500年後からの来訪者After Future10-1(163-39)

Last-modified: 2017-02-25 (土) 14:13:29

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future10-1163-39氏

作品

ついに迎えた二月最終日。約二週間後の音楽鑑賞教室に向け、各中学校にパンフレットを配りに行くことになり、早朝からパンを振る舞いながら、それぞれの中学校とアポイントを取っていた。また、ランチタイムが込み合うという理由から異世界支部の初会議を開くことが決定。パンフレットの配布は影分身に任せ、本体はみくると一緒に北高文芸部室を訪れていた。

 

『いらっしゃ――――――――い!!』
随分と歓迎されるようになったもんだ。ついでに、随分と統率が取れるようになったというか、息ぴったりと言うか……まぁ、いつまでも幼稚園児と同等では困る。さて、どんな返答が返ってくるのやら。
「おまえら、第六話どうだった?」
『凄く面白かった!早く続き見せて!』『続きもいいけど、最後の事件の方が気になるよ!』『そうそう!僕たちには関係ないけれど、事件の謎が解けたら古泉君がシャンプー&カットするんでしょ!?僕たちにも考えさせて!』『それよりまずはみくるの女子高生姿の方が先なんじゃないのかね?』
「意見が割れると思っていた。今日はそのどちらかと、先週見せた衣装で踊ったダンスのVTRを俺たちも一緒に見る。どうする?」
『一緒に見る!?』
「ああ、今までドラマを見ながら、おまえらがどんな反応をしていたのか気になってな」
『ということは君、みくるが座るのは……』
「言うまでもない。それで、どっちがいい?さっきの反応を聞いていると、第九話の方を見て事件の謎を解いてみたい奴が多いようだが……シャンプー&カット以外で古泉にプレゼントの話でもしてみようか?事件の謎が全部解けたらだけどな」
『来週、第七話を見せてもらえるのならそれでいい。事件の謎を解くには時間がかかりそうだからね』
『謎が解けたら古泉君も連れてきて!』『そうそう、ボードゲームで負けるところが見たい!』『早く見せて!』
「じゃあ、ダンスの映像を見たあと第九話を流そう。みんな考え込んでしまいそうだからな。それでいいか?」
『問題ない!』
みくる本人が座りながら、みくるの北高の制服以外の女子高生姿を見るというのは、コイツにとっては刺激が強すぎるようだ。『第七話が先だ』と最後まで押し通そうとするかと思ったが、いとも簡単に折れやがった。文芸部室中にモニターが現れ、ライブのときの映像がそのまま映し出された。みくるの一言を機にドレスチェンジしただけで驚いている。くくくくく……ツボにはまって制御できなくなりそうだ。
『おぉ―――――――――――――――――――っ!!』
『みんな可愛い衣装だね!』『本当にみくるがセンターになるとは……』『演奏が始まったんだからみんな静かに!』
こんなところで嘘をついてどうする!と思いながらも、ダンスの映像に一同釘付け。今までも何度かこういうシーンを見てきたが、ドラマの方は謎解きをする分もあるし、より一層静まり返ってしまうかもしれん。
『みんなカッコ良かった!』『こういう衣装もなかなか良いものだ』『古泉君のあの衣装は一体何?』『そうそう、あれが気になってた!』『でも、カッコ良かったよね~!』
「あれはイギリスの兵士が着る服装だ。本当は黒い帽子をかぶるんだが、それでは古泉が引き立たないからな。じゃ、第九話を流していく。細かなところもしっかり見ておけよ?」
返答無しとは驚いた。コイツ等本気で謎を解く気らしい。すぐVTRを再生しよう。
 セリフや効果音、オープニング等、第九話の映像と一緒に流れてくる音だけが文芸部室に木霊する中、登場人物が増えていくにつれ、ハルヒだ古泉だ、青みくるだ、有希だと全部言い当ててしまった。やはり、催眠は通じない。
『あれっ!?これ、みくるちゃんじゃなくてキョン君だよね?』
「ああ、ちょっと事情があってな。急遽代わったんだ」
「いくら人形でも、首を斬られた殺害現場なんて、わたし怖くて……キョン君に代わってもらいました」
『朝倉さんも悲鳴をあげてるし、こんなところ入っていけないよ!』『どうして胴体が無くて首だけなの!?』
朝倉の悲鳴はただの演技だが、妙なところに疑問を持つのはいいことだ。結局、俺や他のメンバーが化けていたところは全部見破られてしまったが、第九話を終えて全員が黙り込んでしまった。
「一回だけしか見ずに、解ける奴なんてまずいない。来週は第七話の後、第九話をもう一度見せにくる。それまでに疑問点をみんなで話し合っておいてくれ」
『問題ない』
その言葉を確認して、文芸部室をあとにした。部活の時間になれば、文芸部員達が第七話と第九話についての話題を挙げるだろう。ニュースの時間帯も第九話のCMが放送されていたからな。

 

 その間、パンフレットを届けに行った影分身が教員たちから『一時間だけでいいから授業を』と頼まれ、一、二年生の進捗状況と教科書をサイコメトリーして一時間だけ授業をやることになったり、受験の終わった三年生を相手に英語の授業とは名ばかりのパフォーマンスを見せることになったり、オーケストラの演奏を流して英語で『旅立ちの日に』を歌うと歌詞を板書させられたり、座席表も見ていないのに指名して驚かれることもあったが、「俺は古泉以上のサイコメトラー。座席表に書かれていない血液型や誕生日まで知ることも可能です」と説明。『ドラマの中だけの設定じゃないのか?』という顔をしている生徒が何人もいたが、そこまでする必要もない。教室の後ろからデジカメで撮影していた教職員に目的のパンフレットを手渡して中学校を去った。他のところでも同じと見てよさそうだ。とりあえず、本体がフォーメーション練習に間に合えばいい。
「どうです?パンフレットの配布の方は?」
「人事部が稼働し始める前にと思って、アポイントを早い時間にとってしまったのがまずかったらしい。俺が訪問する前に、色々と教員の間で軽い話し合いがあったらしくてな。どの影分身も一時間ずつ授業をやらされたよ。もっとも、受験の終わっている三年生には英語の授業というより、パフォーマンスを見せていたようなもんだけどな。バレー部の方も見て欲しいとも言われたが、その時間は男子日本代表としての練習中だと言って断っておいた」
「こちらも似たようなものだ。ランジェリーの問い合わせが片付いたと思ったら、全国からキミに授業をしてもらいたい、バレーのコーチとして入って欲しいという電話が殺到している。加えて、教科書会社からCDの録音依頼まで来る始末だ。今、君が言ったセリフと同じ返し方をしているが、それでいいかね?」
「ええ、それで構いません。依頼に応じたとしても精々北高くらい。教科書も北高と同じものを使ったからな。バレーのコーチをするには平日の部活時間では無理があるし、土日の午前中ってことになりそうだ」
「それなら、北高から連絡が来れば、時期はこちらで決めることになるがどちらともOKだと伝えておこう」
「くっくっ、現役の日本代表が母校のコーチに来るなんてキミ以外できそうにない。北高もさぞ鼻が高いだろうね。日本代表選手を七名も排出した上に、その日本代表の上を行く戦略で圧倒しているんだからね」
「フフン!今後もビシバシ鍛えていくんだから!それよりあんた、みくるちゃんがお茶を煎れていたの見たわよ!中学校にパンフレットを届けるだけでそんな状態なのに、文芸部室まで行ってる余裕がどこにあるのよ!?」
「アイツ等もドラマの続きを楽しみにしてくれていたんだ。教育委員会にも行ったし、午後に向かう学校も指折り数える程度だ。文芸部室の連中も第六話と次回予告、第九話の予告を見て意見が割れてな。結論から言うと、この前のライブで踊ったダンスと第九話を先に見せてきた。アイツ等も事件の謎を解明したいらしい。それと、ここから先は全員箸を置いた方がいい。例の視聴者プレゼントはアイツ等には関係ないから、古泉に説明して代わりの物をプレゼントするという話になったんだが……アイツ等からの要望を聞いて俺も笑いを堪えるのに必死だったよ。『謎が解けたら古泉君も連れてきて!』『そうそう、ボードゲームで負けるところが見たい!』だそうだ」
『ブッ!くくく………あははははははははははは!ボードゲームで負けるところが見たいだなんて、謎を解かなくても今すぐ見せられるわよ!(黄)みくるちゃんと一緒にもう一回行ってくればいいわ!』
『あっははははははははははははは………くっ、くるじぃ……わ、笑い死にしてしまいそうっさ。想定外もいいとこにょろよ!……ブッ、あははははははははははは……だっ、駄目にょろ。止められそうにないっさ!あははははははははははは』
『くっくっ、キミの場合、八百長をしなくてもよさそうだね。本気で勝負に臨んでくれたまえ』
園生さん、圭一さん、裕さん、エージェント達元機関のメンバーまで報復絶倒。ハルヒ達の言う通り、そんなことでいいのなら謎を解かずとも、自分でセレクトしたボードゲームを持った古泉を連れて、今すぐ部室に戻ることも可能だ。
「ついでに、やはりアイツ等には催眠が効きそうにない。新しく登場人物が現れる度にハルヒだ、有希だ、古泉だとすぐにバレていた。現場検証のシーンでみくるの代わりに撮影に参加した俺もな」
いい加減席に着いて欲しいんだが?……ったく、新しい情報を告げて違う方向へ意識を向けさせようかと思ったが、二つの意味でまるで聞いちゃ(効いちゃ)いない。別の話題に切り替えよう。
「青朝倉、こっちの世界の週刊誌の方はパンの件で何か触れていたか?」
「そうね……今日発売の分はまだサイコメトリーしていないけど、先週号ではどこも取り扱っていたわね。それがどうかしたのかしら?」
「おでん屋も、俺のパンも、取材拒否と言っても勝手に一面を飾る連中に、制裁を加える方法をようやく思いついたんだよ」
「それは是非お聞きしたいですね。我々の世界の本社でも参考になるかもしれません」
「参考になるかどうかは分からんが、レストランの取材許可をもう一ヶ月延長、あるいは今シーズンのレストラン立ち入りを禁止する」
『立ち入りを禁止!?』
当然、報道陣からの電話が鳴りやまなくなることになると気付いた圭一さんがようやく立ち上がった。
「延長や禁止をするのは構わないが、報道陣にどう言い包めるつもりかね?」
「『パンを一切撮影・掲載せずに、二度に渡ってその件で一面を飾ることができたんだから、レストラン内を撮影しなくても十分一面を飾れるだろう?』と言い捨てるまで。金曜日は夜練と火入れがありますから人事部の電話は放置しますが、土日は俺も人事部で電話対応します。しつこい場合やレストラン前での態度によっては『今シーズンどころか来シーズンにまで影響する』と脅しをかけます。こればかりは記事の掲載をOKした社長がかけてきたところで対応は同じ。『誰を辞めさせようが一ヶ月以上延長することに変わりはない。報道してしまったものは、もう取り返しがつかない』と突き放すことも可能です。事実、口コミならまだ食べられたはずの人々が食べられずに被害に遭っているんですからね」
「なるほど、その手ならこちらの本社でも使えます!堂々と取材拒否の垂れ幕を一面に載せて記事にしてしまいましたからね。現状はほとんど取材拒否で通していますが、こちらの世界で言うところのバレーの練習やレストランのおススメ料理など、報道陣を受け入れなければならない場合が出てきた際は、それで報道規制ができるでしょう」
「そういうことであれば、金曜日は人事部の社員を一時間早く帰してしまおう。パンを振る舞う件もどうやら必要がないようだからね」
「園生も、裕さんも、エージェント達もそろそろ起きてください。やれやれ、北高の部室でボードゲームするのはこれまで散々やってきたことですし、異論はありませんが、僕が負けた瞬間に歓声が上がりそうでなりませんよ」
『あははははははははははは………』

 

 まったく、特に議題がなくて良かった。午後も中学校をいくつか回ったが、三年生の授業では午前中好評だった『旅立ちの日に』の英語バージョンで歌い上げ、日本語と英語の両方の歌詞を板書する作業。生徒たちもノートに歌詞を書き、三年生を送る会や卒業式で歌いたいと口々に話していた。ハルヒのピアノと楽団のオーケストラが録音されたCDを情報結合して学級委員に渡しておいたし、他のクラスの生徒や教員たちを説得して有効活用してくれるだろう。あとでハルヒ達にも話すことにしよう。男子の練習試合は素人目には淡々と進んでいるようにしか見えず、報道陣の数も少なかったが、女子の方はハルヒや青みくる、ENOZ達が派手に暴れ回っているに違いない。
 時刻はあと七、八分もすれば午後五時になろうかという頃、これまで押すことができなかった異世界支部の天空スタジアムへのスイッチが押せるようになり、社員たちが野球場へと集まってきた。ピッチャーマウンドには青ハルヒが立ち、その横に青古泉と鈴木四郎の催眠をかけた俺がスタンバイ。
「涼宮さん、これで全員のようです」
「オッホン、改めまして、皆さん我が社へようこそ!社長の涼宮ハルヒです!どうぞ、よろしくお願いします」
「副社長の古泉一樹です。合わせてよろしくお願いします」
「そして、その隣にいるのが今アメリカで活躍中の規格外のパフォーマー。『クレイジーゴッド』の異名を持つ鈴木四郎です。まずは鈴木四郎によるパフォーマンスを、皆さんにお見せしましょう」
やれやれ、何のために集められたのか分かってない社員がほとんどだぞ……色々と付け足す必要がありそうだ。
「改めまして、鈴木四郎と申します。今回、皆様にここに集まっていただいたのは、本社の社則についていくつかお話をさせていただくためです。ただ会議をするだけであれば、12階に設けてある会議室で構わないのですが、ここにいる皆様にだけ特別に、この天空スタジアムから見える絶景を堪能してもらおうという社長のご配慮により決定いたしました。どうやら、混乱している方も多いようですので、まずは社則についてご説明させていただきますと、このあと社長から伝達される内容は、ここにいる皆様のビジネスライフをより豊かにするものであり、規制があるわけでは一切ございません。そしてもう一つ。この球場内からどうやって絶景を見ることができるのか、これから皆様に体感していただきます。本来であれば、四月に行われる野球大会を受けて、その翌日から一般公開の流れになる予定でしたが、ここで立ったままの状態で会議を行った理由をご理解いただけたらと思います。これから私が指を鳴らします。すると、このドーム内のものがすべて透明になり、外の景色を見ることができるようになります。日本で唯一ここだけでしか見られない絶景をご堪能ください。では、参ります」
指を鳴らして閉鎖空間の条件を切り替えると次第に天空スタジアムが透明になっていく。午後五時では少々早いかとも思っていたが、下はどの方向を見ても照明が点灯した夜景が広がり、上は満点の星空で輝いていた。部室の連中と違って拍手が鳴るかと思いきや、歓声は上がったが女性社員はその光景にうっとりとした表情を見せ、男性社員の一部はドーム内を走り回って各方面から見える夜景に眼を奪われていた。
『青ハルヒ、社則を全部説明してしまえ。無料コーディネートについては夜景に満足した社員から来させればいい。その分本店が混雑することが無くなる。俺が青俺と青裕さんに伝えてくる』
『分かった』

 

 その後、直結エレベーターで一階に降りてきた社員たちが本店の服やアクセサリー、ランジェリー等も見てまわり、自分が選んだフルコーディネートに着替えて満足気に退社していく社員がほとんど。とりあえず、明日からはスーツで来るようなこともなくなるだろうし、ランチタイムが込み合うこともないはずだ。本体に情報を同期すると、練習試合を終え、タイタニックの船首で再度例のシーンに付き合わされている最中らしい。説明はすべて終えているであろう青ハルヒと青古泉も社員が全員下に降りるまでは天空スタジアムから出られまい。
「異世界支部の社員たちが天空スタジアムからの光景に見惚れていてまだ動きそうにない。先に食べ始めてくれ」
と伝え、男子日本代表のディナーの火入れに影分身を向かわせた。
「ちょっとあんた!社長のあたしを立ててくれたところは褒めてあげるけど、いくらなんでも喋り過ぎよ!あたしたちがここに来る前にみんな食べ始めているし、一体どういうつもりよ!」
「おまえが説明しなさすぎなんだよ!いきなりパフォーマンスを見せるなんて言われて社員が混乱していただろうが!あのあと、スカ○ター越しに様子を見ていたが、社則はちゃんと説明できたようだし、満足気に社員たちが一階に降りてきていた。それに、隙を見て本体だけこっちに来ることくらい、おまえらなら簡単にできるだろ?ディナー用の影分身は送ったんだろうな?」
「確かに、その考えにまでは至りませんでしたし、社員が混乱している中でパフォーマンスを見せるのも突然すぎたかもしれません。結果的には同じような状態になったでしょうが、社員たちの涼宮さんに対するイメージが悪くならずに済みました。ご配慮ありがとうございます」
「ディナー用の影分身なら会議が始まる前に送っておいたわよ。あんたが同期していないだけじゃない!」
「そういえば、影分身を送った後は同期してなかったな。まぁ、何にせよ、パンフレットもすべて届けることができたし、異世界支部の社員たちも明日からやりやすくなるだろう」
「視聴者プレゼントのことで頭がいっぱいで、昼食のときには聞けなかったのをすっかり忘れていたよ。各中学校で何をしてきたのか詳しく説明してくれないかい?」
「一、二年生の授業に出たところは教科書と進捗状況をサイコメトリーしてそのまま授業。受験が終わっている三年生には、昼食のときにも話した通り、英語の授業というよりパフォーマンスを見せてきたようなもんだ。午前中に向かった中学校で好評だったんで、午後に行ったところで三年の授業に出てくれと頼まれたときは、『旅立ちの日に』を英語で歌った。ハルヒのピアノと楽団オーケストラを伴奏にしてな。そしたら、歌詞を教えてくれと生徒から要望があったから、英語の歌詞を板書したら、クラス中の生徒が英語の歌詞をノートに写し始めたんだよ。オーケストラのCDも学級委員に渡してきた。三年生を送る会や卒業式で歌うそうだ」
「あたしにバレーに出るように言っておいて、何一人で充実した一日を過ごしてきてんのよ、あんたは!それに、あたしの許可も無しにオーケストラのCDを渡してきたぁ!?どういうつもりか説明しなさいよ!」
「そのCDを使って各学校の卒業式で『旅立ちの日に』を歌ったらどうなるか考えてみろ。絶好の宣伝になるだろうが。音楽鑑賞教室にやってきた二年生がオーケストラを聞けば、『来年はこのオーケストラをバックにこの歌を歌うんだ』と思えるだろ?もっとも、三年生の歌を聞いてからってことになるだろうけどな」
「しかし、英語の歌詞であの曲を歌うとは考えましたね。次のライブやコンサートでは英語で歌ってみるというのはいかがです?」
「問題ない。英語の歌詞を編集で加えて動画サイトにUPする」
「英語の授業の件で北高からも連絡が届いたよ。バレーの方も君の提案した条件でお願いしたいそうだ」
「フォーメーション練習前には戻るが、バレーのときはOG達も影分身で来るか?もしくは青チームと交代で。文字通り『自分たちの後輩』で間違いないんだからな」
『絶対行きます!』
「明日は番組撮影があるし、向こうも準備があるはずだ。金曜辺りに授業に入れてもらうよう、明日にでも北高に連絡しておこう。それで?次のコンサートでは英語の歌詞でと要望が上がったが、コンダクターとしてはどうするつもりだ?」
「うっさいわね!……それでいいわよ、バカ!」

 

 とりあえず、男子の練習に参加しながら今日やるべきことはすべて終えた。子供たちの水泳も、クロールの手の動きを少しでも身体に覚え込ませるために、ビート板やカラーヘルパーは使用したままフォームを重点的に練習。最後の勝負もフォームが一番綺麗だった人の勝ちだと説明して25m泳がせてみたが、今日は伊織に軍配が上がった。
 翌朝、掲載されている写真から察するに、各中学校が俺の授業のことをサイトにUPしたらしい。パンフレットを届けに行ったという本来の目的は一切書かれることなく、区内の中学校で俺が授業をしたこと、英語で『旅立ちの日に』を歌ったことで各新聞社が一面を飾っていた。『英語版「旅立ちの日に」を熱唱!卒業式は板書された歌詞で!!』、『発音の違いに生徒が困惑!?キョン社長の出張授業!!』とまぁ、一部の中学校ホームページまでよくもまぁ調べたもんだと呆れるよ、まったく。他に一面を飾れる記事はないのか?今日も授業の件で電話が鳴り止みそうにないな。この文面じゃ、俺が依頼に応えたようにしか見えない。かといって音楽鑑賞教室のパンフレットを届けに行ったと説明すれば、また違うアプローチでくるだろう。本当に迷惑極まりない連中だよ。自分で蒔いた種なので自ら人事部を陣取り、北高にも連絡を取って金曜、土曜と北高に行くこと、木曜までに何年のどの内容をやるのか連絡が欲しいこと、土曜は午前の途中までしかいられないこと、他にも北高卒業生を何人か連れて行くことを告げた。現バレー部顧問からは八時から準備体操を始めさせると返ってきた。OG達にも伝えておかないとな。全員日本代表だと知ったら生徒がどんな反応をするか楽しみだ。
『今日は朝の四時から並んでいた』
ジョンから告げられた一言に苛立ちを感じながらも、いつものようにパンを振る舞っていた。
「どういった方法で見つけてきたのかは僕にも分かりかねますが、我々は影分身まで駆使しているというのに、動画の件も含めて、余程暇人が多いようですね。『昨日は別件で中学校を訪れた際に授業を頼まれただけ』と説明してしまいますがよろしいですか?」
「ああ、それで頼む。北高にはもう連絡を取った。金曜に行くから学年と授業内容が決まった時点で連絡が欲しいと伝えてある。それと、現バレー部顧問から、八時には準備体操を始めさせるそうだ。朝食を終えて向かえばいいだろう。他にも北高卒業生を連れて行くと言ってある。日本代表七人で行ったらどんな反応を示すだろうな?」
「………古泉先輩がいないことにガッカリしそうです」
「そういえば、そういうニュアンスで取ることもできるのか。現北高バレー部に淡い期待を持たせて裏切ることになりそうだ。一緒に行ってみるか?ついでに、文芸部室に行ってボードゲームをするのも悪くないと思うんだが?」
『ブッ!!』
「このバカキョン!それは第九話の謎が解けたらの話でしょうが!いきなりその話に切り替えるんじゃないわよ!危うく吹き出すところだったじゃない!」
「バレー部の練習に古泉が来たことが来週以降噂になってみろ。文芸部員まで耳にして部室で話題になったら、アイツ等全員に伝わってしまう」
「どうやら、僕は行かない方がよさそうですね。それで、この後はどうするんです?」
「車でTV局へ行って楽屋に影分身を置いてくる。ADから声がかかった時点で本体がテレポートすればいい」
「では、それまでに電話を片付けてしまうことにしましょう」
「ああ、俺も明日のビュッフェの仕上げ作業だ。夕食のときにも伝えるが、夜練をやっている間に青OGに選手たちの部屋を回ってもらいたい。明日のディナーのお知らせを各部屋に配りに行ってくれ」
『問題ない』
「すまん、報告してもあまり変わりがないと思って昨日は話さなかったんだが、この二、三日でホテルの低層階の客室がすべて埋まっている。サイコメトリーの情報によると、おまえのパンが目当てらしい。今のところ週末まで空きが一つもない」
「困ったね、いつ休んでもいいように予約制にしなかったのに、こんなアプローチで来るとは考えて無かったよ」
「ちなみに、その低層階を予約した客に報道陣が入っていたりしないだろうな?」
「勿論だ。報道陣からの予約の電話もあったがすべて断っている」
「キョン、どうするつもりだい?」
「今までと変わらん。いくらホテルの予約をしても朝食のパンまでは予約していない。休む時は休むよ」

 

 好きでやっていたことが面倒だと思うようになってしまいそうだ。しかしまぁ、週末の延長の件で少しはマシになったか。「運転なら僕が引き受けましょう」と古泉が買って出てくれたが、たまには運転するのもいい気晴らしだ。
楽屋に入ってすぐ、影分身を置いて本社に戻ろうとしたところで部屋の扉を叩く音が鳴りADが現れた。
「あっ、すいません。もうすぐ収録が始まりますので、よろしくお願いします!」
はて……時間に遅れたわけでもないのに、楽屋に入って一息吐く間も与えてもらえずにADが来るとは……どういうことだ?どうやら考えていたことが表情に出ていたらしい。それを察した古泉が一言。
「例の生放送と違ってリハーサルの必要はありませんからね。早めに始まれば、終わりも早いでしょうし、芸人達もこの瞬間を待ちわびていたのではありませんか?」
「理由の一つとして十分あり得そうだな。行くか」
「問題ない」
 スタジオ内に古泉、有希と三人で足を踏み入れた。セットの中央にはMC二人が立ち、他の芸人達はセット裏ですでにスタンバイ……か。古泉の言う通り、今日の収録が楽しみで仕方がなかったらしい。
「いや、もうホントに待ちくたびれました!前回の放送を見てえらいことになってたらしいで?もし次があるんなら、自分も出してくれ言う芸人が多すぎて、スタッフが困り果てたそうですわ!」
「いや、でも俺ももう一回やってみたかってん。今まで何度もスペシャルやってきたけど、たった一つの括りで三時間枠なんて今回が初めてちゃうん?通常の方も入れて四時間って聞いたときはちょっと呆れてしもたわ」
「その三時間+通常放送でも収まりきらない程、質の濃いものが見られるということで、ずっと後ろでスタンバイして『早う出せ!』言う声が聞こえて来そうなくらいなんで、出てきてもらいましょう」
MCの一言をきっかけにスタンバイしていた芸人達がセットの前寄りにズラリと勢ぞろい。MCを入れて16人のトーナメント争いということもあり、総勢14人が横一列に並んでいた。前回出演した芸人は腕にデュエルディスクを身につけている。今回初参戦の芸人は、○吉、NO○ STYLE井○、○田、アン○ッチャブル児○、キャ○ーン天○、オ○ラジ中○、オー○リー若○。前回もリーダー格だったケン○バが左端で指揮を取る。
「僕たちは『遊戯○芸人です!』」
「まず、すいません。席にかけてもらえますか?こんな横にだだっ広い状態でおられてもこっちが困るわ!」
MCの指示に従い芸人達が席に着く。デュエルディスクをはめている芸人がランダムに配置されたところを見ると、抽選は例の方法でやるにしても、すでにブロック別に分かれているようだ。

 

「あのー…一つ聞いていい?『自分も出してくれ言う芸人が多すぎて、スタッフが困り果てた』て、さっき話聞いたんやけど、二人ほどいらんメンバーおるよね?そこ二人、別にコンビ揃って出なくても良かったんちゃうん?片方だけで十分やん」
『いやいや、宮○さん、ちょっと待ってくださいよ!』
『いらんメンバー』らしき二人が同時に声を荒げた。振ってくれてありがとうと言わんばかりに否定してモニターに映し出されている。
「前回はねぇ、女性陣が三人もいて華やかな空気やったんやけど、今回はなんかむさ苦しい雰囲気やね。矢ぐっちゃん、知り合いに誰かおらんかったん?」
「いや~何人かには声をかけたんですけど、『カードが無い』っていうのが出られなかった理由だったんじゃないかな~。やっぱりその、自分のコンセプトに合ったデッキで闘いたいじゃないですか」
「そこの二人、自分の持ってるカード全部渡して代わってきてくれる?」
『いやいやいや……』
「やー…でも、前回このデュエルディスクを記念品としていただいたんですけど、これを見るたびに前回のあの興奮が甦ってくるんですよね。もう早く決闘したいです!」
「いやぁはっはっは、俺もディスクを着けてみたいんだよね!」
「それでは、入っていただきましょう。この方無しにはこの企画は成立しません。どうぞ~」
芸人が全員出た後、セットの裏で待機していた俺にようやく出番がやってきた。このあとは決闘が続くことを考えれば多少のトークはあった方がいい。それでも一部の芸人しか触れられなかったけどな。
「前回に引き続き、我々の夢を叶えに来て下さいました。キョン社長です、よろしくお願いします~」
「よろしくお願いします」
「今回、このメンバーでトーナメントを行うわけなんですけども、この14人ご覧になっていかがですか?」
「前回のメンバーの気合の入り方がまるで違うというのがストレートに伝わってきますね。当たり前の話なんですけど、自分のデッキをさらに強化して、少しでも多く決闘を楽しみたいというのが良く分かります。それに、新しく加わったメンバーの中にもデッキのコンセプトは大体こんな感じなんだろうなと見えてきそうな方もいますし、『この人とは正直、闘いたくないな』と今の段階でそう感じてしまう方もいます。最初から最後まで全力スタイルを貫く精神でこの場に座っている方もいるようなんですが……コンセプトどころか、スタイルすらまったく無いというのは、これはどうしたらいいんでしょうか?あのー…一番心配なのが、演出するだけ無駄に終わりそうでならないというのが……」
「いや、これはあの、ただのコンビ名であって、コイツとはそろそろ縁を切って、ソロで活動していく算段を……」
「おまえ何言うとんねん!」
「ほら、見てくださいよ。この程度のツッコミしかできないで今まで生きてるんで」
「あっはっはっは。面白~い」
「まさか、社長が芸人弄りをするとは思わんかったわ~。ほんで、演出するだけ無駄に終わりそうでならないというのは……」
その場にいる全員の視線が一点に集まった。編集で点線の矢印でも入れてくれそうだ。
「俺のことか―――――――――――――――っ!!」
「いや、児○さん、何でこの場に座っているのか僕にも良く分からない……」
「デュエルしに来たに決まっとるやろ―――――――――っ!!」
「では、新しく加入された方にもデュエルディスクをはめていただきましょう」
新規メンバー七人の太ももの上にデュエルディスクが情報結合され、すかさずそれを持って腕に通し始めた。
「おっほぉ―――――っ!俺の腕じゃ入らんと思ってたけど、滅茶苦茶フィットするね!」
「えっ!?これ、もうデュエルモードになるんですか!?」
「前回同様、肩の高さまで腕を上げていただくだけです」
MCを含めた16人全員の腕が上がり、前回の収録後から動くことの無かったディスクがデュエルモードに変化した。
「うぁ―――――――――っ!!メッチャ興奮する!!これで本当にモンスターが出てくるんですか!?」
「前回はこの段階で品○が泣いてたけども、『全力スタイル』はあっちゃんで間違いなさそうやね!」
「いや、もうホント、ガチで感動しますよ?」
「実際にモンスターを召喚してもらった方が早そうですね。前回と同様の抽選方式でよろしいですか?」
「今回は我々MC二人もトーナメントに参加するいうことで、芸人達の座席の配置で分かるかと思うんですけども、AとB二つのブロックに分けて八人のトーナメントを行います。キョン社長にはMC席に座っていただいて、演出もしてもらうんですが、ここで我々の対戦を見守っていただけたらなと」

 

 番組を見る視聴者にも分かるようAブロック、Bブロックそれぞれのメンバーが表示され、Aブロックは宮○、ケン○バ、天○、井○、○吉、佐野○なこ、河○、若○の八人。Bブロックは蛍○、品○、ワッ○ー、矢口○理、中川○子、児○、○田、中○。Bブロックのメンバーはスタジオのセットでモニターを見ながら観戦。対戦形式の詳細は俺ではなく、前回の使い回しであろうフリップを使ってケン○バが説明を開始した。
「ここに集まった遊戯○芸人の皆さんは、当然、前の放送を見ていると思うので大丈夫とは思いますが、前の放送をご覧になっていない視聴者の皆様にですね、これからの抽選とデュエルの詳細を、このわたくしから説明させていただきます。まずは、フィールドと特別ルールの説明からです。まずはこちらの霧ケ峰高原の会場です。この会場では何もしなくても草原のフィールド魔法がかかります。戦士や獣戦士モンスターの攻撃力・防御力が200アップ。他の会場も同様に、富士山樹海なら森、阿蘇山なら山、八丈島なら海のフィールド魔法の効果が得られるということになります。前回と同様、自分のデッキから好きなモンスターを選び、その攻撃力順で対戦相手を決定します。順位が奇数になった場合はフィールドを選ぶか、先攻・後攻を選ぶかどちらか一方を選択してください。偶数の場合は選ばれなかった方ということになります……ということで、皆さん、準備はよろしいでしょうか?」
ケン○バが説明している間、抽選用モンスターを決め、ディスクにデッキをセット。八人のディスクにLPが表示されている。
「俺のターン、ドロー!俺はブルー○イズ究極竜を召喚!攻撃表示!」
先陣を切ったのはやはりケン○バ。ドラゴン属モンスター主体のデッキは相変わらずか。
「うっほっはっはっは!すげぇ~~~っ!ケン○バと同じことやったら俺のモンスターも出てくるってこと!?」
「うっわ!俺もAブロック行きたかったな~。早く自分のモンスターを召喚したいです!鳥肌が立ちましたよ!」
攻撃力順に入れ替えが行われていく中、アシメの芸人がモンスターを召喚したところで、周りの芸人達が異変に気付いた。このくらいのネタ提供はしておかないとな。
「俺のターン、ドロー!俺はギ○フォード・ザ・ライトニングを召喚!攻撃表示!」
『あれっ!?』
「攻撃力は出とるけど、LP0ってどゆこと?」
「決闘する前から負けが決まってもうとるやん!」
「うわ―――――っ!井○の人生が終わってもうた―――――――――っ!!もう終わってるようなものやけど!」
「おめぇに闘らせるデュエルはねぇ!」
「どうやら演出上の手違いがあったようです。リカバリーしておきますのでフィールドに向かってください」
「ちょっと―――――――っ!頼んますよ、ホンマ」
「いや~、でも、初戦がケン○バと天○っちでしょ!?初戦から大激戦確実やん。ほんで、ケン○バはまた山のフィールドを選ぶんやろ?」
「今度こそ、ア○ムを冥界に送り返します!」
そのセリフを機に二人を阿蘇山へとテレポート。バトルフィールドには俺と古泉の影分身がそれぞれ二体ずつ二手に分かれている。カメラはすべて有希が担当してくれている。セットの上に立っていた二人が消え、モニターに映った阿蘇山のフィールドにテレポートしたのを確認して、新加入メンバーが驚きを隠せずにいた。
「いや、前回の放送は僕も見ましたけど、目の前で人が消えるところを見せられて吃驚しましたよ」
「フィールドが決まり次第、お送りします。一瞬で景色が変わりますので心の準備をしておいてください。ちなみに、相方さんが今どちらにいらっしゃるのか教えていただければ、こちらに呼び出すことも可能です」
「ほんなら、コイツを相方と入れ替えてくれまっか?モンスターが出て『すげ―――っ』言うだけで、ワイプとしても使えそうにないんで……」
「ちょっと待て―――――――――――っ!!」

 

 佐々木の真似をするわけではないが、『くっくっ』と笑いたくなってしまった。デュエル前のトークの撮れ高は十分。MCの言う通りワイプとして機能するかどうかが謎だが、オンエアを見れば分かるだろう。残りの三組は、宮○VS井○、佐野○なこVS若○、河○VS○吉の対決。
「ちなみに、『この人とは正直、闘いたくないな』て、さっきおっしゃってたメンバーはAブロックの中にいてはるんですか?」
「ええ、○吉さんとは闘いたくありません。先ほどの抽選でも、攻撃力の高い順で対戦相手を決定すると説明されていたにも関わらず、攻撃力0のアンデッドモンスターを召喚してきましたからね。あれも一つの策だとは思いますが、デッキ破壊、アンデッドロック、1ターンKILL、DEATHの五文字が揃った時点で負けたり、こちらの手札を大量に捨てさせるコンボだったり、それを崩すキーカードが無ければ手の打ちようがないデッキを組んでいる気がしてならないんですよ。勿論、大会でもそういうデッキを組んだ大会参加者が頭角を現してくるはずです」
「うわぁ……○吉さんなら、○リクやバ○ラと似たようなデッキを作ってきてるかも……」
「パッと見る限りは互角の闘いをしているようには見えるんやけど、ほな、○吉と河○の対戦見てみよか」
四分割されていたモニターの映像が切り替わり、Aブロック第四戦、河○VS○吉の対決が取り上げられた。互いのデッキに大した影響のない八丈島のフィールドの様子が映り、音声が聞こえてくる。LPだけで見るなら○吉の方が不利だが……墓地に行ったモンスターが一瞬にして甦るようなことがあれば形勢は一気に逆転する。

 
 

…To be continued