500年後からの来訪者After Future2-12(163-39)

Last-modified: 2016-08-07 (日) 17:56:07

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future2-12163-39氏

作品

俺が映画の告知で日本を離れる前に、少しでも子供たちの学習をと、高級寿司屋顔負けの寿司を夕食として作り上げた。今回で二回目になるが、一回目は子供たちも覚えていないだろう。だが、「団扇」や「回転寿司」、「お手伝い」の言葉が三人の頭の中にインプットされただけでも十分だ。皿洗い等は無理でも、食事の配膳くらいは手伝ってもらわないとな。久し振りに朝比奈さんの煎れてくれたお茶も堪能できたし、青俺や双子も振り仰ぎ朝比奈さんも満足気な顔立ちをしていた。若干気になる点があるが、それは朝食後に聞くことにして、ジョンの世界ではバレー合宿間近だというのにやっていることといえば野球の練習。バレーに繋がる練習がまったく無いわけではないが、本当に大丈夫か?日本代表入りしたOG二人は豪華絢爛寿司を一貫食べるごとに絶賛し、その余韻に浸っていた。これじゃ当分の間交代できそうにないな。佐々木や青有希には超高速送球を受ける前段階として俺たちが投げる球を捕球する練習に入ってもらった。まぁ、有希や朝倉なら俺たちと同様、グローブさえ構えていれば1mmも狂うことなく収めてみせるだろう。あとは威力に負けなければそれでいい。球団との対決まであと三戦。各々が自分の担う役割を果たすための練習に取り組んでいた。

 

 朝食はいつもの如く俺と青ハルヒの二人。昨日のことを忘れないうちに反復練習をさせてしまおう。子供たちが身支度を整えて降りてきたところで声をかけた。
「三人とも、今日から食事の前はお手伝いをして欲しい」
『お手伝い!?キョンパパ、うちわ!』
「今日は団扇は使わないんだ。今から一人分ずつ皿に分けていくから、みんなが座るところに配膳して欲しい」
『「はいぜん」ってなあに?』
「要は、三人が給食当番ってことだ」
「給食」という言葉を聞いて味を思い出したのだろう。三人の表情が曇ってしまったが、何をするのか大体想像がついたらしい。幸は小学校でやっているから双子も幸の真似をすれば大丈夫……ん?幸が辺りを見回している。どうかしたのか?
「伊織パパ、白衣は?」
「あぁ、そういうことか。ここでご飯を食べるときは白衣は必要ない。ただし、皿を落とさない様に注意しろよ?熱いものもあるからな」
念のために子供たちが運ぶ食器に閉鎖空間をと思ったが、失敗も学習のうちだ。皿が割れたり料理をこぼしたりしたらどうなるか、いい教訓になる。新川さんのところには昨日の豪華絢爛寿司セット、Wハルヒと有希の席には三人前の食事を用意した。
『あんたも随分気が利くようになったじゃない!バレーが終わるまでは毎食この量でお願いするわ!』
「これならわたしも満足できそう。いつも腹六分目で我慢していた。これからは毎日この量にして」
「おまえは一体どれだけ燃費の悪い同位体だ!?」と突っ込みたくなったが、さすがに皆の前でそれを言うのはやめておいたほうがいい。Wハルヒや有希の食事の量を見た双子…どころじゃないな、他のメンバーも驚いている。半数は昨日の俺たちの話を聞いていたはずなんだが……
『ハルヒママも有希お姉ちゃんもこんなにたくさん食べるの?』
「昨日、あんたたちと約束したでしょ?午前中で試合を終わらせてやるわ!そのためには力をつけないとね」
「問題ない。ホームランはわたしが打つ」
「ちょっと有希!ホームランは……って、まぁいいわ。とにかくさっさと食べて練習に行くわよ!」
『ホームラン見られるの?わたしも応援頑張る!!』
どうやら双子も少しは成長したようだ。ちょっと前は『ホームラン!』を連呼しているだけだったのに。しかし、やれやれとしか言葉が出てこない。「新川流料理をかき込むのだけはやめてくれ」と言いたいところだが、毎日のように食べているしWハルヒじゃ聞く耳持たんか。それより気になるのは本マグロの踊り食いをした新川さんがどういう反応を示すかだな。Wハルヒに対する青古泉ではないが、半数以上の視線が新川さんに集中する。
「皆様に見られながらでは食べにくいですな。この豪華絢爛な寿司の中に何かあるのですかな?」
「ああ、私も昨日食べたときは驚いたよ。食べる順序としてはあまり適切ではないかもしれないが、新川、赤身から食べてもらえないか?」
圭一さんの言葉につられるように周りからの視線がより強くなった。そんなことはどうでもいいと言わんばかりにWハルヒと有希は三人前の食事を食べ進めている。
「こ、これは………」
『これは……?』
「皆様の視線が集まるのも納得がいきました。わたくしも赤身の踊り食いをするなど、これが初めてでございます。しかし、一体どうやって……」
「食材の旨味を最大限に引き出す切り方に加えて今回は再生包丁という技を使いました。仮死状態にしてから1つとして細胞を破壊することなく切り分けたため『自分はまだ生きている』と細胞が認識して動き出したんです」
「なるほど、細胞を一つも壊さずとは…わたくしもまだまだですな」
「新川さんですらこの反応なんだから、日本代表もきっと驚くわよ」
「そういえば、ジョンの世界で二人に話したんでしたね。彼女たちは何と?」
「『こんなに美味しいお寿司がもう一度食べられるんですか!?絶対説得してきます!!』だそうよ。今夜にでも結果が聞けるんじゃないかしら?」
「くっくっ、寿司だけで新聞記事の一面が飾れそうだね。形式はどうするつもりなのか教えてくれたまえ」
「青朝倉の言う通り、今夜二人からの返事を聞かないことには始まらんだろうが。しかし、昨日の二人の反応がそんな感じじゃ、10貫程度じゃ日本代表も満足できないし、昨日のように赤身の追加注文がきてもおかしくない。昨日と同じ回転寿司の食べ放題形式だな。本マグロは3本……いや、4本捕ってきて社員にまたクジを回そう」
「あっ、今日社員の皆さんが出社してきたら、わたしが回るんでしたね。キョン君、クジの入った箱ってどこにあるんですか?」
「それくらいなら情報結合ですぐ作れますよ。この後箱を朝比奈さんに預けますから宜しくお願いします。それと、新川流料理を前にしてあまりこんなことを言いたくはないんだが、野球の練習に行くメンバーは少し急いでくれ。Wハルヒに急かされる前にな」
『もう!?』
新川さんに視線が集中していて、ハルヒたちのことは無関心だったからな。驚くのも無理はない。既に二人前を食べ終え、有希にいたっては完食している。
「試しに一度だけ、ジョンのようになってみたくなりましたよ。食欲も睡眠欲もないのに普通に生活できるんですから。栄養素を吸収しなくても練習や試合であれだけのパフォーマンスが可能となると…少し嫉妬してしまいましたよ」
「朝比奈さんの持っているタイムマシンとあまり変わらなさそうだ。俺にも『TPDDは英単語のようなもの』だと説明されたよ。あるいは、俺が食事をして吸収した栄養素がジョンにもいきわたっているとかな。個人的にはそうあってくれた方が嬉しいと思う。ジョンから貰ったものがたくさんあるからな。みんなが持っているエネルギーもすべてジョンからの贈り物だ」
『俺はどちらかというと前者の方だと思うけどね』
ボンッ!と煙が上がり、ユニフォーム姿のジョンが現れた。Wハルヒもコイツも既に準備万端かよ。
「くっくっ、たとえそうであったとしても、僕たちが今持っているエネルギーはキョンの言う通りキミからの贈り物で間違いない。キミには助けてもらってばかりで、どれだけ感謝しても足りないよ。キミと青僕がいれば他の時間平面上の僕が取り組んでいる研究にすぐに追いついてさらなる発展ができるそうじゃないか。こんなにも嬉しい知らせはない。そう言えば、午後は未来に行ってくるんだったね。他の時間平面上の僕のことも少し聞いてみてくれないかい?」
「過去の時間平面上ならまだ大丈夫かもしれんが、未来のことについては禁則事項として制限されるはずだ。折角ジョンと青佐々木がいるんだ。他の時間平面上のおまえでは考えられないような研究をすればいい。それに古泉、ジョンと同じ立場になるのはいいが、一体誰の頭の中に入るつもりだ?W佐々木や青古泉なら分かりやすくていいんだが、古泉となると見当がつかん」
『ちょっと待ちたまえ。僕なら分かりやすいってどういう意味だい?』
「おまえらなら間違いなく俺の頭の中に入ってきて昼間もジョンと三人で話し込むに決まってる。俺が別のことで色々と考えたくても邪魔で仕方がない。俺が考えていることに割って入ってきそうだしな」
「なるほど、確かに佐々木さんならそうなるでしょうね。それに、すぐにでも実行に移すことが可能です。ジョンの世界から出なければいいんですからね。僕の場合は……そうですね、やはりあなたの頭の中になりそうです。ジョンとボードゲームを楽しむこともできますし、たまにはバトルするのも悪くありません」
『ちょっと!あんたたちいつまで話し込んでいるのよ!食べ終わったのならさっさと準備しなさいよ!』
「なら、すまんが全体で一件だけ話しておく。人事部の社員についてだが、俺も古泉もいないんじゃ新川流料理にありつくことはまずできない。昨日青朝倉が言っていた通り、来月からはハルヒと青有希で食事担当を頼む。古泉の弁当も作ってやってくれ。俺が日本に戻ってきた段階で再度ランチに社員を呼ぶつもりでいるが、設立当初のようにしつこい取材陣からの電話やイタズラ電話についてはほとんど無くなっているはずだ。いい機会だから他の課の社員も曜日ごとに呼ぼうと思っている。というわけなので、すみませんが人事部の社員に連絡をお願いします。少しでも早い方が心おきなく料理を堪能できるはずです」
「わかった。社員には私から伝えておこう」

 

 さっきは急いで話したせいもあって、圭一さんには人事部の社員のランチのことは伝わったが、ハルヒと青有希、特にハルヒの方は古泉の弁当のことが頭に入ったかどうか……まぁ、今月はバレーの合宿中だろうが古泉の弁当は俺が作るし、それを見ていれば誰でも気付くだろう。
「相変わらず、キョン君はみんなのことを考えてくれているんですね。古泉君のお弁当のことなんて、キョン君から話を聞くまで考えもしませんでした。でも、キョン君の映画の撮影のときのように、古泉君なら撮影現場で皆さんの分も作っちゃいそうですけど…」
「アイツはそんなことしませんよ。人前に出るときはあくまで俺や新川さんのサポート役として料理を作っています。古泉が陰で動いてくれたからこそ、世間の目が俺だけに向き、我が社の認知度が飛躍的に高まった。それに今は、古泉が料理を始めた当初とは比べ物にならないほど認知度が高まっていますからね。今、アイツが撮影現場で料理を振る舞ってしまうと、自分だけでなく圭一さん達人事部の首をも絞めることになると既に気付いているはずです。ドラマや番組出演の電話が殺到して、青朝比奈さんより忙しくなってもおかしくないんです。今回だって野球の試合には出場できてもバレー合宿にはほとんど参加できない。バレーに関しては古泉自身も出たいでしょうし、自分のせいで青古泉まで出られないことになるような真似はしないでしょう」
「いいなぁ、佐々木さんが古泉君に嫉妬するのが分かった気がします。古泉君のことそこまで理解しているなんて、わたしもなんだか羨ましくなりました」
「朝比奈さんだって鶴屋さんがいるじゃないですか。今日も二人を連れて行きますけど、前回提案したときは『未来のみくるに会いに行くなんて言われたら、用事があっても飛んで行くにょろよ!』なんてテレパシーが返ってきて羨ましい関係だな…なんて思っていました。朝比奈さんが提示した「四郎君」と「亀島さん」以外でも大笑いしそうになるところを堪えているみたいですし、新川流料理を食べていても笑わなくなりました。最初の頃は一口食べるごとに大笑いして、食べ終わる頃には昼食の時間になってたなんてこともありましたしね。おっと、異世界の鶴屋さんも連れて行くことを有希に伝えておくか」
『有希、聞こえるか?俺だ。久し振りにそっちに行って教科書の確認がしたい。そのついでに鶴屋さんも連れて行きたいと思ってる。今回は異世界の鶴屋さんも連れて行くから、朝比奈さんに心の準備をするよう伝えてくれるか?ついでに古泉には「悪いが今回は朗報はない」と言っておいてくれ』
『わかった』
「……キョン君?未来の有希さんと連絡がとれましたか?」
「ええ、滞りなく。未来の朝比奈さんの見た目についてはこの前話しましたけど、行ってみてどうなるかってところですね。ああ、そうだ。朝比奈さん、一つ確認したいことがあるんですけどいいですか?」
「何でしょう?」
「昨日入れてもらったお茶、お茶っ葉の賞味期限は大丈夫でしたか?青俺も双子も絶賛していましたけど……」
「あ``」
やっぱりか。俺の記憶が確かならば、前回朝比奈さんのお茶を飲んだのは本社設立後すぐの頃だったはず。いくら乾燥されているものでも賞味期限はある。それでも美味いと思えるんだから、朝比奈さんの愛情の深さは底が知れん。しばらく石化したと思ったらようやく動き出した。
「ギョンぐんどうじばじょう~~~~。わだじ、みなざんにどんでもないごどを………」
やれやれ…何かミスをしたときは決まって大粒の涙を流しながら話しかけてくるのは大人版になっても変わらずか。ジョンだったか誰だったかは忘れたが、立場上、部下を持ち責任を負うようになった朝比奈さんは性格にもそれが現れて大人版朝比奈さんと言えるだけの凛々しい姿になった。だが、今ここにいる朝比奈さんは北高生時代から立場は変わらないままこの時間平面上に残っているから、部下をもつことも責任を背負うこともなく朝比奈さんらしさがそのまま出ている。どっちの朝比奈さんも悪くないが、どちらかといえば素のままの朝比奈さんの方がいいかな。たまに自分の年齢を考えて欲しいと思うときもあるが、それも朝比奈さんの魅力の一つだろう。
「このあと、箱をもって各課を回ったらこれまで買っていた店にテレポートで買ってくればいいだけです。寿司セットが当たった社員にも煎れてもらいたいですし」
「え?キョン君が青チームの世界に連れて行ってくれるんじゃないんですか?」
「朝比奈みくる本人が自ら出向いてお茶っ葉を買いに来たとなれば、店の人も大喜びですよ。日本代表に寿司を振る舞うことになったら、監督やコーチだけでも朝比奈さんにお茶を煎れて振る舞って欲しいと思っているんですけど……どうですか?」
「分かりました。でも人数は多いですけど、選手の皆さんにも飲んでもらいたいです!わたし、こんなことしかお手伝いできないので……」
「少なくとも俺は朝比奈さんのお茶を二年間ずっと堪能できただけで十分です。古泉も朝比奈さんのお茶を飲んでボードゲームをしようなんて提案してくる程ですからね。このあと各課回ってもらうのも、メンバーの中で唯一練習に参加しない朝比奈さんだからこそできる仕事です。朝比奈さんだからこそ、すぐに社員の注目を集めることが出来て、なおかつ説明も通りやすい。お茶っ葉をじっくり選ぶ時間は十分とれるはずですよ?」
青古泉じゃ朝比奈さんのようにはいかないと言いたいところだが、見た目が古泉と瓜二つだし、青古泉の性癖を知っているのは毎日ランチを食べに来ている人事部の社員くらいであとは知らんからな。他のメンバーを例に挙げるのもどうかと思うし、やめておこう。
「そういってもらえるとわたしも嬉しいです。じゃあ、皆さんのところにいってきますね」
「あ、朝比奈さん、寿司が当たった社員でワサビ抜きの方がいい人は、食券を出したときにその旨を伝えるよう連絡してもらえますか?ついでに寿司セットは12:00~13:00の間に限ると言っておいてください。社員に理由を聞かれたときは鮮度を保つためとでも伝えてください。その方が他の一般客への宣伝にもなるし、俺もそこまで長時間食堂に縛られずに済みます。今日は俺が80階で寿司セットの担当として調理場に立ちます。朝比奈さんもお茶を煎れる係として調理場に来てください」
「えっと……ワサビ抜きの人はキョン君に………12:00~13:00…っと。じゃあ、皆さんに伝えたらそのままお茶っ葉を買いに行ってきます。昼食のお手伝いができなくてすみません」
「こっちは大丈夫です。よろしくお願いします」
「はぁい」

 

 3階の野菜スティックやノンドレッシングサラダについては今日の分と合わせてテレポート済み。20食分の寿司もキューブの中に冷蔵していれてあるんだが…人事部の社員に加えてWハルヒ&有希の計六人分の追加となると練習に参加できそうにないな。午後の予定も詰まっているし、俺だけ先に昼食を済ませてしまおう。しばらくして、情報結合したクジ引き用の箱がテレポートで戻ってきた。中身は無論空。たまたま今日欠勤した社員がいるかとも思ったが、考えるだけ無駄に終わって何よりだ。練習を終えたメンバーが戻ってきて子供たちに配膳の手伝いを頼むと80階へと降りた。一般のメニューで並んでいる列が一つ。新川さんのスペシャルランチの方は午前中に来ていたようだな。そこまで列を作ることはなかったが、最後に一つ、金色の食券を持った社員が並んでいる列が続いていた。エレベーターから降りてきたのが俺だと分かるやいなや歓声があがり、拍手で迎えられた。周りで食事をしていた一般客も何事かと視線をこちらに向けている。厨房には朝比奈さんの姿もあり、お湯を沸かして温度を測っていた。当たりクジではなかった社員もどんな寿司が出てくるのか気になって仕方がないらしい。キューブを拡大して下駄のような盛り込み器を取りだすと、その上に乗っていた豪華絢爛寿司ネタの数々に『おぉ――――――っ』という声があがった。醤油を入れるための小皿と一緒にトレイに乗せると、横から朝比奈さんが「どうぞ」という声と共にお茶を差し出す。後ろにいた男性社員が感激しているのは言うまでもない。ワサビ抜きを希望する女性社員がいるかと思ったが、声をかけられることなく10分後にはキューブの中が空になっていた。何と言うか…社員からすれば、精神年齢的にも俺たちはまだ子供ってことらしい。まぁ、どんな反応をするかは見るまでもないけどな。朝比奈さんはまだ昼食を食べてないし「上の階に戻りましょう」と告げて社員食堂を後にした。
「くっくっ、キミがここに戻ってくるということはもう配り終えたのかい?」
「ああ、俺が80階に降りたときには既に長蛇の列。朝比奈さんの煎れたお茶が飲めることに男性社員が喜んでたよ寿司とお茶を堪能するのに一時間でも短いくらいだろうな」
「それよりあんた!練習に顔も出さないって一体どういうつもりよ!」
「どういうつもりも何も、おまえが今喰っている昼食がその証拠だ。6人前も追加で作らなくちゃならないんだ。今日は寿司の件もあったからだが、明日も昨日までより練習に参加できる時間が少なくなるかもしれん。とりあえず、午後のスケジュールも詰まってるし確認して食べ終わったらすぐに動くぞ。俺はこのあとW鶴屋さんを連れて行く。その間に古泉やOGたちは先にラボへと飛んでシャンプー&カットを始めてくれ。今回は佐々木もそっちに入って欲しい。脚本を書くヒントが掴めるかもしれん。青チームと朝比奈さんはビラ配りのあと各自でアンコール曲の練習。意見が合えばライブステージで練習しても構わない。話し合って決めてくれ。その間、すまないが青俺には昼食の片付けと子供たちのことを頼む。青古泉はビラ配り後人事部だ。ENOZもライブに向けた練習で構いません。以上、追加・訂正・聞きもらし等あるか?」
「わたし達もビラ配りに参加させて。ライブに向けた練習はその後にする」
「わかりました。他、何かあるか?」
「キョン先輩、わたしも古泉先輩たちとあそこに行くんですか?昨日先輩に切ってもらったのに?」
「ああ、ハルヒから指示が出ると思うから、美容院のスタッフとして動いてみて欲しい。他に無ければこれで終わりだ。午後もよろしく頼む」
『問題ない』

 

『朝比奈さん、お茶の話は二人だけの内緒にしておきましょう。特に文句を言う奴もいないでしょうから。何か言われたら「おいしいお茶を飲んでもらうために定期的に新しいものを買っておいた」とでも言えば、みんな納得するはずです』
『キョン君、ありがとうございます』
しかし、こんなに早く戻って来られるのなら昼食を先に取らずに練習に顔を出していても良かったのかもしれん。俺が食べ終わっているからなのか、プリンセス朝比奈さんに早く会いたいからなのかは分からんが、W鶴屋さんもハルヒ達と似たような食べ方になっていた。やれやれ…今月いっぱいは許容せざるを得ないか。
W鶴屋さんと一緒にプリンセス朝比奈さんの時間平面上へと時間跳躍。有希は当たり前として、朝比奈さんも変わりないようで正直安心した。
『我々サ○ヤ人は戦闘民族だ。戦うために若い時代が長いんだ』
コラ、ジョン!どうしてこう大事なところでそういうセリフを挟んでくるんだおまえは!今朝の有希の話じゃあるまいし、朝比奈さんのどこが宇宙人だ!戦闘民族だ!……しかしまぁ、若い時代が長いことだけは適用してもらいたいもんだ。
「こんにちは、キョン君。久しぶりですね。鶴屋さんたちも来てくれて嬉しいです」
「本当にみくるっさ?見た目は黄キョン君から聞いていたにょろが、こんなに綺麗になってるなんて思わなかったにょろよ」
「はい、朝比奈みくる本人です。異世界の鶴屋さんには初めましてになりますね」
「朝比奈さん、今まで来られなくてすみません。それに鶴屋さんとの時間も作れなくて……」
「いいえ、気にしないでください。今は復興支援プロジェクトの真っ最中だと聞きました。あちこち回って相変わらず忙しいみたいですけど、計画は順調ですか?」
「ええ、九割方終わったところです。俺たちが復興支援プロジェクトをやっているせいで、一時は日本政府が崩壊寸前まで信用が落ちしましたが、内閣総理大臣を筆頭に政治家が現地に赴いて働いているので、国民の信頼も少しずつ回復してくるかと。今はここにいる鶴屋さんたちと一緒に異世界で野球の大会に参加しているんですよ。俺たちの時間平面上で今週土曜日がW鶴屋さんのデビュー戦です。ところで、俺たちが復興支援に当たっているせいで、俺のいる時間平面上でも時事問題として社会のテストに取り上げられてもおかしくないくらいなんですが…ここの教科書はどうなっていますか?」
「あなたが今思い描いている構想が全て終わればすべて見られる。でも、そろそろ他のメンバーに事の全貌を話した方がいい。でないと、あなたが設定した日付までに間に合わない可能性がある」
「ちょっと待て。おまえに思考を読まれない様にジョンにガードを頼んだのに、どうしてそのことを知ってるんだ?」
「簡単、あなたには禁則事項で見せられなくても今のわたしなら読める」
納得。本当に簡単なことだった。
「そうか…帰ったらみんなに伝える。教科書のタイトルが『第二次情報戦争』だったからな。あの戦争のあと俺たちが一体何をやったのかずっと心配でならなかったんだが、これでようやく安心したよ。じゃあ夕食前に二人を迎えにまた来るよ。古泉、バレーの合宿が終わったらようやく将棋ができるようになる。朝倉も異世界の古泉もおまえと勝負がしたくて待ちきれないと言っていたくらいだ。俺たちの時間平面上で週末になるが、都合はつきそうか?」
「おや?朗報は無いと長門さんから聞きましたが、僕にとっては十分朗報のようです。お二人からそこまで言われてしまってはいかないわけにはいきません。そういえば、過去の僕は参加しないんですか?以前も指導将棋をという話でしたが……」
「本人も参加したい気持ちは十二分にあるんだが、月9ドラマの主役に抜擢されてな。その撮影が近日中に始まる。それが終わったらアイツも参戦してくるだろ」
「僕が月9ドラマの主役ですか!?いやはや、どういう経緯でそうなったかも含めてすべてお聞きしたいところですが、来月になれば朝倉さん達から話を伺うこともできるでしょう。連絡をお待ちしています」
既にW鶴屋さんとプリンセス朝比奈さんは奥の部屋に移動して話していた。有希と古泉にアイコンタクトをして俺たちの時間平面上へと戻った。

 

『キョンパパ、おかえり!』
「ただいま。と言ってもすぐにでかけないといけないんだけどな」
『どこいくの?』
「ママやお姉ちゃんのところだ。シャンプー&カットって言ってな。ママは切らないが、有希お姉ちゃんは髪を切る」
『有希お姉ちゃん髪切るの!?わたしも見たい!』
「二人がいなくなると幸一人じゃ遊べないだろ?それに幸パパも寂しくなる。そんな顔しなくても見れる機会はたくさんあるし、そろそろ二人も髪の毛を切らないとな。ママやお姉ちゃんがどんな風に髪を切っているのか体験させてやる。それまで我慢できるか?」
『あたしに任せなさい!』
いつものハルヒの真似をしたセリフを聞いて佐々木のラボへとテレポート。どうやらハルヒの指示が出たようだ。OG三人が横並びにならず、一人が反対側の椅子に座っている。古泉が一人目のカットを始めたばかりか。ハルヒ達がそれをジッと見ていた。
「遅いわよ!さっさとあんたも始めなさい!」
「これでも最速で帰ってきたんだ。未来の朝比奈さんを見てどちらの鶴屋さんもまったく笑わずに話が進んで俺も想定外だよ。有希は当たり前だが、朝比奈さんも古泉も変わりなくて正直安心した」
「一瞬、自分の耳を疑いましたよ。W鶴屋さんが一切笑うことなく話が進んだなんて僕も想定外です。昨日のうちにイメージはついていたようですが、それでも報復絶倒だと疑いもしませんでした。あなたが最速で帰ってきたというのも納得しましたよ」
「鶴屋さんは前回さんざん笑ったからいいとして、今回は青鶴屋さんの方だと思っていたんだが、未来の朝比奈さんの綺麗さに驚いて笑うどころじゃ無かったってところか。『本当にみくるっさ?』なんて言ってたよ。未来の朝比奈さんならハルヒや古泉だって知ってるだろ?」
「このバカキョン!あんた、何のためにあたしや佐々木さんをここに呼んだのよ!スタイリスト同士で話して客が暇になってたら美容院のシーンにならないでしょうが!」
おっと、すっかり忘れていた。しかし、昨日のお茶の件といい、ハルヒの発言にも筋が通るようになってきたようだ。古泉の反対側で作業を進めることにするか。
「今日はどのようになさいますか?……と言っても今は撮影じゃないんだ。頭の中に細かい注文まで含めてすべてイメージしてくれればそれをサイコメトリーする。やってみてくれ」
「分かりました。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」

 

 早々とカットを終えた古泉がOGと一緒にシャンプー台へと移動。俺の方もそろそろ終わりだが……
「佐々木、OGをサイコメトリーしてブローとマッサージを古泉と代わってくれ。いくらなんでも客を待たせ過ぎだ。アシスタント役を頼む。それとBGMはENOZが考えてくれているからいいが、客に飲み物は出すのか?その辺りの小道具はどうするつもりだ?」
「キョン、脚本を書く立場の僕がどうしてアシスタント役になるのか説明したまえ」
「カットしながら思ったことを口にしたまでだ。ハルヒや有希よりも、ブローやマッサージまですべて体験しているおまえの方がいい。それに、やってみて気付くことだってあるかもしれないだろ?」
「なるほど、そういうことなら僕が適任だ。スタイリストがアシスタントに指示を出すところも脚本に付け加えることにするよ」
「では、ブローをよろしくお願いします。お客様、お待たせ致しました」
古泉が二人目のカットに入ったところでこちらもシャンプー台へ。この分だと有希のカットやハルヒのシャンプー&マッサージを終えてから夕食の支度を始めても間に合いそうだな。
「そう言えば、あたしのいきつけの美容院でもハーブティが出てたわね……有希、あんたは?」
「季節的にも暖かい飲み物があった方がいい。衣装も冬物を着てもらうことになる。でも、誰がどのタイミングで飲むのか細かく決める必要がある。それに飲んでいるところがカメラに映らなければ意味がない」
「どうやらそのようですね。朝比奈さんがこの美容院に入ってきたときの僕の立ち位置も考える必要がありそうです。毎回同じというわけにはいきませんからね」
「飲み物については僕も賛成だ。折角鏡もあることだし、少し角度を変えれば上手く映ってくれるんじゃないかい?しかし、困ったね。朝比奈さんが美容院に入ってくる前に、彼女が歩道を走ってくるシーンも入れたいと思っていたんだ。ポルシェが走ってくるところも撮影したい。何かいい案があったら聞かせてくれたまえ」
「佐々木先輩、それなら他のドラマのように外で撮影すればいいんじゃ……撮影風景を見られるのは恥ずかしいですけど…」
「総監督がハルヒじゃ、そんな場所を探しているだけで年が明けてしまうぞ。ハルヒのイメージ通りの場所を作るしかなさそうだな」
「フフン、そういうこと。あたしが気にいったところがあれば外で撮影してもいいけど、ちょっとでも気にくわなかったら却下よ、却下!」
「しかし、作ると言っても歩道や車道までとなると……東北地方の土地も建物が立っているか田畑になっています。ポルシェが勢いよく走って来られるようなの広さの土地は確保できそうにありません」
「あれ?そう言えば、前に土地の話をしてませんでしたっけ?東北地方じゃなくて、えっと……」
「それなら確か、青チームのキョン先輩が復興支援の話を持ち出す前に議論していたような気が」
「ラスベガスのことか?」
『ラスベガス!?』
「そうよ、それよ!その手があったじゃない!あたしと佐々木さんでイメージを固めておくから、キョン達で建ててきて!」
「おいおい、ハリウッドと一緒にするな。いくら土地があるとはいえ、土地の所有者が俺たちだとバレたらまずいだろ」
「問題ない。建物を建築したらその土地をキューブにして撮影するときだけ使えばいい。昨日の本マグロと一緒」
「やれやれ…そんな発想一体どこから出てくるんだい?土地ごとキューブに収めるなんて僕には考えられないよ」
「ですが、これでセカンドシーズンの流れができましたね。佐々木さんもこの数時間で脚本の内容がかなり深まったのではありませんか?」
「そうだね。皆が出してくれた意見も青僕と同期して考えてみることにするよ」

 

 ラスベガスの話になる頃には俺が担当していたOGもマッサージまで全て終え、有希のカットに入っていた。OGの名案にハルヒも満足したようで、古泉の手が開くと颯爽とシャンプー台へと向かっていった。OG三人に感想を聞いてみると、三人揃って『「超」気持ち良かったです!』と昨日カットしたOGと同じ反応。発案は佐々木だが、今後は俺や古泉が美容師として髪を切ることになりそうだ。俺の髪の毛は誰がカットしているのか言うまでもない。
「しかし、有希。他の同位体と同じ髪型に戻して本当にいいのか?」
「問題ない。もはやわたしや朝倉涼子の同位体が襲ってくることも無くなった。もし襲ってきたとしても、わたしと同じ同位体ではわたし達の敵ではない。青チームが抱いていた不安も払拭されている。髪型を変えるときは再度情報結合する。今はあなたのシャンプー&カットを体験させて」
「なら、たっぷりと堪能させてやるよ」
有希のシャンプー&カットをしている間に佐々木とOGは実際に撮影するときの配置や流れの確認をしていた。朝比奈さんが美容院の入口のドアを開けて「古泉君!」と叫んだときに古泉がどこで何をしているのか、鏡越しでも古泉から朝比奈さんが見えない様にするなど、かなり細かいところまで話し合いが行われていた。美容院のセットの中の動きをどうするか考える前にどういうトリックで、誰か殺されて、誰が犯人なのかを考える方が先なんじゃないのか?おい。

 

 有希のシャンプー&カットを終えてそこにいた全員で本社へと戻ると、青古泉以外の青チームと朝比奈さんの姿があった。
「何だ、もう練習が終わったのか?」
「僕たちは一曲だけだからね。何曲も演奏するENOZにライブ会場を譲ってきた。ところで、OG三人が満足気な顔をしているのは分かるけど、黄僕や黄古泉君まで似たような表情をしているってことは、向こうで何かいいことでもあったのかい?」
「後で佐々木と同期すれば細かいことまで分かるはずだ。だが、OGの名案から第二シーズンの撮影場所が決定した。こういう重大発表は総監督からの方がいい。主演男優がいないがこれについてはこっちの古泉がメインだから今発表したってかまわんだろう」
テーブルをバンッ!と叩いて前傾姿勢を取ると青チーム全員を一通り見据えて言い放った。
「フフン、第二シーズンはラスベガスにセットを建てて撮影することに決まったわ!」
『ラスベガス!?』
「くっくっ、面白いじゃないか。どういう経緯でそんな話になったのか是非聞かせてくれたまえ」
「大方、今放送しているドラマの最初のシーンと似たような理由だろ?ポルシェやバイクが走ってくるような黄佐々木が撮りたいシーンとイメージ通りの場所が見つからず、黄俺や黄古泉でセットを作ることになったものの、そんな土地がそう簡単にあるわけがない。それで今まで使い道をどうしようか考えていたラスベガスにセットを作ることになったってところだろ。総監督が黄ハルヒじゃ、日本中探したってイメージ通りの場所が見つからない可能性大だからな。やれやれ…何でこんなことばっかり頭が回るのか、自分でも呆れるよ」
「今の話、本当なの?」
「あなたは子供たちの面倒を見ながら我々の会話を盗聴していたとでも言うんですか?まったく、やれやれと言いたいのはこちらの方ですよ」
「凄い、本当にラスベガスで撮影するの?」
「まぁ、細かいことは古泉や佐々木から聞くと良い。夕食の準備をするから青ハルヒ、手伝ってくれるか?」
『お手伝い!?キョンパパ、わたしもお手伝いする!』
「二人に手伝って欲しいのは配膳の方だ。それまで待っててくれ」
『あたしに任せなさい!』

 

 夕食の準備に取り掛かりながら、佐々木や古泉、ハルヒの話に青ハルヒも耳を傾けていた。青ハルヒも一応は助演女優だからな。第二シーズンがどうなるのか気になるのも無理はない。おっと、そろそろ鶴屋さんたちに連絡しておこう。
『鶴屋さん、聞こえますか?そろそろ迎えに行きます。話の区切りがついたところで連絡をください』
『わかったにょろ』
まだ81階のフロアに来ていないのはW鶴屋さんと朝倉、青古泉、ENOZ、機関のメンバー、ついでに俺の家族。第一シーズンすら撮り終えていないというのに、飛び交っている話の内容は第二シーズンのこと。最初は朝比奈さんのポルシェを止めておくスペースがなく、美容院に走って向かうとか、美容院の前に止めておいたら駐禁をとられてレッカー移動させられるシーンを入れるとか。他にも古泉の乗るバイクは歩道に止めておいても仕事場の前だから駐禁がとられずに朝比奈さんが文句を言うとか、美容院の店長からはバイクが置いてあった方が見栄えがいいと認可されている等々、メモなりサイコメトリーなりしておいた方がいいんじゃないかと思う程様々な意見が飛び交い、そのほとんどにW佐々木やハルヒのOKが出ていた。しかし、美容院の店長役なんて結構大事な役回りだぞ。一体誰に催眠をかけるつもりだ?
「それで、第二シーズンは一話ごとに他の芸能プロダクションからゲストを招いて撮影しようと思っているんだけどね。依頼人だったり、被害者だったり、実は犯人だったなんてことも考えているんだけどどうだい?」
『それは脚本によるな』
俺の頭の中で一緒に話を聞いていたらしきジョンが姿を現した。話に参加したいのなら俺と青ハルヒが夕食の支度を始めた段階ででてきてもおかしくなかったはず。『脚本による』ってことは何かあるのか?
「くっくっ、キミもドラマの役者だとすっかり忘れていたよ。でも、今の黄僕の発言を受けて姿を現したということは何かあるのかい?」
『一話ごとに違う俳優を呼ぶのは構わない。問題なのは、その俳優が出るシーンをどこで撮影するかだ』
「なるほど、ジョンが今になって出てきた理由が分かりましたよ。我々だけのトップシークレットに他人に足を踏み入れさせるわけにはいきません」
「黄古泉君、わたし達だけのトップシークレットって?」
「本社の下層階を作り変えてそこで撮影するのも、彼のパフォーマンスだと言ってラスベガスまでテレポートするまではいいでしょう。ですが…ジョンの世界に連れて来るわけにはいきません」
「みんなで何の相談かしら?わたしも入れて欲しいわね」
古泉が話している途中でエレベーターが開き、朝倉や森さん、青古泉、圭一さんたちが出てきた。森さんに催眠をかけて店長役というのも悪くないかもしれん。機関内での立場も含めてお互いやりやすいだろう。
「ドラマの第二シーズンの件で色々と意見を出し合っていたんだ。OG三人のシャンプー&カットの最中に色々と意見が出てきたらしくてな」
「ちょっと待ってください。それならどうして主演男優であるはずの僕が部外者になっているんです?」
「くっくっ、前にキョンが『制限をつける必要がある』と言ってただろう?僕たちが今話しているのは美容院のシーンに関すること。美容院に関するものについては、キミではなく黄チームの古泉君の方だからね。しかし、二人の話にも納得がいった。ジョンが止めに入った理由もね。寝ている間に撮影をしているなんて、いくらなんでもキョンのパフォーマンスの範疇を超えている。そこに日本代表の二人が現れれば……」
有希が朝倉に触れてこれまでの話の内容を同期したらしい。青古泉は何のことやらまだ分かってないようだ。
「フン、だったら他の場所で撮影すればいいだけじゃない!何の問題もないわよ」
「ハルヒの言う通りだ。まだ脚本もろくに出来上がっていないんだ。青古泉の部屋に招き入れるシーンを撮影するのなら、ジョンの世界で用意したものと同じセットを本社の下層階に用意すればいい。夕食の支度も出来たし、俺は鶴屋さんたちを迎えに行ってくる。子供たちも配膳の手伝いを頼むな」
『問題ない』

 

 テレパシーで連絡は来なかったが、俺が来るのを待っていてくれたらしい。短時間だったが、朝比奈さんも満足気な表情だ。内容については後で鶴屋さんたちから聞けばいいだろう。
『ちょっと物足りない気もするにょろが、時間を見つけてまたくるっさ。みくるにはそれまで待っていて欲しいにょろ』
「はい、またお話させてください。キョン君、よろしくお願いしますね」
「分かりました。じゃあ、これで失礼します」
「連絡をお待ちしていますよ」
「待ってる」
三人で戻る頃にはENOZやエージェント達も揃っていた。佐々木たちの顔を見る限り、さっきの話は脚本を上手く作り変えるようだな。催眠をかけて別人になりすますとはいえ、俺たちだけで撮影するのも限界がある。一話につき一人と言わずとも、ハルヒの発言通り、ジョンの世界でなければいいんだ。何人呼んでも俺は構わないと思っているし、各芸能プロダクションも喜ぶ。今からまったく別の話をしなければならないと思っていたんだ。丸くおさまってくれたのならそれでいい。『いただきます』のかけ声と共に俺が口火を切った。
「食べながらで構わない。さっきまでとまったくの別件で聞いてもらいたい事がある」
「キョン君、未来の教科書が見られるようになったんですか?」
「俺たちがやったことと言えば復興支援と野球の大会くらいで、復興支援の方もまだ完全じゃないし教科書に載るとは思えないんだが…」
「確かに、俺が読める文章が増えてはいなかった。だが、俺が今思い描いている構想を現実のものにすれば、すべて見られるそうだ」
「あんた、来月から映画の告知に行くっていうのに、またそんな企画考えていたわけ!?」
「いや、これについては前に一度みんなに話している内容だ。そのときはヒントくらいしか話さなかったが、これから事の全貌を話す。未来の有希にもそろそろ話さないと期日までに間に合わないかもしれないと言われてしまってな」
「くっくっ、面白いじゃないか。復興支援よりキミが今から話す内容の方が歴史に刻まれるってことかい?未来の有希さんから急かされるくらいなんだ。一体何をするのか説明したまえ」
「仙台市がSOS Cityとして命名された日に提案して、おまえとハルヒが一番文句を言ってきたクセに覚えとらんのか?まぁいい、もう一回最初から話をしよう」
ハルヒも佐々木も身に覚えがないって顔をしている。古泉あたりなら気付くかと思ったがそうでもないらしい。全員の視線を受けてようやく口を開いた。
「今度はカレンダーにSOSと刻むんだよ」
『はぁ!?』

 
 

…To be continued