500年後からの来訪者After Future10-16(163-39)

Last-modified: 2017-04-02 (日) 12:36:53

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future10-16163-39氏

作品

卒業式に合わせた番組内容にするため、新曲を出す度にお世話になっていた番組から天空スタジアムからの生ライブ、そして『旅立ちの日に』の合唱を最後に加えて卒業式の日を締めくくると連絡が入った。SOS団のダンスもENOZの新曲も披露してしまうことになるし、マイケルジャクソンのダンスとアナ雪のアンコールは来週のライブからとハルヒの鶴の一声。案の定、取材を強行した各メディアに鉄槌が下され、催眠もしばらくはあのままだ。

 

 社員や楽団員、一般客に振る舞ってばかりでこいつらに振る舞っていなかったと思い立ち、ビバリーヒルズで食べた料理と一緒に芳醇なパンがテーブルに並んだ。
『キョン(伊織)パパ、わたし早くパン食べたい!』
「そう慌てるな。それと、まずはこっちを先に食べてみないか?」
子供たちの前に和菓子が一つずつ現れた。あるキャラクターの大好物だが、果たしてこれに気付くかどうか……
『キョン(伊織)パパ、これなあに?』
「三人のよく知っているアニメキャラクターの大好きな食べ物だよ」
「伊織パパ!わたし分かった!ドラ焼き!!」
「正解。ド○えもんの大好物だ。ド○えもんが好きになった理由を知りたくないか?」
『わたしもドラ焼き食べる!』
『いただきます』の後も落ち込んで、テンションが下がって、場の雰囲気を悪くしているのが二人。これだけ種類豊富にパンが揃っていてカレーパンが一つもないことに悔いている。
「あんた達のせいでカレーパンが食べられないんでしょうが!これ以上延ばされたくなかったらシャキッとしなさいよ!シャキッと!!」
『ドラ焼きおいしい!!』
「ド○えもんが好きになった理由が分かっただろ?」
口いっぱいにドラ焼きを頬張りながら、首を縦に振っていた。
「キョン、それはないだろう?僕たちにもキミの作ったドラ焼きを食べさせてくれたまえ」
「子供たちに『これがド○えもんの大好物だ』とはっきりさせたかったんだ。みんなの分も用意してある。それに、カレーパンの代わりというわけじゃないが、メロンパンも作ってみた。食べてみてくれ」
『もう食べてます!!』
「しかし、パン生地とクッキー生地を分けて焼いたわけでもないのに、良くここまでの差がつけられましたね。パン屋のメロンパンでも、クッキー生地の食感が出るまで焼いてしまうせいでパン生地まで硬くなってしまうというのにこれは一体どうやって……?」
「なぁに、現状維持の閉鎖空間ではなく膜をパン生地の周りに張っただけだ。パン生地がベストの状態になったところで現状維持が発動するようにした。あとはクッキー生地だけが焼かれる。それだけだ」
「くっくっ、食材や調理器具のサイコメトリーも、材料とテレパシーで相談するのも、現状維持の膜で覆うのも、料理にここまで超能力を駆使したのはキミが初めてだろうね。サードシーズンで涼宮さんより前に起きたこちらの古泉君が朝食を作っているというのも悪くないと思うんだけどどうだい?」
「そのあたりの設定はおまえに任せる。ところで、今も古泉や青ハルヒの影分身が異世界にこちらと同じ催眠をかけにまわっているが、今日中には終えてしまいそうだ。早ければ明日の午後から映画の撮影に入ることもできるが……どうする?ちなみに、昨日の段階で青みくると佐々木たちは正解することができた。俺からヒントを受け取っているという条件付きでな」
『面白いじゃない!明日の昼食までにあんたのヒント抜きで解いてやるわ!!』
「キョン君、わたしはヒントを教えて欲しいです。いくらサイコメトリーでも、あの問題を解いてからでないと、撮影に影響してしまいそうです!」
「OG達はほとんど諦めているようだからいいとして……って、全員でメロンパンに手を伸ばすな!一人一つ分くらいしか用意してないんだ!」
『うん、それ、無理!』
「こんなの、バニラアイスにエスプレッソをかけたのと一緒ですよ!ザクッとした食感ともっちりしたパン生地の両方がいっぺんに楽しめるなんて吃驚しました!社員や楽団員たちも一度食べただけでやみつきになりそうですよ!キョン先輩なら、今だって社員食堂でメロンパンも振る舞っているはずです!」
「出そうと思えば出せることを彼女たちに見透かされていたようですね。僕もヒント無しで……と言いたいところですが、明日の昼食時になっても分からなかった場合は教えていただけませんか?あなたから受け取ったヒントから短時間で正解を答えてしまったようですし」
「俺もそうさせてくれ。それに、黄古泉やハルヒがもう動いているのなら俺も行く。今日中に催眠をかけ終えることができるのなら明日からの店舗OPENも問題なさそうだ」
「アルバイトの希望者ならそれぞれ四、五名ずつ面談を終えています。明日は無料コーディネートの件と店舗の運営について知ってもらうために全員来るように連絡しました。何度も同じ説明をするのは面倒ですからね」
「古泉、明日のライブでSPを数人出してくれないか?青俺も店舗とSP、バイクの運転に夜練じゃ流石に厳しい。それから有希、来週のライブで大画面に映す予定だったのを明日に変更してほしい。その分、来週の投影は無しだ」
「了解しました」「分かった」
「キョン、私にも影分身の修行をさせて!夜練の時間なら新店舗に一体ずつ出せるし、異世界なら私が入っても大丈夫。だからお願い!」
「やるなら金曜日だけでなく毎日になりそうだな。すまんが、今日の午前中は佐々木を連れて産婦人科に行ってくる。誕生日も七月十日で確定だ。陣痛が始まるのも夜の七時頃だし、おやつ代わりに軽食を食べて夕食は抜いた方がいい」
「凄い、黄キョン君、陣痛が始まる時間帯まで分かるの!?」
「有希や黄ハルヒのときだって似たようなものだったろ?ドラマの話じゃないが、サイコメトラーとしての実力が上がったってことだ。店舗の方も分かった。影分身は一体ずつ向かわせる」
『有希、みくる、佐々木の出産時は同行してくれ。ハルヒと同じことが起こりかねない。そのときはみくるに力を譲渡する』
『問題ない』
「それと、今日の生放送だが、ヒントは『このドラマは最初から最後までランジェリーの宣伝だということ』『どうしてアニメやゲームのキャラクターが見た目も声もそのままの状態でわざわざ出演したのかということ』の二つ。場合によっては大御所MCからトリックや証拠に関する話もあり得る。場合によっては、証拠が三つ必要なことも話してもいいと思っている。みくるがDVDを渡した時点ですでに知られているからな」
「それじゃ、明日の午後から映画の撮影で決まりね!とっとと解散!」
『問題ない』

 

 おっと、有希からCMを見せてもらうのを忘れていたが、昼食時にでも確認すればいいだろう。異世界支部の方もメロンパンが加われば先ほどのOGのようになるだろうが、今の青ハルヒには異世界支部の運営より暗号を解く方がよっぽど大事らしい。タイタニックには、ハルヒ達や古泉たちが数列をまじまじと見つめながら小さく唸り声を上げ、食器片付け担当はいつも通り有希たち二人。OGも言っていたが、社員食堂でもメロンパンが好評らしい。今夜のディナーもおススメ料理も仕込みは既に終えている。何事も無く進んでいたかのように思えたが、昼食時真っ先に口火を切ったのは青古泉。
「やれやれと言いたくなりましたよ。敷地外にも閉鎖空間を張ったせいで報道陣からクレームに近い電話が鳴り止む気配がありません。それだけ近寄って欲しくないと納得してもらいたいものですが、さすがにそれも無理でしょう。似たような電話がかかってきた場合はこちらも脅しをかけることにします」
「ところで、今日のディナーの方はどうするつもりだ?」
「どうするとは……何か問題でもあったんですか?」
「俺、青ハルヒ、青古泉の三人が生放送の番組に出ている最中に、ディナーの火入れをして大丈夫なのかってことだ。カメラもないし、青ハルヒだけ催眠をかけて影分身で対応するでいいか?」
「あんたも、黄古泉君も影分身を見せているんだからそれでいいわよ。それより、解けたわよ。何でこんな簡単なことに気がつかなかったのか呆れたわ。子供たちがすぐに解けたのもこのせいだったみたいね」
『!!!』
「すごいです!わたしも今朝キョン君からヒントを貰ってようやく答えに辿り着けたのに……ヒント無しでなんて」
「まいったな。ジョンや朝比奈さん、ハルヒにまで先を越されるとは……あとは俺と裕だけってことか?」
「あら?古泉君、もう役作りに入っているのかしら?でも、脚本にそんなセリフは無かったわよ?」
「今に始まったことじゃないし、裕さんが数列を解こうとしているのかどうかまでは俺も知らんが、有希、例のCMを見せてくれ。TV局のスタッフに渡してVTRとして出してもらうこともあり得る」
「分かった」
OGの提案をそのまま採用したらしい。『制作総指揮 キョン』、『2017夏 サイコメトラーItsuki the Movie公開決定!』のテロップの後、数列の書かれたチラシを持っている青古泉のシーン。
『ペンションやコテージ、その周辺の土地、及びその持ち主が残した財宝を………暗号を解いたものだけに相続される!?これがその暗号だっていうのか?』
『暗号はツアーに行ってから配られるんでしょ?これはそのためのテストみたいなものよ!』
『こんなチラシを全国にバラ撒いたら何千人と集まることになりかねないし、もし抽選で選ばれたとしても、あたし達五人に招待状が届くなんてありえないわ』
青古泉と青ハルヒの声が流れている間にチラシに書かれた数列が映り、バスを降りてペンションを見据えた今回の登場人物たちの背中と一緒にアフレコしたみくるの声が聞こえる。これなら、俺たちが撮影している間に数列を解き、それ以降は時期を見て例の暗号文を映したCMと変えればいい。暗号文さえ先に知ってしまえば、映画を見ている間は犯人とトリック、証拠を探すのに専念できるはず。クオリティも問題ない。
「僕も半分諦めていたけど、こんなCMを見せられたら解いてみたくなったよ」
「告知用のCMならもう撮影してあるってカメラの前で堂々と宣言してやるわ!黄有希、この映像DVDにして!」
「問題ない」
「くっくっ、あとはこの暗号分だけのようだね。でも、前々から知ってはいたけれど、やはりサイコメトリーとは比べ物にならない。医師からは七月の上旬から中旬にかけて……と言われたよ。しかしキョン、この数字は暗号としてはおかしいんじゃないのかい?」
『数字!?』
『数字なんて暗号文のどこにも無いじゃない!』
「これ以上、佐々木に喋らせるわけにはいかん。とりあえず、この暗号を解くヒントと財宝が隠されている場所についてはこの暗号に全部書いてある。佐々木は『間違っている』と言ったが、本来はそれで正解なんだ。あとは各自で考えてみてくれ」

 

 各自で考えてみてくれとは言ったが、エージェントやOG六人を除いてほぼ全員がタイタニックに残っていた。有希たちは片付けをしているし、朝倉はバレーの方に向かったが、ハルヒは本体がバレーに出て影分身に暗号文……いや、数列すら解けていないんだ。影分身をバレーに送ることはあっても、本体でバレーに出るような奴じゃない。やれやれ……仕方がない。
「こんな状態じゃ撮影しながら考えていた方がよっぽどマシだ。撮影を繰り上げるぞ。青ハルヒと朝倉の本体を呼び戻せ!ただし、子供たちがOG以外の日本代表とチームを組むようなことだけはするなよ!?」
『問題ない』
全員を連れて有希が作り上げたセット……と言うにはあまりにも広大な風景に口が塞がらないメンバーも居たが、肝心の宝の在り処までは、たとえ有希でも情報結合できなかったらしいな。あとで仕掛けと一緒に情報結合をしに来ることにしよう。
「ちょっとあんた!こんな真夜中でどうやって撮影するのよ!!」
「ターゲットを殺害するシーンの撮影でもいいが、犯人が分かってないメンバーもいるし、ペンションの中で暗号が配られるところからだ。窓くらいなら催眠で昼に見せられる」
今回のキャストに立候補した全員に催眠をかけ、ペンションに到着して席に着いたところからスタート。交通の不便ささえなければ、こんなペンションに住んでみたいと誰もが思うだろうな。木の匂いと目の前の光景だけで十二分にリラックスできそうだ。もっとも、シーンとしてはリラクゼーションには程遠いがな。青古泉の隣に青ハルヒ、みくる、ジョン、裕さんの五人と俺。対面には上村、みくるやハルヒを品定めしている谷口、引地、難波、真野、島村の順で座っていた。12人全員が見える位置に星野朱里と弁護士の辻村が立っていた。島村がイラついているのが俺の位置からでもよく分かる。
「改めまして、皆様ようこそおいで下さいました。当ペンションの現オーナーの星野朱里と申します。よろしくお願いします」
「自己紹介に時間をかけているほど儂は暇じゃないんだ!いいからさっさと暗号文を見せろ!」
「やれやれ、弱い奴ほどよく吠えるのは人間も同じようだな。あんたのそのセリフの方がよっぽど無駄だ。何事も順序ってものがあることをよく覚えておけ。狸ジジイ」
「おまえは、一体何様のつもりだ!!!」
「だから、それが無駄だと言っているんだ。とっとと席に着け。この瞬間湯沸かし器野郎」
「くっ……」
島村が渋々席に着いたところで、星野朱里がようやく自分の出番が来たと一呼吸ついてから話始めた。
「暗号文をお配りする前に、皆様に一つ約束していただきたいことがあります。暗号文を解き明かして此処にいらっしゃる方のどなたかの手に渡るまでの間、ここに滞在していただきます」
「お嬢さん、他の人がどうかは私も知らないけど、私にはビジネスってものがあるのよ?」
『だったら今すぐ帰るんだな。あんたのそのセリフからは長期間滞在しても暗号文が解けないとしか聞こえないね』
「何ですって!?」
「申し訳ありませんが、その通りです。これが守れない方に暗号文をお渡しすることはできません。今、私の横にいる辻村さんの車でご自宅まで帰っていただくことになります。私もここに来るのはこれで最後にしたいんです。父の残した遺言にいつまでも縛られたくありません。食料に関しては大量に用意してありますので、心配はいりません」
「おい、嬢ちゃん。酒やつまみはあるのか?俺はウイスキーが無いと駄目なんだ」
「はい、ソフトドリンクも含めて種類豊富に取り揃えてございます」
『だそうだ。さっさと席を立ったらどうだ?ビジネスってものがあるんだろ?』
「仕方がないわね……留まるわよ!留まればいいんでしょ!?」
これで一人脱落したようなもんだ。しばしの間を置いて星野朱里が辻村とアイコンタクト。持っていたケースの中から紙を取り出した。
「これから皆様にお配りさせていただく資料が父の残した暗号文です。申し訳ありませんが、暗号文を知った誰かが処分してしまう可能性もありますので、本物はお渡しすることも、お見せすることも、その在り処を伝えることもできません。ですが、父の遺言では、その文面にすべてが記されていると書かれていました。私も本物の暗号文に色々と試したのですが、その暗号文以外は何も浮かんできませんでした。皆様のご健闘をお祈りしています」
紙に記されていたのは妙なところで改行されている12段の暗号文。

 

我が従僕の兵士は、恋愛に
溺れ、あらゆる思想に興味
が湧かず。もしも私の妻女
王の宝が親子を支え始めた
ら去れ。師の詩が子を止め
て私の志を示す姿が私の史
だ。仕え支え私の志を継ぐ
者よ、死を使役し者よ、我
が宝、天使の賜物なり。宝
玉を欲す者死ぬ気構え無く
ば、己が身を屍と化す。我
其に直面すること叶わず。

 

「困ったね。暗号文の内容を読む限り、誰かが犠牲にならないと宝は手に入らないのかい?」
ようやく上村が喋ったと思ったら、『誰かを犠牲にして自分が宝を得る』と言っているようなもんだ。まぁ、財宝目当てで来る連中にまともな思考回路を求める方がおかしい。
「ところで朱里さん、朝食はまだできないのか?腸が煮えくり返っては何とやらっていうだろ?」
「それを言うなら『腹が減っては戦はできぬ』だよ。君、本当にあの数列を解いたのかい?」
「おうよ!何人にも声をかけて解かせてやったぜ!」
「要するに、自分では解いていないってことだよね?」
二人目の脱落者が決定したようだ。星野朱里も初対面でいきなり名前を呼ばれて驚くと言うより、正直引いていると言った方が正しそうだ。
「食料は大量にあっても、食事を作る人間がいなきゃ始まらないわ!暗号文と睨み合いをしていても仕方がないし、あたし達も手伝いましょ!辻村さん……だったかしら?その胸のバッチからすると弁護士のようだし、食事を作るなんてできないわよ」
「えっ!?朝比奈さん料理できるの!?も~~~~っ、暗号文もわけが分からないし、あたしも手伝うわよ!一樹、あんたも来なさい!」
「ちょっ……いくら広いキッチンだからって四人もいたら手狭になるだろ!?」
「あっ、ハルヒさん!それなら俺が行きます!」
「あんたに下の名前で呼ばれる筋合いなんてないわよ!!」
「君は財宝目当てで来たのか、女性をナンパしに来たのかどっちなのか教えてくれない?」
「両方に決まってるだろ!俺様が財宝を手に入れて美女を引き連れて一生バカンスを楽しむんだよ!俺の見たところ、朱里さんはAAランクプラス、涼宮さんはさっきの発言でAランクにまで下がってしまった。だが、SSランクの朝比奈さんもいるし、俺様のカッコイイところを見せつけて朝比奈さんにアピールしまくってやるぜ!」
「じゃあ、もう一人の女性のランクはどうなるのか聞いてもいいかい?」
宝石を散りばめたアクセサリーを惜しげも無くというより過剰に付けた真野が谷口を睨む。蛇に睨まれた蛙のように縮こまってしまった。残りの人間は暗号文を睨んでいるが、どいつも大して変わりがない。上村のように暗号の糸口だけでも掴もうと周りの連中にアプローチを仕掛けている方がまだマシだ。爺婆が配膳を手伝うはずもなく、出揃った料理に手をつけ始めていた。ハルヒはジョンの催眠をかけて他のメンバーと一緒に食事を摂り、圭一さんも引地の催眠をかけて食事に参加していた。
「それにしても、ペンションにAEDまで置いてあるなんて意外ね。消化器は当然だと思うけど……」
「スキー場がすぐ近くにあって、シーズン中はここも結構賑やかになるんですけど、携帯やスマホは圏外ですし、病院も遠くて救急車が到着するのも20分くらいかかってしまうんです」
「そういや、ハルヒ。前に女子高で消化器を使ったとか言ってたな」
「えっ!?何々?どんな話?」
『女子高』というキーワードが出たせいなのか、ただの興味本位なのかは知らんが、どうしてこのハゲがここで割り込んでくるんだと女性陣三人の表情がそれを訴えていたが、それを上乗せするかのように谷口まで入ってきた。
「俺にも聞かせてください!」
「フン!結局無駄に終わったけど、あんな奴を助けようなんて考えるんじゃなかったわ!でも、今は害虫駆除に使えそうね!」
青ハルヒが近くにあった消化器をすかさず手にとって栓を抜くと、矛先が引地と谷口に向けられた。
「この二人がどうなろうと僕には関係ないけど、折角の料理が台無しになるのは勘弁してくれないかい?」
「おまえも少しは助けろ!」
「君とは今朝会ったばかりで親しい仲というわけじゃないし、助ける義理もない。彼女たちはそうでもないようだけどね。本当に抽選で選ばれたメンバーなのか怪しくなってきたよ」
「ねぇ、ちょっとあなた。灰皿はどこにあるの?あるのなら持ってきて頂戴」
「すぐ、お持ちします」
青ハルヒも射出口をようやくそらして食事の続き。早々と食事を終えた真野が煙草を吸い、難波は夕食をつまみ代わりにウイスキーを飲んでいた。

 

『そろそろTV局に向かう時間だ。キリもいいし、今日はここまでにしないか?』
『やれやれ、結局何の収穫も得られなかったようだ。けれど、上村役を演じていたら、国木田君が頭に浮かんだよ』
『当たり前だ。あのアホを止める奴がいないといつまで経っても話が進まん。それより、古泉を園生さんに預けないといかん。夕食はもう必要ないはずだ』
『って、ちょっとあんた!黄古泉君に本物のウイスキー飲ませたの!?ディナーの火入れはどうするのよ!!』
『俺の影分身が追加で出る。本人からは何も聞いていないが、こうなることを予測していたんだろう。俺や青ハルヒなら、もう一体影分身を出して対応できると思ってたんじゃないか?』
『早く調理用の影分身を送った方がいい。練習試合が終わった』
『おや?もう、そんな時間でしたか。リムジンに乗って間に合うといいんですが……』
『駐車場にテレポートすればいいわよ。それに、映画の宣伝をするには丁度いいわ!!この服装のまま行きましょ!』
『問題ない』
テレポートでフジテレビ入口に着く頃には玄関でADが俺たちを待ち侘びていたらしい。明日のLive映像の打ち合わせならまだ分かるが、今日の生放送はNG集をVTRで見せたり、クイズに応えたりするだけのものだったはず。リハーサルなんて必要がないと思うんだが……またしても大御所MCと国民的アイドル二人が揃って司会か。今日も二人揃って俺たちの方を見つめている。生放送が始まれば真っ先に聞いてくるだろう。DVDもさっきのADに預けておいたから問題ない。他のドラマの俳優たちも出揃っており、定刻を迎えるとモニターがカメラの映像に切り替わっている。
「さぁ、今夜も始まりました。各ドラマの最終回直前の生放送なんですけども、タモさん見ました?最終回を前にして瞬間最高視聴率46.1%ですよ?TBSのTOP3牛蒡抜きにして、今まで四位だった木○君のドラマが五位に下がってしまって」
「いや、俺も瞬間最高視聴率には驚いたけども、今の時点で正解者は出てるの?」
大御所MCが青古泉にマイクを向けた。色々と突っ込みどころが多いせいで、どれから聞いたものかと迷っている。
「実はまだ一通も応募はがきが来てないんです。内々では、この生放送でヒントを得て、確信を持てたところで送ってくるのではないかという話になっています。あの事件のトリックに関するスレッドが数多く立てられているとも聞きました」
『え~~~~~~~~~~~っ!!一通も来てない!?』
「それだけ慎重になっているってことだろうけど、俺もこれで合っているのかどうか……」
「でしたら、その推理したものを俺に教えていただけませんか?人差し指で触れるだけで全部読み取りますので」
「そんなこともできるのか!?触れるだけでいいのなら生放送でも大丈夫だ。でも、本当に伝わるのか?」
「俺は古泉一樹以上のサイコメトラー。それだけです」
それはドラマの中での話だろうとその場にいた誰もが……いや、この生放送を見ている誰もが思っているだろうが、俺に触れて自分の推理を伝えなければ次に進めない。掌に人差し指が触れた瞬間に大御所MCの推理と、仕事の合間に何度も映像を見直した様子が伝わってきた。
「仕事の合間に何度も見ていただいたようで、ドラマを作った側として本当に嬉しい限りです。ただ、二つ目の証拠が残念ながら違います。密室トリックの方は文句の言いようがありませんよ」
「えぇっ!?あれじゃない!?いや、でも残り二つは合ってるとすると………」
「あの~タモさん、すみません。二人だけで会話しないでもらえませんか?」
「いや、もうここは中○に任せてもう一度映像を見直してみたくなった。証拠が一つ違うだけで後は正解だって言われたら……ねぇ?」
観客席からも『知りた~い!』などと声がかかる。例のヒントを出すには絶好のチャンスだ。
「では、残り一つの証拠を埋めるためのヒントを……『このドラマは最初から最後までランジェリーの宣伝だということ』です」
「あぁ―――――――――――――っ!!そうか、そういうことか!いや~~~スッキリした。それにしても大胆な犯行に及んだもんだねぇ」
「あんなトリックも、それを実行に移した後の処理も、キョン君でないと考えられません。今度の暗号もまだ誰も解けていないんです」
『暗号!?』
「ええ、セカンドシーズンを終えて、サードシーズンが始まる前に映画を公開することになりまして。今日も撮影をしてからここに来たんですよ。我々がこの時期に相応しくない格好をしているのはそのせいです」
「その映画の中に暗号が出てくるってことでいいの?」
「僕もその前の段階のものですら解けていないんです。涼宮さんやジョンはノーヒントで解いてしまいましたが、暗号文の方には手も足も出ませんよ。告知用のCMは撮り終えているので、それを見ていただければお分かりになるかと」
「じゃあ、VTRお願いします」
この瞬間を待ち侘びていたかのようにVTRが流れる。注目すべきところは無論、青古泉が手に持っている数列。
「えっ!?今の数列のところだけもう一回出せる?」
やれやれ、映画にしないかと提案して来たのはこの局の人間で間違いないが、ADも『巻き』の合図を一切出そうとする気配がない。俺たちだけでこんなに尺をとって大丈夫なのか?
「うっわ!タモさん、俺こんなの絶対解けないですよ!どうして10の次が1110なのか意味が分からないですもん」
「ちなみに幼稚園児でも解ける数列です。逆に言えば、幼稚園児になったつもりで規則性を考えないと、絶対に解けません」
『幼稚園児でも解ける!?』
「それなら俺も考えてみるかな。でも、暗号文の方はこれより更に難しいんだよね?」
「公開の時期が近づいてきたところでCMを暗号文の入ったものに移し替える予定でいます。映画を見ている最中にあの暗号を解けと言う方が無茶ですよ。映画を見るときは犯人が誰かを探って、暗号文の答えを確かめるような形式にするつもりでいます」

 

 最大限の告知をしたところで他のドラマの俳優陣に話を聞きながら淡々と進行していった。『どうしてアニメやゲームのキャラクターが見た目も声もそのままの状態でわざわざ出演したのか』というヒントもどうやら必要なさそうだ。犯人が誰かなんてもう分かりきっている。NG集としてVTRに出てきたのは、イラついたみくるが青古泉に化けた俺のシャンプー&マッサージですぐ顔が緩んでしまうシーンを数回、体操着に着替えようと制服を脱いだみくるに本物の鶴屋さんが飛び込んで、胸のサイズを小数第一位まで……もとい、ミリ単位まで見極めるシーン。
『ちょ、ちょっと鶴屋さん。やっ、やめてください~~~~!』
『ふむふむ、大きいだけでなく弾力も…………』
『鶴屋さん、どうかしたんですか?』
『この短期間でこんなに成長しているなんて思わなかったっさ!みくるもどれだけ成長すれば気が済むにょろ!?』
この二つだけで終わりにしてもいいくらいだ。苛立ちを隠せない演技をするはずが、古泉のシャンプーで即顔が緩んでしまったことで、大御所MC同様、正解に辿りつこうとする女性が増えるだろうし、みくるの今のバストサイズがいくつなのか冊子を購入して確認する男性が急増するだろう。あとは、みくると鶴屋さんが教室の扉でぶつかってしまうシーン、ジョンの超サ○ヤ人発言、服部の殺害現場を見たみくるの表情とセリフが一致していないシーン等々。俺たちのドラマや映画に関する内容で時間を使った分、クイズの問題数を少なくして時間内に生放送が終了。生放送中に大御所MCの推理を俺が採点したし、収録後楽屋に入ったところでタイタニックの船上へとテレポートした。
『おかえり~』
「この様子ですと、生放送を皆さんでご覧になっていたようですね。黄僕がいないのは酔い潰れたからで間違いなさそうですが、子供たちまで残っていたとは驚きましたよ」
『キョン(伊織)パパ、絵本読んで!!』
「じゃあ、まずは風呂に入ってからだ」
『お風呂はもう入った!』
「なんだ、水泳の練習をしていたんじゃないのか」
「いくら似たようなメニューを組んでも、黄キョン君がいないと子供たちもダメみたい」
「とにかく、このまま眠気を取って撮影に入るわよ!」
『はぁ!?』
「どの道眠気を取って撮影する必要はあるとは思っていたが、古泉も潰れたままだし、明日でもいいんじゃないのか?『僕が酔い潰れている間にそこまで進んでいたとは……』なんて小言を言いかねん」
「くっくっ、キミ達が着ているその服のせいさ。僕たちは催眠だから平気だけど、明日も同じ服に着替えなければならないだろう?シーンが切り替わった瞬間に服が変わっていたらおかしいじゃないか」
「やれやれ……古泉が潰れた意味がなくなってしまうな。酔いを覚まして参加するかどうかは園生さんと古泉本人に任せよう。ただの運転手役だけの為にどちらかの新川さんに来てもらうわけにもいかん。池袋のバス停を中心とした閉鎖空間を張ってくる。撮影するのなら、招待状を見せて乗車するところからだ」
『問題ない』

 

 異世界に催眠をかけてまわる作業も終わったし、ディナーも滞りなく終えたと情報が入った。パン作りに影分身を割いて後は撮影に集中できそうだ。バス停には俺たちが乗り込むバスと鶴屋さんが尾行するための車、尾行を妨害する黒い車が三台に、一般車が六台。一般人や周辺を走る車の催眠をかけたところで残りのメンバーがやってきた。佐々木たちには既に催眠がかかっているし、難波がここにいるってことは……古泉を叩き起こすのに時間がかかったとみて間違いなさそうだ。
「俺が酔い潰れている間に撮影を続行しようなんて冗談じゃねぇ!ジョンの世界で一人寂しく待つ羽目になるところだったぜ」
「どうやら、シドの催眠をかけたときの反省が活かされているようだな。酔いが醒めたのなら影分身で手伝ってくれないか?今度は電車の内部にも催眠をかけていく。大量の影分身がいるんだ。この時間じゃかかってくる電話もないし、おススメ料理の仕込みが終わっているのなら暇なはずだ」
「影分身の修行には丁度いい。俺も参加させてもらおう」
「終わったらあたし達の世界の方も手伝いなさいよ!!」
「あっ!俺も手伝います!……って、このアホはハルヒに対して興味が無いんだった」
「映画の設定では、バスを降りたところで初めましてになるんだ。その反応で間違いはない」
「じゃあ、青古泉君たち五人の前に……そうね、殺害される三人が一緒にいるのもどうかと思うし、上村、谷口、難波の三人にするわ!園生さんに招待状を渡して目隠しを受け取るところから始めるわよ!鶴ちゃんは尾行する車に乗り込んで頂戴!あとの車の運転は任せるわ!サイコメトリーさえあればペーパードライバーでも簡単よ!」
『私にも運転させてください!!』

 
 

…To be continued