500年後からの来訪者After Future1-4(163-39)

Last-modified: 2017-05-04 (木) 10:38:03

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future4163-39氏

作品

W有希で作詞作曲した新作ダンスもRPG風の衣装もあってか観客が最高潮にまで盛り上がった。ハイキングコースに北高行きのエスカレーターを設置し生徒手帳が定期代わり。北高のすべての教室に冷暖房が付き、地元の発展に少しは前進したように思える。地元でのライブでは、ハルヒの鶴の一言により、現北高生全員をライブに呼び、 ハレ晴レユカイは全員北高の制服。地元でのライブも無事に終えることができた。だが、W佐々木のいきなりのSOS団脱退宣言に俺とジョンが驚愕。その日の夕食、佐々木が自分たちは休職するという旨を皆に伝えた。

 

やはり一番驚いているのは青俺、その次に俺の母親、あとは…似たようなものか。あの後は何もW佐々木と話していなかったが、あれだけで十分だったらしいな。
「佐々木、なんで今そんな話になるのか説明しろ!!」
青俺が真っ先に立ち上がってその理由を聞いた。横にいた幸が怖がっている。
「キミもそう怒鳴らないでくれたまえ。子供たちだっているんだ。僕はね、僕の存在意義を満たすことにした。ただそれだけなんだよ」
W古泉あたりは察知してるかもしれんな。コイツの存在意義がなんなのか聞いていてもおかしくない。
「あのぅ…存在意義を満たすって一体何をするんですか?」
朝比奈さんが申し訳なさそうに尋ねた。周りの視線もW佐々木に集中している。しばらく…と言うには長すぎると思えるほどの間の後、ようやく青佐々木の方が口を開いた。
「僕の考えた理論や概念を後世に残すこと。未来の教科書にキョンやハルヒさんが掲載されているのと同じようなものだと思ってくれればいい。もっとも、キョンの場合はこの時間平面上でも時事問題としてテストに出題されてもおかしくないけどね」
「おまえ、俺たちと一緒にいるのが楽しかったんじゃなかったのか!?それに、佐々木の考えたものなら、もう全国どころか世界中にだって広がっているだろうが!!」
「それについてはこっちのキョンにも言われたよ。でもね、僕たちはそれだけじゃ満足できないんだ。バレーにバンドにモデルにCM撮影…恥ずかしいことも多かったけど、やってみると面白いと感じることができた。それについては今後もやらせて欲しい。バレーも毎晩練習を重ねてきたからね。ここまで僕がのめり込んだスポーツはこれくらいだよ」
「それでも、佐々木さん達が抜けるとデザイン課としては大きな戦力を失うことになりそうね」
「黄朝倉さん、いくらなんでもそれは僕のことを過大評価しすぎなんじゃないかい?僕がそこまで貢献しているなんて到底思えない」
「問題ない。あなたの斬新なデザインは他の社員には描けない。わたしたちの会社に必要不可欠」
「有希や涼子の言う通りよ!佐々木さんがどんな理論や概念を残したいのかなんてあたしも分からない。でも、SOS団は誰が欠けても成り立たないんだから!!」
「復唱してしまいますが、団長の仰る通りです。我々SOS団は誰が欠けても成り立ちません。ですが、あなたは『退職』ではなく『休職』だと言いました。ならば、佐々木さんが一日でも早く戻って来られるよう我々が全力でバックアップさせていただきます。お二人のおかえりをお待ちしていますよ」
「というわけだ、佐々木。すぐにおまえ専用の研究所を建てる。古泉、北口駅前店の隣の土地を匿名で押さえてくれ。無論、喫茶店ではない方だ。古泉も今後は全国に顔が知れ渡ることになるからな。あのコスチュームでTV番組に出演すれば、いくらバックバンドでも一際目立ってしまう。北高の女子生徒からあれだけ黄色い歓声を浴びていたんだ。TV出演すればすぐに全国にファンができるだろう。交渉に行くときは赤の他人に見えるように催眠をかけてくれ。これまでやったことが無くとも、あれだけ経験を積んだんだ。試しにやってみるだけで成功するだろう。額はいくらかかってもかまわない」
「了解しました。ですが、なぜ地元なんです?本社の下層階をあなたが作り変えるだけでいいのではないですか?」
「なぁに、ようやく目的を持った建物を建築することができるんだ。地元を発展させるいい機会だろう?ついでに、その研究所にテレポートすればいつでも喫茶店に行くことが可能だ。というわけだから、二人のラボが完成するまで待っていてくれないか?」
『面白いじゃない!』
「なるほど、そこまでお考えだったとは…僕もまだまだのようですね。高校生の頃のように、週に一回くらいのペースで喫茶店に足を運ぶのも悪くありません」
全員納得の表情のようだな。古泉の言葉があったからこそだ。俺もW佐々木が満足のいく理論や概念を構築するまでにどれだけの時間がかかるか想像もできん。青俺も佐々木が自ら宣言した以上、頑として動かないことも分かってる。だからこそ、コイツには早く戻ってきて欲しいと願う。
「嬉しいよ。僕の勝手な我儘なのに、そこまでしてくれるなんてね。僕なんかのデザインでいいなら、ラボができるまで色々と考えてみることにする。今回はキョンに焦らされずにすみそうだ。ありがとう」

 

夕食を終えて他のメンバーは部屋に戻っていった。
「片付けはやっておく」と言ってくれたメンバーもいたが、考えを整理したいからと告げて俺が片付け作業。双子はハルヒと一緒に99階でTVを見ているようだな。
「ジョン、すまないが相談に乗ってくれないか?」
『古泉一樹がいくら匿名で土地を購入したからといっても、キョンが建てたことがすぐにバレる…か?』
「ああ、報道陣が敷地内に入り込めない閉鎖空間を張ればすぐに気付かれてしまう。かといって建物に出入りする人がいなければ、それはそれで張りこまれるし、俺たちも喫茶店に行くことができん。特徴的なタワーだからな。なんとしても取材しようとしてくるに違いない。最終的には人事部に取材の電話が殺到することになる」
『偽名での電話は通用しないとさんざん報道陣に植え付けたんだからいいんじゃないか?取材拒否で。あるいは、報道陣に入口が見えないように催眠をかけて、喫茶店に行くときは報道陣からは見えない移動型閉鎖空間を張るとかな。当然カメラにも入口が映らないようにしておけばいい』
「なるほど、名案だ。懸念していたことが一気に解消されたよ。これでプリンセス朝比奈さんたちのタワーが建てられる。禁則事項に該当してしまうが知ったことか。タワーの内装も場所もサイコメトリーで知ってしまったんだ。何ら問題はない」
『だが、有希はいても、朝比奈みくると古泉一樹はあの時間平面上と同じ時代まで生きられないだろう。TPDDを超えるタイムマシンを持っているとはいえ許可が降りなければ使えないなら、ただの飾りだ。朝比奈みくるがこの時間平面上で生涯をまっとうするつもりならなおさらな。それこそ、アポトキシン48○9でも飲んで若返りでもしない限りは』
「それもそうだ。だが、そんなものを飲まなくとも有希なら朝比奈さんの情報結合を定期的に数年前に戻していくだろう。ジョンが初めて朝倉と闘ったときと一緒だよ」
本社で生活していれば、ビラ配りで出たとしても「朝比奈みくるの娘」で説明がついてしまう。
「この時空平面上の未来の安定のためには朝比奈みくるは必要不可欠」などと有希が提案しかねん。

 

 朝比奈さんが若返る件はおいておくとして、とりあえず問題は解決した。あとはW佐々木にエネルギーを満タンまで渡して、テレポートと情報結合ができるように修錬を積めばいい。ついでに疲れや眠気も自分でとれるようになれば、あいつとの話じゃないが、研究に没頭していられる。週末は別のフロアで朝倉と青古泉、未来古泉で将棋を指すことも可能だ。やることが決まればあとは行動あるのみ。ジョンの世界でバレーの練習をしていたW佐々木を連れだし、まずはテレポートの練習からだ。
「キョン、キミが研究所に仮眠室を作ってくれれば、テレポートはいらないんじゃないのかい?」
「部屋中埃まみれになってもいいのか?研究に没頭するのはいいが、食事は三食しっかり食べること。出来る限り、俺たちと一緒にな。どうしてもダメな場合は俺が二人分の皿をテレポートする。休むのはデザインだけで、バレーもモデルもバンドもCMも続けるんだからスタイル維持は必須条件だ」
「これはまいったね。僕たちの研究のはずが、いつの間にかキョンに主導権を握られているなんてね。大学入学当初にジョンと将棋を指していた朝倉さん達の気持ちが分かった気がするよ」
「研究に詰まったときの気分転換と思えばいい。デザインだって思いついたら書きとめておけばいいんだ。休職はしてもデザインをしてはいけないなんて規制はないからな」
「分かった。キミの出した条件に従うことにするよ。それなら僕たちの研究も順調に進みそうだ」
そろそろこの辺で話を切って練習を開始しよう。時間が無くなってしまう。明日の夕食頃には古泉から
「あなたに指定された土地を押さえました」なんて言ってきそうだしな。

 

 それから数日、古泉が一日にして土地の交渉を終えて戻ってきたのは言うまでもなく、その土地の人間が引っ越し作業を終えるのを待って、解体&建築作業に入った。ハルヒが破壊した後にシートを張るのはこれまでと変わらなかったが、関係者以外の人間は元あった建物の解体&建築作業を何日もかけて工事をしているように催眠をかけておいた。その間に佐々木にはテレポート、長距離の移動に失敗したときのための舞空術、自分の疲れや眠気の取り方を伝授して、サイコメトリーについても説明した。異世界移動に失敗して異空間に閉じ込められたでは困る。もっとも、人が使う前にラットなどで実験してみるだろうけどな。内装も外装も未来のタワーと同じ建物を建造して中層部にW佐々木の研究室。上層部にはジョンの世界にあるものと同じ、本格的な将棋の台と駒、加えて遮殺気膜。これでW佐々木の研究と週末には未来古泉を呼んで将棋が可能になった。タワーが完成するまでの間はデザイン課で一つでも多くのデザインを描いてもらうことにしよう。シートが外せるようになったら皆で喫茶店に行こうと提案した。
「心外ですね…。また僕だけカヤの外ですか?実力に大差があるのは承知していますが、僕も混ぜてもらえませんか?」
「そうね……ジョンが二面打ちで彼に指導将棋っていうのはどうかしら?彼の実力が急激にあがるようなら五人で回すのも悪くないわね」
『別に俺が入らなくても三人でローテーションすればいいんじゃないのか?余った一人が古泉一樹に指導将棋をすればいいだろう』
久しぶりにタッチ無しでジョンが前に出た。俺もジョンと同意見だ。日本代表入りしたOG二人じゃないが、朝倉も青古泉も24時間将棋を指していることになってしまう。
「あなたがいないと面白くないのよ。平日はわたし達も仕事をしているし、週末だけでいいからお願いできないかしら?」
『そこまで言われると断りきれそうにないな。分かった、俺も参加するよ』
「そう言って頂けると光栄です。ご教授、ご鞭撻の程宜しくお願いします」
俺と青俺とジョンじゃないが、朝倉と古泉三人っていうのは画としてどうかと思うぞ…佐々木の研究と喫茶店に行く以外に、未来古泉を入れて将棋をすることも目的の一つとして入れておいた俺が言うセリフじゃないけどな。まぁいい。あとは未来古泉を呼んでくればいい話だ。少しばかり時間跳躍するのをとまどったが、その場の勢いで未来へと跳んだ。プリンセス朝比奈さんや有希に怒られるものだとばかり思っていたが、表情は至って普通。
「こんにちは、キョン君」「…いらっしゃい」「やぁ、どうも」
今まで通り三者三様に挨拶されて拍子抜けしてしまった。
「俺の時間平面上にここと同じタワーを建てたら、朝比奈さんに怒られるものだとばかり思っていたんですが…大丈夫なんですか?」
「問題ない。このタワーは元々学会で自分の理論を発表し大学教授になった彼女が建築家に依頼して建てたもの。あなたの時間平面上ではあなたの会社のデザイナーとして過ごしてきたため、建築する時期が遅くなってしまっただけ。でも、異世界の彼女と二人でなら、すぐに追いついてさらに発展することが可能。あなたの超能力も加わればTPDDのような欠陥品が作られることは無い」
開いた口が塞がらん。俺の時間平面上の前後では佐々木は既に大学教授で、多額の研究費用が支給されているっていうのか!?それで自分のラボとしてこのタワーを建てた…か。機関じゃないが、鶴屋さん辺りがスポンサーになってそうだ。それで禁則事項に引っ掛からなかったのか。佐々木が自分の理論や概念を…と言い出さなければ、このタワーを作りたくても作ることが出来なかった。どうやら、違う方向に進んでいたベクトルも他の時間平面上と同じ流れに乗れたらしいな。過去ハルヒから「あたしがいいって言うまで絶対来ないでよね!」とか言われたが、
あの時間平面上の俺や佐々木は既にこの建物の中で研究していてもおかしくない。サイコメトリーのやり方や眠気、疲れの取り方は過去俺に知識として与えているから大丈夫だとして、そのエネルギーの補充と我が社がスポンサーになるというのも悪くない。なら、あとはこちらの目的を遂行するのみ。
「古泉、これから週末は俺の時間平面上に来てくれないか?ここと同じ場所で朝倉や青古泉、ジョンと将棋を指してもらいたい。ついでに、手が空いたときは過去のおまえに指導将棋を頼みたいんだが…どうだ?」
「これは驚きです。よもや自分で自分に将棋を教えることになるとは思いもしませんでしたよ。わかりました。僕も朝倉さんたちにまだまだ及びませんし、是非修行させて下さい」

 

 それから、W佐々木の本格的な研究が始まった。研究に必要な実験器具は全て俺が情報結合して大学の研究室においてある本も全て用意したが、W佐々木が一冊ずつサイコメトリーで中身を把握してしまい本棚の必要がなくなってしまった。細かな器具や薬品についてはW佐々木が自分で情報結合。食事時に話を聞いていると順調に研究が進んでいるようだ。
「この調子ならお二人の復帰も、もはや目と鼻の先になりそうです」
などと、古泉は語っていたが、二人が何の研究をしているのかは俺しか知らない。現段階ではハルヒが研究していた異世界移動の方法についてのもの。時間跳躍の概念や理論についてはまだ手がつけられない状態のはずだ。
その食事も、研究を始めた当初は三食全て時間通りに戻ってきたが、
『今、手が離せないから、キミのテレポートで送ってくれない?』
と少しずつテレポートすることが多くなっていき、昼食から始まって夕食もほとんど戻って来なくなっていた。夜遅くまで研究はしていても、寝るときは戻ってくるので朝は自分で眠気を覚まして朝食を食べていた。ジョンの世界ではバレーの練習とたまにデザインを考えていたり、研究内容以外のことで俺たちと話をしたりしていた。W佐々木がデザインしたものは撮影する前の段階で朝倉がスケッチブックを回収。ほとんどデザインが描かれてないにも関わらず、佐々木のデザインの大半が商品化されていた。

 

地元の発展を喜びつつも、考えなければならないのは復興支援のこと。盛岡市長との会談の日、念のため久方ぶりのスーツで出向いたところ、案の定報道陣を呼んでいたようだ。こちらとしても手間が省ける。盛岡は四月にお披露目とし、その一週間前に市民の引っ越しを行うこと、各世帯の家族構成はこちらで全て掌握し、人数等を連絡するので、小中高の転校の手続きや学校側の机や椅子などの準備を頼みたい旨を伝えた。SOS Cityの市長と同様、握手を交わして市役所を後にした。SOS Cityに倣い、盛岡もMOM Cityにしたいと市長が言い出したが、どこぞのアイドルグループみたいになるのでそれは断っておいた。福島の市長もFOF Cityにしたいなんて言い出さないだろうな…ゲームソフトのタイトルみたいになってしまう。福島の方はこちらも学校に合わせて八月にお披露目。盛岡市の方は日に日にシートで覆われた土地が増えていき、SOS Cityはシートが外され、大手チェーン店が内装の工事に入っていた。
その間、政治家の顔写真と名前の入ったポスターに落書きや煽り文句などが書かれており、破り捨てられたポスターの顔にいくつもの靴跡が残っている事件が全国で起きていると報道。辞職する政治家が相次ぎ、ついに衆議院解散。新たな衆議院結束を目論むのは、無論辞めていった人間。しかし、選挙のために再度公示したポスターも次々に破られ、名前だけ連呼する車にはその名前の政治家のところへのクレームが相次ぎ、投票日に会場に訪れる人間もほとんどおらず、投票率も50%を切るという異例の事態。投票されたものも無効票が大多数。衆議員再結束はどうやら出来そうにないな。政治家の信用はガタ落ち、消費税減税のデモは規模が大きくなるばかり。そろそろ来るであろうと思っていた矢先、
「大変よ!」
と言ってエレベーターから降りてきたのは、やはり青朝倉。いつものことながらしっかり該当ページに指を挟んでそのページを広げて見せた。
『次期内閣総理大臣はキョン社長!?』
という見出しに国民1000人にアンケートを取り、その大多数が俺に内閣総理大臣をやって欲しいという結果が出たと書かれている。
「ハルヒさんの言い草ではありませんが、これは面白いじゃありませんか。あなたなら復興支援も拉致問題もたちどころに解決してしまいそうです。拉致被害者を奪い返して、もし核ミサイルを撃って来たとしても、あなたでなくとも 僕やエージェントの閉鎖空間で簡単に排除できます。逆に狙いを基地に変えることすら、我々にとっては造作もないことです。ジョンなら一早くそれに察知してくれるでしょう」
『確かにそういうことなら可能だろうが、そこまで頼りにされてもらっても困るな…』
加えて、拉致問題に関して解決するのであれば、たとえ俺が内閣総理大臣になるとしても、その地位に立つ前に拉致被害者を奪い返さないといかん。本社で匿い、定期的に家族と連絡するにしても、報道陣は俺が連れ戻して匿っていると判断してしまう。だが…この記事が出ている以上、時既に遅し…だな。なにより拉致被害者の生死すら不明だからな…
「あんた、深刻そうな顔して何考えてるのよ。期待に応えてやればいいじゃない!地位とお金だけが目当ての頑固ジジイなんて必要ないわ。あんたのサポートはあたしたちがやるわよ!今までだってそうだったんだから何の問題もないわよ」
「そう。あなたが全て考える必要はない。わたしたちに任せて」
「うー…そう言ってくれるのは嬉しいんだが…何と言うか…ガラじゃないというか…とにかく、俺も日本代表として世界各国の代表相手にバレーやってるんだ。自分で編み出した零式を自分で封印しておいて使えないのは困るな」
「くっくっ、相変わらずキョンはキョンのようだ。中学時代と何ら変わりはない。周りから持て囃されるのが嫌ならキッパリ断ってしまえばいい。既に報道陣から記者会見を開けと人事部に電話がかかってきていてもおかしくない。後はキミの好きにすればいい。僕たちはキミについて行くだけだよ」
そいつはお互い様だろ。…ったく、相変わらず佐々木は佐々木だ。やれやれ…おまえのような親友が傍に居てくれたことをすっかり忘れてしまっていたようだ。
「分かった。記者会見を開けと言うならそれに応じる。ただ、もう少しだけ時間をくれ。俺なりの回答を出したい」
「ならば、我々はこう答えるべきですね」
青古泉のセリフに全員が息を揃えた。
『問題ない』

 

ここからはイベント事の連続だ。平日はSOS団、ENOZともに年末の番組に呼ばれ、土曜はライブ。ハリウッドスターたちとの年越しパーティ。その後は復興支援プロジェクトだ。
「君たちの予想通りだ。記者会見を開けと電話が鳴りやまない。頼めるかね?」
圭一さんからの連絡に黙ったまま頷き、指定された時間に会場に赴いた。
「キョン社長、日本国民のほとんどが次期内閣総理大臣をあなたにと願っています。今後どうされるおつもりですか?」
「残念ながら、皆さんのご期待に添えることはできません。僕が内閣総理大臣に着任する権利も資格もありません。僕は他のメンバーよりこういう場に顔を出す機会が多いだけのただの雑用係です。本来なら、僕よりも脚光を浴びるべきであろう仲間が何人もいます。ですが、その仲間たちは陰に身を潜め、今も僕の会見を見守ってくれています。そして、僕の出した答えについていくと背中を押されてここに来ました。ならば、僕がやることはただ一つです。我が社だからこそできる最大限のパフォーマンスで今後も仲間と共に尽力していく所存です。今の僕に言えるのはそれだけです。ご静聴ありがとうございました」
言い終えてすぐに席を立ったが、誰も何も聞いて来ようとせず、静まり返った会場を後にした。
「いやぁ、お疲れ様です。見事としか言いようがありませんよ。佐々木さんではありませんが、あなたらしい回答だったと言えるでしょう。役職にとらわれず、我々だからこそできるパフォーマンスをする。感激しました。他のメンバーも僕と同じ思いで待っていることでしょう。皆、あなたを欠いてしまってはここまでの会社には至らなかった、そう思っているはずです。今後の周りの反応も気になるところですが、このあとはSOS団とENOZの番組出演が控えています。マネージャー兼給仕係、それに朝比奈さんのコメントの補助でしたね。頼みましたよ」
「ああ、すまない。それに…ありがとう。まずは帰って夕食作りからだ」

 

三度目の記者会見を終えて本社ビルへと戻ると
『おかえり~』
といつものように81階に居た全員で迎えてくれた。満足気な表情でなによりだ。
「言いたいことは全部言ってきた。あとは政府がどうなろうが国民が何を言おうが知らん。俺たちは俺たちにしか出来ない事をやる。それだけだ」
「あれだけ言って帰ってくれば充分よ!話せる時間も残り少ないし、あんたも早く用意しなさい。TV局行くわよ」
パチンとハルヒが指を鳴らした瞬間、SOS団とENOZの服がライブ用の衣装に変わった。準備万端らしいな。TV局まで送って、リハーサルの時間まで夕食の支度を急ぐことにしよう。深夜、ジョンの世界では二月に備えたバレー合宿のための特訓がスタート。封印はしたが、世界大会でミスをするわけにはいかない俺とOGはそれぞれ違うコートで零式の練習。ついに日本代表チームのどのセッターも采配が分からなくなってしまった。だが、いずれこうなることは想定済み。相手のサーブやWSの二の腕の角度で誰が取るべきか名前をコールすることと、身長差で届かなくともブロッカーがついていれば後は後衛の仕事だ。空いた時間で古泉と将棋を指し、暇があれば佐々木と話している。以前朝倉から将棋での勝負を挑まれたが、ジョンと互角の戦いをしている奴に勝てるわけがない。三竦み状態のときの未来古泉にすら勝てなかったんだ。古泉と一緒に俺も修行だ。青俺も俺や古泉と同等の情報結合ができるように段ボールで修行中。それぞれがジョンの世界で自分の時間を楽しんでいた。

 

翌朝、ニュースは当然俺の記者会見のVTRが流れ、
『キョン社長辞退!国民の願い叶わず!』や『日本政府崩壊か?』といった新聞記事。未来の教科書に載る俺やハルヒじゃないが、この時空平面上の時事問題で俺の事が取り上げられそうだな。こっちも回答欄に『キョン』と書けば丸が貰えそうなのがちょっと気にくわないが、かと言って俺の本名知られると青俺との関係が怪しまれるし、仕方がない。
『仙台市をSOS Cityに改名したきっかけとなった人物の「あだ名」は? なんてな』
ジョンのセリフにツッコみたいところだが、本当にそうなりそうだから怖い……。思えば、この本社を建てて軌道に乗り始めた頃は平日は大学で授業を受け、そのあとビラ配り。土日は店員として店舗に出向き、夜は月曜日を除いて新川さんのディナーのウエイターorウエイトレス。次の号が出されるたびにその月の特集をマネキンに着せて、余裕なんて欠片もなく地元の北口駅前店と本社ビル、倉庫だけでやりくりしていたっけ………
だが今は、店舗が拡大していくにつれて信頼できる人材が増え、お盆や正月休みでもシフトを組んでそれぞれの店舗で運営可能になった。ディナーのウェイトレスも十分に雇い、たまに朝倉やW佐々木、朝比奈さんや古泉が接客に参加して、俺も余裕があるときはキッチンの手伝いやちょっとしたパフォーマンスを披露。テーブルごとで違ったパフォーマンスをしたり、フロア全体に見せたりとまぁ、色々だ。
そして、本店の服の入れ替え作業は全てデザイン課に依頼した。自分たちでデザインした服が商品として出ていることを実感してもらいたかったからな。大学も卒業してSOS団メンバーやOGも皆、ジョンの世界でなくとも自分の時間が持てるようになった。日本全国にいくつ我が社の店舗が建っているのか、もう俺にも分からん。ハリウッドスターに見せたパフォーマンスと料理でアメリカ中が俺に興味を持ち始め、バレーの男子日本代表として俺の理不尽サーブ零式が相手コートを襲い、全試合圧勝で帰ってきた。我が社の名を世界各国に広めたところでイギリス、フランス、イタリア、韓国とシェアを広げて戻ってきた。日本で我が社のことを知らない奴の方が少ないくらいだろう。よくここまで大きくなったとしみじみと感じる。まさか、内閣総理大臣になって欲しいとまで言われるとは思わなかったよ。
だが、俺たちは俺たちだ。ハルヒが言っていたように、頑固ジジイ共を従えるなんて俺は御免だね。今だからこそできることをやっているだけだ。『俺たちの』パフォーマンスで今後も復興、発展していってやるさ。

 

「お願い黄あたし!紅白譲るから、今年はあたしにレッドカーペット歩かせて!」
とうとう青ハルヒもライブだけでは満足できなくなったらしい。
「どっちもハルヒには変わりないし、思考回路もほぼ同じ。問題ないだろう。今年は変わってやれ」
「あんたがそういうならいいけど…あたしが恥かくような真似しないでよ?今度はあたしがモニター見る側なんだからね!」
「あたしに任せなさい!」
とはいえ、ジョンのパフォーマンスになってから、ハルヒはパフォーマンスには参加してないし、英語も流暢に喋れるから大丈夫だろう。ジョンが『街を破壊して元に戻す』なんて言わない限りはな。
『閉鎖空間展開してエネルギー波一発であとはリムジンや自由の女神と一緒だろ?』
リムジンも自由の女神もハンマ―で破壊したんだ。エネルギー波撃った時点で説明がつかなくなるだろ!
『宇宙旅行に招待しておいて、今さらエネルギー波が出てももう驚かないと思うぞ?』
確かにアレは正直やり過ぎたと思ってるが…まぁ、俺もどんなパフォーマンスになるのか気になるし、これ以上は何も聞かない事にしよう。今年で何回目の出演になるのかは忘れたが、年末はライブ会場から生放送する番組では、
大御所MCからハルヒと朝比奈さんに今年一年どんな年だったか話をもちかけられ、
「『今年もモデルにバンド、CM、ドラマの撮影で充実した一年でした。でも、皆が取り組んでいる復興支援プロジェクトにほとんど参加できなかったのが残念です。来年はわたしも復興活動に参加しますので、皆さんもご協力よろしくお願いします』」
朝比奈さんにこう言われちゃ、ファンも黙ってはいまい。
「さて、今は全国ツアー真っ最中のSOS団なんですが、なんと、アンコールとして新作ダンスを披露しているそうです。それぞれに合ったコスチュームとダンスが口コミで広がっているそうです」
「ちなみにどんな衣装なんだ?」
「まだ内緒です。でも、あたしたちの全国ツアーが終わったらお見せできると思います!」
「なるほど、来年が楽しみだ。それじゃあ、スタンバイお願いします」
合図と共に五人が一瞬で配置に付き生演奏が始まった。

 

そして大晦日の日、幸の六歳の誕生日祝い。
「幸、俺からの誕生日プレゼントだ」
青俺がキューブを取り出し、拡大するとランドセルと学習机が出てきた。すぐにランドセルを背負い、椅子の座り心地を実感している。子どもたちを連れて買いに行ったときは結局買わずに帰ってきてしまったが、青俺が幸に合うようにイメージしたものを情報結合したらしいな。本人も気に入っているようだ。
『キョンパパ、わたしもランドセルと机欲しい!』
「ああ、次の二人の誕生日に二人に似合うランドセルと机を用意しておいてやる。それまで待てるか?」
『わたしに任せなさい!』
昼食、夕食と用意を終えて後は年越しパーティのための仕込み。
『キョン、ハルヒ。準備は終わったかい?こっちはいつでも待っているよ』
テレパシーを受けて、ドレスに着替えた青ハルヒが降りてきた。
「ハルヒの書き初めじゃないが、レッドカーペットで緊張するなよ?」
「いいからあんたもさっさと準備しなさい!置いてくわよ!」
心配は無用のようだ。すぐさまドレスチェンジしてレッドカーペットの上へとテレポートした。ハッとしたカメラマンがすかさずフラッシュを焚く。青ハルヒと二人でレッドカーペットを進むといつもの四人が待っていてくれた。
「キョン、久しぶりだね。元気してたかい?今年も何度かキョンのビルに行ったけど、僕はもう毎日キョンの料理でないと満足できなくなってしまった。今日も楽しみにしてる。もちろんパフォーマンスもね」
「そう言って頂けると私も光栄です。今夜も絶品料理を取り揃えるつもりです。是非ともご堪能下さい」
「あら?そういえば、あなた日本の首相になったんじゃなかった?こっちに来て大丈夫なのかしら?」
「ええ、震災に遭った町の復興に取り組んでいたところ私を首相にと国民の皆様が叫んでくださいました。ですが、私も多忙の身。首相になっていたら今頃は日本で事務作業に追われていることでしょう」
「嬉しいよ。首相の座よりも僕たちとのパーティを選んでくれるなんてね。これから来る皆もキミの事を待ち望んでいるはずさ。今夜も大いに盛り上げてくれ!」
「かしこまりました」
キッチンに入ったところで仕込んでおいた料理をキューブから取り出した。すると…
「レッドカーペットは堂々と歩けたけど、ハリウッドスターと何喋ってたらいいのか分からなかったわよ。黄あたしが興奮して眠れなかったって言ってたのが良く分かったわ」
青ハルヒが調理場の台の上に突っ伏し、しょぼくれている。
「今頃になって縮こまってどうする。料理を出してジョンがパフォーマンスする以外は皆俺たちのところに集まってくるんだぞ?」
「黄有希がTVにモニターで出してくれてたけど、実際に近距離で目が合っただけでここまで違うなんて…黄あたしみたいに料理も手伝えそうにないし…今からでも交代してもらおうかな…」
「おい、コラ、天上天下唯我独尊の涼宮ハルヒはどこいった!?おまえでも出来る作業振るから、その間にハリウッドスターと何話すか考えておけ。ちょっとしたパフォーマンス見せてくれなんて言われることだってあるんだ。青ハルヒのセンスならどんな無茶振りでも軽くこなせるはずだろうが!」
「言ってくれるじゃない!いいわ、何でもやるわよ」
それでこそ、涼宮ハルヒだよ。すでに準備万端のシェフにも指示を出して調理に取り掛かった。

 

料理を運び終えたところで、青ハルヒと二人でグラスを取った。持っていたカクテルグラスが震えている。武者震いではないな。さすがの涼宮ハルヒも大物ばかりが集まるパーティでは緊張するなと言っても無理のようだ。料理の追加以外はなるべく一緒にいてやることにしよう。そのあと照明が消え、俺にスポットがあてられた。俺が宇宙旅行に招待して以来、年越しパーティの撮影を許可されたTV局がパフォーマンスを全米に生放送。ハリウッドスターが新川流料理の数々に舌鼓をうつシーンも撮影されている。それからというもの毎年高視聴率を記録し、その局の命運はもはやジョンにかかっていると言ってもいい。
「今年もどんなパフォーマンスになるか僕もわからない。皆、折角の料理を落とさないように注意してくれ」
人格交代したあと、ジョンがマイクを握る。
『今宵は皆さんにちょっとしたスリルを味わってもらう事にしましょう。そのために、何をやるか先に説明してしまいます。ワイングラスをお借りしてもよろしいですか?』
「え、えぇ…」
ジョンが目の前にいた女性からワイングラスを受け取り、中のワインをサイコキネシスで浮かせてみせた。ピラミッド、ピサの斜塔、凱旋門、東京スカイツリー、自由の女神など色々と形を変えるが、ここにいるメンバーはこの程度ではもはや驚くことはない。
『さて、ここからが本番です。場所を移しますので、皿やグラスをテーブルに置いてください』
全員がジョンの指示にしたがったところでテレポート。どうやら、太平洋のど真ん中に来たようだ。会場にいる人たちもジョンがこれから何をするのか次第に分かってきたらしい。
「まさか、さっきのことを海の水でやろうって言うの?」
『ええ、ですがその前にちょっとした演出をします。しばしの間お待ちください』
ジョンに従って俺も周りを見ていると、次第に雲が現れ、太陽が隠れていく。しばらくもしないうちに天候が雷雨を化した。超能力一つで天候まで操るなんてな……俺には考えられん。
『おいおい、ハルヒの能力が発動した可能性があるとはいえ、大学の首席合格者が何を言っているんだ。中学の理科の知識があれば、あとは閉鎖空間と膜だけで十分だ』
閉鎖空間と膜!?それに中学校の知識ってなんだよ。
『気温マイナス1℃の閉鎖空間と周りの空気を吸い込む膜を張った。膜に吸い込まれた空気が冷たい閉鎖空間内の空気にあたって暖かい空気が上昇気流となって上に昇っていく。空気が上に上がることによって気圧が下がり、気温も下がる。露点に達したところで積乱雲の完成だ』
納得。俺も色々と学び直そう。超能力の幅も広がりそうだ。当然天候を変えてしまった事に会場にいる全員が驚愕の表情。
「そんな、さっきまであんなに晴れていたのに…」
「『ちょっとした演出』で言葉で済ませるような事じゃない!天候まで操ることができるのか!?」
『さて、ここからが本番です。スケールの違いをとくとご覧ください』
海に渦ができたかと思うと、その中心から巨大な水龍が俺たちの目の前に姿を現した。女性陣は近くにいた男性の腕を掴み怯えている。そこへ一本の雷が落ちて、水龍が雷を帯びていく。全身が雷で満たされると、口の先に水の玉が雷を帯びて大きくなっていく。こちらに向けて水弾を発射するらしい。水弾が発射されるたびに全員が腕で自分の身を守ろうとするが、閉鎖空間にあたって弾け飛ぶ。何発か水弾を撃ったところで水龍が自ら襲いかかってきた。口を大きく開けて噛み砕こうとしてきたがさきほどと同じく閉鎖空間に防がれた。そのまま水龍が閉鎖空間に引き裂かれたかのように消えたところで天候を元へ戻し会場に戻る。
『皆様、スリルを堪能できましたでしょうか?これにて今宵のパフォーマンスを終・・・』
ジョンのセリフが止まった。ハリウッドスター達もざわつき始める。どうかしたのか?
『気が変わった。キョン、俺が……するから相手になってくれ』
「なるほど、それが日本でも報道されれば、双子疑惑も俺のパフォーマンスで説明がつく。だが、そのことを何でもっと早く提案しなかったんだ、おまえは」
『俺も今思いついたんだから仕方ないだろ。とりあえずバトンタッチだ』
了解。これ以上ハリウッドスターを待たせるわけにはいかん。
「すみません、これで今宵のパフォーマンスを終了しようと思っていたのですが、気が変わりました。皆さんには、CGも合成も一切使わないアクションバトルをお見せしましょう」
『アクションバトル!?』

 
 

…To be continued