタリア、韓国の順にシェアを広げて皆で戻ってきた。
無論その後の人事についてはW古泉のどちらかが各国へ跳び、サイコメトリーで合否を判定。
倒産やリストラのせいで我が社に恨みを持っている奴は排除した。
『キョンパパ、これからみんなとずっと一緒にいられるの?』
と双子から聞かれ、「たまに俺が朝いないことはあるがそれ以外は一緒にいられるぞ」と言うと、
幼児用のイスではしゃいでいた。俺たちと同じ椅子に座って食べるようになるのも時間の問題だな。
毎月各国で仕上がった冊子は俺と朝倉で全てチェックして
追加訂正については朝倉が現地に赴くようになった。

 

ジョンの世界では俺、古泉、青俺、ジョンがそれぞれ国別に服や冊子の量産を担当し、
空いた時間はバレーの練習、W佐々木と話をしたり、
古泉はようやくボードゲームに専念できる時間ができたといっていいだろうな。
こっちの朝比奈さんもジャンプサーブができるくらいにまで上達した。
OGが理不尽サーブ零式をマスターし、零式の攻略法を全員に説明してすぐに
マフィアにアメリカ支部が襲われる事件が起きて話すことができなかったが、
次の日の夜、それ以降は零式サーブは封印することを全員に話した。
「キョン先輩!ようやく完成版零式サーブをマスターしたのにどうして封印するんですか!?」
とOG全員で詰め寄られたが、
「封印するのは公開練習や練習試合のときのみ。世界大会で零式サーブを打てばいい。
 毎回報道陣に撮影されるとその映像が各国に流れて対応策が練られてしまうからな。
俺たちが零式サーブの攻略法を見せてしまうことにもなりかねん」と説明。
SOS団メンバーも含めて、ようやく納得したようだ。目立ちたがり屋も多いことだしな。
女子日本代表エースが零式をマスターしてきても、対処法はわからないふりをするつもりだ。
因みに俺の方も世界大会のみ出場することになり、我が社が日本代表のスポンサーになった。
無論、シーズンごとの費用もゼロ。
日本代表のユニフォームの胸にはSOS Creative社と刻みこまれ、看板にもその名が乗った。
全世界に名が知れ渡ったところでシェアを広げようかとも思ったが、
俺を含め、全員が現状で十分満足していた。これ以上は必要ないだろう。

 

「ねぇキョン、あんたに提案したいことがあるんだけど…」
全員で朝食を食べていたさなか、ハルヒがそう進言してきた。こんなセリフを吐くハルヒも珍しい。
「あたし達がライブをする度にENOZを呼ぶんじゃなくて、
ENOZにデビューしてほしいと思ってたのよ。
あたし達と同じように新曲が完成する度にCM入れていけば、あとはあの演奏で注目されるはずよ!」
「それは名案だね。僕も楽曲を貰ってばっかりで申し訳ないと思っていたんだ。キョン、どうだい?」
「『どうだい?』も何も本人たちが了承すれば、あとは俺たちが全国に広めればいいだけだ」
日本を含めて六カ国分の我が社の総資産がいくらになっているか、今度青有希に調べてもらおう。
古泉が各国の一等地を交渉する度にかなり削られたが、今後は右肩上がりになっていくだけだ。
「わかった。ENOZの新しい衣装のデザインはわたしが作る」
「でしたら、僕は本人たちに確認を取ってきましょう。彼女たちも既に社会人ですから、
退職したいと申し出ても、それ相応の期間は必要なはずです。勿論ご両親の了解も含めてですが」
「でも、大丈夫なのかしら。今後はわたしたちSOS団とENOZが争う事になるのよ?」
「それなら心配いりません。わたしのCMの撮影がある度にハルヒさんと一緒に行って作詞すれば
 あとは有希さんがふさわしい曲にアレンジしてくれます」
「黄みくるちゃんも大きく出たわね!
バンドとしての活動以外はあたしたちの仕事の手伝いをしてもらえばいいわよ!
 ビラ配りとか店員とか…ビラ配りのときはENOZの曲をかけるっていうのも面白そうね」
「じゃあ四人の給与についてはわたしとキョンでやる」
「それはかまわないが…ENOZの居住スペースはどうする気だ?81階より上はもう一杯だぞ?」
「アメリカ支部に行った社員と同じだ。仮眠室の下のフロアをENOZの居住スペースにする。
食事は俺たちと一緒にここで食べればいいだろう」
昼は人事部の社員も加わることになるが…テーブルを広くする必要もあるまい。
『わたしもハルヒママのライブ、みんなと一緒に見たい!』
テレビモニターでは満足できなくなったらしいな。
関係者外からは見えない閉鎖空間を張って目の前で見せてやることにしよう。
数日後、本人たちは泣いて喜び、引っ越し作業をしたあと、すぐに新しい楽曲の編曲に入っていた。

 

「大変よ!」
エレベーターから降りてきた青朝倉がいつもの一言。
そこまで大袈裟にすることもないとは思ったが、今回ばかりは俺も予想外だった。
『キョン社長 既に結婚していた!お相手はSOS団ボーカル 涼宮ハルヒ』
俺の誕生日に婚姻届を出したことまで事細かに書かれている。
情報をリークしたのは…アホの谷口あたりだろうな。もう出所していてもおかしくない。
「情報提供者は大体察しがつきますが…どうするんです?
また情報を操作して出版社を破壊しに行くおつもりですか?」
「それじゃあ逆効果だよ。キョンとハルヒさんが結婚しているのをわざわざ証明しに行くようなもの。
 キョンから聞いた話だけど、未来人君たちがデパートを占拠したときに
ハルヒさんが自分はもう涼宮じゃないってクラス中に言ったんだろう?」
「フンッ!SOS団が全国に知れ渡っているんだから今さらそんな情報もってきたところで大差ないわよ。
 大体、あたしよりみくるちゃんや佐々木さんのファンの方が多いんだから!」
「あら、わたしと有希さんはいれてくれないのかしら?
それに、ビルの入口には取材陣や報道陣が大勢集まってるわよ?」
「ハルヒの言う通りだ。今頃こんな情報が出てきても心配いらない。
 それに、いい機会だ。アメリカ支部同様、閉鎖空間を拡大して敷地内に報道陣が入れなくなるようにする。
 本店の営業妨害もいいところだしな。今夜にでもジョンにやってもらえばいい」
「おや?それならアメリカ支部が始動したときにやってもらいたかったですね。
 今までそれに気付かなかった僕が言うのもどうかと思いますが…」
「問題ない。わたし達は自分の仕事をすればいい」
それもそうだな。これまでずっと取材拒否を貫き通して来たんだ。
閉鎖空間を広げる以外、これまで通りの仕事をすることで全員の意見が一致。
子ども三人の保育園については青有希を中心に報道陣に見えない閉鎖空間をつければいい。
翌朝、どうやっても敷地内に入れずに困惑している報道陣を見て全員大爆笑。
「プ、くくく…。あいつら、アメリカの報道陣のこと知らないのかしら?」
「知っているはずですが、それと現状を結びつけるまでには至ってないようですね」
「とにかくだ。本社ビル前の報道陣はあのまま放置する。また人事部が大変になるだろうから、
 出来る限り俺たちもサイコメトリーで電話対応に参加しよう」
『問題ない』
全員揃ったはずの「問題ない」だったが、異議を唱えた奴が一人。
「ちょっとあんた、情報ばら撒いた奴を叩き潰しに行くんじゃないの?」
「どうせアホの谷口の仕業に決まってる。あんなのを相手にしてたらこっちが惨めになるだけだ」
「どうやらそのようですね。もはや、報道陣を抑えつけることなど、我々にとっては造作もありません」
「そう言ってくれると我々も嬉しいよ。人事部の社員の負担を減らしてくれると助かる」
そのあと、圭一さん、父親、俺、W古泉、Wハルヒで電話対応。
たった二日で取材陣からの電話を沈静化させ、通常の運営に戻っていた。
あのアホも、さぞ悔しがっていることだろう。

 

「キョン君、やっとわたし、高一のキョン君に会って来いという指令がでました。
TPDDより高性能なタイムマシンも未来の有希さんがつくってくれたので、時間震動を越えられそうです。
みんなとさよならをする必要がなくなりましたし、張りきって行ってきますね」
わたしがまず時間跳躍したのは、キョン君が朝倉さんに襲われた次の日の早朝。
そのときは下駄箱に無記名でメモが入っていたって話だから一応わたしの名前は書いておきました。
この時間平面上のキョン君は信じてくれるかな?昼休みに来てくれるといいんだけど…。
それから久しぶりの北高の文芸部室に行って有希さんに事情説明。
あ、長門さんって呼ばないといけませんね。
それに…キョン君からエネルギーを貰ってテレパシーのやり方を教わってくればよかったな。
SOS団が結成されてすぐだから、文芸部室のみんなもわたしたちのことそこまで知らないけど、
キョン君が来てくれるまでお茶を振る舞うくらいの時間は十分にありそうです。
コンコンとドアを叩く音がして「はぁい」といつもの返事をすると
この時間平面上のキョン君が部室に入ってきました。懐かしいなぁ…
当たり前の話ですけど、ジョンの全身低周波トレーニングをしていないので、
わたしには今目の前にいるキョン君がちょっと太ってみえます。でも、これがキョン君の普通なんですよね。
そういえば、キョン君からわたしが大人になったなんて言われましたが、
キョン君も大人になっていたんですね。ここにいるキョン君がなんだか可愛く見えます。
「あの…朝比奈さんのお姉さん……ですか?」
キョン君から聞いてた通りの反応で思わず笑ってしまいそう。でも…
「わたしはわたし。朝比奈みくる本人です。数年後の未来から来ました」
「えっ?朝比奈さんってもっと未来から来たんじゃないんですか?」
昨日の朝倉さんの事件も含めて、キョン君は混乱しているみたい。ひとつずつ説明しなきゃいけませんね。
「そう。本来であれば、あなたの知ってるわたしより、もっと未来から来たことになります。
 でも、わたしはキョン君や皆と別れたくなくて帰還命令を拒否したんです。
 だから今もみんなと一緒に生活しているんですよ?
それで、わたしのいる時間平面上で未来からの指令を受けて、高校一年生のキョン君に会いにきた。
昨日の事件のことも聞いています。混乱しているかもしれませんけど、少しは信じてもらえましたか?」
「ええ、まぁ…。でも、そうだとしたら未来の俺が羨ましいですね。
朝比奈さんとずっと一緒にいられるなんて…。
あれ?そしたら今、二人の朝比奈さんがこの時間平面上にいるってことですか?」
「はい。この時間平面上にいるわたしは、今頃クラスでお弁当を食べているはずです」
「じゃあ、そっちの朝比奈さんはあなたが来ていることは…」
「知りません。今日わたしがここに来たことはあなたとわたしの内緒はずだったんですけど、
 わたしの知っているキョン君から聞いたんです。もう一度、あなたに会いに行くことを」
ようやく事の顛末をキョン君が飲みこんでくれたような気がします。
ハンガーラックにかけられたコスプレ衣装を懐かしく思いながら、
キョン君にハルヒさんの強制閉鎖空間の白雪姫のヒントだけ伝えてその時間平面上から去りました。

 

次に向かった先は、三年前の七夕の夜。ここでわたしは二人のキョン君に出会うことになる。
過去のわたしをタイミングよく眠らせられるか不安でした。でも、そのことをキョン君に伝えたら
『過去のわたしには見えない』という条件の閉鎖空間に変えてくれました。
TPDDも一時的に隠してから、キョン君にはハルヒさんの手伝いをしてもらうための指示をして
公園をあとにしました。
しばらくしたところで、防寒着やブレザーを抱えたキョン君に声をかけられて、
ハルヒさんの手伝いをしたキョン君が長門さんの家に訪れるまで、キョン君と公園のベンチで話してました。
「さっきまで暑くて仕方がなかったのに、急に涼しくなりましたね」
「それなら、キョン君がわたしにつけてくれた移動型閉鎖空間のせいかな?
 あ、わたしの時間平面上にいるキョン君の話ね」
「閉鎖空間は分かりますけど、移動型?それに未来の俺が朝比奈さんに閉鎖空間をつけたってどういう…」
「わたしの時間平面上にいるキョン君は超能力者。
500年後の未来から人類滅亡を阻止するために涼宮さんに会いにきた人がいるんです。
死ぬ間際に自分の持つ超能力とタイムマシンを使って、
入学式の前日にキョン君の頭の中に意識だけ入ってきた…だったかな?
涼宮さんたちと一緒に行動しているうちにキョン君が超能力を少しずつ覚えていって、
閉鎖空間を作れるようになったり、その閉鎖空間に色々な条件を付け加えることができるようになったり、
長門さんのように情報結合が出来るようになったり」
「長門の情報結合もですか!?何でもありだな…未来の俺は。
 俺のところにも来て欲しかったですよ、その人類最後の生き残り…でしたっけ?」
「未来の長門さんが言っていました。わたしの時間平面上にいるキョン君にだけ彼の意識が宿ったそうです。
 その能力を使って絶対に倒産しない会社を立ち上げて…
キョン君がさっきまで必死になってかき集めた異世界のわたし達と一緒に働いているんですよ?」
「また面倒事に巻き込まれたなんて思っていましたし、
長門から二日しか猶予を与えられてませんでしたから…
そう言われてみればもっと異世界のハルヒ達ともっと話してみたかったですね」

 

頃合いを見計らってキョン君と共に長門さんの家へ。
異世界に強引に連れて行った人物を聞いて、さすがにキョン君は愕然としていました。
でも、わたしの任務はこれで終わり。あとは改変者に短針銃を撃ちこめばいいだけです。
覚悟を決めたキョン君と一緒に時間跳躍をして世界改変が起こる前の時間に戻ってきました。
長門さんが世界改変をしたあと、キョン君が異世界の長門さんに近づいて行く。そのとき、
「キョン君危なっ………えぇ!?」
誰かがキョン君に向かっていくのが見えて、そのあと刃物が割れるような音が聞こえて、
壁に何かがぶつかったような音がして…
気付いた時にはわたしの横に朝倉さんが尻もちをついていました。
朝倉さんがキョン君をナイフで襲おうとした?でもそのナイフは折れてしまってる。
目の前で寒さで震えている異世界の長門さんを見てようやく気がつきました。
十二月の中旬にこんな格好でいたら寒くて仕方がないはずです。
キョン君のつけてくれた閉鎖空間が空調を完備するだけでなく、わたしやキョン君を外敵から守ってくれた。
「どういうことか説明してほしいわね。あなた一体何をしたのかしら?」
「その質問に答えている暇はどうやら無いようだぜ?」
わたしの後ろからキョン君がもう一人現れました。過去のわたしと長門さんを連れて…。
すぐに朝倉さんを長門さんが押さえ込んで情報結合を解除していく。
「やれやれ…俺にも説明して欲しいもんだ。このときの俺は朝倉に後ろから刺されたはずじゃないのか?」
「それは…わたしから説明します」
現状を最も把握しているのはわたしのはず。
多分、このまま引き継ぎを行わずにわたしが帰ってしまったら、
ここよりもう少し過去の時空平面のキョン君とわたしが死ぬことになる。
長門さんがキョン君の持っていた短針銃を撃って世界を元に戻した後、
「なるほど、要は未来の俺に助けられたわけか。
そして、俺が長門と朝比奈さんを連れてここに助けに来なければならない。
そうでなければ朝倉に全員殺される時間平面ができてしまう」
「そう。ここにいる大人版朝比奈みくるの時間平面上だけが特別。
 この事件のあと、未来のわたしと同期してそのことを聞いた。
 あなたは朝倉涼子のナイフから逃れられた唯一の存在。
もっとも、この閉鎖空間を彼女につけた彼は朝倉涼子との戦闘で勝利を収めている」
二人のキョン君が唖然としていました。でも、それが当たり前ですよね。
朝倉さんに対抗できるのは長門さんしかいません。

 

その場にいた全員に別れを告げて本社ビルの81階に戻ると、
「朝比奈さん、忘れものです」とキョン君が情報結合してきたのはわたしが履いていた靴。
そういえば、時間跳躍するときに長門さんの部屋の玄関に置いてきちゃったのをすっかり忘れてました。
キョン君がそのことをずっと忘れずにいてくれていて嬉しいです。
「ありがとうございます。あれ?そう言えば、キョン君。
キョン君が青チームの世界から戻ってきたときはキョン君が朝倉さんを倒したんでしたよね?」
「ええ、それが何か?」
「わたしの行った時間平面上でもキョン君が後ろから襲われそうになったんです。
 でも、キョン君がわたしにつけてくれた閉鎖空間でガードしてくれたんですけど…
 そのあと、別の時間平面上からキョン君が有希さんと過去のわたしを連れて、わたし達を助けに来たんです。
 ジョンがいるのはこの時間平面上だけだって未来の有希さんが言ってたんですよね?
 キョン君が超能力者でない以上、朝倉さんに対抗できるのは有希さんだけ。
 あの事件のあと、わたしは二人を連れて過去に戻っていませんし…キョン君が一人で助けに行ったんですか?」
ゲッ!!そういえばそうだ。
あの頃はどの時間平面上にもジョンが存在しているもんだと思っていたからな…。
朝比奈さんに言われるまで、過去の俺を助けに行くなんて考えは一切なかった。
ということは何か?
一定の時間平面上毎に俺と朝比奈さんが朝倉に殺される時間平面ができてしまっているのか?
『俺もその場にいなかったから今言われて気付いたが…おそらく心配はいらない』
おいジョン、なんでそう言いきれるんだ!?別の人間が助けに行ったとでも言うのか?
『おそらくそうだ。あのとき、朝倉涼子に刺された段階でそこに割って入るキョン達がいたはずだ。
 朝倉涼子を倒したのを見て、この時間平面上は助ける必要がないと判断して、
 隠れていたキョン達はここに来る必要が無かったと思っただろう。
 だが、朝倉を倒してしまったことにより、キョンの頭の中には過去の自分を助けに行くという考えがない。
なら、この時間平面上からさらに過去行ってキョンたちを助けなければならないと
長門有希が判断して実行に移しているはず。
俺も時間平面を確認して、キョンが死んでしまった時間平面がないか確認してみるよ』
多分、ジョンと話していたんだと思います。最初は吃驚してどうしたものかと悩んでいましたが、
ようやくキョン君がホッとした表情になりました。わたしもキョン君も殺されずに済んだみたいです。
今回の任務もこれでようやく終了。帰還命令もありませんし、これからもみんなと一緒に過ごしていきます。

 

そして、アメリカ支部に襲ってきたマフィアを一つずつ潰していくうちにラスベガスがとうとう眠ってしまい、
土地の権利書の使い道について会議をしていると…
「ラスベガスにあたしたちの町を作ればいいのよ!SOS Cityなんてどうかしら?
 治安ならキョンの閉鎖空間で犯罪を防げば問題ないわ!」
だが、名前にSOSとついた時点で俺たちが土地の権利書を持っていることがバレてしまうため、
ハルヒの意見は却下されたが、予想外の方向に話が発展した。
「だったら東北の震災で被害にあった人たちの為の町を作ったらどうだ?
 仙台店も店を増やそうにも客が来なくて店舗を増やせないんだろ?
 それならW古泉で土地の交渉をして、黄俺が高層マンションを建てればいい。
 土地を高く買い取ってマンションの上層部をタダで受け渡せば相手も文句ないと思うんだが…」
「うん、それ、賛成!この会社も後は黒字になるばかりなんだし、
バレーの日本代表のスポンサーじゃないけど、そういう方面に投資してもいいんじゃないかしら?」
「どうやら、こっちのキョンの名案が炸裂したようだね。面白そうじゃないか。
具体的にどうやっていくんだい?詳しく聞かせてくれたまえ」
全員の視線が青俺に集中しているが、青俺もそれ以降のことは考えてなかったらしい。
「すまん。町を作ると言っても具体的に何をしていけばいいのか俺にもわからん」
青俺の発言を受けてここでようやく古泉が口火を切った。
「町作りをするのであれば、当然居住スペースが確保されてなければいけません。
 毎日の生活のために必要な食糧、家具、家電製品もいるでしょう。
 建築する際は各部屋に最新家電製品を取り揃えておくのも一つの手ですね。
 後は仕事ができる場所が確保されていなければいけません。
スーパー程度のものならパートやアルバイトで済みますが、
工場や農業については専門職でないと務まりません。
さらに、小中高の学校や病院、特に精神面での患者はかなり多いですからね。
加えて両親を亡くした子たちの施設についても我が社がスポンサーになる必要がありますね」
「よし、それならW古泉で仙台駅付近の広い土地の確保に回ってくれ。
 俺は市長にアポイントを取ってその旨を伝える。半年後に70階のツインタワービルのお披露目だ。
 それまでに元市民への告知、廃工場を元の形に戻して、可能なら最新機器を入れてもいい。
 ビルの地下一階に食品や生活用品売り場、その下地下五階までが駐車場、
 耐震機能は閉鎖空間で対応する。
一階は当然我が社の店と書店兼文房具店、それにコンビニ。
店舗と本屋は夜八時に内側からシャッターで閉めるが、コンビニは24時間営業だ。
正面の入口も夜八時で閉めることにする。
それから二階はレストランにファストフード店。
三階にCD・DVDなど音楽関係のものと各楽器のレッスンが受けられる場所があるといい。
四階と五階に塾を設けるのも悪くない。それ以上は入居者専用スペース。
警備員も雇って、オートロックのカードキー。部屋は普通の鍵があればいいだろう。
有希は各チェーン店、運送業者と契約を取ってきてくれ。最初は赤字の分は我が社で支払う。
朝倉は告知のためのポスターやCM作り、W古泉の交渉で得た土地に俺がビルを建てる。
垂れ幕を下げてCMもSOS団やENOZの曲の間に挟むことにする。シートには当然我が社の名前入りだ」
「わかった」「こっちもOKよ」
『キョン!あたしは!?』
「Wハルヒは震災後まだ取り除かれていないガラクタを一掃してもらう。
 エネルギーはジョンの世界でMAXまで渡すから破壊して回ってくれ。
 仙台の次は盛岡、福島とシェアを広げていく。面積が広い分退屈はしないはずだ」
『あたしに任せなさい!』
「凄い、キョンの発案でこんなに話が発展するなんて思わなかった」
「私も吃驚だよ。だが、君たちのやろうとしていることは日本の未来を切り開くことになるだろう」
「キョン君が内閣総理大臣になったみたいです!」
「なら、俺たちの手で日本を変えてやるまでだ」
『問題ない』

 

やることが決定すればあとは動くだけ。
町の復興のためにツインタワービルを我が社が全額負担して建築し、市民にはタダで部屋を明け渡すと説明。
市長も快諾し、自ら市民を呼び戻す活動に尽力すると言ってきた。
W古泉の交渉を待ってビルを建築する旨の看板と会社名の入ったシートを張り建築スタート。
駅前の商店街も商売をしないという所は土地を買い取り、続けるところは店の場所と内装を激変、
半月もしないうちにW古泉が仙台駅近辺の土地の権利書を携えて帰ってきた。
駅前にはタクシーやバスの乗り場を作り、ロータリーの中央には亡くなった方々への石碑を設置した。
ビルの隣には広々とした芝生。その一角にはバスケット用のゴールをいくつも取り付けた。
更に近くの学校にも交渉に赴き、小中高までエスカレーター式で通える学校を設立。
大学のキャンパスよりも広い学校にすることができた。
設備もほとんど一新し、あとは教師の私物や生徒の持ち物を持ってくるだけとなった。
また一人暮らしの人の為に、ツインタワービルとは別に有希のマンションと同じ造りの建物を建築。
20階建てにしておいたし、これで復興支援に来てくれる人の住まいが確保できるだろう。
シートが増えるたびに報道陣が右往左往していたが、町が新しく生まれ変わるんだ。
文句を言う奴などいないだろう。
その後も病院、両親を亡くした子供たちのための養育施設を建て最新機器を導入。
廃工場も作業がスムーズになるように作り変え、こちらにも最新機器を設置した。
農家の機械も一新して働いていた人たちを古泉がテレポートで連れてきていた。
作物が実ってこれまでのように利益が得られるようになるまでこちらで給料を支払うと交渉。
快諾を得たところで経理に申請した。当然本社人事部には俺への取材で殺到。
名前や会社名に嘘偽りがある場合はサイコメトリーで削除してきたが、
これまでそうやって潰していったからか、会社名も名前も本物で俺に記者会見を開いて欲しいとの要望が殺到。
市長と握手しているところまで撮りたいらしい。
「キョン、これはもうキミが出るしかないんじゃないか?
 日本政府でも不可能なことをキミがやっているんだからね。報道陣が殺到して当然だよ」
「記者会見の場所にあなたが向かい、あとは取材陣からの質問に答えるだけです。
 報道陣に『お集まり頂きありがとうございます』などと言う必要もありません。
 要望があったのは向こうの方ですからね」
「分かった。なら記者会見に出向くから場所が決まり次第連絡をよこせと伝えてくれ。
 どうせ会場をどこにするかで各TV局が揉めるに決まってる。
 ついでに日本の復興は全て我が社で行うと断言してやるよ」
「ところで黄キョン君、どうしてツインタワービルにしたんですか?」
「簡単なことですよ。ペットOKの棟とペットNGの棟に分けるだけ。
 親族がいなくなってペットだけが心の支えになっている人が大勢いると思ったまでです。
 ビルの左右にエレベーターを六台ずつ設置して入居者専用出入口から入れるものにしてあります。
 ペットOKの方はビルから出たらすぐ芝生ですからね。
散歩道も作りましたし有効に使ってくれることを祈るだけです」
「相変わらず、隅々まで配慮が行き届いていますね。
僕も説明されるまではなぜツインタワーにしたのか全く分かりませんでしたよ」
「なぁに、シャミセンを見ていたら閃いただけだ。とりあえず、記者会見の場所が確定したら教えてくれ」
『了解』

 

案の定、各TV局がそれぞれで会場を決めて人事部に連絡してくる始末。
「困るねぇ。他の局からは違う会場だと言われているんだが…
 社長も各会場を回っている程暇じゃないんだ。一か所に決まったら連絡をくれないかね?」
記者会見関連の電話については全て圭一さんが受け、
バラバラだった会場も数日後にようやく一か所にまとまったらしい。
古泉がリムジンの運転をすると申し出てくれたが、
記者会見くらいで古泉に運転してもらう程の事でもないだろうと言ったところ、
「記者会見の会場だけでなく、その建物の入口にも取材陣が待ち構えているはずです。
 いくらパフォーマンスとしてハリウッドスターたちに見せてきたとはいえ、
 今は短い期間で町が変化している真っ最中ですからね。ここは正面から堂々と会場に赴くべきかと…」
納得、いつもすまない。「いえいえ」
古泉の予想通り、会場となったホテルの入口には大勢の取材陣。報道陣は会場の方だろうな。
スタッフの案内に従い、会場の入口で待機するよう伝えられた直後、
会場にいた司会らしき男性が口火を切った。
「皆様、お待たせ致しました。キョン社長の御到着です。どうぞお入りください」
司会に従い、一礼をした後、長机の後ろに置かれていた椅子に座る。
「時間が限られておりますので、質問はできるだけ簡潔に少数でお願いします」と一言。
目の前には20本近くのマイクとボイスレコーダー。目を開けていられない程のフラッシュが焚かれる中、
一人の女性記者が立ち上がって質問を投げかけてきた。
「キョン社長、震災に遭った町の復興にSOS Creative社が全面協力をしているとお聞きしましたが、
 どのような経緯で支援をすることになったのでしょうか?」
「これまで海外に我が社の支部を建てて運営してきましたが、
これ以上シェアを広げる必要もないだろうと会議で決定し、
我が社の資産で何か出来ないかと思案していたところ、復興支援の話があがりました。
 町を復興させるために何が必要か皆で意見を出し合い、これまで動いてきたまでです」
「本社ビルも含めて、なぜあの短期間で建物を建造することができるのですか?
 複数の建築会社に依頼したとしても、あの期間で完成するとは到底思えません」
「それについては我が社のトップシークレットです。この場で話すことはできません。
 ですが、完成が早ければ早いほど町の復興に拍車がかかるはずです。
 建築中のツインタワービルは元市民の皆さんには、無条件で一世帯につき一部屋を提供する予定です。
 当然、入りきらなければ別の場所に同じようなタワーを建造するまでです」
「日本政府を無視して独断で行っていることになりますが、それについてどのように思われているのですか?」
「簡単です。先ほどもお話した通り、我々でやった方が早いというだけです。
 復興するにあたって市長とは最初に交渉済み。
大金を政府に渡しても一つのことを決めるまでに時間がかかる上、
汚職事件に発展する可能性もあると判断しました。
 今は仙台だけですが、今後は盛岡、福島とシェアを広げていくつもりです。
 元市民の皆さんには町の復興に是非とも協力を仰ぎたいと思っています。
 また、復興していくにあたって足りなくなってくるであろう保育士や教員、医師や看護師、
カウンセラー、バスやタクシーの運転手、塾の講師など幅広く募集しています。
全国の皆様のご協力をお願い致します。
今後の東北地方の復興は我々SOS Creative社で行っていきます」
ここまで話せば他に質問もないだろう。
「他になければこれで失礼させていただきます」と言って会場を後にした。
『おかえり~』
81階に古泉と二人で戻るとほぼ全員が集まっていた。どうやら記者会見をモニターで見ていたらしいな。
「どうだった?」
『問題ない』

 
 

…To be continued