500年後からの来訪者After Future2-13(163-39)

Last-modified: 2016-08-20 (土) 11:14:09

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future2-13163-39氏

作品

豪華絢爛回転寿司から一夜明け、新川さんをも唸らせた本マグロの踊り食いは社員にも大好評。加えて朝比奈さん自ら入れたお茶がセットで堪能できるとして男性社員が雄叫びをあげるほどだった。今夜、日本代表二人が監督や管理栄養士を説得できたと報告してくるようなことがあれば、メンバーにみせたようなパフォーマンス込みで日本代表に振る舞うことにしよう。そういえば、朝比奈さんのお茶っ葉の件、SOS団初ライブの直前に北高の運動会をジャックしに行ったときに文芸部室の連中に振る舞っていたことをすっかり忘れていた。だが、それでも数年経っているのは間違いない。それでいてあの味が出せるんだから、新茶を飲んだ社員も満足しているに違いない。そういえばその頃からだったな。青鶴屋さんをイベントに呼ぶようになったのは。今日も未来の朝比奈さんのところへ連れて行ったし、俺がいない間も都合が合えば、未来古泉が帰るときに一緒に連れて行ってもらうことだって可能だ。未来に行った最後の目的の一つだった教科書の中身は俺が読めるところは増えていなかったが、有希からは「あなたが今思い描いている構想が全て終わればすべて見られる。でも、そろそろ他のメンバーに事の全貌を話した方がいい。でないと、あなたが設定した日付までに間に合わない可能性がある」と言うものだった。夕食の直前まで青古泉主演のドラマの第二シーズンの件で色々とやりとりをしていたが、「まったくの別件」と強調したせいか、それまでの雰囲気がガラリと変わり「未来で何かあった」と周りに認識させるには充分だったようだ。

 

『面白いじゃない!一体何をするのかさっさと教えなさいよ!』
「くっくっ、カレンダーにSOSと刻むってことはキミが指定した日に何かをやるんだろうけど、核爆弾が投下された日ですら、黙とうすることはあってもカレンダーに記載されたり、休日になったりするようなことはない。それより上があるっていうのかい?是非聞かせてくれたまえ」
「その前に、その日に向けてここにいる全員にやってもらいたい事も説明したはずだ。未来の有希が時間を気にしているのはそのせいなんだ」
「『カレンダー』と言われて、ようやく僕も思い出しましたよ。確か、閉鎖空間をさらに大きくする修行を積んで欲しいという内容だったはず。違いますか?」
「ああ、今よりもさらに大きい閉鎖空間を展開できるように修行を積んで欲しい。閉鎖空間を作ったことのないメンバーもこの機会に習得してくれて構わない。その分のエネルギーならジョンの世界でいくらでも手渡すつもりだ」
「それで?あたしたちにそんなことさせて、あんた一体何をしようって言うわけ?」
ハルヒの一言を機に、以前計画していた事の全貌を全員の前で打ち明けた。古泉は掌を額にあて、残りのメンバーは空いた口が塞がらない。
「お見逸れしました。まさかそんな壮大な計画だったとは…僕にはそんなアイディア考えつきませんよ。これだけのメンバーが揃っているにも関わらず、閉鎖空間をさらに広げる修行なんて必要ないと思っていましたが、あなたの計画の全貌を聞いて納得がいきました。すぐにでも修行に励むことにします」
「古泉君、それは今月のバレーが終わってからでいいわよ。昼はドラマの撮影で忙しくなるでしょうけど、ジョンの世界で修行すればいいわ。けど、あんたも考えたわね。上等よ!今度はカレンダーにSOSって刻んでやろうじゃない!」
「この時空平面上の未来がより安定するのなら、わたしにも手伝わせて下さい!」
「くっくっ、まったくキミって奴は……僕を退屈にしてくれないようだね。僕にも閉鎖空間を作らせてくれたまえ」
自分の内側にしか閉鎖空間をつくることができない佐々木が俺のエネルギーを使って閉鎖空間を作るとどうなるのか見てみたいのもこの計画の目的の一つ。ハルヒと佐々木がどれくらの規模の閉鎖空間を展開するのか楽しみで仕方がない。閉鎖空間の色も含めてな。前にジョンとやっていた閉鎖空間の色別性格占いもやってみたくなった。青ハルヒが確かオレンジ、ハルヒは当然灰色、俺が赤紫で、佐々木は…って、アイツのことだ。みんながいる前で見せるとは到底思えん。当日になってようやく閉鎖空間を展開するに違いない。
「ちなみにもう一つ、今話した計画が終わって、落ち着いたところでやりたい事があるんだが…」
「ちょっとあんた!これ以上出し惜しみをしてたわけ!?」
「ああ、年越しパーティのときに青ハルヒにも言われてな。自分でも勉強してみようと思って色々と調べたいたところにいいものを見つけたんだ。スキーシーズンも終わって、俺が男子バレーボール日本代表として世界を回る以外は特にイベントもないし丁度いいかと思ってる。まぁ、俺がいないだけなら古泉のドラマの撮影が終了した段階でみんなで行ってきてもらっても構わない」
「それで、黄キョン君、一体何をするっていうんですか?」
青朝比奈さんのセリフを受けて、全員の眼が俺に向いた。
「なぁに、簡単なことだ。不思議探索ツアーだよ」
『はぁ!?』

 

「そんなのもうする必要ないじゃない!一体どこに行こうって言うのよ!?」
「やれやれ…またキミは僕を焦らす気かい?」
「一年も先の事を今話したところで仕方がないだろ。お預けくらって、その日が来るのを心待ちにしているよりよっぽどマシだ。ただでさえ今週末の野球の試合に来週からのバレー合宿があるんだ。明日の披露試写会に向けてこの後も食事の準備をと思っていたところだ。そっちに集中しないとな」
「このバカキョン!みんなの集中を途切れさせたの、あんたでしょうが!」
またしてもお茶を濁した俺に全員から非難を浴びせられたが、下準備も何もいらないツアーだからな。その日まで内緒にしておこう。
「そういえば、シャミセン。お前、昨日の寿司はどうだった?魚は好物だろ?」
『確かに概ね美味ではあったが……あの緑色の物体は何なのだ?危うく死ぬところだったではないか』
「それはすまないことをした。あれはワサビって言ってな。俺たちのような人間でも好まない奴もいる。ここにいるメンバーの中にもな。とにかく今後は、刺激物は避けるようにする。それで許してくれ」
『ワサビか…儂も頭に入れておこう。とりあえず、頼んだぞ』
「任せとけ」
ワサビが駄目ってことは、おでんのからしもOUTだな。とりあえず刺激物は与えないようにしよう。
『キョンパパ、シャミセンと何の話してたの?』
「昨日の寿司の話だ。ワサビって言ってな。ちょっと辛いものがあるんだ。二人にはそれが入っていないものをママが選んでくれていたが、シャミセンもワサビはダメだったらしい。『危うく死ぬところだった』なんて大袈裟に話してたよ」
『キョンパパ、わたしもワサビ食べない』
「心配するな。大人でも嫌がる人もいるくらいだ。無理して食べる必要はない」
『大袈裟に言ったつもりは無いんだがの。本当に死ぬところだったのだ』
『分かってるよ。子供たちの前だから多少オーバーにしているだけだ。シャミセンだって子供たちから出された寿司にワサビが入ってたら困るだろう?』
『確かにの。くれぐれも気をつけるのだぞ?』
『ああ、問題ない』

 

「さて、すまんがこの後、該当するメンバーにはやってもらいたい事がある」
「ホンットにも~~~~~~。あんた、いくつ企画出せば気が済むわけ?団員の企画に引っ張られっぱなしじゃ、団長として示しがつかないじゃない!」
「でも、この後っていうからには、全部説明してもらえるんだろう?」
「ああ、今週末のファイナルライブについてだ。前にも話した通り、以前中止になってしまった分の埋め合わせを日曜日に二部構成で行い、そのライブ映像を本社の大画面に中継する。勿論、土日両方な」
「W朝比奈さんのアンコール曲を少しでも多くの人に聞いてもらいたい…だったか?それがどうかしたのか?」
「会場の様子や本社前に映された映像を盗撮して動画サイトに不出来なものを載せられるくらいなら、土曜のライブ開始と同時に公式のものとしてアンコール曲2曲を動画サイトにUPしたいと思ってる。これからやるのはその撮影だ。有希、朝比奈さんのマーメイド風のドレスは仕上がっているか?」
「問題ない」
「よし、青チームのSOS団五人と、朝比奈さんと古泉、それに撮影担当として有希はライブ会場に向かってくれ。子供たちも含めてライブが見たいメンバーは見に行ってもらって構わない。ただし、撮影になるから声援は一切無し。本社のライブ会場で見ていたものとは違ったものが見られる筈だ。その間に俺はここに残って明日の食事の準備をする。片付けならそこの愚妹にやらせるから気にしなくていい。昼食作りに時間がかかってしまうと野球の練習に出られないし、夕食に至っては披露試写会の関係で作っている暇がないからな。今日のうちにできるところまで進めておくつもりだ。………まぁ、あくまで俺は発案するだけで、やるかどうかは任せる。俺は俺の仕事をするだけだ」
「わたしもあなたと同意見。ノイズが入った映像をUPされるのはわたしも許せない」
「ファイナルライブのいいリハーサルになりそうですね」
「バラード曲だし、各楽器が会場中に響き渡るのかどうかちょっぴり不安だったのよ」
『キョンパパ!わたしもライブ見たい!』
「面白いじゃない!盗撮してUPした奴のコメント欄が炎上するくらいの完成度にしてやるわ!」
「では、すぐにでもライブ会場へ向かいましょう。その後は僕も食事の準備に回ることにします」
「いや、今回は俺一人でやる。古泉や青ハルヒには金曜から月曜の食事の支度を頼むことになるからな」
「あ―――――――――――もう!またキョンの企画に乗せられた!!」
「なんだ、黄ハルヒは見に行かないのか。なら、双子の面倒は俺が見ることになりそうだな」
「行くに決まってるでしょ!このアホキョン!あたしが満足するものじゃなかったら何回でもやり直しさせるわよ!」
「くっくっ、キミも随分ハルヒさんの扱いに長けてきたじゃないか。面白そうだ。僕も参加させてくれたまえ」
「じゃあ、撮影のあとはENOZのリハーサルでどうかしら?」
『問題ない』

 

 ハルヒは元より、朝倉やOGたちまで見に行ったにも関わらず「今回は遠慮させてもらいます」と自室に戻っていった奴が一人。ライブ会場に赴いたところでWハルヒの雄姿が見られるわけではないからな。それでも同じ青チームの演奏なり、青朝比奈さんの歌声を聞きに行ってもいいだろうに…。まぁ、予想はしていたがアイツも二日目にして禁断症状が出始めたらしい。プラス一週間の期間延長を止めて正解だったな。あとはアイツの妄想だけで残り五日間乗り切る以外に手はない。俺たちは催眠を解くこともしないし、執行された罰の期間が過ぎた後すぐにでもWハルヒに視線が向くようであれば、即異世界に送り返すつもりでいる。アイツにとっては麻薬と同様の禁断症状でもそれを乗り切ってもらわない限り、これまでのようにWハルヒと共に過ごせる生活はありえない。
「で?なんで二人で片付けているのか説明してもらいたいんだが?」
明日の食事の準備をしている俺の横には愚妹一人が片付けをしているはずが、母親まで手伝いとして参加している。
「これだけの皿をこの子一人でなんて時間もかかるし可哀想よ。ちょっとくらい手伝ったっていいでしょう?」
「駄目だね。ハルヒの妊娠が発覚してからつい最近まで片付けもすべて俺一人でやっていたんだ。そういえば、俺は一回も手伝ってもらった覚えはないな。可哀想だとは思わなかったのか?」
「あんたには他のみんなが手伝ってくれてたじゃない」
「そういや、そんなときもあったな。ただし、それは夕食後に手の空いているメンバーが気を利かせて声をかけてくれていただけだ。朝食や昼食後はみんなそれぞれの仕事に出向き、俺一人で全部片付けていた。そいつはな、今自室にこもっている青古泉と同様、刑罰が執行されている状態だ。それを手助けするような真似をするようなら更に厳しい罰則が下されてもおかしくない。なんなら、明朝の議題にあげたってかまわないんだぞ?故意でないとはいえ、そいつは立派な殺人未遂犯。ジョンが居なければ殺人犯になっていたはずだ。刑務所の中で生活していてもおかしくないんだよ。俺はすぐにでも地元に送り返して二度とここへは戻れないようにしたいくらいなんだ。これ以上、手を貸すような真似を続けるのであればもう容赦はしない。いつテレポートされてもいいように常に財布を忍ばせているようだが、そいつも俺には通用しない。一番いい方法を教えておいてやる。こっちにはもう住まいがないからな。異世界移動してやるから青俺の実家で暮らせ。向こうの二人も事情はすべて知っているんだ。戸籍も青俺とその愚妹でなく、初めから双子の娘が生まれんだと有希に書き換えさせればいい。青俺たちは実家に行くことなく、両親だけをここに呼んで一緒に食事をする。異世界に戻ることは二度とないだろうな。さて、どうしたい?」
「……分かったわよ。あんたもあんまり無理するんじゃないわよ?」
「ああ、このあとは双子を風呂にいれなきゃいけないんでな。こいつが片付け終わる頃にはもうここにはおらん。『心配してくれてどうもありがとう』とだけ言っておいてやるよ」
不貞腐れた母親がフロアから去っていき、俺の横には無言で涙を流し続ける愚妹がいたがそんなことはどうでもいい。撮影とリハーサルを終えたメンバーが戻ってきたところで俺もフロアを後にした。動画については有希が指定した時間にUPしておいてくれるだろう。俺から再度言うこともあるまい。

 

「キョン先パ~~~イ!!」
ジョンの世界について早々、日本代表二人が笑顔でこっちにやってきた。どうやら説得に成功したようだ。
「その様子だと、寿司でもOKらしいな。ワサビ抜きを希望する選手が何人いるか分かるか?」
「『昼食が栄養満点ランチなら大丈夫』だそうです!ワサビ抜きはわたし達を入れても五、六人くらいしかいないんですけど………いいですか?」
「それだけ分かれば十分だ。あとは俺たちで対応する。出来れば、そのメンバーで固まって座っていてくれるとこっちもやりやすい。ワサビ抜きのネタを回転寿司のレーンに回さなくて済むからな」
「回転寿司って…今までと同じような形式じゃないんですか?みくる先輩たちが料理を運んでくるんじゃ……?」
「二人とも、寿司を食べ終わってどう感じたか思い出してみろ。一人10貫なんて制限せずに、自分の好きな物を好きなだけ食べ放題。本マグロだって有り余るほど捕ってくるつもりだ。ちゃんと食べて体力をつけてもらわんとな」
『あのお寿司が食べ放題!?キョン先輩、本当ですか!?』
「こんなときに嘘を言ってどうする。何なら他の四人にも聞いてみるといい。ただし、あまり詳しく聞くなよ?俺のパフォーマンス込みで寿司を握るんだ。先にどんなことをやるか全員に知られているんじゃかなわん」
「分かりました。あの、それで……昼食を栄養満点ランチにするから、いつやるのか聞いてきて欲しいって監督から…」
「来週の金曜か翌週の月曜あたりを予定している」
『え―――――――――――そんなに待たなきゃいけないんですか!?』
「二人にも今回の合宿のスケジュールを話しただろ。最初の三日間でOG六人が一面を飾って、そのあと子供たちが参戦する。活躍によっては三人の新規加入が新聞記事に載ってもおかしくない。そんなときに俺のパフォーマンスなんか見せたら報道陣の眼がそっちに行くだろうが。それとも、負け続けて俺たちと交代するか?」
『絶対勝って新聞の一面飾ってみせます!!』
「そういうわけだから、監督や選手たちには『絶対に驚くから楽しみに待っていてください』と伝えておいてくれ」
『問題ない』
「あんたたちいつまで喋ってんのよ!早く練習に参加しなさいよ!!」
「ああ、今からやるところだ。ところでハルヒ、青ハルヒがピッチャーだと内野ゴロになる可能性が高い。佐々木と青有希に一塁に送球する練習をさせたいんだが……球出ししてくれないか?」
「その必要はありませんよ。あなたが知らないだけでお二人にはハルヒさんの千本ノックを受けてもらっています。涼宮さんのあの投球で相手がどうなるかくらい、これまでのプロ野球界の歴史の中で何度も見てきましたからね。ポジションが決まっている以上、練習メニューに追加して当然です」
俺が知らないだけってことは午前中の練習で既にやってたってことか。だったら俺はこの二人に直球を投げればいいだけだな。残りのOGはとっくに変化球を受ける練習を始めていた。キャッチャー用の防具も付けずに100マイルの球を受けるなんて、事情の知らない人間からすればありえないだろうな。試合当日は青ハルヒがブルペンで投球練習、俺たちがグラウンドでスパイクレシーブの練習なんてことになりかねん。無論、OGはユニフォームではなくチアガールの格好でな。相手を牽制するどころか、会場中がざわめき出すに違いない。他の四人を見て自分たちもキャッチャー用の防具は使わないと決めたらしい。横を揃えるように配置につくと、ミットを構えて俺が球を投げるのを待っていた。日曜日はバレーの練習に切り替えるとしても土曜日くらいは変化球を投げてもいいかもしれん。ENOZは徹底的にライブの練習。そういや、前にジョンが話していたな。青朝比奈さんはもう精練されていて、それを維持するために練習しているようなもの……だったか。何にせよ、God knows…から始まってどの曲も激しいギターテクニックが要求されるんだ。アスリートと同様、一日でも休んでしまえば、それを取り戻すのに三日はかかるだろう。
「うっ………ぐああぁぁぁぁ―――――――――っ!!」
『キョン!?』『キョンパパ!』「どうしました?」『(黄)キョン君!』『キョン先輩!!』
「あたまが……割れそう……だ……うぐっ」
くっ、くそ……何だこの痛みは?万力でギリギリと締め付けられるようだ。現実世界で俺たちの部屋に誰かが侵入した?………いや、そんなことはありえない。侵入した時点で俺のサイコメトリーに引っかかるし、何よりもジョンが真っ先に気付くはず…畜生、一体どうしたって言うんだ………うぁっ!!
「そんな……キョンが消えた?ジョン!どうなってるのか説明して!」
『俺にも原因が分からない。キョンやハルヒの部屋だけでなく、ビルに侵入した時点でキョンのサイコメトリーに引っかかるはずだ。時間跳躍でも情報結合でもな。今のところ現実世界に何も起きていないことだけは確かだ。ここから消えれば眼が覚めるはずだが、キョンはまだ眠ったまま起きる気配がない』
「とにかく、あたしが行って起こしてくる!」
『ハルヒママ!』
「………黄有希、おまえなら分かるんじゃないのか?黄俺に一体何が起こったのか説明してくれ!」
「わたしにも原因は不明。でも、可能性として考えられるものが一つだけある。確率的にはかなり低く確証はもてない。彼が戻ってくるのを待つべき」
「間違ってたって別にいいわよ!!その可能性って一体何のことなのか説明して頂戴!!」

 

くそ……今度は一体何だ………さっきまでの痛みはなくなったが、異次元空間の中で俺の身体が流されているような感覚だ。そういや、どこぞのお手伝いロボットが持っていたタイムマシンで時間移動するときも確かこんな感じだったっけ。朝比奈さんからあんな事実をつきつけられなけりゃ、未来へ行って双子の姿を見れたかもしれないってのに………
ズキン!
ぐっ……今度は眼か…どうなってやがる。
ズキン!ズキン!
眼が………開けていられない……
「……ン、……ョン、起きなさいって言ってるでしょ!キョン!」
ハルヒの声にハッとして眼を覚ました。頭痛も眼の痛みも今はない。身体を起こして周りを見ても侵入者らしき姿も見当たらず、侵入した形跡すら残ってはいなかった。しかし………一体何だったんだ…眼を瞑っていたはずなのに見えたあの映像は………
「ちょっとあんた!大丈夫なの?」
「え……あ………」
「大丈夫かどうか聞いてるのよ!いいからあたしの質問に答えなさいよ!」
「今自分の身体をサイコメトリーした。どこにも異常はないらしい。だが……」
「とにかく!どこにも異常がないのならジョンの世界に戻るわよ!みんなあんたのこと心配してるんだから!無事なら無事と自分で説明しなさい!いいわね!」
「ああ、分かった」
ドサッ!とベッドに倒れるようにすると、ハルヒが俺の腕を掴んでいつものごとく腕枕状態。しばらくもしないうちに眠りに就き、気付いたときは一面真っ白な世界。どうやら、ジョンの世界に戻って来られたようだ。

 

俺が再びジョンの世界に足を踏み入れた時には野球の練習をしているメンバーは誰一人としておらず、一つの円を作って座り込んでいた。
「すまん。どうやら、みんなには心配かけてしまったようだな」
『キョン!』『キョンパパ!』『黄キョン君!』『先輩!』
「キョン君…良かった、わたし一時はどうなることかと………うええええええぇぇぇぇ」
朝比奈さんが泣きながら俺に抱きついてきた。原因は不明だがさっきの痛みと等価交換だと言うのなら、まぁ、いいだろ。いつの間にかハルヒも後ろに立っていた。
「それで、具合はもうよろしいのですか?」
「一応、自分でもメディカルチェックをしたんだが、どこにも異常はなかったよ。さっきの頭痛が一体何だったのか俺にも分からん」
「じゃあ、さっき有希先輩が言ってたことですか?」
「有希が?何の話だ」
「プレコグ……予知能力のこと。あなたが超能力者として目覚めてから一度も使っていない能力。頭に痛みを感じてから、何か映像のようなものを見なかった?」
「映像……?アレのことか?よくは分からんが、頭痛が鳴り止んで、異次元空間を移動しているような状態に陥ったときに映像を見たのは確かだ。今度は眼が痛み出して、開けていられなくなって………眼を瞑っているのになんでこんなものが見えるのか訳が分からなかったことは覚えている」
「その映像を解析してモニターに映し出す。あなたは眼を瞑ってその映像をイメージして」
とりあえず、有希が俺の頭をサイコメトリーしてさっき見た映像をより鮮明にしてくれるらしい。有希の指示通り眼を瞑ってさっきの映像を思い浮かべた。
「終わった。もう眼を開けても平気。あなたにもこの映像を見て気付いたことがあったら教えて」
巨大モニターに映し出された映像に周りにいたメンバーの視線が集まる。
「なんだこの映像は?俺がジョンになったような気分だ」
「あなたの眼に映ったものを客観視している状態。問題なのはこの後」
この後って、いつもと同じようにみんなで食事をしているシーンにしか見えないんだが…俺の母親がいて新川さんがいないところを見ると夕食か?
「キョンパパ!」
「ん?」
「キョンパパのご飯、おいしい!」
伊織と俺のやり取りだ。こんなもの、今まで何回も……
「くっ…」
『ジョン!?』
「とにかくすぐに手当てを。有希!」
「わかった」
「どこに逃げたって一緒よ。まとめて死になさい」
「くっ」
プツン!とそこで映像が途切れた。だが、有希の読み通り予知能力で間違いない。500年後の未来で急進派の猛攻をしのぎ、ジョン唯一が生きている時間平面上にまたしても急進派が攻めてきた。仲間と共に涼宮体と戦っていたが、仲間が重傷を負い、ジョン自身も戦えるような状態ではなかった。それで時間跳躍で俺たちの時間平面上に逃げてきたが、涼宮体がそれを追いかけて止めを刺そうと掌にエネルギーを集中した。最後の「くっ」というのは俺が助けに入ろうとしたんだろう。映像はそこで途切れてジョンもその仲間も無事かどうかまでは分からない。くそっ…俺が事の全貌を話せば未来の教科書は全部見られるはずじゃないのか!?……いや、未来と言ってもジョンがいる時間平面上からすれば過去にあたる。教科書に載せたくても載せられなかったってことか……
「どうやら、黄有希さんが言っていたプレコグに間違いないようですね。今の映像から分かったことは2つ。1つ目はこの映像と同じことが半年後に起きるということ。2つ目は未来の急進派がこの時間平面上にも攻めてくるということです」
やれやれ、写真や動画でもWハルヒが別人に見えるという催眠をかけたが、さすがの有希も涼宮体のことまでは考えていなかったらしい。すっかり元気を取り戻した青古泉が熱弁していた。
「ちょっと待て古泉。どうしてこれが半年後に起こるって分かるんだ?」
「今の映像に映っていた全員の服装と伊織さんの一言ですよ」
「くっくっ、確かにそうだね。映像に映っていた全員が冬服を着ていた。けどね、それだけで半年後だと決めつけるには決定打に欠けると思わないかい?一年半後ってことも十分あり得るだろう?」
「先ほど申し上げた通りです。伊織さんの一言で来年の二月、バレー合宿が終わってすぐのことだとはっきりしました。考えてもみてください。バレー合宿が終われば彼は主演女優と一緒に各国を回り、黄僕はドラマの撮影の真っ最中。その間の食事当番はハルヒさんと有希さんにと決まったばかりです。そして一月頃に日本に戻ってきて各TV局を回って告知をし、ヒロインと一緒に日本語でアテレコをする。そのあとすぐバレー合宿が始まり、彼は当然本社ビルの81階ではなく3階でディナーを振る舞うことになる。彼の母親が居て新川さんがいないということは、先ほどの映像は夕食時であると推測できます。ハルヒさん達の料理から彼の料理に戻り、一緒に夕食を食べられるようになってようやく、伊織さんが『キョンパパのご飯、おいしい』と伝えることができた」
そこにいた誰もが青古泉の弁論に納得し、来年の冬に起こるであろうこのおぞましい事件に恐怖を感じていた。
「フン、あれだけやっつけたのにまだあたしの仮面を被ってくるド変態がいるようね。でも、そんなの関係ないわ!ジョン達と同じようにあたしたちも連携攻撃を仕掛ければいいだけじゃない!」
『キョン達が救ってくれた時間平面を崩壊させるわけにはいかない。この時間平面上に涼宮体が現れれば、ビルに施した閉鎖空間の条件を無視して侵入されて誰が殺されてもおかしくない状況に陥ってしまう。今後は、あの時間平面の様子を俺が逐一監視することにする。悪いことが起きそうなとき、事前に対策を立てておけば未来を変えることができるのが予知能力だ。この時間平面上には涼宮体の侵入は絶対にさせない。俺たちが500年後の未来に出向いてそこで始末する』
『問題ない』
「くっくっ、何はともあれ改善策も立てられたことだし、キョンも無事に帰ってきた。あまり時間はないけど、少しでも多く練習したい。誰か付き合ってくれたまえ」
「佐々木の言う通りだ。球団と戦うまで負けるわけにはいかん」
「あら?次の試合は女だけで闘うんじゃなかったかしら?あなたの出番はあるのかしら?」
「いつまでも喋ってないで、さっさと続きやるわよ!」
結局、あまり時間は取れなかったが、ジョンの世界にいた全員で練習を再開。ジョンの合図があるまでそれぞれが課題としていることに励んでいた。

 

 朝のニュースは至って平穏。動きがあるとすれば明日か日曜、もしくは来週に入ってからだろうな。朝食は既に準備を終えてあとは配膳するのみ。青ハルヒと二人で昼食の支度にとりかかっていた。
「しかし、以前と比べると大分自信がついてきたようだな。明後日の試合、一人でいけそうか?」
「あんたね、試合当日に報道陣に向かって『女だけで勝負を挑む』と宣言するって言ったじゃない!何が『一人でいけそうか?』よ。今度の試合はあたし一人で終わらせてやるわ!あんたたちはOG相手にスパイクレシーブの練習でもしていればいいの!」
「まさかおまえと同じことを考えていたとは俺も吃驚したぞ。俺も準備運動中はキャッチャー用の防具なしでOG相手に投球練習のつもりだったんだ。これだけのメンツがいても『女だけで勝負を挑む』と相手チームに見せしめてやろうと思っていたところだよ」
「それはこっちのセリフよ!あんた達はベンチでずっと見てなさい!」
「ああ、そうさせてもらう。ところで青ハルヒ、おまえハルヒと連携して涼宮体と闘えそうか?こっちに来る前に何体も倒しているだろうが、ジョンやその仲間たちでさえ苦戦を強いられたんだ」
「前回も黄あたしと少しだけ戦ってみたけど、あんたとのバトルと似たようなもんだったわ。あの映像に映っていたジョン達も大怪我はしていたけど、誰一人死んでなかった。あたしたちじゃ、どちらかが負傷した時点で逃げないと二人とも殺されるでしょうね」
「もう一人そこに加わったとしたらどうだ?有希でも朝倉でも古泉でも構わん」
「そんなのやってみないと分からないわよ!それに、あんたを相手に実戦で試してみないと、戦い方が変わってくるし……でも、黄有希ならすぐあたしたちに合わせられるかもしれないわね」
「九月以降、ジョンの世界で会える日があればそれでやってみよう。こっちは俺とジョンの二人で2,3体相手ならなんとかなりそうだ」
『だったら、俺が青チームのキョンの方についていればいい。俺が三人の相手をする。俺自身も修錬を積まないとな』
「それなら毎日でも修行ができそうだ。しかしジョン、おまえ実際に戦っている途中でカードゲームで遊ぶなよ?」
『それは無いだろうキョン。折角涼宮体のエネルギー波をそのまま跳ね返す罠カードを見つけたんだ。一回だけでいいからやらせてくれたまえ』
「おまえならそんなもん使わなくても普通に弾き飛ばせるだろうが!佐々木の真似をしても駄目なものは駄目だ」
「あたしもジョンの世界で漫画読んでみようかな。あんたに会うまではこんなもの読んでも現実に起こらなきゃ面白くもなんともないって思っていたけど、空を飛ぶことも、エネルギー弾を撃つことも、タイムマシンで過去や未来に行くことだってできるって分かったら興味が湧いてきたわ。ジョンがどんなものを見つけたのかは知らないけど、今度見せてくれない?」
『それは構わないが、俺から涼宮ハルヒにおススメの漫画を紹……』
「おまえが薦める漫画なんて一つしかないだろうが!そのほとんどはもう青ハルヒだって体得してるぞ!」
『太○拳!!』
「やれやれ……空気の流れを読んで相手の攻撃を予測できる涼宮体にそれが通用するかどうかは戦ったおまえが一番よく分かっているだろうが。界○拳は長期戦には不向きだしな」
青ハルヒも黙ったまま今まで読んだことにある漫画のことでも思い出しているんだろう。披露試写会の話も出てくると思っていたんだが、今のコイツにとっては現実ではありえない漫画の描写を現実化することの方が大事らしい。

 

エレベーターが動きだし、続々とメンバーが集まり始めた。その中で一番テンションが高かったのは、勿論W鶴屋さんだ。
『いや~(黄)キョン君、おはようっさ!体調はもう良いっさ?いよいよ、あと半日でキョン君の映画が見られるっさね~あたしも楽しみで仕方がないにょろよ!早く時間が経つ方法知らないにょろ?』
「おはようございます。有希が言っていた通り、予知能力の前兆だったようなので、あれ以降は至って普通ですよ。でも、そんなに楽しみにしてもらえると俺も嬉しいです。アクション映画ですから鶴屋さんが笑えそうなところはそこまで無いと思いますけど……って、W鶴屋さん英会話できましたっけ?向こうでの披露試写会ですからアテレコもしてなければ字幕もありませんけど……」
『それなら問題ないっさ!はるにゃんにOK貰って教えてもらったにょろよ!未来のみくるたちも楽しみにしてるっさ!』
やれやれ…あの時間平面上の有希ならやりかねんと予想はしていたが、昨日の段階でもう話題としてあがっていたらしい。あとは…あの六人……いや五人だな。
『キョンパパ!お手伝い!』
「おっ、自分からお手伝いしにくるなんて二人とも偉い!」
『わたし、えらい?』
「そうだ。これからも宜しく頼むな」
『フフン、あたしに任せなさい!』
「伊織パパ、わたしもお手伝いする!」
「じゃあ、幸も皿をどんどん運んでくれ」
『ハルヒママと有希お姉ちゃんの分はわたしが運ぶ!』
配膳を手伝ってくれるのはいい。しかし、三人分の分量が入った皿はさすがに持てないだろうと思っていたのだが、二人で一つの皿を持っていた。器用な奴等だよ、まったく。まぁ、集団において自分ができることをやるってのは今後小学校や中学校でも大事になってくることだし、それが今の段階でできているのなら色んな場面で役立つだろう。って、美姫の動きが突然止まった。何かあったのか?
「キョンパパ、おじいちゃんが変」
美姫のセリフを聞いた伊織も俺の父親を見つめて向き直った。
「キョンパパ、おじいちゃんが変」
まだ、幼稚園児だし、使える用語の少なさについては眼を瞑るとして、この二人、ジョンが備え付けた筋トレの効果に気がついたっていうのか?
「そう言われてみれば……少し痩せたか?」
「わたしも双子に言われて気がついた。キョンの言う通り、ちょっと体格が変わった」
「この間も寿司をたらふく食べたし、ダイエットしているわけじゃないんだが……そう見えるか?」
「確たる証拠が目に見えているではありませんか。ベルトの穴の位置がこれまでと変わっているようですよ?」
古泉の指摘通り、これまで使っていたと思われる穴に金具が通っておらず、一つ隣の穴でベルトを締めていた。ようやく周りにも分かるようになってきたか。だが、どうして痩せたかについてはまだ喋らない方がいいだろう。ハルヒと有希にアイコンタクトをして朝食を食べ始めた。
「今日の予定は先日確認した通りだ。野球に参加するメンバーはすぐに練習に向かってくれ。昼食は既にできているから俺と朝比奈さんが残って夕食の支度をしてから練習に参加する。映画を見に行くメンバーは夕食が遅くなるだろうから、圭一さんたちは先に夕食を食べていてください。俺とジョンが二時に向こうで他の俳優陣と合流する。その間に残ったメンバーでビラ配りを頼む。三時四十分頃にはここに戻ってきて試写会の会場まで来てくれ。有希がステルスを張って椅子を情報結合してくれるはずだから、それに座って鑑賞してくれればいい。それから、有希に一つ頼みがあるんだがいいか?」
「何?言って」
「試写会を見に行くメンバープラス六人分の椅子も情報結合して欲しい。呼びたい奴等がいるんだ」
「くっくっ、面白いじゃないか。その六人の分の夕食もちゃんと用意してくれるんだろうね?久しぶりに話を聞きたかったんだ」
「それは構いませんが、以前のように仕事もせずにずっと話しているのは勘弁してくださいよ?」
「佐々木さんも青古泉君も誰のことを言っているんですか?」
「あんたもさっさと説明しなさいよ!呼びたい奴等って誰のことよ!?」
「最初は日本代表二人と誰かだと思っていましたが、佐々木さんと青僕のセリフでようやく分かりましたよ。500年後、ジョンがいる時間平面で一緒に戦った過去のハルヒさんや僕たちのようですね。それに加えて、その時間平面上のあなたと佐々木さんの六人。違いますか?」
「ああ、あの戦争のあと、過去ハルヒには俺たちを超える会社を作るまで絶対に来るなと言われたが、今の俺たちがどこまで発展しているのか見せるのも悪くないと思ってな。これからテレパシーで都合を聞くつもりだが多分OKするだろう。佐々木の言う通り、夕食はあいつらの分も用意しておく。ただし、青古泉の言った通り、夕食が終われば話の途中だろうと元の時間平面上に送ってもらうつもりだ。試写会が終わった後も俺もジョンも自由に動き回ることはできないだろうし、朝比奈さんに送ってもらう。SOS団が3グループできてしまうが、混乱することはないだろう。そういや、W鶴屋さんは過去の朝比奈さんは見てないんでしたね」
『今度は過去のみくるに会えるにょろ!?面白そうっさ!今何をしているのか聞いてみたいっさ!』
「でも、キョン君。あの時間平面上の有希さんやわたしはもういないんじゃ…」
「いいや、過去の有希は情報統合思念体からの帰還命令がでたとしても断るはずですし、過去の朝比奈さんは新しいタイムマシンをもっていたとしても、時空震動を超えた未来との通信手段はまだ確立してませんから帰還命令も来ないはずです。朝比奈さんだって未来から何も連絡は来てないですよね?」
「そういえばそうです。じゃあ、過去のわたしは涼宮さんたちと一緒に過ごしているってことですね。良かった~」
「というわけだから、W佐々木と過去の佐々木や俺の話が終わりそうになかったら強引にでも止めてくれ。話題になれば野球の大会も見に来たいと言うかもしれん。それはそれでいいと思ってるし、何の支障もないはずだ。じゃ、今日も一日よろしく頼む」
『問題ない』

 
 

…To be continued