500年後からの来訪者After Future10-11(163-39)

Last-modified: 2017-03-28 (火) 16:42:31

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future10-11163-39氏

作品

音楽鑑賞教室、ライブ、コンサートと週末のイベントも無事に終え、残すはツインタワーへの引っ越しと、北高へバレーのコーチに出向くだけ。毎週のおススメ料理の火入れなど、もはやイベントの枠にも収まらない。打ち上げで楽団員たちに振る舞うバゲットのカットは影分身に任せ、『カレーパンには楽団員しか手が出せないようにする』と伝えたところで有希と青佐々木が落胆していたが、有希の場合は自業自得だ。有希たちにはハルヒから『当分は雑用係のまま』と宣告されていた。

 

 料理や飲み物も出揃い、みくると古泉の席には、それぞれ赤ワインのボトルが一本ずつ。前回は自暴自棄になっていた古泉を彷彿とさせるような飲みっぷりだったが、今日はどうするのやら。それに、みくるが一人でボトル一本分のワインを飲み干せるとは思えん。
「みくるも一人でそれ一本を飲み干すつもりか?ジョンの世界で情報結合の修練を積むんだろ?大丈夫なのか?」
「これ一本は無理かもしれないですけど、わたしも挑戦してみます!わたしももっとお酒に強くなりたいんです!」「問題ない。あなたのシャンプーとマッサージなら、朝比奈みくるが酔い潰れていても途中で気がつくはず」
「余ったワインはあたしが飲むっさ!みくるじゃ、この量を飲み切る前に酔い潰れるのがオチにょろ!」
「なら、みくるの介抱はいつも通り俺になりそうだ。ハルヒ、さっさと乾杯して始めようぜ?」
「んー…そうね、インド洋はこのあともしばらく続くし、とりあえず第一チェックポイント到着記念ってことで、乾杯!」
『かんぱ~い!』
グラスに注がれたワインをみくると古泉が揃って一気飲み。やれやれ、折角『インドでの夜景を見てから出発したい』なんて、普段団長が出す案として、考えられないくらいの部類に入るであろう乙女チックな提案を無碍にする気か?コイツ等は。まぁ、そうでもしないと飲み切る前にアルコールが吸収されてしまうから仕方がない。しかし、とうとう新川流料理を酒の肴として扱うようになってしまったな。料理と美酒、目の前に広がる光景に酔いしれるというより、お祭り騒ぎをしているようなものだからな。鶴屋さん達を筆頭に笑い声が絶えやしない。
「ところで有希、あと何ヶ所チェックポイントがあるのよ?」
「残り九ヶ所。最後に日本に戻って来なくとも七大海制覇は可能。でも、ゴールはあった方がいい」
「だったら、チェックポイント毎に全員で記念写真を撮影させてくれたまえ。今ならインドの夜景をバックに撮影可能だからね。二人の酔いが回らないうちにカメラで撮らないと、明日もここで停泊することになる。僕も早く次の航海に出たいと思っていたんだ。どうだい?」
「それいいわね!有希、船の向きを変えて頂戴!一番良いアングルで撮影するわよ!」
「分かった。わたしが撮影する。船首に集まって」
「も……問題にゃい。…ヒック」
みくるも三杯目にしてもうダウン寸前だな。だが、鶴屋さんもみくるの意思は汲んでくれるようだ。本人の宣言通り、『余ったワイン』を飲むらしい。別の酒を飲みながら会話を楽しんでいた。
「チェックポイント毎に撮影をするのは構いませんが、毎回夜景を背にするというのは勘弁していただけませんか?少なくとも、次の南アフリカでは、我々は朝食時にパーティを始めることになってしまいます。いくらライブやコンサート後でも、タイタニック号が停泊している場所は真っ昼間ですからね。僕や朝比奈さんの場合、酔いを覚ましてしまうと潰れた意味がなくなってしまいます。後のことは考えなくて済むようにしていただけると助かるんですが……なんとかなりませんか?」
こっちも記念撮影をする余裕はなさそうだ。
「くっくっ、その心配はいらないよ。真っ昼間からパーティをするというのは僕もどうかと思うけれど、記念撮影とパーティを別にすればいいだけさ。どうやら、船首まで移動するだけの余力も残っていないようだね。園生さんにテレポートしてもらった方がいいんじゃないのかい?」
妊婦よりも移動が厳しいところまで酔いが回っていたらしい。佐々木の提案に従い、古泉が園生さんとアイコンタクト。園生さんに身を任せる形で二人が船首へとやってきた。なまじ超能力者としてのレベルが高いだけに、今の古泉がテレポートをすると何処に行くか分かったもんじゃない。地球上ならまだいいが、宇宙空間ではテレポートした瞬間に死んでしまう。
「はい、チーズ」
普段の有希が言うセリフとは到底思えない合図で、おそらく俺たちの目の前にあるであろう超小型カメラに全員が視線を送ると、モニターに静止画が映し出された。みくると古泉は仕方がないとしても、連写した物の中から最も相応しい一枚を選んだんだろう。一介の新聞社にできて、有希にできないはずがない。ほぼ全員が納得のいく一枚を確認したところで自席へと戻っていた。

 

『キョンパパ、絵本読んで!』
「客室でお風呂に入ってからな」
これ以上ここにいると、絵本を読み始めてしばらくもしないうちに眠ってしまうと勘繰ったんだろう。お腹の満たされた子供たちが一番にパーティから抜け、自席に着いて間もないうちに古泉とみくるがダウン。古泉は今回もボトル一本分のワインを飲みきり、みくるもボトルのおよそ三分の二程度のワインを飲みきった。これなら鶴屋さんの負担になることもないだろう。子供たちを追いかけるように影分身が向かい、もう一体はスパでみくるのシャンプー&全身マッサージ。着ている服はまだいいが、客室に脱ぎっぱなしの水着を発見して本体と同期した。
「やれやれ、どうやら子供たちの客室に洗濯乾燥機を設置する必要がありそうだ。『水着が客室のカーペットに脱ぎ捨てられている』と影分身から情報が届いた。自分たちで着替えられるように洋服の収納ケースはテレポートしたが、泳いだ後の水着とバスタオルの扱いについて子供たちに話していなかった。本社に戻って着替えさせるというのも、行って戻ってくるまでの時間がかかってしまう上に、エレベーターの故障にも繋がりかねん。それに、三人とも成長したとはいえ、素足でエレベーターに乗り込むような真似はさせたくない」
最後に言ったセリフに、ハルヒ、青俺、青有希の表情が瞬く間に冷酷なものへと変わっていく。俺もできることなら思い出したくはないし、一番に記憶から抹消したいものなんだが、こういうとき注意が必要だと考えさせられるが故に、消せない記憶であることに間違いない。何があろうと、俺が異世界支部の第一人事部に行くことは生涯ありえない。
「わたしはそれでいい。洗濯乾燥機の操作をするのはわたし達でも、やりたいことをやっているのにそんな状態じゃ、泳ぐ権利なんてない」
「おまえにも似たような事を何度も言った気がするが……まぁいい。俺も有希と同意見だ」
「ハルヒも納得しているようだし、影分身には風呂上がりの三人に水着とバスタオルの件を話すように伝える。今まで説明してなかった俺の不注意だ。今後はバスタオルと一緒に洗濯カゴの中に入れるよう指示だけしておく。それと、明日の午後はバレーの試合だが、午前中はコイツの練習をさせようかと思ってる。すまんが、影分身で付き合ってやって欲しい。場所は広いが一体居れば十分だ」
「コイツって一体何のことよ!?」
ハルヒの問いかけに指を鳴らして応えた。北高に通っていた頃使っていた自転車を社長室からテレポート。俺の席の後ろに補助輪付きの自転車を三台、それぞれ色違いで情報結合した。あの三人が色で揉めることはない。マウンテンバイクのようなフォルムでも良かったが、補助輪付きでは格好がつかないし、本来は前カゴがあるものだと認識させるにはこの形にせざるを得ない。デザインも極々普通のママチャリだ。
「こうして提案されると、あいつら自転車の存在すら知らないかもしれんな。三人とも、保育園や小学校から帰ってきても、友達と遊ばず日本代表との練習試合だった」
「保育園に連れて行くときも坂道を登っていたから使ったことが無かった。見たことはあるはずだけど、三人ともよく分かってないはず」
「補助輪がついた状態じゃ、いくらデザインが良くても格好がつかん。まずはこの自転車で運転させて、補助輪無しでスムーズにこげるようになったら、デザインに凝ったものを作ってやればいい。あの三人が色で争うことは絶対にない。伊織が水色、美姫が黄色、幸がピンクで決まりだ」
「面白いじゃない!明日なら楽団の練習も無いし、あたしが三人まとめて面倒を見るわよ!」
「そうか?黄古泉との将棋もないし、俺が出ても良かったんだが……黄ハルヒがそういうのなら甘えることにするよ。ところで、どうして幸がピンクを選ぶと確信が持てるんだ?確かに、シレ知レセカイの衣装を考えれば、自分はピンクにしようとは思う。しかし、美姫は黄色で確定だとしても、伊織と幸は迷うと思うんだが」
「ス○イルプリキュアを知っているからこそだ。もし、じゃんけんで決めるようなことになったとしても、アイツに一言告げるだけでいい。『幸』は英語で『Happy』だってな」
『なるほど!』
きらきら輝く……そのあとのセリフを忘れてしまった。セー○ーウラヌスならはっきり覚えているんだが。とにかく、自分の名前があのキャラクターにリンクしていると、幸に思わせることができればそれでいい。
「くっくっ、確かにその理由なら、彼女もピンクを率先して選ぶことになるだろうね。そっちも面白い話になっているじゃないか。僕も混ぜてくれたまえ」
「フフン、明日の昼食までで十分だわ!その頃には補助輪無しで自由に運転できるようにしてやるんだから!」
「頼りがいがあるのはいいが、ハルヒはその前に双子を連れて北高の1-5だ。カチューシャを美姫に渡したことの説明と、双子を紹介しに行くんだろ?双子にもこれが学校だと紹介するには丁度いい。アイツ等に催眠は効かないし、OG達がおまえらの催眠をかけていても支障はない。個人的には、朝倉の催眠をかけたOGに一瞬だけでいいから驚いて欲しいんだけどな」
「だったら、その間だけでも幸は俺が見る。絵本を読むなり、読み聞かせるなりしていればいい」
「そういえば、先週そんな約束していたわね。いいわ、朝食後にあたしと双子も連れて行きなさい!」
「僕も一緒に行ってもいいかい?モニターで見るだけじゃ、どんな反応をするのか分からないからね」
言われてみれば、有希の超小型カメラですらテレパシーでの会話を録音できないというのも妙な話だ。だが、たとえ有希でもテレパシーは収録できないとしても、策がないわけでもない。聞こえてきた声をアフレコで編集すればいいだけだ。

 

 みくるは全身マッサージの最中に敏感なところを触れられて眼を覚まし、今はジョンの世界でアメリカ支部の製本作業。子供たちに使い終わった水着とバスタオルのことについて話をすると、伊織が今日読んで欲しい一冊を持ってきた。これが保育園にある絵本の中で一番面白いってことなのか?子供の頃の記憶が残っていないせいもあり、表紙だけ見せられても内容がさっぱりだ。ベッドに横になって本を開くと、双子が左右から俺の二の腕にガッチリとしがみつき、幸は伊織を背中から抱きしめるようにして絵本を見ていた。三人が寝た後も影分身は離れられそうにないな。コイツ等の場合、この体勢でも胸が潰れる心配がないことが唯一の利点だ。結局、絵本の半分も読まないうちに三人とも眠ってしまったが、揃って満足気な表情をしているから良しとしよう。明日以降も読み聞かせることになりそうだ。
 パーティを終え、スパへとやってきたOG六人の服を脱がせていると、服の下から現れた六人の大胆下着に呆れて物も言えん。今朝の時点で分かってはいたが、オープンTバックショーツ、マイクロビキニ、Gストリングショーツ……終いにはオープンTバックショーツにパールがついたものまで……この後のことも考えた上なのかどうかは知らんが、着ていた服も秘部のあたる部分が濡れていた。
「やれやれ、ここまでくると履いてないのと大差がない。理由が理由だけにアンスコを履かせるわけにもいかんし、服まで濡れるんじゃ、いくら報道陣がいなくても他の選手や観客にバレるだろ?」
「練習中は平気。でも、キョンのマッサージのことを考えるとダメみたい」
「でも、ブラだけつけて、ショーツは履かないっていうのもアリかも」
「明日はそれでやってみる?」
『問題ない!』
やれやれ、これじゃハルヒと何ら変わりがない。この結束力を前に何を言っても無駄に終わりそうだ。その会話を横で聞いていた青OG残り五人もとうとう毛が抜け落ちてしまった。
「一応、理由を聞いてもいいか?」
『黄私の代わりに練習に出るのに、ショーツのラインを見せるわけにはいかないじゃないですか!』
「やれやれ、結局変態セッターの予想通りになってしまったな。俺にはコイツが時代の最先端を行くカリスマ的存在に思えてならないんだが?」
「なら、今度は部分テレポートでキョン先輩と繋がった状態で練習に……」
『うん、それ、無理!』
「青私、自分でそれやって『あんまり良くなかった』って言ってたでしょ!?」
「まだ黄キョン先輩で試してない」
「どちらにせよ、当初の目的が達成出来なくなりそうだから止めておけ。アンスコを履く必要が出てきそうだ」
「キョン先輩、それって、アンスコを履いてさえいればこの子の要望に応えるってことですか……?」
「いくら反対しても、結局やる羽目になる気がしただけだ。おまえ等の勢いに呑まれそうでならない。頼むから、自分が日本代表選手だということだけは自覚しておいてくれ」
『フフン!あたしに任せなさい!』
頼りになるんだか、ならないんだか……やれやれ。

 

 製本作業でバレーの練習に参加していないにも関わらず、OG全員ユニフォーム姿。青OGもショーツのラインが見えなくなっていた。全身マッサージ後も、明日の下着について要望はしてこなかったし、ここにいる時点でショーツは履いていないのかもしれん。毎日のように全員の裸を見ているし、クリアボヤンスで確認してもよかったが、余計呆れ返ることになりそうな気がしたから止めることにした。だが、俺がジョンの世界から出ようとする頃には冊子も500万部を超える偉業を成し遂げ、たった二日でこのペースなら冊子を届けるまでに間に合うかもしれん。
 カレーも昨日のうちに仕上がり、いくら匂いが残っていても『顔が腐って力が出ない』などと言うこともあるまい。未来の有希が『完成したのなら早く食べさせて!』などとテレパシーを送ってくるかもしれんが、その時点でみくると古泉だけカレーにありつけるようにするまで。先に伝えておいてもいいが、まぁ、そのときはそのときだ。いくらクオリティが低くとも、報道陣に『旅立ちの日に』の英語Ver.を撮影した動画が見つかってしまうかと思っていたが、今朝のニュースはどちらの世界も気になる記事も無く、新聞社二社がレストランの様子で一面を飾っていた程度。社員全員に催眠を施した例の新聞社の謝罪はまだらしいな。今日もこちらの人事部では一切電話対応をするつもりはないが、許しを請う電話が来てもおかしくはない。昨日の打ち上げでパンに満足したこともあってか、早朝から来る楽団員はほとんどおらず、音楽鑑賞教室とコンサートに満足してまだ眠っているのかもしれん。
「いくつか提案したいことがある」
タイタニックはインドを離れ、第二チェックポイントとなる南アフリカへと一直線。船上からでも夜景が楽しめるスポットがあればいいんだが。有希が起きてきたところで停泊していた船が再び動き出した。青有希が俺と同じ時間に起きているんだから、その間くらい青有希に任せてもいい気がするが……
「ちょっと有希!何をするのか知らないけど、あんたのその提案っていうのをさっさと教えなさいよ!」
「来月のアンコール曲のこと。ダンスは来週の生放送番組で踊ることになる。ENOZの新曲もそう。CDが発売する四月以降は、もうアンコールでは使えない。でも、古泉一樹をメインにステージに立たせる方法をようやく思いついた。それをアンコール曲としてライブに取り入れる」
「一体どうやって黄僕をメインにステージに立たせるんです?お二人で作詞作曲した曲で歌手としてデビューさせるとでも言うんですか!?」
「マイケルジャクソンのメジャー曲をSOS団とENOZで演奏する。古泉一樹は衣装を用意するから、それを着て踊って。赤と黒のライダースジャケット。ダンスはMusic VideoやLive映像をサイコメトリーすれば踊れるはず。バックダンサーは青チームのあなたの影分身で対応して欲しい。ジョンと彼の催眠をかけた影分身が古泉一樹の傍にいるようにしてくれればいい。あとは不特定多数の催眠で十分。もしダンスを踊りたければ、他のメンバーが入ってもいい。でも、OG達は必ず催眠をかけるようにして」
「マイケルジャクソンのあのダンスを僕に踊れと言うんですか!?いくらサイコメトリーしたとしても、夜練中に残りの意識であの高等技が真似できるとは到底思えません!」
「俺も黄古泉と同意見だ。しかもバックダンサーとして更に意識を割いた状態で踊れるとは思えん」
『いくつか提案がある』とは言っていたが、一つ目から特大級の隕石が降ってきたようなもんだ。しかし、『赤と黒のライダースジャケット』と聞いて、デザインがすぐに浮んできた。インナーは確か白のVネックだったはず。面白そうだし俺も参加してみたくなった。アンコール曲なら、おススメ料理の火入れも終わっている。
「青俺が出ないなら俺が出てもいいか?古泉が無理そうなら、俺が古泉の催眠をかけるだけだ。それに、ギターは曲によるが、ドラムは一人で十分。中西さんと岡島さんに任せて有希と朝倉の影分身も混ざればいい。マイケルジャクソンの曲を演るなんてギタリスト、ドラマ―として冥利に尽きるってヤツだ。女性ギタリストとの絡みもあったはずだからな。ハルヒは榎本さんとWボーカルだが、ギターじゃなくキーボードになりそうだ。いくら何でもキーボードの負担が大きすぎる。青佐々木をどうするかで迷うところだが、有希や朝倉の影分身に青佐々木の催眠をかける手もある。コーラスは財前さんと岡島さんがマイク付きヘッドホンで歌えばいい」
「ちょっとあんた!レストランのおススメ料理の火入れをするんじゃないの!?青あたしに確認もせずに勝手にそんなこと言い出すんじゃないわよ!」
「くっくっ、アンコール曲が演奏される時間ならもう火入れは終わっているんじゃないかい?そうだね。ベースが二人いてもあまり意味がないし、ハルヒさんがキーボードにまわるのなら僕の居場所が無くなってしまいそうだ。観客席からキミ達のダンスを見させてくれたまえ」
「というわけだ。夜練に60%、残りの40%でダンスに出る。古泉たちもダンスにそこまで意識は割けないし、マイケルジャクソンのダンスとなれば、相当のクオリティが問われる。だが、サイコメトリーもせずに無理だと決めつけるのは早急すぎじゃないか?これも影分身の修行だ。いかに低い意識で難易度の高いことができるかってな」
「面白いじゃない!あんたがそう言うからには見本を見せてもらうわよ!それに、キーボードとボーカルだけじゃ退屈よ!あたしもダンスに混ぜなさい!」
「本体が夜練に出てさえいれば平気です!サイコメトリーでいいのなら私にも踊らせてください!前々から、一度踊ってみたいと思っていたんです!!」
『私にもやらせてください!』
「そこまで言われてしまっては、僕も出ないわけにはいかなくなりました。どの曲をアンコールとして取り入れるおつもりなのか教えていただけませんか?」
「Thriller、Bad、Beat It、Smooth Criminal、Billie Jeanの五曲。ライブ毎に曲を絞る予定。まずはBeat It、Smooth Criminalの二曲。それに、We Are The Worldを旅立ちの日にのように全員で歌うのも一つの手。混声三部合唱でも、ソロパートを決めて歌うことも可能。ただ、どちらの場合も彼と古泉一樹の二人では足りない。ジョンの催眠をかけてもう一人出て。ダンスの振り付けは、わたしが映像を確認して、集約したものを渡すことにする」
「くっくっ、ジョンと子供たちには分からないだろうけれど、どれもメジャー曲ばかりじゃないか。全部見てみたくなったよ」
「おススメ料理の火入れが関係なくなるのなら、あたしも踊ってみたくなったわね!ここまできて誰にも反対なんてさせないわよ!?」
『問題ない』

 

「それで、他にどんなことがあるのかしら?今日はわたしからも話しておきたいことがあるのよ」
朝倉が有希を急かすというのも珍しい。どんな議題が挙がるんだか。
「今二つ話をした。わたしからは後一つ。これもアンコール曲として入れたいと思っていたもの。ダンスの著作権の申請はわたしがしておく。こちらも著作権の申請が必要。今度はディズニー」
『ディズニー!?』
「黄有希さんのやろうとしていることがまったく読めません。ディズニー関連で一体何をやろうというんです!?」
「フフン、あたしには黄有希っ子のやろうとしていることが何なのか閃いたにょろよ!!多分、みくるがソロで歌うことになりそうっさ!」
「わたしが歌うんですか?でも、今度は一体何を……」
「黄有希さんの考えと一致しているのかどうか聞いてもいいかしら?もし違っていても、いいアイディアなら両方やればいいわよ!」
「やれやれ、アンコール曲だけで一体何分取るつもりなんだ?俺もようやく決心がついたが、黄俺がまだおススメ料理の火入れの最中なんてことにならんだろうな?」
「アナと雪の女王のレット・イット・ゴーのことっさ!みくるに歌わせて、途中から黄キョン君があのシーンと同じ演出を加えてくれるにょろよ!城の中に入って見えなくなってもスクリーンに中の様子を投影すればいいっさ!」
「なるほど!それでディズニーですか!確かに、我々でないと不可能な演出です!」
青鶴屋さんの説明に俺もようやく納得した。その発想は今まで無かったな。ダンスも含めて来年の年越しパーティのパフォーマンスにでもするか?
「分かった。例のシーンを確認しておく。それで、有希の考えと一致していたのか?」
「そう。青チームの朝比奈みくるに衣装を着せて、あなたに演出を頼む予定だった。照明とカメラワークは任せて。演奏は青チー……」
「ちょっと待ちなさい!レット・イット・ゴーなら演奏は楽団の方がいいわよ!ダンスだけでもライブのアンコール曲としては長すぎるんだから、その曲はコンサートでやりましょ!あたしがグランドピアノを弾くわ!」
「困ったね。どちらもすぐにでも見てみたくなったよ」
「まったくだ。私も裕と同じ気分だよ。サイコメトリーで振り付けをマスターできるのなら、近いうちにでも見せてもらえないかね?」
「じゃあ、今夜から製本作業以外はダンスの練習に決まりね!」
『私も冊子の用意が終わったらダンスに参加します!!』
「ようやくわたしが話せそうね。ランジェリーの特集を六月と七月に変更した関係で、六月に予定していたベビードールの特集を五月号に前倒しするわ。あなた達六人にも身に着けてもらうことになるだろうから、そのつもりでいてもらえないかしら?明日からデザイン課の社員に考えさせることにするわね」
『え~~~っ!?涼子先輩、私たちがベビードールを着るんですか!?』
「あら?あなた達、ちょっと前までベビードールを着て寝ていたって話してなかったかしら?それに、スリーサイズも四月号に載せたし、正規のモデルとしての仕事もしてもらうわよ?」
「そっ、それはそうですけど、冊子に載るのはちょっと抵抗が……」
「有希からこれだけ議題が出たにも関わらず、朝倉がその件を持ち出してきたってことは、少しでも早いうちに覚悟を決めておけってことだ。みくるや青佐々木も該当しそうだしな。それと、レット・イット・ゴーと一緒にWe Are The Worldもコンサートのアンコールに回したらどうだ?有希たちが歌う分、控えメンバーが演奏できるだろ?」
「分かった。明日の練習までに楽譜を揃えて楽団員に伝える」
「キョン君、撮影するときはまた来てもらえませんか?」
「僕からも頼むよ。いくら日数があっても、キミがいないと覚悟が決まりそうにない」
『私もお願いします!!』
「それについてはお安い御用だが、時間が無い中ですまん。俺から一点だけやってもらいたい事がある。全国規模のことになるから影分身を割けるメンバーには協力を頼みたい」
「全国規模とは随分大事ですね。一体何をしようというんです?」
「今後、有希が作った記事を各メディアだけでなく、一般人も見られるようにしたい。首都圏で言えば、駅の構内や電車内にある広告に催眠をかけて、一定の期間その記事を見せる。勿論、駅員や広告を張り替える業者、警察には見えないように条件をつける。もし、その記事を見つけた報道陣が騒ぎだしても、一般人はそれを見て嘲笑って誰も助けには入らせないようにするつもりだ」
「やれやれ、今朝だけでどれだけ巨大隕石を落下させれば気が済むんだい?電車内の広告もってことは、ここにいる全員でかかっても、今日中に終わらせられそうにないじゃないか」
「まずは駅の構内だけでいいでしょう。こちらの世界では、近日中に発刊することになるでしょうから急ぐ必要がありそうですが、この件に関しては我々の世界でも実行に移すべきです!僕もできる限りの影分身で対応します。それが終わってからで構いませんので、ご協力いただけませんか?」
「ちょっとあんた!社長のあたしに許可なく……って言いたいところだけど、仕方がないわね。あたし達の世界にも必要なものにはかわりないわ!あたしもビラ配り以外はそっちにまわるわよ」
「俺も可能な限り異世界の方にも出向く。すまんが宜しく頼む」
『問題ない』

 

 子供たちの自転車の練習はハルヒの影分身で説明から練習まですべて対応してくれるとの事。『TV局内にも芸能人が見られるように催眠をかける』と付け加えておいたし、ハルヒ、双子、古泉、佐々木、OG六人を連れて北高の1-5の前へとやってきていた。ゾーンに入れる60%でこっちは十分。パン作りを中止して他のメンバーの影分身たちと催眠をかけに各地へと飛び回っていた。
『………?キョンパパ、ここどこ?』
「佐々木は違うが、ここは俺たちの通っていた高校だ。今から入る部屋が学校の教室。二人も四月になったら幸と一緒に学校に行くんだ」
『学校の教室!?キョンパパ、教室早く見たい!』
「くっくっ、相思相愛とは羨ましいじゃないか。殺風景かもしれないけれど、これなら話が弾みそうだよ」
「ただでさえ朝の会議が長引いたんだ。二人を紹介したら俺たちは体育館に向かう。そっちもあまり長居するなよ?『学校の教室を見てきた』ならまだしも、保育園で『学校の教室と話してきた』なんて発言したら、周りから変人扱いされてしまう」
「いいからさっさと入りなさいよ!時間ないんでしょ!?」
「へいへい。すまん、遅くなった!だが、約束通り、娘たちを連れてきたぞ!」
扉をガラリと開けて、一見殺風景に見える教室の中へと入っていく。そういや、OG達は高一のときどのクラスに所属していたのか聞いてなかったな。だが、これまでの反応を見る限り、1-5だった奴はいなさそうだ。もし異世界に1-9まであったとしたら、変態セッターは間違いなく1-9に所属していただろうな。俺やハルヒ、朝倉、古泉を知る奴は少なくなってしまったが、事情は例の授業をしたときにでも聞いているはず。しかし、挨拶で返ってくるわけでもなく、朝倉の催眠をかけたOGに怖気づくわけでもなく、双子を一目見た率直な感想で返答が飛んできた。
『か、可愛い―――――――――――――――――――――っ!!』
やはり催眠は効かないか。いくら声帯を弄っても駄目だろうな。殺気を放てば、姿が変わっていても朝倉だと信用するかもしれん。朝倉と有希は宇宙人だと、こいつらには先週伝えたからな。
『髪型は違っても双子だってよく分かるよ!涼宮さんそっくりだね!』『うんうん、カチューシャもよく似合ってるし』『だから、今はもう涼宮さんじゃないんだってば!』『あっ、そうだった!』『二人の名前は何て言うの?』
『キョンパパ、誰もいないのに声がする!』
佐々木にああ言った手前、子供たちに何と説明するべきか困ってしまったが、まぁ何とか言い包められるだろう。
「教室の壁や窓、机に椅子、黒板たちと話すことができるようにした。ド○えもんの道具にもあっただろう?どこ○もドアと一緒だ。俺がド○えもんの道具を使えることは保育園のみんなには内緒だ。できるか?」
『フフン!あたしに任せなさい!』
「おまえ等、カチューシャをつけている方が美姫、もう一方が伊織だ。二人とも誕生日が七夕の日でな。二人揃って『織姫』になるように有希が名前をつけてくれた。文芸部室からここの様子が見えるらしいし、当時はおまえ等も見たことがあるんじゃないか?文芸部室の窓の外に飾られた竹と笹の葉、ついでに俺たちが吊るした短冊だ」
『有希って長門さんのこと?』『そういえば髪型も長門さんとそっくり!えっと、「いおりちゃん」でいいんだよね?』『どんな漢字を書くのか黒板に書いて!』『僕には文芸部室の様子がよく見えてたよ!』
はははは……ここから文芸部室の様子が見えるヤツと言えば……角度的に教室の扉と、窓の一部くらい。見えていたのはハルヒの背中と、数千ページはあるであろう分厚い本を読みふけっている有希、たまにみくると、ボードゲームの内容は分からなくても俺と対戦していた古泉は見えていたはず。こいつらまで『ボードゲームで負けるところが見たい!』などと言い出さないだろうな?当時は有希と同様、古泉も表情に現れることは滅多に無かったし、たとえ負け続けていたとしてもそこまで悔しがることも無かったから、あり得ないか。要望に応えたハルヒが二人の名前を板書して一言。
「これよっ!」
『え~~~~っ!ハルヒママ、これ、わたしの名前じゃない!』
『ハルヒ……ママ!?』
娘がいると先週伝えておいたのに、何を今頃になって驚いているんだ?コイツ等は。
「あんた達の名前を漢字で書くとこうなるのよ!でも、まずは平仮名で綺麗に自分の名前を書けるようになってからってことになりそうね。あんた達、絵本を読むだけじゃなくて、ちゃんと書く練習もしなきゃ駄目よ!?」
『問題ない!』
「丁度いい。俺たちはこれで体育館に向かう。あとのことは頼んだぞ?」
「フフン、あたしに任せなさい!」
『おぉ―――――っ!母娘そっくり!!』
双子がハルヒの真似をしているんだから当たり前だ。古泉とOG達を連れて体育館前へとテレポート。扉を開けると………ギャラリーが先週の3倍以上に膨れ上がっていた。

 

「遅くなりました!宜しくお願いします!!」
敷地外に報道陣が待ち構えてはいたが、スマホを持ってこのあとの練習の様子を撮影しようとする生徒はおらず。生徒の監視役として顧問以外の教員がギャラリーに数名ついているようだ。その代わり、ライブでよく眼にする自作の団扇を振っている女子生徒が多数。団扇に書いてあるのは、当然古泉に関すること。やれやれ、今朝議題に挙がった例のアンコール曲が披露されれば、五月以降のライブでも似たようなことになりそうだな。
「おや?前回より部員数が増えているようですね。卒業した三年生と見て間違いなさそうです。それに、懐かしい横断幕が垂れ下がっているではありませんか。確か、あなたが彼女たちのために作ったものだったかと」
「古泉君!今はあたし達に催眠がかかっている状態なんだから、発言には注意しないと駄目よ!?」
「でも、この子達、あの横断幕のことを知っているのかしら?ちゃんと受け継がれているのか聞いてみたくなったわね。どうして今日垂れ下がっているのかも含めて」
「くっくっ、そんな暇があればいいんだけどね。僕たちはともかく、キョンとハルヒさんはフォーメーション練習までには戻らないといけないことを忘れないでくれたまえ」
「問題ない。サイコメトリーで十分。それに、おでまし」
まったく、ハルヒと佐々木は教室に置いてきたはずだが、朝倉たちまでこの場にいるようにしか聞こえん。古泉も古泉で「おっと、これは失礼を」とでも言いたげな顔をしている。俺たちの前にかけ寄ってきた現役北高バレー部の面々と挨拶を交わして、すぐに球出しの練習に入った。足でサイコメトリーした情報によると、古泉の予想通り、卒業した三年生が練習に加わっており、あの横断幕は歓迎の意味を込めて垂らしたものらしい。俺がこの六人のために作ったものであることは全員知っているようだ。先週伝えておいた通り、二面でネットが張られているし、さっさとクイック技に移ることにしよう。
「スパイク」
「スパイク―――――――――――っ!!」
『はい!』
ボール籠を引っ張って隣のコートに移った古泉に合わせて、バレー部員の半数がそれについて行った。早くクイック技が撃ちたかったからか、古泉のトスで撃てるからなのか理由は定かではないが、どの生徒も活き活きとした表情をしている。先ほどのレシーブ練習でも、特に注意するようなことはなかったし、ボールを一度上げただけで三ヶ所同時に飛び込んでくるだろう。
『有希先輩!今日も宜しくお願いします!』
「問題ない。ついてきて」
『はい!』
教える方も問題なさそうだな、おい。またこのメンバーで来たいと言い出しそうだ。現三年生からすれば、残り少ない機会にできるだけ参加したいと思うだろうし、春季大会も間近に迫っていると言っても過言ではない時期にきている。現二年生からすれば残り二回の大会で少しでもいい成績を残したいと考えているだろう。ただ、毎週のように報道させるわけにもいかん。レストランの取材を許可していないところは尚更な。ハルヒ達に化けた残り五人に球拾いを任せて、今日は見本無しでやらせてみたが、セッターだけでなくスパイクを撃つ方もステップを踏むタイミングを計る練習をしてきたようだ。コースはどうあれ、ホールディングスレスレのトスを上げさせられることも無く、見事にクイック技を放ってみせた。
「この調子ですと、あの六人よりも早くクイック技を習得してしまいかねません。当時の春季大会ではAクイックとオープンスパイク、それにあなたから伝授されたツーアタックの三つしか選択肢が無かったはずです」
「サーブレシーブをまともに受けられればの話だ。それができなければ、Aクイックすらまともに上げられん」
「くっくっ、それもキミが鍛えるんだろう?しばらくは僕の出番がまわってきそうにないからね。キミのリベロにだけはしないでくれたまえ」
「問題ない。今日、途中で抜けるのは二人。残り六人で練習試合をする。古泉一樹が彼と交代でサーブを撃てばいい。でも、それはルール違反」
「そこまで気にしなくてもいいっさ!先月はキョン君の影分身だけで試合をして、危うくレッドカードが出るところだったにょろよ!それより、更にサーブの威力が強くなってもいいにょろ?」
「あら、その方が練習になるわよ。でも、二面じゃジャンプサーブなんて撃てないわよ?アウトになってもいいのかしら?」
「心配いりません!キョン君と古泉君なら狭いスペースでも正確にジャンプサーブを撃ってくれるはずです!」
「面白いじゃない!エンドラインを踏むくらいなら許すわ!その代わり、ちゃんと真正面に撃ってもらうわよ!」
「その必要はない。現キャプテンがこのあとの練習について何を言ってくるかにもよるが、練習試合用のコートに切り替えるのなら一瞬で済む」
『一瞬で切り替える!?』

 
 

…To be continued