500年後からの来訪者After Future10-10(163-39)

Last-modified: 2017-03-16 (木) 16:32:24

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future10-10163-39氏

作品

ショーツのラインが出ないためとはいえ、次第に下着が過激になり、とうとう六人とも『つるぺた』状態になってしまった。イベント事があるたびに妻と入れ代わっている青OGも近日中にそうなりそうで怖い。そして、ついに異世界で他社の下請け企業が倒産し、青古泉も『もう少し遅い時期が良かった』と悔いているが、ようやくホテルフロアがオープン。全員の食事担当がようやく俺に戻ってきた。さらに、遊戯○芸人の放送を終え、全員が釘付けになるほどのクオリティ。視聴率が分からなかったのが残念だが、これでまた大会に向けた告知ができた。あとはCMを流していけばそれでいい。

 

 昨日のインタビューでの様子を有希へと渡し、影分身数体でパトカーと護送車を運転して本社前までやってきた。午前と同様、サイレンを聞いただけで報道陣が逃げて行ったが、まだ付近に隠れて様子を見ているだろう。だが、音楽鑑賞教室が終わるまでは近寄れまい。北極と同程度の温度にしてやりたいくらいだが、流石にそれは俺がやったとバレる。大量のスギ花粉と風邪でこれまでの迷惑行為を清算させている最中だから、仕方が無いか。今度は本社の地下駐車場からパトカーを出動させてみよう。……などと考えているうちに最寄駅から多数の中学生たちと引率教員が降りてきた。今回はSPのみで案内役はゼロ。中学校名を聞いてSPが案内役も担っていた。おそらく中学校内で問題児扱いされているだろう生徒がパトカーを見て態度が変わり、ライブやコンサートに来たことが無い生徒が天空スタジアムに直結する入口に驚いていた。いくら待っても移動しようとしないパトカーに呆れてか、バレーの取材を請う電話も激減。これならカレーの続きができそうだ。パトカーの助手席で待機している影分身がスカ○ターで天空スタジアムの様子を伺っていた。相変わらず、この手の仕事を任せたときの古泉の手腕は見事としか言いようがない。国民的アイドルや大御所MCに匹敵するほどの司会ぶりに文句の言いようがありゃしない。
『おぉ―――――――――――――――――っ!!!』
夜見ることができる絶景に切り替わると、歓声というよりは絶叫に近い反応をしている。これでライブの宣伝にもなり得そうだな。来年度もお願いしたいとか言っていたが、OKすることにしよう。各楽器の紹介を終え、立体ホログラムとして登場した青チーム四人と佐々木の影分身。口パクになってしまうのは致し方ないとしても、数年前の曲の振り付けを覚えている生徒が多数。青ハルヒ達と一緒に踊っている姿があちこちで見受けられた。さて、ここまでは東京交響楽団とほぼ変わらず。各中学校に持参したパンフレットの効果が見られるのはここから。いくら曲目を中学生向けのものにしたところで当時のハルヒを爆睡させることに変わりはない。その爆睡していた奴がオーケストラの指揮を執って中学生の前で演奏しているんだから可笑しな話だ。
「あたしも中学校のとき、今と似たような行事がありましたが、当時は始まってすぐに爆睡していました!」
なんて言わせてみようかと勘繰ったが、どの小型カメラに切り替えても、二曲目、三曲目と演奏が進んでも寝るどころか眼を瞑る生徒すら見当たらず、会場中が曲に浸っている。ちょっとこれはやり過ぎたかもしれんな。生徒の今後の行く末を変えてしまうことになるかもしれん。そういえば、やると言っておいて結局まだやってなかったが……当の本人は昨日の放送と今日の記事を見てどう思っているんだ?お笑い芸人として「おいしい」と感じているのならまだいいが、あれは本気の悲鳴だったからな。ついでと言っては失礼にあたるが、原作者がどう思っているのか知りたくなった。明日の朝にでもインタビューに応えたVTRでも流れないものか……テレビ朝日に影分身を向かわせてどういう状況なのか確認させてこよう。ようやく四曲目が終わり、会場が生徒の拍手で包まれる。この後の曲目の期待も混じっているだろう。古泉の曲紹介の後スタジアム全体が暗転。ハルヒが再度ステージに現れ、照明がハルヒを追いかけていく。グランドピアノが情報結合され、青みくる、青OG、古泉の三人に照明があたった。ピアノのメロディと共にステージ全体が照らされ、『旅立ちの日に』の合唱が始まった。そういや、ここにいる中学校の一部の三年生が、これの英語Ver.で三年生を送る会や卒業式で歌うとか言ってたな。三年生を送る会ならもう終わっているはず。果たして上手く歌えたのかどうか……今日のライブで演奏する歌詞は普通だが、明日のオーケストラは英語で歌うことに……いや、ライブから英語だったか?夕食のときにでも有希に確認しよう。最後にアンコール曲として『時の旅人』をスタジアム全体で歌いあげ、音楽教室は終わりを告げた。

 

 その間、人事部の社員たちでは食べきれないくらいのパンとドーナツを届けに出向き、余ったら持ち帰ってもらって構わないとパン屋で良く使用される紙袋をセットで渡しておいた。午前中のうちに圭一さんから聞いていただけあって、エレベーターから俺が出てきたとたんに黄色い歓声。子供たちも俺の作ったドーナツの方がいいと言うくらいなんだ。他の課にも差し入れに行くか。
影分身から同期した内容を受け取りタイタニックに戻る頃には船はインド付近で停泊。『もう着いたのか!?』と聞きたくなったが、散々言われているだろうから俺から聞くような真似はしないでおこう。
『キョン(伊織)パパ!ドーナツ!!』
「今出してやるから、ちょっと待ってろ」
先日も作ったばかりだし、明日の朝の分は必要あるまい。その分他の課に振る舞いにいこう。
「音楽鑑賞教室の様子は影分身の同期で全部聞いた。この手の古泉の手腕については以前から知ってはいたが、おまえ、冠番組の一つでも持ったらどうだ?国民的アイドルや大御所MCとほとんど差がなかったぞ」
「昨日放送された番組のように僕には芸人を弄るほどのスキルはありませんからね。そこまで言っていただけるのは僕としても嬉しい限りですが、あなたの方が向いているのではありませんか?」
「あんた達、これ以上自分で自分の負担を増やしてどうするのよ!ただでさえこのあとのライブのせいで古泉君はレストランに向かえないんでしょうが!」
「でも、最後のアンコール曲は凄かったです!わたし達の演奏の音の方がかき消されそうでした!」
「俺もそれについて聞きたかったんだ。このあとのライブのアンコール曲、『旅立ちの日に』は日本語と英語どっちで歌うつもりだ?」
「やるなら両方英語。明日のコンサート終了後、動画サイトに二つまとめてUPする」
「くっくっ、迷彩服の代わりの衣装は見つかったのかい?」
「おまえから指摘されてすぐに用意したよ。それから有希、英語の歌詞を大画面に映してくれるか?」
「問題ない」
「その頃には火入れも終えてライブの方に来ることができそうですね。ところで、新しく追加されたカバー曲は何曲目に歌う予定でいるのか教えていただけませんか?今後のライブにも関わりそうですので」
「三曲目の予定。古泉一樹が心配する程のことでもない。今日を入れてあと四回ライブをすれば、スキーシーズンは終わる」
「黄古泉の方は良くても、コイツの方が役に立たんかもしれん。大体の想像はつくが、おまえ、今夜のライブ大丈夫なんだろうな!?」
「駄目、顔が腐って力が出ない。やっぱりこの匂いは反則」
「昨日の放送の影響を受けすぎだ!三十日の卒園式に向けて黄俺がカレー作りをしているってことで納得しろ!」
「ブッ!くくくく……あっはははははははは!こればっかりは一発ギャグじゃ無理にょろよ!でもまだ二十日もあるっさ?あたしももう待ちきれないにょろよ!」
「明日もあの番組の件で報道されるだろう。少なくとも、テレビ朝日は原作者にインタビューに行った。レストランに入れないところも行っているかもしれん。ついでに、あの新聞記事は例のMCも苛立っていたらしい。新聞社に出向いて、オ○リスクで会社もろとも踏み潰す直前まで追い詰めてやろうと思ったんだが、俺が見当たらなくとも俺が関与していると確信を持たれてしまう。アホの谷口同様、社員全員に夢の中で闇のゲームに強制参加させられる催眠をかけてきた。モンスターと同じ痛みを味わう例のゲームだ。社長が土下座謝罪した記事を書くか、デュエルで勝たない限り解けない催眠にしておいた。もっとも、『演出するだけ無駄に終わった』アシメ芸人のデッキで宮○相手に勝てるはずもない。新聞さえ売れれば誰を敵に回しても構わないという姿勢は矯正しないとな」
「おや?矯正ではなく潰すのではなかったのですか?ライブとコンサートでまた我々がネタを提供してしまうことになりそうですが、レストランもバレーも報道規制をかけましたし、その場しのぎしかできずに終わることでしょう」
「とにかく、いつになるかは俺にも分からんが、あの新聞社の明後日以降の記事は宮○への謝罪になる。それと、夜景に切り替えたときの中学生たちの反応を見て、今後のライブやコンサートに良い影響を与えるのなら、来年度もOKしようと思っていたんだが、あのパンフレットじゃ、生徒の将来の夢が変わってきそうな気がしてならん」
「たった一回の行事でそこまで変わるわけがないでしょうが、このバカキョン!さっさと食べて夜練に向かいなさいよ!!」
「もう影分身を向かわせた。残りの意識でパン作りをしている最中だ」
「夜練とおススメ料理の火入れ以外にまだそんな余裕があると言うんですか!?何にどれだけの意識を使っているのか教えていただけませんか!?」
「今は夜練に60%、おススメ料理の火入れに10%ずつ二体。本体が3%程度、残りがパン作りだ。ライブの最後の方になったところで10%……そこまではいらないか。とにかく、火入れの終わった影分身を向かわせるだけで済む。要は一つの作業にどれだけ少ない意識で仕事にあたれるかの修行だよ。○ッコロが宙に浮いたまま精神を集中させているのと何ら変わりがない。シャンプーやマッサージも一人につき1%未満の影分身で足りる。どこが凝りやすいか知識として覚えているのもあるけどな」
「ドラマの設定と同様、超能力者としては僕よりあなたの方が数段上のようですね。サードシーズンで立場が逆転する話もフォースシーズンに回して欲しいくらいですよ」
「修練を始めるのが早かったのと、機会に恵まれていただけの話だ。明日以降の第三人事部は古泉に任せる。残りの意識で将棋に励めばいいだろう。もっとも、かかってくる電話の内容がおおよそ判明しているだけに、受けない方がいいことだってあり得るがな」
「言われてみれば、確かにそうだ。取材許可の電話くらいしかかかってこないだろう。古泉は引っ越しの方に出向いた方がいい。私は異世界の人事部に行くことにする。青チームの古泉も大分苦労しているようだからね」
「そう言っていただけると僕としても嬉しい限りなんですが、いくら催眠を使っても宿泊客の案内だけにそこまで影分身を使えず、困り果てているんですよ」
「そんなもの、鈴木四郎のパフォーマンスとして堂々と目の前で影分身を見せればいい。今日でさえ、両方の社員食堂に鈴木四郎がいたんだ。今後もその予定でいるし、規格外のパフォーマンスを見せるにはいい機会だ」
「あ~~~~っ!またキョンに先を越された!!」
「ですが、僕がずっと悩んでいたことを瞬く間に解決してしまうとは流石ですね。鈴木四郎の催眠は使うことができないとしか考えていませんでしたよ」
「なぁに、単調作業で暇しているときに色々と考えているだけの話だ。どうやったら鈴木四郎のパフォーマンスがより広がるかとかな」
「とりあえず、このあとのライブは有希の代わりに俺が出る。折角の新曲で失敗するわけにはいかん。それと、明日の引っ越しは、すべて黄古泉任せってことでいいのか?」
「そうさせていただけると助かります。どうしても無理な場合に限りお願いすることにします」
「朝倉、アメリカ支部の冊子もOG達に頼まないか?そろそろできあがっている頃だ。今夜あたりで四月号の製本作業が終わってしまいそうだし、バレーの練習に戻るのもいいが、まだ修錬を重ねたいメンバーもいるだろう」
「それもそうね。もう確認は終わっているし、お願いしちゃおうかしら?2000万部」
『2000万部!?』
「青OG達や青圭一さんが驚くのは分かるが、どうしておまえらまで驚いているんだ?青古泉が初回発注1600万部で契約して来たことは知っているだろ?単純に人口と規模が違うだけだ」
『やります!アメリカ支部の冊子もわたしにやらせてください!』
「黄涼子先輩、2000万部って女性誌だけでその数なんですか?」
「ええ、そうよ」

 

 さらりと言ってのけた朝倉に青チーム新規加入メンバーが言葉を失っていたが、他の支部もあることを忘れてもらっては困る。ハルヒの鶴の一声で全員の思考がライブに切り替わったものの、今から2000万部の製本作業と言われてはな。妻と青OGは69階、青圭一さんは自室で製本作業。本体は子供たちと一緒にライブを見ていた。毎回観客の並ぶ列に紛れ込む報道陣を青俺が刑務所に強制送還して以来、チケット屋がタダで販売している以外はストレスを溜めずに済むようになった。カラオケで一番に歌いたがっていた曲をハルヒたちSOS団と古泉の六人で演奏し、美姫だけでなく、伊織や幸も大興奮。ENOZ+ハルヒのス○イルプリキュアの方も相変わらずの反応を示していた。ライブ中も回復する気配が一向に見られなかった青有希の代わりに仕方なく青俺がベースを持ってアンコール曲のダンス。最後に古泉の衣装に合わせたスーツにドレスチェンジして、英語版『旅立ちの日に』を熱唱。撮影して動画サイトにUPしようとする奴が何人もいたが、有希が正式にUPするものとはクオリティのケタが違う。コメント欄が炎上しないことを祈っててやるよ。
 結局、本社と異世界支部の製本作業が終わってからも、誰一人としてバレーに参加することなくアメリカ支部の製本作業に取り掛かり、一足先にジョンの世界を抜けてタイタニックのキッチンで朝食の支度をしていたところに、同じ時間に起きてきたらしい青ハルヒが現れた。
「サイコメトリーですぐに分かったけど、どうしてこんなところで作っているのよ?あんた」
「朝食を作る音が無いとシャミセンが眼を覚まさないんだ。まぁ、食事を目の前に置けば匂いで起きてはくるが、生活リズムを崩すわけにもいかん。それより、おまえこそいいのか?俺と話していると、異世界支部の件で俺が口出すことになりかねないぞ?」
「仕事の話をしなければそれでいいわよ!それよりあんた、ジョンの世界を抜けたら、あたし達の世界のニュースは見れないんじゃなかったの?」
「TVに繋ぐコードを部分テレポートした。閃いて損をした気分になったよ。なんで今頃こんな簡単なことに気がつき、俺が見たいニュースが映ってないんだってな」
81階からタイタニックに移動させてきた二台のTVで現実世界と異世界の両方のニュースをチェックしていた。昨日宮○のことを記事にした新聞社は闇のゲームに強制参加させられたばかりで記事が差し変わるはずもない。しかし、それ以外は原作者のところへインタビューに行ったものだとばかり思っていたが、いつもの二社がレストランの記事を飾り、他は別のニュースで一面を飾っていた。昨日のライブで歌った英語版『旅立ちの日に』も掲載されておらず、いくら暇な連中でも、正規で動画をUPしているもの以外はチェックしていないのかもしれん。他のTV局も別のモニターで確認したが、原作者にインタビューをしたのはテレビ朝日のみ。昨日行われた音楽鑑賞教室についても記事にはできなかったようだな。
『いや、ここまで白熱したデュエルを見ることができるとは思いませんでした。誰が優勝してもおかしくなかった。たった一枚の魔法カードで勝敗を分けるなんていうのは、漫画を描いていたときも良く使った手でしたが、実際にその場面を目の当たりにすると、やっぱり驚きますよね。それに、「これがアテムのデュエルタクティクスなんだ」というのが一番に伝わってくるデュエルだったと思います。自分の描いた漫画の世界を、ここまで忠実に再現していただけるとは、本当に嬉しい限りです』
原作者にそういってもらえると、こちらとしても演出をした甲斐があったってもんだ。昨日放送されたエキシビジョンマッチがVTRで流れ始める。アニメと同様BGMについては、前の収録のときと変わらず場面ごとに切り替えられ、突如として立ちはだかった○グネットヴァルキリオンに関する編集がなされていた。ザ・ト○ッキーを召喚する際に一枚捨てたシーン、天○の施しで二枚捨てたシーン、そして手札抹殺によって捨てされられたシーンの計三回分の映像がリピートされ、アニメで疾風の暗黒騎士ガ○アが召喚されたシーンと同じ演出が施されていた。これについては編集でないとできないからな。だが、これで原作者も五月五日の決勝には天空決闘闘技場に直接見に来てくれるだろう。

 

「なるほど、TVをこちらに移動してきたのはそういうわけでしたか。しかし、あなたや青新川さんが食事の支度をしている音や匂いが彼にとっての目覚まし時計とはいえ、そこまで配慮することもないのではありませんか?」
「今後は航海が進むに連れて昼と夜が入れ替わるようになる。頭では分かっていても、早朝とも言えない真夜中に朝食を摂っていると、俺たちまで生活リズムを狂わせることになりかねない。こんな光景でも朝食の時間なんだと叩き込んでやらないとな。ついでに古泉、今日の引っ越しなんだが、追加で二件向かって欲しいところがある」
「おや?今朝の段階で変更の連絡でも来たんですか?」
「いや、別館を建築するのに古泉が交渉に出向いたところだ。昨日新居のシートを外してきた。何日か前にも連絡を頼んでいたし、今日中に引っ越しを済ませられるはずだ。今夜別館のシートを張る。ついでに、暴れるとまではいかないが、非戦闘員で誰か解体作業をやってみないか?エネルギー弾を放ってもらっても構わん」
『私にやらせてください!』
OG達のほぼ全員が立候補した。そんなにストレスが溜まっていたのか?コイツ等は……
「とりあえず、異世界でリストラの記事が出た以上、ファッションメーカーが潰れるのも時間の問題だ。新しく店舗を建てるのに、前のものを壊す必要も出てくる。順番だけ決めておいてくれ。一番手が今日か明日になるはずだ。やり過ぎて地下鉄の構内まで貫くなよ?」
『問題ない』
「自分で連絡をしておいて、僕もすっかり忘れていましたよ。このあと早速問い合わせてみることにします。しかし、シートを被せるのは平日の方がいいのではありませんか?今夜別館のシートを被せると、報道陣の目がそちらに向いてしまいそうです。ここはレストランの取材を許可しているところとそうでないところの区別をはっきりさせるべきかと」
「……分かった。それならまずは日曜の深夜に『旅立ちの日に』の動画をUPする。火曜日の新聞でドラマの第九話とどっちが一面を飾るか争うことになりそうだが、両方話題として取り上げられる。困るのは各メディアだけだ。シートを被せるのは月曜の深夜にする。以前本社前に設置した駐車場のようにシートにでかでかと『取材拒否』の四文字を記載しておく。それも含めて一面を飾るようなところがあれば、他の新聞社の記事を差し替えて叩かせるまで。全社その記事で一面を飾るようなら、有希に記事を作ってもらう。『僕たちは「漢字の意味が分からない新聞社です!」』ってな。四月に入ったところで、別館店のオープン、男子日本代表チームを別館の低層階に宿泊させる」
「むー…こっちの世界が着々と進めているのに、あたし達の世界の方は何もできないなんて!」
「我々の世界でもホテルの運営に新店舗のオープンがあるんです。これ以上動くと負担が大きくなる一方ですよ。ですが、取材拒否の垂れ幕を含めて一面を飾られた時点で我々の方も動くべきでしたね」
「くっくっ、それなら彼も喜びそうだ。新聞社の謝罪よりよっぽど効果的なんじゃないかい?」
「引っ越しは黄古泉にすべて任せるとして、有希は子供たちと図書館に行くし、商品の陳列作業にまわることになりそうだ。黄有希、業者との契約はしてあるのか?」
「問題ない。10時頃に品物が届くはず」
「黄キョン君、料理ができたから未来に連れて行って欲しい。それから子供たちと図書館に行く」
『キョンパパ!わたし泳ぐ練習したい!』
「じゃあ、夕食後に練習だ。それまでにクロールの手の動きをちゃんと練習しておくこと」
『問題ない!』
どうやら、みくるや青佐々木がダンスの練習をしているときに一緒に加わっていたらしい。昨日はライブ、一昨日は例の番組を見ていたし、ダンスをマスターしたとまではいかないだろうが、ようやく水泳のことを思い出したようだ。

 

「ところであんた、今日のコンサートの打ち上げの料理は誰が担当しているの?古泉君?それとも青あたし?」
『あっ!!』
三人同時に叫び声を上げたってことは誰も用意してなかったようだな。
「すまん、すっかり忘れていた。前回は古泉だったし、今日は俺が用意する。ちなみに、どうしてその話になったのか聞いてもいいか?」
「昨日は色々あったからみんなも疲れているだろうから言わなかったんだけど、シンガポールのときみたいに夜景を見てから出発したいのよね。でも、ここでそれをやろうとしたらコンサート後ってことになるでしょ?あたし達は影分身で打ち上げの方に出ればいいわよ」
「分かった。みくると古泉に酒を飲ませるいい機会だ。パーティ用の料理も作っておく」
「あんた一人で大丈夫なの!?食事の用意だってあるじゃない!」
「昼食と夕食ならもう作った。パンとカレー作りの影分身の手が止まるだけで、あとは大した仕事もない。古泉は引っ越しに影分身を割くことになるし、おまえもビラ配りをしながら色々と考えたいだろう?俺まで図書館に行っていると子供たちがはしゃぎ出してしまう。俺が適任だ。青ハルヒは再来週の打ち上げの方を頼む」
「あんたがそう言うならそれでいいわ。でも、みくるちゃん達は影分身できるようになったわけ?」
「できるかどうか確認してもいいだろうが、意識が朦朧とした状態で酒を飲むのは青みくるでも危険だ。誰かみくるの代わりに出るか、『酒に弱いから』と理由をつけてこっちに戻した方がいい」
「今回はこちらをメインにした方がよさそうですね。僕や彼女も打ち上げに参加することになってしまいますし、朝比奈さんも次回参加するということでいいのではありませんか?僕も世界中を見てまわりたいですからね」
『間に合うかどうか分かりませんけど、影分身を試すのはアメリカ支部の製本作業が終わってからにさせてください!』
「それじゃ、とっとと解散!」
『問題ない』
 支給する料理を持った青有希と佐々木が未来へ出向き、子供たちは青有希が帰ってくるまでクロールの手の動きを立ったまま練習。日が空いた分、雑になっている部分を修正していた。
『キョンパパ、図書館には一緒に行かないの?』
「図書館は静かに本を読むところだ。あまりはしゃぎ過ぎると、周りから『うるさい』って目で見られる。だから今回は、俺は行かずに幸のママが行く。三人も、図書館に入ったらできるだけ静かにすること。今くらいの声なら話していても平気だ。探していた本が見つかっても大声出すなよ?」
『フフン、あたしに任せなさい!』
「おっと、そんなんじゃ任せられそうにないな。大声は出さない。本当にできるのか?」
『あたしに任せなさい』
自信あり気に決め台詞を放ってしまったのが逆効果だったと知り、二回目は内緒話をするくらいのボリュームになってしまったが、これなら心配なさそうだ。三人と話をしている間に支給を終えた二人が戻り、四人で図書館へと出かけていった。時差の関係上仕方がないとはいえ、今頃になってようやく朝日が昇ってくる始末。ハルヒがコンサート後にパーティをと提案したのがよく分かる。急な仕事が一つ舞い込んできたが、それ以外のことは他のメンバーが対応してくれる。俺は俺のやることをするまでだ。

 

 朝食タイムも終わりに近づき、鈴木四郎の催眠をかけた俺が、ランチタイム仕様に椅子を各テーブルへとテレポート。まだ朝食を食べていた客が驚きを隠せずにいたが、いくら客が入れ替わるとはいえ、これと同じことを毎日やっていれば、しばらくすればそこまで驚くこともなくなるだろう。
「キョン先輩―――――――――――――――――っ!!」
お昼時、タイタニックに最期に顔を出した俺に、九人目の妻が叫び声を上げて近寄って来た。
「その顔だと、朗報があったらしいな。どうしたんだ?」
「みんなでじゃんけんをして私が一番目になりました!私もかめ○め波を撃ってみたいです!!それに、他の選手の皆さんが話題にしていました。『風邪をうつされずに済んで良かった』って。監督も毎日取材に来られて何てコメントをしたらいいのか困っていたそうです!」
「今は男女とも集中力を鍛えている真っ最中だからな。淡々とした練習じゃ無理もない。ファンの方も問題は無いようだし、あとは月曜の夜まで待っていてくれ。もう古泉が引っ越しを終えているはずだ。通常の引っ越しと違って、物を整理する必要がほとんどないからな。たとえ、炬燵の上にみかんが置いてあってもそのまま引っ越しが可能だ」
「まったく、電話を盗聴されていたとしか思えませんよ。相手方も『まだそこまで引っ越しの準備ができていない』とおっしゃっていましたが、あなたの言う通りほとんど整理する必要がありませんからね。僕自身で平日の方が……と言い出していましたが、今すぐにでも別館のシートを被せてしまいたいくらいです。熊本の引っ越しの方も順調に進んでいます。午後からは、園生と森さんにパートやアルバイトの面接をしてもらうことになるでしょう」
「商品の陳列はすべて終わった。店舗の店長やアルバイト達もツインタワーに移動してきたし、衣類に関してはカードキーを見せるだけでタダにすることも伝えた。あとは夕方のレジ対応だけだ」
「我々の本社のホテルのチェックインの方は大分スムーズに流れるようになりました。鈴木四郎のパフォーマンスに驚いている客ばかりです。あなたのパンとこちらの新川さんの料理の影響で、宿泊客が次の予約をしに受付にやって来たくらいですよ。報道陣が入る余裕はもうありません」
「打ち上げとパーティの料理なら午後の練習試合が終わる頃にはできている。楽団員たちにパンも振る舞うから、バゲットは影分身にカットさせる。………先に言っておくが、カレーパンには楽団員しか手が出せないようにするつもりだ。諦めろ」
付け加えた一言に有希と青佐々木が落胆していた。千載一遇のチャンスが到来した……とでも考えていたんだろうが、抜け駆けは周りのメンバーが許すまい。
「まったく、あんたの余計な一言さえ無ければ、もっと早く食べられたのに!双子の卒園式が終わっても、あんた達は当分の間雑用係のままよ!皿洗いでもしていればいいわ!」
『はい、ごめんなさい』
『キョンパパ、幸ママといっぱい絵本借りてきた!キョンパパ、読んで!』
「俺が読まなくても自分で読めるだろう。一冊ずつ読んでいたら、全部読み終わる前に返さないといけなくなってしまうぞ?」
『ぶー…キョンパパに読んで欲しかったのに』
「くっくっ、全部は無理でも一冊くらいは読んであげたらどうだい?」
「仕方がない。じゃあ、お風呂に入った後一冊だけな。どれがいいかそれまでに選んでおけ。意見が分かれたらじゃんけんだ。いいな?」
『問題ない!』

 

 ったく、図書館に行こうと企画したのは俺だが、水泳以外にもう一つ約束をさせられてしまった。しかし、絵本を読んでやるなんていつ以来になるんだ?平仮名すら分からなかった頃だからな。何を読んでやったのかすら記憶にない。午後も恙無く進み、打ち上げとパーティの料理ができたところでカレー作りへ。おススメ料理の火入れに影分身を割いても夜練が無ければ支障はない。寝る前には完成させられるだろう。
「古泉、明日の午前中に引っ越し作業をする世帯の情報をくれ。明日北高に行くことをすっかり忘れていた。ゾーンに入れる意識さえあれば十分だ。俺が代わりに引っ越し作業にあたる」
「おっと、僕の催眠をかけるOGはいないんでしたね。僕も失念していました。では、後ほど情報を受け渡すこ…」
「駄目。青チームのあなた達も含めて、負担が大きすぎる。わたしが行く」
「あんた達、あたし達じゃ頼りにならないって言いたいわけ?」
「たまにはそういう仕事をするのも悪くないわね」
「くっくっ、どんな反応をするのか楽しみだ。僕も入れてくれたまえ」
「では、有希さんに情報を手渡すことにします。午後からは僕が向かいますので、すみませんがよろしくお願いします」
夕食を軽々と平らげた子供たちが食器を片づけて早々と部屋に戻って行った。水着に着替えに行ったらしいな。急かされずに済んだし、確かに約束もしたが、何も言わずに態度で水泳の練習に付き合えと示されるのも癪に障るというわけではないが、あまり気分がいいとは言えそうにない。
「くっくっ、例のパンフレットさえなければ、中学生でさえ退屈にさせるほどのコンサートなんだ。子供たちも興味がないようだね。ところで、一つ提案なんだけどね。今度のライブとコンサートで演奏する『旅立ちの日に』だけは大画面にも投影しないかい?月曜には動画サイトにUPされているんだから盗撮されても平気だろう?もう卒業式を終えているだろうけれど、天空スタジアムだけじゃもったいない気がするんだ。どうだい?」
「分かった。カメラに映した映像を大画面に投影する。日本語と英語の歌詞も付ける」
「面白いじゃない!今年度のファイナルライブには相応しい演出よ!一音でも外したら承知しないわよ!」
ハルヒのその一言にみくるが動揺していたが、これまで散々ライブを続けてきたんだ。ミス一つなく弾いてみせるだろう。水着で温水プールにやってきた子供たちにビート板を持たせて、まずは水中での腕の動かし方の練習。日が空いた分今朝は雑になっていたが、自転車やスキーと同様、フォームを思い出し……って、自転車にまだ乗せたことが無いんだった。練習スペースならタイタニックの船上というとびっきりのサイクリングコースがあることだし、補助輪をつけた状態から始めることになりそうだ。三人分の自転車のデザインでも考えておこう。ビート板無しで15m、プールを横に使って飛び込みを交えたクロールの練習、最後に飛び込み台の上からダイブすること数回。少しくらいは怖がるかと思ったが、ネット際で相手のスパイクをレシーブする方がよっぽど怖いか。腹から飛び込むことも無くスムーズにクロールへと移行していた。
「三人とも、今日はまた石拾いの勝負をするんだが、少しルールを変える」
『ルールって?』
「青と赤の二種類の石を用意した。青い石は一つ1点、赤い石は一つ3点だ。一番点数の高い人の勝ちだが、自分が何点か間違えたら0点になる。ちゃんと自分の点数を言えそうか?」
『問題ない!』
「それじゃあ、一回戦。よーい」ピッ!
石をプール全体にバラ撒いてスタートの合図をすると、一目散にプールに飛び込み、クロールで目星をつけていた地点まで泳いでいく。速さを競う分、フォームが多少雑になっていたが、この程度なら問題ない。しかし、ハルヒのセンスを受け継いで、応用力まで備わっているとは思わなかった。ハルヒの場合、同じ説明を何度もしないと応用できんからな。次からフォームは正確に早く泳ぐ練習に切り替えることにしよう。それが身に着いたらライフセービングだな。タイムアップと共に、石を大事そうに抱えた三人が戻ってきた。伊織は青5つに赤1つ、美姫は青4つに赤2つ、幸は赤だけ3つか。随分と接戦になったもんだ。あとは自分の得点をちゃんと計算できるかどうかだ。
「キョンパパ、わたし6点!」
「キョンパパ、わたし8点!」
「伊織パパ、わたし9点!」
「残念!点数が間違ってなければ美姫の勝ちだったんだが、一回戦は幸の勝ち~!」
「え~~~~っ!?わたし点数違うの!?」
「美姫、赤い石は一つ3点だ。全部1点で考えただろ?もう一回何点になるか考えてみろ」
「あ――――――っ!!わたし10点!ぶ~~~っ、キョンパパ!もう一回!!」
「じゃあ二回戦いくぞ?よーい」ピッ!

 

「え~~~~っ!?もうこんなに泳げるようになったんですか!?プールの底に足もつかないのに……」
コンサートを特等席で見に行っていたらしきOG達が戻ってきた。これが最後の勝負になりそうだな。
「今日は俺も有希もほとんど見ていただけだったが、勝負と称して算数の勉強までさせるとはな。しかも、四則演算だから小学校中学年レベルだ。幸の奴、かけ算も知らずに、よくもまぁ自分の点数が言えたもんだ」
『四則演算!?』
「いつもの石拾いにしか見えないけれど、子供たちにどんな勝負をさせているのか、僕にも教えてもらえないかい?」
「なぁに、今日は二種類の石を用意しただけだ。青石は一つ1点、赤石は一つ3点だとルールを追加した。いくら数多く集めてきても、自分で拾ってきた石が全部で何点になるのか計算ができなければ得点はゼロ。おっと、話していたら時間が過ぎてしまった」
石集め終了のホイッスルが鳴り、最終戦の軍配は美姫に上がった。「今日はここまでだ」と告げると、『残った石も拾ってくる』などと言いだしたが、次回の練習の最初に集めさせればいい。
「このあとはパーティだ。三人が早く着替えてこないと、いつまで経ってもパーティが始められん」
『パーティ!?キョン(伊織)パパ、わたしドーナツ食べたい!』
「昨日食べたばっかりだろ。また今度な」
『ぶー…分かったわよ』
口ではそう言っていたものの、バスタオルで自分の身体を拭くと、颯爽と部屋に戻って行った。
「くっくっ、確かにたし算とかけ算の混じった計算なら、青チームのキミが『小学校中学年レベル』だと告げたことにも納得がいったよ。次は自分たちの名前を漢字でかかせるつもりかい?特に双子は、二人揃って『織姫』になることは知っているからね」
「そうしたいところだが、まだ平仮名やカタカナもまともに書けやしない。幸はまだいいが、タイタニックで過ごすようになってから、漢字練習帳を開くことすらしていないからな。動物図鑑でも見せながら、自分の好きな動物の名前でも書かせるつもりだ」
「ちょっとあんた!パーティ用の料理はどうしたのよ!?テーブルに何もない状態じゃ、黄あたし達が来てもパーティを始められないじゃない!」
「やれやれ、一仕事終えたばかりだと言うのに、悠長に会話する余裕も与えてもらえんのか?俺は」

 
 

…To be continued