500年後からの来訪者After Future1-6(163-39)

Last-modified: 2017-05-04 (木) 10:39:24

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future6163-39氏

作品

これで今後の方針が決まったな。五月に石巻市に移住するまで漁ができないなんてところもあるはずだ。
子どものいる家庭は家族全員でとはいかないだろうが、先に一人だけ現地に行って働くという手もある。
転校の手続きもあるだろうが、まず何よりスキー場近辺に学校があるわけないからな。
そういえば、入学式のあとしばらくして、ハルヒと話すようになって…五月の中旬くらいか。
「こんな時期に転校してくるなんて絶対おかしいわよ!謎の転校生に間違いない!」
だったか?それで古泉がSOS団に加入したんだったな。
リフト券の券売も一段落し、SOS Revivalツインタワービルにテレポート。
両方の棟に館内放送をかけて、申込書を警備員に預けた。
40代くらいの男性でも、漁に出ている人なら、政治家と違って調理スタッフとして働いてもらえる。
食堂はハルヒ味が出せるまで、ハルヒと青有希は戻せそうにないな。
まぁ、夢の中でも会ってるし、子どもたちも寂しい思いをしなくても済むだろう。
今夜あたりから本格的に将棋をジョンに教えてもらおうかな。
ジョンが二面打ちになるが、俺はおまけみたいなもんだ。一対一の勝負の邪魔にはなるまい。
古泉の相手は伊織にやらせればいい。
『そこまで自分を卑下にすることもないんじゃないか?
まぁ、キョンがその気になったのならいつでも相手になるよ』そう言ってもらえると助かる。
スキー場に戻ると、報道陣のカメラの矛先はリフト乗り場で仕事をしている政治家に向けられていた。
元々信用なんてほとんどなかったんだ。
今シーズンは黙って働いていれば国民の政府に対する見方も変わってくる。
首相も手が空いているときは政治家としての仕事をしているようだ。
『四月から消費税を下げる』と公約したからには実行されなければ、折角の信頼もそこで途切れる。
夕食時、レストラン内には既に客が席についており、俺が入っていくと拍手が沸き起こった。
料理長のおススメ料理が目当てに違いない。客を待たせるわけにはいかない。
レストラン内にいたメンバー全員の了承を得て、朝比奈さんたちが各テーブルの注文を聞きにまわった。
翌日、朝食を終えた客がフロントに大勢集まり、青古泉だけでなく古泉もフロントで応対。
バス三台でも入りきれず、仕方なくパフォーマンスと称して四台目のバスを情報結合。
全員バスに乗ったところでSOS駅まで運転し、怒涛の三日間を終えた。

 

その後人事部では、人事部の社員が石巻市に移住したいという世帯に連絡を取り、
古泉やエージェント達で引っ越し作業。予想していた通り家族全員での引っ越しとまではいかなかったが、
それでも佐々木の案が功を奏したようだ。働く人たちの食事はバレーの日本代表と同様、
SOS団専用カードで三食ともタダ。夕食はウエイトレスにカードを見せるだけで済むように配慮。
だが、政府の人間は金を払わせることに全員の意見が一致した。
そして迎えた社員旅行の日、ホテルは全客室が埋まっていると圭一さんから報告があり、
仕込みの量も増やした。日中も青ハルヒと二人で仕込みを続けるつもりだ。
その間、W古泉と青俺でバスに乗せた社員を現地へと連れてきた。
一分でゲレンデに着いても、もはや驚く社員もおらん。
W古泉と青俺がリフト券一日分をタダで社員に配ると一言。バスの中で歓声があがっていた。
バスも社員用とスキー場用に分け、三台追加して全部で七台となった。
午後二時を過ぎ、SOS駅にはスキー客で行列ができていた。今日も滑るつもりらしいな。
すぐにエージェントがツインタワービルの店舗レジ奥にテレポート。バスを拡大してホテルへと出発した。
五時をめどに社員がバスの中に集まり、本社ビルの地下に戻って今年のスキー旅行は終了。
「社員も満足させた上にスキー場の宣伝までしてしまうとは…今後の復興にさらに拍車がかかりそうですね」
などと古泉と話しながら、週末限定料理長のおススメ料理に取り掛かっていた。

 

翌週月曜日、怒涛のチェックアウトを終えて、一段落したところで今度は俺たちが滑る番。
未だに報道陣は撮影を継続中、リフト乗り場には政治家が寒さに震えながら仕事をしている。
「一般客もいますし、マスコミや政治家から見えないという条件で閉鎖空間を作っても
 トラブルになりかねません。既に結婚している事がバレていますし、
ここは堂々と子供たちを連れて滑ってみてはいかがです?
折角ハルヒさんが僕たち一人一人に合ったウェアを選んでくれたんですから心配いりませんよ」
古泉はそう言ってくれるが…帽子で髪を隠すだけではすぐにバレそうだ。
青有希が毎日のように保育園に連れて行ってくれていたのを無駄にするわけにはいかん。
天候は快晴だが、ゴーグルはつけておくことにしよう。朝比奈さんが二人いることもバレることはない。
俺と同じく髪を隠しているし、何より滑る位置が違うからな。
こっちの朝比奈さんはリフトを二つ乗り継ぐだけで精一杯。
青朝比奈さんは頂上から滑って、下の方に降りてくる気配がない。
『キョンパパ!早く滑りたい!!』
俺のウェアをグイグイ引っ張りながら双子が急かしてくる。
双子に合ったスキーウェアをハルヒが選び、スキー板を装着させると双子の眼が輝いていた。
「よし、じゃあまずは転び方の練習からだな」
ダンス同様、双子が俺の真似をして転んで起き上がる。
左右に何回かやったところでボーゲンの形の練習。
「ハルヒママのハの字にするんだぞ」
というと美姫がすかさずハの字に広げた。書き初めの効果らしいな。
「ハルヒ、美姫を連れて先に行っててくれ。伊織にもう少し教えてから俺も行く。
 おまえにスキーを教えてから、本当に十年も経たないうちにハルヒが教える側になるなんて俺も予想外だ。
 ちゃんと止まり方も忘れずにレクチャーしてくれよ?」
「わかってるわよ!今日一日でパラレルターンまでマスターさせるんだから!」
もう昼近くになっているんだが…双子のセンスならやりかねん。
因みにゲレンデにいるのはSOS団メンバー全員、OG、ENOZ、森さん、新川さん、裕さん。
エージェントもバスの運転以外は滑っている。バスが戻ってくればゲレンデに顔を出すだろう。
その間、圭一さんはリフト乗車券売り場、俺の両親はホテルのレストランでランチを担当、
スキー場の食堂は青有希が午前中のうちに仕込みをしてから、後は調理スタッフに任せるらしい。
幸は青俺が面倒を見ていた。ハルヒのセリフじゃないが、
俺も早く頂上に行って、新川さんが滑るところを見てみたい。

 

結局二人とも午前中のうちにボーゲンをマスターしてしまった。
「片方の足に体重を乗せる」と言っても意味不明な顔をしていたが、やってみたらすぐ覚えたらしい。
一度本社に戻って昼食となったのだが、子どもたち三人の食いっぷりに唖然。
「キョンパパ、早く続き続き!」「ハルヒママ、わたしも!」「ママ、わたしも早く滑りたい」
「やれやれ…ゆっくり食事している暇も与えてくれんのか。
三人とも体調不良で保育園休んだんだから、スキーしてたこと友達に内緒にしろよ?」
『あたしに任せなさい!』
そのあとのことは言うまでもない。パラレルターンには至らなかったが、
頂上まで辿り着き、ボーゲンで先へ先へと進んでいた。まったく…どこまでセンスがいいんだか。
まぁ、そのおかげで新川さんの見事な滑りっぷりを見れたし、
新川さん自身もいい気分転換になったようでなによりだ。提案してよかったよ。
夕食後、子供たちは滑り疲れて温泉にも浸からずにすぐ寝てしまった。
まぁ、この後のイベントを考えれば子供たちには眠っていてもらった方が良い。
温泉ならいつでも入れるし、どうせまた汗をかくだろうからと
俺が行く頃には激しいラリーが続いていた。W古泉はマイラケットにマイボール。
『卓球もボードゲームの一種ですからね。ボードゲームで負けるわけにはいきません』
この台詞でW古泉の実力がわかった気がする……古泉は初戦敗退で間違いなさそうだな。
トーナメントが始まり、Wハルヒは持ち前のセンスで、青朝比奈さんと青古泉は持ち前の実力で、
有希と朝倉は言うまでもない。残りのメンバーは容赦なく駆逐されてしまっていた。
俺はというと、卓球で零式サーブができないかと試してみたのだが、結局成功することなく、
自分のミスだけでOGに負けてしまった。
W古泉のように、マイラケットでラバーにこだわっていれば、もう少し回転をかけられたかもしれん。
まぁ、久しぶりに卓球ができたし、それで十分満足だ。
準決勝は有希VS青ハルヒ、ハルヒVS青古泉の戦い。
優勝賞品を既に手に入れている青ハルヒは、優勝を狙う有希の執念にやられ、
卓球している間もハルヒに視線が向いていた青古泉はハルヒと対戦できただけで十分だったようだ。
それまでの戦いは何だったのかと言いたくなるくらい、あっけなく負けてしまった。
だが、周りで見ていたメンバーは、もし自分が勝ち残ったとしても
ハルヒに負けているだろうと悟っているようだ。
決勝戦、有希VSハルヒ。一位の座を勝ち取るために燃えているハルヒと、
おそらく俺と一緒に行く温泉旅行を狙う有希。
以前と同じく、今日はこのホテルに泊まるとしてでも、明日から温泉旅行に行くつもりでいるだろう。
前回のように次の日がバレーの合宿の初日などと言う事はないし、
青ハルヒではないが、二人の時間を楽しむことにしようと思う。
開始早々からピンポン玉を三球くらい使って戦っているんじゃないかと
眼をこすりたくなるほどのスピード。
技の開発を試みずに、ゾーン状態でこの二人のどちらかと戦うことになったとしても勝てるかどうか怪しい。
『今の段階ではゾーン状態でも負けるだろうが、戦型や回転のかかったボールの特徴を熟知していれば、
 球が相手のラケットにあたった瞬間にどこにどんな球がいくか判別がつくだろう。
 あとはそれに対処しながら、相手の球を逆利用すればいいだけだ』
ジョンに言われた通り、ラケットにあたる刹那の球に集中してみると、
確かにお互い球に回転をかけて戦っている。あるときは相手の回転を逆回転で殺し、
またあるときは相手のかけた回転を倍返ししていた。レベルが違いすぎる。
結局9-11でハルヒの勝ち。周りからハルヒに祝福の拍手が贈られた。
その隣で落ち込んでいる有希に、
「今日は一緒に寝よう。家族なんだから一緒の部屋に居て当然だ」と伝え、快諾を得た。

 

それから数日、ツインタワーからの希望者と石巻市に引っ越す予定の世帯からの希望者が出て、
ホテルもスキー場も運営が可能になった。来年の冬は二つ目のスキー場をOPENすることができるかもしれん。
当然その間は政府の人間は現地でこれまで通りの仕事、
ハルヒと青有希が従業員にハルヒ味をマスターさせ、
俺と青ハルヒは週末の料理長のおススメ料理を作る以外は全員元の仕事に戻っていた。
テレパシーで会議をする必要が無くなったある日の朝、
「すまない、後で俺も参戦するが人事部にやってもらいたいことがある」
『やってもらいたい事?』
圭一さんと俺の父親だけだと思っていたが、全員が喰いついてきた。そこまで大袈裟なものでもないんだが…
「キョンがそんな言い方をするからには、よほど重要なことらしいね。ぜひ聞かせてくれたまえ」
「この前の佐々木の名案じゃないが、盛岡に引っ越しをする前にもう一度調査をして欲しい。
 岩手県では宮古市に第二のビルを建てるつもりだ。あそこなら漁が可能だからな」
「キョン君、それがどうかしたんですか?」
「盛岡市のツインタワービルに引っ越す予定の世帯の中で漁業を生業としてきた人も交じっているはずだ。
 そういう人にはもう半年我慢してもらって宮古市に行けば、引っ越しは一回で済む。
 引っ越して一週間以内に車と船をこちらで用意すると言えば、おそらく承諾してくれるだろう。
 もし断られたとしても、半年分の生活費をこちらから支給すると言えば問題ない。
 加えて、その世帯数分、盛岡市のツインタワービルに空きができる。
 漁業をするわけでも、宮古市に執着するわけでもないのなら、その分他の世帯が入ることが可能だ。
 漁業のために宮古市に引っ越して、空きが出たところに再募集をかけるよりこっちの方がいい。
 やることは至って簡単だ。盛岡市のツインタワービルに引っ越す予定の全世帯に連絡を取って、
 漁業を生業としているかどうか聞く。そのあと、今俺が話した事を伝えて、どうするか検討してもらう。
 全て連絡が終わり次第、宮古市に引っ越す予定だった世帯に早いもの順で連絡して、
三月下旬に引っ越しが可能かどうか確認すればいい」
「なるほど、一世帯ずつ連絡するのは面倒だが、そういう連絡なら人事部の社員もやる気が出るだろう。
 双方の利害を一致させた名案だ。早速社員に伝えて取り掛かることにするよ」
「では僕も人事部で一件ずつ連絡することにしましょう。一人でも多い方が負担を減らせますからね。
 しかし、あなたからこういう話が出てくるということは、
とっくに福島の復興支援プロジェクトの構想が出来上がってそうですね。
ついでに聞かせてもらえませんか?他の二県とは違ってビルを建てるだけでは人が集まりませんからね」
「ああ、福島の原子力発電所を放射性物質が外部に漏れないように閉鎖空間で囲むつもりだ」
「はぁ?あんなもの壊しちゃえばいいじゃない!エネルギー弾一発で十分よ!」
「うん、それ、無理。まず何より破壊した瞬間に放射性物質が広がるし、
 たとえ閉鎖空間で覆っていたとしても、原子力発電所が無くなっていれば、
 マスコミの眼は復興支援プロジェクトをしているわたし達に向くわよ。
 エネルギー弾一発で破壊して閉鎖空間で放射性物質が広がらないようにしたなんて説明できないし、
説明したとしても信じてもらえないわ。それに、『なんで破壊したんだ!』とか
『放射性物質をどこにやったんだ!』なんてクレームがきちゃうわよ」
「ということだ。さっき話した電話の件が終了次第、俺は除染作業に回る。
 あとは福島県知事と連絡を取り合って、定期的に検査させて全国に報道すればいい。
 埃を集めるときの磁場と同じ要領でやればいいだろう」
「うん、それも、無理。これだけあなたのことを心配してくれてるハルヒさんを未亡人にする気?
 たとえ身体が汚染されないような膜を張ったとしても、異常がないなんて言いきれるのかしら?
 あなたの案で行くなら、除染作業はわたしと有希さんで行くのがベスト。そう思わない?」
確かにな。未来人も超能力者も異世界人も人間であることには変わりない。
お言葉に甘えて宇宙人二人に頼むとするか。
「わかった。除染作業については二人に任せる。
俺は電話の件が終わり次第、車と船を作るよ。有希は車道の復旧も頼む。
それから、この中で閉鎖空間を作れるメンバーは、より大きな閉鎖空間を作れるように修錬を積んで欲しい。
他の人も、この機会に閉鎖空間を作る修行をしてくれてもかまわない」
「それはかまいませんが、一体何をやろうと言うんです?」
青古泉の言葉にWハルヒの眼が輝いている。表には出ていないがW佐々木も同じだろうな。
やれやれ、まだ何も説明してないってのに…イベント事にはすかさず飛び付いてくる。
「俺たち全員で行う史上最大のパフォーマンスだ。地図にSOS Cityと記載されたんだ。
 今度はカレンダーに『SOSの日』と載せてやるよ」

 

そのあと、「そんなんじゃ説明にならないわよ!」だの「またキミは僕を焦らす気かい?」だの
色々と言われたが、あと一年以上待たなければいけないイベントだしな。
できるだけ大きな閉鎖空間が作れるようにならないと規模が広すぎて閉鎖空間では覆いつくせない。
今は復興支援プロジェクトが先決だ。
結局人事部メンバーにW古泉、俺が入り、三日かけて全ての電話連絡が終了。
次のタワーが完成するまで待っていてくれと伝えた世帯は大喜び。
すぐにでも引っ越しの準備をすると伝えてきた。
有希や朝倉が福島の除染作業に入ったところで、福島県知事に連絡。
除染作業をしたから、定期的に調査をして全国に報道して欲しい旨を伝えた。
三月下旬から盛岡のツインタワービルの引っ越し作業。契約は全て有希が担当し、
仙台のツインタワービル同様、俺たちで店員をしたり、レジ係になったり、総菜を作ったり。
よくよく考えてみると、スキー場を含めて別に全てのタワーの総菜をハルヒ味にする必要もなかったな。
俺たちが店番をしている間、森さんが住民と面接。働いて生活を安定させたい人ばかりだからな。
今回もサイコメトリーの必要はなかったようだ。
SOS City同様、大手チェーン店からビルが建設されたらフロアを貸してほしいという連絡が入った。
盛岡市も高層タワーが建ち並ぶ街になりそうだ。
四月に入り、幸の小学校の入学式の日。朝からランドセルを背負ったままずっとはしゃいでいた。
服は式典に合わせたものを着ていたが、明日からは青有希が服をチョイスしてくれるはず。
まわりから一目置かれるようなファッションになると俺たちも鼻が高いと言うべきだろうな。
『幸ばっかりずるい!キョンパパ、わたしにもランドセル!』
案の定双子が幸のことを羨ましがっている。
「二人の誕生日にプレゼントするって約束したろ?俺が『それまで待てるか?』って聞いたら
 『あたしに任せなさい!』って言ってたの忘れたのか?」
『ぶー、わかったわよ』
高校生時代のハルヒと同じ表情だ。逆三角形の眼にアヒル口。
最近はほとんど…いや、全くと言っていいだろうな。ハルヒがそんな表情になったのは…いつ以来だっけ?
幸の小学校入学祝いも兼ねて、ドーナツでも買ってきてやることにしよう。
「すまないが、小学校の校門前で三人で写真を撮りたいと思ってる。
黄有希か黄朝倉に一緒に来て欲しいんだが、頼めないか?」
「わかった。今年はわたしが撮る。でも、来年はわたしも双子と一緒に入りたい。
 朝倉涼子、来年はあなたが撮って」
『有希お姉ちゃん、何しに行くの?』
「幸が小学校に入学するところを記念撮影する。
二人も保育園から帰って来たらアルバムを見せてもらえばいい」
『アルバムってなあに?』
「覚えてないかもしれんが、二人が何かできるようになる度にハルヒが二人の写真を撮ったんだ。
 それをまとめたものがアルバムだ」
『キョンパパ、アルバム見たい!』
「有希お姉ちゃんが言ってただろ?保育園から帰ってきてからだ」
アルバムの話を聞いて笑顔が表情に出ていたが、すぐ見られないと知ってアヒル口に戻っていた。
足取りは重かったが、おじいちゃんと一緒に保育園まで歩いているうちに次第に楽しそうにしていたらしい。
まぁ、おじいちゃんと一緒に行くのは初めてだからな。帰りはおばあちゃんに迎えに来てもらうのも悪くない。
昼食を作り始めた頃、入学式を終えた四人が帰って来ると、有希がカメラで撮影した映像をDVD化し、
青俺と青有希でその映像を何度も見ていた。この二人、結構親バカかもしれん。
幸も一向にランドセルを降ろす気配がない。今日はずっと背負ってそうだな。
それから、ランチの片付けが終わった俺の母親が保育園へ双子を迎えに行った。
81階のエレベーターから出てくるなり第一声
『キョンパパ!アルバム!』
案の定出てきた台詞に99階からテレポートしておいたアルバムを双子に渡した。
先ほどの青俺と青有希ではないが、二人とも真剣な表情でアルバムを見ていた。
「キョンパパ、これ、わたし?」
「そうだ。これは伊織が初めて立ったときの写真だな。
ハルヒママに『あんたは偉い!』って言われて抱きしめられてたんだぞ?」
頭を傾けて考え込んでいるが、覚えているわけがない。
目先の物欲しさにケーキだ、リゾットだ、ジュースだと言ってた頃だからな。
『キョンパパ、もっと写真撮って!』
「ああ、これから沢山増えていくから、ちゃんと覚えておけよ?
 今度撮るのは二人の誕生日だ。ろうそくの火を消すところと、ランドセル背負ったところかな?」
『あたしに任せなさい!』

 

その後しばらくの間、青有希が幸の後ろについて小学校まで迷わず辿り着けるか監視。
双子は俺の両親と一緒に保育園へと向かった。
たまに愚痴をこぼすこともあったが、なんだかんだ言っても孫と一緒に行くのが嬉しいらしい。
来年度は幸が双子を小学校まで案内してくれるから心配いらんだろう。
ハルヒや祖父母の親バカが発動しない限りはな。まぁ、俺も人の事は言えんかもしれん。
スキー場はまだシーズンの真っ最中。当然政治家たちが今も働いているところだが、
首相が掲げていた「四月に消費税率を元に戻すこと」が現実となり、首相の株もさらにアップ。
「次のシーズンも現地で働く」と豪語していた。
ニュースのコメンテーターとして出演していた元政治家もぱったりと見なくなり、
どこで何をしながら暮らしているのやら…まぁ、俺の知ったことではない。
嫌々ながらも毎日、真面目に働いていれば首相以外の政治家への信頼も上がってくるだろう。
自分の都合のいいようにしか頭が働かない元政治家には隠居生活がお似合いだ。
四月も終わりを迎える頃、石巻市への引っ越し作業が開始。
既に車も船も全て準備が整い、五月に入ってすぐ漁に出ていた。
俺はその間SOS City、石巻市の市長二人と宮城県知事の四人で第三段階の打ち合わせ。
次に復興するなら大崎市か気仙沼市あたりが妥当だと踏んでいるのだが…
人事部には宮城県に戻りたいという電話はほとんど来なくなっていた。
70階と50階のツインタワービルだからな。
SOS Cityと石巻市で元宮城県民のほとんどが戻ってきていると見ていいだろう。
結局、出来る限りのPRをするという事だけしか決まらなかったが、
SOS Cityも石巻市も都心と変わらないくらいの超高層ビルが立ち並んだ都市になった。
何かしらの不具合があれば、その都度要望に応えていけばいい。

 

スキーシーズンも終わり、政治家たちは本来の職務に戻った。
俺も男子の日本代表としてチームに合流し世界各国を回っていた。監督からは、
「女子の日本代表のように、セッターの采配が読まれないようにしたい」
と言われ、八月の初めと二月の後半は男子の日本代表が我が社で練習及び練習試合をしたいと言う。
メンバーとも相談したが、流石に四週間ずっとバレーとディナーに追われては
全員疲弊しきってしまうということで意見が一致。
それならばと、大会期間中は練習試合の時間を多く取って、
俺がレギュラー陣を相手にサーブやセッターの采配を読み取る役になると監督に進言。
ハルヒからサイコメトリーさせてもらった他国語で、相手の指示も俺には全て分かる。
もし、対戦相手にこちらの采配を読む選手がいたとしても、俺がセッターとして出るだけでいい。
フェイクを交えて相手の司令塔を混乱させるまでだ。
そして、ついに解禁となった零式で多彩な攻撃を仕掛け、技の名の由来通り理不尽に点をもぎ取っていった。
零式の対策はどの国も立ててきてはいるが、あまりのバリエーションの豊富さに
次は何で来るのか読めず、常に後手にまわっていた。
零式のストレートにクロス、サイドラインギリギリを狙った三式、零式と見せかけて相手選手を狙ったり、
相手選手の真正面に撃って腕を蔦って胸に収まったり。だが、零式だけが俺の武器じゃない。
「ブロードのC!コースを塞いで自滅させろ!」
指示通りに動いた前衛による三枚ブロック。自滅はしなかったもののワンタッチでチャンスボール。
エンドラインまで下がった俺にトスが上がり、理不尽スパイク零式が炸裂。
全試合、三セット連取の圧勝で各国をまわっていた。

 

深夜、ジョンの世界に俺が行く度に双子が俺のところへと駆け寄ってくる。
『キョンパパ凄い!わたしも早く試合やりたい!』
試合がしたいと言っても、幸を入れたとしても三人しかいないんじゃバレーにならん。
期待に応えてやりたいが、レシーブ出来るほど腕も長くないし…どうしたものか…
「キョン、二人の希望に応えてあげたまえ。ENOZと一緒に練習してくるといい」
それができないから困っているんだろうが…と呆れていると
「くっくっ、どうやらキミは自分がやったことを忘れてしまっているようだね。
 双子を成長させれば済むことじゃないか」
ダメだ。佐々木の意図がさっぱり分からん。とにかく、
「俺が自分でやったことって何だ?それに、双子を成長させるなんてできるか!」
「キョン、僕をあまり失望させないでくれたまえ。仕方ない、ヒントだけキミに教えることにするよ」
こいつの言い草じゃないが、答えに辿り着いているのなら早く教えて欲しいんだが…
「『自由の女神』だよ、キョン」
なるほど。確かに俺が自分でやった。
ハルヒを妖精にしたり自由の女神と並べたりしたのをすっかり忘れていた。
これなら実力によっては日本代表との練習試合に出られるかもしれん。
「二人とも、試合に出られるいい方法を思いついた。その代わり、みんなには絶対内緒だぞ?」
『キョンパパ、それ、ホント!?わたしも試合したい!』
「じゃあ、今から二人が大きくなるから驚くなよ?」
『わたしが大きくなる?』
何が起こるのか考え込んでいるうちに次第に背が伸びていく。
ついでに二人にユニフォームを着せ、番号はENOZの次。背中にはちゃんとIORI、MIKIと入れた。
シューズも俺たちと同じものを用意して拡大終了。二人とも自分の体をあちこち触っている。
「これで二人とも大人になった。皆と一緒に練習ができるはずだ。
 レシーブ練習して、もっとうまくなったら、ママも呼んで試合するぞ」
『あたしに任せなさい!』

 

ところでジョン、双子を拡大したのはいいが、現実世界に反映されているなんてことないだろうな?
ハルヒが起きて双子の様子を見た瞬間に、最大級のテレパシーが飛んでくるのは勘弁して欲しいんだが…
『今、モニターで確認した。キョンの予想通り反映されているようだ。
 朝になったらハルヒに気付かれないうちに俺が元に戻しておく。
テレパシーは俺にも届いてしまうからな。鼓膜が破れそうな思いをするのは御免被りたいね』
ところで、年越しのパフォーマンスの件なんだが…
『ああ、分かってる。布石を打つんだろう?今年はキョンに任せるよ』
有希に思考を読まれるのは困るが、古泉同様、阿吽の呼吸で会話ができる。本当にいい相棒を持ったもんだ。
「伊織パパ、わたしも試合したい!」
いつの間にやら青有希から離れて俺のところに幸が来ていた。幸の言葉に青有希も驚きを隠せないようだな。
「黄キョン君、この子も双子みたいにして。わたしもこの子と一緒に試合してみたい」
結局三人とも拡大して練習に参加。
ENOZに球出しをしていた古泉も何を言ってよいやら分からない顔をしていた。
成長した幸を見た青俺は立ったまま呆けている。
まぁ、成長と言っても拡大しただけなので腕や足が細いのは変わらないが、
朝比奈さんのようなダイナマイトボディにはならず、身体は幼児体型のままだ。
見る人によっては男と勘違いされそうだが、全員の前でダンスを踊って以来、
美姫はハルヒと同じ髪型、伊織も有希と同じ髪型にするようになった。
俺たちも双子の区別がつきやすいし、考えるだけ無駄に終わりそうだ。
バレー合宿が近づきジョンの世界に全員揃ったところで、双子にハルヒを驚かせようと伝えておいた。

 

世界各国を回って今年のFIVBも終盤に差し掛かり、
日本での会場は例年通り我が社の体育館が使われることになった。
久方ぶりの自分の部屋で一息吐き、すぐに着替えてディナーの支度へとかかる。
監督が男子の日本代表も我が社で合宿をさせてくれと言ったのも、新川流料理が目当てだったらしい。
短い期間だが、存分に堪能してもらう事にしよう。調理場は俺と古泉、青ハルヒで十分。
タイミングを見計らって接客用の服に着替えたメンバーが降りてきた。
ENOZもスキー場のレストランで着たメイド服が気に入ったらしい。四人とも接客にあたっていた。
そして、双子がこの日になるのをずっと待ちわびてきた七夕の日、
大分古くなったが、子供たち三人が作った飾りでフロアを囲み、テーブルには短冊、
夏の大三角形が見える南側に笹を用意した。
我先にと81階に現れたのは、案の定双子に強引に連れて来られたハルヒ。
「もー…待ちわびていたのは分かるけど、何もドロップキックで起こすことないじゃない!」
あー…、ハルヒよ。それは間違いなくうちの血筋だ。馬鹿妹に毎朝それで起こされていたからな…
『キョンパパ!!机!ランドセル!ケーキ!!』
自分の今欲しいものを直球で強請ってきやがった。
「みんなが揃って誕生日の歌を歌ってからだ」
『じゃあ、みんな起こしてくる!キョンパパ、カード!』
こっちは間違いなくハルヒの血筋だな。各階の呼び鈴を鳴らして回りそうだ。
だが、幸も含めてそろそろカードキーを渡してもいい頃だ。
もし、無くして誰かが悪利用しようとしても本社の入口ではじかれて、エージェントに取り押さえられる。
「そうだな、そろそろカードキーを渡してもいい頃だ。だが、パーティまで我慢できなきゃ渡せない。
 今日は短冊に願い事を書く日だし、ママと一緒に文字の練習しよう」
『ねがいごと?』
「そうだ。大きくなって何になりたいかちゃんと綺麗な字で書くんだぞ?」
『22歳になったときの願い事』というより『大きくなったときの』と言った方がわかりやすいだろ。
ジョンの世界で実感しているからな。すでに眼が輝いている。
『キョンパパみたいにバレー強くなる!』
99階にしまっておいたスケッチブックとクレヨンをテレポートし、
朝食が出来上がるまで時間を潰してもらう事にしよう。
幸は問題ないだろうが、そろそろ平仮名くらいは書けるようになった方がいい。
二人の名前の由来も含めてな。

 

短冊に書く文字を練習している間に続々とメンバーが出揃い、朝食と四つのホールケーキが机に並んだ。
無論、内二つはHAPPY BIRTHDAY IORI(MIKI)と書かれたチョコレートの板が添えられている。
ハルヒの音頭に合わせて全員合唱。「せ~の!」
『Happy Birthday to you~♪Happy Birthday to you~♪Happy Birthday Dear OriHime~♪
 Happy Birthday to you~♪誕生日おめでとう~』
『ハルヒママ、「おりひめ」ってなあに?』
去年までは全く気にしてなかったがようやく気付いたようだ。
「あんたたちが二人揃ったら『織姫』ってなるように有希が名前をつけてくれたのよ」
『有希お姉ちゃんが?』
そのあと、ハルヒが七夕について語り出し、二人はその話に聞き入っていた。
ランドセルと机のことはすっかり忘れてしまっているようだ。
話が終わったところで有希が情報結合した習字道具に朝比奈さんが二人の名前を漢字で書いて見せた。
「これからは、織姫って呼ばれたら二人とも返事するんだぞ?名前呼ばれたら何て言うんだっけ?」
『はい!』
「よろしい。それじゃあ二人にプレゼントだ」
キューブを拡大し机とランドセルが姿を現した。ランドセルはベッドと同じ水色とピンク。
机は二人が向かい合って勉強できるように、アメリカ支部と同じS字型のガラステーブル。
加えて、移動式の木製引き出し。本棚と洋服タンスは別に用意すればいい。
座り心地のいい椅子に座って二人とも喜んでくれている。気にいってもらえて何よりだ。
「なるほど、双子ならではの机ですか。これならお互い教え合いながら勉強できそうですね」
『キョンパパ、早く小学校行きたい!』
「それはいいが、二人ともケーキは食べないのか?みんなで食べちゃうぞ?」
『あ――!!わたしのケーキ食べちゃダメ!!』
その後、全員にカードの件を伝えて、子どもたち三人にカードを情報結合して手渡した。
まだまだ文字を書く練習は必要なようだが、三人の書いた短冊には、
「ばれーつよくなる いおり」「ぱぱみたいになる みき」「ママとバレーする さち」
と書かれていた。幸の方はカタカナも書けるようになったらしい。
三人を見送って机や椅子、ランドセルを99階へとテレポート。俺もそろそろ練習の時間だ。

 

ENOZのフロアの下に作った練習用体育館で、相手国は既に練習を始めている。
練習内容はネット際の高速回転の球のレシーブ。零式対策と見て間違いはない。
朝食を終えた日本代表チームがようやく現れ、アップ後すぐに練習試合。
セッターを変えながら相手に采配を読ませない練習だ。
昼食や夕食は古泉に任せ、ディナーの仕込みは青ハルヒに委ねてきたが、
日本代表は試合前に俺が疲れを取るからいいとして、午前中からこんなに張りきって大丈夫なのかねぇ。
午後の練習を早めに終えてディナーへと向かった。
いくら試合があるからとはいえ、新川流料理を急いで食べるなどもってのほか。
万全の状態で51階へと向かった。
毎度のことながら、日本で試合をするときはハルヒが応援団長。
頼むからサラシはやめてくれと言っていたのがようやく聞き入れてくれたらしい。
それでも学ランに鉢巻は変わってないけどな。
「応援団長と言ったらこの格好に決まってるじゃない!
あたし自らあんたの応援するんだから、醜態をさらすんじゃないわよ!」
やれやれ…ハルヒ以外の連中も相変わらず赤いユニフォーム姿にド派手なうちわ。
ENOZどころか子供たちまで…三人が有希に強請ったか、事情の知っている古泉が作ったのかもしれん。
まぁいい、FIVBの全試合が終わったら、三人の成長ぶりを皆に見てもらうことにしよう。
それまでは応援で我慢してもらう。
主審の笛が鳴って俺のサーブ。通常サーブはもちろん、理不尽サーブ二式だけでなく、
サイドラインギリギリを狙った三式まで対応されるようになってしまった。
だが、それもやり方次第。まずは零式の回転と軌道で相手のコーナー目掛けて撃った。
零式だと踏んで前に突進してきた前衛を嘲笑うかのように頭の上を通りすぎ、
コーナーに後衛が寄っていたが、真正面でレシーブすることができずに大きく乱れた。
第二球、同じ軌道で理不尽サーブ三式。
今度は前衛が出遅れ、なんとかつないだもののこちらのチャンスボール。
シンクロ攻撃で相手コートにボールを叩き込んだ。
『パパ頑張って――!!』
と双子も応援してくれているし、カッコ悪い父親の背中を見せるわけにはいかん。
圧勝では生温い。25-0で終わらせてやる!

 
 

…To be continued