500年後からの来訪者After Future10-14(163-39)

Last-modified: 2017-04-01 (土) 05:03:09

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future10-14163-39氏

作品

数年の時を経て現れた自称藤原の一味を根絶やしにする計画が突如として訪れた。ドラマの第九話も前人未到の瞬間最高視聴率を獲得。なんとしてもトリックを解こうと人事部に電話がかかってくるような状態だ。異世界支部も社員が出揃い、新入社員の歓迎会が催されることになった。青ハルヒと青新川さんの関係について社員も疑問に思うだろうが、どう説明するつもりなのやら。オーケストラで歌った、英語版旅立ちの日にを歌った動画についてのニュースが流れ、全国の中学校から演奏のみのものが欲しいと依頼がやってきた。

 

 全国に催眠をかけ終えた古泉からのテレパシーを受けて、古泉が藤原狩りに参戦。ハルヒ達の代わりは古泉が影分身が対応しているから人数的にはほとんど変化がない。
「ジョン、後どれくらい残っているのか教えてくれ」
『あとは高二になる前の春休みに時間跳躍した連中と、計画を練って時間跳躍する前の奴等だけだ。このペースなら今日中に終わらせられる』
「人事部に連絡が来ていた例の件はCDと楽譜をすべて配り終えた。高二になる前に時間跳躍した連中は仕方がないとしても、今日中に終わらせられるのなら影分身を置いて戻ろう。最後の晩餐の機会すら与えてもらえないコイツ等を放置してな」
「しかし、ジョンまで戻るとこの時間平面上に連れて来られないのではありませんか?」
『俺はただの意識だ。そこに転がっている生首と違って食事をする必要がない。このまま残るだけだ』
「なら、コイツ等はジョンと影分身に任せて夕食に戻ろう。満腹になったら戻ってきてやるよ。全時間平面上のおまえらを始末しないと、古泉と朝倉が将棋をさせずに困るんでな」
煮えくりかえる腸も無く、文句の一つでも言えば助かる道はないと判断したようだ。もっとも、コイツ等の助かる道なんてのは最初から一本もありはしない。
「大ニュースだ!」
ジョンも含めて全員が出揃っているわけでもないのに、どこ○もドアから圭一さんが現れた。青圭一さんはもう席についているし、青ハルヒの食事も用意しているんだが、アイツ、自分の夕食は一体どうするつもりなのやら。
「くっくっ、今朝あれだけの報道があったのに、まだ何かあったというのかい?すぐにでも教えてもらいたいところだけれど、これだけ空席があるんじゃ全員が揃うのを待つ以外に選択肢がないじゃないか。キョン、すまないが現状維持の閉鎖空間を取り付けてくれたまえ。自分では解除できないからね」
「どういう意味か分からないとはいえ、子供たちでさえこうして待っているんだ。そんなものに頼らずに少しくらい待ってろ。それと有希、例の時間平面上の研究員が作り上げたシェルターの情報を渡すから、同期してさらに強固なものを作るように伝えてくれ。人類滅亡は防げなくとも、第三次情報戦争のときに少しでも役に……」
「キョン君、それは禁則事項に該当します。いくら有希さんが同期しても許可が降りません。戦争を未然に防ぎたいのはわたしも同じですけど………」
「問題ない。わたし達があの戦争で知ってしまったことについては禁則事項にはならない。加えて、あの時間平面上のジョンに呼ばれて、彼は一度シェルターの強度を確かめに行っている。あのシェルターの情報ならわたしも持っている。すぐに同期して知らせる」
「みくるもそんな法律にこだわる必要はないにょろよ!人を守れない規律なんて、あたしが踏み倒してやるっさ!」
「実行に移すかどうかは未来のみくる次第。だが、一つでも許可が降りた時間平面があれば、他の時間平面上でも研究せざるをえないはずだ。以前は、未来の有希が自ら、対同位体用の武器を作っていたんだ。極論を言えば、佐々木たちに研究させたっていいんだからな」
『そいつは面白そうじゃないか。前回のように500年後からこの時間平面上に敵が現れてもおかしくない。サイコメトリーはしても、量産するときは情報結合を使わずに作ってみたい。今問題になっている核兵器くらいじゃ、何の影響もないはずだよ』
「ですが、あのラボでシェルターを作るというのは、いくらなんでも狭すぎます。どうやって作ると言うんです?」
「ラボの外で堂々と作ればいいだろうが。閉鎖空間の第一人者が、今さら何を言っているんだ」
「おっと、その手がありましたか。それなら周辺の建物を破壊しても支障はありません」
「戦争真っただ中の国へ行って、そのシェルターを置いてきたいくらいよ。でも、シェルターの研究もいいけど、涼宮さんの方は大丈夫かしら?空回りしてないと良いんだけど……」
「乾杯の音頭を青ハルヒが取って、社員が料理とパンに夢中になっているところだ。間違いなく料理のことで青新川さんと比較されることになる。ちゃんと対応できるかどうか、俺も心配でならん」
「影分身と同期してないで、天空スタジアムの様子をモニターに映したらどうっさ?」
「キョン君や黄有希さんならできないことも無さそうですけど、モニターの映像を見ながら食べていると、鶴屋さん達が一番に吹き出してしまいそうです」
『あっ、あっははははは…それもそうっさ。でも、みんな気にならないにょろ?』
「問題ない。今モニターに映す」

 

 今までこの光景を何度見せられたか数えきれないくらいになってしまった。初めて料理を振る舞ったときはハリウッドスター達もこれと同じ状況になったんだから仕方がないとはいえ、これでは一時間もしないうちに料理が尽きてしまいそうだ。
「我々がカレーを夢中で食べていたときのあなたの気持ちがようやく分かった気がします。ビュッフェにするべきではなかったと今さらながら後悔していますよ。こんな映像を見せられては、ジョンの世界に行ってまで料理を準備した甲斐がありません」
「俺ももう『誰だって最初はこんなもんだ』と思うようになったからそこまで気にしてないが、作る側の気持ちを考えてくれる奴が少しでも増えてくれるとありがたい」
特に、ハルヒと有希な……とまで言いたいところだったが、カレー以外は聞く耳をもたんだろうな。未来のジョン達にカレーをすべて渡して料理に関する記憶の一切を抹消してしまいたい気分だ。小皿に大量に盛られた料理を食べながら、社員が青ハルヒに近づいて行く。
『こんなに美味しい料理は初めてです!これ全部社長が作ったんですか!?』
『あたしと四郎と古泉君の三人で用意したわ!今後も社員を集めてパーティを開くときはあたしが作るわよ!』
『本当ですか!?私この会社に入ることができて良かったです!でも、こんなに美味しい料理、一体誰から教わったんですか?』
『あたしは四郎が食事の支度をしているのを手伝いながら覚えただけよ。四郎と古泉君の師匠が、今80階で料理長をしている新川さん。四郎のちょっとしたパフォーマンスで食材がより美味しくなるようにしているけどね』
『見た目は普通の焼き立てのパンなのに、どうしてあんなに美味しいのか驚きました!でも、鈴木さんのパフォーマンスって一体……?』
『マジシャンと同じよ。タネは教えられないし、あたしも誰にも言わない条件で、手伝いをさせてもらったようなものだったんだから!』
やれやれ、一番の心配の種が杞憂に終わってようやくホッとした。カメラがパーティ全体を映したものに切り替わったところで、ようやく圭一さんが口火を切った。その頃には妻も影分身と一緒に戻ってきていた。
「昨日のドラマの放送を受けて、局員が最終話を見せて欲しいと担当者に詰め寄ったそうだ。答えを見てハガキを送りつけてくるようなら、サイコメトリーで取り除くことができるだろう。だが、その最終話を見た局員の一人から連絡が入ってね。『映画化してみないか』と提案をしてきた。どうするかね?」
「これは驚きました。大ニュースで間違いありません!ですが、この件は涼宮さんがいなければ、話を進めても意味がありません。すぐに連絡して影分身に来ていただきます」
『まいったね。僕がその映画の脚本を書くのかい?来週放送される最終話を超える脚本なんて僕には書けない。辞退させてくれたまえ』
天空スタジアムで社員と会話をしている最中の青ハルヒに青古泉が触れて情報を伝達。ビッグニュースに驚き、『すぐ行くわ!』と言っているのが読唇術を会得していなくても分かる。タイミングを見計らったかのように、モニターが消えて青ハルヒが現れた。
「ドラマの映画化なんて言われたら気になって仕方がないわよ!どこまで話したのかあたしにも教えなさい!」
「おまえがそう言い出すだろうと踏んで、青古泉が止めてくれてたんだ。映画化の依頼が来たと圭一さんから報告があっただけで、話はまだ始まっていない。俺がまず確認したいのは、いつ上映するのかってことだ。それによって服装も使えるトリックも変わってくる。それに、キャストの人間関係もセカンドシーズン後とサードシーズン後では微妙に違うはずだ。映画に向けたサードシーズンの脚本を手がけるなんてことだってあり得る。圭一さん、公開時期については何か言ってきましたか?」
「早ければ今年の夏だそうだ。サードシーズン後でも、君たちが映画を撮るつもりなら最終話が放送された後に『映画化決定』のテロップを流すらしい」
『面白いじゃない!』
「でも、脚本がないと撮影ができません!」
「それなら佐々木さん達がなんとかしてくれるわよ!」
「冗談はよしてくれたまえ。さっきも言ったけれど、僕に映画の脚本なんて書けるわけがないじゃないか」
「とりあえず、今浮かんでいる物を映画版として脚色してみたらどうだ?黄俺が最終話の脚本を手掛ける前にセカンドシーズンの最終話の構想はできていたんだろ?」
「あの最終話の後に僕が書いた脚本なんかで映画が大ヒットするわけがないじゃないか。修正を加えてサードシーズンには必ず入れるから、それで勘弁してもらえないかい?僕よりもキミの思い描いている脚本の方が数段良いに決まってる。キミの構想を聞かせてくれたまえ」

 

 セカンドシーズンのラストを飾る脚本をサードシーズンで公開する代わりに、映画の脚本を俺に押し付けてきやがった。ほぼ全員の視線が俺に集中する。周りが静まり返り、自分が発言しても大丈夫だと勘繰ったんだろう。
『キョン(伊織)パパ、今日は泳ぐ練習がしたい!』
「それなら、水着に着替えてプール集合。前回の勝負で使った石を三人で全部集めてこい」
『問題ない!』
「やれやれ……俺が脚本をまったく考えていなかったらどうするつもりだったんだ?」
『どの道、あんたが考えることになるわよ!いいからさっさと教えなさい!!』
「とりあえず、俺が考えていたものは二つだ。だが、どちらも概要しか決まってない。片方はこれからトリックと証拠を考えないといかん」
「頼もしいですね。もう二つもアイディアが浮かんでいたとは。概要だけで構いませんので、聞かせていただけませんか?」
「片方は前にも話した通り、青古泉が窮地に陥る事件だ。連続放火事件として鶴屋さん達三課が動いていたんだが、三軒目でとうとう死人が出てしまった。殺人事件に発展したところでみくるも捜査に乗り出して、この三軒の共通点を探していたが一向に見つからず、いくらサイコメトリーでも全焼した家の欠片からは何も情報が得られなかった。女子高潜入捜査事件のときは、カーディガンの一部が焦げずに残っていたからサイコメトリーできたと説明させる。そして、無差別放火殺人事件として捜査本部が立ち上がる噂が出ていたところで、みくるがようやくこの三軒のミッシング・リンクに気が付いたんだよ。スタイリスト時代から青古泉を指名している美容院の顧客が各世帯に混じっているってな。圭一さん達が動く前に青古泉のアリバイを調べるために鶴屋さんとみくるが揃って青古泉の家を訪れる。三枚の写真を見せられて、すぐに自分がシャンプー&カットをしている客で間違いないと認め、アリバイを聞かれたところで青ハルヒが怒りだす。深夜にアリバイがある方がおかしいし、何よりも青古泉と一緒に寝ていた自分が証人だと喰ってかかるんだが、結婚直前の間柄では、身内と同じ扱いをされ証人にはなれないと知る。そして青古泉の仕事がオフの日に四軒目の火事が真昼間に起こってしまう。みくると鶴屋さんで隠していたミッシング・リンクもついにバレて、青古泉を重要参考人として事情聴取をしようと圭一さん達がみくるを連れて美容院に入ってくる。しかし、セカンドシーズンの最終回で、本人が拒否すれば強引に連れて行くことができないと聞いていた青古泉が『予約している客が大勢いる』として真っ向否定。青古泉に罪を着せた真犯人を暴くという事件だ」
「………それで、犯人は一体誰にょろ!?」
「それは……」
『それは!?』
「脚本ができてからのお楽しみだ」
俺が「寝る」と告げたときと似たような反応を見せ、真犯人や放火の動機について聞けず残念そうにしているメンバーがほとんど。ディナーも歓迎会も終わったようだし、あとは青俺に異世界の店舗の社員のテレポートを任せるだけだ。子供たちの水泳指導に影分身を一体向かわせた。タイミングを見計らって別館にシートを被せ、報道陣が近づけないように閉鎖空間を備えつけてきたと同期で伝わってきた。歩道の反対側ですら撮影出来ず、報道陣を寄せつけないようにするため、楽団員の宿舎前から隣の駅付近まで『報道関係者は立ち入ることができない』と条件をつけた。牢屋に入れられるよりはまだマシだろう。たとえ車で別館のシートを撮影しようとしても、5秒以上停車すれば容赦なく富士山樹海にテレポートさせ、信号待ちの場合でも撮影をしていれば森を彷徨うことになる。その場合のカメラのレンズは無論ブラックアウトだ。
「しかし、困りましたね……僕に濡れ衣を着せられるのは構いませんが、家が全焼してサイコメトリーできずに、どうやって解決するというんです?それに、あなたの出番まで無くなってしまってはこの話は映画化できそうにありません。第十話を見て映画化の提案をしてきたのなら、あなたとジョンのバトルシーンは必須です」
『キョン、それはないだろう?そこまで話しておいて、またキミは僕たちを焦らすつもりかい?』
『犯人やトリックまで考えてあるのならさっさと教えなさいよ!映画化できるかどうか、判断できないじゃない!』
ハルヒ達が至極真っ当なことを言うのも珍しい。この事件で映画化は難しそうだがまぁ、いいか。
「いくら深夜にアクションを起こしたとはいえ、犯人からすれば四軒目だけ死者が出ればそれだけで良かったんだ。昼夜問わず酒を飲み続け、場合によってはDVにまで発展するようになった夫を殺そうとしたんだが、多額の保険金をかければ、容疑者候補として一番に眼をつけられてしまう。そこで、保険金殺人をただの事故として扱わせるため、例の組織に計画を依頼した。保険金が手に入れば報酬を支払う約束でな。トリックは至って簡単。寝室の豆電球にマッチをトイレットペーパーで固定して明かりをつけておくだけ。時限式の発火装置だと思ってくれればいい。そして、予約した時間通りに美容院に来店した犯人には、美容院のスタッフ全員が見ていたという完璧なアリバイが成立し、青古泉は青ハルヒと家でくつろいでいただけで、他に証人になりえる人間はいなかったってことだ。翌日、美容院のドアに触れた瞬間にオートでサイコメトリーが発動し、事件の情報が流れ込んでくる。美容院内のありとあらゆるものを触って得た情報をみくるに伝え、証拠と呼べるものは結局見つからず仕舞いだったが、夫に多額の保険金をかけていたこと、青古泉の休みの日を知っていたこと、この日に限って鉄壁のアリバイがあったこと、前三軒の家の周辺にあった靴跡が一つもないこと、出火場所が寝室だったことを並べたてて、ようやく犯人が罪を認める話だ。俺が美容院に行って情報を弄ることはできないし、この回は俺や例の組織はまったく関与していないと見せつけるためのもの。まぁ、青古泉に濡れ衣を着せた時点でバレてしまうがな」

 

「まったく、やれやれと言いたくなりましたよ。これはもう『概要』ではなく『全貌』です。すぐにでも撮影を始められそうですよ。鶴屋さんが活躍する回ということになりそうですが、やはり殺人事件でないと映画の脚本としては難しいでしょう。もう一つの方も教えていただけませんか?」
「数列の問題を解いた者だけが参加できる、ミステリーツアーのチラシが青古泉たちの住まいだけに配られる。セカンドシーズンの最終回と同じ例の組織からの挑戦状だ。携帯は圏外になってしまうが、ペンションやコテージ、その周辺の土地、及びその持ち主が残した財宝を、暗号を解いた者だけに相続されるって話だ。その相続の見届け役として弁護士やペンションのオーナー、それに青古泉たち、ターゲットになる人物たちと財宝に眼が眩んだ奴が数名、最後に俺だ。これについてはまだトリックも犯人も一切考えて無いが、この回のどこかで俺がみくるの危機を救い、『あのときの借りは返した』とジョンに宣言する。各コテージの枕の下に拳銃が隠されていて、犯人を確保しても財宝に眼が眩んだ奴等で争うことになる。ジョンが暗号を解読し、財宝の前でみくるが殺人事件の全貌を話した後、犯人以外の生き残りの内の一人が拳銃を発砲して脅しをかける。要は、財宝の在り処が判明し、全員殺してしまえば、財宝はすべて自分のものになると考えた奴がいたってことだ。青古泉が青ハルヒ達に自分から離れるように指示を出したところで、銃口が青古泉に向く。二言、三言会話したあと、足でサイコメトリーした情報で狙っている位置を見極め、発砲された弾丸をすべて避けるシーンを入れる。サイコメトラーとしてのレベルが上がり、俺と同程度までになったと見せつける。すべて解決した後、暗号を解いたジョンに財宝とペンション、それにコテージや周辺の土地を進呈される旨が、弁護士から正式に伝えられる。今回は園生さんと新川さんがバスガイドと運転手に化けているという設定だ。ペンションで新川さんに料理を作らせると、組織の仕業だとバレてしまうし、青古泉たちの前に姿を現すわけにもいかない。もっとも、『こんなチラシを全国にバラ撒いたら何千人と集まることになりかねないし、もし抽選で選ばれたとしても、あたし達五人に招待状が届くなんてありえないわ』とみくるに発言させる。青古泉のところには青ハルヒの分の招待状まで届き、これは組織の仕業だと断定して五人でミステリーツアーに参戦する。ペンションまで青古泉たちを送り届けた後、ル○ン三世のように必要の無くなったマスクをはがす演出をするつもりだ。予め仕掛けておいた爆弾を帰り際に爆発させてクローズドサークルを完成させる。ミステリーツアーのせいでみくるは鶴屋さんに行き先を告げることができず、車を運転してバスの後ろについて行くんだが、組織の車によって妨害されてしまう。だが、前回の教訓を活かした青ハルヒが、事前に用意してきた電話線を繋ぎ、連絡を取って戻ってくる。俺が考えているのはここまでだ」
「うん、うん!映画にするならそのくらいでなくちゃ!!面白いじゃない!あたしもその設定に乗るわ!」
「どれほどの財宝かは分かりませんが、ジョンが職に就く必要がなくなりそうですね」
『くっくっ、トリックはまだのようだけれど、数列の問題と暗号はもう考えているんじゃないのかい?僕たちにも解かせてくれたまえ』
まぁ、トリックが思いつくまではこれで答えを佐々木たちの要望に応えて、全員の前に数列の問題と暗号文を書いた紙を情報結合した。0、10、1110、3110、132110、13123110と縦に並べて書かれ、13123110の次に入る数字が何かを答えさせるもの。加えて、奇妙なところで改行された暗号が記載されていた。

 

我が従僕の兵士は、恋愛に
溺れ、あらゆる思想に興味
が湧かず。もしも私の妻女
王の宝が親子を支え始めた
ら去れ。師の詩が子を止め
て私の志を示す姿が私の史
だ。仕え支え私の志を継ぐ
者よ、死を使役し者よ、我
が宝、天使の賜物なり。宝
玉を欲す者死ぬ気構え無く
ば、己が身を屍と化す。我
其に直面すること叶わず。

 

「この数列や暗号文の意味も私にはさっぱりだが、今年の夏に映画を公開するということでいいかね?」
『問題ない』
「しかし、どちらもまったく手が出ませんよ。明後日の生放送には映画化のことも聞かれそうですし、暗号文の方はその時点で見せてしまってもいいのではありませんか?CMも入らないのでは、暗号文を解く時間も与えられないまま解決してしまいます」
「暗号文の方は死後硬直や死斑とは違った別の知識が必要になってくる。数列の方は、どうしても解けずにいた青古泉たちがみくるに連絡を取ったところで、『こんなの、有名小学校の入試問題よ?』と説明させる」
『小学校の入試問題!?』
「ああ、ここにいるメンバーよりも子供たちの方が先に解いてしまうかもしれん。何せ、幼稚園児が解く問題なんだからな」
「分かった」
『もう!?』
「相変わらず早いですね。暗号文の方も解けたということですか?」
「それはまだ。でも、数列については難しく考えすぎない方がいい。かけ算割り算どころか足し算引き算すら使用不可能。それに、1000万の位まである数列を見ても、幼稚園児には分からない。三桁が限度」
「これはもう映画化決定のテロップだけじゃ足りないですよ!最低でも『制作総指揮 キョン』『2017夏 サイコメトラーItsuki the Movie公開決定!』くらいは入れてもらわないと!!」
「問題ない。折り返しの電話と共にこちらで用意した映像を送る。最初のワンシーンくらいなら、朝食後に撮影可能。今手元に渡った数列を見せるには丁度いい」

 

 数列と暗号文の書かれた紙を見つめながら、何とかして解こうとしているメンバーを他所に、石を全て拾った子供たちに今日の練習の内容を告げた。
「今日から早く泳げるようにするための練習に入る。早く泳ぐためには、今までやってきた腕の振りを丁寧に素早くやることと、前に進むようなバタ足を心がけることだ。フォームが雑になるといくら頑張っても早く泳げないから注意すること。今日は25mを何秒で泳げたかタイムを計る。今後の練習の目安にしてくれ」
『「タイムをはかる」ってなあに?』
「三人が25m泳ぐのに何秒かかったか数えるんだ。このストップウォッチが正確に数えてくれる。まずは誰が一番速いか勝負になりそうだな」
『フフン、あたしに任せなさい!』
プールサイドで腕の動かし方を復習すると、飛び込み台に乗った三人が一斉にスタートをきった。『早く泳ぎたかったら、腕の振りは今まで通りに』と一言添えただけですぐに実践に移すんだから、当分の間はプールサイドで様子を伺って、たまに注意する程度で良さそうだ。
 暗号の解読を早々に諦めた側室を連れて別館のシートの中へとテレポート。
「ガス、水道、電気の配管は一つにまとめた。くどいかもしれんが、威力によっては地下鉄の構内まで破壊してしまうかもしれん。上からかめ○め波を撃つより、横からの方がいい。残骸が残ればもう一発撃つだけだ。俺も全力で技を放って、ハルヒと波平さんを足して2で割ったような言い草でジョンに怒鳴られた覚えがある。今持っているエネルギーを使いきるような真似さえしなければ大丈夫だ。作業が終わったら、ついでに10階くらいまで建ててしまおう。内装の情報なら後で渡す」
「分かりました!それじゃ、か~~め~~○~~め~~波―――――――――――っ!!」
俺が注意したせいもあるだろうな。悟○が天下一武道会に出場していた頃のような、随分と小さなかめ○め波だったが、本人はかめ○め波を放つことができただけで大騒ぎ。周囲に俺しかいないってのに、よくそこまで盛り上がれるもんだ。
「内装と言っても暫定的なものだ。特に一階は店舗になるし、おまえのセンスに任せる。可能な範囲で構わないからやってみせてくれ」
異世界支部どころか、アメリカ支部の冊子まで情報結合していたんだ。三、四階くらいまでなら建てられるだろうと思って様子を伺っていると、大浴場までのホテルフロアを一気に情報結合。二階には洗濯乾燥機が並べられ、一階の店舗にはウェディングドレスを着せたマネキンが何体も現れ、店舗の雰囲気を見事に再現。服やアクセサリーも棚に並べられている。空いた口が塞がらんとはこのことだ。明日にでもOPENできそうだな、おい。流石にガスや水道、電気の配管、配線までは難しかったらしく、それについては俺が担当したが、ホテルフロアの内装も非の打ちどころがない。木曜の朝にでも、男子日本代表をこちらに移してもいいかもしれん。荷物はすべてキューブに収めるだけで済むし、報道陣からはいつものように朝食から本社にやってきたものだと判断される。明日の朝にでも議題として提示してみよう。子供たちの水泳の方は………結果がどうなったか説明するまでもない。バレーと水泳で全身を鍛えていた分、年齢不相応のタイムを叩きだしてしまった。

 

「フフン、今日はあたしの日よ!一晩中あんたに抱きついて離さないんだから!」
「それで、一日この状態で過ごしてみてどうだったんだ?まぁ、下着とアンスコの状態を見れば一目瞭然だが…」
正確には『見た』ではなく、『サイコメトリーで情報が流れてきた』だな。有希と青ハルヒ、それに変態セッターの下着やアンスコがコレクションに新しく加わった。
「あんたと丸一日繋がっていられて、あたしもいい気分になれたわよ!毎日こうしていたいくらいだわ!」
「やれやれ、結局そうなるのかよ。おまえがそんな調子じゃ、有希も同じことを言ってそうだ。だが、映画の撮影をする日は駄目だ。NGを出しかねないし、ランジェリーも見せる必要がある」
「ぶー…分かったわよ。でも、明日の撮影くらいなら別にいいでしょ?」
「例のチラシを見たおまえが青古泉に駆け寄るくらいだが……本当に大丈夫なのか?」
「あたしに任せなさい!」
青ハルヒの宣言通り、抱きついて離れそうにないってのに、この近距離でこんな大声を出されてはな……片腕には青ハルヒの頭が乗っているし、耳を塞ぎたくても塞げられん。
『終わったぞ』
お疲れ様。古泉と二人で夕食に戻ってからどうなったか聞きたいところだが、この状況でジョンと話していると、青ハルヒが何を言ってくるか分かったもんじゃない。同期して得た情報によると、とりあえず未来で計画を練っていたバカ共は排除して、いただいた金は社長室の金庫の中。すでに風前の灯火状態の藤原もおり、閉鎖空間でどんな方法を使っても侵入できないようにしてきた……か。あとは週末にでも牢屋ごと破壊すればいい。何度も「頼む、見逃してくれ」と懇願していたようだが、未来を捻じ曲げようとした時点で滅ぼすと決めている。あとは、アイツのみじめな生涯が終わる時を待つだけだ。
 アメリカ支部の女性誌の製本作業を終え、OG達や影分身に慣れたENOZはバレーの練習に戻ったが、みくる達は影分身一体を情報結合して段ボール作り。青みくるの方は青俺の投球を受けてから作業に励んでいた。野球の試合まであと半月。青俺たちの投げる球より更に速い超光速球が飛んでくることになるんだ。一日たりとも欠かすことはできない。ゾーンに入れるギリギリの状態でも零式改(アラタメ)が安定し始め、ジョンや朝倉からバトルに誘われた。妻の方もゾーンだけで零式改(アラタメ)を放っているし、あとは昼食前のサーブ練のときに修練を重ねればいいだろう。ようやくバレーの練習に戻ったOG六人は今日はオポジットを正セッターにしてダイレクトドライブゾーンをやるらしい。これでトスが正確に上がるようなら、Wセッターと言っても過言ではない。
「どうしたんです?心此処に在らずと顔に書いてありますよ?」
「色々と気になることもあるし、例の映画の脚本を考えないとな。これまでとは違ったクローズドサークルを用意したのはいいんだが、どんなトリックで計画を実行に移そうか悩んでいるところだ。あと、あのバカから奪った資金は青ハルヒと青古泉で銀行に預けに行かせる。リムジンにトランクを大量に積んでな」
「何!?ハルヒと古泉の二人だけで行かせる!?古泉に運転を任せたら、確実に事故が起こって新聞沙汰になってしまうぞ!!」
「この半年間で青古泉がどれだけ変わったか試すチャンスだ。念のためリムジンに移動型閉鎖空間をつける。それなら他の車との接触事故もないし、内輪差の関係でリムジンやガードレールに傷がついたとしてもすぐに直せる。青ハルヒ自ら大量の金を銀行に預けに行くんだ。良い宣伝になるだろ?」
「では、映画の導入部分の撮影が終わり次第向かうことにします。ところで、その現金は今どこにあるんです?」
「社長室の金庫の中だ。トランクに積んで行ってきてくれ」
「了解しました」

 

 ダンス自体はサイコメトリーだけで十分踊れるが、古泉に指摘された通り、トリックをどうするかで悩むこと数時間。心此処に在らずのまま朝を迎えることになってしまった。だが、気になることの内の一つがようやく確認できる。『SOS Creative社別館』とシートの側面すべてに書かれているのは告知のためで間違いない。だが、一般男性の目線の位置にでかでかと『取材拒否』の四文字を記載しておいたにも関わらず、それも含めて一面を飾ったのが、例の催眠で受けた苦痛に耐えきれず、社長が土下座謝罪をした一社を除いた残り全社。70階予定のシートを写すには別館から多少離れた位置から撮影するのが一番だが、それでも『取材拒否』の四文字が写っていることに変わりはない。社員全員が連日にわたって苦痛を強いられた分、明日の一面で他の新聞社を叩くことになりそうだ。すぐにでも有希に記事を作ってもらうことにしよう。別館のシートで一面を飾った全社の新聞を載せる。見出しは『僕たちは「漢字の意味が分からない新聞社です!」』で決定だ。社長が二度目の土下座謝罪をした新聞社も、何のための土下座なのか見出しと記事にはっきり記載されている。これで、あのMCの苛立ちも少しは解消されるだろう。どうして土下座謝罪になったのか他のメディアが集まって来そうだが、毎晩悪夢にうなされるなどと社員全員で主張したとしても、周りの人間は呆れるばかり。信憑性に欠けるとして話題に挙がることはない。
「フン、不幸中の幸いってところね。例の催眠が無かったら、全社別館のシートの件で一面を飾るに決まってるわ!」
「昨日の歓迎会でジャムがほとんど無くなってしまったから、あまり影分身は割けないんだが、今日から異世界の方にも催眠をかけてまわることになるだろう。それと、青古泉にはもう話したが、藤原のバカから強奪した現金を社長自ら銀行に出向いて預けに行って欲しい。それだけの大企業だとPRするいいチャンスだ」
「ふむ、それもそうね。てっきりこっちの世界で預けるものだと思っていたけど、そういうことならあんたの提案でも許すわ!あんたがリムジンの運転をしてくれるんでしょ?」
「いや、さっき言った通りだ。そこまで影分身を割けないのにリムジンの運転までしている余裕はない。青古泉に運転させるつもりだ。夏休みの罰以降、アイツも大分変わったからな。用心のために閉鎖空間はつけるつもりだが、ハルヒ達が居てもよそ見をせずに運転可能かどうか確かめるには丁度いい」
「ちょっとあんた!あたしを実験台に使うつもりじゃないでしょうね!?」
「いや、今の青古泉なら支障はないと思っていただけだ。……っと、催眠をかけてまわる前に中学校にCDと楽譜を届けにいかないとな。昨日は映画化の件で持ちきりだったし、午後も同じ依頼が来ていてもおかしくない。予行前に届けに行く」
昨日は午前中だけで32校から依頼が来たんだ。卒業生から何度も懇願されれば、三学年の教員や管理職も折れるだろう。朝食に全員集まったところで圭一さんから一言。
「それなら54件だ。卒業式の予行前に届けるなら古泉たちも加わった方がいいだろう」
「いえ、今から学校に出向きます。影分身18体×3校なら予行前に配り終えることが可能です。ジャム作りの手が小一時間止まるだけですから、何も支障はありません」
圭一さんの背後に情報結合した影分身が情報を受け取り、同期して各学校へと向かって行った。
「良かったんですか?あなた一人で負担することでもありません。我々にも修行の機会を与えていただけませんか?」
「俺が出向けば何の用なのかはっきりするし、古泉では女子生徒に囲まれる可能性も高い。その代わりに、電話対応にまわってくれないか?別館の取材の件で着信を知らせるランプがずっと点灯し続けているんだ。朝食でパンにありつこうともう出社している人事部の社員もいるし、第二、第三人事部で対応にあたってくれ。有希の真似ではないが『無理』の一言で切ってくれて構わない。逆ギレしてきたら、そいつを陥れてくれ。社員が取った電話で文句を言ってきた場合も、古泉や圭一さんに代わるよう伝えてください。こっちは取材拒否だとすでに提示しているんだ。怒鳴りたいのはむしろこっちの方。逆ギレされる筋合いはない。ついでに、楽団員の宿舎前から隣の駅付近まで報道陣を入りこませない閉鎖空間を張った。反対側の歩道にすら入れないようにしたから近距離での撮影は不可能。今朝の新聞でそれが無かったのも閉鎖空間のせいだ。これで威力業務妨害になることも、コンサートやライブに報道陣が潜り込もうとすることもできん」
「それは構いませんが、車で本社前にやってきた場合はどうするつもりなのか教えていただけませんか?駐車場のときと同じ閉鎖空間では追突事故が何件も起こってしまいます」
「車両で入り込んでくる奴等には、別館の撮影をしようと5秒以上停車した時点で、富士山樹海にテレポートさせる仕組みになっている。いくら信号待ちでも撮影すれば樹海を彷徨うことになる。カメラのレンズは当然ブラックアウトだ」
「なるほど、すでに対策を講じていたとはお見逸れしました。昨夜、心此処に在らずの状態だった理由がはっきりしましたよ。では、すぐに第二、第三人事部に影分身を向かわせることにします」
「それと、シート内の解体・建築作業についてなんだが、俺はガスや水道、電気の配線をしただけで、あとは一人で10階の大浴場まで情報結合されてしまった。一階の店舗もマネキンにはウェディングドレスが着せられているし、服やアクセサリーも陳列されている。今日OPENさせてもいいくらいだ。男子日本代表チームには俺から連絡をしておく。荷物さえキューブに収めてしまえば、これまで通り必要最小限のものを持って本社に来るだけでいい。練習用体育館の倉庫の奥にどこ○もドアを設置して別館二階と繋ぐ。洗濯乾燥機も用意したし、そのまま着替えることも可能だ。マネージャーには明日の朝でチェックアウトするように言っておく」
「嘘……この子一人で10階まで建築した……?」
「嘘だと思うのなら見に行けばいい。店舗の方はデザイナーでなければ閃かないような内装になってるぞ」
「涼宮さん、我々の世界の方も同じ閉鎖空間を張りませんか?もう十分宣伝はしましたし、これ以上は邪魔になるだけです。別館の一階も見させてください。今後の店舗の内装の参考になりそうです」
「……仕方ないわね。いいわ、あの連中がいなくなったら同じ条件で張っておいて頂戴!撮影が終わったら、すぐ銀行に行くわよ!」
「了解しました」
『えぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!』
「ちょ、ちょっと待ちたまえ。まさか、彼に車を運転させるつもりじゃないだろうね?」
「俺も黄俺から聞いたときは天地がひっくり返る思いだったよ。そのまさかだ」
「ちょっとあんた!青あたしを危険な目に合わせるなんてどういうつもりよ!!」
「この半年間で青古泉がどのくらい変わったかを見るチャンスだ。リムジンには移動型閉鎖空間をつけておく。追突事故で他の車両と揉めるようなことにはならん。精々ガードレールと接触する程度。青古泉のことを信頼できるようになったからこそ提案したんだ。それを裏切るような真似はしないだろうし、二度と運転させられないと判明すれば、ハルヒ達とドライブに出かけるなんてのはまず無理だろうな」
「くっくっ、同乗するわけじゃないのに、泥船に乗った気分になったよ」
「必ずや豪華客船に変貌させてみせます!」
「あら?この船のことを忘れたのかしら?」
「問題ない。今の彼になら可能」

 
 

…To be continued