500年後からの来訪者After Future1-7(163-39)

Last-modified: 2017-05-04 (木) 10:39:51

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future7163-39氏

作品

結局、0点に抑えることは出来なかったが、俺が前衛にでることなく全試合を終え、元の業務に戻っていた。
今後の予定はというと七月末に福島市民を移住させ、生活が安定するまでは俺たちが店員として入る。
福島県知事に前もって伝えてあったからか、毎月放射性物質がないか検査させたものを全国に告知していた。
六月ごろには「十二月のいわき市のビルのOPENを待ってくれ」と圭一さんが伝えるほどになっていた。
さらに電話を受けた際に職業を聞き、以前俺が提示した方法で
漁業を生業とする世帯にはもう半年待ってもらっていた。
そして、八月後半のバレー合宿。その合間を縫って宮古市に移住する世帯の引っ越し作業。
引っ越しについてはバレーと関係ないエージェントが向かえば済む。W古泉も午前中は回ってくれるだろう。
新戦力も得たことだしな。
九月に宮古市のツインタワーがお披露目となり、十二月にいわき市のツインタワーがOPEN。
それと同時に宮城県のスキー場をもう一つOPENする手筈を整えた。
全スキー場を修繕しすぐにでもOPENさせられる状態にしたが、これ以上は流石に増やせそうにない。
政治家連中には新しくOPENする方のスキー場とホテルの従業員になってもらうことにして、
スプリングバレースキー場のリフト乗り場にも空調を整えた閉鎖空間で覆うつもりだ。
料理長のおススメは俺と古泉で分かれ、俺は新しいスキー場の方へと赴く。
結局、青俺の提案から始まった復興プロジェクトも一年半で終えることができそうだ。
スキー場なら岩手県の方も作ることが可能だが、福島も含めてあとは現地の人間に任せることにしよう。
青ハルヒとの温泉旅行も十月ごろには行けるはずだ。それに例の計画もな。
因みに双子の誕生日に机をプレゼントして以来、
双子には漢字練習帳に毎日一ページずつ平仮名の練習をさせていた。
「あいうえお」から始まって、俺とハルヒで書き順も指導した。
自分の名前くらいは書いてもらわないとな。

 

七月の中旬が終わろうとしていた頃、ジョンの世界にはENOZや子供たちも含めて総勢27人が集まっていた。
アップ後、すぐに試合をしようとしていたハルヒと有希の手を双子が引っ張る。
「ハルヒママ、有希お姉ちゃん、こっちきて」
伊織の言葉に二人が誘導され、俺のところまで連れてきた。
「もう、何だって言うのよ!あんたも早く準備しなさい。練習始めるわよ!」
「二人とも、わたしがいいって言うまで目瞑ってて」
数秒後、美姫が「もういいよ」と言ったのを受けて、二人が目を開ける。
ハルヒと同じ背丈の双子を見て、有希と二人で目を丸めていた。ようやく気がついて、ハルヒの怒号が響く。
「このバカキョン!あんた、自分の娘の身体まで弄って何やってんのよ!」
「二人とも試合がしたいって言っていたところに佐々木がアイディアを出してくれたんだ。
 これならレシーブ練習も試合も可能だ。な?」
『ハルヒママ、試合!試合!』
「凄い。わたしも予想外。ユニフォームに靴まで…」
「いくらあんた達でも、あたしに勝負を挑むなんていい度胸してるわね!
いいわ、相手になってやろうじゃない!」
そのあと、幸も同様に拡大。W俺、青有希、子供たちという変則チームVS俺を除いた黄チーム
隣りのコートでは青チームVS OG。ENOZは青チームやOGと交代しながら試合に出るそうだ。
「やれやれ、キョンにアイディアを提供したのは僕だが、どうやら強敵を作ってしまったようだね」
「三人とも凄い気迫…怖いくらいです」
「よいではありませんか。戦いがいのある相手かどうか、試させてもらう事にしましょう」

 

こちらのサーブ順は青俺、伊織、美姫、俺、幸、青有希の順。
古泉のサーブからスタート・・・「伊織、一歩右だ!」
大学時代よりも一回り大きくなり、サーブの威力も俺と同等かそれ以上。
OGも最初は腕を痛めていた球だが、真正面でレシーブし、見事に俺の頭上へと上がった。
『キョンパパ!』
青俺も入れて三人同時のシンクロ攻撃。俺の采配は美姫のBクイック。
油断していた黄チームのコートにボールが叩きつけられた。全員青俺を警戒していたらしいな。
これくらいで驚いてもらっては困る。とっとと次に行かせてもらう事にしよう。
青俺のサーブ、黄チームの前衛はハルヒと佐々木。有希はツーも撃てる。俺と双子でそれぞれ三人を警戒。
青俺が撃った理不尽サーブ二式を素早くネット際に突っ込んだ佐々木から絶好の球が有希の頭上に上がる。
この状況で俺なら・・・朝倉との超光速連携!「青有希!二歩前だ!」
久しぶりにセッターがボールに触れる前に指示が出て有希も驚いていたが、もう手は変えられない。
案の定、朝倉のバックアタックが青有希めがけて飛んで行く。
だが、試合開始直後でこのスピードには反応出来ず、レシーブを大きく乱して、黄チームの得点。
一つローテーションが回ってハルヒのサーブ。撃つ前からにやけてやがる。
狙いは・・・どうやら俺らしいな。セッターが俺しかいないと踏んだらしいが…驚くなよ?
「美姫!スイッチだ!」
『!!!』
すかさず美姫がセッターのポジションへ。俺のレシーブした球が美姫の頭上にあがる。
「美姫!俺によこせ!」
黄チームの前衛は有希、佐々木、朝倉の三人。ブロックに跳んでも仕方ないと踏んだらしい。
有希が俺と一緒にブロックに跳び、残り全員の眼が俺に集中する。
しかし、美姫の采配は俺を囮に、幸によるバックアタック。
俺のスパイクに備えてレシーブに構えていたが切り替えができずに佐々木と朝倉の間に落ちた。
「ナイストス、美姫」「キョンパパ、わたし、またセッターやってみたい!」
「俺が狙われたらセッターはおまえだ。次のセットはポジションを変えて美姫がセッターやってみればいい」
頭を撫でながらそう言うと、美姫が嬉しそうにしていた。
幸も青俺と青有希の二人から褒められて嬉しそうだ。
「一緒に練習していたはずなのに、まさかここまで成長しているなんてね。僕も予想外だよ」
「もはや、戦いがいのある相手なんて生易しいものではありません。僕も子供たちを甘く見ていたようです。
オープントスからの彼のスパイクで来ると一寸たりとも疑いませんでしたよ」
「面白いじゃない。あたしに勝負を挑んできただけのことはあるらしいわね。
 でも、そうやすやすと勝ちを譲るほど甘くないわよ!」
黄チームの眼の色が変わった。ようやく好敵手として三人を見てもらえたようだ。
こちらもローテーションを一つ回して伊織のサーブ。エンドラインのさらに後ろからトスをあげた。
「そんな…ジャンプサーブまで撃てるんですか!?」
「いくらなんでも無茶。でも、まだ安定していないはず。こっちは伊織のミスを待てばいい」
伊織のジャンプサーブを俺も見ていたが、一切無駄の無いステップから、ボールの中心を捕えた音が鳴った。
既に有希を除いてレシーブの態勢に入っていたところに、伊織のサーブが白帯に当たり、
理不尽サーブになるとすかさず判断した佐々木が前に詰め寄る。
だが、白帯にあたったボールはそのままネットを蔦って真下に落ちた。
零式を開発した俺自身もネットを蔦って落ちたボールに対して何と言っていいかわからん。
OGが完成版零式を撃てるようになったところで封印したはずなんだが…
世界大会で零式を見ただけでトレースしてしまうとは…
ハルヒ以上のセンスの持ち主と言っても過言ではなさそうだ。
その後、伊織の二球目はサイドラインギリギリの理不尽サーブ三式だったが、
前につめたハルヒに取られ、黄チームにサーブ権を奪われてしまった。
セットを勝ち取ることは出来なかったが、三人とも満足気な表情だ。
『ハルヒママ、今度はわたしが勝つ!』
「面白いじゃない、あんた達の挑戦いつでも受けてやるわよ!
 でも…バレーがここまで上手になってるなんて、ママも嬉しいわ」
嬉し涙を流しながらハルヒが双子に抱きついた。
『時間だ』というジョンの合図に子供たちは元の大きさに戻っていた。

 

翌朝、いつものように青ハルヒと朝食を作っていると、身支度を整えた双子がハルヒより先に降りて来た。
『キョンパパ、わたしも日本代表になれる!?』
「ちゃんと練習を続けて、身体も成長したらな」
もっとも、身体を拡大した伊織が零式を撃てば、間違いなく日本代表入りだろうな。
まだ平仮名もろくに書けない幼稚園児だって言うのに…
そこへ不機嫌オーラ全開でハルヒが現れた。どうしたんだコイツは。
「あんた、伊織にどんな練習させたのよ!いきなり完成版の零式を撃ってくるなんて信じられないわよ!
 …って、あ――――っ!あんた二人にエネルギー渡して自分をサイコメトリーさせたのね!?」
『さいこめとりー?』
「おまえ、少しは自分の娘を信用しろ。
ずっと一緒に練習していた古泉や佐々木だっていきなり零式を撃たれて驚いていただろうが。
ハルヒや有希がジョンの世界に来るまで、レシーブ練習とスパイクのステップ練習しかしてなかったんだ。
俺たちの試合を見て真似をした以外に考えられん。
おまえのセンスをそのまま受け継いでハルヒ以上のセンスを持っているようだしな」
「それでも納得がいかないわよ!あたしだってあんたのサーブ撃てないのに!」
「黄あたしもそんなにイライラしなくてもいいじゃない。
あたしだって伊織が零式撃ったときは悔しかったけど、自分の娘が日本代表になるかもしれないんだから。
それまでにキョンの零式が攻略されなければだけどね」
「フン!零式なしでも日本代表に選ばれるくらいの選手にしてやるわよ!」
この前の双子じゃないが久しぶりに見たな。逆三角形の目にアヒル口。
「二人とも良かったな。これからはハルヒママがバレー教えてくれるぞ」
『ホント!?わたし、ハルヒママと一緒に練習したい!』
二人の言葉を聞いて、一瞬にしてハルヒの表情が穏やかになった。
「あんた達、あたしが教えるからには徹底的にやるわよ!覚悟できてるんでしょうね!?」
言ってる事と表情が一致してないぞ?ハルヒ。それに比べて双子の方は、
『あたしに任せなさい!』
なんて言ってやがる。ハルヒに教えてもらえると聞いた辺りから、ずっと目を輝かせていた。
しかし、本人の目の前でそれをやるか?普通。

 

福島に移住を希望していた世帯の引っ越しが全て終了し、八月も十日ほど過ぎた頃
ようやく俺たちがいなくてもツインタワーの住民で仕事を回せるようになった。
ツインタワー周辺のビルや施設も既に建築して大手チェーン店と契約済み。内装の工事に入っている。
まだ宮古市といわき市へと引っ越す住民が残っているが、
有言実行、SOS City、盛岡、福島の三地区を復興させたんだ。俺たちに文句を言うのは精々元政治家くらい。
朝のニュースでは取り立てて何もなかったが、朝食を食べていと圭一さんが口火を切った。
「福島のツインタワービルが安定するまで黙っていたんだが、いい知らせが二つある」
『いい知らせ?』
それを聞いてWハルヒが興奮している。
ハードルを上げておいて、そこまでいいものじゃなかったなんていうのは勘弁してくれよ…
「ああ、一つ目は岩手県知事から連絡があった。
ホテルやスキー場で働く人材をこちらで確保したから、
宮城県のようにスキー場を復旧してもらいたいらしい。
 それと二つ目だが、若手の政治家から何件か連絡があってね。
自分も現地で働かせて欲しいそうだ。どうするね?」
「くっくっ、キョン、キミって奴はどこまで僕を興奮させれば気が済むんだい?
 昨今の日本政府をキミの一言でここまで変えられるなんてね。
 革命を起こしたと言っても過言ではなさそうだ。
キミのサーブのように名前を考えておいてくれたまえ。
キミたちが載っている未来の歴史の教科書とやらも、見られるページが増えていてもおかしくない」
そういえば最近会いに行ってなかったな。未来古泉が待ちわびているやもしれんし、
佐々木の言う通り、見られるページが増えているかもしれん。
時間見つけて行ってこよう。今度はジョンではなく俺が指してみるのも悪くない。
「それで、どうするんです?今回は人材に困ることはなさそうですが、
 料理長のおススメ料理を目当てに来る客が多数いることに違いありません。
 二カ所なら僕とあなたで分かれることが可能ですが…」
「フフン。黄古泉君、それはあたしが解決してあげるわ。
あたしが残った一つのホテル行って調理すればいいわよ。
キョンが政治家たちと一緒のホテルで働いていれば、あんたの方が格上だって見せつけられるわよ」
だが、青ハルヒの案で行動したとしても、それでは二月のバレー合宿中のディナーが用意できなくなる。
「問題ない。二月のバレー合宿中は週末だけ80階で食べればいい。
 まだそこまでの予約は入っていないはず。日本代表チームもずっと三階でディナーを食べていた。
 80階なら料理と一緒に景色も楽しめる」
「なるほど、予約を入れずに新川がディナーを作るということか。
 分かった。その期間中の週末の予約は受け付けないようにしよう。社員にもそう伝えるよ」
有希の名案が炸裂したが…頼むから俺の思考を読まないでくれ。
「どうやら決まりのようね。名前はどうあれ、未来に行くならわたしも連れて行って欲しいわね。
 彼と久しぶりに対戦したかったのよ。冊子も出来上がってるし、丁度いいわ」
「では僕もお願いしたいですね。ジョンとの一対一でなく、
久しぶりに三人でローテーションするのも悪くないでしょう」
「ちょっと、ちょっと!黄涼子も古泉君もバレーがもうすぐ始まるんだから、
 早めに戻ってきなさいよ!?」
「大丈夫ですよ、涼宮さん。今回から新戦力が加わるんです。
三人ともずっと試合に出ていたいでしょうし、活躍させてあげるべきではないですか?」
『わたし、試合に出られるの!?』
「おまえ、日本代表相手に子供たちを出場させるのか!?」
未来に行けると踏んで朝倉と青古泉がニヤけてるし、子供たち三人は興奮して収まりそうにない。
俺も未来古泉と指してみたかったんだが…入る余地はなさそうだ。
そして、ジョンの世界に来ていないメンバーは大きく口を開けて呆けている。
まぁ、ジョンの世界で練習していた奴も驚いていたしな。
「ああ、実力はジョンの世界で練習していた奴全員の折り紙付きだよ。三人とも立ってみろ」
双子と幸が立ったところでユニフォームにドレスチェンジ。そのまま拡大してみせた。
「どうやら、日本代表と試合をするのが待ち遠しくて仕方がないようだね。
 折角の彼女たちのデビュー戦なんだ。出番を増やしてあげてくれたまえ」
『あたしに任せなさい!』

 

そのあと、朝倉と青古泉から「いますぐ未来へ連れていけ」とたたみかけられ、
出来上がっているという冊子を持ってプリンセス朝比奈さんの待つ未来へと時間跳躍。
有希は当たり前として、朝比奈さんも全然変わっていないようで正直安心した。
『我々サ○ヤ人は戦闘民族だ。戦うために若い時代が長いんだ』
おい、コラ、ジョン!どうして要所要所でそういうセリフを挟んでくるんだおまえは!
朝比奈さんのどこが戦闘民族だ!しかし、若い時代が長いことだけは適用してもらいたいもんだ。
既に三つ巴が始まっており、朝倉の殺気にプリンセス朝比奈さんが怖がっている。
殺気無しで将棋ができんのかあいつは。やれやれ…と思いながら遮殺気膜を張ると、
「こんにちは、キョン君。久しぶりですね。来てくれて嬉しいです」
つい先ほどまで怖がっていたが、遮殺気膜を張ってようやく安心して笑顔を取り戻せたようだ。
というより、本当に嬉しそうな顔をしてくれている。プリンセス朝比奈さんに喜んでもらえると俺も嬉しい。
「今まで来られなくてすみません。古泉も喜んでいるみたいで何よりです。
 本当なら、来られなかった分の冊子も…と思ったんですが…」
「いいえ、気にしないでください。今は復興支援プロジェクトの真っ最中だと聞きました。
 あちこち回って相変わらず忙しいみたいですけど、計画は順調ですか?」
「ええ、八割方終わったところです。俺たちが復興支援プロジェクトをやっているせいで、
一時は日本政府が崩壊寸前まで信用が落ちしましたが、
内閣総理大臣を筆頭に政治家が現地に赴いて働いているので、国民の信頼も少しずつ回復してくるかと。
ところで、俺たちが復興支援に当たっているせいで、俺のいる時間平面上でも時事問題として
社会のテストに取り上げられてもおかしくないくらいなんですが…
ここの教科書はどうなっていますか?」
「あなたが今思い描いている構想が全て終われば、全部見られる。
 でも、そろそろ他のメンバーに計画の全貌を話した方がいい。
 でないと、あなたが設定した日付までに間に合わない可能性がある」
相変わらず、どの時間平面上の有希も俺の考えを全て読まれてしまう。
だが、今回はそっちの方がいい。収穫もあったことだしな。
「そうか…帰ったらみんなに伝える。教科書のタイトルが『第二次情報戦争』だったからな。
 あの戦争のあと俺たちが一体何をやったのかずっと心配でならなかったんだが、
これでようやく安心したよ」
お盆前には二人を迎えにまた来ると伝えて俺だけ過去へと戻った。

 

未来の有希に言われた通り、夕食時を狙って全員に説明。
古泉は掌をおでこにあて、残りのメンバーは空いた口が塞がらない。
「お見逸れしました。そこまで大規模な計画だったとは…
僕にはそんなアイディア考えつきませんよ。
 これだけのメンバーが揃っているにも関わらず閉鎖空間をさらに広げる修行なんて…と思っていましたが、
 あなたの企画を聞いて納得がいきました。すぐにでも修行に励むことにします」
「古泉君、それは今月のバレーが終わってからでいいわよ。修行する期間なら十分あるしね。
 けど、キョンも考えたわね。あんたの言った通り、今度はカレンダーにSOSって刻みこんでやるわよ!」
「この時空平面上の未来がより安定するのなら、わたしにも手伝わせて下さい!」
「くっくっ、まったくキミって奴は……僕を退屈にしてくれないようだね。
 ぜひ僕にも閉鎖空間を作らせてくれたまえ」
佐々木が俺のエネルギーを使って閉鎖空間を作るとどうなるのか見てみたい。
ハルヒの灰色の閉鎖空間と違ってオックスフォードに染まった閉鎖空間が出来上がるのか?
前にジョンとやっていた閉鎖空間の色別性格占いでもやってみたくなった。
青ハルヒが確かオレンジだったな。だが、佐々木のことだ。
皆がいる前で見せるとは到底思えん。当日になってようやく閉鎖空間を展開するに違いない。
「ちなみにもう一つ、バレー合宿が終わって
宮古市のツインタワービルが落ち着いたところでやりたい事があるんだが…」
「あんた、これ以上出し惜しみしてたっていうわけ!?」
「ああ、青ハルヒにも言われて、自分でも勉強してみようと思って
色々と調べたいたところにいいものを見つけたんだ。特にイベントもないし丁度いいかと思ってる」
「それで、黄キョン君、一体何をするっていうんですか?」
青朝比奈さんのセリフを受けて、全員の眼が俺に向いた。なぁに、簡単なことだ。
「不思議探索ツアーだよ」
『はぁ!?』

 

またしてもお茶を濁した俺に、全員から非難を浴びせられたが、
下準備も何もいらないツアーだからな。その日まで内緒にしておこう。
未来へ二人を迎えに行くついでに、俺も未来古泉と一局指し、ジョンと未来古泉の対戦もやった。
俺は負けてしまったが、未来古泉も満足しているようだ。
『三人でローテーションしているうちに、この時間平面上の古泉一樹が強くなったんだろ。
 青チームの古泉一樹にそろそろ追いつくかもしれない』
本人がそれを聞いたら大喜びだろうな。
まぁ、それは次の機会にとっておくことにしよう。まずはバレー合宿からだ。
深夜、ジョンの世界では、今シーズンも圧勝で勝つことを目標に、黄、青、OGの三チームは練習試合。
ENOZと子供たちは徹底的にレシーブ練習。フェイントの球や強打、前回転がかかるスパイクに、
青俺のサーブの成功率UPも加味したサーブカット練習。それが終わった段階で練習試合に参加。
美姫はセッターをやりたいらしい。この前、黄チームとやったとき、
俺を囮にしたプレーで褒められたことが嬉しかったようだ。
ついでに完成版零式を放った伊織には、
「俺も世界大会でのみ使う事にしてる。日本代表とやるときは撃てないフリだ。できるか?」
「パパばっかりずるい!わたしもパパのサーブ撃ちたい!!」
「だったらここで好きなだけ撃てばいい。それより、レシーブができなきゃ試合に出してもらえないぞ?」
「ぶー…分かったわよ」
逆三角形の眼にアヒル口で聞き慣れたセリフを放った。まぁ、これでなんとかなるだろう。
生放送のときは応援する側に居てもらわないといけないしな…
俺を除いたとしても同じ名字が六人じゃ確実に怪しまれる。
八月十七日、もう何度目の来訪か忘れてしまったが、
一階のロビーには赤いユニフォームを見に纏った俺たちがずらりと勢揃い。
「あんたはチームの代表なんだから一人だけ前に出なさい!ただでさえ人数多いんだから!」
という青ハルヒの進言…もとい命令により、俺だけ前の鍋蓋式の並び方。
当然、子供たち三人も拡大した状態でユニフォームを着ていた。伊織が20番、美姫が21番、幸が22番。
ENOZも含めて、新しく1チーム分増えているからな。監督もコーチも選手も驚いていた。
今シーズンの初戦は親子チームで挑ませてもらう事にしよう。青有希のサーブのときに青ハルヒに変わればいい。
双子は保育園を二週間休み、幸は夏休みだから丁度いい。午前中は練習に参加、午後は練習試合。
栄養面にも配慮した食事作りをする必要がありそうだ。ディナーの方はいわずもがな。
俺も世界各国で色んな料理を食べてきたおかげで、料理のバリエーションが増えた。
全て新川流にアレンジして皆に味見をしてもらっているし、日本代表にも出してみることにしよう。
因みに日本代表チームに加わっていたOG二人は、
案の定、81階に姿を現し昼食を俺たちと一緒に食べていた。

 

そして、子供たちが待ちに待った日本代表との試合に三人とも武者震いをしている。
こちらのサーブ順は、青俺、伊織、美姫、俺、幸、青有希(青ハルヒ)の順。
相手エースのサーブからスタート。子供たち三人に対する洗礼のようだ。
「幸、真正面!」と叫んで後衛にいる幸に身体を向ける。
レシーブが大きく逸れたときのためのカバーをと思っていたが、杞憂に終わったようだ。
見事なレシーブで美姫の頭上へ。幸も手をさすったりすることなく、既にバックアタックの準備をしていた。
青俺も負けてられんと言わんばかりに美姫にCクイックを要求し、美姫が見事に青俺に合わせた。
双子のセンスがどうこうというのは今に始まったことではないが、
バックトスの練習をしているところなんて一回も見た試しがない。
その後も、フェイク後のツーアタック、伊織の理不尽サーブ三式、俺を囮にして幸との連係プレーなどなど。
有希や古泉の気持ちがようやく分かった気がする。どうやら今シーズンから俺は刺身のツマになるらしいな。
頼むから三人に報道陣が集まらないでくれ…まだ平仮名もろくに書けない幼稚園児と小学一年生だからな。
ついに三人とも交代せずに初日の練習試合を終えてしまった。
ENOZも試合には出ていたが、三人には敵わないと言っていたそうだ。
バレーも練習に練習を重ねてきたんだ。
観客を痺れさせるほどのライブをやってのけるENOZなら十分戦えると思うのだが…
インタビューは監督と俺のところに来たものの、翌朝のニュースでは
『SOS Creative社に期待の新生現る!!』と一面を飾り、
伊織がジャンプサーブを撃つ瞬間をカメラが捕えていた。
本人は書かれている内容はさっぱり分かってないが、自分が新聞に載って嬉しそうな顔をしている。
『伊織ばっかりずるい!明日はわたしの写真にする!』
幸と美姫が声を揃えていたが、有希も自分が一番目立ちたいと思っていたようで、
こればっかりはたとえ妹でも譲るつもりはないらしい。W古泉も同じ顔をしていた。
ちなみにハルヒはと言うと、二人の活躍を見て嬉し涙を流している。
「ママ、痛い」
締め付けが強かったのか、青有希に抱きしめられていた幸が一言。
「ごめん、嬉しくてつい…でも、昨日は頑張った。腕、痛くない?」
コクリと頷いて「今日も頑張る!」と青有希に誓いを立てた。
「困りましたね…ただでさえ来週は引っ越し作業の手伝いにと思っていたんですが…
 今週は僕も黄僕も三人と同様にフルセット行かせてもらえませんか?」
俺と青俺ならまだしも、古泉二人じゃまずい。一日毎に変わっていけばいいだろう。
W佐々木やENOZの出番が無くなってしまうからな。その代わり三人には生放送の出場はなしだ。
生放送と言っても何のことかわからんだろうしな。
「あら、わたし達の出番は用意してくれないのかしら?」
「問題ない。FIVBで練習用に作った体育館がある。日本代表の二軍メンバーと練習試合をすればいい。
 子供たち三人にはそっちに入ってもらう。あとは監督と話をつけるだけ」
「有希、それよ!あたしも双子の活躍が嬉しかったけど、やっぱりあたしも出場したいわ!
 キョン、今日の練習の時に監督と話をつけてきて!」
俺もハルヒと同意見だ。三人の成長していく姿を見てばかりで、
人数が増えて試合に出られる回数が少なくなることまでは頭が回ってなかった。
「わかった。だが、いろんな面でここにいるメンバーのほとんどが顔を知られている。
 双子疑惑がかからないよう十分配慮して試合に臨んでくれ。
今シーズンはENOZには丸一日バレーに参加してもらって、午前中は俺たちでビラ配りをする。
 今日はディナーの仕込みがあるから無理だが、明日から俺がヘリを動かすよ。
明日の仕込みはジョンの世界でやることにする。青ハルヒ、手伝ってくれ」
『問題ない』

 

「昨日のような戦いを仕掛けてくる選手たちとなら、是非お願いしたい。君も一緒に頼むよ」
練習中の選手の様子を見ていた監督に進言すると快諾で返ってきた。
俺はヘリの運転だからユニフォーム姿でも支障はないだろう。
編集部の朝倉や青有希たち経理部を残して、残ったメンバーでビラ配り。
目立ちたがり屋にはバレーの前にちゃんと仕事をしてもらおう。
昼食後、青古泉が選手たちを練習用体育館に誘導。それに釣られて報道陣も下に降りた。
OGは六人全員でやりたがるだろうし、ENOZも51階、目立ちたがり屋のメンバーがそのまま残り、
練習用体育館に降りてきたのは子供たち三人とW俺、青有希、青古泉、佐々木の八人。
青古泉は上に残ると思っていたが、
「期待の新生とまで新聞に書かれた程ですからね。こちらの方が報道陣が多いだろうと踏んだまでです」
聞いたか?ハルヒよ。監督の前で戦いを繰り広げるより、こっちの方が新聞に載る確率が高いらしいぞ?
因みに昼食時のミーティングはというと・・・
「言っとくけど、いくらあんた達でも相手は二軍の選手なんだから、負けたら承知しないわよ!?
 負けたらどんな罰がいいかしら…練習試合が終わる頃までには考えておいてあげるわ」
『わたしは絶対負けない!!ハルヒママにも勝つ!』
「ということだ。目立つことばっかり考えてセット取られるようじゃ、
二週間ずっとこの三人に出てもらわんとな」
「愚問。わたしの采配にミスはない。それに、どんなに相手に点を与えたとしてもわたしが終わらせる」
「あら、有希さんにしては随分消極的ね。わたしは相手に点を与える気なんてさらさらないわよ?」
「問題ない。どちらも圧勝すればいい。この子たちならきっとできる」
「ママ、早く試合!織姫も早くして!」
幸の言葉に全員が急かされ、新川流料理をゆっくりと堪能しているのは人事部の社員だけだった。
しかし、一昔前の人事部はノイローゼになるほど取材の電話が鳴りやまなかったが、
今は俺たちにとってプラスになる電話がほとんど。他の部署から文句が出てきそうだな。
早いうちに親睦会を開くことにしよう。

 

サーブ順は昨日とほぼ同じ。青俺と青古泉でブロックに行き、美姫が狙われたときは青古泉がスイッチする。
残りの一枠を佐々木が埋めて、俺と青有希はベンチで応援となった。
子供たち三人のプレーを見ている限りでは、何も問題はなさそうだ。
それより気がかりなのは、今シーズンはいいとして、次のシーズンは双子は保育園を休めばいいが、
幸は小学校に行かなければならん。無論来年度は三人ともそうなるだろうし…まいったな。
「青有希、物は相談なんだが、次のシーズンは幸は小学校に行かなければならん。次の年は双子も一緒だ。
 これだけ練習試合に出たがる奴らだからな。ごねるに決まってるだろうが…どう思う?」
「多分平気。最初は泣きやまないと思うけど、黄キョン君に身体を大きくしてもらわないと試合にならない。
 渋々小学校に行って、帰りは走って帰ってくるはず。交通事故に巻き込まれる可能性が十分あるけど、
黄キョン君のつけてくれた閉鎖空間で三人に怪我はない」
ははは…言われてみれば、あいつら三人より車を運転している人間の方が危ないな。
今後、俺やハルヒが小学校へと赴く以上、子供たちが誘拐されるようなことになってもおかしくない。
三人の閉鎖空間にサイコメトリー機能もつけておくか。
運転手に死なれては色んな面でトラブルになってしまう。
しかし、W俺や青古泉、青有希までこっちに来てしまっては、
上の方はMB無しで戦う事になるはずだが…本当に大丈夫か?あいつら。
そんなことを考えている間に三セット目に入っていたようで、今度は幸のサーブ。
明日の新聞に写りたいらしいな。正確なトスにスパイクのステップで見事にジャンプサーブを放って見せた。
球の軌道から察するに、伊織と同様理不尽サーブにしたかったようだが、白帯には当たらず相手コートへ。
ネットに引っ掛かって相手に点をやるよりは十分マシだ。コートの中で青俺が驚き、
俺の隣で青有希が歓喜のあまり涙を流している。
双子のようにハルヒのセンスを受け継いでいるわけじゃないだけに、
伊織や美姫に劣ることなくプレーをする幸の執念も凄まじいな。
「疲れた」とか言い出すかと思ったが、疲れたそぶりすら見せずにその日の練習試合を勝ち取った。
上の方もMB不在でどうなるかと思ったが、杞憂に終わったらしい。
しかし…拡大した美姫に黄色のカチューシャでもつけようものなら、
青ハルヒも入れて三つ子になってしまいそうだ。有希の提案に従って正解だったかもしれんな。

 
 

…To be continued