500年後からの来訪者After Future2-18(163-39)

Last-modified: 2016-08-15 (月) 17:28:27

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future2-18163-39氏

作品

野球の大会を明日に控え、食事の支度は昼食から古泉に任せて、W俺の二世帯は家族旅行兼調味料探しへと向かった。昨日の朝のニュースから人事部には俺とジョンに番組出演の依頼が届くようになり、今回の土日は人事部には誰もつかないことにした。しかし、今週の家族旅行でも新川さんやハルヒを唸らせるような調味料は発見できないだろうと勘繰っていたのだが、ハルヒの舌を唸らせたみりんをついに発見。青有希も納得の表情を浮かべて九月からハルヒ&青有希の料理研究がはじまることとなった。味が決まってしまえば社員食堂の料理でも出せるようになるはずだ。社長が直接出向いて選んできた調味料だと掲示しておけば食べる側の人間も納得するだろう。試合当日、全員の食事が済んでも降りてこない青古泉を心配しながらもいよいよ球場内へと足を踏み入れた。

 

『キョン君、青古泉君がようやく降りてきました。朝食はどうするか聞いたんですけど食欲もないらしくて…とりあえず、キョン君たちがベンチについたところで異世界移動して欲しいそうです。わたしもお弁当ができあがったので、一緒に連れて行って下さい』
『分かりました。人数が増えても朝比奈さん二人だと早いですね。過去朝比奈さんは客席に送ります』
『はぁい』
みんなに説明してから異世界移動するより、こっちに呼んでから具合を聞いた方がいいだろ。三人を異世界移動して青古泉の様子をみると顔が青白くなっているのがはっきりとわかる。
「あんた、大丈夫なの!?」
「ええ、なんとか。昨日はジョンの世界にすら行けず仕舞いですみません」
「とりあえず、試合開始までは横になっていたらどうだ?おまえが危惧していた過去ハルヒの件については試合が始まってからでも十分間に合うだろ?」
「そのようですね。お言葉に甘えてそうさせていただきます」
『お言葉に甘えて』とは言ったが、いつものW古泉ならもっと周りに申し訳ないという言葉を挟んでくるはず。それだけ状態が良くないってことになるな。選手として出るわけではないし、そこまで心配する必要もない。催眠が解かれてからバレー合宿が終わるまでは容赦期間としてこれまで通りWハルヒを見ることはできる。だが、その行い次第によっては、最悪の場合催眠をかけ、エネルギーも膜も全て取り除いて異世界へと送り返されることになる。今朝だって朝比奈さんを人質にとり「Wハルヒが見られるようにしろ」などという脅しをかけてくる可能性もあった。だが、そんなもの俺たちには通用しない上に一生ハルヒを見ることができなくなることはアイツ自身が一番良く分かっている。欲望をなんとか理性で抑えたらしいが、今後どうなるかは俺にも分からん。チアガール姿のOGとキャッチボールをしながらグラウンドでアップ。ブルペンではWハルヒと有希、青鶴屋さんが同じくアップ中。青俺やジョンとアイコンタクトで確認し合うと、OG三人がしゃがんでミットを構える。これまでもそうだったが、キャッチャー防具をつけずにしゃがむとミニスカートの下に履いているアンダースコートが真正面からだと丸見えなんだよな。後ろからでも角度によっては見えているはず。バレーのユニフォームも下着のラインがモロに出ることも含めてどちらも慣れてしまったが、どうにかならんのか?これは……。そんなことを考えている間にジョンも青俺も次々と剛速球を投げ始めていた。
『キョン先輩、どうかしたんですか?』
『すまん。ちょっと考え事をしていた。とりあえず、ストレートな』
『わかりました』
相手チームも既にベンチ入りしているし、俺たちの力を見せつけてやる。

 

 試合前のアップも終わり、相手チームやアナウンサー、実況に入った国民的アイドルが何を感じているのやら。盗聴しようと思ったが、距離が遠すぎるらしい。今回は俺たち……もとい青ハルヒ達は守備から。全員女だと見せつけるにはちょうどいい。
「以前話した打順、ポジションは変わりませんが、念のため申し上げておきます。一番レフト黄有希さん、二番ショート黄佐々木さん、三番ファースト朝比奈さん、四番セカンドハルヒさん、五番ライト黄朝倉さん、六番キャッチャー鶴屋さん、七番サード有希さん、八番センター黄鶴屋さん、九番ピッチャー涼宮さんです。これまでずっと練習してきましたから特に僕から皆さんに伝えるようなことは特にありません。よろしくお願いしますよ?」
『問題ない』
今日は顔色で判断ができるが、青古泉は青ハルヒからの通達通り、手首に青いバンダナを巻いていた。最初の挨拶を終えて九人が各ポジションに散らばる。そろそろ生中継のニュースが始まってもおかしくない頃だ。さて、青ハルヒのピッチングのお披露目だ。
『有希、一回表だけでいいから青ハルヒの投球、何km/h出てるか教えてもらっていいか?』
『わかった』
バッターボックスに一番手が入り有希からの指示が出た。新生青ハルヒの投球は俺たちと真逆のアンダースロー。マウンドすれすれを青ハルヒの右手が通過する。コースはストライクゾーン下ギリギリを狙ったストレート。ボール球だと思って見逃したバッターが審判に対して物言いをしていた。
『81km/h』
投げた瞬間、遅いと思っていたが、最初は遅い球から投げるらしい。第二球、今度は超低空のままストライクゾーン外を通るボール球。先ほどと同じくストライクゾーンに入るとふんだ一番手が見事に空振り。たった二球にしてマウンドに立った青ハルヒの右脚はすでに土まみれになっていた。右膝にはバレーで使うサポーターをつけている。青ハルヒの投球がアンダースローと分かった瞬間にサポーターに気付いた奴も多いようだ。たった二球で会場全体をざわつかせていた。
『83km/h』
「僕にはまったくの別人に見えてますが、それでもあのサブマリン投法は見ていて美しいと感じますよ。ちょっと確認をお願いしたいのですが、涼宮さんが球を投げる瞬間、地面から何cmの位置で投げているか見ていただけませんか?」
「おまえ、それを頼むなら黄有希だろう。俺も黄俺もその瞬間は見ることができても何cm何mmまでは分からん」
「黄有希さんのポジションからではマウンドの土に隠れて見えないんですよ。黄朝倉さんでも同様です。アンダースローの世界一と言われているのが渡辺俊介という投手で、地面からわずか5cmという低さでリリースするんです。それよりも高いか低いかをジャッジしていただくだけで構いません。この回の涼宮さんのピッチングを見て判断していただけませんか?」
『121km/h』
青古泉が話している間に第三球目が投じられた。その差40km/hの緩急差にミットに収まった後にバットを振って三振。この結果にマウンド上の青ハルヒがガッツポーズ。この投球が相手に通用するかどうかと自信を無くしていた奴が見事に蘇った。青古泉の注文に応えるのは次からになりそうだ。

 

 二番手も同様に有希の指示通りにコースと緩急だけで三振。確かにリリースポイントがかなり低いが、5cmより下か上かなんて判断できんぞ……。
『3.5cm程度だ。涼宮ハルヒの投球だけで明日の新聞の一面を飾ることができるかもな』
そういやもう一人、宇宙人二人と互角以上の奴がいることを忘れていた。
「そんなに低いのか!?ハルヒもよくそんな位置で投げて地面に掠らずに済んでるな……」
「彼女のセンスもあるでしょうが、これも女性だからこその特権です。男性に比べて指の太さがまったく違いますからね。最初は地面にあたることも多かったでしょうが、僕が涼宮さんのピッチングを見ていたときは掠りもしませんでしたよ」
三番手も内角高めを打ちあげ、ハルヒのセカンドフライ。一回表、出塁すら許すことなく青ハルヒの投球のみで仕留めることができた。最後にフライをキャッチしたものの、ハルヒからすれば「もっとあたしにも活躍させなさいよ!」ってところだろうな。内野手が青ハルヒに激励をするように集まりながらベンチへと戻ってきた。
「ナイスピッチング!」
と誰からともなく賛辞と拍手が青ハルヒに送られた。青ハルヒがベンチにいたメンバー全員にハイタッチをして回る。真上で見ていた過去ハルヒ達はどう思っているんだか。一回裏、先頭バッターは有希。子供たちとホームランの約束もあるが、佐々木がこの後に控えているんだ。まずは相手投手の様子を見て一塁へと出塁するところからだな。と、ここで古泉が動いた。何をする気だ?青俺に近づいて用件を伝える。
「すみません、あなたに一つお願いしたいのですが、あなたの投球練習も兼ねてブルペンで青鶴屋さんのバッティング練習をお願いできませんか?できれば、ズルはしたくないので」
「ちょっと古泉君、ズルしたくないってどういうことよ!?」
ハルヒと同様、古泉が言い放った「ズル」の一言に全員が反応した。
「これまでの練習と打順を考えると、こちらの鶴屋さんは主に速球を受ける練習かバッティング練習がメインでした。しかし青鶴屋さんはバッティング練習もしていましたが、涼宮さんの投球を受ける時間の方が多かった。低速の球に慣れてしまっているんです。ですから、彼の投球練習も兼ねて、青鶴屋さんのバッティング練習をする必要があると考えたんですよ。過去の涼宮さんとの交代ではありませんが、一度決めてしまった以上、打つときだけ六番手はこちらの鶴屋さんなんて真似は避けたいですからね。僕も先ほどは皆さんと同じく『問題ない』と叫びましたが、一回表の涼宮さんの投球を見て気がついたんですよ。このままではまずいとね」
「とにかく議論している時間は無い。二人はブルペンに行ってくれ!」
「わかった。鶴屋さんバットを持ってきてください」
「了解にょろ!」

 

 古泉の説明を受けて青俺と青鶴屋さんがバッティング練習へと向かった。古泉の言う「ズル」が何のことなのかようやく分かったという顔をしているのは俺だけではないようだ。その間、バッターボックスに立っている有希は既にツーストライクワンボール。もう後が無くなっている。こりゃあ、過去ハルヒの出番はなさそうだ。
『有希お姉ちゃん頑張れー!!』
有希と優希じゃほとんど変わらんからこれくらいは聞き流すことにしよう。
「しかし、黄僕に説明されるまでこの打順の弱点に気付きませんでしたよ。本来であればピッチャーの投球を受けているキャッチャーが上位打線に来るのはあたりまえですが、ピッチャーが涼宮さんで投球がアンダースローだということと関連づけていませんでした。明日は打順を黄鶴屋さんと入れ替えます。申し訳ありません」
「黄古泉君が気付いてくれなきゃ、練習もしないまま鶴ちゃんがバッターボックスに立っていたんだから、あんたがそこまで気にしなくてもいいわよ」
「鶴屋さんならそれでも打ち返してしまいそうです。心配いりません」
しかし、青朝比奈さんも準備が早いというかハルヒと思考回路が似てきたというか…バレーと同様「わたしにもボールください!」って面構えだな。さっき何も仕事をさせてもらえなかった分ってところか。
 キンッ!という音と共に視線がグラウンドに集中する。三遊間を狙ったヒットだが、ショートがそのまま飛びこんできてボールをキャッチ。そのまま一塁へと送球したが、軍配は有希へと上がった。
「あれがわたしだったらアウトになってました。黄有希さんが一番手で良かったです。わたしも張り切って行ってきますね」
佐々木がセーフティバント、青朝比奈さんが出塁ならハルヒに満塁ホームランのチャンス…か。いい方向に事が進んでいるように見えて危険な気がしてならない。しかし、今の佐々木なら金属バットでなくてもいいような気がするが……一回表で出てきたバッターは全員金属バットだったんだ。少しは有希を見習えと言いたいね。有希が一塁ベースから離れているが牽制球はなし。ワンストライクワンボールだが…ツーストライクまで待つと危険だな。佐々木も先ほどの有希の打席から相手投手がどんな奴か考えているはず。次でどう出るか……っ!!!佐々木がバントに構えてボールにバットを当てた。狙い通り三塁に向いて転がって行くところをかかり過ぎた逆回転がそれを防いだ。しかし、その逆回転のせいでキャッチャーがすかさずボールを取り、二塁へと送球。今度は余裕でセーフになったものの、すかさず一塁に送球され、佐々木にアウトの宣告が下された。

 

 ベンチに戻ってくる佐々木には全員からの賛辞。セーフティバントにはならずとも有希を二塁に送り、三塁側へとバントを成功させたんだ。充分仕事はこなしたといっても過言ではない。
「やれやれ、野球の試合も残り少ないって言うのに、本番の緊張感にはまだ慣れられそうにないよ」
「あれだけ仕事ができれば十分ですよ。黄佐々木さんももはやチームに欠かせない存在になりそうです。ハルヒさんがバッターズサークルに行った時点で鶴屋さんと交代してもらえますか?相手チーム全員にあなたのバントがインプットされたはずです。黄有希さんは次の打席はホームラン狙いでしょうし、あなたにはヒットを打ってもらうことになるでしょう。彼に事情を説明してそのままバッティング練習に向かって下さい」
「キミも相変わらず調子に乗せるのが上手いよ。そこまで貢献しているとは僕には思えないんだけど……」
「青古泉と同じことをここにいる全員が感じているんだ。おまえももっと自信を持て」
そう言うと周りが佐々木の方に顔を向けて頷く。どうやら恥ずかしくなって言葉が出てこないらしい。頬を染めてバットを持ったままベンチに座り込んだ。しかし、有希はツーストライクまで追い込まれてからのヒット、佐々木はワンストライクワンボールの状態からバントをしたせいか、相手投手をボールコントロールが巧な奴だと思っていたが、青朝比奈さんは現在ノーストライクツーボール。
『どうやら、このチームの利点はまだ通用しているようだ。相手投手の球種が制限されて、あとはコースを変えるくらいしか対策の取りようがないらしい。青チームの朝比奈みくるなら次で打ち返してもおかしくない』
ジョンがそう告げたのもつかの間、快音と共に青朝比奈さんの打球が右中間へ。センター&ライトポジションの選手が走ったものの、フライになることなくランナー一、三塁で打順は四番ハルヒ。青古泉からの指示通り、佐々木がブルペンへと向かった。
「困りましたね…これではハルヒさんはホームランを打てそうにありません」
『え―――――――――――――!!ママホームラン打てないの!?』
そういえば、この二人に「キョンパパ」や「ハルヒママ」と呼ぶなと警告してなかった。だがしかし、律儀に先週言ったことを覚えてくれていたらしい。明日の夜に今度はバレー用の呼び方を教えないといけなくなりそうだけどな。
「あれだけ新聞記事の一面を飾っていたんです。相手もそれは承知のはず。まだ敬遠しても失点にはなりません」
「あら?随分わたしもなめられたものね。有希さんには悪いけど、わたしが先に満塁ホームランにしようかしら?」
ナイフと同じ握り方で木製バットを持ち、凛とした背中を俺たちに向けて朝倉がグラウンドに出ていった。
「状況も踏まえてだが、青古泉も随分の朝倉の扱いに長けたもんだ。あれじゃ、まず間違いなく初球ホームラン狙いだぞ」
「少しでも鶴屋さんの精神的負担を減らすためです。僕の采配ミスですからね。自分のミスは自分で挽回させていただきます」
「そう言ってもらえると少し安心したにょろよ!でも、キョン君たちのスピードには劣るっさ!あたしも初球で打ち返してもいいにょろ?」
「甘い球なら構わないのではありませんか?これなら過去の涼宮さんの出番を作ってもいいかと」
「涼宮さん、黄僕の提案に従って一打席譲っても構いませんか?」
「しょうがないわね。でも、直前まで練習してもらうことにするわ。キョン、あんた、ブルペンで過去黄あたしのバッティング練習の相手をしなさい!」
『それなら俺が行く。キョンはここで様子を見ているといい。キョンの考えていることはすべて俺の頭の中に入ってくる。ブルペンにいながらにして状況把握が可能だ。そろそろ青チームのキョンも状況が気になっている頃だろうが、あの投手の球種が判明したことも伝えてくる』

 

ベンチで話している間にキャッチャーがポジションから離れてハルヒは敬遠。ワンアウト満塁でバッターは朝倉。ジョンのセリフを皮切りに青ハルヒが過去ハルヒにテレパシーしたらしい。ジョンと二人でベンチ奥へと向かっていった。
「黄キョン君、ジョンの言ってた相手投手の球種って何?」
「コースは様々だが、今のところカーブ、スライダー、ストレートのみだ。これまでの相手には他の球種も使っていたのかもしれんがな。今の青有希ならそのくらい簡単に打ち返せるから心配するな」
青有希が俺のコメントに対して返答をしようとしたところで朝倉がバットを振った。山なりの打球ではなく、バックスクリーン目掛けて一直線。さて、どこを狙っているのやら……各塁で待機している有希たちも朝倉の打球を見守る。ボールは三回表の点数表示をする場所へと命中した。
「困りましたね。これはもう朝倉さんの宣戦布告というべきでしょう。二回裏で終わらせるつもりのようです。当初の目的であった本社81階で弁当を食べ、朝比奈さんのお茶を飲むということが可能になりそうですが、我々が交代で出られそうにありません。バレーもしばらくはOGと子供たちが独占するでしょうし、今日と明日は僕も暴れてみたかったんですが……」
朝比奈さんのお弁当とお茶が堪能できると子供たちが喜んでいる反面、ダイヤモンドを回って帰ってきた有希やハルヒが不機嫌そう……いや、不機嫌な強面をしている。
「あ―――――――――――-もう!なんなのよあのピッチャー!!真っ向勝負できなさいよ!!」
「あれだけ新聞沙汰になったんです。ハルヒさんのホームランを警戒して当然ですよ。前回は予告満塁ホームランをして有言実行したと思われているんですからね」
「涼子が三回表の表示にボールをぶつけた以上、この回と二回裏でもう一順あたしに回しなさいよ!?」
マウンドではハルヒを敬遠したことを悔いてしゃがんでいるピッチャーがいた。青鶴屋さんはバッターボックスで準備万端。青有希がバッターズサークルへ向かった頃に青俺と過去ハルヒがベンチへと入ってきた。ジョン自身が告げた通り、状況を見てなくても俺の考えていることがそのまま伝わって、それで判断できるから青俺を戻してきたようだ。
「ジョンがいて確認するまでもないとは思うが、青ハルヒに催眠は解いてもらったか?」
「あったりまえよ!あたしのせいでチームが失格になるなんて絶対にさせないんだから!」
相手チームはタイムをとったか。やれやれ、古泉の言う通り、俺たちに活躍の場を与えてはくれないらしい。W鶴屋さんは無理でも朝倉や二順目以降の青有希あたりと交代といきたいところなんだが……佐々木と交代しようかとも考えたが、経験を積ませるためにもアイツは出した方がいい。って、二順目以降の青有希まで回ったらコールド確定で試合が終わってしまう。

 

 相手チームのタイムも終わり、ピッチャーは変えることなくそのまま続投。下位層でハルヒ達の攻撃を終わらせるつもりだろうが、その更に下に100マイルの投球を受けていたOG達がチアガールとしているのを忘れてもらっては困る。青鶴屋さん、青有希、鶴屋さん、過去ハルヒと準等にいけば、今度は有希が満塁ホームランを狙えるだろう。青鶴屋さんが朝倉の真似をして初球で振った。打球がぐんぐん伸び、ツーベースヒット確定かと思いきや勢いが途中で落ちて、後ろまで走っていたセンタープレイヤーのグローブに収められた。前の試合で青古泉に制限をつけられたWハルヒみたいだな。朝倉の真似をしようとして投げられたボールを真逆に打ち返して飛距離が届かなかったってところか。ライトやレフトならアウトにならずに済んだかもしれんが、これでツーアウトか。過去ハルヒの打順まで回ってくれると良いんだが……でないと青ハルヒと再度入れ替わらなければならなくなってしまう。有希よりも多少ストライクゾーンは広がるものの、男性のものと比べれば十分小さい。青鶴屋さんのプレーを見て、これまで通り自分が狙ったところに打てる球を待つ戦法に切り替えるらしい。もっとも、今週の練習を経て、狙ったところに打てる球の種類が格段に増えている。場合によっては青有希も初球を叩く可能性も十分にある。
「できれば、過去ハルヒさんまで回したいところですね。入れ替えのこともありますが、黄朝倉さん、鶴屋さんと初球を叩いていますから、たった一回の攻撃で相手チームを一巡させたとなれば、相手投手のメンタル面にかなり大きなダメージを与えられるんですが……」
「古泉君、体調の方は大分良くなったみたいですね。さっきまで黄わたしが心配していたのが嘘みたいです」
「今はグラウンドに集中できているので何とか。試合が終わった後どうなってしまうのか、正直自分でも分かりません」
「黄俺の愚妹の話じゃないが、そんな状態の古泉にビラ配りに行かせるわけにはいかん。精々ライブを見に来るくらいで後は休んでろ。催眠がかかった状態でWハルヒの姿も声も別人になっているだろうが、口調はハルヒだ。会話を聞いているだけでも多少は回復できるだろ」
「だといいんですが……ライブ中は別人が歌っているように聞こえて違和感だらけになってしまいそうですよ」
青古泉が試合終了後どうなるかは大体想像できる。青俺と同じようなことを他の連中も考えているだろう。しかし、またしても青古泉の予想が外れてしまったな。今度は試合前に青ハルヒにインタビューが………って
「あっ!!」
「いきなりどうしたのよ!?」
「過去ハルヒにキャプテンマークがついてない!」
「くっくっ、そんな程度のことでいきなり大声を出さないでくれたまえ。しかし、カメラに映る前に気付いて良かったじゃないか。キミなら簡単に取り付けられるだろう?」
「どうやら、そのようですね。しかし、今度は何を考えていてそれに気付いたんです?」
古泉の疑問に答える前にキャプテンマークをつける方が先だ。テレポートで入れ替えるより情報結合で縫い付ける方がいいだろう。
「いや、例のインタビューの件で、先週に引き続き青古泉の予想が外れてしまったなと思っていたんだ。国民的アイドルが見に来るくらいなんだ。スターティングメンバーも全員女で固めてあるし、インタビューに来てもおかしくないと俺も思っていたんだが、終わってからになりそうだな」
「それで過去ハルヒさんのキャプテンマークに気付いたというわけですか。予想が外れてばかりの僕よりもあなたに聞いた方がよさそうですね。指示を出そうかどうかで迷っていたんですよ。今の投球でワンストライクスリーボール。あなたが監督ならどうします?」
「青有希に任せるさ」

 

 ワンストライクワンボールの状態から佐々木がバントに行ったんだ。ここで一球見送るような真似をすれば逆に青有希が追い込まれる可能性の方が高い。それならこちらから指示を出すよりも判断を委ねた方がいい。序盤は相手が女だからか、攻撃的な投球をしていたが今は違う。甘い球でもストライクゾーンに入れてくるか、青有希の空振りを誘うか、それとも初志貫徹で攻めの投球をするのか。相手投手の一球にベンチにいた全員の視線が集まる。グローブで球の持ち方を隠してはいるが、投球フォームの合間に何の球が来るのか見えるからな。それが可能なメンバーといえば…W俺、有希、朝倉、ジョン……古泉もやろうと思えば出来そうだ。WハルヒやW鶴屋さんは投げられたボールの回転を見て判断しているからな。それプラス持ち前のセンスと天性の勘によるものだ。あの握り方はカーブか。あとはコースがどうなるかだ。青有希がバットは構える。しかし、その球を見送った。審判の判定はボール。フォアボールで見事に出塁を果たした。青ハルヒのアンダースローと同様、こんなチームを相手にしたことなんてほとんどないだろうからな。対策は立てられてもそれを実行する技術がなければ通用しない。盛大な賛辞がベンチから青有希に送られた。そして、めらめらと闘志を燃やしている奴が一人。このまま鶴屋さん、過去ハルヒと続くことができれば、巡り巡って一番手の有希に満塁ホームランのチャンスがまわっ…て………くくくく、面白い。今夜実行に移そう。ハルヒ風に言うなら「閃いた!」ってやつだ。やれやれ…思いつくのはいいが、今夜のアンコール曲のように直前になって閃くのはちょっとな…閃かないよりはマシだが、もうちょっと計画性が欲しい。などと考えている間に快音が鳴った。先ほどの青鶴屋さんの分のお返しとばかりに初球を叩いた打球がセンターではなくレフト方向へと飛んで行く。フェンスに当たって鶴屋さんのツーベースヒットが決まった。
「これでさっきのイライラが吹っ飛んだっさ!黄あたし、ナイスバッティングにょろ!」
「やれやれ、黄鶴屋さんのツーベースヒットはいいが、過去黄ハルヒがそれを全部水の泡にしてしまいかねん。黄有希が満塁ホームラン狙ってるんだ。頼むからホームラン狙いだけはやめてくれ」
「まったくの同意見だ。怖くて見ちゃおれん」
「二人揃って失礼ね。過去あたしだって有希が何を考えているのかちゃんと分かっているわよ!いいから黙って見てなさい!」

 

Wハルヒはしっかりトレーニングしてきたからいいが、過去ハルヒはほとんどセンスと天性の勘のみでバッターボックスに立っているようなものだ。高校一年生のときの相手も地区では優勝クラスだとしても、俺たちの今の相手は中国地方代表。レベルが違いすぎる。が、あのバカ、案の定初球を叩きにいった。打球は、セカンドの右側を抜いた右中間。青有希と鶴屋さんは塁を動かず、過去ハルヒは一塁止まり。一応、ツーベースヒットレベルの球だったんだが……揃いも揃って、やれやれ。
『ふぅ~』
「何よ!?二人で溜息なんかついて」
「さっきも言っただろ。怖くて見ちゃいられなかったんだよ。案の定、朝倉やW鶴屋さんの真似をして初球を叩きに行くし……とりあえずツーベースヒットで事なきを得たが、青有希も鶴屋さんも塁から一歩も動こうとしやしない。今だって有希があんなことしてるし、これで朝倉同様バックスクリーン直撃弾なんか放ってもみろ。二回表のところにあたったら次の佐々木のプレッシャーが半端ないぞ」
「同感だ。仲間を信頼していると言えば聞こえはいいかもしれないが、折角の得点のチャンスを逃がしたことにかわりはない。やれやれ、幸どころか有希までハルヒに似てきてしまった」
「いいじゃない!黄有希さんの予告満塁ホームランなんてわたしは頼もしいと思うけどな」
『すまないが、僕の代打で誰か出てくれないかい?この後僕が打席に立つなんて怖くて仕方がないよ』
ほれみろ。佐々木が弱音を吐いてきた。そうしている間に案の定、二回表のところに有希の打球が命中。
「監督、変えるなら今しかないぞ?」
「ここで男性陣に変えてしまうと、この後のインタビューで涼宮さんが何とコメントするか考えなくてはならなくなります。変えるとすれば、佐々木さんか朝倉さんですよ」
「無茶を言わないでくれたまえ。キョン達が出ずに僕なんかが出られる場面じゃない」
「わたしも…黄有希さんの顔に泥を塗ることになりかねないわよ」
『佐々木、交代は無いそうだ。俺たちが出るよりも女だけで勝つ事の方が大事らしい。もうこれだけ点差がついているんだ。気にせず二回表を迎えればいい。それに、ハルヒからすればおまえと青朝比奈さんが塁に出てしまうとホームランを打っても11点でキリが悪いんだよ』
返事は返ってこなかったが覚悟を決めたか、アウトになってもOKとやけになったか…さて、どっちだろうな?
『有希お姉ちゃん、ホームラン凄い!!』
有希が双子とハイタッチするとは…大分未来の有希に似てきたんじゃないか?
「有希……おまえ、三塁からホームに走ってもよかっただろうに…」
「黄わたしなら問題ない。アウトになったとしてもまだ一回裏。チャンスはいくらでもやってくる。あとは涼宮さんが抑えてくれるから平気」

 

 佐々木がバッターボックスに立ち、もう後戻りは不可能。身体が震えて脅えているかと思いきや、佐々木の眼は至って冷静そのもの。何か策でも思いついたのか?
「ただいまぁ、黄有希、ナイスホームラン!」
「問題ない。妹との約束を果たしただけ」
有希の両隣に移動していた双子が有希に抱きついた。
『わたし達、姉妹!』
三人揃って振り返ってピースしてやがる。有希がピースするなんて初めてじゃないか?カメラに収めておこう。
シャッターを押して情報結合を解除。グラウンドでは相手チームが二回目のタイムを申告。さっきの佐々木のバントを見てセーフティバントもあると相手チームの脳裏に焼きついているはず。そのうえ後二点でこちらのコールド勝ち。打順は二番に戻ってここからは上位打線。ハルヒを敬遠しても朝倉がとどめを刺しにくる。
『パパ!アルバム!』
「ああ、今撮った写真もアルバムに入れておこう。『有希お姉ちゃん 予告満塁ホームラン達成!』ってな。しかし、前に言った約束をちゃんと守れていて俺も嬉しいぞ。バレーのときはまたちょっと変わるからしっかり頭の中に入れておくんだぞ?」
『フフン、あたしに任せなさい!』
ようやく相手チームが各ポジションに散った。ピッチャーの交代は無し。サード、ショート、キャッチャーがバントに反応出来るように微妙に体勢が変わっている。このチームの短所は女チームであるが故に足が遅いこと。男顔負けのWハルヒやW鶴屋さん、それに有希に朝倉がいるが、セーフティバントはさせてもらえそうにない。相手投手の第一球に佐々木がバントに構えた。サードとショートの選手が駆け寄り、ピッチャーもそのまま前へ。だが、寸前でバットを下にずらしボールはミットの中に収まる。当然審判の判定はストライク。キャッチャーがボールを返したのもつかの間、今度は始めからバントに構えていた。それを見たサードが塁から離れ、ショートの選手も前に詰める。
「ちょっと、佐々木さん、一体どういうつもりよ!?」
「まぁ、このチームの人間の中で一番頭の切れる人ですから、何かしらの作戦があるんでしょう。おそらくですが、三球目で勝負に出るはずです。我々はただ見守るだけですよ」
「くっくっ、相手が素直に勝負を仕掛けてきたらの話だけどね。しかしキミもちゃんと言葉を選んで発言しているから凄いよ。このチームの『人間』の中なら黄僕が一番だけど、このチームの中なら一番は有希さんだ」
未来人、超能力者、異世界人は人間だが、宇宙人は人間じゃないからな。ヒューマノイドインターフェースだ。
「ストライクツ――――!!」
当然バントに構えて見逃したんだから、ストライク以外考えられん。青古泉が勝負に出ると言った三球目。今度はバントにも構えずにボールを見逃した。攻守交代か?
「ボ―――ル!!」
『まずいな。相手投手が逃げたせいで相手にもこちらの策がバレた』
「三球目で『バントするならどうぞ』とど真ん中に投げてきてくれればレフト前ヒットでサードとショートの裏をかくつもりだったんでしょう。ですが、相手が逃げることを考えていなかったとは僕には思えません。佐々木さんの表情も変わりありませんし、彼女の用意した一着はもう少し後のようですね」
四球目も佐々木が球を見極めてボール。相手も少しずつ追い込まれていく。帽子を脱いで袖で顔の汗を拭いていた。第五球、とうとう耐えかねた相手投手がストライクゾーンにボールを入れてきた。すかさず佐々木がバントに構え、先ほどとは大幅に下回る逆回転で三塁側へ。判断の遅れたキャッチャーは動けず、レフト前ヒットだと踏んで元の位置に戻っていたサードが慌ててボールを取りに行く。昨日まで練習していたものと同程度の逆回転で、サードからはやや遠い位置でバウンドしていた。球を拾ってすかさず投げたが、佐々木の方がわずかに早くセーフティバント成功。チアガール五人を含め、ベンチにいた全員が佐々木のプレーに沸いた。
「魅せてくれるわね。あたしも続かなくちゃ!みくるちゃん!頼んだわよ!」
「はいっ!」
青朝比奈さんも気合十分。さっきは何もしないでノーストライクツーボールまでいったんだ。相手ピッチャーも二回目の四球を恐れているはず。
『みくるちゃん頑張れ―――――!!』
このあとハルヒのホームランが見られるとあって、双子も有希の腕を掴んだまま離そうとしない。第一球から青朝比奈さんが仕掛けた。狙いは…先ほどのミスで精神的ダメージを受けていた三遊間をバウンドしながら勢いよくボールが飛んで行く。レフトの選手がボールを取るころには佐々木は二塁ベース、朝比奈さんは一塁ベースに足をつけていた。サヨナラにリーチがかかったこの場面で相手ピッチャーの交代が告げられた。ハルヒなら一、二球で見切るだろうが、それでホームランとなるとちょっと難しいな。これまでの試合もハルヒが煮え湯を飲まされることの方が多かった。自分で勝手に条件を厳しくした分もあるけどな。だが、そろそろ日の目を見てもいい頃だ。ワンストライクツーボールまで様子を見ると、第四球を叩いた。打球はライト方向へ一直線。フェンスを越え、サヨナラ勝ちが確定した。

 

 インタビュー台が用意され「先ほどアンダースローを投げていた方」と青ハルヒがスタッフに呼ばれた。実況をしていた国民的アイドルがグラウンドに現れて、青ハルヒに直接インタビューを開始。まぁ、紅白の司会を何年も務めているくらいだからな。司会はお手のものだろう。
「地域代表戦でのコールド勝ちおめでとうございます」
「ありがとうございます!」
「女性中心のチームでここまで勝ち上がっていると聞いて僕も見に来たんですけど、今回は女性のみの編成でしたが理由を聞かせてもらってもよろしいですか?」
「あたしの投球がようやく安定してきたことと、あたし達だからこそできる戦略でこれまで戦ってきたので、今回は女性陣だけで勝負を挑もうとみんなで決めてここにきました」
「他のチームのほとんど選手が金属バットを使用しているのに、木製バットを使っている選手が多かったのはなぜですか?」
「プロ球団と戦うためには条件を同じにしないと公平じゃないからという意見が出て、反対意見もあったんですけど、金属バットは使いたいメンバーだけ使うということでまとまりました」
「ところで、アンダースローを投げ始めたのはいつ頃からですか?」
「三週間ほど前からです。それまではオーバーハンドで予選を勝ち抜いてきたんですけど、ソロホームランを何本も打たれるようになってきて……それでアンダースローに転向しました」
「三週間前!?たったそれだけの期間であれだけのアンダースローを身につけたっていうんですか?」
「苦労はしましたし、試合で……しかもこんな地域代表戦で通用するのかどうか不安もあったんですけど、今日投げてみて手ごたえを感じました。明日の試合はどういう形で戦うかまだ仲間とも話していませんが、チームに貢献できるようなピッチングをしたいと思っています」
「ちなみになんですけど、僕が作ったチームと戦ってくれと言ったらどうします?」
「あたしたちでいいなら是非!」
「じゃあ僕の方も選りすぐりのメンバーで勝負を挑みますので宜しくお願いします。明日の試合も是非勝ち進んで西日本代表として東京ドームに来てください。涼宮選手でした。ありがとうございました~」
「ありがとうございました」
こっちの世界では初対面でも、俺たちの世界では何度も顔を合わせている。向こうは初めての相手でどう扱っていいのか分からない部分もあったかもしれないが、そこは司会者としての経験だろうな。青ハルヒの方もまったく緊張している姿は見られなかった。毎年紅白に出てますなんてこっちの世界じゃ言えるわけがないからな。ようやく青ハルヒがベンチへと戻ってきた。
「積もる話は後だ。さっさと小バスに乗り込め。朝比奈さんのお茶で祝勝会やるぞ!」
『問題ない』

 

 旅館までの運転も後回しで小バスに乗り込んだメンバーから異世界移動。圭一さんや俺の父親、裕さんも本店をアルバイトに任せて見ていたようだ。
「見ていた我々もハラハラしたよ。まさかあの状態から一回裏でサヨナラ勝ちするとは思わなかった。おめでとう」
「今回のMVPは涼宮さんにと言いたいところですが、紙一重の差でセーフティバントを成功させた佐々木さんに送るべきでしょう。佐々木さんの活躍無くして一回裏で終わらせることはできなかったはずです!」
「見ているこっちの方が緊張していたくらいなんだから、あたりまえよ」
「そうかい?あまりみんなからそう言われると、僕も何て言っていいのか分からなくなってしまったよ」
『くっくっ、それならキミの代わりに僕が話すとしようじゃないか。何せ、ブルペンでのバッティング練習のサポート以外何もさせてもらえなかったんだからね』
「キョンが言っていたことが良く分かったよ。ジョン、キミはそうやってキョンと話していたって言うのかい?」
『僕はこの口調の方が話しやすいんだから仕方がないだろう?気にしないで話を続けてくれたまえ』
「ったく、おまえもいい加減にしろ。とりあえず、野球はジョンも祝勝会に参加してもらう。ジョンの湯呑も用意しないとな。自分で好きな湯呑を情報結合して朝比奈さんに渡してくれ」
『俺は別に何でもいい。青チームに配った湯呑、まだ情報結合を解除していないのならそこから一つ取ってくれ』
「分かりました」
『キョンパパ、パーティ!ドーナツ!』
「あのな、朝比奈さんの弁当とお茶とドーナツとどっちがいいか考えてみろ!ドーナツを選んだら二人とも朝比奈さんのお弁当とお茶は無しだからな」
『え―――――――――――――!!そんなの嫌!わたし、みくるちゃんのお弁当とお茶がいい!!』
「しかし、これで残り二戦とプロ球団戦、それに対芸能人戦が確定したようなもんだ。報道陣じゃなくて実況が直接インタビューに来たときは驚いたぞ。連絡は鶴屋さんの邸宅より俺の実家にした方がよさそうだ。母親が暇をもてあましているだろうからな。って、さっきスタッフに聞いておけばよかった」
「黄キョン君がみんなを誘導してたから仕方ない。それに明日でも平気」
「しかし、最終戦は東京ドームでしたか?こちらの世界なら本社から目と鼻の先なんですが…来週の家族旅行はどうされるおつもりですか?」
「どうされるおつもりもなにも、行けるわけないだろう。子供たちが絶対嫌がる」
『キョンパパ、わたし、みんなで旅行行きたい!』
「じゃあ、二人ともバレーの試合には出場しないんだな?俺たちだけで試合するぞ?」
『あ――――――――キョンパパそれダメ!!わたしも試合に出たい!』
「伊織パパ、わたしも試合に出たい!」
「ああ、午後から三人とも試合に向けた練習だ。やることは野球だが、バレーの試合のための練習をするぞ」
『野球でバレー……あ?』
「やってみれば分かるさ」
『お茶が入りました~』
「それじゃあ、今日の一回裏コールド勝ち祝いと、明日の試合の勝利を祈って…」
『かんぱ~い!!』

 
 

…To be continued