500年後からの来訪者After Future1-3(163-39)

Last-modified: 2017-05-04 (木) 10:37:37

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future3163-39氏

作品

翌日、ニュースは政治家へコメントを求める報道陣と消費税減税のデモ。俺たちを利用しようとした罰だ。この前の古泉の話じゃないが、精々上げ足とられないようにな。朝食を作り終える頃には全員が揃い、幸が双子に「わたしもベッドになった」と報告していた。ライブ中に古泉と話していた案をENOZとSOS団に話したところ、
ENOZのボーカルがそのままキーボードに移るだけですんなりOKが出た。
「そういえば、今まであんたにドレスチェンジを任せっきりでそのこと考えてなかったわ。何度か練習すれば問題ないわよ」
とハルヒも承諾してくれた。あとは双子の面倒を見ていればいいだけだな。この件については以上。
「次だ。ツインタワーの住民の足をこれから作っていきたい」
『足?』
「ああ、線路はJRが直したが、車道はまだ復旧に至ってないはずだ。丁度日曜日だし、俺がこれから向こうへ行って館内放送をかける。住民には所有していた車のナンバーを書かせて、それをサイコメトリーして俺が車を作る。住民の中にも農家をやっていたが機械も家もボロボロで前の仕事ができないでいる人もいるだろう。工場で働くような人も一緒だ。作業場を復旧してもそこまで行く手段がないと仕事にならん。そういう人たちのための車だと思ってくれればいい。前にも話したが、以前と同じ利益が得られるようになるまでは我が社で給料を支払うつもりだ。 それに合わせて車道の修繕をしていくことにする。古泉と有希で破損している道路をサイコメトリーで見つけて復旧していって欲しい。水道管が壊れているところがあればそれも全てだ」
「わかった。それはわたし一人で十分。古泉一樹、あなたは農家の機械を用意して」
「なるほど、足とはそのことでしたか。分かりました。では、それに加えてツインタワービルの住民の前の住所をリストアップしておきましょう。土地の権利書は災害でなくなっているでしょうし、ボロボロの家を破壊して構わないのであれば、それについてはハルヒさんたちに任せて、その敷地も畑にするだけです」
「なら、ついでに海岸沿いにまとめて捨ててあるガラクタも一緒に破壊して回ってくれ。規模が大きくなるにつれて漁業の方も復興していくつもりだ」
『あたしに任せなさい!』
『キョンパパ!キョンパパ!わたしは?』
珍しい。双子が会議に割って入ってくるとは思わなかった。まぁ、今のセリフを真似したいんだろうな。幸も真剣な眼差しで俺を見ていた。
「幸も含めて、99階でキーボードの練習だ。ライブやるんだろ?」
『わたしに任せなさい!』
ものの見事にトレースして見せた。
「三人ともそのセリフが気に入ったみたいですね。ハルヒさんたちにそっくりです!」
『みくるちゃんみたいにキーボード上手になる!』
朝比奈さんはサイコメトリーなんだが…まぁ、いいか。
「次だ。復興支援をしているのが我が社なだけに、ファッション関係の会社がツインタワー周辺に店を構えることを躊躇っている可能性が高い。だが、子供服やランジェリー、40代以降の服を扱っているような店には来てもらいたい。俺たちと同じ価格で服を提供している大手チェーン店や靴専門店も必要だ。青古泉、建物をこちらで用意するから店舗を構えてほしいと伝えてくれ。車の復旧に伴ってガソリンスタンドも何か所か作る必要がある。それも頼む」
「わかりました」
「俺からは以上だ。他に何も無ければ今日も一日よろしく頼む」
『問題ない』

 

片付けは朝比奈さんが担当し、俺はその横で昼食作り。終わったところでツインタワービルの一階、我が社の店舗仙台一号店のレジ奥にテレポート備え付けておいた館内放送でビルの全住民に内容を伝えた。
「ツインタワービルにお住まいの皆様、おはようございます。SOS Creative社 社長のキョンです。今日は皆様にお知らせがあり、館内放送をさせていただきました。その内容は、皆様が以前使っていた車を我が社が全額負担で用意することが決定しました。一階の警備員に申込用紙を預けてありますので、部屋番号とお名前、車のナンバーを記載していただければ、週末までには地下駐車場に全車両用意させていただきます。我先にと慌てる必要はありませんので、時間の空いた時に来て頂ければ結構です。今日中にお申し込みください」
防音設備を完備しているから声は聞こえてこないが、各階を透視すると家族で喜んでいるようだ。しばらくもしないうちにエレベーターが動き始め、それぞれの世帯主が必要事項を記入していた。さっきのガソリンスタンドも含めて働く場所も色々と用意しなくてはならん。今夜にでも駅の反対側にでかいシートを張っておこう。昨日のライブ会場じゃないが、『SOSスーパーアリーナ』なんて名前でどうか市長と相談しに行くことにしよう。会場の警備員や清掃員として働いてもらえるといいだろう。今日中と伝えたが夕方には全ての部屋から申請が来ていた。当然複数の車が必要なところもある。『一台しか用意できない』と言うより『二台申請したら本当に用意してくれた』の方が住民も喜ぶだろう。

 

その日の夜からリストをサイコメトリーして車を情報結合し、上層階に住む人の駐車場が地下五階になるように配慮。車のキーを差し込んだ状態で駐車し、金曜の夜には全て用意ができたと館内放送で伝えた。その間、進捗状況を伝えるべく、市長にアポイントを取って会いに行くと、既に報道陣が集まっていた。住民に車を用意したことやライブ会場の名前こと、その他細かなことはいくつかあったが、報道陣のいる前であまり話さない方がいい。最後に市長と握手を交わし、市役所を後にした。明日には放送されるだろう。こういう対等な握手ならいくらでもしてやるさ。その後、各国の新店舗を建築しながら、SOS City駅を中心とした高層ビルを建築。十一月中旬に第二ツインタワービルのお披露目となり、第一ツインタワービルと同じく、ビル内のパート、アルバイト、警備員などを募集、同様に車も用意した。
「こっちのビルもやっと惣菜の味付けをマスターしてもらえたわよ」
なんてハルヒが言っていたが、ハルヒや青有希を向かわせずとも、第一ツインタワービルの人を移動させれば済むことに後から気付いた。テレビのニュースでは俺たちと比べられて政治家は何もしていないと批判され、次々に辞職していく政治家たちを報道。
「今の体制では日本は成長、発展することが出来ない」
などと表向きはもっともな理由を掲げているが、単純に責任を負うことから逃げただけ。その後はニュースのコメンテーターとして我が社と政府のことを話題に挙げていたが、俺から言わせれば、おまえらの方が責められるべき側の人間だ。消費税減税のデモがあちこちで起こっていたが、政府は
「完全に復興が終わるまでは下げることは出来ない」
の一辺倒。『完全に』復興なんて無理な話だと分からんのかねぇ。死んだ人間は生き返らないんだよ。

 

各地でのライブも順調に進み、そろそろ地元でのライブのチケットが売り出される頃、
「ねえ、キョン。地元でやるんだったら、北高生全員呼ばない?もう卒業しちゃっているけど、バレー部だった子たちも一緒に。できれば…みんな制服がいいな。一緒にダンスしたいし」
おまえ…北高は一学年だけで九クラスあるんだぞ…どうやってライブ会場に連れていく気だよ…。
「おや?折角の彼女の提案を無碍にしてしまうのですか?我々でバスを手配すれば問題ありません。あとは当日にハイキングコースを下り終えたところに全校生徒を集合させれば簡単です」
「あのな、青チームの世界と違ってこっちは一学年に九クラスあるんだぞ?大体、教員がそれをOKするとは到底思えん」
「では、僕の方から岡部教諭に話してみましょう。佐々木さんを除いて全員北高卒業生ですからね。卒業生のライブなら管理職も動くと思いますよ?特等席は全て北高生で埋めることにします。移動についてはあなた一人で全て解決ですよ」
W古泉でそう言っているが…俺一人で解決ってどういうことだ…?
「妙ですね。こういうことに関しては一番頭の回るあなたが、なぜそこまで困惑しているんです?一台のバスに全てのバスの運転手を乗せて、残りはバスをキューブに収めてしまえばいいだけです」
なるほど、二、三台ずつ元の大きさに戻してライブ会場までってことか。
「わかった。ならついでにバスの側面をSOS団とENOZのものに変えてしまおう。あとで元に戻せば問題ないはずだ。北高への連絡は任せた」
『バレー部の後輩たちにはわたし達で連絡しておきます!』

 

「お忙しいところ失礼します。わたくし、北高の卒業生で現在SOS Creative社の副社長をしております古泉と申しますが、岡部教諭はお手隙でしょうか?」
「あら、日本の貢献者がどういった御用かしら?ちょっと待ってね」
「おお、古泉か!運動会で声聞いて以来、久しぶりだな。元気してたか?」
「お気づかいありがとうございます。今日は折り入って先生にご提案させていただきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「提案?先生にか?」
「ええ、今、北高卒業生のSOS団とENOZが全国ツアーをやっておりまして、我々の地元でライブをやるときは先生方も含めて全校生徒に見に来ていただけないかと思い立った次第です。勿論、特等席のチケットと移動の際のバスは全てこちらで手配させていただきます。仙台市がSOS Cityになってから我々も地元をもっと発展させたいと思っているのですが、なかなかいい案が出せずにいるところに、ハルヒさんが北高生全員を無料で招待して、できれば制服で一緒に踊って欲しいと言っているのですが、いかがでしょうか?集合場所については北高ではなく、ハイキングコースを下った所にしようと考えています」
「無料でライブが見られるなら生徒も喜ぶだろうが…バスが20台以上並ぶことになってしまうぞ?」
「心配いりません。彼の拡大縮小マジックでバスを小さくして集合場所に向かうだけです。あとは拡大させた車に全校生徒を乗せて頂ければ問題ありません」
「なるほどな。わかった、校長に相談してくる。ちょっと待っていてくれ」

 

『全校朝礼で生徒に連絡する――――!?』
「ええ、バスのことを心配されていましたが、彼の拡大縮小マジックのことを話したら、すぐにピンときたようです。全て無料の上に北高卒業生の勇姿が見られるのならと言っていました。雑誌や服の販売は勿論ですが、CM、ドラマ出演、バンド、復興支援と幅広くやっていますからね。教師陣にとっては理想の先輩像として我々の事をとらえてくれているようです」
理想の先輩像って…そりゃあ進路指導としては絶好機会かもしれんが、ジョンも含めて俺たち以外不可能だろこんなの…誰が欠けてもここまでには至らなかっただろうな。
『そう言ってもらえると嬉しいね。久し振りにステージに上がってバックバンドやったらどうだ?』
馬鹿言うな。サイコメトリーでの演奏より、練習に練習を重ねてきた痺れるほどのバンド演奏なんだ。俺の入る余地なんて最初からない。
「だったら、見ているあたし達も北高の制服にしない?こっちの佐々木さんは違う制服になっちゃうけど」
「わかった。全員分の制服を用意する」
『有希お姉ちゃん、わたしも制服着たい!』
最近会議に口を挟むことが多くなってきたが…有希もさすがに妹の頼みは断れんだろうな。次に出てくる言葉は決まってる。
「問題ない」
地元でのライブ当日、俺が制服を着るのはライブが始まってからでいいとして、早めの夕食を全員で食べ、古泉と青朝倉は打ち上げの準備に入った。頃合いを見計らってバス会社へ向かい、側面をSOS団とENOZのものに張りかえ、一台を残して、残り全てのバスを縮小、全てのバスの運転手を乗せて生徒の集合場所へと向かった。俺が降りただけで歓声と拍手が上がる。嬉しいが、やっぱり恥ずかしい。その後もバスを拡大するたびに拍手が上がり、道路を走っている他の車をイライラさせることなく最後のバスに乗り込んで会場へと足を運んだ。

 

会場の案内は全て古泉が先陣を切って誘導。俺が着く頃には北高の制服を着た生徒がステージ前を独占。他の席の客がざわついている。卒業生が混じっていてもおかしくないだろうな。国木田も来てるやもしれん。テレポートで再前席に座り制服に早着替え。有希が採寸した制服を着た子供たち三人が大喜びしている。
『キョンパパ、キョンパパ。ハルヒママのダンス踊りたい!』
「なら、今日は真似して一緒に踊ってみろ。来週のライブまでDVD見ながら練習するぞ」
『幸も一緒がいい!』
「じゃあ、三人でローテーションな。みくるちゃん役は幸に譲って、ハルヒママ役と有希お姉ちゃん役をちゃんと決めておけよ?」
『わたしがハルヒママ!』
おっと、意見が被ったな。こういうときのためにレクチャーしておいてよかったよ。
「じゃあ、じゃんけんで勝った方がハルヒママ役にしよう。負けても文句は言わない。二人ともそれでいいか?」
『問題ない』
とうとう「問題ない」まで使いこなしやがった。とはいえ、それを言うならどちらが有希役でも別に構わないと思うんだが…まぁいいか。結果、ハルヒ役が美姫、有希役が伊織となった。美姫には黄色いカチューシャに団長の腕章を、伊織にはカーディガンを着せて準備OK。帰ったら本人たちも吃驚するだろうな。会場内が暗転しステージが照明で照らされる。これまで通り足下からテレポートして登場してきたハルヒたちを見て歓声が沸き起こる。北高の生徒の反応はどうかと思って後ろを振り返ると既に総立ち。発案はハルヒだが、招待してよかったな。全国ツアーの度に呼ぶのも悪くないかもしれん。地元なだけあってSOS団もENOZも気合い十分。
「仙台がSOS Cityになったのはあたしたちも驚いたけど、地元もどんどん盛り上げていくわよ!」
というハルヒのマイクパフォーマンスに観客はさらに熱狂し、ライブは大成功と言っていいだろう。子供たちもサビの部分はダンスが難しくてよく分からなかったようだが、それ以外は見様見真似で踊っていた。アンコールの叫び声が会場中に響き渡る中、新作ダンスの衣装へとドレスチェンジした古泉に北高女子からの黄色い声援があがった。ハルヒが白馬の騎士と例えたくらいだからな。男性誌でもモデルとして何ページも古泉が載ってるし、次は古泉のファンクラブができるやもしれん。まだライブで見せただけでTV番組には出てないからな。後片付け、清掃、子どもたちの面倒見を古泉たちに任せて北高生を乗せたバスと一緒にハイキングコースの出発点まで戻り、全員降りたところで、バスの側面を元に戻し、キューブ化。北高生もバス一台ごとに『ありがとうございました!』と言って帰っていった。みんな満足気な表情で俺も何よりだ。

 

バス会社にバスを全て送り届けたところで、俺が本社へと戻る頃には既にパーティが始まっていた。三人ともみんなから何か言われたらしいな。椅子の上ではしゃいでいる。だが、ジュースだけで物足りなさそうだ。内緒で買って来ておいてよかった。三人の目の前に箱を置いただけで中身が分かったらしい。
「キョンパパ、早く中見せて!」
ご期待に添えるとするか。青有希に幸を連れて来てもらって中身を見せた。しばらくの間のあと、『これ!』と両手で別のものをそれぞれ指差した。じゃんけんで争うことにはならなかったものの、こいつら…二つもドーナツを食べるらしい。さっき早めの夕食を食べた筈なんだが…まぁ、いいか。
「どうやら、ハルヒさんの案が功を奏したようですね。僕も地元の発展については何をどう変えていけばいいのか未だにわかりませんが、現役の北高生も全員盛り上がっているのを見て安心しましたよ」
「フフン、当然よ!この調子で全国回るんだから!」
「問題ない。ライブはわたしが必ず成功させる。それに年末の番組出演も」
「あわわ…有希さんに言われるまですっかり忘れてました。キョン君またお願いできますか?」
大人版朝比奈さんになってもこういうところは変わらないらしい。なら、SOS団とENOZと俺で10人分の食事を用意する給仕係と朝比奈さんのサポートだな。そう言えば、ジョン、今年のパフォーマンスどうする気だ?
『それなら心配いらない。もう考えてある。キョンも楽しみにしているといい』
宇宙に連れて行ってからジョンに任せっきりだしな…俺も何かとは思っているんだが…何も思い浮かばん。

 

翌朝、俺も人の事は言えないんだが、パーティに参加した全員が81階で目覚めることになった。酔いつぶれたではなく眠気に負けたからだが、子どもたちもドーナツを食べて満足気に寝ていたし、よほど制服が気に入ったらしい。朝食ができたから三人を起こしたんだが…着替えようとしない。
『今日はこの格好でダンス踊るの!』
だそうだ。今日は99階でダンスの練習に付き合わされるらしい。踊っている本人たちに聞くのが一番いいんだが…有希の言う通り、年末の番組出演と年越しパーティ以外はほとんど仕事がなくなった。年越しパーティは向こうから連絡が入ったところでハルヒとテレポートすればレッドカーペットが待っているし、その直前まで仕込みができるから古泉に手伝ってもらう必要もない。雑誌は一応確認しているが気にする必要もないし、各国の服も全店舗すぐに用意できるようになった。バンドはハルヒと有希、ENOZで完璧に仕上げてくるし、復興支援についても日が経つのを待つだけだ。たまには子供たちとずっと一緒にいるのもいいだろう。反転させたダンスが収められたDVDを99階のテレビに映して練習スタート。
『キョンパパ、ダンスが変』
左右反転させたDVDに気付いたか。画面に移っている通りに踊ると同じダンスになると説明して、三人の前で一緒に踊って見せた。ようやく納得したところで練習開始。サビの部分はDVDを止めて一つずつ踊ってみせ、あとは子供たちが覚えるだけだ。ダンスに夢中になっているので踊っている三人を見ながら99階で昼食作り。四人で81階に降りて全員で昼食となったのだが、子どもたちは昼食を一気に平らげて一言。
『キョンパパ、ライブ!ダンス踊りたい!』
「午前中だけでダンスをマスターしたっていうのか!?」
俺が言ったことを分かっているのかどうか定かではないが、三人とも首を縦に振った。仕方なくアイランドキッチンの情報結合を一旦解除。全員座ったままで見られる高さのステージを用意して、俺がハルヒの隣に席を移動したところでミュージックスタート。前奏のダンスを見事に踊って一題目が始まったところでダンスが止まった。
『キョンパパ、止めて、止めて!!』
二人の主張に応えて、曲がサビに入ったところで一時停止。
「何か問題でもあったのか?」
『わたしが歌うの!!』
三人が口を揃え、歌も全部覚えたから自分たちに歌わせろと目でうったえてきた。カラオケバージョンにしてTake2スタート。本人たち同様、ソロパートは各自で歌い、サビに入ると全員で歌っている。次第に踊っている三人を見ていたメンバーも箸が止まり、最後の決めポーズまで踊りきったところで、全員からのスタンディングオベーション。
「これはまいったね。僕たちの方が下手なんじゃないかい?」
「あたしも吃驚だわ。あんたたち、いつの間にマスターしたのよ!?それに歌まで…三人とも偉い!見直したわ!」
『わたし、偉い?』
「そうよ。三人ともよく頑張ったわね。ママも嬉しいわ」
ハルヒと青有希が子供たちを抱きしめ、三人も喜んでいた。

 

翌日、『保育園で皆に見せてくる!』と言って制服とCDを持って颯爽と保育園へと向かっていった。朝の議題も特に無く、ニュースをチェックしているとテレパシーが飛んできた。こんな時間にテレパシーをしてくる奴がいるなんてめずらしいこともあるもんだと思いながら、テレパシーの相手の言葉に意識を傾けていると
『キョン、キミに話したい事がある。青私とも話したけど、ジョンも入れて四人で話したい。キミも仕事が忙しいのは分かってる。短時間でいいから時間を取ってもらえないかい?』
佐々木が「短時間でいいから話したい」なんていつ以来だ…?狐につままれた顔をしながらそれに応える。
『それなら昼食を作っているときに81階に来てくれればいい。ジョンもそれでいいか?』
『俺ならいつでも』
『だそうだ。佐々木、その時間で大丈夫か?』
『分かった。昼食の支度に入ったら連絡して。青私と一緒にそっちにいく』

 

あいつのセリフじゃないが「相変わらず僕を焦らすのが上手いよ」と言いたくなった。ジョンや青有希のような緊急事態でテレパシーを送ってきたわけじゃないだけに、話の内容が気になって仕方がない。午前中は、盛岡と福島の市長にアポイントを取ってツインタワーへの入居とお披露目の日を伝えてくるだけのはずだったんだが…W佐々木との会話が気になって仕方がない。ちょっと早いが昼食の準備に入ることにした。俺のテレパシーに応じた二人がエレベーターから降りてアイランドキッチンの近くの席に二人が腰掛ける。それに合わせて、ジョンが影分身で現れた。
「それで?ジョンも入れて会話なんて飲み会になる度にやってただろうが。いきなりどうしたんだ?」
「キョン、私の存在意義について話したこと覚えてる?」
「ああ。簡潔にまとめると、自分の遺伝子か自らが考え出した理論や概念を後世に残す…だったか?だが、それがどうした」
「結論から言うと…その存在意義を掴むためにSOS団を脱退したいと思ってる」
「『脱退ぃ!?』」
突拍子もない青佐々木の発言にジョンと二人でセリフが揃う。俺も口から言葉が出てしまった。
「おまえ、自ら考え出したデザインがあるだろうが。毎月何着も採用されて全国の人間が見てるんだぞ」
「確かにそれもある。でもね、キョン。それだけじゃ私は満足できないんだ」
まぁ…コイツが満足するような概念や理論なんてちょっとやそっとじゃ確立できないだろうな。
「それで、どんなものなら満足できるんだ?」
「片方は至って簡単。私に子供ができればそれでいいんだからね」
『デザイン課に佐々木さんとキョンの関係のようなウマの合う人間でも見つけたのか?』
ジョンの言う通りだ。遺伝子を残すには相手がいないと話にならない。
「デザイン課でも私に話しかけてくる男性は多いけど、高校や大学のときと変わらない。ちょっと親しくなったらすぐに『好きだ』と私に告げてくる。大学に通っていたときは、SOS団のパーカーやバッグ、ズボンが役に立ったよ。キミが提案してくれて本当によかった」
「だったら誰だ?お見合いでもするつもりか!?」
「キョン……この辺りの勘をもう少し身につけてくれないかい?私にこれ以上言わせないで欲しいな」
………言いたい事は分かった。だが、それではすぐに有希に気付かれてしまう。
妊娠中はバンド活動もモデルもCMも不可能。皆に大きくなったお腹を見せるわけにもいかない。
だからSOS団から抜けたい…か。俺の表情を察知してか、佐々木が話を続ける。
「キミの考えていることが彼女に筒抜けなのは知ってる。私と同じ顔をした、君たちの言う木偶人形は閉鎖空間を解除することができる。もっとも、そのときは閉鎖空間が壊されないようにもう一枚張っていたようだけどね。それから、ハルヒさんと同じ顔をした木偶人形はテレパシーまで盗聴することができた」
「何が言いたい?」
「黄有希さんにキョンの思考を読まれない様にジョンの超能力でガードして欲しい。思考は読まれても、テレパシーまで盗聴することは彼女には不可能ってことさ。私は…いや、私たちはね、キミの遺伝子との配合でないと満足できそうにない。僕だってハルヒさんや有希さんが羨ましい。気付いた時には、キミやこっちのキョンと彼女たちの間に入る隙間すらなくなっていたんだからね」
あのアホの両親を洗脳したことや、朝倉が洗脳されるのを防いたことを考えれば、ジョンなら有希に思考を読まれなくすることが出来るってことか?それより、今の段階で思考が有希に伝わっていたらアウトだろう。
「ジョン、佐々木の言う通りガードすることができるのか?」
『やったことがないから多分としか言いようがない。取り付けてから、しばらく様子を見た方がいい』
「キョン、私の願いを聞き入れて!」
「……申し訳ないが、それは聞き入れられない。有希や朝比奈さん、青ハルヒも気持ちは皆同じなんだ。俺みたいな人間に好意を抱いてくれる人がこんなにいるなんてこの上無いほど嬉しいが、俺はハルヒを選び、今まで双子を育ててきた。おまえの好意を無碍にしてしまってすまない。だが、もう一つの存在意義の方はいくらでも手伝うことができる。W佐々木がSOS団を抜けるとまで言い出すくらいだからな。何を研究するのかとっくに考えてあるんだろ?」

 

俺の言葉に佐々木の表情が曇る。いや、こんな表現では表せない。精神的なショックを少しでも和らげてやりたいが、俺がそれをやってしまうと二人からまたこうやって迫られる。昼食の支度は既に出来上がっている。もう少しで他のメンバーもこのフロアに来るだろう。ほんの少しの時間のはずが、10年ほど経過しているように思えてならない。ようやく佐々木の声が鼓膜を振動させた。
「……やっぱり私たちの予想通りだったようだね。キミなら断ると思っていた。前言を撤回させてほしい。SOS団を抜けるというのは聞かなかったことにして。もしキミが私たちの提案を受け入れてくれていたら、このビルから離れる必要があったからね。でもね、キョン。そっちは諦めるとしても、もう一方の存在意義はなんとしても達成したい」
「で、それが何なのかさっさと教えろ。研究の費用については全部我が社で支払う。万が一大爆発を起こすような危険があっても、内部に閉鎖空間をつけておけば問題ない。おまえらにも既に閉鎖空間をつけてあるし、傷一つ負うこともないだろう。このビルの下層階を使って研究に没頭できるように機材も全部揃えるよ」
「黄チームのメンバーから色々と話を聞いていたからね。ハルヒさんが異世界へ行く理論を構築して、膨大な費用があれば、帰ってくることはできないけど、行くことだけは可能というところまで進展したんだろう?彼女が大学の教授になってもおかしくないくらいの研究をそのままにしておくのは勿体ない。まずはそれを私たちで引き継いで、小型機で行き来できるようにしたい」
ハルヒの例の研究を引き継ぐのはいいが、コイツの場合それだけでは満足できんだろう。
「他に何かあるのか?」と聞こうと思ったところで、青佐々木の話の続きを佐々木が話し始めた。
「あとはジョンが持っているタイムマシンのような時間跳躍の概念を生み出したいと思ってる。勿論TPDDのように時間跳躍をするときにリスクを負うようなことがないようにするつもりだから安心して。それから朝比奈さんが持っている未来との通信手段。あと、キミにも手伝ってもらいたいんだけど、宇宙空間で色々と試してみたいんだ。月に建物を建ててそこで過ごしてみたい。植物に光合成させて酸素が途切れないようにしてね」
宇宙人や未来人、超能力者に異世界人…それだけのメンバーが集まれば面白いと感じるのはハルヒだけではなかったようだ。実際にタイムマシンが存在することを認めなければ、妄想する人間は大勢いても、開発しようとする人間はごく一部。さらに冥王星まで一瞬で行くことが可能なら実験サンプルを持ち帰ってすぐに研究が可能…か。片方の存在意義を俺が無碍にしてしまったときの表情とはまるで正反対の表情をしている。すぐにでもW佐々木専用のラボを作る必要がありそうだ。SOS団を抜ける必要がなくなったとはいえ、デザイン課から有能な人材が二人もいなくなるというのは大きな痛手だが、こいつのことだ。
「たまには僕にもデザインに参加させてくれたまえ」
なんて言い出しかねん。研究で行き詰ったときにでもデザインを考えていればいいだろう。

 

『ちょっとあんた、いつまで考え込んでるのよ!もう皆揃ってるわよ!?さっさとしなさいよ!』
ハルヒのテレパシーでようやく周りに気付いた。既にW佐々木はいつもの椅子に腰かけ、ジョンは姿を消している。
「ああ、すまない。昼食ならもう出来ているから、皿を持ってきてくれ」
人事部の社員も既に揃っていた。昼食後、W佐々木が残ることはなく、そのままデザイン課に降りた。話している間にデザインが閃いたのかもしれん。いい機会だ。未来の朝比奈さんがいるタワーを建造してW佐々木のラボにしよう。食事はテレポートさせればいい。時間通りに戻って来れることの方が少ないはずだからな。建物の構造は最初にあの時間平面上に行ったときに全て把握している。あとは土地を買い取るだけだ。研究員を募集するのも悪くない。ハルヒや俺とは違った部分で佐々木が未来の教科書に載るかもしれん。なんにせよ、あいつが自分の求めていたものにようやく突き進めるようになったのならそれで十分だ。ジョンには俺の思考が有希に漏れないようにするガードを固めてもらった。これで有希が何かしらのアクションを起こせば、俺にかけられた超能力の効果があったということになる。帰ってきた子供たち三人を入れて夕食を食べていると、満を持して佐々木が口を開いた。
「皆、聞いて欲しい。時期は未定だけど、僕たち二人は休職することにした」
『休職!?』

 
 

…To be continued