500年後からの来訪者After Future2-16(163-39)

Last-modified: 2016-08-14 (日) 12:51:12

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future2-16163-39氏

作品

披露試写会を終え、映画に携わった俳優陣、スタッフ全員に新川流料理をアメリカ支部の最上階で振る舞い、全世界にこの映画を広めてくると約束して、メンバー達と別れを告げた。TV局内の撮影では大規模なSOS団らしい宣伝はできそうにないが、アメリカ以外の国々ではちょっとしたパフォーマンスを見せれば評判になるだろう。この三日間で色々と疲れただろうからと、みんなから勧められたこともあり、先に自室に戻り湯船に浸かっていた。

 

 しかし、佐々木が言っていた通り本当に密度の濃い三日間だった。まぁ、半分以上は自業自得というか自分で自分の首を絞めていたんだけどな。昨日何していたかも思い出せん。まぁ、先々の予定は既に決まっているし、この三日間と同じように一日ずつ乗り切っていくだけだ。風呂からあがってベッドに横になると、朝比奈さんのマッサージのことが頭に浮かんだ。ジョンの言っていた通り毎日のようにやるのは無理があるだろうが、いくらほぐしてもすぐに元通りになってしまうんじゃな……。そう言えばジョン、確か影分身は三人以上は無理だと言っていただろ?どうして出来ないんだ?
『意識が半分になるか、どちらか一方に集中してしまうんだ。この前のプレコグで涼宮体相手に影分身で戦おうとしているのなら止めておいた方がいい。分裂して戦おうとしても、どちらか一方に意識が集中するだろう。ハルヒの力を分け与えていたとしても、結局一人で戦うのと変わらなくなってしまう』
ということは、戦闘以外で片方の意識がぼやけていてもいいなら影分身可能ってことだな!?すかさず印を結んで自分自身を情報結合。意識の八割を情報結合した自分に移動させて自分自身をマッサージすればいい。自分自身をサイコメトリーしながら身体の凝りをほぐしていく。超能力で取り去るよりも心地よいと思える時間が長いこちらの方がより疲れが取れていく感じがする。本体に残しておいた残り二割の意識からそれが伝わってきていた。W朝比奈さんがこれを使えるようになれば自分自身で肩こりをほぐすことができるだろう。
『そのための修錬を積むのは構わないが、どちらの朝比奈みくるも、いや、どんな人間でも自分自身でやるよりも人にやってもらった方がいいと感じるんじゃないか?特にサイコメトリーが使えるなら朝比奈みくるはキョンにやってもらいたいと思うだろう。その逆もな』
それもそうだな。俺もマッサージしてもらうなら朝比奈さんがいい。ハルヒだと痛みを伴いそうだからな。TV番組で良くやっているヤツだ。あれがわざとやっているのか本当のリアクションなのかは分からんが、足つぼマッサージなんてことになりかねん。などと考えているうちにいつの間にやら影分身が消え、ジョンの世界に足を踏み入れていた。

 

 さすがにまだ誰も来てないか。なら、まずはジョンのリクライニングルームにゲームを設置するところからだな。おまえの嗜好品もカードゲームで遊べるようになっているからそれも全部用意してやるよ。
『くっくっ、それは嬉しい申し出じゃないか。でもね、キョン。これから野球の練習だってことを忘れてないかい?』
だからどうして佐々木の口調を真似してるんだおまえは!?
『最初は試しに真似をしたらキミがどんな反応をするのか気になっただけなんだけどね、この口調だと意外と話しやすいことが分かったんだ。佐々木さんが饒舌なのもこのせいかもしれない。もっとも、目的と対策が逆転してしまっているけどね』
確かに、付き合ってみてつまらないと判断してすぐ別れていたハルヒと真逆で、自分を恋愛対象からはずす目的でこの口調にしたのに、逆に喋りやすくて饒舌になってしまったのなら逆転していると考えてもおかしくはない。今度佐々木と話すネタとして覚えておこう。そのときは俺も佐々木の真似をしてみるか。リクライニングルームに各種ゲームのハードとソフトを情報結合。どれから始めるかはジョンに任せよう。ほとんど決まっているだろうけどな。数年のブランクがあるとはいえ、何か途中で躓けば『歩くゲーム攻略本』の青有希がいる。ステルスモードにしているはずのリクライニングルームから出るとWハルヒが待ち構えていた。
「ちょっとあんた!青あたしから聞いたわよ!ヒロインと二人で旅行に行くってどういう事よ!?」
「そのことなら、俺がSPのようなもんだし、報道陣を寄せ付けることもなければ、ホテルの部屋の呼び鈴を鳴らされることもないとヒロインのSPに実体験してもらいながら事情説明していたんだ。SPさえいなければ、飛行機に乗っている間は二人とも寝ているように見える催眠をかけて、ヒロインがこれまで行ってみたかったところを巡ることができる。ハルヒが覚えてくれた言語を使って通訳が必要な場合も出てくるかもしれないが、このまえ教えた日本語と英語が通じる国ならヒロイン一人でも大丈夫だろ。彼女が一人で巡っている間は俺はこっちに戻ってきて仕事ができるし、ハルヒ達との時間も作れる。何かあればヒロインに備え付けた閉鎖空間が自動でサイコメトリーするようになっている。そのときは俺がテレポートでかけつける。そういう話だ」
詳細が分かって安心したのかどうかはわからんが、ハルヒが青ハルヒを睨みつけていた。
「ごめん、黄あたし。あたしもヒロインからそれを聞いてつい……」
「まぁいいわ。それよりあんた、今日はあたしとバトルしなさい!」
「有希や朝倉の超光速送球はもう大丈夫なのか?」
「あったりまえじゃない!何日経ってると思ってるのよ!」
「じゃあ、ちょっと準備する時間をくれるか?それに『あたし』じゃなくて『あたしたち』だろ?でないと張り合いが無い」
『言ってくれるじゃない!その言葉そっくりそのままあんたに返してやるわ!』

 

 リクライニングルームやその近くでやっていた野球の練習から遠ざかると青ハルヒが閉鎖空間を展開し、内側に衝撃吸収膜と遮音膜を張った。これも準備のうちの一つだが、俺がやりたいのは他にある。というより、ジョンの世界はどこまで続いているんだ?まさか、精神と時の部屋と同じとか言わんだろうな。
『俺にも良く分かってない。だが、あの部屋と違ってどこまで行っても現実世界には戻れるから心配はいらない』
それなら安心できる。って、ということはもっと広いスペースで野球の練習ができるってことじゃねえか。あんな狭いスペースでやらなくてもよかったんだ……なんで今頃になって気付くんだか。
「さっきと違ってバトルするならこのくらいの広さがないとね。で?何の準備をするのか知らないけどさっさとしなさいよ。フィールドならもう張ったわよ!」
「そう焦らすなって。俺もまだアイディアが浮かんだだけで実際にやってみるのはこれが初めてなんだ。成功するかどうか俺にも分からん。少し集中させてくれ」
『面白いじゃない!あんたが何を思いついたのか知らないけど見せてもらおうじゃない!』
『悟○、おい聞こえんのか○空!今のうちにフリー○を…』
ったく、もう無視だ、無視。影分身についてはジョンが言っていたように戦闘で、しかも涼宮体を相手に戦えるとは俺も思ってはいなかった。自分自身でマッサージができればそれで良かったんだ。第四次情報戦争のときはハルヒの力を纏って三体同時に相手にしていたが、決定打が全て回避されていた。だが、今まで纏っていたハルヒの力は精々三割程度、いや、もっと下回るかもしれん。宇宙全土にまで広がる情報爆発を起こせるようなパワーがこの程度のはずがない。俺なら情報爆発が起きるレベルを超えていても超能力としてしか換算されない。ハルヒから預かったパワーをすべて解放する。無論、外に漏れない様にしてな。両方の拳に力が入り、ジョンの嗜好品でいうところの気を上げている状態ってところか。俺から金色のオーラが吹き出し、寿司でいえば山型のバランのようなギザギザした形で安定していた。しかし、流石にハルヒの持っていたパワーとだけあって衝撃吸収膜では吸収しきれず、ジョンの空間に地震が起きていた。野球の練習をしていたメンバー達が何事かと俺たちの……いや、俺の方を見据えた。
「一体彼は何をするつもりなんです!?」
「涼宮ハルヒがこれまで持っていたパワーを全開放している。これと同じことを彼女がやれば、間違いなく情報爆発が起きているレベル」
「あわわわわわわ……」
どうやら、力の開放に成功したようだな。第二次情報戦争の時のように力が逃げていくような感覚もない。今度はこの力を取り込み全身に循環させるイメージ……徐々に吹き出していたオーラが小さくなり、体内を駆け巡っていくのが伝わってくる。さっきのジョンとのバトルで最後に見せた技の人体バージョンってところか。皮膚の内側でハルヒの力が血液と一緒に全身に行き渡っているような感覚だ。先ほどのように力を外側に全開放したんじゃ時間が経つにつれて体力を消費してしまうのが目に見えているからな。揺れも治まったようだし、向こうのメンバーも練習を再開できるだろ。最後に一つ、俺自身に催眠をかけて準備完了だ。
「待たせたわね。でも、こうなった以上、あんたたちに勝ち目はないわよ」
青古泉を除く全員から俺が涼宮体に見える催眠をかけた。青古泉にはハルヒとは全く別の女性が見えているはず。涼宮体に化けてハルヒの真似をした俺に苛立ちを隠せないらしい。
『ただの人形が……あたしの真似してんじゃないわよ!!』

 

ズッ!!
「フン、こんなに早く決着がつくんじゃ、面白くもなんともないわ。あたしが出てくるほどのことでも無かったわね」
Wハルヒが突進してきたのもつかの間、青ハルヒの心臓を貫いて涼宮体が言いそうなセリフを吐いた。ジョンの世界なら、本人に痛みはあっても現実世界には影響はでない。痛覚遮断を断ったんだ。相応のダメージは覚悟してもらうぞ。
『まったく影響が無いわけじゃない。首を刎ねるような真似だけはするなよ』
分かった。とりあえず貫いた腕を抜いて回復する。横に寝かせた青ハルヒの胸部に手をかざして回復を開始した。
「あんた!青あたしになんてことをっっ!!!」
ハルヒが涙を流しながら後ろから何度も攻撃してきているがまったくのノーダメージか。それどころかハルヒの方がダメージを受けている。
「痛っっ!!!こんのぉ――――!!」
背後から俺のこめかみを狙ったハルヒの蹴撃も足を捕まえてバトルフィールドの端まで放り投げる。青ハルヒの方も回復が完了した。ある程度の距離をとったところで青ハルヒが起き上がる。
「今度は少しくらい楽しませてくれるんでしょうね?他の連中と一緒にまとめてかかってくれば、一人くらいはあたしにダメージを負わせられるかもしれないわね」
「なら、そうさせてもらうわ」
朝倉がナイフを持って俺の背後から情報結合で現れた。急進派の親玉と戦ったときの教訓が蘇る。あいつはテレポートで背後から仕掛けても、空気の流れや殺気で相手の攻撃が読めた。あんなド変態との戦闘が数年経った今でも活きるなんて想定外もいいとこだが、あのときの親玉と同様回し蹴りで朝倉の攻撃に対応した。咄嗟にガードしたもののナイフは折れ、閉鎖空間にぶつかって落ちてきた朝倉を古泉が受け止める。その間にWハルヒに間を詰められ、二人の連携攻撃を仕掛けてきたが、さっきのハルヒの攻撃で十分わかった。こんなもの、避けるまでもない。即座にカウンター攻撃を二人に仕掛けるもテレポートで避け、ハルヒが正面から、青ハルヒが真上から突っ込んでくる。
「あの二人は囮。あたしにそんな小細工が通用するとでも思っているわけ?」
エネルギーを溜めていたジョンの背後を取り、Wハルヒ目掛けてジョンを蹴り飛ばす。即座に朝倉のナイフが上から降りてきたが二本指で白刃取り。ナイフは折らずに振りほどいた。三本目のナイフを情報結合しようとした右手を突き刺す。
「情報結合している暇を与えるとでも思っていたの?あたしに抵抗するつもりなら最初から何本か忍ばせておきなさい」
「そう。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうことにするわ」
背後から全コーティングを朝倉のナイフに集めたWハルヒによる突撃、真下にエネルギーを溜め切ったジョンが現れた。
『波―――――――――――!!』
ジョンのかめ○め波とWハルヒの突撃によるダメージで体勢が崩れる。
「死になさい」
朝倉お得意の千本が降ってきたが突き刺さる寸前でテレポート。ハルヒ達と距離をとった。

 

「今回はあたしの負けのようね。あたしにダメージを負わせたこと褒めてやるわ」
催眠を解き、バトルフィールドも解除した。
『あ―――――!!あんたちょっと待ちなさいよ!』
「とりあえず反省会だ。対涼宮体のシミュレーション、どうだった?」
「……あんたが青あたしの心臓貫いたときは、青あたしが本当に死んだかと思ったわよ」
「しかし、策もなく突っ込んでいくとあのような状況に陥るとみて間違いなさそうですね。一瞬にして戦況が変わってしまいます。ジョンや朝倉さんを入れてようやくダメージが与えられるようでは、僕も何と言っていいのやら分かりませんよ」
「あのー……」
朝比奈さんが申し訳なさそうに話に入ってきた。
「みくるちゃん、どうかしたの?何か言いたい事があるのならはっきり言いなさいよ」
「この前、キョン君が見た映像のこと、未来のジョンたちに伝えにいかなくていいんですか?」
「え……?黄朝比奈さん、未来人ですよね?未来人がそんな発言して大丈夫なんですか?それに、未来のジョン達に伝えてもいいんですか!?」
「未来人が過去に行ってその時間平面上の未来を変えようとするのは禁則に該当します。でも、今回の場合はキョン君が見た映像がきっかけで過去の人間が未来に行ってその時間平面上の未来を安定させようとしているのなら禁則にはならないと思うんです。こんな前例、今までなかったので多分としか言えないんですけど……」
「とすれば、黄朝比奈さんよりさらに未来の法律がどうなっているのか、ジョンなら知っているんじゃありませんか?ジョンがいた時間平面上では当たり前のように超能力者がいた。先日の彼のものは偶発的と言うべきですが、プレコグの能力を備えた超能力者もいたはずです」
『結論から先に言うと、ここにいるメンバーが救ってくれた時間平面上の俺や俺の仲間には、俺が直接出向いて伝えてある。そのときはまだ聞いてなかったらしいが、予知能力を持つ人間は当然いるし、悪い予知を未然に防ごうとする組織もある。ただ、あくまで可能性であって確証ではない。だが、その時のために仲間と共に修練を積むと言っていた。なるべく自分たちの手でなんとかするという話だったが、危機が迫れば必ず連絡を入れるように念押ししておいたから、後は俺があの時間平面上の様子を見ていればいい。それと、涼宮体はあそこまで強くない』
『はぁ?』
『俺と朝倉涼子は面白そうだったから参戦しただけってことだ』
「そうなるわね」
「あんた、あたしの仮面被った人形を相手にしたシミュレ―ジョンだって…」
「そうでも言わないと朝までバトルが続くだろうが。催眠は別として、さっきも言った通り、俺もただ閃いただけでこれをやるのは今日が初めてなんだ。これ以上やっていたら身体にどんな負荷がかかるか分かったもんじゃない。最初はこのくらいで止めておかないと、いざって時に対応できなくなってしまう。今日は俺のエネルギー切れってことで勘弁してくれ」

 

Wハルヒ…特に心臓を貫かれた青ハルヒの方はやり返さないと気が収まらないような顔をしていたが、あの状態の俺と戦って勝たないと納得しないだろう。体中をハルヒの力が駆け巡っていた状態から元の状態に戻し、そのあとは全員で野球の練習。双子が幸を連れて朝比奈さんの方へ向かっていく。さっき話したことがちゃんと言えるかどうか見物だな。
『みくるちゃん!』
「どうかしたんですか?」
『一緒に練習させてください!お願いします!』
「さっきのバッティング練習のことですか?それならボールとバットを持ってきてください。それから、今の挨拶は毎回しないとダメですよ?」
『はい!』
まぁ、やりたいことをやらせているわけだから意欲は当然あるとして、ちゃんと返事までできるようになったか。あいつらに負けていられないな。俺の方もハルヒの力を最大限まで引き出したあの状態になるまで、あんなに時間がかかっていたんじゃ、その間に向こうから攻撃されてしまう。もう少し時間短縮できるようにしないと……
『待たせたな。こいつが超サ○ヤ人3だ。まだこの変身に慣れてねえんだ』
やれやれ…おまえならそう言ってくると思ってたが、一語一句違わずとはな。よくもまぁセリフを覚えていられるもんだ。俺はストレートだけだからまだいいが、ちゃんと変化球投げてるんだろうな?OGに恐怖心を抱かせるようなことはするなよ?
『青チームの古泉一樹の例の視線じゃないが、キョンの考えていることが全部頭の中に入ってくるんだ。もう慣れたけどね』
あれ?確か逆遮音膜利用して聞こえなくすることもできるようなこと言ってなかったか?
『そういえばそうだったね。くっくっ、すっかり忘れていたよ。でも、そうでもしないと退屈で仕方がないんだ。今はキミが揃えてくれたゲームがあるけどね。待ち遠しくて仕方がないよ。キョン、早く時間が過ぎる方法を僕にも教えてくれたまえ』
口調どころか考えていることまで佐々木になりやがった。ったく、順番待ちしている佐々木にこのこと伝えてやろうか……。まぁ、いずれ話題に挙げるつもりだからいいか。ハルヒの先ほどの発言通り、有希や朝倉との超光速送球はもう心配ないらしい。あとは明日の夜、スピードに慣れておくだけでいいだろう。ハルヒも有希も朝倉もバッティング練習の方に参加していた。双子にホームランを打つと約束したんだ。昨日までより広いスペースを使って練習が続けられていた。

 

 翌朝、昨日キューブに収めておいた本マグロを取り出してサイコメトリーすると、やはり時間をおいてしまった分、再生包丁で切っても踊り食いできるかどうか…まぁ、切り身の端をちょっと食べてみれば分かるか。本マグロを捌いて切り身を一口食べると、前回ほどではないが踊り食いは可能らしい。赤身、中トロ、大トロ、玉子、納豆巻き、サラダ巻き、かっぱ巻き、ノンドレッシングサラダを作ったところで朝食は完成。それぞれ二貫ずつ用意してみたが、これでもちょっと多いかもしれん。まぁ、残ったら残ったでエージェントなり、Wハルヒや有希に食べてもらえばいい。そして、今朝のニュースはやはり俺たちの映画の件、新聞の一面記事は俺とジョンで見せたバトルが写っている。ジョン、おまえも一緒にどうだ?
『既にこっちでも見ているよ。アメリカの方も全局が俺とキョンの話題でもちきりだ。ヒロインや科学者役が心配していたコメントもほとんどカットされて、キョンと監督のコメントくらい。あの二人ももう確認しているだろうが、心配する必要がなくなったようだ』
どうやらそうらしいな。横で調理を進めていた青ハルヒも手を止めてニュースに集中している。毎朝お馴染みの男性アナウンサーがコメントを始めた。
「さて、先日から話題騒然だったキョン社長の映画の披露試写会が昨日行われました。我々が入ることができたのは舞台挨拶だけだったのですが、監督の一言から驚愕の展開に発展したこちらのVTRからご覧ください」
こっちなら時間もあるしアテレコするものだとばかり……って飛行機で移動する時間を考えていなかった。俺たちは移動時間ゼロだからな。まぁ、自分のアテレコは自分でやると言った以上、ここで変にアテレコされるくらいなら字幕で話した内容を訳してくれた方がありがたい。ニュアンスの違いは見られないし、監督の方もこれなら心配いらない。ジョンにかけた催眠を解いて、俺とジョンのバトルシーン、最後に会場の破損した箇所を全てなおしたところまで収められていた。
「はい、映画の告知にも二人のバトルシーンが映っていましたが、それを超えるバトルを会場内で見ることになるとは会場にいた観客も想定外の出来事だったことでしょう。監督のコメントにもありましたが、あのバトルをカメラで追うのはまず不可能だと言えそうです。さらに、キョン社長からCGを使わないと絶対に不可能なバトルとありましたが、世界的に話題となった漫画の世界観をそのまま現実のものにした二人のパフォーマンス。これが本当の実写版だと言えるのかもしれません。各社新聞記事も一面を飾っております」
相変わらずでかでかと文字が書かれているな。写真は俺とジョンが両方映った全体像を移したもの。ジョンがかめ○め波を放って、俺が筒を二つ具現化したところか。連射していたとはいえよくもまぁこんな写真が撮れたもんだ。
『漫画の世界が実現 DB VS 遊○王』
『決着!千鳥VS螺○丸』などなど
どこの新聞社も、漫画に出てくる技やカードを現実化したことをメインにタイトルを決めていたようだ。披露試写会を終えた後の観客のコメントまでバッチリ抑えられていた。日本での公開はあと半年後だと言ってあるのに……今から宣伝したところで公開前には忘れ去られているぞ…まったく。
「もう二、三回見ないと理解が追い付かないくらい驚きの連続よ!あんなアクションシーン見たこともないわ!」
「最後のバトルシーンも物凄かったけど、終わった後のクレイジー野郎とジョンのバトルも超最高だったよ!明日のニュース録画するからあのバトルを最初から最後まで全部放送してくれ!映画もあのバトルも何回も見ないと気がおさまりそうにない。俺もあんな技出せるようになりたいよ!カ~メ~○~メ~波―――――――!」
「発射された弾丸を掴んだり、弾き飛ばしたり、クレイジー野郎なんて名前じゃおさまりきらないほどクレイジーだったね!映画が公開されたら勿論見に行くさ!DVDやブルーレイが発売されたら絶対買うよ!あのシーンだけは忘れられない!」
いくらなんでも一つの話題で時間をかけすぎだ。ジョンの世界を抜けたメンバーが降りてきてしまった。
「披露試写会に参加したほとんどの参加者が何度も見たいとコメントするくらいですから、映画の方にも期待がかかりそうです。さて、次の……」

 

「くっくっ、二人とも呆然とTVを見ていたようだけれど、あのバトルだけでそんなに尺をとっているのかい?」
「あぁ、昨日のバトルに各社の新聞記事、映画を見た客のコメントまで全部だ。公開が半年後だってのにやりすぎだよ。映画の内容をバラすような客のコメントまで挟んでいたしな」
「そのニュースわたしも見たいです。黄キョン君や涼宮さんはずっと見ていたんですよね?黄有希さん、この前のようにテレビ画面に映像を出してもらえませんか?」
「それもいいけど、二人とも朝食どうしたのよ!?」
『キョン(伊織)パパ、わたしもお手伝い!』
ほとんど降りてきたし、始めてもいいだろう。
『朝比奈さん、この後全員にお茶を入れて欲しいので準備をお願いできますか?』
『はぁい』
「すまんが、今日は朝食前にみんなにやってもらいたい事がある。とりあえず、席についてくれ」
『やってもらいたい事?』
「なぁに、自分の名前を書くだけの簡単な作業だ。黄チームは鶴屋さんと佐々木以外は書く必要はない」
「一体何に名前を書くと言うのかね?」
テーブルの中央に湯呑を情報結合。各座席にはネームペンが一本ずつ置かれ、湯呑を持っている黄チームはそれぞれの湯呑をテーブルにテレポートした。
「青チームも青有希の部屋に行けばおそらくあると思うんだが、これから朝比奈さんがお茶を入れてくれるときはその湯呑で統一したい。好きな湯呑を選んで構わないがSOS団メンバーは互いの色や模様が被らないように選んで欲しい。サイコメトリーすればどっちのものかなんてすぐ判別がつくが、毎回それをやっているとエネルギーの無駄だからな。もし青チームで使っていた湯呑の方が良ければ、名前は書かずに朝食はそれで飲んでくれ」
「なるほど、あの食材なら既に配膳はほとんど済んでいるようなものですから、この時間を設けたというわけですか。我々はこのまま座っているだけでよさそうです」
『あの食材って?』
「なんだ古泉、話してなかったのか。映画が始まる前でも時間はあったろうに」
「それで、何の食材なんだい?」
「多分……本マグロ」
『本マグロぉ?』
「正解かどうかは別として、有希さんどうして本マグロだと思ったのか聞かせてもらえないかしら?」
「黄朝比奈さんがお茶の用意をしていて、みんなに湯呑が配られるってことは朝食は多分お寿司。映画の上映の二時間前に向こうに行って黄キョン君がやりそうなことを考えたら、それじゃないかな?って思った」
「黄キョン君、それ本当なんですか?」
「ええ、全部青有希の言う通りです。映画関係者に寿司を振る舞ったんですが、二匹必要だろうと思っていたら一匹丸ごと余ってしまったんです。それで古泉と連絡を取り合って、ディナーでは使わないことになり、今日の朝食はお寿司。今回はサラダ巻きとか納豆巻きも用意してあるので飽きることはないでしょう。ただ、時間が経っているだけあって、そこまで踊り食いにはならないと思うんですが、味はほとんど落ちていないので食べてみてください」
「なるほど、それでこの機会に自分の湯呑を選べというわけか」
「涼宮さん、我々はどうします?」
「んー…、折角用意してくれたキョンには申し訳ないんだけど、やっぱり高校時代使っていた思い出の品の方がいいかな」
「わたしも異論ありません」
「団長の決定なんだ。団員はそれに従わないとな。よし、俺が有希の部屋を掃除するついでに使ってた湯呑をここへ移動させておく。佐々木と鶴屋さんは黄チームと被らない様に選んでください」
「ハルヒとW有希は子供たちの分も頼む。三人とも自分の名前ちゃんと書けるか?」
『あたしに任せなさい!』

 

 名前を書き始めている間に朝比奈さんはSOS団メンバーの湯呑を預かりお茶を注いで配っていた。俺の方もキューブに収縮しておいた寿司の盛り皿をそれぞれの座席にテレポート。ノンドレッシングサラダで栄養面も問題ない。それと、ニュースのモニタリングはいつも有希頼みだったからな。俺でもできるかどうか試しにやってみよう。
「特に女性陣は食べきれないメンバーもいるはずだ。そのときは食べられない分をエージェントやハルヒ達に渡してくれ。それと今朝やっていたニュースの映像をモニタリングする。俺に有希の真似ができるか分からんが、失敗したときは有希に情報を渡して映してもらうつもりだ」
「問題ない。あなたならもう何でもできる」
「そういや、昨日ヒロインにも似たようなこと言われたな。失敗しても笑うなよ?」
さっきTVに映っていた映像をイメージして……スクリーンにそれを投影する……いけっ!!
指を鳴らすとアイランドキッチンの真上に巨大モニターが現れ、先ほどのニュースが流れ始めた。とりあえず成功したようで何よりだ。青ハルヒはもう見ている分食べる方に没頭しているが、他のメンバーはニュースを見ながら食べ進めていた。
「はい、どうぞ。熱いから気をつけてくださいね?」
「問題ない!」
子供たち一人一人に対する気配りもまさに女神そのもの。土日のライブが終わったら朝比奈さんにも着てもらおう。
「キョンパパ、みくるちゃんのお茶おいしい!」
「そうだろう、そうだろう。ちゃんと味わって飲むんだぞ?今度いつ飲めるか分からんからな」
「みくるちゃん、またお茶飲みたい!」
「じゃあ、楽しみにしててくださいね」
伊織が朝比奈さんの一言に大きく頷いた。顔は至って笑顔のまま、まさに天真爛漫と言えるだろう。伊織とは真逆の奴もいるようだがな。
『キョン、聞こえる?今日の野球の練習、あたしも参加するからそっちに送って頂戴!』
『残念だがまだ朝の会議中だ。朝比奈さんに連絡しておくから、もう少し待っていてくれ。一人で先に行っても練習にならんだろうからな』
『分かった。みくるちゃんからの連絡を待っていればいいのね』
いきなり過去ハルヒから連絡が来て驚いたが、ニュースを見たり、湯呑の件を説明していたりしてなければ食べ終わって練習に向かうメンバーが出始めるような時間だ。タイミングとしては決して悪くない。過去ハルヒもそこまで成長してくれたか。しかし、昨日俺がこのフロアに戻ってからもジョンの世界に入ってからも誰も過去ハルヒの力についてはふれなかった。もう過去ハルヒの力は消えてるってことでいいのか?
「ちょっと!キョン!」
ニュースが終わったらしい。今度はこっちのハルヒかよ。
「どうかしたのか?」
「あたしも有希も青あたしも三人前ずつのはずでしょうが!なのになんで大トロと中トロが二貫ずつしかなくてあとは赤身だけなのよ!?」
「おまえな、それをやったら他のメンバーから文句がでるだろうが。大トロと中トロは他の女性陣に一貫ずつ渡っている。先日やったばかりだし、やろうと思えばいつでもできる。今回はそれで我慢しろ。それと、ついさっき過去ハルヒから連絡が来た。朝比奈さんこの後過去ハルヒに連絡を取ってもらっても構いませんか?」
「わかりました」
「すいません、ちょっとよろしいですか?」
「こっちの古泉君から議題が上がるなんて珍しいわね。どうかしたのかしら?」
「いえ、議題ではないんですが、今朝から体調が悪くて…過去のハルヒさんの実力も見ないといけませんし午前中は練習に参加しますが、午後は休ませてもらえませんか?」
昨日も対涼宮体のシミュレーションをしていたにも関わらず、青古泉からは三人ともハルヒには見えなかったからな。もう一人仕事させるわけにはいかない奴もいたし丁度いい。
「明日、明後日のことを考えれば休めるときに休んでおいた方がいい。それと青古泉に加えてもう一人、そこの愚妹は今日は仕事はしなくていい。85階でくつろいでいても外を出歩いても構わん。そんなテンションで電話対応や本店での接客をされたんじゃ、我が社にとって悪影響になりかねん。今日一日自由にしていろ。だが、これが何日も続くようなら………分かっているな?」
「……分かりました」

 

「ん~~~~困ったわね」
「いきなりどうしたんだ、おまえは」
「午後のビラ配りのことよ!あんたと有希、それに黄あたし、黄有希、キョンがいないんじゃビラ配りのメンバーがほとんどいなくなっちゃうわよ。あたしとみくるちゃんは例の衣装で歌う練習するつもりだし、黄古泉君は食事の支度……って、閃いた!」
頼むから、後頭部を机にぶつけられるのだけは勘弁してくれ…Wハルヒの「閃いた!」が本当にいい案だった例がほとんどない。本人には記憶が無いがW俺が入れ替わったときに記憶喪失を取り戻すって言って奔走したくらいだ。
「くっくっ、ビラ配りなら僕たちも参加するよ。それに涼宮さんが何を閃いたのか教えてくれないかい?」
「古泉君、今日からあんたが青いバンダナをつけなさい!黄古泉君はこのあと食事の支度で大変になるんだから、バンダナなんて巻いてたら邪魔でしょうがないわよ!あんたはバンダナ巻いててもそこまで支障はないわ!」
「これはこれは…ご配慮痛み入ります。ですが、青僕はそれでいいんですか?」
「これは団長命令なんだから絶対よ!午前の野球の練習からバンダナをつけること!いいわね!」
Wハルヒの「閃いた!」にしては今回は良い方のようだ。青古泉の返答はなかったがコイツが青ハルヒに逆らうなんてことは絶対にありえない。ただ、そこまで体調を崩しているとなると明日、明後日が心配だな。催眠を解かずに青古泉を復活させる方法がないわけではないが、それを教えるわけにもいかん。
「よし、過去ハルヒも待たせているし、そろそろ練習の方に向かってくれ。俺たちはそれぞれ別ルートで広島マツダスタジアム付近の旅館に向かう。古泉、昼食と一緒にランチの仕込みを頼む。それから、W佐々木とハルヒ、有希に頼みたいことがある。今放送中のドラマをそれぞれ別々に見て、第二シーズンで招き入れる俳優の目星をつけて欲しい。誰がどのドラマを見るかは四人で相談して決めてくれ。今放送しているものより前のものが見たい場合は過去の有希と同期して有希から情報を貰って欲しい。俺からは以上だ」
「やれやれ…キミはハリウッド映画と同様、ドラマの方の脚本家と監督も振り回すつもりかい?案としては悪くないが、ジョンか朝比奈さんの協力が必要だ。僕たちだってすべてのドラマを見られるほど時間に余裕があるわけじゃないからね。どのドラマがどんなストーリーなのか過去の時間平面へ行ってドラマの紹介をしている雑誌を一部購入してきたいんだけど、どうだい?」
「問題ない。それも過去のわたしと同期すればいいだけ。冊子と一緒にドラマの宣伝をする番組も録画しておく」
「それで、結局ビラ配りはどうすることにしたんだ?」
「青わたしと涼宮さんはビラ配り後に体育館の掃除とアンコール曲の練習でいいと思います。長時間やっていても声が潰れるだけですから」
「それじゃ、土日の試合もファイナルライブも準備万端でいくわよ!」
『問題ない』

 
 

…To be continued