500年後からの来訪者After Future2-15(163-39)

Last-modified: 2016-08-13 (土) 13:30:58

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future2-15163-39氏

作品

披露試写会当日。久し振りに過去のハルヒ達に連絡を取り、一緒に映画を見ないかと提案すると六人とも試写会に来ることになった。映画が始まる二時間前に呼ばれた俺とジョンだったのだが、案の定、時間前に全員が集合してしまうという異例の事態。ついでに今夜アメリカ支部でのフルコースをという話が監督から飛び出したが、古泉も青ハルヒもそれを予測して既に仕込みを始めていた。こんなことなら俺も準備しておくんだったと感じたものの、Wハルヒと有希が一人あたり三人前を食べるようになり、昼食は人事部のスタッフが、夕食は過去ハルヒ達が加わることで食事の支度で精一杯だったんだから仕方がない。披露試写会までの時間を潰そうと、寿司を全員に食べてもらおうと提案したのだが…やるべきじゃ無かったな。これと同じ反応をバレー合宿中にもう一回見ないといけないのかと思うと……やれやれだ。

 

 披露試写会の会場まで戻ると、調理台とシャリの入った寿司桶を情報結合。いくらなんでも米を炊いて粗熱撮る作業をしていられるほど時間は無い。余分な内蔵を取り除き、一番旨みのある大トロの部分をジョンに持たせてそこにいた全員に見せてまわってもらった。昨日のシャミセンじゃないが、初めて寿司を食べる人間にワサビは無い方がいいだろう。素早く赤味を切り分けると、まずは人数分の寿司が出揃った。
「これが日本の郷土料理の寿司です。醤油の入った小皿を配りますので、赤身に醤油をつけて食べて欲しいのですが、噛んだ瞬間、この場にいる全員が驚くことになるでしょう。監督、合図をしていだたけますか?全員で一斉に食べられるようにしたいので」
「分かった。準備はいいか?3…2…1…」
『hm―――――――――――――――――――――!?』
できないこともないだろうがジョンに手伝ってもらうのはちと厳しそうだ。全員が赤身の踊り食いに吃驚している間にどんどん握ってしまおう。すでに一匹目は頭と骨だけの状態。赤身が終われば中トロ、大トロと段階を踏んで味わってもらえるだろう。
「生の魚がこんなに美味しいなんて!」
「これが寿司ってヤツなのか!?」
「信じられないわ」
「キョンじゃないとこんなに美味しくはならないわよ!」
「何ということだ!噛んだ瞬間に赤身が動き出すなんて!キョン、これは一体どういうことだ!?」
ま、どうしてこうなるのか当然説明を求められるよな。しかし、手を止めるわけにもいかん。寿司を握りながら説明を始めた。
「去年の俺のパフォーマンスをご覧になられた方はどのくらいいらっしゃいますか?………ありがとうございます。その中で大根を切り裂いて元に戻すというものをお見せしたのですが、覚えていらっしゃいますか?」
「大根が元に戻ったのとどういう関係があるんだ?」
「あのときと同様、本マグロの細胞を一つも壊すことなく切り分けたんです。実際にお見せした方が早そうですね。とくとご覧ください」
みんなに見せたときと同様、頭と骨だけになった本マグロの尻尾を掴み刺激を与えると、内蔵も身体もない本マグロが暴れ始めた。
「そんな…キョンが動かしているんじゃないの!?」
「頭と骨だけで魚が動き出すなんてありえない!」
「俺が動かしているわけではありません。大根も本マグロも再生包丁という技を使っています。細胞をまったく傷つけない切り方をするため、仮死状態にあった本マグロが刺激によって目覚めたとき『自分はまだ生きている』という錯覚を起こすんです。ですが、ご覧の通り本マグロは身を切りとられ残っているのは頭と骨のみ。それでも俺の手から逃れようと身をねじった。皆さんが食べた赤身もこれと同様の細工を施してあります。噛むという刺激を与えることで仮死状態から目覚め、皆さんの口の中で暴れだしたというわけです」
「細胞をまったく傷つけずに切るとは……世界中の料理人を集めてもキミ以外に出来る人間がいるかどうか…」
「それよりもっと味わってみたいわ!キョン、まだないの!?」
「今握っているところです。順番にお取りください。赤身が終わったら、脂の乗った中トロや大トロも皆さんに味わっていただきます」
パフォーマンスを終えた俺に賛辞と拍手を送ってくれた。大変なのはここからだが、みんな一貫ずつ味わって食べてくれているから、そこまで待たなくとも食べられるはずだ。本マグロ一匹分食べ終わる頃にはそこにいた全員が満足気な表情をしていた。
「二時間ずっと待ってなきゃいけないと思っていたけど、いつの間にかキョンのパフォーマンスに引き込まれてしまったわね」
「どうやらそのようだ。僕も退屈な時間を過ごすことになりそうだと考えていたが、時間が経つのを忘れてしまっていたよ」
それだけの発言が出てくれば十分だ。もう一匹は古泉たちと相談してみるか。

 

『古泉、今大丈夫か?』
『ええ、仕込みも一通り終えて、そろそろ朝比奈さんが過去の僕たちに連絡を取ろうとしているところです。佐々木さんが興奮していますよ』
『過去の俺と二人でどんな研究をしているのか気になってるはずだからな。それで、用件なんだが、集合時間に遅れてくるのが当たり前の国で時間前に全員集合してしまってな。急遽、本マグロを取りに行って先日の寿司を食べてもらっていたところだ。この人数だと二匹捕らないと足りないと思っていたんだが、一匹で十分満足できたようでな。もう一匹仮死状態で冷蔵してある。もし加えられるようなら、フルコースに加えて欲しいんだがどうだ?無理そうなら明日の朝食にでも使うことにするが…』
『そうですね、この時間からではアメリカ支部で捌くところからということになりそうです。あなたが既に一度パフォーマンスとして見せているのでしたら、明日の朝食時でも巻き寿司と一緒に出してみるのはいかがです?圭一さんも人参はダメでも、納豆は大丈夫でしょうから』
『そうだな。子供たちのいい学習になりそうだ。じゃあ、後のことよろしく頼む』
『了解しました』
本マグロはキューブ化して本社81階の冷蔵庫の中へテレポート。調理台の情報結合を解除してあとは時間を待てばいい。披露試写会終了後の舞台挨拶は、舞台袖から俺、ヒロイン、監督、ジョン、科学者役の俳優の順番で並ぶらしい。ジョンが監督の次に出てくるってのは一体どうなんだ?それに俺もジョンも完成した映画を一度も見ていないんだが…古泉たちとは別でステルスを張るか?
『キョン、今回は俺たちの座席も用意されて、観客と一緒に映画を見ることになるそうだ』
笑点じゃあるまいし、一番いい席が用意されているんだろうな?って、なんで影分身しているのに俺の考えていることがジョンに伝わっているんだ?
『以前の有希と同じだ。キョンが考えていることが俺の頭の中にも入ってくる』
それならそうと先に言って欲しかった。それにしても披露試写会なんてこれまで一回も行ったことがないから日本や欧米でのシステムはよく分からんが、時間やチケット代等のことも含めて監督がこのスタイルでいくべきだと判断したようだ。最初に貰った台本に書いてあった映画のタイトルが変えられていたこともついさっき判明したばかり。『Nothing Impossible』なんて今日初めて聞いたぞ。『Impossible is Nothing』直訳すると『俺に不可能はない』ってところか。こいつを倒置法で強調して『Nothing Impossible』になったらしい。どっかで聞いたことあるような映画のタイトルだが、そんなことを気にしていたら新しい映画が作れなくなってしまう。中身で勝負といきたいところだろうが、俺もジョンもこの映画以降はどんなに依頼が殺到しても受けるつもりはない。たとえこの映画の続編だったとしてもな。

 

 どうやら客が入りだしたようで、会場内がざわつき始めた。俺やジョンに対する配慮なのかどうかは知らんが、俺たちにも見えない様にステルスを張っているらしいな。まぁ、終わった後のインタビューに応えている間にW鶴屋さんに大爆笑されたら苦笑いするしかなくなってしまう。開始を告げるブザーが鳴り、女性アナウンサーらしき人が話し始めた。反対側の舞台袖にはさっきの順番で俺たちが待機。ジョンには催眠がかかっていた。司会の誘導に従い、ステージ前へと姿を現す。これまでの年越しパーティで何度もスポットをあてられていたが、ここまでの黄色い歓声や拍手で迎えられたのは多分初めてだろう。映画を上映する前に一言…とスタッフからマイクを手渡された。こういうときは何て言えばいいんだ?こちらからは見えないとはいえハルヒ達が見ていると思うと逆に緊張するな。
「撮影には携わっていましたが、実は完成したものを見るのは僕も今日が初めてで……最初に渡された脚本に書いてあったタイトルが変えられていたのも、つい先ほど聞いたばかりです。監督をはじめスタッフの皆さんには色々と注文をつけてばかりで大変申し訳なかったのですが、僕の可能な限りのパフォーマンスがこの映画に凝縮されているはずです。是非、ご覧になっていただけると幸いです。よろしくお願いします」
拙い挨拶だったが、それでも会場中から盛大な拍手が届いた。マイクを司会に返し、スタッフに案内された席に座ると、前後左右から黄色い歓声が聞こえてくる。だがそれも、場内の暗転と同時に収まり映画が始まった。スタートは勿論カジノのシーン。ルーレットの座席について俺が100ドルを賭ける。ノーカットで撮影されてはいるが、プロのディーラーに予め番号を聞いておけば後はディーラーの腕次第。こんなところで驚いてもらっては困る。その後奥のフロアに通されてガードマンを天井に突き刺しカジノを制圧。仕事場に戻って仲間と会話したあと、家に帰って……って、自分のキスシーンをこんな大画面で見せられなきゃいかんのか!?結婚式以来だぞ、こんな恥ずかしい思いをしたのは。俺の思考を読んでジョンが笑いを堪えていやがるし、まったく……
 場面が変わってここからが本番だ。試写会の予告には無かった俺とハルヒのカーチェイスに会場中がどよめき、街全体を封鎖していた壁をトラックで突き破る前の百人組手。廃ビルに乗り込み、浴びせられた弾幕をはじき返した後、科学者と俺やヒロインとの逆転に次ぐ逆転。ジョンとのバトルを終え、駆け付けた仲間に血清を渡したところでエンドロールが流れだした。俺(主役)のせいで街全体に散布されていた毒が中和され、街の住民に血清が打たれる。ヒロインが俺を送りだして次のミッションに向かうところで終わりを迎えた。エンドロールの途中でSpecial Thanksとしてジョンと有希の名前が載っていた。ハルヒが怒りださなければいいんだが…まぁ、直前に釘を刺しておいたし大丈夫だろう。

 

再びステージ上に登壇した俺たちにまたしてもコメントを求められる。報道陣も会場内に入ってきているし、今度は何を答えたらいいんだか。こんな大画面で自分のキスシーンを見せられてめちゃくちゃ恥ずかしかったぐらいしか思いつかんぞ。
『別にいいじゃないか。そのまま答えたらどうだ?』
おまえ、他人事だと思って…くそ、他に考えつかん。
「あのー…映画に出演するのはこれが初めてでして、こんな大画面で自分のキスシーンを見せつけられるとは思ってなかったので、正直、今は恥ずかしくて仕方がありません。ですが、所々で笑ったり、驚いたりしてくださっている皆さんの姿を見て本当に嬉しく思っています。ありがとうございました」
「私はもっとキョンと夫婦関係でいたかったんだけどな。キョンのパフォーマンスにも料理にも驚かされてばっかりで、カーチェイスのシーンを撮影する前も、試運転のときに彼の車に乗ってみたんですけど、皆さんがご覧になったパフォーマンスを助手席で体感していました。他のドライバーもキョンのスピードに追い付かないくらいで…撮影するたびにキョンに驚かされてばかりでした。でも、本当に短い期間で撮影が終了してしまって…もっと色んなパフォーマンスを見たかったなと思っています。私も、多分、監督や他のスタッフたちも」
「僕も彼女と同じ気持ちでいます。あと一日でもいいからこのメンバーで一緒に有意義な時間を過ごしたかった、そう思っています。彼が僕に一つ提案をしてくるたびに『そんな事が可能なのか?』と疑ってばかりでしたが、そのすべてを見事にやってのけました。撮影中は我々までそのシーンに見入ってしまうくらいで、特に最後のシーンはそこにいた誰もが脚本を無視してでもその役になりきっていた。我々でもこの先一体どうなるんだと楽しみで仕方がありませんでした。そして、エンドロールにも載せましたがラストバトルのシーン、実は彼の仲間たちに手伝ってもらっていたんです。今横に立っているスタントマンも今はガスマスクをつけた大男にしか見えませんが、これも彼のパフォーマンスの一つです。そしてそのあまりにも速すぎるバトルにカメラが付いていくことができないと困っていたことも、彼の仲間が見事に解決してくれました。彼のパフォーマンスと彼の仲間たち無くしては決して完成することのなかった映画だと思っています。この場で御礼申し上げます。誠にありがとうございました」
監督の話を聞いたスタッフがここで動いた。スタッフから指示された女性アナウンサーが監督の言葉に対して疑問を投げかける。
「ということは、そちらの男性は一体……」
俺は催眠状態のままでもどっちでもよかったんだが、監督がジョンのことをバラしたんだからまぁいいだろう。マイクを受け取り、説明を始める。
「ええ、監督がおっしゃった通り、今皆さんが見ている人物は僕の催眠によって大男に見えているだけなんです。この会場内にいらっしゃる皆さんは『自分は催眠にかけられた覚えなど無い』と思われる方も多いと思いますが、これは彼に催眠をかけているため、他人には大男に見えてしまうんです。これから催眠を解き、僕の仲間の本当の姿が現れます。僕が指を鳴らした瞬間に変わりますので、瞬きをしないようにお願いします。では、参ります」
パチンと指を鳴らすと、ジョンが姿を現した。場内がざわつき始め、ここぞとばかりに報道陣がジョンにカメラを向けている。ジョンにマイクが手渡された。
『改めまして、ジョンと言います。僕がキョンとバトルすることになった経緯は、戦う相手が僕や他の仲間だったらもっと白熱したバトルが見せられるのに…という考えから生まれたものです。スタントマンには申し訳なかったのですが、キョンにも内緒で途中から入れ替わり、先ほど皆さんがご覧になった展開を経てラストバトルが始まりました。監督をはじめスタッフの皆さんには無礼を承知で脚本を変えることになってしまい、誠に申し訳なかったのですが、先ほどのような一言を頂くことができて光栄に思っています。ありがとうございました』
確かに、俺がそう考えたからこそ、ジョンが『勝手に』撮影に紛れ込んだわけだが……終わり良ければ全て良しとでも言いたげなジョンのマイクパフォーマンスに憤りを感じる。やれやれ…これもちゃんと伝わっているんだろうな?

 

 そして、最後にジョンから科学者役の俳優へとマイクが手渡された。披露試写会もこれで終焉だ。
「私がこうしてここに立っているのも、彼とのやりとり、それからあのシーンを演じていた全員のその場の閃きによるものだと思っています。拳銃から最後の弾丸を抜きとっていたことも、私が試験管を投げて彼がそれを撃ち砕いたのも、ジョンが最後に私を裏切って彼との最終決戦になったことも全て脚本には書かれていませんでした。私も試験管を投げたのはそのときの閃きと言うよりは気紛れに近いのですが、彼が弾丸で撃ち砕くであろうという一種の確信のようなものを感じていました。そこから見せられた二人のバトルはこの会場内の皆様がご覧になったものよりも更に激しい闘いもありました。これほどまで驚いてばかりの映画撮影は私も初めてでしたが、見てて面白い、役を演じていて楽しいと思えるのもこれが初めてのような気がします。ありがとうございました」
「ありがとうございました。では、これで………えっ?」
舞台袖にいた報道陣らしきスタッフが女性アナウンサーに耳打ちをしている。おおよそ何をさせられるかは予想がつく。大体どの辺りにいるのか分からんが一応連絡しておくか。
『古泉』
『了解しました』
阿吽の呼吸と言うヤツだろう。用件も言わずに名前を呼んだだけで『了解しました』と返ってくるとは。これが佐々木や朝比奈さんが羨ましがる関係ってヤツか?ったく、『オラ、わくわくしてきたぞ~』とでも言いたげだな。
『こんな狭い空間でわくわくすると思うか?さっき有希がやって見せたように異空間に移動するのならまだいいんだが…』
なるほど。確かに異世界に移動させるわけにもいくまい。閉鎖空間を展開して会場の壁に激突するくらいが関の山だな。
「え~今お話にあった、上映されたバトルより更に激しいものを是非見せていただきたいのですが、いかがでしょうか?」
女性アナウンサーの一言に観客が歓声を上げる。仕方がない。外側から会場を包む閉鎖空間と内部に衝撃吸収膜を張り周りの要望に応じた。
「では、場所も狭いのでほんの少しだけですが、CGを使わないと絶対に不可能なバトルをお見せしましょう」
この条件ならジョンがエネルギー弾を撃っても関係ない。ヒロインや監督が舞台袖に引っ込む前にジョンと二人で観客席の上へと舞い上がった。ある程度の距離をとったところでジョンと向かい合う。そこまで見せないんだから首が痛いなんてクレームはつけるなよ?会場内が静まり返り全員の視線が俺たちに集中する。おそらくハルヒだろうな。パチンと指の音が鳴った瞬間にジョンと激突。そのまま攻防を繰り返して会場内を上下左右に動きまわる。コーティングの移動をわざわざする必要はあるまい。次第に互いの攻撃が当たるようになり、互いに本気の一発が当たったところで会場の壁に激突。ようやく距離をとって小休止をと思っていると
『か~め~○~め~……』
おまえ、他にネタはないのか?年末に見せたばかりだろうが!ったく、
「ならこっちはリバースカードを一枚伏せてターンエンドだ」
カードが具現化され、リバースされたカードの下にいる観客も何のカードなのかは見えていない。開くまでのお楽しみってやつだ。
『波―――――――――――――――――!!』
「リバースカードオープン!マ○ックシリンダー!!」
黒い筒が二本具現化され、ジョンのかめ○め波が一方の筒に吸い込まれていく。それと同時にもう一本の筒からテレポートさせたジョンのかめ○め波がジョン目掛けて襲いかかる。どっちも世界的に有名になっている漫画なんだから、ちゃんと調べておけよ報道陣。おそらくジョンが考えていたカードはこれでほぼ間違いないだろう。自分で撃ったかめ○め波をジョンが天井に向けてはじき返すと、今度は素早く印を結んで左手がバチバチと音を立てながら雷を纏っている。そっちがそれでくるのならこっちはアレで決まりだな。右の掌に野球のボールくらいの大きさのエネルギー弾を出し、その内側でチャ○ラ……もとい、俺のエネルギーが乱回転していた。互いに準備ができたところで相手目掛けて突っ込み、二つの技がぶつかり合う。技と技が相殺し合い、勢いに負けて再度壁に激突した。これだけ見せれば十分だろうが……ヒロインや古泉たちは安心して見ていられるだろうが、女性アナウンサーや俺たちにバトルをけしかけた報道陣はどう思っているだろうな?ちゃんと後始末もしっかりやってやるんだ。感謝しろよ?マイクをテレポートさせて最後のマイクパフォーマンス。
「では、最後に僕のパフォーマンスの十八番。今のバトルで破損したこの会場を元に戻してご覧にいれましょう」
『元に戻す!?』
おいおい…本当に視聴率50%超えているんだろうな?年越しのパフォーマンスで何度も見ているはずなんだが…まぁいいか。観客が破損箇所に注目したところで指を鳴らして元通り。
「以上で終了させていただきます。ご静聴ありがとうございました」
観客だけでなくヒロインや監督、それにステージ裏からスタッフたちの拍手が聞こえてきた。

 

ステージ上からようやく舞台袖に下がることができ、ジョンと二人で溜息をついていた。宇宙人や超能力者と戦ったことはあってもこんな大舞台に立つのは初めてだろうからな。仕方あるまい。
「年末のバトルも見せてもらったが、目の前で見せられても未だに信じられないよ」
「それよりも監督!早く行きましょうよ!ディナーを食べながらでも話はできるわよ」
「ああ、そうだったね。キョン、キミの会社へ案内してくれないか?」
「その前に一つ確認したいのですが……皆さん解散場所はどうされるおつもりですか?ここへ戻ってくるということでよろしいでしょうか?」
「それなら心配いらないわ。みんな、あなたの会社に迎えの車を寄こすように伝えているはずだから。スタッフたちもそれで問題ないはずよ」
俺とジョン以外全員で帳尻合わせているのなら、なんで俺たちに連絡が来なかったんだ?おい。
「分かりました。今頃ハルヒ達が150階で待っている頃です。我々には見えない様に細工をしていたんですが、実はハルヒ達も映画を一緒に見ていたんです」
『一緒に見てた!?』
「そんな、客席は全部埋まっていたはずだ。座る場所なんてどこにも…」
見せた方が早そうだ。客席の一部を情報結合して見せ、閉鎖空間で囲って宙に浮かせる。
「試しにどなたか席に座ってみてください。俺たちはステルスモードと呼んでいますが、この空間ごと透明にすることができるんです」
真っ先に座るだろうと思っていたヒロインや監督は席につかず、スタッフ数名が椅子に腰掛けた。透明になるのかどうかを見る方にまわるらしいな。徐々に透明にしていくと周りで見ていた全員が驚愕の表情を浮かべ、イスに座ったスタッフはどうしてそんな表情をしているのやら見当もついていないらしい。
「これで観客の邪魔にならない特別席の完成です」
「あなた、本当に何でもできるのね」
「何でもはできませんよ。それ相応の修錬は必要ですし、実際に閃いて色々と試行錯誤していたらできるようになった。それだけです」
ヒロインが少々呆れていたが、この後のフルコースで満足してもらうことにしよう。
「では、このメンバーでの最後の晩餐になりそうですね。皆さんを我が社へご招待致します」

 

 アメリカ支部の150階についてすぐ、OG四人にそれぞれ案内され、一人一人に氷水が出された。古泉と青ハルヒ、朝比奈さんで調理を担当し、OG達と朝倉、佐々木で料理を運ぶようだ。先ほどステージ上に立った俺たち五人は隅の眺めのいい席へ。他の俳優陣も残った三隅に座っていた。監督やヒロインに窓側に座るよう促し、俺とジョンはもてなす側。本来であれば厨房に入りたいところだが、青ハルヒにあそこまで言われちゃ仕方がない。
「そういえば、SPの方々はどこで待機されているんですか?」
「さっきまで試写会の会場で報道陣を抑えつけていたんだけど…今は多分このビルの下にいるはずよ」
「来月からの宣伝にはSPはつくんですか?」
「あなたがSPのようなものだから必要ないって言ってるんだけど…報道陣に囲まれるだろうからって聞く耳持たないってところね」
「『報道陣に囲まれる』だけの理由でSPが付いてくるというのなら、簡単に解決できますよ」
「それ本当!?一体どうやるの!?」
「多分それがネックになるだろうと思って解決策を考えておいたんです。一品目ができるまでまだ時間はあるようですし、この場でやって見せましょう。スタッフの方に何人か手伝ってもらいたいのですがよろしいでしょうか。報道陣役になってもらいたいんですが」
俺の声が聞こえたスタッフがパフォーマンスが見たいのか、ぞろぞろと集まり始めた。そんなに人数はいらないんだが……
「では、先ほどお見せしたものと同様の空間を取りつけます。今度は移動すると勝手についてくるように条件をつけてあります。その状態でスタッフの方に向かって歩いてみてください」
ヒロインに移動型閉鎖空間を取りつけて準備完了。色が付いていた方が分かりやすいだろう。俺の指示に従ったヒロインがスタッフのところに向けて歩き出す。
「え?」「えぇ!?」「どうして!?」「押される…」
スタッフが閉鎖空間の壁にぶつかり、ヒロインが更に前に出ると尻もちをついてもなお押し出される。
「ストップ!どうです?今回はその空間の中に誰も侵入できないと条件をつけましたが、条件を『報道陣やファン』にすれば、SPがいなくとも報道陣は今のように押し出されてしまうでしょう。俺たちの周辺に入れる人物といえばせいぜいリムジンの運転手か通訳、あとは飛行機に搭乗している乗客くらいです。もちろん色は先ほどと同じように透明にすることも可能です」
「うん、これならSPも納得するに違いないわ!これであなたと二人っきりの旅に出られそうね!」
移動型閉鎖空間を外すとヒロインが席に戻ってきた。しかし『あなたと二人っきりの旅』って……間違いなく青ハルヒの耳に届いているだろうな。今夜あたりハルヒから文句を言われるか、さっきのジョンとのバトルを見て今日は野球よりもバトルだと言い張るかのどちらかになりそうだ。文句を言われる程度なら何も支障はないし、バトルならバトルで試したかったこともある。どちらになろうと差し支えない。

 

一品目はOG四人で四隅に散らばり、朝倉と佐々木が他のテーブルに回っている。
「しかし、キミが調理場に入るものだとばかり思っていたが、彼女たちに任せて大丈夫かね?」
「ええ、ハルヒは俺の手伝いをしながら持ち前のセンスで俺の料理を習得していますし、もう片方は俺の仲間の古泉という奴なんですが、俺と古泉が我が社専属のシェフから料理を教わり、俺が食材の旨味を最大限にまで引き出す方法を会得してから古泉の方も同じ事ができるようになりました。先ほどの再生包丁もアイツにも可能なんです。一口食べていだだければ、分かるはずですよ」
ようやく監督たちが一品目に手をつけ、最初の一口で理解できたようだ。
「なるほど、キミの言ったことが良く分かったよ。これまで食べてきたキミの料理と味の違いがほとんど感じられない。こんな品々がこの後も出てくるというのか?」
「ええ、今回はフルコースでご堪能していただきます」
「それにしても……舞台挨拶で喋りすぎちゃったかしら?キョンが隣にいるから興奮しちゃって…告知していないカーチェイスのことまで喋ってしまったわ」
「それについては私も同感です。ふと思い出しただけでもこの四人で演じたあのシーンが鮮明に蘇ってくるんですから……観客だけなら良かったんですが、私も興奮して喋り過ぎてしまいましたよ」
「心配はいらない。報道陣も抑えるべきところは分かっているはずだ。それに、舞台挨拶で我々が話した内容すべて放映されるようなことがあったとしても、この映画なら間違いないと僕は信じている」
「それもそうね。監督に言われて納得したわ。それに、わたし達だけのニュースばかり報道するわけにもいかないでしょうし。ねぇキョン、さっきのアレをこのあとわたしのSP達に見せてもらえないかしら?それに…告知に行くときはわたしのこと迎えに来てくれない?」
「SPに見せて説得するのは構いませんが、迎えに行くとなるとどこに何時頃伺えばよろしいですか?」
「おっと、キミに伝えそびれるところだったよ。キミの方には日本時間で九月二日の朝八時にこのビルの前にリムジンが止まることになっている。ここからの方が各TV局に近いからね。彼女の方はその前日から移動してもらうことになるだろう」
「でしたら、話は簡単です。その時刻の五分ほど前に彼女を迎えに行き二人でリムジンに乗り込むか、前日からこのビルのスイートルームに滞在していただいて、朝八時に俺がここにくるだけです。そのときの疲れや眠気はすべて取り去ってしまうまでです」
「最高よ!キョン、あなたがわたしをここまで連れてきて!それから二人でTV局をまわりましょ!えっと……こまったわね、メモできるものが無いわ」
「では、以前俺が日本語を教えたときのように、場所をイメージして人差し指で俺に触れてください。それで伝わります」
半信半疑だったようだが、目を閉じると場所のイメージができたようだ。人差し指で俺の掌に触れてきた。
「その表情だと、ちゃんと伝わったかどうか自信がないようですので、確認してみましょう。今度は俺が、さっき頂いた場所の情報を送ります。合っているか確認してください」
ヒロインにチョンと触れただけでジブリ映画のキャラクターのように表情が変貌した。
「これで決まりね!あとはSPを言いくるめれば、キョンと二人だけの旅行が楽しめるわ!」
「ちなみに、お飲み物はどうされますか?」
「僕はこれが最後の晩餐になるんだ。酒の肴にはしたくない。オレンジジュースにするよ」
「じゃあ、わたしも!」
ジョンも入れて全員一致らしい。ヒロインくらいは今後も俺の料理が食べられると踏んでワインを注文するかと思ったが、この分だと全テーブルがオレンジジュースになりそうだ。
『佐々木、俺達のテーブルにオレンジジュースを5つ。ジョンの分も入れて頼む。それからOGに他のテーブルに飲み物をどうするか聞いて回らせてくれ。もしかすると全員オレンジジュースになるかもしれんから、そのときは古泉にでも……って佐々木も情報結合できるか』
『くっくっ、そうだね。そのくらいなら彼に任せる必要もないだろう。僕が情報結合するよ』

 

 佐々木からオレンジジュースが届き、フルコースも様子を見ながら古泉たちが出してくれているんだが…最後の晩餐とあってかなりのスローペース。料理場が慌ただしくならなくて済むものの、タイムマシンを持っているメンバーが全員こっちにいるんじゃ過去ハルヒ達を送ることができん。今頃は…そうだな、夕食を終えて青チームのアンコール曲の撮影、その後はモニターをチェックしながら本社の81階で雑談中ってところか。青俺と過去俺がモニターを食い入るように見ているだろうし、青佐々木は過去佐々木と話が膨れ上がって止まることはありえん。だが、こっちが遅くなる以上、過去ハルヒ達に待ってもらうわけにもいくまい。
『朝比奈さん、そろそろ調理の方も古泉と青ハルヒの二人でなんとかなるはずです。向こうに戻って過去のハルヒ達を元の時間平面上に送ってきて欲しいんですがお願いできますか?』
『分かりました。あっ、でも、わたしここと本社とじゃ遠すぎてテレポートしても…』
『それなら古泉に頼めば大丈夫です』
『キョン君ありがとうございます』
野球の話になっていなくとも金曜の夜か土曜日にテレパシーを送ればいい。過去佐々木の方は都合がつくだろうが、過去ハルヒの方は会社経営で抜けられない可能性だってあるだろう。しかし、ハルヒなだけにこの土日で西日本代表を決める試合だと囁けば都合が悪くても飛び入り参加しかねん。
 しばらくして、監督やヒロイン、俳優陣、スタッフ全員がフルコースを食べ終え余韻に浸っていた。皿は全て情報結合を解除するだけで済むし、古泉もOGを一人ずつ本社に戻しているようだ。なら、邪魔者はとっとと移動させてしまおう。
「食事もお済みのようですので、最後に、満天の星空を見て解散にしたいと思います。座ったままで結構ですから、そのまましばらくお待ちください」
『古泉、というわけだから客をこのフロアから移動させる。その間に情報結合を解除して本社に戻っていてくれ。手伝えなくてすまん』
『いえいえ、こちらこそご配慮ありがとうございます』
このメンバーで俺の閉鎖空間をみるのもこれで最後になるだろう。フロア全体に閉鎖空間を展開すると、オゾン層の内側へとテレポート。閉鎖空間の色を少しずつ透明にしていくと星空がさらに輝きを増したように見えてくる。
「キョン、キミと一緒にいられて本当に良かった。最後にこんな景色を見せてくれたんだからね。僕はキミと共に過ごした日々を生涯忘れることはないだろう。ありがとう」
監督の言葉にヒロインが涙を流し、女性スタッフもそれにつられるように眼に涙を浮かべていた。
「短い期間でしたが、皆さんには本当にお世話になりました。彼女と二人でこの映画を世界各国に広めてまいります。ありがとうございました」
周り全員からの暖かい拍手を受け、感極まって俺まで涙を流しそうになったが、まだ最後の仕事が残ってる。
「では、ビルの一階へと移動します。皆様、ご起立ください」
座っていた椅子の情報結合を解除して一階へとテレポート。すぐ外にはずらりと並んだリムジンとSP達。どれが誰のリムジンだかわかりやしない。だが、年越しパーティのときのように俳優陣やスタッフ達が俺やヒロインに一声かけてくれて、自分のリムジンで帰っていった。何人かは地下に止めておいた自分の車で帰ったようだ。残ったのは監督とヒロイン、それにSPが四人。監督ももう言葉を述べている。「じゃあ」という一言を機にビルから去っていった。ヒロインのSPには先ほどと同じパフォーマンスを見せ、報道陣関連についてはOK。「ホテルの部屋にいるときに何度も呼び鈴を鳴らされて大変では?」という話もあがったがそれも扉と呼び鈴を情報結合したあと、閉鎖空間でベルも押せない状態にできることを確認させてようやくOKが出た。
『どこ○もドア~なんてな』
さっきのバトルじゃないが、そういう使い方もできそうだ。漫画の世界を俺たちが現実化しているようなもんだ。今後はアニメや漫画の実写版映画なんて出ないかもしれん。恋愛モノを除いてな。
「じゃあ、キョン。九月になったらわたしを迎えに来てね。待ってるから」
セリフが終わると共に二度目の撮影外でのキスをされた。Wハルヒがこの場にいなくて心底ホッとしたぞ。リムジンにヒロインとSPが乗り込み、車が見えなくなるまで見送って本社へと戻った。

 

「ただいま」
『キョン!』
『キョン(伊織)パパ、おかえり!』
『お疲れ様でした』
『(黄)キョン君、カッコ良かったにょろよ!でもあれだけ早いバトルだと何度も見ないと理解が追い付かないっさ!DVD持ってないにょろ?』
「そういえばそうでしたね。監督に頼むべきだったかもしれません。とりあえず来月から各国回る予定ですし、そのときにDVDをコピーしてしまえば……って、有希ならさっき見た映像をDVD化できるんじゃないか?」
「問題ない」
『有希先輩わたしにもDVDください!』
『できれば僕の分もあると嬉しいんだけど可能かい?』
『是非わたしにもお願いします!』
「わかった。この場にいる全員分焼き増しする」
高速詠唱後、てっきり素のままのDVDを渡されるのかと思いきや、ちゃんとケースに入れられてた上にタイトルが書かれたジャケットまで抜かりない。まさかここまでやるとは思わなかった。
「それで、あんたいつ出発するのよ」
「ああ、最後のディナーのときにようやく聞くことができた。こっちの時間で九月二日の朝八時にアメリカ支部前に来て欲しいそうだ。途中でヒロインのところに寄って二人で一緒に行くことになってる。まずはアメリカのテレビ局からだな。バレー合宿の最終日は見送りの後、ちょっとくらいは打ち上げができるかもしれん。それで、撮影の方は上手くいったのか?」
「わたしが上手く歌えなくて何度か撮り直しをしましたけど、最後はハルヒさんも納得していましたし大丈夫です」
「明日の午後にまた練習しましょ。W有希はいないし、あたしが羽を操作するから、みくるちゃんアカペラで歌って。このフロアじゃ無理だけど、体育館でならできるわよ。掃除もついでにやっちゃいましょ」
「そうですね。土曜日のライブまでに、もう少し何とかしたいです。体育館の掃除はわたしも手伝わせて下さい。磁場の作り方が分かればわたしにも出来ると思います」
「問題ない。今のあなたならイメージしただけで磁場が作れる」
「黄有希さん、ありがとうございます!」
「過去のハルヒたちは野球の試合どころか練習にも参加するつもりらしいぞ。『同じ涼宮ハルヒなんだから、選手交代の必要なんてないじゃない』だとさ。過去の黄俺に名前を呼び捨てで言われた佐々木が興奮して口を滑らせたんだ」
「それについては謝るよ。過去でどんな研究をしているのか気になってね。お互いの近況を話していたらつい…」
「いいえ。明日の過去の涼宮さんのバッティングによっては、打席に立つときだけ変わってもらおうかと思っています」
「ちょっと待ちなさいよ!あたしだってホームラン打つんだから!絶対に譲らないわよ!」
「だからこそ、過去の涼宮さんを先に打席に立たせるんですよ」
「とりあえず、座りながらでも話せます。あなたが一番疲れているんですから席にかけてください。それに青僕の狙いもおおよその見当がつきました。おそらく身長のことかと」
『身長!?』
「くっくっ、なるほど、涼宮さんとハルヒさんではストライクゾーンの広さが違うというわけだね」
『だからなんだっていうのよ!?』
「涼宮さんの打席は九番目ですから、そのときまでにははっきりとしていると思いますが、まず相手投手が女性陣のストライクゾーンの狭さにどのような対応をしてくるかを判断します。もし、球のコントロールに乏しいピッチャーであれば、過去の涼宮さんを出すことで球種を制限させるんです。そして次の打順で涼宮さんが出れば、一順前の経験から甘い球を投げてくる可能性が高くなる。つまり、ホームランをより打ちやすくするんです。逆にストライクゾーンが狭い女性陣が相手でも関係なくストライクゾーンに球を投げられるピッチャーなら最初から涼宮さんが出て、過去の涼宮さんは客席で観戦する。それで彼女が何を言おうと、これまで我々が勝ち抜いてきたからこその場ですから、そこははっきりとさせます。ただメリットがある場合に限り彼女を一回だけ出す、それだけです」
『ふむ、それならいいわ』
「でも、二人が入れ替わるときはどうするんですか?キョン君がずっと心配していましたけど、土日はベンチにもカメラが入ってくるんじゃ…」
「簡単ですよ。更衣室かトイレで涼宮さんが催眠を自分でかければいいんです。そして催眠状態を解除された過去の涼宮さんがベンチに戻ってくる。いくら監視カメラがあったとしても女性の更衣室やトイレにはないでしょうからね。まったくの別人がトイレに二人入り、同じようにまったくの別人がトイレから二人出てくる。六番手あたりで互いにテレパシーで連絡を取り合って動けば問題ないでしょう。攻守交代のときは多少急ぐ必要はありますが、トイレに行っていたと言えばそれで済みます」
『なるほど!』
「やれやれ……どうして頭脳は同じなのに、ボードゲームの強さとWハルヒに対する性癖でどうしてここまで違いが出るんだか。今も黄古泉の方は腕に黄色のバンダナを巻いてくれてはいるが、今日だって仕込みなりアメリカ支部で料理を作るなりでバンダナが邪魔じゃなかったか?確認するのにいちいちボードゲームをするわけにもいかんし、今後どうするかそっちの方が心配だ。ところで黄有希、古泉にかけた催眠、涼宮体には効かなかったが、過去ハルヒはどうだった?」
「そんなの黄有希さんに聞かなくても分かるわよ。涼宮さんが一人もいないときと同じだったから、別人に見えていたでしょうね」
「Wハルヒがいたとしてもそうあって欲しいもんだ」
「じゃあ、そろそろわたし達は明日からの旅行に備えて荷物の準備をしないと……」
「こっちもそうなりそうだ。だが、着替えくらいならいつだって戻って来られる」
「キミはもう休んだらどうだい?特にこの三日間は相当ハードだったからね。明日の運転のことも考えると、いくら疲れや眠気を取り去ることができるとはいえ、気分までは変えられない。ジョンの世界に行くとしても早めの休養を進めるよ」
「青有希ちゃんが言ってた荷物のことはあたしに任せなさい。双子もお風呂に入れておくから」
「分かった。なら後は頼む。有希、DVDありがとな」
「問題ない」

 
 

…To be continued