500年後からの来訪者After Future1-2(163-39)

Last-modified: 2017-05-04 (木) 10:37:11

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future2163-39氏

作品

その日の夕方から俺の記者会見が各局で放送され、翌朝のニュースでもVTRが流れた。
また、各社新聞記事の一面も全て記者会見のことを取り上げていた。
『SOS Creative社 被災地の復興に全力を注ぐ』や『元市民には無条件で一部屋を提供』
『キョン社長の支持率上昇!?日本政府に非難の声』などなど
記者会見後、夕方の放送を見た人に取材したらしい。
本社ビルの敷地外に大勢の報道陣が集まっていたが関係ない。
記者会見の翌日から地元に帰りたいという電話が殺到し、既にツインタワービルの全部屋が埋まっている。
駅の反対側に第二のツインタワービル建造中。といってももう出来ているけどな。
本来ならアメリカ支部同様、そちらの方も引っ越しを済ませて、
シートを通り抜けられるようにしてもよかったが、流石にそれでは怪しまれるだろうということになった。
人事部に元市民からの電話が来るたびに圭一さんが
「次のタワーを建設している真っ最中だから、
完成予定日の一週間前に引っ越しをするつもりでそれまで待っていてくれ」と伝えてもらった。
当然、家族構成、ペットの有無、電話番号などを確認して上の階から埋めていった。
有名チェーン店からは「次に建物が建てられたときはビルのフロアを貸してほしい」と連絡が入り、
ツインタワービルとは別に建物を建造、大手電気店や映画館、雑貨店などがそのビルを埋め尽くした。
ツインタワービルのお披露目まで残り一週間となり、
W古泉、全エージェント、青ハルヒが元市民のお宅を訪れて引っ越し作業に入っていた。
地下一階の食品売り場や二階のレストラン、ファストフード店などのパートやアルバイトの募集をかけ、
森さんが面接。サイコメトリーしなくとも、仕事に就いて生活を安定させたい人ばかり。
ツインタワービルに来てまで我が社を陥れようとするやつはいなかった。
また、有希が買収した仙台一号店とツインタワービルが目と鼻の先の位置にあり、
仙台一号店を潰して品物をツインタワービルへと移動。
アルバイトの人たちも次の日からツインタワービルで勤務することになった。
因みにその間、地下一階の食品売り場はハルヒと青有希で惣菜を作り、俺は魚介類の切り分け。
有希が品物をそれぞれ並べ、OGやENOZを含めた残りのメンバーは食品レジや
生活用品店の店員、仙台一号店のスタッフにも一階の本屋やコンビニの手伝いに入ってもらった。
ここの惣菜もハルヒ味になるよう本人に伝えておこう。
調味料などは数多く並べて、賞味期限の短いものは少なめに発注したのだが、
引っ越しの合間を縫うように夕食時になるとタワーの人たちが数多く降りて来ていた。
残った食材で夕食作りをと思っていたのだが…まぁ、嬉しい誤算と言うべきだろうな。
本社ビルに戻って食事作りを始めた。

 

ビルのお披露目の日、何も全員で見に行くこともないだろうと思っていたのだが、
ビルを見てみたいからと、結局全員でテレポート。時間は午前零時だったが、
明日のお披露目を取材しようと報道陣がシートの外に張っている。
シートの材質を無くし、報道陣は入れない透明な閉鎖空間に作り替えると皆に話した。
「そういえば、マンション名どうするのよ?」
「ハルヒさんのおっしゃる通りです。住所を書く時に困ってしまうのでは?」
「年賀はがきや郵便なら省略してもいいと思うけど、正式な契約書にはマンション名も必要だね。
 どういう名前にするのか、僕にも教えてくれたまえ」
「俺もハルヒに言われるまで考えてなかった。
建物の二階に会社名を入れただけだ。何かいい案ないか?」
「そうね、会社名も残したいし復興の第一歩って意味も含めて
『SOS Revivalツインタワービル』でどうかしら?」
Revival=復興か。悪くない。「他になければ朝倉の案でいくけどどうする?」
『問題ない』
というわけで、会社名をマンション名に変え、本社と同じ五層の閉鎖空間。
一番外側に報道陣を内部に入れないものを一枚、空調管理や換気機能を備えたもの、
地震などをふくめて外部からのあらゆる攻撃からビルを守るもの、閉鎖空間が壊れないようにするためのもの
そして、一番内側には閉鎖空間が何らかの理由で壊されてしまったとき、それをすぐに再構築するもの。
これで呼び鈴を何度も鳴らして入居者に取材することもできまい。
タワーの一部にはまだ明かりがついていたが、居住スペースを除いて、一階から三階までの照明を点灯。
入口にテレポートして全員で見学。一時前には戻ると伝えて全員で散らばった。
正面から入ってすぐにSOS Creative社の仙台一号店、中央に地下五階から三階までのエスカレーター。
その後ろに本屋とコンビニ。入居者はビルの両サイド六台ずつ設置したエレベーターを使う。
エレベーターの両端にはそれぞれカードキーで開く自動ドアが二つ。
内側と外側で計四人の警備員が付き不審者が入り込まないようにした。
無論タワー正面入り口や二階から五階にも警備員を雇うつもりだ。
カードキーもファンクラブの会員証と同じく、
無くした場合はその番号のカードキーを使えなくする手筈を取った。
「もう、細部までこだわり過ぎよ!あんたを心配しているあたしの身にもなってよね!」
相変わらずのハルヒのセリフだったが、そんなハルヒがいるからこそ俺は安堵していられるんだ。
本当にいい妻を持ったもんだよ。まったく。
『キョンパパ!?ハルヒママ!?』
おっと、どうやら双子が夜中に起きて俺とハルヒがいないことに気付いたらしいな。
テレパシーを使っているわけではないが、考えていることが俺に直接伝わってきたらしい。
すぐにでも戻って泣きやませないとな。
「そういうことでしたら、お二人で先に帰ってください。あとのメンバーは僕が本社まで送りましょう」
「幸も一人で泣いているかもしれん。有希、俺たちも戻ろう」
「わかった」
青俺&青有希を98階へ、俺とハルヒは99階へと戻ると、双子が俺たちに飛び込んできた。
「パパもママもいなくなるのやだ!キョンパパ、今日はわたしと一緒に寝て!」
「あー美姫ずるい!ハルヒママ、わたしも一緒に寝たい!」
仕方なく四人で和室で寝ることになった。しかし、どうやら俺に似たらしい。
二人とも寝相が悪くて殴られたり蹴られたりする一方だったが、満足気な顔をして寝ている。
色々あったがこれで一段落することができた。仕事の方もまだまだ忙しい日が続いているが、
二人の成長していく姿も含めて、これからどうなっていくか楽しみだな。

 

翌日、朝のニュースは当然お披露目になったツインタワービルが写っていた。
相変わらず敷地内に入れずイラついている報道陣が見てとれる。
中を見せろと言ってくるだろうが、我が社の社員と各チェーン店から派遣されてきた店員を除いては
仕事を始めたばかりで何をしてよいやら分からない状態だ。仕事に慣れるまで待っていてもらおう。
朝食後、俺、ハルヒ、青有希はツインタワービルへ。ENOZは楽曲作りとジャケット、CM撮影。
W古泉が人事部で電話対応、OGを含めて残りのメンバーはビラ配りへと出かけた。
青朝比奈さんのドラマ撮影はいわずもがな。
大分大人びてきたせいもあり、主演よりも助演として出る方が増えてきている。
朝比奈さんへのCM出演依頼が無くなったらハルヒの作詞はどうなるのやら…
ツインタワービルの人事もようやく安定し始め、
惣菜の調理場ではパートで働くお母さん連中にハルヒ味を徹底的に叩き込み、
魚介類の方は問題なく作業にあたっていた。俺が来る必要もなくなったようだ。
ツインタワービル内のチェーン店には店の運営や営業に慣れたところで
チェーン店の方から正式に契約して給料が出るように有希に連絡してもらった。運輸業者も同様だ。
仙台駅付近にはまだまだシートを外すことが出来ない建物もある。
焦らされる思いで通常業務にあたっていると、夕食時に圭一さんが現れて一言。

 

「大ニュースだ!」
『大ニュース?』
「仙台市の様子をニュースで見た盛岡と福島の市長から直接連絡があってね。
 是非とも君たちに町の復興をお願いしたいそうだ。君たちがOKならニュースで取り上げてもらって、
 日本各地に散らばった市民を呼び戻したいらしい。どうするね?」
「どうするも何も我々は最初からそのつもりで復興に力を注いでいるんです。
 三地区同時にやると報道陣がうるさくなりますからね。
内定という形でOKをしておいて、ニュースで市民を呼び戻すなら、
我々が建設作業に入れるようになってから取り上げてもらうといいはずです」
まわりも古泉の意見に異論はないらしいな。
「じゃあ、その件は古泉君の意見で折り返すとして…圭一さん、大ニュースって?」
「仙台市長からも連絡があってね。名前を変えたいから君たちの同意が欲しいと言ってきた」
「名前を変えるくらいで連絡してこなくてもいいんじゃないんですか?」
朝比奈さんの疑問ももっともだ。それだけじゃ大ニュースとは言えん。
「『仙台を 大いに盛り上げるための 仙台市民の 市』で『SOS City』と名付けたいそうだ。
 ツインタワーに引っ越した住民も仙台に残っていた人たちも大賛成しているらしい」
『面白いじゃない!』
Wハルヒは上機嫌、残りの連中はよくもまぁSOSと上手くはめ込んだもんだと唖然。
喜んで応じることにしよう。ここまで上機嫌なハルヒを見るのも久しぶりだ。
「もう一つある。政府から我が社に感謝状を贈呈したいから、都合がつく時間に来てもらいたいそうだ」
「凄い。仙台もまだシートが外せない建物が多いのに、もうそんなことまで…」
「また報道陣が集まりそうだね。記者会見と同様、リムジンの運転は彼に任せることにして
キョン、いつ行くんだい?」
青佐々木の言葉を受けて皆の視線が俺に集まる。だが…
「は、やなこった」
『はぁ!?』
頬を掌にあてて肩肘をつき、感謝状の受け取りを拒否した俺に全員から非難の声があがった。
「あんた、日本政府からの感謝状なんてちょっとやそっとじゃ貰えない代物よ!?
 仕事はあたし達任せて、いいから行ってきなさいよ!」
「断る」
「ハルヒさんの仰る通りです。感謝状を貰うくらいならすぐに終わるはずです。
 折角贈呈してくれるんですから、それを無碍にすることもないのでは?」
相変わらずWハルヒの発言の後は青古泉がフォローに入ってくる。
みんなの視線も俺に向いたまま青古泉の言葉に頷いている。
「面白いじゃないか。キョン、キミがそこまで頑なに断るからには相応の理由があるんだろう?
 焦らさずに僕たちにも教えてくれないか?キミの頭の中の構想をね」
「やれやれだよ。ったく、日本政府もこういうことに関しては頭が回るらしい。
表向きは復興に協力してくれた証として感謝状を贈呈することで間違いない。
だが、政府の本当の狙いはそんなことじゃない」
『本当の狙い?』
「感謝状を贈呈する以外に別の目的があるっていうのか?」
「ああ、こちらが指定した日に報道陣を集めて、内閣総理大臣が俺に感謝状を贈呈。
 そして、内閣総理大臣と握手しているところをカメラで撮影して次の日にでも放送するんだろう」
「それのどこが悪いのよ、何も問題ないじゃない」
「大ありだよ。感謝状を受け取り、二人で握手しているシーンを撮影されれば、
 俺たちと日本政府がタッグを組んで復興にあたっていると視聴者に思わせることができる。
 青俺の名案から始まって、俺たち全員の意思で復興支援をしてきたんだ。
元から感謝状を貰うつもりでやってきたわけじゃない。
にも関わらず、何もしていない日本政府と一緒にやっていると思われるのは御免だね。
メンツが立たないから感謝状を贈呈するという形で自分たちの方が偉いんだと全国に放映する気だろう。
やるなら、感謝状の受け取りを拒否した文面を報道陣に送りつけて、再度記者会見を開くまで。
俺たちを利用しようとした日本政府の信用をガタ落ちにしてやるよ」
「日本政府の人間もそうだけど、あなたもよくそこまで頭が回るわね。
 実戦じゃなくて将棋で勝負してもらいたいくらいよ」
「なるほど。言われてみれば確かにその通りだ。私も危うく便乗するところだったよ」
「ですが、我々が動かずとも受け取りを拒否したことについて報道陣が押し寄せる可能性が高いですね。
 前回と同じ場所で記者会見になりそうです。
 僕も感謝状を貰うより仙台がSOS Cityと名前が変わる方がよっぽど嬉しくなりました」

 

翌日、圭一さんには仙台市長へ名前の件は快諾したことを伝えてもらい、
ついでに、市役所と宮城県庁も駅の近くにビルを建てるからそこに入ってもらうように連絡。
さらに出来る限りの支援をするので市民の声を聞き入れて欲しいこともプラスした。
俺たちが町の復興をするにあたって見逃している物もあるかもしれん。
盛岡と福島の市長にもOKだと伝えた。既に駅周辺の土地はW古泉で押さえているので
昨日のうちにハルヒを連れて建物を一掃、シートを被せて完成日は未定とした。
因みに市民の建物は全てツインタワービル。
青朝比奈さんから聞かれた通り、ペットOKの棟とNGの棟に分けるというだけ。
今度の記者会見で聞かれるかもしれんな。
シンガポールのホテル上空のプールをツインタワーにも作りたかったが、維持コストが大きすぎるので却下。
あとは、感謝状贈呈を拒否する旨を伝えて通常通りの営業。
ENOZもCDが出来上がる度に自ら全国にビラ配りに回り、曲を流しながらCDの販売。
ファンからサインを求められたらしい。また全国でライブをやらないとな。
SOS団の楽曲の半分はENOZのものなんだ。ENOZが歌っても文句は言われないだろう。
夕食時、ビラ配りから帰ってきた面々やビル内で仕事をしていたメンバーが集まってきた。
「そろそろENOZの曲も充実してきたし、SOS団とENOZで同時ライブと思っているんだがどうだ?
 それに、God knows…やLost my musicはENOZの手掛けたものだからな。
 SOS団で演奏するんじゃなくてENOZでやってみるのも悪くないと思うんだが…」
『ライブ!?キョンパパ、わたしもライブみたい!!』
「双子に先越されちゃったけど、やらないわけないじゃない!
 バレーの合宿も無いし、復興支援の方も今はあんたと有希が動けばいいくらいだから問題ないわよ」
「ならば、反対意見なしということでよろしいでしょうか?
 すぐに全国の会場を抑えることにします。その後は頼みましたよ!」
『問題ない』

 

『キョン、テレビつけてみろ。ニュースで面白いことやってるぞ』
面白いことってなんだ?…まぁいい。見ればわかる。
テレビのリモコンをサイコキネシスで遠隔操作、ザッピングしながらジョンの言っているニュースを探した。
「キョン君、いきなりテレビなんかつけて何かあったんですか?」
「多分、ジョンが何か見つけたんだと思うよ。何が出てくるか楽しみだ」
というわけで、全員の視線がテレビに集中。すると、仙台市長が記者会見に出ているVTRが流れていた。
仙台市をSOS Cityと改名する旨を発表し、駅の名前も東京スカイツリーのように書き換えるらしい。
圭一さんについでに連絡をお願いしたことも発表され、SOS Cityの名前の石碑を市役所前に置くと発表。
我が社に名前の変更の許可も貰ったと話していた。
「まさかもう記者会見しているなんて思わなかったわよ。
でもこれで本当にSOS Cityができちゃったわね。わたし達の地元じゃないのが残念だけど…」
「だったら、地元の土地を買い取って僕たちの会社のビルをいくつも立てていけばいいんじゃないかい?
 こっちは復興じゃなくて発展になるだろうけどね」
「佐々木の案も悪くないな。北高の位置をもっと近場にしたりとかな」
確かにあの早朝ハイキングコースを三年間歩いてきた面々が勢ぞろいしているだけあって、
OGもENOZも表情が曇っていた。おっと、青ハルヒと青古泉は二年か。
俺がつれてきたとはいえ、よく転校してくる気になったもんだよ、まったく。
そういえば、大人版朝比奈さんやプリンセス朝比奈さんがいるあのタワーは一体いつ出来たんだ?
未来に行って聞いても「禁則事項です」と言われるのがオチだろうが、俺たちで建ててしまうのも悪くない。
ただ、何の目的でタワーを建てるのかはっきりしていないと…青佐々木の意見も通らない。
「ダメだわ。地元を発展させようと思ってもいい案が浮かんでこないわよ」
「北高を移動させるには流石に無理がありますね。あの位置は条件が悪すぎます」
「今は復興が最優先だから地元の発展は何か思いついたらでいい。それよりキョン。
 この子のランドセルと学習机を買いに行きたい」
幸も来年度から小学校。双子もそれに続くことになるが…学習机か。どこに置くか迷うな…
いっそのこと和室を無くして双子の部屋を作るか…ベッドも一つずつ並べて天蓋付きにして…
「…ョン!キョン!また一人で考え事して…
あんた、青有希ちゃんがランドセルと学習机の話を切り出してから何も聞いてないでしょ!?」
「ん?ああ、双子もいずれそうなるからな。部屋の間仕切りをどうしようか考えていたところだ」
「とにかく、明日異世界に行ってあたし達も見に行くわよ!」
「了解。それなら有希もついてきてくれ。青チームの皆の家の掃除もしてこよう」
「わかった」

 

というわけで、青俺&青有希&幸の三人と、
俺&ハルヒ&有希&双子の五人の二世帯で家具を見に行くことになった。
W有希とハルヒが子供を乗せているので六人乗りのワゴン車で十分。
青俺が運転をと言ってきたが、ついでに実家に行ってくればいいだろうからと俺が引き受けた。
運転するのも久しぶりだしな。
W有希もハルヒも子供たちの「あれなあに?」に一つずつ答えていたが、覚えきれるわけがない。
『キョンパパ、この机で何するの?』
学習机を一つずつ見ながら双子の疑問に答えていた。
「これを使って勉強するんだ。二人とも自分の名前書いたり、ABCの歌を歌っただろ?」
保育園に行かせてから大分経っているからな。忘れているかと思ったが、目を輝かせている。
「キョンパパ、キョンパパ、みくるちゃんみたいにキーボード弾きたい!」
「あー伊織ずるい!わたしも弾く!」
もっと手が大きくならないととは思ったが、二人で弾けば何曲か弾けるかもしれん。
「なら、二人で弾いてみるといい。まずは『ねこふんじゃった』からかな?」
『くまさんも弾く!!』
結局三人とも学習机もランドセルも決まらずじまい。青俺の実家に三人を連れて行き、
ハルヒと双子は99階でキーボードで遊び、俺と有希は青チームの家の清掃。
三人は夕食までには戻ってくるそうだ。

 

清掃が終了次第有希と二人で戻って夕食作り、青俺からのテレパシーを待って夕食。
そろそろ子供たちに箸の使い方を教えてもいい頃だなどと考えていると
幸が一向に食べようとせず、頭を悩ませている。
「ママ、おじいちゃん?おばあちゃん?」
幸の発言に俺の両親が驚愕。幸に指をさされている。
「似てるけど、二人は伊織と美姫のおじいちゃんとおばあちゃん」
「似てるってなあに?」
「パパと伊織パパと同じ。違うところがほとんどない」
「パパと伊織パパ?」
「そう。二人ともよく似てる」
「パパと伊織パパ似てる!」
微笑ましい青有希と幸の会話だったが、『似てる』の意味が本当に分かったんだか…
そこへエレベーターから圭一さんが降りてきた。
「どうやら感謝状を断ったことがもう漏れているらしい。前と同じ会場に記者会見で来て欲しいそうだ」
「妙だね。僕はてっきり数日はかかると踏んでいたんだが、キョン、キミはどう思っているんだ?」
「考えていたことは同じらしい。漏れたんじゃなく漏らしたと考えるのが妥当だろうな。
 断ったことで報道陣に我が社を叩かせるつもりなんだろうが、
そうやすやすと向こうの思い通りにさせるつもりはない。
人事部にあまり負担をかけるわけにもいかないしな。明日、記者会見に出るよ」
その夜、双子と一緒に風呂に入ってから三人でキーボードの練習。
基本のドレミファソラシドを教えて、二人の人差し指を持って曲を弾かせてみせる。
ドレミの歌、ねこふんじゃった、森のくまさんの三曲を弾いたところで
『キョンパパ、もう一回!』と声がかかる。
「ドーナツが食べたい」などとまた言ってくるかと思ったが、二人とも曲を覚えるのに必死なようだ。
結局眠くなるまで付き合わされたが、最近はちゃんと『おやすみなさい』と言ってから寝るようになった。
双子の部屋と学習机は俺が作ることにしよう。

 

翌朝のニュースは仙台市の改名と感謝状の件、それにツインタワーから出てきた人たちのインタビューか。
全部記者会見で聞かれるだろうし、その時に答えればいい。
エレベーターから降りてきたハルヒが双子を連れて出てきた。
『キョンパパ、あれなあに!?ベッド!?わたしのベッド!?』
朝からハイテンションだな…。まぁ寝ている間に天蓋付きのベッドに変わっていれば誰だって驚くか。
シングルベッドを二つ隙間なく並べた状態で、寝相が悪い二人のために外側には柵をつけておいた。
色も伊織は水色、美姫はピンク色にしておいたが、この反応を見る限り大丈夫そうだ。
「二人とも大きくなってきたからな。これから色んなものが増えていくし、
 みくるちゃんみたいなモデルさんになるのなら服も何を着るか考えないとな」
『服?キョンパパ、服欲しい!』
「なら、ママにデザインしてもらった服を俺がたくさん作ってやるよ」
「伊織パパ、わたしもベッドと服欲しい!」
ベッドなら青俺でも情報結合出来る。服はハルヒと有希に考えて貰えばいい。
「じゃあ、三人とも自分で着替えられるようにしないと服作ってもらえないぞ?」
『わたしに任せなさい!』
三人揃ってWハルヒの真似をした。本人たちも目を丸くしている。
有希の「ずるい!」も既にインプットされてしまっているしな。
三人揃って『問題ない』なんていうのも時間の問題かもしれん。
幼児向けの服を売り出すのも悪くないかもしれんな。もっと早く気がつくべきだった。
今日は記者会見があるくらいであとは特に目立った議題もない。シートもまだ外せないところが多いしな。
昼食を作り終えて時間まで人事部で電話対応に向かった。

 

会場となる建物までは前回と同様古泉がリムジンを運転してくれた。
「あなたなら問題ないでしょうが、上げ足を取られる恐れもあります。発言には十分お気をつけて」
古泉に背中を押されて会場へと足を踏み入れた。座ってすぐに記者からの質問がとんできた。
「キョン社長、日本政府からの感謝状の贈呈を断ったとお聞きしましたが、一体何故そのようなことを?」
「確かに、感謝状の贈呈という連絡が来たときはそれを喜んだ者も多数おります。
 ですが、我が社の行っている復興支援プロジェクトはまだ始まったばかりです。
 SOS Cityについては大分安定してきましたが、
他の地区についてはまだ何も着手できておりません。
被災地の全ての復興が終わってからならまだしも、
今の段階で贈呈すると言われても受け取れないと判断しました。
加えて、どんなに名誉ある勲章を頂いたとしても、我が社にとっては一切価値がありません。
 日本政府には我が社への感謝状の贈呈などをする前に考えるべきことが山積しているはずです。
 断言します。SOS City、盛岡、福島の三地区をあと三年で復興してご覧にいれましょう。
 各地区の元市民の皆様、そして前回の会見で挙げた資格を持った方や専門職の方々、
 さらに大手チェーン店の皆様には我が社の復興支援に是非ともご協力いただきたいと思います。
 必要な建物については全てこちらで建築させていただきます。どうぞ宜しくお願い致します」
「キョン社長、どの地区も全て70階のツインタワービルを建てると聞いたのですが、
何故全てツインタワーにしたのですか?何か理由があるんでしょうか?」
「簡単なことです。ペットOKの棟とペットNGの棟に分ける。それだけです。
 震災で親族を無くし、ペットだけが心の支えになっている人も大勢いると考えた次第です」
「SOS Cityに移り住んだ市民から、最新家電が備え付けられているのに、
エアコンがないという声が多数ありました。
そこまで綿密に考えられているのにエアコンだけ取り付けし忘れたとは到底思えません。
どんな意図があるのか説明していただきたいのですが」
「ツインタワーに移った方々よりも、この会場に集まった皆さんの方が実感しているはずです。
 ハリウッドスターの来日、シーズンの度に我が社を訪れて下さったバレーの日本代表の方々、
 そしてそれを取材、報道しようと我が社へ入ってきた皆さん。
ここまで聞いて、どなたかお気づきになりませんか?……仕方がありませんね。
本社もツインタワービルも我が社独自のシステムで建物内全ての空調を管理し、換気機能が備わっています。
どちらも常に19℃設定されており、夏は涼しく、冬は暖かくなるよう配慮しています。
言うまでもありませんが、その温度はいつでも操作が可能。ビル内で暮らす人々に合わせるまでです」
疑問に思っていたことが全て払拭されて納得の表情をしている。司会者が、
「他に無いようであれば、記者会見をこれで終了したいと思います。キョン社長ありがとうございました」
席を立ったあとに一礼して会場を去った。

 

『おかえり~』
前回同様皆で見ていたらしいな。「どうだった?」などと聞く必要もなさそうだ。
夕食の支度にとりかかることにしよう。
「明日のニュースが楽しみだわ。日本政府もあれだけバッサリ斬られたんじゃ文句のいいようがないわよ!」
「ええ、間違いないでしょうね。報道陣の眼が全てそちらに向きましたから」
「でも、大丈夫なのかい?三年で復興するなんて断言してきて」
「問題ない。どの地区もツインタワービルが既に完成している。
後は学校やチェーン店を入れられる建物を作っていけばいいだけ」
「なら、わたしたちのライブが先になりそうね。
日程を冊子やサイトに載せないといけないし…いつやるのかしら?」
「今週の土曜、さいたまスーパーアリーナでのライブを皮切りに
毎週土曜日は日本各地でライブをすることになります。
年末年始は出来ませんが、バレー合宿の始まる前の一月最後の土曜日までこちらで抑えました。
今週、来週の分のチケットは全て販売されています。有希さんがサイトに載せてくれましたよ」
『毎週ライブをする―――!?』
もはや全員の頭の中に復興の文字は消え去ったと言ってもいいようだ。
SOS Cityのときはライブ会場を作るのも悪くないな。
他のアーティストのライブやプロ野球で使うことになるだろう。
「古泉君も有希さんも今まで黙っているなんて酷いです。わたしちゃんと演奏できるかどうか…」
「僕も同じだよ。心の準備をする時間くらいは取って欲しかった」
「黄あたし、お願い!あたしにも歌わせて!」
「それは別にいいけど…ミスしたら即交代だからね!」
「涼宮さんがそういうなら…ダンスだけでも代わってもらおうかしら?
 ほとんど何もしていないわたしがサインするなんてなんだか申し訳なくて…」
「佐々木、おまえはどうするんだ?」
「まったく、キミって奴は……無茶を言わないでくれたまえ。
何度も演奏している黄僕ならまだしも、僕だって心の準備をする時間が欲しい」
ENOZも驚愕の事実をまだ飲みこめていないようだが、次第に暴れがいがありそうだという表情になっていた。

 

前回と同様、夕方のニュースで記者会見が放映され、
そのあとツインタワービルに住んでいる人たちにインタビューしたらしい。
翌朝のニュースでは、
「あの記者会見を見てようやく納得ができました」とコメントしていた。
報道陣は本社前には一人もおらず、政府のところへ行ったらしいな。
消費税減税のデモが起きていると報道していた。
新聞記事の方はと言うと、『キョン社長 日本政府をぶった斬り』や『三年で復興させると断言』など
これで後には引けなくなったが、こちらからすれば三年も待たなければならないと言った方がいい。
あとは市民の引っ越しとニーズに応じて建物を建造していけばいいだけ。
人事部も俺への取材の電話よりも新川さんのディナーの予約、各チェーン店からの依頼、
被災地の市民から戻りたいという旨の連絡が多くなりそうだ。
しかし、昨日の朝比奈さんのセリフじゃないが、古泉も有希も黙ってないで早く言って欲しかった。
チケットは全て売れたらしいが子どもたち三人分の席は用意してあるんだろうな…
ニュースの内容を全員に話して納得の表情。朝食後、古泉がヘリでOG達とビラ配りに飛び、
SOS団+ENOZ+青ハルヒ&青朝倉&青佐々木でライブの打ち合わせが行われた。
今回はENOZの出番を増やしSOS団はCM曲の中から曲をチョイスし順番を決めた。
最後のダンスをやったところで、アンコールはENOZの新曲。
全てのライブを有希が本社の大画面で生中継するらしい。
子どもたちも楽しみにしているんだ。最高に盛り上げてもらう事にしよう。
その日から政治家たちが報道陣に囲まれるニュースが相次ぎ、
俺たちが復興支援に乗り出してくるとは思っておらず、
「それまで復興のために使う予定だった資金をどうするか検討中」とのこと。
記者の一人が「キョン社長は次の策にもう出ているんですよ!」なんて言葉を吐いて
それにイラついている政治家が見てとれた。

 

最初のライブの日、さいたまスーパーアリーナの中央にステージを作り、
その後ろを四つの大画面が正方形を模るように置かれた。その内部がハルヒたちの待機場所。
古泉は既に抑えておいた特等席に座り、その隣に俺、伊織、美姫、青俺、幸、青有希と並んだ。
場内の照明が消えスポットライトに照らされたステージを見て観客がざわつき始める。
足元からSOS団がゆっくりと登場し、大画面にその様子が映される。
因みにテレポートしたのは俺ではなく青ハルヒ。
「試しにやってみたくなったのよ!」と言って81階でやったら本当にできてしまった。
毎度毎度センスの良さには呆れるよ、まったく。
SOS団の曲が終わった後、ハルヒのMCでSOS団とENOZが総入れ替え。
ENOZの曲を全曲演奏したところで、ハルヒがテレポートで現れてマイクパフォーマンス。
「SOS団がデビューした頃の楽曲は、ほとんどENOZから提供してもらったものばかりです。
 今日はその楽曲を手掛けた本人たちに生演奏をしてもらいます!是非、聞いてみてください。
 それではっ!ENOZでGod knows…」
曲名を言い終えてすぐハルヒはテレポート。
有希と同等かそれ以上のギターテクニックに加え、楽曲を手掛けた本人にしかできないアレンジ。
これまでのライブでは見たこともない。俺の横に座っている子供三人もハルヒのライブだけでなく、
ENOZのライブにも見惚れているようだ。
「なぁ、古泉。今後のライブは俺がいなくてもいい気がするんだが…
 ダンスのバックバンドもENOZでいいんじゃないか?」
「確かに、ステージの設営は有希さんに任せてテレポート関係はハルヒさんたちに任せれば、
 あなたの言う通り我々はもう必要ないかもしれません。
ですが、ダンスのドレスチェンジや子供たちの面倒を見るという仕事が残っている以上
離れるわけにはいかないのではないですか?
それに、彼女たちのライブを見ると仕事の疲れなんて吹き飛んでしまいます。
 あなたも子供たちも同じだと思っていましたが…違いましたか?」
そう言われれば確かにそうだが…今回はバックバンドで演奏するが、
次回からはENOZにバックバンドになってもらおう。
ドレスチェンジもハルヒなら全員分早着替え可能だろうな。今度女性陣だけで練習させることにするか。
『キョンパパ!みんなのライブ凄い!わたしもみんなみたいになる!』だそうだ。
アンコール曲はENOZの新曲で締めくくり、ライブツアー初日を終えた。

 
 

…To be continued