500年後からの来訪者After Future10-5(163-39)

Last-modified: 2017-03-05 (日) 06:17:09

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future10-5163-39氏

作品

豪華客船ディナーから一夜明け、少しでもこの一泊二日を満喫しようと、鉄板料理食べ放題を我慢してまで温水プールで泳いでいた女子日本代表選手たち。男子は多少腹が膨れても泳ぐだろうが、男子日本代表のディナーの日まで俺たちがタイタニック号での生活を満喫することになった。北高の授業に出向いたものの、この様子じゃいくらサイトにアップしなくとも、俺たち自ら報道陣にネタを提供しているようなものだ。これでOG六人が撮影されて表沙汰になってしまえば、悪影響になる一方だと説明したが、OG六人の表情は曇るばかり。俺の授業の様子もモニターで確認したし、午後の仕事に取り掛かろうとしたところで、佐々木からある提案が出された。

 

「くっくっ、そんなに落ち込まなくても、キミ達が北高の後輩たちを指導することならできるじゃないか」
「佐々木先輩、でも、キョン先輩も、有希先輩も、古泉先輩も、私たちが行ったら印象が悪くなる一方だって……」
「僕は見ての通りこんな状態だし、北高の卒業生でもないから僕が北高のバレー部を教える権利はない。でもね、僕やキミ達は無理でも、ハルヒさん達なら、行っても話題になるだけで問題にはならないってことさ」
「それって、一体どういうことですか?」
涙目で佐々木に救いを求めるかのようにOG六人が佐々木を見つめている。頼むから、ガッカリさせるような真似はするなよ……
「明日はテレパシーの件も含めて黄ハルヒ先輩に譲った方がいい。でも、もしその次があるのなら、黄ハルヒ先輩たちの催眠をかけて黄私たちが出られるってこと。でもハルヒ先輩たちだけじゃ一人足りなくなる。その分佐々木先輩の催眠をかければいい。黄私たちなら北高のバレー部の先輩で間違いない。その分の練習は私たちが出る。社員も来ないのに、経理課に一人で作業していても暇になるだけ」
「おや?そんな解決方法があったとは驚きました。僕も諦めるより他にないと思っていましたよ」
『キョン先輩、次の機会なんてあるんですか!?』
「俺がたったの一回、コーチとして加わったところで身につくわけがないことくらい、おまえ等が一番よく知っているだろうが。授業のときですら、他クラスから自分たちのクラスでも授業をしてくれと頼まれていたくらいなんだ。一回で終わるとは到底思えないし、ちゃんと教えたことが身についているかどうか、その後が気になるだろう?」
『そのときは私たちも連れて行ってください!!』
「じゃあ、それまでに誰が誰に化けるか考えておけ。もっとも一人は確定しているようなものだけどな。古泉に化けるときは十分注意が必要だし、催眠をかける以上、自分自身として見てもらえないことはちゃんと納得しておくこと。俺に対して『先輩』なんてつけるなよ?」
『問題ない!』
「確定している一人というのは、セッターとして黄有希さんに化ける彼女で間違いないようですが、黄僕に化けるときに注意というのは一体……?」
「おまえと違って、黄古泉に化ければ、間違いなく女子生徒に囲まれる。朝倉達と同等の会話スキルを持ち合わせている必要があるだろうし、サインも強請られるだろう。もっとも、本人よりも綺麗な字で書いてしまいそうだけどな」
「これは手厳しいですね。もし我々の世界で似たようなことになったとしても、僕は参加しない方がよさそうです。社長が涼宮さんである以上、副社長としてあまり表に出ないことにしましょう」
「あら、古泉君がこれまでの自分のことをそこまで客観視できるようになったんだから、そこは成長と捉えていいんじゃないかしら?こっちのOG達が持っていたイメージもそこまで浸透しているわけじゃないわよ」
「とにかく、万事解決ってわけじゃないけど、妥協案も出たんだしさっさと仕事に戻るわよ!」

 

 青有希から支給の件を聞いて、俄然やる気になったOG達と共に体育館へと降りた。本社三階の朝食の用意が忙しくなったのか、異世界支部80階に来る客が増えたのかどうかまでは分からんが、今回は随分と時間がかかったな。俺や古泉たち……いや、特に俺か。使える厨房を占拠しているせいかもしれんが、明日の朝すぐなら何の問題もない。人事部の社員は一時間早く帰すという話も、暇を持て余している報道陣がそんな遅くに現れるはずもなく、レストラン前の閉鎖空間に阻まれ、それを理解した連中からの問い合わせが殺到するはず。どうしてそうなったかまで理解してもらいたかったが、報道陣なんかにそこまで期待する方が馬鹿というものだ。打ち合わせ通り、圭一さんや父親、古泉が『パンを一切撮影・掲載せずに、二度に渡ってその件で一面を飾ることができたんだから、レストラン内を撮影しなくても十分一面を飾れるだろう?』と言い捨て、度々かかってくる電話に対しては『今シーズンどころか来シーズンにまで影響する』と脅しをかけた。社員が出社する月曜日までには俺たちで沈静化すればいい。しかし、青古泉の言っていた通り、俺が抜けても支障はないが、練習内容に大きく響くというのが問題だ。これと夜練を繰り返しながら少しずつ精度を高めていくしか方法がないとはいえ、俺も妻の方も抜けたくても抜けられん。こんな淡々とした練習を見せられて報道陣やファンの数も減るかと思っていたが、『今日は何か起こるかもしれない』と勘繰っているんだろう。それを撮り逃せば、他のメディアに出遅れるという一種の危機感のようなものが床から伝わってきたが、俺たちにそんなことは関係が無いし、潰れるならさっさと潰れろと言いたい。青朝倉の「大変よ!」が待ち遠しくなってしまった。俺たち二人がタイタニックに現れる頃には他のメンバー全員が揃っていたが、青朝倉の顔は至って普通。やれやれ……
「キョン君、本当に休まなくて大丈夫だったんですか?」
「身体的には問題はないんだが、素人目からしたら男子の練習なんて単調なものにしか見えないはずなのに、『起こるかもしれない何か』をずっと待ち続けている報道陣にイラついていてな。青朝倉から『あるメディアが倒産した』なんてニュースが飛び込んで来ないかと待ち望んでいたところだ。連中も倒産の危機だけは感じているらしいんだが、会社存続の危機をどうにかするんじゃなくて、さっさと会社を畳むことを考えるべきだと思っていた」
「その予兆が随所に現れるようになってきたんですから、待つだけで良いのではありませんか?社員は定時より一時間早く帰しましたが、それ以前から取材許可を求める電話ばかりでしたよ」
「だろうな。暇を持て余している連中がそんな遅くにホテルに着く筈が無いと思っていた。社員を二時間早く帰すのもありだと考えていたくらいだ。それで、こっちの新川さんが寝泊まりする客室は確保できているんだろうな?」
「ディナー後に空いている部屋を探して決めるそうです。取り合いになることもありませんし、新川さんも気分を変えてみたいんだと思いますよ?」
『キョンパパ、早くご飯!泳ぐ練習!!』
「へいへい」
「黄キョン君、夜練やおススメ料理の火入れまであるのに子供たちの面倒までなんて大丈夫?わたしとキョンが代わりに……」
「交代しても夜練が終わるまでは休めそうにないんでな。それより心配なのは、支給する料理の方だ。特に俺あたりが厨房を占拠して、作りたくても作れないなんて状態になってないかどうか不安でな。ホテルの予約が入る前に厨房を増やした方がいいんじゃないかと思っていた」
「それは平気。わたし達の世界の本社の方が忙しくなって、その対応に追われていただけだから気にしないで」
「ホテルフロアについては、初日はスイートルームを含めてほぼ埋まりつつあります。一般のホテルフロアも59階以下しか解放していませんから、足りなくなったときは使っていただいて構いません。涼宮さん、宿泊客の食事の件は以前話していた通りでよろしいですか?」
「フフン、今さら確かめるまでもないわよ!」
「くっくっ、その食事の件とやらを聞かせてくれないかい?ディナーの接客くらいなら影分身で手伝えそうだからね。確か、まだ募集はかけてなかったはずだろう?」
「いいえ、募集をかけていないのではなく、募集しなかったんです!」
「募集しなかったというのは、一体どういうことだね?」
「スイートルームに泊まる客も含めて、食堂に降りて来てもらうことにしたのよ!90階から上がすべてスイートルームなのに、料理を運ぶたびにエレベーターが頻繁に開閉していたら夜景が見られなくなっちゃうでしょ!?それに、運ばれてくる度にいちいち呼び鈴を鳴らされちゃ、ムードが台無しだわ!」
「料理長のスペシャルランチと同様の方式に切り替えたんですよ。80階の四隅のテーブルのうち、最も景色のいい席を100階のロイヤルスイートルーム宿泊客専用の予約席とし、99階、98階、……と振り分けていきます。79階の四隅もうまったところで窓側はすべてスイートルーム宿泊客の予約席。ルームキーを提示するだけで新川さんの料理が食べられるというわけです!これなら宿泊費の中に食費も入れられますし、わざわざ食券を買う必要もありません。空いた席に他の宿泊客が座ることになります」

 

 意気揚々と語る二人の話を聞いて、ランチと同様の方式にした理由やスイートルームの宿泊客への配慮に納得しているメンバーがほとんど。それなら青新川さんが三食作ることになっても負担は小さくて済む。
「佐々木、しばらくの間はおまえにも手伝ってもらうことになりそうだ」
「くっくっ、どうやらそのようだね」
「ちょっとあんた!それどういう意味よ!?折角あたしがホールスタッフを入れずに済む方法を考えたのに、どうして手伝う必要があるのよ!!」
「確かに、フルコースすべて出揃うまで、スイートルームにスタッフが出入りしていたんじゃムードも台無しだし、80階のエレベーターのことについても納得できる。僕はその方針に反対するわけじゃないし、青新川さんの負担もそこまで大きくならなくて済むだろう。でもね、『飲み物のオーダーは誰が受けるんだい?』」
『あ―――――――っ!』
「加えて、ドリンクメニューや予約席のプレートを各テーブルに置いたりする必要がある。それに、スイートルームの宿泊客でなくても青新川さんの料理を食べたい客も多いはずだ。その対応策はできているのかい?ランチと同じく、上限を指定しておかないと、青新川さんも困ってしまう。さらに言うなら、朝食で客がパンを指定してきたときはどうするのか説明してくれたまえ。青新川さんにパンまで作らせるつもりかい?それとも、異世界支部の朝食にまで鈴木四郎が出向く必要があるのかい?」
「くっくっ、これはまいったね。ホテル運営の方針は固まったけれど、もう一度練り直す必要がありそうだ。飲み物のオーダーを受けるだけでも、シフトを組むことまで考えれば四、五人は必要になるはずさ」
「三階の方もドリンクのオーダーをどうするか検討する必要がありそうです。青新川さんの料理を予約する宿泊客だけで80階、79階が埋まってしまいそうですよ。それを上限とする手もありますし、テーブル席で上限を決定するというのはいかがです?」
「うん、それ、無理。一つのテーブルに何人座るかで作る数が変わってきちゃうもの!何食までかちゃんと決めた方がいいわよ!」
「ついでに、上層階のランチタイムは窓側の席に催眠をかけることになりそうだ」
『催眠!?』
「どうしてそんな必要があるのよ!?」
「自分たちで考えるんだろ?」
「これは参りましたね。彼の言う催眠の必要性が僕にもさっぱり分かりませんよ。このあとは夜練もありますし、明日黄チームが北高のバレー部のコーチに向かっている間、我々で会議をする時間を取りましょう。事細かく決めたはずが、ここまで議題が出てくることになるとは思ってもいませんでした」
『問題ない』
「それで、明日の午前中は青有希と佐々木で未来に向かうとして、朝倉も北高に向かうってことでいいか?でないと六人メンバーが揃わん」
「あら、わたしも元1-5のクラスメイトなんだから、最初から入っているものだとばかり思っていたけど、入れてもらえないのかしら?」
「えっ!?ってことはキョン君、わたしもその中に入っているんですか!?」
「当ったり前じゃない!佐々木さんは仕方がないけど、みくるちゃんがいなくちゃSOS団は成り立たないわよ!」
「ちょっと待つにょろ!それじゃ、あたしも入ってないってことになるっさ!モニターじゃテレパシーは録音できないにょろよ!あたしも連れてって欲しいっさ!どういう反応をするのか気になるにょろよ!」
『キョン(伊織)パパ!泳ぐ練習!!』
「じゃあ、水着に着替えてプール集合。今日も誰が一番綺麗に泳げるかで勝負な」
『問題ない!』

 

 夜練の間も、シャンプーや全身マッサージをしている最中も、ジョンの世界に足を踏み入れても青チームSOS団メンバーは黙ったまま異世界支部の経営に関して考えてばかり。そんな状態で投球やバレーに集中していられるのか?おい。まぁ、ホテルフロアが多いだけに、一般開放はランチタイムのみということになりそうだ。俺が提示した催眠は、ランチタイムの最初から予約席のプレートが置かれたままでは折角のテーブルが無駄になってしまうし、かといって一般客がランチを満喫している最中にプレートを置きに行くのも気まずいし、置かれた方も急かされている気分になる。スイートルームの客を待たせずに席を空けさせるには、十二時……いや、その十五分前くらいから一般客には予約席のプレートが置かれたテーブルだと催眠で見せ、座らせないようにする必要がある。宿泊客のランチが終わってしまえば、プレートの催眠だけ消せばいい。ついでに、ハルヒが人目を気にせずに着替えだしたこともOG達に話そうかと思ったが、ハルヒ達と一緒のスパにいるせいで話せやしない。そんなことより、俺にとっては明日の朝の新聞記事の方がよっぽど気になって仕方がない。朝倉とジョンはバトルに夢中だし、まったく、やれやれだ。
『流石、二段階アップグレードした上に修行を重ねただけのことはある。全力の高速移動をもってしても、俺の動きが捉えられていた』
それは本人に直接伝えて欲しいもんだ。アップグレードより修行の成果だってな。俺があの四人と手合わせしたときも、準備運動段階ですら古泉たちは眼で追うこともできず、朝倉だけが順応できたって話だからな。結局、俺の母校での授業の件で一面を飾ることはなく、レストランの侵入を許可されていない新聞社は別のニュースで一面を飾り、TBSは余すところなくレストラン内の様子をVTRで放送。残りの局は前に出されたものと同じメニューだと言うことに気付いてはいたが、VTRを流さないなどということはなかった。ジョンの世界を抜けてすぐ、第二、第三人事部を占拠して電話対応。第一人事部には休みの日でもパンを食べようとやってくる社員がいるからな。スキーのときに振舞ってまだ十日も経たないが、一度各課に振る舞いに行った方がいいかもしれん。加えて、異世界支部の敷地外にSPを配置してランチタイムの……そうだな、PRみたいなもんだ。『三階社員食堂にお越しの方はこちらにお並びください』と書かれた看板を新たに情報結合して早朝から待機。取材を試みようとした報道陣は無論満員電車に乗って身動きが取れずにいる。
「とりあえずはキミの予知した記事にならなくて済んだようだね。青有希さんと未来へ行く前に、僕もキミ達の居た教室とやらに連れて行ってくれないかい?そのあとはフォーメーション練習が始まるまで体育館にいるんだろう?」
「とりあえず今日のところはな。だが、確認に行かせてみたら、土日の休みだというのに北高前に報道陣が十数名。情報は掴めたが記事にするまでには至らなかったってことだ。部活に来た生徒も取材されるだろう。朝食を食べてすぐに1-5前の廊下へ行こうと思っていたから丁度いい。これで校内に入ってくるようなことがあれば、学校の教員を装って通報するだけだ。短時間だけだが、それでもいいのならおまえも来るか?」
「くっくっ、影分身で付き合わせてくれたまえ。あまり僕のお腹のことで話題を反らしたくないからね」
「ちなみに、黄俺に聞いてみたいんだが、今はどの程度の意識でゾーンになれるんだ?」
「順調にパーセンテージを下げてきたんだが60%未満にすることができなくて困り果てている。覚醒モードも85%ってところだ。ゾーンに関してはこれが限界かもしれん」
「俺もまだまだだな。80%でようやくだ。あと20%で出来ることと言ってもほとんど浮かんでこない」
「昨日、話に挙がったドリンクの接客にまわればいいだろう。青俺なら三人くらいは余裕で出せる。何人必要か見極めてから募集をかけたらどうだ?やる内容もはっきりさせておかないとな」
「やれやれと言いたくなりましたよ。僕はまだ90%以上は必要だというのに、既に人事部はあなたの影分身でいっぱいなんですから。少しは修行の場を譲ってもらえませんか?」
「このあと古泉と圭一さんに譲ることになるだろうと考えていたところだ。北高バレー部の人数が何人かは知らんが、人数が多ければ古泉も球出しに参加してくれ。俺はその分パン作りにあてる」
「困りましたね……昨日、黄佐々木さんから挙がった議題を吟味していたんですが、朝食のパンについてはあなたに頼る以外に方法がありません。パンだけ通常のものにしてしまうと、新川さんの料理が引き立ちませんからね」
「あんた、またキョンの負担を大きくするよ……」
「いや、これがベストだ。ここで青ハルヒが用意していたら互いにやり辛くなる上に釜が足りん。どうしても無理だというときに代わってもらえばいいし、一日休んでも大丈夫な量はキープしておく。その分思い知らしめてやらなきゃならんのがどこのどいつか、ハルヒだって分かっているだろ?」
「フン、明日の一面はレストラン記事以外、絶対に譲らないんだから!レンズをブラックアウトしてデータを全部削除してやるわ!!さっさと北高に行くわよ!」

 

 みくるにも昨日のうちに伝えられて良かったな。ハルヒや有希のペースに遅れをとることなく朝食を食べ進め、佐々木は影分身だが、黄チームSOS団フルメンバーで北高へと乗り込んだ。1-5の戸をガラリと開けて一言。
「よう、昨日の約束通り連れてきたぞ!」
『お、おは、おはよう、ごご、ございます』
「くっくっ、これはどういうことか説明してくれたまえ。昨日は無駄とわかっていても、耳を塞がなければならない程のテレパシーが飛んできたんじゃないのかい?」
はて……昨日、『ハルヒ達を連れてくるから』と説明して静かになったきり話してなかったから、佐々木から説明を求められても俺にも分からん。
『三学期以降、俺は異世界に行っていたからそのときの出来事は分からないが、朝倉涼子と俺がここで闘ったせいじゃないのか?昨日あそこまで歓迎されていて、こんな状態に陥る理由はそれ以外に思い浮かばない』
それで『ハルヒ達を連れてくる』と言って静まり返ったって言うのか?まぁいい、本人たちに確認してみよう。
「おまえら、今は殺気を放っていないんだから、怖いなんて事はないだろう?元クラスメイトを歓迎してはもらえんのか?」
『いっ、いえ、決してそのようなことは……』
「あら?昨日と今日で反応が違うのは、わたしのせいだって言いたいのかしら?忘れちゃったのなら思い出させてあげてもいいわよ?」
『ど、どうか、それだけはご勘弁を!!』
ははは……確定だな。しかし、殺気は放っていても、破壊の限りを尽くしたのはジョンの方だと思うんだが。最後に有希。有希からすれば朝倉の異空間はほとんど壊れかけていたらしいがな。
「ちょっと!あんた達が涼子の殺気に脅えて話が進まないんじゃ、あたし達がここに来た意味がないじゃない!」
『そういえば、涼宮さん髪伸ばさないの?二か所でしばっていた曜日が一番可愛かった!』『あれ?覚えてないの?みんなが卒業する頃には涼宮さんじゃ無くなってたじゃない!』『そうそう、結婚したんでしょ?』『あれっ!?古泉君や朝比奈さんまで指輪つけてる!』『えっ!?どこどこ!?僕からじゃ見えないよ』『黄色いカチューシャは?』
「フフン、今はこれがあたしのスタンダード!カチューシャなら娘に譲ったわよ!」
『娘!?』
「くっくっ、これはこれで困ったね。思い出話が尽きそうにない上に、今度は双子を連れて来る必要がありそうだ」
『双子!?』
「やれやれ、更にキーワードを与えてどうするんだおまえは。とりあえず次は双子と一緒に来るとして、おまえら、朝倉の殺気の次に良く覚えていることは?」
『キョン君の中間テストの不正行為』
「あっははははははははははは!て、てっきりはるにゃんの自己紹介だとばっかり思っていたにょろよ!キョン君そんなことしてたっさ!?想定外もいいとこっさ!あははははははははははははは……」
「くくくくく……これは失敬。僕も鶴屋さんと同意見です。あなたとジョンのテレパシーが彼らに聞かれていたとは驚きました。くくく……これは早く体育館に行かないと、話が終わりそうにありませんよ。ですが、本当に催眠が効かないとは驚きました。百聞は一見に……とは言いますが、今の場合は何と言ってよいのやら分かりませんよ」
「やれやれ、俺もそんな珍回答が返ってくるとは思って無かったよ。だが、まさかハルヒの自己紹介を忘れたわけじゃないだろ?」
『東中出身涼宮ハルヒ、ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上……って、そういえば見つかったの?』
「見つかったわよ!有希と涼子が宇宙人、みくるちゃんが未来人、異世界人は今ここにはいないけど、あたし達全員超能力者になったわよ?」
『宇宙人だったの!?』
「あら?何か不満でもあるのかしら?」
『い、いいえ、めっ、滅相もございません』
「とりあえず、我々が超能力者だと見せてから去ることにしましょう。どうやら強硬取材に踏み込んだ輩がいるようです」
「それならここの教員に化けて追い出してくれるか?有希、学校の電話で警察に通報してくれ」
「問題ない」「了解しました」
「じゃあおまえら、また時間見つけてここに来る。ハルヒと双子も一緒にな」
『またね―――――――――っ!!』

 

 ジョンが佐々木を連れて本社へと戻り、北高の教員に扮した古泉が報道陣を引きずりだしたところで体育館前へとテレポート。不法侵入の現行犯で連れて行かれるか、警察に警備を任せるまでは敷地内に入らせないようにするようだ。念のため体育館にも催眠をかけておこう。バレー部が普通に練習をしている風景をな。別の出入り口から入りこむことも当然あり得ると古泉も分かっているはず。
「遅くなりました!おはようございます!」
体育館の扉を開けて中に入ると、ボールを持った練習に入る前のバレー部と、ギャラリーには北高の制服を着た生徒がどっさり。男女比で言うと……女子の方が多いが、男子がこんなに来ているとは意外だ。俺が連れてきた北高卒業生たちを見てライブ会場さながらに盛り上がっている。堂々とスマホで撮影しようとしている奴が何人もいるが顧問としてどうなんだ?
「集合――――っ!」『はい!』
「今日半日よろしくお願いします!」『よろしくお願いします!』
『キョン、あたし達も久々にやりましょ!』
やっぱりそうなるのかよ。まぁいい、日本代表選手として声の出し方から見本を見せてやる。
「整列っ!」『はい!』
「今日半日よろしくお願いします!!」『よろしくお願いします!!』
なぜかギャラリーから拍手喝采。現キャプテンらしき女子生徒にアップ場所を聞いてそれぞれが準備を始めた。
「所狭しと並んでいるギャラリーにも驚きましたが、部員の数も凄いですね。OG達が高校三年生だった頃より多いのではありませんか?ざっと20人……30人とまではいかないでしょうが、バレー部だけで一クラスできてしまいそうですよ」
「『ゾーンが役に立ちそうです』と顔に出てるぞ?報道陣の方は撒いたんだろうな?」
「ええ、裏門の方も警備をお願いしてきました。応援を呼んでいただきましたので、北高の敷地内に入り込んだ者は今頃警察署の中ですよ。しかし、そんなに表情に出ていますか?」
「古泉君、ババ抜きをやったら絶対負けそうです」
「あら?彼が勝ったことのあるゲームなんて、今まであったかしら?」
「勝てるゲームを探す方が困難」
たとえゲームを探しあてたとしても、それを知る相手がいなければ意味がない。数年前に取り付けた空調完備の閉鎖空間のおかげで、ギャラリーも入れて防寒着を着ている生徒は一人もおらず、俺と古泉の球出しからスタート。ドラマでの内容が事実であることを、身を持って体感してもらうことにしよう。この人数でハルヒ達までレシーブに参加するのはどうかと思ったが、見本をみせるには丁度いい。ドラマと同様、「身体がしっかりコートの中に向くよう意識しろ!」とか「腕を左右に振らずに脚で取りに行け!」など基本的な注意をしているだけでセッターにボールが綺麗に返っていた。何種類かレシーブ練習をしたところで時間も頃合い。一番やりたかったであろうスパイク練習に切り替えることにした。
「スパイク」
「スパイク―――――――――っ!」
『はい!』
自分の出番が来たといわんばかりに、有希が一、二年のセッター達を連れだし、クイック技のトスの練習を開始。
「俺が一度ボールを上げる。次に触るのと同時に跳ぶイメージでステップを踏んでくること。最初はハルヒ達が見本を見せてくれる。全員、自分が撃つつもりで飛び込んで来い。でないと相手に囮だとバレるし、無駄に跳んだだけ体力も無くなる」
『はい!お願いします!』
ハルヒ達が見本をみせてはいたが、やはりタイミングが上手く掴めない生徒ばかり。多少強引だが、ステップを踏んで跳んだ生徒にトスを合わせると、見事にBクイックが成功。課題は残ったものの、自信がつけばもっと練習しようと思えるだろう。反対側のコートでは球拾いという雑用とは名ばかりの采配とコースを読んでレシーブをする訓練をしている古泉。ただでさえコーチが七人もいるんだ。雑用にまわってもらってその分一年生にも撃たせる方がいいだろう。
「あれだけ球出ししたにも関わらず、この人数ですと一人につき精々三、四本といったところでしょう。このあとはどうなさるおつもりなんです?」
「俺はもうそろそろ戻る時間だが、ハルヒ達は別だ。練習試合でダイレクトドライブゾーンを見せて欲しいと言われても、古泉が司令塔になればそれで済む。ついでに、練習が終わったら顧問と相談をしておいてくれるか?日曜の午前に体育館が確保できるときにまた来るってな。今度は二か所でスパイク練習ができるように二面張るよう伝えておいてくれ。練習試合用の一面に戻すくらい、俺のパフォーマンスで生徒たちも納得する。このあとどうするかは、生徒とおまえら次第だ」
「面白いじゃない!最後までみっちりしごいてやるわ!」
「問題ない。あなたの言う通り、また来ると約束するだけ。顧問との相談は古泉一樹が適役」
「了解しました。昼食は先に召し上がっていただくことになりそうですね」
「どうやら、残りの時間でやりたいことを決めてきたようよ?」
朝倉の視線の先には、先ほどのバレー部部長が駆け寄ってくる姿があった。はてさて、どんな申し出が飛び出すのやら。鶴屋さんもいるし、みくるが試合でコートに入ることはないだろうが、できればこういうところで消極的になって欲しくはないな。バレー部部長が俺たちの前に立ち止まって一言。
「すみません、先輩たちと試合をさせてもらえませんか?さっきのスパイクを試合で使うところを見せて欲しいんです!」
「言っとくけど、あたし達の攻撃はクイック技を超えたダイレクトドライブゾーンよ?ついて来られるの?」
「床に落ちる寸前までボールに食らい付きます!是非宜しくお願いします!!」
「面白いじゃない!実力差はあるだろうけど、相手にとって不足はないわ!すぐに準備しなさい!」
「ありがとうございます!!」

 

 是が非でもボールに喰らいつくという言葉に、ハルヒの『相手にとって不足なし』か。本人の言葉通り、実力差があれど、そうやって勝負を挑んでくる奴には誰であろうと全力で叩き潰すのみ。結局みくるの代わりに鶴屋さんが入り、いつもの黄チームのサーブ順だが、トップは俺。
「今話題になっているあの六人も、俺のサーブを何とか攻撃に繋げるところから始めたんだ。威力はあるが、真正面に撃つから何としてでも攻撃で返せ。いいな?」
『はい!お願いします!』
セッターを除くレギュラーメンバー五人の真正面に、それぞれ二本ずつジャンプサーブを放った。やれやれ、当時のOG達を見ているようだ。真正面に撃っても威力に負けて攻撃に転じるどころかカバーに向かうことすら叶わず、レシーブを乱してばかりだったが、二周目に入ったところでようやくレフトからの二段トスで攻めて来た。
「ハルヒ、一歩右!」
影分身でさえなければ、ハルヒ達に指示など不要なんだが、本体は楽団の練習中なんだから仕方がない。ダイレクトドライブゾーン用のレシーブができるのか、有希の影分身がトスを上げられるのか不安を感じていたんだが、どうやら杞憂に終わったらしい。たとえ意識を削られていても、この二人にそんな心配は不要。ダイレクトゾーン+有希&朝倉による超光速連携で相手コートのサイドライン上に叩きつけられた。しばしの沈黙のあと、体育館中の生徒から歓声があがる。
「すまん、そろそろ俺は日本代表の練習の方に戻らないといかん。この六人は練習の最後まで付き合ってくれる。時間までできるだけたくさんのことを吸収していってくれ」
「しゅ、集合――――――――――っ!!」『はい!』
「今日半日ありがとうございました!」『ありがとうございました!』
「またよろしくお願いします!」『よろしくお願いします!』
「時間を見つけてまた来る。どれだけ強くなっているか俺も気になるし、そのときまで今日やった内容をできるだけ磨いておいてくれ。またな」
『はいっ!』
俺が北高内に居たという証拠を撮影されても面倒だ。パフォーマンスを見せることも含めて、テレポートで本社へと戻った。証言さえ入手できればドラマのワンシーンを抜粋して……なんてこともできなくもないが、そのときはそのときだ。

 

 午前の練習を終えてタイタニックに戻る頃には、『一応』みくると鶴屋さんを除く全員が出揃っていた。ハルヒ達は結局どうしたんだか。
「そっちの練習は終わったのか?」
「まだ。古泉一樹のサーブを受けても、攻撃を仕掛けてくるようになった。練習試合終了後、レギュラーメンバーの腕の治療をする」
「古泉はそれが本体か?」
「ええ、他の方を待たせるのもどうかと思いまして北高には影分身を向かわせました」
「くっくっ、黄僕から聞いたよ。黄朝倉さんに脅えていたとはいえ、随分楽しんできたようじゃないか。どんな会話になったのか、僕たちにも教えてくれたまえ」
「テレパシーでの会話だし、モニターに映すわけにもいかん。テーブルに手を置いてくれるか?会話の内容をすべて伝える。今の鶴屋さんでも大爆笑していたんだ。食事中に話したら吹き出しかねない」
ハルヒ達も楽団の練習中ということもあってか同期していなかったようだ。古泉も電話中に笑うことになると判断したらしいな。1-5の連中との会話の内容が全員に伝わった。
「プッ!あはははははははは……黄涼子とジョンが闘ったのは聞いたことがあるけど、黄涼子の殺気の次に良く覚えている事がどうしてあんたの不正行為なのよ!笑いが止まらないじゃない!くくく……あははははははははは」
「くくくくく……これは失敬。僕も涼宮さんと同意見です。あなたとジョンのテレパシーが彼らに聞かれていたとは驚きました」
「おまえの影分身も同じことを言ってたよ。あれは俺の不正行為じゃなくて、テスト中にジョンが大爆笑し始めただけだ。500年後じゃ、今の高校一年生で習う内容なんて基礎中の基礎らしいからな。あのときジョンから500年後の高校生のテストの内容を聞いて、俺も自分が生まれてきたのがこの時代で良かったと痛感したよ」
「キョン先輩、500年後のテストって一体どんな内容なんですか?」
「この時間平面で例えるなら『スマホの仕組みを述べよ』なんて聞かれるのと同じだそうだ」
「え~~~~っ!そっ、そんな問題出されたら、私ずっと進級できないですよ!!」
「安心しなさい。そんな問題、キョンにだって解けないから!」
「いくら便利だからって、何も知らずに使っているのが良く分かるわね」
「北高での次の練習は、『日曜の午前に体育館が確保できたら教えてくれ』と顧問に伝えるよう、古泉の影分身に伝言を頼んである。それで、そっちの会議の方は順調に進んだのか?」
「順調に進んだんだけどね、こっちの新川さんにも確認しないといけないし、ホテルフロアが多すぎてランチタイム以外、食堂の一般開放はできそうにない。今日のランチタイムが終わった段階で券売機を操作するつもりでいるけれど、スペシャルランチももう二十日まで販売されてしまってる。スイートルームだけで20人以上の食事を作らないといけないからね。一般客向けのスペシャルランチの数を制限して50食くらいを目途に相談するつもりだよ」
「一般のホテルフロアを予約してきた客が三食とも新川さんの料理を選んだ場合は食事代込みで10000円と設定しました。それでも安いくらいですけどね。しかし、あなたの言う催眠だけは、どういう意図で設置するのか皆目見当がつきません。どうしてその必要があるのか教えていただけませんか?」
「なぁに、簡単な理由だ。食堂を利用する客に最もストレスを与えない方法を考えたら催眠をかけるのがベストだと考えたまで。ランチタイムに入っても、窓側の席に予約席のプレートがずっと置かれている状態じゃ、スイートルームに宿泊している客が昼食を摂りにくるまでそのテーブルは使えない。かといって、プレートを置かずに一般客に利用されている状態では、宿泊客を待たせることになる。だが、十二時前に各テーブルに予約席のプレートを置きに行っていたのでは、そのテーブルを使っている客が急かされているように感じて、良い気分でいられるとは言い難い。そこで、十二時の……そうだな、十五分前ってところか。その時間から、一般客には窓側のテーブルには予約席の札がおかれているように見える催眠をかける。宿泊客が食堂に来るまでの間に一般客が食べ終えて席が空けばそのまま利用可能だし、待つことになったとしても精々数分だ。宿泊客が食べ終えてからは予約席のプレートが消えたように見せれば、また一般客も利用することができるようになるだろ?」
「ランチタイムの混雑を見越した上での催眠か。プレートが置かれていれば、たった二人でも相席で食べようなんて客はほとんどおらんだろうな。それでも各階にSP一人は付く必要がありそうだ」
「宿泊客と一般客の双方にストレスを感じさせない催眠ですか。いやはや、実際に客が入ったらどういうことになるか、具体的なところまでは考えが行き届きませんでしたよ。ですが、新川さんの料理となると十五分前よりも三十分前に設定した方が良さそうですね。ランチを楽しみにしている宿泊客も多いでしょうし、その分早く一般客に席を譲ることができそうです!」
「も~~~~っ!!またあんたの案に乗らなきゃいけないなんて!!文句のつけどころがないじゃない!」
「よいではありませんか。これでより良い口コミが広がると言うものです。彼の影分身が敷地外で看板を立ててくれているおかげで、三階の方も大繁盛のようですよ?」
「ランチタイムになったことも含めて大分行列が伸びてきた。報道陣も満員電車状態の中から何とか取材しようともがいてるよ。青新川さんのスペシャルランチのことも考えると、異世界の方も報道されない方がよさそうだな。ついでにランチタイムが終わった後の椅子についてだが、鈴木四郎のパフォーマンスを見せるには丁度いい。俺がディナー仕様に変えて、余分な椅子は下げることにする。ランチタイム開始のときも同じだ」
「ホテルの運営はまだでも、食堂の案内役は必要になりそうだ。俺が各階にSPを配置する。いい修行になりそうだし、俺たちの世界のタイタニック号の修理も終わったんでな」
『タイタニック号の修理が終わった!?』

 
 

…To be continued