500年後からの来訪者After Future2-17(163-39)

Last-modified: 2016-08-14 (日) 12:54:41

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future2-17163-39氏

作品

先日の偶発的なプレコグを受けて、対涼宮体対策としてハルヒの力をオーラとして纏わず、力を全開放して俺の胎内に留めることに成功した。ただオーラを纏うだけよりも攻撃力・防御力・スピードとも遙かに上回り、第四次情報戦争のときのように三体まとめて相手をして時間をかけるようなこともなくなるだろう。あとはあの時間平面上の様子を見ているジョンから連絡が届いたときに、俺たちが500年後に出向けばいい。翌朝のニュースでは半年も先の映画を今から告知しているニュースに憤りを感じながらも、それぞれの仕事分担を確認して明日以降のイベントに備えていた。

 

「青俺、そっちがどうするか任せるが、俺たちは車に移動型閉鎖空間を張って一般道を高速運転しながら旅館に向かう。月曜日は青ハルヒがディナーの仕込みと夕食を作ってくれるだろうが、少しでも負担を減らしたいのと、いくら初日はOGだけで闘うとしても、披露試写会の件も含めて俺にインタビューしにくる報道陣が多数出てくるはずだ。今もいい加減無駄だと諦めればいいのに報道陣がぞろぞろと集まってきているしな。まぁ、ついでに閉鎖空間をより大きくする修行と、教育的な配慮として信号は全部青になるように条件をつけるつもりだ」
「キョン、わたしたちも黄キョン君の意見に乗りたい。涼宮さんはディナーの仕込みに集中してもらって、月曜日の夕食はわたしとハルヒさんで作る」
「分かった。有希の部屋の掃除と湯呑の件が終わったら俺たちもそれでいく」
『キョンパパ、ハルヒママと幸ママのご飯食べられるの!?』
「ああ、そうだ。でも、それは何曜日だって幸のママが言ったか聞いてたか?」
『月曜日!』
「じゃあ、ちなみに今日は何曜日だ?」
『むー…』
「伊織パパ、わたし分かった。金曜日!」
「幸、何で金曜日なのか双子にも説明してくれないか?」
「明日は野球の試合とライブがあるから土曜日。だから今日は金曜日!」
「幸、良くできました。みんなで拍手~」
幸に先を越されてふくれっ面をするかと思っていたが、おそらく野球の試合とライブが明日に迫っているからだろう。双子も笑顔で拍手を送っていた。そこへ荷物をキューブに収めたハルヒがエレベーターから降りてくる。
「では、道中お気をつけて」
「ああ、行ってくる」
『行ってきまーす!』
「いってらっしゃい」
古泉と朝比奈さんに見送られて異世界移動。俺たち五人はすぐに青有希のマンションを出発した。

 

 既に有希から今日寄る予定の製造所と旅館の情報を得て、かなりのスピードで走っているが双子が車酔いするような素振りも見せない。景色は楽しめないだろうが、家族旅行を満喫してくれればそれでいい。
『キョンパパ、「ぐまい」ってなあに?』
「何で急にそんなこと聞くんだ?」
『キョンパパ、「ぐまいは休み」って言ってた。キョンパパは日曜日がお休み』
「ああ、簡単に言うと『馬鹿な妹』ってことだ」
『ばかないもうと?』
「『馬鹿な』の部分は置いといて、二人から見れば有希は『お姉ちゃん』だろ?逆に、有希から見れば二人は『妹』になる」
『有希お姉ちゃんはわたしのお姉ちゃん。わたしは有希お姉ちゃんのいもうと?』
「そうだ。それに、お姉ちゃんと妹を合わせて『姉妹』っていうんだ。この機会に覚えておくといい」
『有希お姉ちゃんとわたしで「しまい」むプっ、しまい、しまい……』
愚妹との関係より有希と姉妹の関係にあることに興味を持ってくれて何よりだ。
「ところで、総監督。九月に入ったら青古泉のドラマの最終話の撮影だろ?エージェントVSジョンのシーンはどうするつもりだ?」
「ストーリー上、昨日みたいな本格バトルは認められないわ。でも、ジョンやエージェントだからこそできる要素は盛り込みたいと思っているの。それが何かはあたしもまだ思いつかないんだけどね。あんたの映画と同じ様にノーカットにしようとしても1対8じゃ、いくら有希のカメラでも無理よ。エージェントがカメラの前に立ちふさがってジョンのバトルシーンが撮れないわよ」
「問題ない。その場合はカメラに透視能力をつければいい。エージェントの背中が映ったらそれを透視してジョンのバトルを見せる。それに、映画ではジョン以外のスタントマンとのバトルは杜撰なものだった。あなたの言う通り昨日のようなバトルはストーリー上無理がある。でも、一般人の殺陣より数倍マシなものが撮れるはず」
なるほどね。透視能力を備えることでそれも一種のカメラワークとして視聴者に魅せるのか。あとはジョンとエージェントにバトルを繰り広げてもらえばいい。有希が撮影したものの中で、ハルヒの納得がいくバトルシーンを選ぶ。あとは脚本次第でバトルシーンの尺がどのくらい取れるかってところか。
「じゃあ、それで試しに撮影してみましょ。それと、撮影場所のことなんだけど、あたしのイメージは大体決まっているの。有希、セット用意できる?」
有希の手に触れてハルヒのイメージが有希に伝わった。はたしてどんな建物になっているんだか。
「分かった。天候や背景については壁画でなんとかなりそう。でも、ジョンとエージェントのバトルを考えると本社の下層階では狭すぎる。セットを作ってラスベガスで撮影する」
「昼に一旦戻るからW佐々木にもその情報渡しておいてくれ。ジョンに渡すのはアイツの世界に行ってからでいい。
今はゲームに没頭中だからな」
『ゲーム?』
「昨日のバトルを見れば分かると思うんだが、この時間平面上の漫画やアニメには大分精通してきたが、ゲームのこととなるとまるで話が通じなくてな。昨日、どっさりゲームを用意してリクライニングルームから出たらWハルヒが待ち構えてたってわけだ。今頃、ジョンの嗜好品のカードゲームで遊んでる最中だよ。数日もしないうちにW有希と話が合うようになるだろ。何せ、昼間はほとんど暇人だからな。これで余計なことでジョンに話しかけようとすれば、文句しか返ってこないだろう」
それっきり、ハルヒも有希も子供たちの問いかけには反応していたが、それ以外はそれぞれで何かを考えているらしい。有希は久し振りにゲームの時間を取りたいとでも思っているのかもしれん。モン○ン系なら一緒に狩りに行けるだろうし、青有希VSジョンの格ゲー対戦も見てみたいもんだ。中学生の職場体験前には社員を集めて新川流料理を振る舞う機会ももてると良いな。社内交流会ってところか。調理は出来なくとも仕込みを手伝うことならいくらでもできるだろ。新川流料理を食べながら泥酔するまで飲む奴など日本全国どころか全世界で考えたとしても一人もおらん。もしそんな奴がいたら、残りすべての人類から忌み嫌われることになりそうだ。

 

 製造所めぐりも前回と同様、クセが強く使いこなすには至らないものばかり。古泉からのテレパシーを受けて昼食を取りに本社へと戻った。先ほどのハルヒのイメージと議論した内容をまとめて有希からW佐々木へと情報が手渡された。
『凄いよ、もうここまで考えていたのかい?これなら僕もイメージが膨らんで最終話の脚本がまとまりそうだ。すまないが、ビラ配りが終わったら僕たちは脚本作りに専念させてくれたまえ』
「しかし、ラスベガスにセットを作っての撮影となると、ジョンとエージェントの戦いの撮影は眠気を取って夜間に行うことになりそうですね。同様に、新川さん、森さん、朝倉さんが抜けるとなると、ランチとディナーは月曜日なら回避できますが、デザイン課や編集部では編集長がいない時間ができることになります。こちらも夜間の撮影になりそうですね」
「それで、どうだったんだ?過去ハルヒの方は。てっきり昼食を一緒に食べるものだと思っていたんだが……」
「出場条件に関してはすべて伝えました。ですが、地域代表クラスが相手では、いくら過去のハルヒさんのセンスをもってしても厳しいでしょう。明日の相手投手にもよりますが、ストライクゾーンの狭さを含めてもプラスマイナス0。涼宮さんが打席に立った方がより確実です」
「昼食は過去に戻ったら用意されているだろうから平気だって言ってました。古泉君とも話したんですが、多分過去の圭一さん達も会社の社員として加わっていて、過去の新川さんが作っているんだろうって。明日は過去のキョン君と佐々木さんを除いた四人で観戦しにくるそうです。お弁当四人分追加した方がいいですか?」
「それなら心配いらないわよ。過去のあたしたち四人分の湯呑も持ってきてもらって、過去のみくるちゃんと二人でお弁当を作ればいいわ。お茶を煎れる手間が半分になるし、丁度いいじゃない!」
「そうですね、ハルヒさんありがとうございます。過去の自分にテレパシーを送るのはちょっと戸惑いますけど、わたしがちゃんと伝えておきます!」
『ハルヒママ!みくるちゃんのお茶が飲めるの!?』
「そうよ。でも、あんたたちもしっかり応援するのよ?」
『みんな頑張れ―――-!!』
「人事部も朝からてんやわんやで、君とジョンに番組出演の依頼ばかりだ。すべて断ってはいるが、向こうもなかなか引き下がってくれなくてね」
「わたし達もできるだけ手伝いましょ。月曜日まで凌げば、後は黄キョン君がインタビューでシャットアウトしてくれるわよ。この土日は人事部に誰もいない状態の方がいいんじゃないかしら?」
「それもそうだな。『バレーに関すること以外応えるつもりも番組に出演するつもりもない』と宣言してしまおう。だが、今日は手伝えるメンバーとなると青朝倉くらいになりそうだな。W鶴屋さんは喋り方が独特だし電話対応には不向きじゃないか?それと、青朝比奈さんに、月曜日返ってくるOG二人の部屋の掃除もお願いしたいんですけどいいですか?」
「分かりました。体育館の掃除が終わったら二人の部屋の掃除もやっておきますね」
『(黄)キョン君!あたしを戦力外通告するつもり?あたしだってその場に応じた話し方くらいできるっさ!』
『あ``………』
本人たちは詰めが甘かったと後悔し、周りのメンバーは苦笑い。
「まぁ、今のは電話ではありませんから心配いりません。じゃあW鶴屋さんもよろしくお願いします」
『あたしに任せなさい!なんちゃって。ちょっとはるにゃんの真似をしてみたにょろ』
「くっくっ、子供たちもジョンも他のメンバーの口調を真似するのがどうやら流行っているようだね。僕もやってみたいんだけど、何かいいアイディアがあったら教えてくれたまえ」
『もうキミが僕の真似をしてるじゃないか。キミこそ何かいいアイディアは無いのかい?』
「ジョンが最近佐々木の口調の真似をするようになったんだよ。テレパシーで連絡が来るとどっちだか違いが分からないくらいだ。ジョン曰く、佐々木の真似をしながら喋っていた方が話しやすいそうだ。W佐々木が饒舌なのもこの口調のせいじゃないかなんて言ってたよ。本来の目的と対策が逆転してないか?ってな」
「確かにジョンの言う通りかもしれませんね。朝と夕方は佐々木さん本来の口調に戻してみてはいかがです?」
『長年この口調で通してきているせいか、僕本来の口調と言われてもどんなものだったか忘れてしまったよ。そうだね…中学……小学六年生くらいの頃まで遡らないといけないかもしれないね。キョンと話していた頃にはもうこの口調だっただろう?それ以前の僕となると、知っているのはせいぜい国木田君ぐらいだろうね』
「国木田に聞いたところで可能性は低いだろう。そんなことより、黄俺と一緒におまえの言う小学六年生の頃にもどってステルスモードで自分の話し方を聞いていたらどうだ?それなら黄朝比奈さんの禁則にはひっかからないだろ?」
『僕のことを考えてくれるのは嬉しいけれど、その頃の僕の話し方を聞いてじゃあそれにするかと言われると話は別だ。今さら少女時代の口調に戻すなんて逆に恥ずかしくなってしまうよ』
「とにかく、長話になってしまいましたね。僕と朝比奈さんも片付けと夕食の支度が済んだら人事部に向かいます。あなた方はこちらのことは気にせず、家族の時間を楽しんできてください」

 

 異世界に戻るころにはすでに午後一時を過ぎていたが、製造所を回りながら旅館に向かっても三時前には着いてしまっていた。だが、これなら青ハルヒのディナーの仕込みも手伝うことができるし、インタビューにも間違いなく応えられるだろう。それに加えて、ハルヒの舌を唸らせる程のみりんをついに見つけることができた。実際に試すのは月曜日の夕食や九月に入ってからになりそうだが、社員食堂でも使えるようになれば俺が直接あの製造所に出向いて大量のみりんを購入し定期的に送るように依頼することにしよう。今回の旅館は前回のようにカラオケや卓球があるような旅館ではなかったが、家族風呂はちゃっかりと予約済みになっていた。個室でゴムボールで子供たちと遊んで過ごし、午後六時を三十分程過ぎたところで古泉から連絡が届いた。
「それで、人事部の方はあのあとどうなったんだ?」
「ちょっとあんた、休息になってないじゃない!黄古泉君の言っていた家族の時間を楽しんできたんでしょうね?」
「涼宮さんもそこまでキョン君のこと責めないでください。子供たちの表情を見ればすぐ分かります」
『キョンパパと野球の練習したの!』
「とりあえず、昨日の今日ですから午後はそこまででもなかったようです。これ以上しつこいとどうなるかこれまで散々知らしめて来ましたからね」
「そうか。じゃあ、明日明後日は青朝倉の案で行こう。もしよければ圭一さんたちも球場へ見に来ませんか?」
「嬉しい申し出ではあるが、あそこまで新聞沙汰になったくらいなんだ。ほとんど見えない席に座らされるよりはテレビで見ていた方がいい。ここのテレビに映像を映してくれると助かるよ」
「有希、頼めるか?」
「問題ない。前回と同様わたしが撮影したものと、青チームの世界で生放送しているものを両方同時に映す」
「青古泉、体調の方はどうだ?」
「朝に比べれば少しはマシになりましたが、明日の朝どうなっているかは分かりません。打順もポジションもお伝えしてありますので、僕がダメそうなら皆さんで宜しくお願いします」
「で、そこにいる愚妹は明日は大丈夫なんだろうな?さっき言った通り明日明後日は人事部での電話対応はなし。ほとんどが本店で接客だ。土日だから客も沢山来る。できなければ……」
「明日は大丈夫です。それ以降もちゃんと応対します」
「よし、最後に一点。母親と青朝倉が揃っている今じゃないと伝えられなかったんだ。日本代表に先日の寿司を食べてもらう日を来週金曜日かその翌週の月曜日にしようと思っていたんだが、二十四日の月曜日にすることにした。金曜日じゃ、次の日社員にクジが配れなくなるからな。ディナーが寿司になると、日本代表チーム全員の昼食がすべて栄養満点ランチになる。青朝倉はその材料の量増しと母親にはそのときの対応をお願いしたい。以上だ」

 

 夕食後、青俺たちと同期をしてハルヒが買ってきたみりんを青有希に見せた。
「これならハルヒさんの料理ももっと美味しくなりそう。でも、他の調味料の加減も考えないと…」
「九月になれば、いくらでも料理研究できるわよ。青有希ちゃんも手伝ってくれない?」
「問題ない」
W俺の二世帯で旅館に戻り、俺たちは当然家族風呂。
「二人ともこの前のように我慢する必要はないからな。あがりたくなったらあがっていい。それにしても、先週これと同じことをやったはずだが…はるか昔のことのように思えてならない」
「あなたたちさえよければ、わたしは毎日でもかまわない」
『毎日!?毎日みんなでお風呂入れるの!?』
「99階の内装を弄る必要がありそうだが、こうやってゆったり湯船に浸かっていられるのなら俺はそれでいい」
「あんたがそう言うのなら、あたしもそれでいいわよ。部屋の内装についてはあんたに任せるわ」
九月二日からはそうも言ってられなくなる。来週月曜のディナーの片付けは別のメンバーに任せて家族風呂を満喫させてもらうとしよう。風呂からあがって浴衣を着ると布団の上に座ってハルヒと有希に声をかけた。
「二人とも、明日は頑張ってもらわないといかんからな。一人ずつマッサージをする。まずは座ってくれ」
『キョンパパ、わたしも見たい!』
「見るのもいいが、二人にもマッサージしてやるよ」
同位体にマッサージが必要なのかどうか疑問だが、有希は俺とハルヒの養子で双子のお姉ちゃん。頭部から首、肩、背中まで終えると、布団に寝かせて腰、太腿、ふくらはぎ、足の裏とマッサージ。太股のマッサージをしている頃には有希は寝息を立てていた。子供たちも同様にマッサージをして眠気を誘い、最後にハルヒ。四人とも眠ったところで有希とハルヒに腕枕をして俺も眠りについた。

 

 ジョンの世界に来てすぐ、日本代表二人が俺のところにやってくる。
『キョン先輩!私にもシャンプー&カットしてください!』
丁度いい。こっちも伝えることがあったんだ。
「二人とも午前中の練習は抜けられるか?月曜は広島マツダスタジアムからドライブで戻ってくるから無理だが、火曜日以降ならいつでも可能だ。あと、寿司を出す日が二十四日の月曜日に決まった。余った材料で社員にも堪能してもらいたくてな。監督には『豪華絢爛回転寿司食べ放題 本マグロの解体ショーも見せる』と伝えてくれ」
「分かりました。火曜日以降ですね。えっと、そのときってキョン先輩は81階ですか?」
「ああ、そこで仕込み作業をしているはずだ。居なければテレパシーを飛ばしてくれればいい」
「みんな『超気持ち良かった!』って言っていたので楽しみです!」『宜しくお願いします!』
さて、まずは一つやることを終えた。どうせWハルヒがバトルだと言ってくるだろう。昨日と同じ場所にバトルフィールドを展開して俺も準備に入る。一度フルパワーを外に出して吸収するから時間がかかる。体内でハルヒの力を最大限にまで高めてそれから体内を循環させる。眼を閉じてイメージを開始する。少しずつハルヒのパワーが俺の中で膨れ上がっていく。
『止めろキョン!それ以上はキョンの身体がもたない!』
ジョンの叫び声を聞いてすかさず元の状態に戻した。やはり一度外に出してからやるしかないのか……?とりあえず、一秒でも早くハルヒのパワーをすべて引き出すトレーニングからになりそうだ。今度は瞬時にフルパワーにするイメージをしてオーラを纏ったがフルパワーには至らず精々五割程度。衝撃吸収膜を三枚張っておいたから昨日のような揺れは起こらない。続けて力を引き出していくがやはり時間がかかってしまう。吸収する方もいくらイメージはできてもそれが追い付いて来ない。何か別の対策を考える必要がありそうだ。気付いた時には目の前にWハルヒが揃っていた。
「ようやく準備できたみたいね。昨日の一発のお返しをするまでは逃がさないわよ!!」
「ところで、昨日はすぐにあたしの仮面を被った人形に化けたから気がつかなかったけど、あんた、その髪と眼どうしたのよ?」
俺の髪と眼がどうかしたのか?別に何も弄ってないんだが……とりあえず美容院のセットにあるものと同じ等身大の鏡を情報結合してみた。………これは、ジョンに「俺とタッチしてくれ!」などと迫られそうだ。ハルヒの金色のオーラを髪の毛一本一本にまで行き渡らせたせいで髪の毛や眉毛、まつ毛が金色に染まり、目が黄緑色のカラーコンタクトを入れたような状態になっていた。超サ○ヤ人になった気分だ。しかし、オーラを纏っているわけじゃないし、どちらかというと超サ○ヤ人ゴッドの方かな。
「とりあえず、昨日と同じ形態になったらその影響でこうなってしまったらしい。昨日のような死にかけの状態に陥るような攻撃はしないが、大ダメージを受けることに変わりはない。古泉が言っていたが、策もなく突進してくるようなことだけはするなよ?」
『面白いじゃない!あんたがそんな攻撃を繰り出してきたとしても全部かわしてやるわ!』

 

 ったく、明日は試合当日だというのに青ハルヒは投球練習はいいのか?『昨日の一発のお返し』は構わんが、瀕死状態に陥るような攻撃はしないとはいえ、手を抜いたらそれはそれで怒るだろうし…これでは朝までかかっても終わりそうにない。いつものように突撃して来るかと思っていたのだが、Wハルヒが影分身……いや、影分身じゃない、これは……残像拳!Wハルヒの残像がバトルフィールド全域に次々と現れていく。さて、ここからどんな攻撃を仕掛けてくるのやら……残像が一つ消えるたびに別の場所に残像が現れる。だが、残像が眼に映るせいでWハルヒが何処を移動しているのかは分からなくなってしまったが、高速移動に変わりはない。Wハルヒの怒気が増した。
真上から青ハルヒ、真下からハルヒが拳にコーティングを固める。こんなもの、一歩横にずれるだけで容易くかわせる。攻撃対象を失ったWハルヒの拳が味方を攻撃。瞬時に状況を判断してコーティングの移動をしたのはいいが、気を抜いている場合ではない。掌に溜めたエネルギーがWハルヒ目掛けて拡散した。バトルフィールドの壁にぶつかってWハルヒがダウン。
「てっきり突撃から変化して仕掛けるもんだとばかり思っていたが、まさか残像拳を使ってくるとはWハルヒにしては考えたな。だが、攻撃の瞬間二人とも怒気が跳ね上がっていた。そんなんじゃ涼宮体にいとも簡単にかわされる。まずはそれを抑える訓練から始めた方が良さそうだ。………どうした?起きてこないのなら俺はOG達の捕球練習の方に向かうぞ。ただでさえ投げられる人間が少ないんだ。有希も朝倉もバッティング練習の方に入ってるしな」
「あたしたちも随分なめられたものね。あんたに『Wハルヒにしては』なんて言われて……黙っていられるわけないでしょうが!!」
抑えろと言ったのに怒気を上げたら意味がないだろうが。…いや、怒気を上げた状態で攻撃を仕掛けてくるのならその瞬間は捉えられないと判断したようだ。再度バトルフィールドにはWハルヒの残像が現れた。
「一度破られたものをもう一度使ってくるからには相応の策があるんだろうな?もう一発喰らわせたらバトルフィールドを解除して俺は向こうの練習に参加する」
『うるさいわね!それはこっちのセリフよ!次で終わらせてやるわ!』
残像が段々と近くなってくる。どっちのハルヒかは分からんが俺の背後にテレポートで現れた。だが、攻撃をせずに再び残像を残して高速移動。今度はまったく溜めずに撃ったエネルギー弾がこっちに向かってくるが、こんなもの弾くまでもない。何発かエネルギー弾が撃たれてから青ハルヒが真正面から俺の顔面に殴りかかってくる。カウンターで対処したものの、これも残像。……なるほど、そっちがそのつもりならこっちにも考えがある。体内に留めておいたオーラを再び身体の外に吹き出し、そのまま全方向に向けたエネルギー波を放つ。俺を中心に放たれたエネルギー波がWハルヒを巻き込んでバトルフィールド内全域を埋め尽くす。閉鎖空間の壁に激突したWハルヒが床に落ち、バトルフィールドを解除。解放していたハルヒの力を再び鞘に納めて情報結合したグローブをはめた。

 

 Wハルヒが気がついたのはそれからしばらく経ってからだった。日本代表二人も変化球を捕るようになり、佐々木のバントも逆回転の勢いが増してきた。朝倉には及ばないにしても、充分セーフティバントになると提言して佐々木もバッティング練習に切り替えていた。
『古泉一樹、時間だ』
ジョンの一言で古泉が先にここから抜けると、練習も終わりにしようと誰からとなく声が上がり、起床時間までは残ったメンバーで雑談会。Wハルヒは『もう一回あたしとバトルしなさいよ!』などと言っていたが、子供たちと話す時間も欲しかったし「一日一回だ。明日までに別の策を考えて来い」と伝えると渋々了承した。
「あと数時間もすれば試合開始か……練習の成果が出せると良いんだけど…」
「有希の心配も分からないでもないが、できればそのセリフは球団とやるときにして欲しいな。日本代表と戦いたいなんて言っても『無理だ』と言われるのがオチだろうし、海外組を戻して編成したチームと戦いたいところだが、そうも言ってはいられないだろう。現段階で一番勝率の良い球団との対決になりそうだ」
「くっくっ、過去の時間平面上での戦争の頃からかい?キミがそこまで言うようになったのは」
「多分黄俺と一緒にアメリカのマフィア相手に戦って少しずつ自信がついたからかな。黄俺の言ってた伏兵っていうのがまさか俺のことだとは思わなかったし、W鶴屋さんからのコメントもあのときは本当に嬉しかった」
「それにしても……青古泉君大丈夫でしょうか。ここにすら来ないなんて……」
「アイツのことだ、涼宮体がそのままの姿で見られたのなら、ジョンの世界に来ず、せめて夢の中でもいいからWハルヒを見たい。そんなところだろう。禁断症状が出てきたとしてもそれに耐えてもらわんとこの件は解決しない。催眠にかけられた状態でハルヒを見る方法が一つだけ存在するんだが、教えるつもりも毛頭ない」
『どうやって!?』
『くっくっ、キミはこういうときですらそうやって焦らしてくるのかい?この前のような失態はしないようにするからその方法を教えてくれたまえ』
「な?言った通りだろう?最近こうやってジョンが佐々木の真似をしてくるんだよ。ジョンなら俺の思考がすべて伝わっているから、そんなこと言わなくてももう知っているけどな」
「あの失態についてはちゃんと謝ったじゃないか。でも、有希さんがかけた催眠を振りほどいてまでどうやってハルヒさんの姿が見られるというんだい?僕にも教えてくれたまえ」
「黄キョン君、わたしも知りたいです!」
『こう見えても口は固い方っさ!』
「やれやれ……これが気になって試合に集中できないなんて言われても困るし……絶対にアイツが耳を立てている前で話すなよ!?…しかしまぁ、バレたらバレたで催眠を上乗せすればいいだけなんだけどな」
『いいからさっさと教えなさいよ!時間が無くなるわ!』
「催眠をかけたときは青古泉にWハルヒを見る策は一つたりともなかった。その後起こった出来事がきっかけなんだ。昨日も有希の真似をしてモニターでニュースを流しただろ?あれと同じ要領で、有希が俺の頭の中の情報を解析して見せたプレコグの映像を頭にイメージしてモニターに映し出せばいいんだ。涼宮体に睡眠はかかっていないからな。妄想ならアイツの得意分野だ」
「青古泉君がタイムマシン持ってなくてホンットに良かったわ。みくるちゃん、どんなにお願いされても500年後に送っちゃだめよ!?キョンのプレコグの原因は青古泉君のせいかもしれないんだから!」
「それは禁則に値するので絶対にできません。でないと、わたし未来に戻されてしまいます……」
「とりあえず、朝食のときに古泉の状態を確認して、無理そうなら俺たちで対策を練ればいい。野球のボードゲームはあっても、本物の野球の試合なら黄古泉のボードゲームの弱さは関係なくなるだろ?」
「問題ない。あなた達二人の集中力があれば、あとはその情報を元にわたしが対策を立てる」
『監督不在くらいで大袈裟だよ。青チームの古泉一樹がそこまで存在感の大きい人物だと俺には思えない』
「ジョンの言う通りだ。団長が団員を引っ張っていかないでどうする」
「言ってくれるじゃない。いいわSOS団団長のこのあたしが皆を引っ張っていくんだから!黄チームと過去の黄あたしたちにはちゃんと催眠かけといてよ?」
「問題ない。今いるメンバーはこれからかける。古泉一樹には朝食時にかければいい」
『わたしたちも一生懸命応援します!!先輩たち頑張ってください!!』
『キョンパパ!わたしも応援頑張る!』
「とにかく、球場についたらまずはグラウンドでスパイクレシーブ練習だ。ブルペンの方はハルヒは有希と一緒に趙高速送球の捕手練習、青ハルヒと青鶴屋さんで投球練習。俺たちが控えで、100マイルの投球を捕っているのがチアガールじゃ、いくらスタメン全員女性陣でも相手も緊張せざるを得ない。その間にさっさと点稼いで、朝比奈さんの弁当とお茶にありつくことにしよう」
『問題ない』

 

 昨日マッサージもしたし、特に疲れた様子もないので朝の家族風呂は無し。双子も俺たちと同じ時間に目を覚ました。洗面台に立つと両隣で双子が俺の真似をして歯を磨いている。こんなことができるのも、今日を入れてあと三回。そういえば……昨日の新聞記事ではないが、子供たちも夜はアニメを見ているんだったな。ニュースの男性アナウンサーが言っていたセリフではないが、本当の実写版ってヤツを見せてやろう。
「二人とも、これ、何だか分かるか?」
『……?キョンパパ、これパンツ?』
「パンツだったら足を入れる穴がついているだろう。これはな、お腹に貼って使うんだ」
『あっ!四次元ポ○ット!!』
今までやったことはなかったが、催眠をかけずとも声帯を弄ればどんな声でも出せるはず。
「こんにちは、ボク、ドラ○もんです」
『キョンパパ、もう一回!もう一回!』
「こんにちは、ボク、ドラ○もんです。今日はこれで朝ごはんを食べに行くよ。どこ○もドア~」
『おぉ―――――!!』
双子の眼が輝いて拍手をしていた。
「本社の81階へ」
ドアを開けると、目の前に現れた見慣れた光景の中へと飛び込んでいった。身支度の整ったハルヒと有希もそれに続く。最後に俺がドアを通り抜けてドアを閉める。すでに81階に来ていたメンバーがぽっかりと口を開けていた。
「みんな何固まってるんだい?異世界移動でいきなり現れるよりは分かりやすくていいだろ?」
口調は佐々木に似ているがドラ○もんの声のまま、おそらくこう言うであろうセリフを吐いた。どこ○もドアを四次元ポ○ットにしまって情報結合を解除。声帯を元に戻して席についた。朝食の準備をしている古泉の隣には朝比奈さんが二人。勿論青朝比奈さんではなく、タイムマシンで過去から連れてきた朝比奈さん。
『キョンパパ、タケ○プター出して!』
「あんなものを頭につけなくても自由に飛べるぞ。ほれ、どうだ?」
『わたしも飛んでみたい!!』
「じゃあ、どんな風に飛びたいか考えながら飛んでみろ」
初めて招待されたときにハリウッドスターに見せたパフォーマンスと同様、テレパシーとサイコメトリーの複合技で二人の思考を読み取り空中浮遊。その間に続々とメンバーが集まってきた。幸がこの光景を見る前に終わりにしておこう。
「二人とも今日はここまでだ。配膳のお手伝いしないとな」
『ぶー…分かったわよ』
「昨日の新聞の影響ですか?あまり道具を出し過ぎると、あなたの超能力では対応できなくなるものもでてきてしまいますよ?タイムマシンは実在していてもあの演出はどうするつもりなんです?」
「そうだな……そのときになったら考えるさ。因みに今朝のニュースはどうだった?また映像のスロー再生か?」
「ええ、今のように漫画やアニメの世界を実写化したところを中心にしたものがほとんどでした」
「すまん、遅くなった。って、古泉は?」
青俺たち三人が異世界移動で戻ってきた直後、青俺の一言に全員の視線が青古泉の座席に集まる。
「そういえば、古泉君降りてきませんね」
「眼が覚めれば降りてくるわよ。先に食べちゃいましょ。キョンたちには会場に車を移動させてもらわないといけないし、あたし達もコンディションを整えないとね」
「じゃあ、他の三人にも連絡して呼んできますね」
過去朝比奈さんが一旦自分の時間平面上へと戻り、過去ハルヒ達を連れてきた。こいつらにもあとで催眠をかけておかないとな。

 

過去ハルヒ達に催眠のことを説明すると、これぞ『用意した一着』と言わんばかりに「何でそんなことする必要があるのよ!?」と過去ハルヒから返ってきたが、涼宮ハルヒが二人いるとバレるとルール違反として失格になることを理由として挙げるとようやく納得した様子だった。……ちょっと待て、青古泉が過去ハルヒに出場条件をはなしていたんじゃなかったか?入れ替わることも伝わっていると思ったが、まぁいい。
フロアにいた全員の食事が終わっても降りてこない青古泉を心配していたが、部屋を透視してもまだ寝ている状態。
まだ途中だった弁当作りに朝比奈さん二人を残して球場へと向かった。球場へ入ってすぐ、サイコメトリーがオートで発動し俺の足が止まった。やれやれ、そんな大事でもないだろうに……
「いきなり止まるから吃驚したじゃない!どうしたのよあんた!」
「自動でサイコメトリーが発動した。あとでニュースで確認すれば分かると思うが、俺たちの試合の方にだけ実況として野球好きの国民的アイドルが加わるそうだ。わざわざ都心からここまでくるとは俺も思わなかったよ」
『国民的アイドル!?』
「ああ、場合によっては芸能人チームを結成して俺たちに挑んでくるかもな。球団を相手に野球で対決しているのを俺も何度かTVで見たことがある。とりあえずベンチに向かおう俺たちを映すカメラはあっても声までは拾えないところから撮影しているようだから向こうで詳しく説明する」
「でも、野球好きの国民的アイドルで何度も球団に挑戦してるっていうのならもう皆分かったんじゃないかしら?」
「おそらくジョンと有希以外はな」
「是非ともその芸能人チームと勝負してみたいわね!電話は全部鶴ちゃんのところにくることになっているんでしょ?」
「来たらすぐに連絡するにょろ。でもあたしが向こうの世界に行っちゃうと連絡がとれないにょろよ」
「なら俺の実家に連絡がいくようにするか?俺の両親なら超能力に対する耐性がついてるし、テレパシーで連絡してくれと言えば大丈夫なはずだ」
「あれ?そういえば、キョン君のご両親は今日は応援に来るんですか?」
「ニュースで生中継を見るそうです。朝食を食べ終えてからここに向かっても、試合内容によっては間に合わないだろうから…だそうで。同じホテルの別の部屋にでも泊まるかどうかも聞いたんですけど『そこまですることない』と…結婚式の前日に黄俺の父親が荷物運びをかってでたのと一緒で、ホテルの料金まで工面しなくてもいいそうで…」
「それもそうですね。前回が20-0ではそう考えるのが普通です。我々の貯金が一体いくらになっているのか我々ですら知らないんですからね。使う用途といえば、そのくらいしかありませんよ」
『キョンの言う通り、その国民的アイドルが誰なのか俺には分からんが、昨日話していた案でそいつの度肝を抜いてやればいい』
『面白いじゃない!あたしはブルペンだけど、あんたたち、頼んだわよ!?』
『問題ない』

 
 

…To be continued