500年後からの来訪者After Future2-14(163-39)

Last-modified: 2016-08-11 (木) 11:17:39

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future2-14163-39氏

作品

未来の有希から指摘され、以前企画していたイベントの全貌を全員の前で明らかにした。それが実行に移されれば未来の教科書はすべて見られるはずだった。しかしその夜、ジョンの世界で突如予知能力が発動。映像を分析した結果、500年後の未来からジョン達が俺たちの時間平面上へと避難してくるというものだった。催眠のかかっていない涼宮体を見た青古泉がこの映像は二月のバレー合宿が終わった直後であると熱弁。対策を立てるため、ジョンがその時間平面上の様子を随時見ることになった。いよいよ試写会当日、二時間前に呼び出された俺とジョンが何をさせられるのかは分からんが、事のついでに過去ハルヒ達も呼ぶことにした。

 

『おーい、ハルヒ。聞こえるか?俺だ』
『テレパシーでその声……キョン!!あんたまさかこっちに来たんじゃないでしょうね!?』
『おまえがOKするまで絶対に来るなと言ってただろうが。俺がそっちに行ってたらテレパシーじゃなくて直接会いに行ってるよ』
『ふむ、それもそうね。…それで?一体何の用よ?あたしたちの会社が見たいなんてのはお断りよ!』
『俺の時間平面上で今日の四時から、俺が主役のハリウッド映画の披露試写会があるんだ。ハルヒ達も都合がつきそうなら見に来ないかと思ってな。俺がそっちに行くわけじゃないから何も問題ないだろ?』
『それはそうだけど……って、あんたが主役のハリウッド映画!?何でそんなことになってるのよ!?』
『そっちはそっちで発展しているんだろうが、俺たちだってまったく進歩していないわけじゃないってことだ。ああ、ちなみに言っておくが、向こうでの披露試写会だからアテレコもされてなければ字幕もない。英語が分からないと内容がほとんど理解できないが大丈夫か?』
『そんなの大丈夫に決まってるじゃない!有希は最初から話せたけど、あたしだって古泉君やみくるちゃんと一緒に猛特訓したんだから!』
『なら問題なさそうだな。で、来られそうか?』
『面白いじゃない!あんたがどんな映画の主役になったのか見せてもらうことにするわ!』
『じゃあ四人ともOKでいいな?夕食はこっちで用意する。こっちの時間で三時四十分に本社の81階に集まってみんなで会場に飛ぶことになってる。その時間になったら朝比奈さんに連絡を取ってもらうから準備しておいてくれ』
『分かった。みくるちゃんからの連絡を待っていればいいのね』
『じゃあ、またあとでな』
過去ハルヒがOKなら残り三人の都合が悪くても強引に連れてくるだろ。さて…お次は、
『佐々木、聞こえるか?俺だ』
『いきなり驚かさないでくれたまえ。キミが目の前にいるのにテレパシーが飛んでくるから吃驚したじゃないか。それに、僕はもう佐々木じゃなくて、キミの苗字だってことを忘れてないかい?』
『ああ、すまん、すっかり忘れていた。とりあえず用件だけ伝える。例の喫茶店の横のタワーで二人で研究に没頭している最中だろうから都合が合うかどうかは分からんが、俺の時間平面上で今日の午後四時から俺が主役のハリウッド映画の披露試写会が行われるんだが、今回はそれのお誘いだ。来れそうか?』
『どうしてキミが僕の研究室のことを知って…って、キミの時間平面上にも建っているから知ってて当たり前だったね。キミが主役のハリウッド映画なんて面白そうじゃないか。是非僕たちも参加させてくれたまえ。研究に没頭するのはそのあといくらでも可能だからね』
『まぁ、経緯はちょっと違うが、同じ建物が立っている。じゃあ、時間が近づいてきたら、こっちの朝比奈さんから過去の俺にテレパシーを飛ばすから準備しておいてくれ。おっと、言い忘れるところだった。向こうでの披露試写会だからアテレコも字幕もない。英語ができないと内容がさっぱり分からなくなるが大丈夫か?』
『僕は多分大丈夫だけど、こっちのキョンは会話について来られないかもしれない。理解するまでに時間がかかりそうだ。それでも高校生の頃と比べたら大分できるようにはなってると思うよ』
『分かった。じゃあテレパシーの件、伝えておいてくれ』
『楽しみにしているよ』

 

「……キョン君、テレパシー終わりましたか?」
朝食も終わり俺と朝比奈さん以外のメンバーはそれぞれの仕事や練習へと散らばっていった。昨日、脅しをかけた件もあるせいか愚妹の面持ちがさらに悪くなっていたが、今日くらいは見逃してやろう。明日以降もさっきのような面構えをするようなら85階で呆けていればいい。電話も本店も社員食堂もあんな状態で応対されては我が社にとって悪影響以外の何物でもない。
「ええ、六人とも来るそうですよ。英会話も過去の俺以外は問題ないらしいです。それでもかなり出来るようになっているって話でしたけどね。それで、朝比奈さんにお願いしたいことがあるんですが、三時四十分の時点であの時間平面上のハルヒと俺にテレパシーを送って六人をここに連れてきてもらえますか?俺もできないことはないんですが、上映の直前に何かしら打ち合わせをしているかもしれないので」
「そうですね、キョン君もジョンも先に向こうに行ってるんでしたね。えっと…わたしが過去の涼宮さんとキョン君に連絡して、みんなを連れてくる、でいいですか?」
「宜しくお願いします。そういえば、朝比奈さんももう制限されていることなんてほとんどないんじゃないですか?『禁則事項です』なんてセリフを聞いたのいつ以来だったか忘れてしまいましたよ。因みに新しいタイムマシンの名前は決まっていたりするんですか?それに、時空震動を超えたエージェントとの通信手段については今どんな状態なんですか?」
「多分、タイムマシンの方は、ジョンのタイムマシンを見本に未来の有希さんが作ったからつけられないんだと思います。通信手段についてはわたしには何も知らされていません。あっ、禁則事項って言わなくて済みました」
「通信手段については朝比奈さんですら分からないんじゃ当然ですよ。タイムマシンの名前か…ジョンに聞いたところでそれこそ禁則事項でしょうし、時間平面を破壊することがなくなったのならTPDDじゃなくてTPD(タイム・プレーン・デバイス)でいいと思いますけど」
「そうですね。今、キョン君が名前をつけたみたいに誰かが言い出せばそれが広がっていくと思います。それにしても…相変わらず凄い量の食材ですね。いつもの夕食より12人前も多く作らないといけないなんて…キョン君が抜けた穴をわたし達で埋められるかどうか心配です」
「今日の夕食については自分で蒔いた種ですからね。話が長引いて帰るのが遅くならない様にW佐々木にはああいう言い方になりましたけど、試写会が終わったら俺も過去のハルヒ達と色々と話してみたいんですよ」
「うふふ……わたしの勝手な予想ですけど、披露試写会が終わったら、他の俳優の方や監督さんたちに料理を振る舞うことになりそうです。この前も食材がどっさり用意されてたってキョン君話してましたし」
「当たりそうで怖いですね。結局、どこへ行っても料理を作ってばっかりか」
「キョン君いつも謙遜していますけど、いくら美味しい料理だからって言っても作る人がいないと食べられません。キョン君も最初はハルヒさんの妊娠が発覚して食事の支度ができなくなったから新川さんの料理をサイコメトリーして作るようになった。ちゃんとした理由があったり目的をもっていたりするのなら、わたしはそれでも構わないと思います。それに、食材をサイコメトリーしたり、この前のように再生包丁なんて技を見せたりできるのはキョン君だけです。野菜スティックもノンドレッシングサラダもお寿司もみんなキョン君の料理で間違いありません」
なんというありがたいお言葉……そうだ、有希に女神のようなドレスを仕立ててもらおう。当然羽つきでな。テレポートだけでなく舞空術までマスターした朝比奈さんならサイコキネシスで羽を上下に動かしながら舞空術で飛びまわればまさに女神と言っても過言ではない。とりあえず今日、明日は朝比奈さんは皆の応援で暇になるしサイコキネシスの練習をさせるのも悪くない。というより、舞空術自体がサイコキネシスだけどな。あとでドレスのイメージを有希に渡しておくことにして、朝比奈さんにはサイコキネシスの練習のついでに子供たちの面倒を見てもらうことにしよう。
「朝比奈さん、この後の練習でやってもらいたい事があるんですけど、いいですか?」
「はい、キョン君のお願いなら喜んで」
「子供たち三人にバットを持たせてボールを打つ練習をさせたいんですけど、ゴムボールをサイコキネシスで一定の高さに浮かせてもらえませんか?」
「それって、前に有希さんが双子にやっていたのと同じってことでいいんですか?」
「ええ、これからグラウンドへ行っても、ジョンの世界でも朝比奈さんだけ暇になってしまいますからね。俺ももう少し早く気付くべきでした」
「分かりました。それならわたしにも出来そうです。キョン君、ありがとうございます!」

 

夕食の準備も終わり、あまり時間も無かったが顔を出すくらいはしておかないと、昨日と同じようにハルヒから文句を言われかねない。見慣れた練習場、見慣れた練習風景に何の違和感も抱くことなくジョンや青俺の横でOGとキャッチボールを始めた。同じくキャッチボールをしていた子供たちに朝比奈さんが近づき声をかける。バッティング練習ができると分かるとすぐにプラスチック製のバットを持ち出してきた。物体浮遊については問題なさそうだ。あるとすれば、バットがボールに当たるまでその位置を維持できるかどうかだけだ。バレーだってジャンプサーブができるようになったんだ。超能力の方も使い続けていれば朝比奈さんだって未来人兼超能力者と胸を張っていうことができ…って、朝比奈さんの場合胸を張ってもそこまで変わらんか。
「キョン、肩慣らしが終わったのなら僕の練習に付き合ってくれたまえ」
OGがしゃがんでバッターボックスの位置についたのは佐々木。まずは様子見からとストレートを投げると簡単に三塁方向へとバントが成功。しかも、朝倉までとはいかないが若干の逆回転がかかっていた。それでも、ただバントをするだけに比べれば十分だ。サードに向かってボールが転がっていこうとするのを佐々木がかけた逆回転がそれを阻止しようとしていた。
「もう時間も残り少ないんだ。早く投げてくれないかい?」
言われるがままに球を投げる。OGにテレパシーを送った変化球ですら、佐々木のバントによって逆回転がかかっていた。
『佐々木、これはもうヒットを打つ練習に回ってもいいんじゃないか?』
『朝倉さんの球に比べたらまだまだだよ。どんな変化球でも対応できるようにしたいんだ。このまま続けさせてくれたまえ』
そこまで極めなくてもいいと思うんだが……5、6球投げたところで午前の練習は終了。81階に戻ってきたところで双子が俺に近づいてきた。
『キョンパパ、夜もみくるちゃんと練習したい!』
「それは朝比奈さん本人に言え。ちゃんと挨拶するんだぞ?『一緒に練習させてください。お願いします!』ってな」
『問題ない』

 

「それで、過去のあたしたちには連絡がついたわけ?」
勢いよく昼食をかき込みながらハルヒが俺に話しかけてくる。人事部の社員は素のハルヒをみてCDを買ったりレンタルしたりして楽曲が聞きたいとはたして思うだろうか。
「教育的に悪いぞおまえ。食べながら話しかけてくるな。過去のハルヒにも佐々木にも連絡済みだ。六人とも参加する。朝比奈さんに時間跳躍を頼んであるから、全員揃ったところで試写会の会場にきてくれ。この後の流れは今朝伝えた通りだ。俺と朝比奈さんで片付けたら、ジョンと二人で先に向こうへ行く。子供たちの面倒は朝比奈さんに見てもらうつもりだ。何も無ければこのままビラ配りに回ってくれ」
『朝比奈さん、いい機会ですから片付けの途中でシャンプー&マッサージに行くというのはいかがですか?子供たちも見てみたいそうなので。それが終わったら、時間になるまで片付けをしておいてもらえると助かります』
『キョン君、本当ですか!?是非お願いします!』
さて、あとはジョンが向こうに行くときにどんな格好で行くかだな。
『フン、これが俺たちサ○ヤ人の正装だ』
おまえは未来人兼超能力者だろうが!披露試写会後はガスマスクをつけたスタントマンの格好で出ることになるだろうし、いくらおまえの正装だからって上半身はノースリーブのパーカーの前をはだけただけってのは問題あるだろ。せめてヒロインをここに呼んだときくらいの格好でいろ!ったく…あとは、さっき思いついた件、有希に伝えておくか。
「有希、ちょっといいか?」
「何?」
「これ頼む」
席を移動して既に三人前を完食した有希の手に触れた。白いドレスと女神の羽、青朝比奈さんの舞空術とサイコキネシスであたかも羽を動かして空中を舞っているイメージを人差し指に込めた。
「分かった。でもやるならファイナルライブで見せるべき。昨日撮影したものも撮り直す必要がありそう」
『撮影したものを撮り直す!?』
「ちょっと待ちなさいよ!二人だけで情報を共有してないで、どういうことかあたし達にも説明しなさい!どうして撮り直す必要があるのよ!」
「いや、俺は今後のCDのジャケットやCMにでもと思って、有希に青朝比奈さんが着るドレスのイメージを渡しただけだ」
「そう。でも、このイメージを貰って、これはファイナルライブでやるべきだとわたしが判断した」
「わたしが着るドレス……ですか?五人とも黒のドレスなんじゃ……?昨日もそうでしたし」
「見せた方が早い。青チームの朝比奈みくるは立って少し後ろに下がって」
「今まで黄有希から『後ろに下がれ』なんて指示聞いたことがないぞ。どんな衣装だっていうんだ」
背中に羽をつけるとなればそう言わざるを得ない。青俺の疑問も10秒とかからないうちに解決した。
「みくるちゃん綺麗……」
「まるでみくるが女神様みたいっさ!」
「古泉、こういうのを目に焼き付けておくって言うんじゃないか?」
「ええ、僕も驚きましたよ。まさかここまで似合うとは思いませんでした。これなら黄有希さんが撮り直しをしたいと言い出したのも頷けます」
「これはまだ半分。もう半分はこのフロアでは不可能。今からわたしの異空間に移動する」
「半分ってどうい……」
青有希も最後まで言いきれないまま有希の異空間へと移動した。

 

「おや?この風景を見るのも随分と懐かしいですね。僕の記憶が正しければ高校一年生の頃のカマドウマ退治以来ということになりそうです」
「古泉君、カマドウマ退治って何よ!?」
「ハルヒさんがエンブレムを作ってからちょっとしたアクシデントがありましてね。文芸部室にも依頼人が来たんですが…覚えていませんか?」
「うー…、エンブレムを作ったのは覚えているけど依頼人って……」
「朝比奈さんが喜緑さんを連れてきただろ。北高生が失踪してそいつの家まで出向いたの覚えてないのか?」
まぁ、無理もないか。そいつの家に行ってジョンが勝手に鍵を開けて中に入ったはいいが、結局何も見つからずにハルヒだけ解散したからな。ハルヒにとってはその時点で興味が失せている。
「駄目ね、出てこないわ。あんた達だけで一体何をしていたのか教えなさいよ!」
「当時の北高生及び近隣の住民が異空間に閉じ込めらるという事件が起こった。最初に訪れた家で失踪した本人の部屋から、わたし、古泉一樹、それに彼とジョンが奇妙な違和感を感じ取った。あなたの一言で一度解散にはなった。でもその違和感が気になってもう一度戻ってきた。そのときその生徒の部屋でわたしが展開した異空間がこれ。そのときは巨大なカマドウマがわたし達の前に姿を現した。それを退治したのが彼とジョン」
「その話はまた後で聞かせてくれたまえ。有希さんの言う残り半分というのが気になって仕方がない」
俺がやってもよかったが、すかさず有希が高速詠唱を開始。閉じていた羽が広がって、今にもはばたこうとしていた。ゆっくりと青朝比奈さんの身体が宙に浮いていく。
「あわわわ……黄有希さん、これ大丈夫なんですか!?」
「問題ない。今はわたしがあなたを浮かせているだけ。でも、羽を動かすのも、宙を舞うのもあなた一人でやるのがベスト。可能ならその状態で歌って」
さすがの青朝比奈さんでも慌てるか。しかし、宙を舞いながら歌うのはいくらなんでも厳しそうだ。アンコール曲だから歌詞を間違えても観客には分からないが、歌詞を忘れてしまっては困る。
「本社ビルじゃ不可能だっていうのがようやく分かったわよ。黄キョン君もこんな演出よく思いついたわね!」
「うん、うん!これなら良いわよ!!決めた!夕食食べたら撮り直すわよ。みくるちゃんはその状態で歌って!」
「えぇ!?これで歌うんですか!?ちゃんと歌えると良いんですけど…」
「あなたは歌に集中していれば平気。あとはわたしに任せて」
青朝比奈さんを降ろすと再び高速詠唱。青朝比奈さんの衣装が元に戻り、現実世界に舞い戻った。人事部の社員も圭一さんたちも何を言っていいのやら分からんらしい。分かってもらっても困るけどな。

 

「じゃあ団長もそう言ってるし、朝比奈さんはさっきの衣装で決まりだな。夕食後、青チームと黄有希で再撮影ってことでいいか?」
『問題ない』
『幸パパ、わたしも青みくるちゃん見たい!』
「見たいのは分かったからテーブルをそうバンバン叩くな。一緒に連れてってやるよ」
「すまん。俺とジョンは披露試写会後も向こうのスタッフに掴まりそうだからな。子供たちを頼む」
「ちょっと待ちなさいよ!あんた、披露試写会後はあたしは帰れって言うわけ!?」
「時間前に呼ばれているのが俺とジョンだけだからな。なら、披露試写会後に一緒に連れてきたと紹介する。そのあとはおまえに任せる。これでどうだ?」
「それならいいわ。あたしだって映画撮影に貢献したんだから、エンドロールにあたしの名前がなかったら承知しないわよ!」
「名前があったらあったで、どのシーンで出てきたのか観客が騒ぎ出すだろうが。催眠をかけて男に見えるようにしてましたって説明してもいいのか?おまえは」
「うぐ……それなら仕方ないわね」
「とりあえず、これから片付けに入るからそれぞれの役割分担で宜しく頼む」
『問題ない』
子供たちも皿の片付けを手伝うようになり、朝比奈さんと二人で皿洗い。子供たちには朝比奈さんのシャンプー&マッサージのことも伝えてあるし、キャッチボールで時間を潰せそうだ。
「でも吃驚しました。キョン君が青わたしにあんな衣装を考えていたなんて」
「俺のはほとんどその場の思いつきですよ。あの衣装だってさっき朝比奈さんと会話している最中に閃いたんです。俺もファイナルライブで朝比奈さんにあの衣装を着てもらいたかったんですけど、朝比奈さんにはもうマーメイド風の衣装をと自分で有希に申告していましたからね。ライブで使えないのならCDジャケットなりCMなりと思ってイメージを有希に渡しましたけど、有希もこれはライブで使った方がいいと言いだしたので今回は、青朝比奈さんに着てもらうことになったというわけです」
「いくら有希さんに操作してもらっていても、わたしじゃ歌詞を忘れてしまいそうです」
「だから今頃気づいたことに後悔しているんですよ。自分で羽を動かして宙を舞って歌う。もっと早く気付いていれば、そのための練習時間がとれたのに…ってね」
『キョン、朝比奈みくるのシャンプー&マッサージをするのならそろそろ行かないと時間がないぞ』
おっと、それはまずい。すぐにラボにテレポートする。
「すみません朝比奈さん、そろそろ向こうに行かないと時間がありません。皿洗いもまだこんなに残ってますけど……」
「わたしは大丈夫です。シャンプー&マッサージもキョン君の映画も楽しみです」
「なら、三人とも今から美容院行くぞ」
『問題ない』

 

『キョンパパ、ここが美容院?』
「そうだ。まぁ、これはドラマ撮影用のセットなんだけどな」
『セット?』
「本物の美容院じゃないってことだ。とりあえず、三人ともバレーのときみたいに大きくしてやる。でないと朝比奈さんのことが見られないからな」
三人を拡大すると、ようやく鏡の存在に気付いたらしい。セットのイスに座って居心地を確かめていた。
「お首は苦しくございませんか?」
「はい、大丈夫です」
「それでは、お流しさせていただきます」
しかし、佐々木やOG、有希のときは感じなかったが、髪が長いと洗うのも一苦労だな。どちらのハルヒもよくあの長髪で中学、高校と通えたもんだ。そういえば、Wハルヒの入れ替えをしたとき、俺がテレポートで有希の部屋に戻ったら青ハルヒがコーヒーをこぼしそうになってたっけ。『洗い直すのも大変なんだからね!』というあのときのセリフがよく分かったよ。古泉だってそこまで悩むことはないだろう。普通の男には考えられない悩みだな。ああ、そういやアホの谷口という例がいたな。アイツの場合は風呂も2、3日に一回ってところだろうから論外だ。
「気持ちいい~。サイコメトリーだけでここまで違うものなんですか?プロの美容師さんよりキョン君の方が凄く気持ちがいいです」
「洗いながら髪の毛や頭皮からすべて伝わってくるんですよ。どこが痒いとか、どこが洗い足りないとか、力加減はどうかとか。マッサージの場合はメディカルチェックをしながら肩や首、背中の凝りをほぐしていくだけです」
普段どう洗っているかまで分かることは内緒にしておこう。誰に何を言われるか分かったもんじゃない。それにどう洗っているかだけなら精々肩から頭頂部までしかサイコメトリーできないし……って長髪時のハルヒじゃさすがに全身サイコメトリーしてしまうな。制限をかけておいて本当によかった。最悪の場合、鼻血が出過ぎて第四次情報戦争以来二度目の青古泉の命にかかわるかもしれん。
 空調完備の閉鎖空間があるから八月だろうと熱風を浴びせても何ら支障はないが、ブラはしていても胸が大きい分やはり肩こりが激しいようだ。これじゃマッサージしてもすぐ元に戻ってしまう。マッサージだけでも定期的にやるか?青朝比奈さんも一緒に。
『あまり考えすぎない方がいいんじゃないのか?その分、キョンの負担も増えるし、プレコグでなくても昨日のようになってしまうぞ』
それもそうだな。因みに、ジョンの世界でマッサージをすると現実世界の身体にもちゃんと反映されるのか?
『そんなこと考えるまでもない。バレーの練習に毎日のように取り組んでスタイルを維持するどころか、身体の筋肉がバレーボール用になってきてるんだ。双子を拡大したときも現実世界に反映された。マッサージも同じとみて間違いない』
だったら、日曜の夜はOG全員とW朝比奈さん、あとは希望者だな。
「はい、お疲れ様でした」
「キョン君、ありがとうございました。なんだか生き返った気分です!」
「そう言ってもらえると俺も嬉しいです。じゃあ子供たちを小さくして戻りましょう。片付けと、それから過去のハルヒたちの件よろしくお願いします」
「はぁい」

 

 しかし、『生き返ったような気分』というのは表現としてよく聞く言葉だが、どこぞのRPGじゃあるまいし、一度死んで呪文で生き返るようなことがない限り、『生き返ったような気分』を本当に味わうことなんてできまい。精々、死ぬ直前に意識だけ飛ばして俺の頭の中に入ってきたジョンくらい。影分身で自分自身を情報結合するようになってからはまさに生き返った気分だろうな。しかし、ジョンも漫画だけでこの話に割って入ってこないというのも面白くない。W有希のようにゲームに没頭させてみるか?
『一度死んで呪文で生き返ることがどうかしたのか?』
いや、こっちの話だ。だが、野球が終わったらリクライニングルームに今度はゲームを用意するからそれで遊んでみないか?カードゲームの話ではないが、色々と話のネタが広がると思うぞ?ジョンの嗜好品のゲームだってあるんだからな。
『キョン、それはないだろう。これから披露試写会だって言うのに、その前にそんな話をされては披露試写会に集中できなくなってしまうじゃないか。僕の記憶を消す方法を教えてくれたまえ』
佐々木の口調を真似をするな!いつからそれがマイブームになったんだおまえは!それに、記憶の消し方くらいおまえなら知っているはずだろうが!そろそろおまえも影分身で出て来い!…ったく、突っ込み所の多いボケだけはしないでもらいたいもんだ。今の時間は午後一時五十三分。五分前行動をするのも子供たちに教えておかないといかんな。って、時計の読み方もまだ知らないか。
 ようやく影分身で現れたジョンと二人で披露試写会の会場へ。俺が料理を作るようになってみんな時間前に集合するようになったのはこれまで通り。それにしても、人数が多すぎやしないか?このまえのラストシーンの再撮影のときのように映画に携わったスタッフ全員揃っているんじゃあるまいな。
「キョン!久しぶり!この日が来るのをどんなに待ち望んでいたか…あなたに会えるのが楽しみで仕方なかったのよ!」
「そんな、大袈裟ですよ。俺とジョンが最後だったようですね。見る限り……映画の関係者全員揃っていそうですけど…」
「ああ、その通りだよ。キミから撮影が終わったらキミの会社の最上階でフルコースをという話だったからね。今日の披露試写会が終わった後ならどうかとみんなに話したら、スケジュールを変えてまでここに来たスタッフや俳優陣もいるくらいだ」
ちょっと待て、こんなところでいきなりそんなことを言われても仕込みなんて全くやってないぞ!?古泉や青ハルヒに連絡しても二時間で間に合うかどうか……とにかく連絡が先だ。
『古泉、青ハルヒ、すまん。披露試写会のあとアメリカ支部の最上階でフルコースを堪能する計画をしていたらしい。俺も厨房に入るから試写会前までに可能な分だけでいいから仕込みを頼めないか?』
『そんな事だろうと思っていましたよ。僕も涼宮さんもビラ配りには参加せず、それぞれ自室で仕込み作業をしています。アメリカ支部の最上階のセッティングは有希さんに頼んでいますから、あとはOG達がホールスタッフを務めてくれるはずですよ』
『あんたは映画の主役なんだから監督たちと一緒に席に座っていればいいの!人数なら黄有希から聞いてるわ!このくらい、あたしと黄古泉君に任せておきなさい!』
『二人ともすまん。恩に着る』
「……キョン?」
「ああ、すみません。今、仲間と連絡をとっていたんです。スケジュールを変えてまで来た方がいらっしゃるのであれば、中途半端な料理を出すわけにはいきませんからね。ハルヒや他の仲間に仕込みを頼んでおきました。宣言通り、皆様にはアメリカ支部の最上階でフルコースを堪能していただきます」
俺たちの話を聞いていたらしき他のスタッフや俳優陣たちが歓声をあげ…というより雄叫びだな。
「あなたの料理に中途半端なんて一つもないわよ!披露試写会もそうだけど、そのあとあなたの料理が待っていると思うと……今までの疲れなんて吹っ飛んでしまったわ!」
「あ、一つお詫びをしなければならなかったことがあったのをすっかり忘れていました。今日の披露試写会のことがニュースで取り上げられてから、アテレコの件を日本の報道陣にFAXで連絡したんですが、こちらの方にまで日本の報道陣が押し寄せたそうで……誠に申し訳ありません」
「それは気にしなくて構わない。我々の周りを囲む記者が多少増えたところでどうということはない。それより、今日も日本の報道陣が何人も駆けつけているみたいだが、キミも気付いたかね?」
テレポートでこの場所に来たんだ。外の様子なんて分かるわけがない。とりあえずクリアボヤンスで入口前を確認すると、およそ三分の一が日本の報道陣らしいな。明日のニュースはどうなるのやら…
「監督、日本から直接ここに来たんだから、キョンに会場の前がどうなっているかなんて分からないわよ!」
「ええ、監督から話を聞いて今確認しました。かなりの人数が押し寄せているようですね。日本時間ではまだ昼の三時前ですから時差も関係なさそうです。そういえば…披露試写会の上映時刻がどうしてこんな時間になったんです?日本でも試写会のことがUPされてから一日でアクセス数が100万件を超えたというニュースを見ましたが…」
「年末は全米の半分以上がキミのパフォーマンスをテレビで見るくらいなんだ。この会場もすぐに埋まってしまうことくらい簡単に予想できる。少しでも混雑を避けるためにこの時間に設定したんだが……それでも試写会のチケットが完売するまでに一分とかからなかったよ」
ははは……青古泉がとりつけてきたアメリカ支部の初回発注が1600万部。SOS団の初ライブのチケットは二分で完売してたっけ。文字通り人口が桁違いだが……この会場を埋め尽くすのにわずか一分とは……
「では、皆さんも眠気や疲れがたまっているでしょうし、俺とジョンで取り除いてしまいましょう。因みに、二時間前に集合だったのは、打ち合わせ以外に何か理由でもあったんですか?」
「いや、僕もおそらくこうなるだろうと思っていたんだけどね。こっちでは遅刻してくる俳優やスタッフが多くて、集合時間より前に集まるように連絡するんだが、どうやら今回もその時間より前に集まってしまったらしい。諸連絡以外は試写会が始まるまで待っていなくちゃならないらしい」
やれやれ……やっぱりそういうことか。それなら俺も戻って仕込みをしたいところだが、軽く料理を振る舞うくらいが丁度いい。
「では、ただ待っているのも逆に疲れてしまいますので、日本の郷土料理を皆様に堪能していただきましょう。材料を捕ってきますのでしばらくの間お待ちいただいてもよろしいですか?」
再度雄叫びが上がり、食材が運ばれてきたが流石に本マグロまであるわけがない。
「キョン!日本の郷土料理って一体何!?」
痺れを切らしたスタッフが直接俺に問いかけてきた。
「寿司をご存じの方はいらっしゃいますか?これから海中に潜り食材となる魚を取りに行ってまいります」
『スシ?』
「海中に潜るのなら前にもみたことがあるけど、どうやって捕まえるの?それに残り少ない時間でまにあうのかしら?」
ヒロインの一言に周り全員が頷いた。
「では、捕獲するところから皆さんにお見せすることにしましょう。これから海上にテレポートします。先に言っておきますが、絶対に落ちることはありませんし、呼吸困難になることもありません」

 

疲れや眠気を取る作業はジョンに任せて、閉鎖空間を展開すると太平洋上空へとテレポート。そのまま海の中へと潜り、太陽の光が次第に届かなくなっていた。
「何も見えなくなってしまったわね。こんな状態でどうやって捕まえるって言うの?」
「光で周りを照らしてしまうと魚が逃げてしまいますからね。今魚を探しているところです。もうしばらくお待ちください」
この人数だと、一匹ではまず足りないだろう。海中を移動しながらサイコメトリー…しばしの間、沈黙が続き、二匹の本マグロを閉鎖空間に捕えた。
「捕獲に成功しました。これから浮上します。捕れた魚を目の前でご覧にいれましょう」
「何の道具もなかったはずだ…一体どうやって…」
「今皆さんの周りを囲んでいるものと同じものを狙った魚の周囲に展開しました。本人は捕まえられたとも知らずに悠々と海の中を泳いでいますよ」
次第に太陽の光が差し込み、二つの赤紫色の閉鎖空間に気付いたようだ。海上に出ると二つの閉鎖空間から本マグロ以外の魚介類と海水が流れていく。二匹の本マグロが全員の前に姿を現した。ここまでの俺のパフォーマンスに歓声と拍手が沸き起こる。
「さて、これから二匹の本マグロをこちらに引きよせ、電気ショックを与えて仮死状態にします。その際に多少暴れることがありますが、皆さんに水滴が飛び散ることはありません。勿論、僕の服すら濡らすこともできません。その瞬間をご覧いただきましょう」
本マグロがいる閉鎖空間を縮小して俺の手元へ引き寄せると二匹同時に尻尾の部分を掴んで見せた。水滴が飛び散ることは無いとはいっても半信半疑。本マグロが暴れると腕で水滴をガードしようとしたスタッフも見受けられた。
「ではこれから電気ショックを浴びせて仮死状態にします。音と光にご注意ください」
バリッ!という音と共に二匹の本マグロに雷が落ちる。さっきまで暴れていたのが嘘のように静まり何の反応も示さなくなった。
「先にキョンから聞いてたが、あまりの音に俺も吃驚したよ」
「さっきまであんなに暴れ回っていたのに、ピクリともしなくなったわね」
やれやれ…これと同じ反応を来週もう一回見ないといかんのか?俺は。全員のメディカルチェックを終えたジョンが俺の思考を読んだかのように応対した。
『これをやると言ったのはキョンの方だろう?さっき出てきた食材で調理するだけで良かったんじゃないのか?』
「これまでと似たような料理にしかならんから何か別のものを…と思っていたらこれが浮かんだだけだ。俺も別に同じ料理でも新川流料理ならみんな満足するだろうと後から気付いたんだ。頼むから、それを言わんでくれ」

 
 

…To be continued