500年後からの来訪者After Future10-6(163-39)

Last-modified: 2017-03-06 (月) 12:56:55

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future10-6163-39氏

作品

この時期にOG六人の印象を悪くするわけにはいかないとして、北高バレー部のコーチとして母校に赴くのは却下されてしまった。しかし、日本代表としてではなく、ハルヒ達の催眠をかけて参加することができるという佐々木の提案により次回以降はOG達を連れてくることに。1-5の連中が朝倉の殺気に脅えていたり、異世界支部のホテルフロアの件で色々と検討し直したりもあったが、ようやく練習を終えたみくる達が戻ってきた。

 

「異世界のタイタニックの話もいいが、OG達が早く知りたくて仕方がないらしい。次はいつになったか教えてくれないか?俺が練習試合を抜けるところまでの報告は済んでいる。同期しても大爆笑するようなこともない。古泉の反応は本体も影分身も変わらなかったよ」
ハルヒや有希、朝倉は帰ってきて早々影分身を解き、みくると鶴屋さんは自席に座っていた。笑いを堪えきれないと勘ぐっていた古泉もようやく同期して影分身を解き、顧問と相談した内容の報告を始めた。
「バドミントン部やバスケ部の顧問ともう一度相談してみるそうですよ?早ければ来週日曜ということになるでしょう。それより、練習風景を撮影していた生徒に対して何もアクションを起こさなくても良かったんですか?」
「高校生の撮影した動画程度で一面を飾るのかどうか見てみたかったのと、あの連中も登校してきた生徒にインタビューしてから不法侵入してきたようだし、俺たちが来たことはもうバレてる。ギャラリーの生徒への対応は教員の方で話題になって規制がかかるだろうし、注意喚起したところで報道陣の前でベラベラと喋ってしまう奴の心当たりくらい、おまえらにだってあるだろ?」
あのアホの面が頭に浮かんだメンバーの表情が強張る。そろそろ何か別の刑を執行してもいい頃だ。
「やれやれ、『報道陣の前でベラベラと喋る奴』と聞いただけで一人に絞られてしまった。これが推理物だったらそれだけで事件が解決してしまうぞ。推理するまでもないか。とにかく、俺が聞きたいのはこっちのタイタニック号でも処女航海をするかどうかだ。エンジンも当時のものをそのまま再現しただけだから、日数もかかるだろうし、一等客室と言ってもそこまで広いわけじゃない。だが、俺たちの世界でなら社員旅行としてすぐにでも旅行に連れていくことが可能だ。ハリウッドスター達と約束を取り付けたわけじゃないからな」
「面白いじゃない!店舗の店長達も呼びましょ!」
「我々の世界の本社も大分社員が揃いましたが、安定したとは到底言えません。それに、天空スタジアムからの絶景を見せて無料コーディネートをしたばかりですからね。もう少し期間を置いてからの方がいいかと。処女航海については涼宮さんにお任せします。日数がどれだけかかるかは分かりませんが、もし実行に移すのなら金曜の六時以降、サウサンプトン港を出発して二泊三日の船旅。翌週の金曜日辺りにニューヨークに着くことが可能ならば、処女航海達成の記念パーティを開くというのはいかがです?」
「いいわね、それ!三食とも社長自ら料理を振る舞うことにするわ!夏頃のイベントとして加えておいて頂戴!」
「了解しました。所要日数を僕の方で調べておきましょう」
「問題ない。青チームの古泉一樹の提案通り、一週間でニューヨークに着く。当時の計画でも、到着は一週間後の予定だった。ただし、24時間運転する必要がある」
「フフン、その点は心配いらないわ!有希に自分で眠気を取らせて運転させるから。ついでに支給する料理を作る時間もできるんだし、影分身の修行には丁度いいわよ!キョンだって四か月半の間、ほとんど寝ずに告知を終えたんだから、一週間くらいで文句は言わせないわよ!!」
「でも、その頃には料理を届けに行く必要も無いんじゃ……」
「別に来月のイベントとして扱ってもいいのよ?『支給が来なくなったら見捨てられたと思う』って言ってたのはあんたでしょうが!」
「使い道も決まったようだし、タイタニック号は社長室に入れさせてくれ。俺たちの本社には社長室はないんでな」
「ああ、それでいい。俺は練習に出る以外の影分身でパン作りに専念する。異世界支部の方は列に並ばずに社員食堂に入ろうとすれば、報道陣同様閉鎖空間にぶつかるようになっている。電話で文句を言ってきても『自業自得』だと突っぱねてくれ。青有希のタイタニックの運転の件と似たようなもんだ」
『問題ない』

 

 練習試合に向かうエレベーター内で先ほどのやりとりを受けて妻が一言。
「キョン、いくらなんでもあれじゃ青有希先輩が可哀想だよ」
「こっちのタイタニックを動かしたのはすべて有希だし、一週間寝ずに過ごすくらいの刑罰なら軽い方だ。一ヶ月は経過したが、カレーにありつけるまでまだ二十日以上。その次にいつ食べられるかは俺の気分次第だからな。いくら全員の前で謝罪したからとはいえ、特に刑罰はなかったし、執行する刑がようやく見つかっただけに過ぎん。有希の一言さえ無ければ今頃カレーにありつくことができたんだ。それを踏まえて考えれば、妥当だと思わないか?」
返答が来る前に体育館に着いてしまったが、六人とも『思い出すんじゃなかった……』と言いたげな表情をしていた。食べ物の恨みは恐ろしいというのが良く分かる。まぁこれで、青俺が何のフォローもしなかったことに関しても納得することができただろう。どちらの体育館も報道陣とファンの数は相変わらず。俺のコメントを真に受けて宿泊しているフロアで実際に座禅を組んでいる選手もいるようだが、OG達と同じレベルに達するにはまだまだ時間がかかる。当分はここに居座っても、バレーで一面記事を飾るようなことはないだろうな。
「各メディアの社長からも連絡が来ましたが、以前あなたのおっしゃっていた通り『誰を辞めさせようが一ヶ月以上延長することに変わりはない。報道してしまったものは、もう取り返しがつかない』と突き放しておきました。明日も何件か連絡は来るでしょうが、『「今シーズンどころか来シーズンにまで影響する」と告げたにも関わらず、まだしつこく電話をしてくると社長に連絡する』と伝えることにします。明後日には取材許可を請う電話はかかって来ないでしょう。その場合は容赦なく社長に報告するまでですよ」
夕食で人事部から戻ってきた古泉から一言。相変わらず、切り捨てると決めたときの容赦の無さは健在か。
「キョン、私も低い意識でゾーンに入る練習がしたい。何体出せるか分からないけれど、私にも電話対応をさせて欲しい。私もゾーン状態になるのに、まだ九割以上必要だから」
「男子のセッターの采配が読めなくなるまで、まだ大分時間がかかるだろうが、女子の練習に早急に復帰するつもりなら修行が必要になる。しかし、これに関しては、もう監督に話してもいいんじゃないか?男子のセッターならまだ采配は読めるが、女子の方は今まで俺に読まれないよう練習した分、まだ読むことができないってな」
「女子の方に戻りたい気持ちもあるけど、今抜けたらキョンの負担が重くなるでしょ?」
「変わるのは俺の負担じゃなくて、男子日本代表選手たちの成長スピードの方だ。単純に今までの半分だからな」
「それよりあんた、これで異世界支部のホテルが運営を始めたら、予約が入ることになるじゃない!その日の気分で休むんじゃなかったの?あんたまだ一日も休んでないでしょうが!」
「一昨日は『昼食後から夕食まで寝させて欲しい』なんて話していたが、三、四日は賄えるだけの量は維持できている。すべての行動を止めない限り、影分身を持て余すことになるんでな。その分、ジョンの世界でくつろいでいるから大丈夫だ」
「だったら、明日の午前中は影分身で撮影に参加して欲しいわね。このあと有希さんがあなた達のスリーサイズを測るから、明日は撮影室でウェディングドレスに着替えてもらえないかしら?鈴木四郎の方も撮影したいし、新郎役は彼に務めてもらうことにするわ!」
「う……涼子先輩、流石にスリーサイズを測ると言われるとまだ抵抗が……」
「その場の勢いで公開した方がいいと思うわよ?青チームのあなた達もいるし、有希さんに催眠をかけて測ってしまうけれどそれでもいいのかしら?わたし達も最初は似たようなものだったし、どうせ撮影されるなら自分でドレスを着た方がいいと思わない?再来週にはドラマのNG集が放送されるし、朝比奈さんも測り直さなくちゃいけないのよ。でないと、鶴屋さんの例のシーンでのコメントが矛盾してしまうでしょ?」
「黄私が撮影に参加しないなら私が……」
『あんたが一番に名乗りを上げると思ってたわよ!』
いくら六人が拒否しても変態セッターがいる限り一人は諦めざるを得ないと思っていたが、こうもあっさりと周りの予想通りに事が運ぶと面白味に欠けるな。しかし、会議をしていても夕日が沈む気配が一向に訪れないのは……また有希が場所を変えたようだ。今度はどこにいるんだか。
「うぅ……スリーサイズを明かす覚悟はできたけど、私が裏表紙に載るなんて……。しかも誓いの口づけのシーンって……………恥ずかしくて外を歩けそうにないよ」
「心配いりません!わたしも佐々木さんもそんなときはずっとキョン君に付いてもらっていました。キョン君が目の前に立っていてくれないと、わたしも表紙の撮影なんてできそうにありません!」
「それをみんながいる前で堂々と言うみくるの方もどうかと思うにょろが、みくるのバストならあのときあたしも測ったにょろよ!あとで有希っ子が測ったものと照らし合わせてみるっさ!」
『えぇ~~~~~~っ!?』
「鶴ちゃんにそんなスキルがあったなんて知らなかったわよ!」
『みくるのバスト限定にょろ!』
「こちらの鶴屋さんも同様のようですね。時計も見ずに時間を告げてくるジョンと変わりありませんよ」
『単にアラームを設定しているだけだ。俺が測るつもりはないが、サイコメトリー機能を搭載した膜さえあれば、そのくらい簡単に測れる』
「くっくっ、そんな真似ができるのならCTスキャンもレントゲンも必要がなくなるじゃないか。研究の一つに入れておくことにするよ」
『キョン先輩、私も先輩に付いていて欲しいです!』
「全員の前でそんなカミングアウトをするな!勘違いされるだろうが!ったく、有希の場合は数秒見つめるだけで済むだろうし、六人とも覚悟はできたってことでいいんだな?」
『問題ない』

 

 そのあと有希に問い詰めたところ、夕食後でも撮影ができるようにとインド洋に連れてこられたらしい。自分もそれで撮影してもらえるならと、青みくるも影分身にテーマソングを歌わせているし……それに付き合っている朝倉はどう思っているんだか。青俺と青有希、古泉と園生さんも含めて納得のいくまで船首で付き合わされたが、演出上のことも考えた結果からか、タイタニックの映画の主題歌が終わるまでには全員交代していた。その間にみくるのバストサイズを書き記した紙が入っているらしき封筒が鶴屋さんから託され、有希の測ったものと比べてみて欲しいということなんだろう。何も将棋の封じ手のようにしなくともいいだろうに。……そういえば、鶴屋さんと青古泉で将棋をさせたらどっちが強いんだ?確かめてはみたいが、鶴屋さんまで将棋の方に巻き込まれそうで怖い。未来古泉があの時間平面上に帰った後、みくるに誇らしげに報告しそうだな。どうせ冊子の製本作業で全員のスリーサイズが判明してしまうからと、スパにいる間にOG六人のスリーサイズが載った紙を青OGだけでなく俺にまで手渡された。おそらく大丈夫だろうとは思っていたが、記されている数字を見て安心した。特にバストやウエストをサバ読んでいるモデルよりよっぽどモデルとして適役だ。毎日運動して、それでもブラのサイズを大きくしないといけない程なんだから当然だ。自分で測っていないわけではないだろうが、有希の算出した値にOG達も満足気な顔をしていた。
「キョン、早くその封筒を開けて見せなさいよ!鶴ちゃんと有希の計測が一致しているのかどうかさっさと教えなさい!」
サイコメトリーすれば開けるまでもないんだが、封筒を破いて中の紙を取り出し、達筆で書かれた数字を見る。
「やれやれ、小数第一位まで書かれたスリーサイズなんて見たことが無いぞ。有希、この場合どうするんだ?四捨五入か?」
『小数第一位!?』
「みせて」
相変わらずの平仮名三文字に、そこに集まっていた全員が見えるように書かれていた数値を公表した。球出しやトス、零式のようにミリ単位まで正確に測ることが可能とは。なぜこんな方向に特化してしまったのかが分からん。
「問題ない。小数第一位で四捨五入する。この場合、切り上げることになりそう。わたしも同じ値」
『おぉ――――――っ!!』
「鶴ちゃんに負けるわけにはいかないわ!みくるちゃん、あたしにも測らせなさい!!」
「えっ!?ちょっ、ハルヒさん!やっ、やめてください~~~~~~っ!」
「二回も計測したんだからもういいだろう。さっさとシャンプーと全身マッサージするぞ!少しは俺の睡眠時間の確保に貢献しろ!」
「ぶー…分かったわよ」
ハルヒに両乳房を鷲掴みにされて、みくるから母乳が漏れていた。また吸ってやらんとな。水泳の方はビート板やカラーヘルパー無しで15mクロールを綺麗に泳ぐ練習を何本も続け、次第に水面で、速く、スムーズに泳げるようにまで上達していた。この調子ならもうしばらくで25mに変更してもよさそうだ。一度タイムも計ってみよう。いい目安になるだろう。

 

 本体は青佐々木と種付けの真っ最中。現状維持の条件はつけなかったが、青ハルヒのように
「私の子宮をキミの遺伝子でいっぱいにしてくれないかい?」
という要望に応えないわけにもいかず、女の遺伝子に受精されても困る。卵管に張った膜の条件を変えて子作りに勤しみ、全身マッサージを終えて客室にテレポートしたハルヒと抱き合いながら話していた。
「ところでハルヒ、おまえ、例の自己紹介もそうだが、どうして宇宙人が入っていて幽霊や妖怪は除外されていたんだ?」
「幽霊や妖怪まで入れたら、オカルトマニアだと勘違いされるじゃない。そっちの方が印象に残って未来人や異世界人が際立たないのよ。興味はあったけど、あまり人間離れされても困るわよ!」
「みくるだけならまだしも、今の俺たちは十分人間離れしていると思うけどな。宇宙人も有希や朝倉のようなヒューマノイドインターフェースだったから良かったが、人間の皮をかぶった化け物じゃ困るんじゃないのか?」
「あたしが気に入るかどうかによるわね。もし、気に入ればそれでも許すわ!」
「見た目や経歴は今の時代の人間でも、人格は当時の敵に恨みを持っていた戦国武将だったなんて奴がいたら?要するに彷徨っていた幽霊が人間に憑依した場合だ」
「話を一通り聞いた後は興味が無くなりそうね。SOS団には入れられないわ!そいつの復讐に付き合わされるのもゴメンだしね。あんたもそんなつまらない話なんてしてないで、少しはこっちに集中しなさいよ!」
ハルヒの両足で腰を固定され、俺の分身が絞め付けられる。いくら影分身とはいえ、俺の分身が引き千切られそうだ。初めて抱き合ったときより絞め付けが強い気がする。トレーニングの効果が出たのは分かったから、俺が動けるだけの余裕は確保して欲しいもんだ。しかしまぁ、ハルヒの言い分を聞く限り、除外されていた理由が何となく分かった気がする。確かにあの羅列の中に幽霊や妖怪が入っていたらそっちの方向に思考がいってしまいそうだ。もっとも、俺の場合は思考する時間を与えてはもらえなかったがな。すかさずジョンが『俺は未来人兼超能力者だ』と俺の頭の中でうるさかったくらいなんだ。本当に俺の自己紹介を聞いて自分と同姓同名だということに驚いていたのか?アイツは。
「ご主人様に優しく抱いてもらって私も満足です。これで私もご主人様の子供が産めそうです」
「随分と従順なメイドになったもんだ。受精したのも確認できたし、つわり対策もつけた。ちゃんとした名前を考えてやれよ?」
「くっくっ、主人が自分の従僕に対してここまで優しく接してくれたら、誰だってこうなると思わないかい?私の今までの人生でこんなに待たされた半年間は無かったよ。でも、ようやく今日という日を迎えられた。女の子の日に男の子を孕むというのもおかしな話だけれど、これで私がこの日を忘れることはない。誕生月を名前にするのはよく聞くけれど、今日という日を名前に刻みこむのも悪くない。もうそろそろ貴洋が生まれる日が分かってもいい頃じゃないかい?」
「それもそうだな。同期して確認させてみよう。明日の朝にでも発表すればいいだろう」
「私には先に教えてもらえませんか?ご主人様」
「アイツが良いって言ったらな」

 

『キョン社長、母校に出張授業&部活のコーチ!?ドラマ通りの球出しとトスにバレー部員驚愕!!』
などという見出しで一面を飾った日曜の朝、敷地外ならまだしも、日曜に北高前に蔓延る報道陣のバカさ加減に愛想を尽かしながらSPに看板を持たせて立たせていた。日本代表排出校とはいえ、単なる進学校が土日の休みを返上してまで練習をするなんてあるわけがない。あのアホのように体育館での様子をベラベラと話していた奴がVTRに映っていたわけではないが、練習に参加していたバレー部員とギャラリーにいた生徒がインタビューに答えていた。これについては明日学校の方で対策が講じられるだろうし、二日連続では無かった分まだマシだ。新聞に掲載されている写真はドラマの抜粋や俺のアップ、ギャラリーから撮影していたらしき生徒がサイトに載せた動画のワンシーンを切り取って貼りつけたものが二社。スマホのスペックが良かったのか、生徒の撮影が良かったのかどうかは俺にも分からんが、見事に俺とネットの反対側にいる古泉、レシーバーの三人を捉えた一枚が写真として載せられていた。古泉がやってきた時点で対応を交代したが、本社には朝から俺への取材の電話が鳴り響いていた。昨日話していた事を早朝から実行に移すらしい。古泉と一緒に妻の影分身が二体人事部へと現れ電話対応を開始。しばらくしてタイタニック船上に全員が出揃った。
「出向いたのが黄わたし達で良かったわ。これで六人が一緒に行っていたら、間違いなく見出しが変わっていたわよ。黄キョン君なら『ドラマの件で母校からも依頼が来た』って理由付けができそうね」
「今現在もあなたへの取材の電話が鳴り響いていますが、どうするんです?」
「生徒には取材に応じないようにと明日にでも全校朝礼が開かれるだろうし、いくら休みの日で制服を着ていても不要物は不要物として没収することも説明があるはずだ。電話はつながらないようにしたし、いくつか対応策を考えたんだが……閉鎖空間で北高周辺に報道陣を入らせないのが一つ。ハイキングコースに配置したエスカレーターの入口横の車道に、報道陣にだけ『車両通行止め』と書かれた赤いガードレールを見える催眠をかけるというのが一つ。勿論、強引に突破しようとすれば、本社前の駐車場と同様の膜に防がれガードレールにあたったところで車が破損する。車を降りて、機材を持ったままハイキングコースを報道陣に味『遭わせる』のが目的だ。しかし、どちらも俺が仕掛けを施したとすぐにバレてしまう。今回は三つ目の案でいくつもりだ」
『三つ目の案!?』
「今の二つ以外に対策があるのでしたら、是非ご拝聴させていただきたいですね。我々の世界の本社でも対策として使えるかも知れません」
「有希や青俺がマフィア対策としてつけた閉鎖空間と似たようなものだ。北高を中心とした閉鎖空間を張り、北高に取材目的でやってきた報道陣に気温マイナス五℃の閉鎖空間を取り付ける。本社前の方もバレーのみの取材でやってきた報道陣以外に同じものをつけるつもりだ。諦めて帰ろうとすれば閉鎖空間から抜けた時点で消え、戻ろうとすれば再度取り付けられる仕組みにする。無論、テロが起こっても銃弾を跳ね返すようなことは一切ない」
「くっくっ、キミのことを責められるような立場ではないけれど、どうして今までその策に気がつかなかったんだと言いたくなるよ。どちらの世界の報道陣も一時間もしないうちに帰り支度をしてしまうじゃないか」
「俺たちの本社の場合は『こちらにメリットがない報道陣』と条件をつけるだけでよさそうだな」
「面白いじゃない!ブラックリスト入りした政治家たちと同じ目に遭わせるってわけね!」
「いくら天候を操れるとはいえ、この時期ですから自分たちだけが異常気象に遭っているとは思わないでしょう。あなたのパンを目当てに並ぶ一般客が目の前にいるんですからね」
「俺も、どうしてもうちょっと早く思いつかなかったのかと悔やんでるところだ。異論がないのなら三か所とも取り付けてしまうがそれでいいか?」
『問題ない』

 

「ところで、異世界のニュースの方は見ていないんだが、何か動きはあったか?」
「ええ、あなたの……っと、僕が説明するとまたハルヒさんに怒られてしまいそうです。すみませんが、どなたか代わりにお願いできませんか?」
ということはパンの件で一面を飾ったか。
「くっくっ、すべての新聞社というわけではないんだけどね、こちらもパンを一つも掲載せずに、行列と本社を撮影したものを掲載した記事になっていたよ。『SOS Creative社前に大行列!狙いは鈴木四郎の作ったパン!?』なんて見出しがついていた。鈴木四郎の方がまだ名前が知られているから見出しには出ていないけれど、新川さんのスペシャルランチのことも記載されていた。その件で取材や番組取材の依頼も来るだろうけど、すべて断ることで一致したよ。これ以上は社員食堂がパンクしてしまうからね」
「それで、涼宮社長。SPには何と答えさせればいいんだ?異世界の方もパン目当てで出社する社員も出てくるだろ?こっちと似たような返答でいいのか?」
「それもそうね……でも、あんたに任せるわよ!作っているのはあんたで間違いないんだし。それより、閉鎖空間を取り付けられたアイツ等がどんな顔をしているのか見てみたいわ!モニターに出せないの?」
青ハルヒからの催促を受けて、枠内を四分割されたモニターが現れた。映っているのは本社と異世界支部の敷地外にいる報道陣と、北高の正門と裏門にいる連中。手を擦っていたり、ポケットの中に手を突っ込んでみたり、手に息を吹きかけていたり、身体を動かしていたりと様々だが、どれも寒さで凍えているのがよく分かる。
「くっくっ、僕は読唇術を持ち合わせているわけじゃないけれど、『今日はやけに冷えるな』と話しているのがよく分かるよ。ところで、そろそろ話したらどうだい?彼の誕生日が判明したってね」
「彼の誕生日って……佐々木先輩の赤ちゃんがいつ生まれてくるのか分かったんですか!?」
『誕生日!?キョンパパ、ケーキ!!』
「ケーキは二人の誕生日の方が先になりそうだ。誕生日通り、プリンセスを粘り強く守るナイト様だ」
「『粘り強く守る』というのも妙な言い回しですね。一体いつだと………ああ、そういうことですか。確かにナイトで間違いありません」
「しかし、ナイトの方は少々強引な気もします。『粘り強い』の方が誕生日の語呂合わせとして適切かと」
「こういうことに関してはどちらの古泉も変わらないな。双子より誕生日が後で『粘り強い』が語呂合わせってどういうことだ?」
「簡単、七月十日。『粘り強い』は納豆のこと。『ナイト』でも語呂合わせとして不適切という程でもない」
『あ~なるほど!』
『……って、ちょっとあんた!どうして先に答えを言っちゃうのよ!折角あたしが考えてたのに!』
「まぁ、いくらサイコメトリーでも、まだズレる可能性もある。双子と幸が特別だっただけかもしれん。それで、撮影の方はどうするんだ?編集長」
「このあとすぐに始めるわ。練習試合でミスをするわけにはいかないでしょうし、影分身で撮影室まで降りて来て。アクセサリーを変更することもあるかもしれないけれど、着けたままで来てくれないかしら?あなたと古泉君にも新郎役として入ってもらうわよ?それに、ヘアメイクを有希さんに頼めないかしら?」
「問題ない」「了解しました。では、僕もヘアメイクを手伝いましょう」
「俺の方も問題はないが、自分のヘアメイクは自分にやらせたらどうだ?青OG三人のいい練習台になるだろう」
「おっと、その手がありましたか。確かに、自分のメイクなら大丈夫だと僕も聞いた覚えがあります。今回は彼女たちにお任せすることにします」
『フフン、あたしに任せなさい!』

 

 マイナス五℃の閉鎖空間については満場一致でOK。今月はこの閉鎖空間をつけたままでよさそうだ。異世界のパンの記事についてもそこまで憤りを感じているメンバーはおらず、周辺のチェーン店を潰すための方策として認識しているらしい。影分身で朝倉の撮影室に現れたOG六人に青OGと有希によるヘアメイク。
「そういえばキョン先輩、一昨日話していたハルヒ先輩が恥ずかしくなるような話って一体どんな話なんですか?」
「当時のハルヒは周りが何をしていようとお構いなしだったからな。男子がまだ教室に残っていても平気で着替え始めていたんだ。その光景を見て、さすがに教室から出ないわけにもいかず、しばらくも経たないうちに『体育前の休み時間は、男子は体育着を持って逃げるように教室から出るように』と朝倉委員長から指示が出た。今のアイツはそんなことをするような奴じゃないが、やることなすこと空回りばかりしていた当時の自分のことを、恥ずかしいと感じている。そういうことだ」
「それで、キョン先輩の方もいい思い出が無いって言ってたんですね」
「文化祭の一件が無ければENOZとの接点が生まれることはなかったし、まったく無いというわけでもないんだが、そういう例は数えるほどしかなかっただけだ」
朝倉の『アクセサリーは着けたままで』という指示も、こちらの世界では女子日本代表としてアクセサリーも含めて知られているが、異世界ではドレスに合わないアクセサリーだと指摘されてもおかしくない。無論、こちらの方もネックレスやアクセサリーに合わせたドレスで撮影するのは一枚きり。残りはデザイン課の社員がデッサンしたであろうアクセサリーを身に着けて撮影することになりそうだ。もっとも、青みくるのアクセサリーを借りたみくると妻の場合は、表紙と裏表紙を飾って他のページもそのままになる可能性が高い。ヘアメイクとドレスチェンジを終えて撮影が始まった。本人たちからすれば、こっちが本体の方がいいなんて言うかもしれんが、朝倉から影分身でと指定されてはな。異世界のパンの方は今朝の新聞の影響で長蛇の列ができていた。低層階にならそれぞれどこ○もドアを取り付けることが可能だが、それは今度の野球の試合でパフォーマンスを見せてから。売り切れは無くとも時間制限があることだけは身を持って知ってもらわないとな。先日のように女性アナウンサーがSPにインタビューをしてくることも無く、案の定、北高での授業とバレー部のコーチの件で質問が飛び出したのを制して夕食。妻と二人でタイタニックに戻ると両方の世界の女性誌がテーブルに置かれていた。
「本当に私の写真が裏表紙になっちゃった……必要最低限のものしか書かれてないなんて」
「表紙も冊子のタイトルしか載せてないし、これで追加発注が来るかどうか期待が高まりそうだ」
「三度目の480万部ですか。僕も見てみたくなりましたよ」
「明日、両方の世界の社員に確認を取ってから製本作業ってことになりそうね。またお願いしてもいいかしら?」
『問題ない』
「私にも手伝わせてくれ」
『わたしも頑張ります!』
「女性誌だけで計640万部ですか。この表紙なら追加で80万部もあり得ます。720万部用意してもよさそうですね。ところで、明日の式典はどうするおつもりなんです?」
「人目につかないところでリムジンを出して影分身に運転させる。明日は朝食を食べて出かけることになるだろう。こちらの時間で午前九時にレッドカーペットが敷かれてノミネートした人間が集まる。十時から式典が始まって三時間程度だ。時間にうるさい式典だから遅れることもないし、監督にもアカデミー賞の表彰式で練習に参加できそうにないと伝えてある。いくらテレポート出来ても、こういうときくらいは休ませてもらうよ。昼食を食べたら、異世界支部のパンを任せていいか?」
「バゲットを切り分けておいてもらえるのならSPも含めて俺が出る。今日もかなり混雑していたからな。これに宿泊客まで入るとなると、黄俺の負担が大きくなるのは問題だが、低層階には社員食堂にどこ○もドアを設置してもいい気がするな」
「撮影の間もそのことを考えていたんだが、今度の野球の試合でどこ○もドアを使ったパフォーマンスを見せる。設置するならそのあとだ。まずは三階に設置して様子見だな。周辺のチェーン店をさっさと赤字に追い込んで店を畳ませる。もうこれ以上の告知は必要ない」
「それなら、ホテル関連の詳細を記載したビラを配ることにするわ!古泉君も大画面のCMを変えておいて頂戴!」
「了解しました」
「今度は720万部か……私も頑張らないとな。青私みたいに影分身ありでも500部、1000部を一気に作れるところまで上達したい」
「まずはわたし達の世界の冊子からですね。今日から製本作業させてもらえませんか?変更があったら作った分の情報結合を解除します」
「一日くらいでそう慌てるな。それをするくらいなら段ボールを100部単位、500部単位で作れるようになってみせろ。他のメンバーも何かしらの修行に励んでいる最中なんだ。急ぐ必要はない」
「それもそうだね。今の自分にできることをすればいいんじゃないかい?ところでキョン、野球の試合当日にやるパフォーマンスの内容を聞かせてもらえないかい?どこ○もドアを使ってただ移動するだけというのも面白味に欠けそうだ」
「ああ、俺もそう思った。今回は140マイルの投球を自分で投げて自分で捕るパフォーマンスを見せる」
『自分で捕る!?』
「あぁ、ストライクゾーンにどこ○もドアを置いて、センターポジションに繋ぐんですね。それなら投げた後、振り向いただけで、自分で捕ることができます」
「くっくっ、キミのパフォーマンスの内容にも驚いたけれど、それをすぐに見抜いた彼女の方が吃驚だよ。僕や古泉君たちより頭が切れるんじゃないかい?」
「これであの性癖さえなければ頼りになるんですけど……」
「青古泉同様、抑えるべきところは抑えることができるようになったし、心配いらん。ところで三人とも、今日は新しいことを練習するぞ。すぐ水着に着替えてプール集合な」
『新しいこと!?キョン(伊織)パパ、早く練習したい!』
「だったらさっさと着替えてこい!」
『問題ない!』

 

「ちょっとあんた、あの子達もうクロールをマスターしたの!?」
「大分泳ぎ慣れてきたが、フォームが安定するまでまだまだ時間がかかる。今日は飛び込みの練習をさせる。同じ練習ばかりじゃ誰だって飽きるからな。それに慣れたらライフセービングでもやらせてみるつもりだ。みくるが溺れている設定でプールに飛び込んでクロール、プール用のウォーターパークチューブを胴体に巻いてプールサイドまで連れてくる。小学校でもそういう場面に遭遇するかもしれん。もっとも、プール用ウォーターパークチューブなんて小学校のプールには置いていないだろうがな」
『ブッ!くくく……胸がカラーヘルパーの役割を果たしているから、みくるが溺れるわけがないにょろよ!チューブなんて持っていく必要はないっさ!あっはははははははは』
「たとえ鶴屋さんの言う通りだったとしても、黄ハルヒや黄有希が溺れるわけがない。有希、おまえが代わりに溺れる役をやってみたらどうだ?いつ頃やらせるのかは黄俺次第だけどな」
「でも、飛び込みができるようになったら、そういうものを入れるのも面白そう。わたしでいいならやる」
いつものようにプールサイドで準備体操をした後、飛び込みの説明。失敗例も含めて青俺に見本を頼み、
「手、頭、腰、足の順番でプールに入るようにする。お腹が痛くなったときは飛び込み失敗。飛び込んだ後は反対側までクロールだ。準備はいいか?」
『問題ない!』
まったく、コイツ等三人には呆れるよ。一度見せただけで軽々と真似をされてしまった。飛び込んだあと、上手くクロールに移行できなかったり、飛び込みを失敗したこともあったが、しばらくは飛び込みを加えたクロールの練習に励むことになりそうだ。
『これで式典に出るのも最後になりそうだ。俺も堅苦しいのは苦手でね』
冊子の製本作業は明日から。集中力を鍛えるために段ボール作りに参加している青OG以外は全員バレー。みくる達も段ボール作りに励んでいた。一回の情報結合で一気に50部作ることができるようになったようだし、製本作業が終わる頃にはみくる達やENOZも影分身できるようになるだろう。朝倉、ジョンとのバトルを終えてジョンの口から飛び出した一言がこれ。
「来週は最終回前の番組出演もあるし、日本アカデミー賞の受賞だってあり得る。ドラマの方は俺がジョンをキャストとして選んだから、催眠をかけた本体で出向いてクイズの答えや返答はジョンに任せるという手も無くはない。だが、映画の方に関しては自業自得だ」
『アメリカのアカデミー賞にノミネートした人物が、日本国内だけの賞を貰って嬉しいと思えるか?』
「それもそうだな。俺ももう少し詳しく調べておこう。洋画は候補として挙がらない可能性もありそうだ」

 

 翌朝の新聞記事は至って平凡。新聞社二社がおススメ料理で一面を飾り、他の新聞社との差を見せつけた。異世界支部の方は今度こそパンを載せた記事で一面を飾りたかったようだが、電話で取材を拒否され、たとえ行列ができていても満員電車に乗せられた連中は外に出ることも叶わず仕舞い。精々他のニュースで食い扶持を繋いでいればいい。受賞できるかどうかはまだ分からんが、こっちの世界の明日の一面は俺とジョンでほぼ決まりだからな。
「昨日は480万部のことで私も舞い上がってしまって報告するのをすっかり忘れていた。今日、本社にもデザイン課社員を希望する人間が二名……いや、片方は保護者同伴だから三名か。とにかく午後三時から面接をする予定になっている。来週末に中学校を卒業する女の子だ。絵を描くこと以外得意教科もなく、受験に失敗して本社に入社希望の電話を入れてきたらしい。電話では特に問題のある子ではなかったから、あとは彼女のデザイン次第だと思うが、面接に一緒に入ってもらえないかね?もう一人の方は20代女性でこちらも問題ない」
「冊子が出来上がったばかりだし、わたしが面接に出ることにするわ。次世代の新戦力だといいんだけれど」
「くっくっ、面白そうだね。その中学生の面接だけ撮影して見せてくれないかい?キョンもジョンの世界から見ているはずだからね」
「これで黄わたしと一緒にいるところは見せられそうにないわね。食事の支度の担当が正式に黄キョン君に戻ったところで社員に任せてしまおうかしら?今だって小麦粉や昼食の材料は情報結合でしょ?」
「そういうことになりそうだ。ついでに、もう一人の方を待たせるわけにはいかんし、中学生の方は二番目になりそうだな。社内規律や極秘事項を守れるかどうかと、給料の扱いについて圭一さんの方から長話をしてもらうことになるはずだ。戻ってきて昼食を済ませたら夕食前まで休む。短時間だが、こんなに早く機会が来るとは思わなかった。パンを振る舞うのとSPは青俺に任せる。それと、今度は男子の方にディナーのお知らせを配布して欲しい。女子と同様、夜練の間に配ってきてくれ」

 
 

…To be continued