500年後からの来訪者After Future10-15(163-39)

Last-modified: 2017-04-01 (土) 05:56:21

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future10-15163-39氏

作品

ドラマの第九話を見たTV局の局員が『第十話を見せろ』と職権乱用と言っても過言ではないくらいの暴挙に出た。不正行為だとして、圭一さんからもそれでハガキが送られてくる場合は、サイコメトリーで取り除くよう助言を受けたのだが、その局員の一人から『映画化してみないか?』という話が舞い込み、俺がサードシーズンの脚本として考えていた案を提示。放火殺人事件の方は『概要』ではなく『全貌』だと古泉から小言を言われたが、もう一方の方は暗号を解読して財宝の在り処を探すこととその暗号だけは決まっていても、肝心の犯人、トリック、証拠、そしてその動機はまだ未定のまま。にも関わらず、それを映画化しようとハルヒが乗り気になってしまい、もう誰にも止められん。やれやれ、いい案が閃くといいんだが……

 

「できた」
例のオーケストラでのアンコール曲なら月曜の時点で楽団員に話があったはず。楽譜も配られていると思うんだが……一体何ができたと言うんだ?
「え~~~~っ!!黄有希先輩、もう新聞記事ができたんですか!?」
「これはすぐにでも催眠の条件を変えた方が良さそうですね。一人でも多くの人間に見てもらわなければなりません。新聞の見出しは彼から提示されていましたし、記事の内容を予め考えておけば、今朝の新聞記事を掲載するだけで済みます。他の議題が出ていたからとはいえ、有希さんからすれば遅い方ですよ」
『……?たちは………の、が……からない………です?キョンパパ、これなあに?』
「新聞って言ってな。今読めなかったところは全部漢字で書いてある。これから小学校に入って習うことになる。今は平仮名が読めるだけ十分だ。そろそろ保育園に行くぞ」
何も子供たちの分まで情報結合することも無いだろうに……まったく、意味が分かっても逆に困るが、学習に対して意欲的になったようだし、まぁ良しとしよう。この二人も早く小学校に行きたいのかもしれん。青有希が『戻ってきたら未来に送ってほしい』と告げて、子供たちを連れて本社へと戻っていった。
「よし、この記事をサイコメトリーして催眠の条件を変えてくれ。駅員、警察、広告を取り替えにまわっている業者には見ることができず、報道陣がいくら騒ぎ立てていようが、一般客にはそれを見て嘲笑うだけで誰も助けには入らせないようにしてくれ。有希は各メディアにFAXを頼む」
『問題ない』
「じゃあ、今日からあたし達の世界にも催眠かけてまわるわよ!あんたも手伝いなさい!」
「おまえは青古泉と二人で銀行に行ってきてからだ」
「あっ!ハルヒ、すまん。今日からだと俺はそこまで手伝えそうにない」
「どうしてそうなるのよ!?」
「今日は四月号の発売日だ。今日はそこまで注文は来ないだろうが、今後は両方の世界の作業場と倉庫につかないといかん。ドレスの発注はすべて俺の担当になっていたことをすっかり忘れていた。今日はパートやアルバイトの人間に事情を説明しにいかないとな」
「となると、将棋もしばらくはできそうにありませんね。僕も残りの意識でそちらの世界に向かうことにします。本店の品物はもう切り替わっているのですか?」
「昨日、デザイン課の社員に替えさせたわよ。冊子も発売されたばかりだし、しばらくはわたしも試合に出てみようかしら?四月号を見たこの子達のファンがどんな反応を示すのか気になるのよ」
「あ……とうとう私たちのスリーサイズが知られてしまうんですね………しかも、全国規模で」
「影分身は無理でも、みくる達はビラ配りに出た方がよさそうにょろよ!サインを強請られるに決まってるっさ!」
「ビラ配りに出るのは無理だが、こっちも午前と午後の練習後に押し寄せそうだな。サインを強請られるんじゃないか?今までファンサービス的なことは何もできなかったんだ。そのくらいは応えてやれ」
『も……問題ない』
「六人とも、黄俺から貰ったエネルギーを一旦返したらどうだ?オートでサイコメトリーが発動してしまったら、古泉と同程度の妄想が流れ込んで来てしまうぞ!」
『是非、そうさせて下さい!!』
「くっくっ、僕も人のことは言えないけれど、今の彼女たちのように憂鬱な気分になったことなら何度もある。五月号のベビードールのことを考えると、モチベーションがあがりそうにないよ」
「俺が撮影に入る条件で納得しただろうが!これ以上こいつらを憂鬱な気分にさせてどうするんだおまえは!……ったく、とりあえず、このあとすぐラスベガスで撮影だ。81階に別館一階に繋がるどこ○もドアを設置しておく。見に行きたい奴はドアを潜って構わない。それと、54校回り終えたから、俺も異世界の催眠をかけに行く。映画の告知はこちらで作ったものを近日中に送付すると伝えてください」
「それは構わんが、もう届け終わったというのかね!?」
「青古泉の運転の件と、有希の作った新聞で時間を忘れていただけです。どこも、『予行前に届いて良かった』と口々に言っていましたよ。このあとも連絡が来るようなら食事時に教えてください。俺が届けに行くことは内緒でお願いします」
「分かった、社員にもそう伝えることにするよ」
「それじゃ、すぐに撮影に行くわよ!青あたしと青古泉君は寝間着に着替えてきて頂戴!」
『はぁ!?』
「どうして寝間着になるのか、ご拝聴してもよろしいですか?僕にはその意味がさっぱり理解できません」
「ミステリーツアーのチラシを見て参加しようとするのなら、朝に決まっているでしょうが!!夏の設定なんだから、それも踏まえて着替えてきなさい!いいわね!?」
そりゃごもっとも。さっさとチラシを用意しておかないと、あとが怖そうだ。

 

『キョン、さっきのハルヒさんの一言には僕も驚いたけれど、そろそろ脚本を作ったらどうだい?』
「ん?ああ、あとは登場人物の名前だけだ」
「キョン君、昨日は『まだ考えてない』って言ってたのに、もうトリックを思いついたんですか!?」
「ああ、今回は暗号解読部分が無い脚本になる。映画だからな。そこまで難しくないものにした」
「だったら、最初のシーンだけでもすぐ用意しなさいよ!アドリブで演じなくちゃいけなくなるじゃない!」
「へいへい」
着替えを終えて戻ってきた二人を連れてラスベガスへ。OG達は別館一階に興味を示し、どこ○もドアを潜って行った。みくると佐々木達三人は映画の最初のシーンが気になるからと撮影に付き添い、影分身でもサインが書けることを確認した青みくるはビラ配りへと向かった。眼を覚ました青ハルヒが郵便受けを確認するところからスタート。余計な広告やビラはゴミ箱に捨て、三枚折りにされた今回の発端となる紙を手にして中を広げる。
「……………っ!!いっ、一樹!起きて!起きなさいって言ってるでしょうが!!」
「……なんだよ、朝っぱらから騒々しいな。またあの女でも現れたのか?」
「違うわよ!いいから、このチラシを読んでみなさいよ!!」
「『ミステリーツアー参加者募集のお知らせ?』わけの分からない数列が並んでいるし、おまえ、こんなものに興味があったのか?旅行ならいくらでも……」
「も~~~~っ!あたしが言っているのはここよ、ここ!!」
「ペンションやコテージ、その周辺の土地、及びその持ち主が残した財宝を、暗号を解いた者だけに相続される!?」
ペンションやコテージ、財宝の文章を読みあげているうちに次第に青古泉の眼が見開いていく。青ハルヒも「ようやく分かったようね」などと言いたげな顔をしている。
「もっとちゃんと読みなさいよ!どうせ、暗号はツアーに行ってから配られるんでしょ。これはそのためのテストみたいなものよ!これくらい解けないと参加する資格はないってこと!あんたならサイコメトリーですぐに解けるでしょ?」
「………ダメだ。おそらく大量に印刷されているせいで出題者の意図がまったく伝わって来ない。サイコメトリー無しで解くしかなさそうだな。仕事の合間でいいからハルヒも一緒に考えてくれ」
「あたしこういうの苦手なのよね……あんたが考えなさいよ!シャンプー&カットならサイコメトリーだけで十分でしょうが!!」
「出来ないことも無いだろうが、カットで失敗は許されないし、予約の客でいっぱいなんだ。……仕方がない。帰ってきてから考えよう。ジョンや裕にも連絡しておく」
青ハルヒがチラシを再度覗きこみしばらく考えていたところで、ハルヒのカットが入った。あとはこの映像にOGの提案した文字を入れるだけで完成だ。脚本は……間に合えば昼食で配るとして、この続きをいつから始めるかを相談することになりそうだ。

 

「くっくっ、一体どの件から聞いたらいいのか迷ってしまったよ。豪華客船にはなれたのかい?」
収録を終えて解散した後、昼食で全員が揃った段階で口火を切ったのは、青佐々木。午前中だけでも気になるところは多々あったからな。俺も気になっていたんだ。
「普通の漁船ってところね。今までみたいな視線を感じることは無かったわよ」
「花丸とまではいかなかったようっさが、合格点を貰えたのなら、それで十分にょろ!今日はどっちのみくるもビラ配りができなかったっさ!冊子の表紙にサインを強請られていたにょろよ!」
「あの表紙の人物が目の前にいれば、誰だって跳び付きます。このビルの体育館の方も観客が膨れ上がっていたのではありませんか?」
「今のところその傾向は見られないし、冊子を購入してから来たような奴もおらん。表裏の写真が逆転していれば、男子の方の体育館は倍以上になっていただろうが、表紙がみくるだからな。手にとって裏表紙や中身を見るまでしばらくは時間がかかるんじゃないか?」
「一つ、僕から提案があるんだけど、いいかい?」
「裕が議題を提案するとは珍しい。一体どうしたと言うんだ?」
「本店にも冊子を置かせて欲しいんだ。異世界の方はそこまででもないだろうけど、こっちは体育館の観客が『冊子は販売していないのか?』と一階に降りてきそうだからね」
『冊子の情報結合ならわたしにやらせてください!』
「両方の世界の本店に置くということで異論は無さそうですね。しかし、有希さんの記事の件で各地でトラブルが発生しているようです。報道陣が広告を破いて駅員と揉めていたようですよ?」
「こっちも似たようなもんだ。周りは素通りしていくだけで、誰一人として報道陣の味方になってくれる一般人はおらん。警察が来ているところも何ヶ所もあったが、駅員共々飽きれていたそうだ。ウェディングドレスの件は四か所とも説明をしてきた。注文が殺到するまでにはしばらく時間がかかりそうだし、今度は俺たちの世界で催眠をかけてまわる」
「さっさと終わらせて映画の撮影するわよ!あんた、脚本はできているんでしょうね!?」
その話より前に午前中の人事部の様子を確認したかったんだが……まぁいいか。
「なら、暗号の答えと解決編を除いた脚本を渡す。ペンションやコテージのイメージも一緒に渡すから、ラスベガスでセットを用意してきてくれ。ついでに誰がどの役で出演するか考えておいてくれると助かる。折角用意した料理を無駄にはしたくない」
「キョン、私たち、サイコメトリーが……」
「触れるだけで情報が伝わるようにしておいた。手に取ってみろ」
「くくくくく、あのアホの役は俺にやらせてくれないか?アイツのアホさ加減をそのまま演じてやるよ」
「難波剛三郎役は黄古泉君でどうかしら?お酒を飲む絶好のチャンスじゃない!」
「影分身で撮影に加わっているので無ければ、それで構いません。しかし、トリックや証拠、暗号文は未だに不明ですが、今回は登場人物だけで犯人が絞れたようなものですよ。殺害に至る動機も含めて」
『黄古泉先輩、登場人物だけで分かったんですか!?』
「ええ、登場人物たちの平均年齢が高いことが決め手になりました」
「キョン君、最終回の撮影のときのように登場人物がどんな風貌をしているのか見せてもらえませんか?」
古泉にこれ以上喋らせるわけにもいかんし、さっさと説明してしまおう。影分身九体が俺の背後に催眠をかけた状態で現れた。
「まずは、島村幸雄。三流企業に勤務している。役職はそれなりに高いが身長163cmのチビ。見た通り、老眼鏡をかけ、定年間近でプライドだけは一人前の男だ。二人目、難波剛三郎。酒、賭博、女に金を使い過ぎて借金まみれ。金目当てでツアーに参加。ウィスキーをよく飲む。三人目、辻村京介。若手エリート弁護士。身長183cm。オーナーと共にツアーの見届け役としてペンションで青古泉たちを待っている。四人目、星野朱里。現ペンションのオーナー。本人は都心で住居を構えており、父の遺言のせいで戻ってくることになった。暗号文も自力では解けないし、財宝なら他の人間に渡ってもいいとして辻村を雇った。五人目、星野正治。星野朱里の父親だが、既に亡くなっている設定だ。今回殺害される連中から殺されたようなものだと思ってくれ。六人目、真野瑠璃。宝石店の総元締。宝石やゴールド、ダイヤモンドに目がない。自分で謎を解かないと財産は手に入らないからと、仕方なくツアーに参加した。ヘビースモーカーで行きのバスでも禁煙の表記があるにも関わらず煙草を取り出して吸っている。七人目、上村伸次。某一流大学の学生。暗号文に興味を示しツアーに参加した。八人目、谷口明保(たにぐち あきやす)アホの谷口をそのまま名前にしたもの。俺のあだ名と同じく、名前だけで明(あ)保(ほ)になる。身長は北高時代のもの。髪型もオールバックで整える。女性をランク付けするのは当時と変わらずだ。九人目、引地英雄。元中学校数学教諭、定年まで校長を務める。責任逃れをする場面が多く、部下から忌み嫌われている。また、金に執着する傾向が強く、このツアーに参加したのもそのため。ついでにハゲ。以上九名が今回の登場人物たちだ」

 

「これは困ったね。難波剛三郎と谷口明保役は黄古泉君とこっちのキョンがやるとして、あとはどうするつもりだい?朝比奈さんならどの役でもやってのけるだろうけれど、僕には煙草が吸えそうにないよ」
「問題ない。孤島での齊藤平八役と同じ。被害者が二人出た時点で脅える島村幸雄役を青チームの朝比奈みくるが担当すればいい。真野瑠璃役はわたしが演じる。あなた達はエリート役が適任。辻村京介、上村伸次役を担当して」
「今回の事件は、わたしは出演しないようだし、星野朱里役でもいいかしら?」
「どうやら私も同じようだ。星野正治役をやらせてもらえないかね?」
朝倉どころか圭一さんまでキャストに立候補してくるとは驚いた。だが、アホの谷口とほぼ同じレベルの引地英雄役を立候補するメンバーはおらず、俺が二役演じることになった。ジョンと俺の影分身の分の食事はハルヒと圭一さんで食べることになりそうだ。
「映画のCMをつくるのにもうワンシーン撮影したい。ペンションやコテージはわたしが準備する。朝比奈みくる、そのシーンの撮影が終わったらアフレコに来て」
「あっ、はい!……でも、有希さん。どんなシーンのアフレコをするんですか?」
「五人揃って招待状が届き、組織の仕業だと確信を持ったときのセリフ。彼が概要を説明していたとき、あなたに発言させると言っていたもの。『こんなチラシを全国にバラ撒いたら何千人と集まることになりかねないし、もし抽選で選ばれたとしても、あたし達五人に招待状が届くなんてありえないわ』これだけ」
「分かりました」
「……それで、こっちの人事部の様子はどうだったんだ?」
「別館の取材と、有希さんが作った新聞に関する報道陣からのクレームがほとんどですよ。『我々もその記事は拝見しましたが、どうやら矛先を間違えているようですね。ですが、納得した上で報道したんですから、あなた方が文句を言うのは筋違いです』と返答をしておきました。あなたが懸念していた逆ギレの電話も数件ありましたが、『今後一切あなたの会社からの取材は断ると社長に伝える』と脅しをかけておきました。この後も、そのような電話はかかってくるでしょうが、社員にも同じ対応をするようにと伝えてあります。例のCDの件は圭一さんが集約をしていますので、このあと報告があるかと」
「ああ、午前中だけで24校から連絡が入った。今日の予行練習は伴奏者がついていたそうだが、本番ではオーケストラの演奏で歌いたいそうだ。伴奏者と大分揉めた所もあったようだが、学校側に委ねるという話だったからね。すべてCDを送り届けると返しておいたんだが……一つ困ったことになった」
『困ったこと!?』
「テレビ朝日から連絡が入った。明後日の生放送についてなんだが、その日は卒業式ということもあり、ENOZとSOS団のダンスの後、楽団のオーケストラをバックに日本語版の『旅立ちの日に』を歌って欲しいそうだ。ライブと同じく、ENOZや彼を含めた全員でとのことだった。その途中にエンドロールが流れる演出をしたいらしい」
「問題ない。リハーサルがない分好都合。楽団員には金曜日に連絡すればいい。わたし達のダンスのキーボード担当は青チームのOGに催眠をかける」
「圭一さんが困っているのはそこじゃないだろ。ライブのアンコールで歌うだけならまだしも、あの番組の放送中に『旅立ちの日に』を歌うってことは、夜練の真っ最中に抜ける必要があるってことだ」
「そんなことならどうにでもなるにょろよ!キョン君たちの投球に日本代表全員が付けるわけがないっさ!自分の出番が終わったところで抜けるだけでいいっさね!」
「特に女子の方はこれまで何度も行ってきましたし、監督から何か指示が出るわけでもありません。テレポートで天空スタジアムへ向かえばいいでしょう」
「監督もニュースは見ているはずですし、何か聞かれたら私から説明しておきます!」
「私は夜の練習の様子は見ていなかったからね。それなら心配はなさそうだ。明後日は天空スタジアムから生中継でOKだと折り返すが、それでいいかね?」
『問題ない』
「ちょっと待ちなさい!折角天空スタジアムでライブをするのに客が一人もいないんじゃ盛り上がらないわよ!有希、明後日のライブの件サイトに載せておいて頂戴!要は、生放送の様子をチェックしながら、あたし達の出番を待っていればいいんでしょ!?来週は例のダンスとアナ雪をアンコールで演るわよ!」
「分かった。でもそれは、多丸圭一が折り返し電話をした後。観客を入れてもいいか確認する必要がある」
「なるほど、すぐにでも折り返してくることにする。連絡はテレパシーでも構わないかね?」
「問題ない」

 

 議題に出た24校を回り、パンとジャム作りに戻ったが、今日は異世界に催眠をかけに行くのは難しそうだ。古泉の報告通り、一度報道したものに対して記事を作られても、文句の言える立場でないことに変わりはない。冊子の発売日とはいえ、午後もこれまでの同程度しか集まることなく練習を終えた。サインを強請りにくる観客も『男子の体育館の方は』見られなかった。
「船が停泊して大陸が見えるってことは、もう南アフリカに着いたのか!?先に教えてくれれば、パーティ用の料理に変えることもできたはずだろ?」
「くっくっ、パーティ用の料理にしなくても、キミの作ったものなら至高の料理に違いない。キミも早く席に着きたまえ。第二チェックポイント到達祝いといこうじゃないか」
「その至高の料理を酒の肴にするおまえ等もどうかと思うがな」
日本では夕食時だが、タイタニックの方は太陽がようやく一番高い位置まで登ったところだ。前回と同じように古泉とみくるの席いはワインボトル一本が置か……って、ちょっと待て!
「古泉、このあと夜練があることを忘れていないだろうな?そのワインボトルを一体どうするつもりだ?おまえは」
「おっと、酒に対する耐性を鍛えるいいチャンスだと思っていましたが、あなたに言われるまでそのことを失念していましたよ。夜練が終わり次第、夕食と一緒にワインを飲むことにします。昼食で話題に挙がった、天空スタジアムに客を入れる件も快諾を得ましたし、すでに有希さんがサイトにUPしてくれています。何人気付くか分かりませんが、敷地外に行列ができることに違いありませんよ。報道陣が無残にやられるところをUPしようとする人間には期待外れと言ったところでしょうか」
「これでおそらく終わりになるだろうが、CDの件で36校から依頼が来た。当日までに間に合うか心配をしていたようだが、明日の朝には届くと伝えてある。君に任せていいかね?」
「最後くらいは僕にも譲っていただけませんか?修行の機会がほとんど無いので困っているんですよ」
「だったら、今すぐ異世界に出向いて催眠をかけてこい。向こうの方だって、いつ有希の作った新聞が載るか分からん。俺はパンとジャム作りで手がいっぱいだし、明日のCDと楽譜の配布も古泉で構わない。それと、男子日本代表の荷物を別館に運んでくれるか?マネージャーには明日でチェックアウトするように伝えておいた。夜練後にロッカールームにどこ○もドアを設置して、明日から別館で寝泊まりすることを伝える」
「やれやれと言いたくなりましたよ。毎日同じような電話対応ばかりで、頭が働かなくなったようですね。すぐに異世界に影分身を送ることにしましょう」
「それじゃ、第二チェックポイント到達記念と、映画の大ヒットを祈って……乾杯!」
『かんぱ~い!』

 

「しかし、我々の世界の催眠の方も近日中に終わらせて、早く映画撮影の続きがしたいですよ。撮影をしているうちに数列や暗号文のヒントが得られるかもしれません」
「本当に幼稚園児にも解けるのかどうか、子供たちにも数列を見せてくれないかい?」
「それなら、三人ともクイズをやってみないか?」
『クイズってなあに?』
「問題が出されて、誰が一番先に答えられるか勝負をするんだ。みんなには先に問題を出したんだが、有希しか答えに辿り着けていない。どうだ?」
『勝負!?キョン(伊織)パパ、わたしもやる!』
数列の書かれた用紙と鉛筆を情報結合すると、箸を置いて考えている。今日は水泳でも自転車でもなく、数学(?)の問題をなんとしてでも解くと言いたげな顔で問題を向き合っていた。しばらくは放置しておいても大丈夫だろう。
「しかし、黄俺もよくこんな難しい暗号を考えたもんだな。文章の意味がさっぱり分からん」
「財宝をどこに隠すか決めてから作った暗号だから、そこまで苦労はしなかったが、多少強引な文面があることは確かだ。青古泉が言っていたように、撮影の合間に閃くかもしれんし、脚本にもヒントが隠れている。全員ギブアップしない限り、俺から言えるのはそれだけだ。ああ、そうだ。明日の生放送番組で出すヒントとして、『どうしてアニメやゲームのキャラクターが見た目も声もそのままの状態でわざわざ出演したのかということ』も加えてもいいと思ってる。犯人は特定できても、トリックや証拠までとなるとこれだけでは苦しいが、このくらいが丁度いい」
「むふふふふ、キョン君あんまりヒントをあげちゃらめれすよぉ。こいるみ君が大変にらってしまいましゅ」
「みくるちゃんも酔っ払ってはいるみたいだけど、会話が成立するようになったわね」
「毎日飲み続けていた成果がようやく周りにも分かるようになったらしいな。今の発言を覚えていないなんてこともない」
「そういえば、人事部に犯人やトリックの書かれたハガキは届いてないの?」
「まだ一通も届いていません。明日の生放送のことは知っているでしょうし、もし、解けていたとしても確信を持ちたいと考えているのが妥当です。僕が答案を提出したときのように97点などと言われてしまいかねませんからね」
「すでにトリックや証拠に関するスレッドが数多く立てられている。服部の胴体を脚立代わりに使うあの破天荒なトリックも案として出ている。でも、大多数が否定派」
「逆に聞いてみたくなりましたよ。あのトリックを否定するのであれば、どうやって密室殺人を完成させ、なぜ服部の胴体を動かす必要があったのか、とね」
「ギリギリまで討論した上で日曜、月曜あたりに大量に送られてくるだろう。それより、来月のライブのアンコール曲で踊るダンスの練習を今夜から始めないとな。曲目が増えるんだろ?」
「次はThrillerの予定。Billie jeanは古泉一樹が歌って。来週のライブ後の反応によっては、あなたがメインボーカルになることもある」
「僕がメインボーカルですか!?マイケルジャクソンのような高音が僕に出せるとは到底思えませんよ。キーを下げるとクオリティも下がってしまいます」
「問題ない。わたし達がカバーしている曲と同じ。あなたが無理に高音を出そうとする方がクオリティを下げることになる。古泉一樹が歌うとこうなると観客に思われるだけ」
「しかし、理由は承知の上だが、パーティの真っ最中に古泉がこうして俺たちの会話に入ってくるというのも奇妙な光景だな。まぁ、いずれこうなるときが来るんだろうがな」
「僕も早くそうなりたいと願っていますよ」
「キョンパパ、できた!」
『なに―――――――――――っ!?』
字の汚さは年齢相応のものだから無視するとしても、美姫から手渡された紙に書かれている数字の並びを見ると、数列の規則性に従った数が書かれていた。
「どうやら、有希に続く第二位は美姫のようだ。おまえらもあまり悠長に構えていると、伊織や幸にも負けてしまうぞ?美姫もこんなに難しい問題をよくできたな。偉い!」
「わたし、えらい?」
「そうだ。ハルヒ達ですら解けていない問題なんだぞ?この勝負、美姫の勝ちだ」
伊織や幸どころか、他のメンバーも悔しそうな表情を並べていた。みくるはワインボトル一本を空けて酔い潰れたが、他のメンバーは数列と暗号文が書かれた紙をテレポート。
『キョン先輩、私の分もテレポートしてください!』
「やれやれ、こんな調子じゃ閉鎖空間の条件を変えてエネルギーを返した方が良さそうだな。意図的にサイコメトリーする以外は能力が発動しないようにするか?」
『問題ない!』

 

 賑やかなパーティから一転、水を打ったように静まり返ってしまった。伊織、幸と正解者が増える度に他のメンバーの苛立ちがひしひしと伝わってくる。ヒントでも出そうものなら、ここにいる全員に罵倒されてしまいそうだ。まぁ、そのときは全責任を佐々木に押し付けることにしよう。子供たちにも解かせてみようと発案したのはコイツだからな。
「も~~~~っ!!子供たちに解けて、あたしに解けないなんて!!」
『そろそろ夜練の時間だ。影分身を送って考えるのはいいが、遅れるなよ?』
「今になってようやく気付いたけれど、キミがこの数列と暗号文を考えた時点でジョンには伝わっているんだったね。そうでなかったとしても、ジョンなら簡単に解いてしまいそうだよ」
「ダメだ。どういう見方をしたら子供たちが正答に行きついたのかが分からん!」
「有希も話していただろう?足し算・引き算すら使えないと思って考えなければ無理だ」
「2や3も入ってきていますから二進法というわけでも無さそうですし、これでは我々は事件の現場に辿り着くことすらできませんよ。これを『有名小学校の入試問題』だと断言した朝比奈さんもこのような状態では……」
一月末の戦争のときもそうだったが、ドラマの設定と私生活が混同しているようだ。こっちのみくるをそのまま『朝比奈さん』と呼んでも言い間違いに気付いていない。
「有希、映画のCMはできたか?どの道、明日TV局に行くことになるんだ。そのときにDVDを預けてくれればいい」
「分かった。CMならもうできた」
「くっくっ、困ったね。どんなCMになったのか僕も見てみたいけれど、この数列の規則性が分かるまでは見られそうにないよ。足し算・引き算すら使えないのは理解して解決策を探しているつもりなんだけどね。何か他にヒントのようなものはないのかい?」
「『それを聞いたら負け』だと感じている奴がほとんどだからな。まず無理だろう。サイコメトリーで情報を伝えても、声に出しかねない。俺は異世界に催眠をかけに回ってくる。答えが分かったらテレパシーで連絡してくれ」
本体で有希のシャンプー&マッサージをしてもよかったが、青有希共々食器の片付け当番だと決まっている。ジャムも異世界支部の歓迎会で消費した分の倍の量を作ったおいたし、明日は異世界に回せる影分身も多くなるはずだ。子供たちも数列を解き、絵本を一冊読むと満足そうに眠っていた。
 男子日本代表を夜練後に残し、明日は荷物をまとめて引っ越しだと話すと、もう宿舎ができたのかという驚きが半分、移動する手間が省けるという嬉しさが半分ってところか。倉庫の奥に設置したどこ○もドアを潜り抜け、窓の外にシートが張ってある状態を確認して別館に移動してきたことを実感している。客室を一通り見回って本社を後にした。荷物をまとめておくよう伝えておいたし、あとは古泉が動いてくれるはずだ。

 

「もう降参だよ、キョン。ここなら誰にも聞かれなくて済む。あの数列を紐解くヒントを教えてもらえないかい?」
ようやくスパに姿を現し、客室に戻って口火を切った佐々木が一言。赤ん坊の誕生日も七月十日で確定のようだし、そろそろ産婦人科に行ってくる必要がありそうだ。
「四則演算が使えないだけであの数列の規則性を考えても答えには辿りつくことができない。子供たちがあの短時間で答えを導き出すことができたのは、一般常識を知らなかったからだ」
「一般常識ってどういうことだい?」
「あの数列はな、すべて『右から読む』んだよ」
「……まったく、危うく声に出すところだったよ。キミの言う通り、私たちはあの数列をすべて左から読んでいた。あの三人ならそこまで大きな数は習ってないだろうし、私たちと違ってそういう見方もできた。まさに、発想の転換だと言えそうだね。……少し考えさせてくれたまえ。ここまでヒントをもらっておいて解けないようじゃ、暗号文の方は手も足も出そうにないからね」
会話をしている間も二本の尻尾が佐々木の秘部に入り込んでいた。胸を軽く触る程度で待つことしばらく、佐々木が正答を導き出すことに成功。本人も満足気な顔をしていた。
「くっくっ、小学校一年生の頃にこれと似たようなことを算数の授業でやっていたのを思い出したよ」
「ところで、明日の午前中は空いているか?そろそろ産婦人科にも行ってこないとな」
「そうだね。私としてはキミの本体に一緒に来てもらいたいんだけれど、それでもいいかい?」
「お安い御用だ」
青佐々木の方も同様のヒントでミステリーツアーの参加資格を手に入れた。
「ひゃっ!」
全身マッサージ中にようやく酔いが醒めてみくるが眼を覚ました。
「ようやく気付いたらしいな。ワインボトル一本分全部飲み切るとは思わなかったぞ。ハルヒも『酔っ払っているけど会話が成立するようになった』なんて驚いていた。こうして全身マッサージの最中に眼が覚めるのなら、みくるは毎日ワインでもいいかもしれん。今度は白ワインでも飲んでみるか?」
「え?えっ?でもわたし、毎日こうして介抱してもらうなんてキョン君の負担に……」
「介抱と言っても、お姫様抱っこでスパに来てシャンプーと全身マッサージだ。いつもとそこまで変わらん。可愛い妻の介抱くらい、毎日でも引き受けてやるさ」
「本当にいいんですか?あっ、でもわたしがキョン君のシャンプーとマッサージができなくなります!」
「よく言うだろ?休肝日ってヤツだ。みくるの場合は日曜日になりそうだな」
「キョン君……ありがどうございばす~~~~~!」
 翌朝、男子日本代表の引っ越しの件もあり、古泉も俺や青ハルヒと同じ時間に起きてきた。『作業を始める時間まで、異世界に催眠をかけてまわったらどうだ?』と提案したところ、青ハルヒもその考えには至らなかったらしい。もうちょっと影分身の使い方を考えてもらいたいもんだよ、まったく。
「でも、これであたし達の世界の方も今日中にかけ終えることができそうね!明日は黄あたし達の楽団の練習もありそうだし、そこまで撮影できないかもしれないけど、土曜日の午後からなら映画の撮影ができるわよ!!」
「それで、数列は解けたのか?ミステリーツアーに参加できなくなってしまうぞ!佐々木たちはヒントを得てようやく解けたらしいがな」
「うぐ……さっ、撮影前までには解いてやるわよ!」
ニュースの方は案の定。土下座謝罪をした一社が『取材拒否の文面を無視して撮影&掲載!?他の新聞社や週刊誌に避難殺到!』などと他の新聞社を罵倒し、それ以外は我関せずとばかりに他の記事で一面を飾っていた。有希の作った記事のまま見出しを飾れば、逆に叩かれることになるくらいは分かっていたらしいな。この新聞社も四月にはレストランに入れてもいいかもしれん。

 
 

…To be continued