500年後からの来訪者After Future2-19(163-39)

Last-modified: 2016-08-17 (水) 12:33:41

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future2-19163-39氏

作品

西日本代表を決める第一戦。青ハルヒのアンダースローが見事に冴えわたり、出塁を一切許すことなく一回表を終えた。一回裏、全国大会もここまでのレベルになると満塁ホームランどころかツーランホームランもろくに狙わせてもらえないだろうとふんでいたのだが、前回の大会で各社新聞にハルヒの満塁ホームランが載ったことを受けてハルヒを敬遠。だが、ハルヒのあとに控えていた朝倉が見事に満塁ホームランを決め、有希も予告満塁ホームランでご満悦。二回に突入してもよかったのだが、古泉が今回の試合のMVPは佐々木だと言い出すほどの活躍により、一回裏でコールド勝ちを収めることができた。本社に戻って全員で朝比奈さんのお茶で祝勝会が始まった。

 

 乾杯直後、北高時代を思い出させるトリプルハルヒの熱湯一気飲みに青俺と二人でやれやれと感じていた。
『(黄)みくるちゃん、お茶』
『はぁい』
この前見たばかりの光景だが、いい加減この主従関係どうにかならんものかと思うのだが、朝比奈さんも嬉しそうに対応してしまっているため、朝比奈さんのお茶が不味くならない限り直りそうにない。というより、朝比奈さんのお茶が不味いなんてまずありえない。
「ところで、青古泉君お弁当食べられそうですか?それとも朝食を食べますか?」
「野球も勝って明日に繋げられますし、また体調が悪くならないうちに食べることにします。んー…そうですね…どちらを食べようか迷ってしまいます」
「よし古泉、おまえは朝食の方を食べろ。黄朝比奈さんのお弁当は俺がもらう」
「あ―――――――待ちなさいよ、青キョン!あんた今日何もしてないでしょうが!!みくるちゃんの弁当はあたしによこしなさいよ!」
「ブルペンで鶴屋さんや黄佐々木のバッティング練習の相手をしていただろうが!俺にだって食べる権利はあるはずだ」
「ダメ。チームの貢献度なら満塁ホームランを打ったわたしの方が上」
「それができたのは有希が三塁から動かなかったからこそだ。そんなことを言い出したら黄朝倉か黄佐々木になる」
「とりあえず、青古泉にこれを委ねるとトリプルハルヒの誰かになりそうだし、食べたい奴全員でじゃんけんだ」
俺がじゃんけんの提案をすると自分も参戦すると手を上げたのが青ハルヒと双子。0歳児だった頃食べていたリゾットじゃあるまいし、今の双子にお弁当二人分なんて食べられるわけがない。結局、じゃんけんの末有希が勝利を収めた。まさかとは思うが、他三人の思考を読んだんじゃあるまいな、コイツ。

 

「では、話に一区切りついたようですので僕の体調が悪くならないうちに明日のオーダーを発表しておきます。先ほどの黄僕のように何かまずいところがあればあとで教えてください」
「僕はもう手の内を使いきってしまったからね。今日の生放送で相手に対策をたてられてしまうから外してくれたまえ」
「いいえ、だからこそあなたに入ってもらう方がいいんです。相手の眼を黄佐々木さんに集中させることで、その間に有希さんが盗塁することも可能です。一番レフト黄有希さん、二番ショート黄佐々木さん、三番センター黄鶴屋さん、四番セカンドハルヒさん、五番ライト黄朝倉さん、六番ファースト朝比奈さん、七番サード朝倉さん、八番キャッチャー鶴屋さん、九番ピッチャー涼宮さんです。尚、明日以降、わざと塁から動かずに得点できるチャンスをみすみす逃すような行為は禁止とします。今日の試合で言えば、黄朝倉さんは自然と満塁になった状態からホームランを放っていますから構いませんが、有希さんのように三塁から動かないような真似だけはしないでください。チャンスだと思っているときほど一番危ないんです。何回で勝負をつけるというのは一切無し。交代もその時々に応じて行いますですので、そのつもりでお願いします」
青古泉の発言通り、この段階で満塁ホームランを一試合で二回も放つなんてまずありえない。だからこそ過去ハルヒの打順のときは青俺と二人でヒヤヒヤしていたし、佐々木の打席のときもアウトでも何ら問題はないと感じていた。明日ありえるとすれば、毎食三人前ずつ食べていた三人のうち、ハルヒと有希は今日の試合でホームラン達成。だが……
「ということは、一番危ないのはハルヒということになりそうだ。ハルヒに回ってきた時点でどんな状況かは予測できないが、自分だけホームランを打ってないからとホームランしか狙わないなんてことになりかねん。ランナー二、三塁ならツーベースヒットで二点稼げる。そのあと黄有希が待ち構えているんだから、わざわざホームランを狙う必要はない」
「別にいいじゃない!あたしにも出番よこしなさいよ!」
「あら?出番なら十分あったはずよ?一回表三人のうち二人を涼宮さんの投球だけで三振。残り一人もセカンドフライに打ち取るんだから。あれだけ超光速送球の練習したのに一度も使えなかったの忘れてないでしょうね?それに涼宮さんももっと試したいものがあったんじゃないかしら?」
「うぐ……それは…そうだけど……」
「とにかく、監督の采配と諸注意に半数以上が納得しているんだ。青ハルヒも青俺や朝倉の言い分を受け入れろ。このあと有希が撮影した映像と録画しておいた生中継を見るのもいいんだが、まずは今夜のライブに向けた練習だ。特に青朝比奈さんのアンコール曲は青ハルヒと二人で練習しておいて下さい。次、ライブ開始と同時にアンコール曲をすべての動画サイトに有希にUPしてもらう。俺も忘れないようにするつもりではいるが、本社の大画面がライブ映像に切り替わってなければ教えてくれ。とりあえずここまでで何かあるか?」
「そうですね。午後はアンコール曲の練習をさせてください。涼宮さん手伝ってもらえませんか?」
「その前にビラ配りを忘れてるんじゃないかい?」
「動画サイトのUPは任せて」
「黄キョン君、わたし達はどうするの?」
「子供たち三人にOGと同じ練習をさせたいと思っている。最初は有希にキャッチャーを任せて後ろで慣れる練習から入って、実際に三人にもキャッチャーをさせるつもりだ。青有希のバッティング練習を兼ねても構わない。月曜日に本社に戻ってくるまで、俺たちは家族の時間だが、このあと旅館に戻ったところでやることがないからな。青俺たちも誘うつもりでいたんだが、どうだ?」
「そうだな。こっちも暇になってしまいそうだ。俺も投げることにする」
「じゃあ、俺たち二世帯は子供たちのバレーのための練習に行く。ビラ配りはそれ以外のメンバーで頼む。今は催眠がかかっている状態だからすべて解除してくれ。OGたちや過去ハルヒ達も全員だ。それで、過去ハルヒ達はこの後どうするつもりだ?明日の試合は青古泉から説明が合った通り、相手の投手を見て過去ハルヒを出すか出さないかを決定する。当然見ているだけということもありえる。これで自分たちの時間平面に戻るか、一旦戻って明日また来るのか、今日はここに泊っていくか……どうする?」
「我々も会社の経営の方を進めなければなりません。一旦帰って明日の朝また来させてもらうということでいかがです?朝倉さんの言っていた超高速送球というのも見てみたいですし」
「それもそうね。明日また来ることにするわ。あんたたちがバレーの試合をしているところも見てみたいし」
「なんだおまえら、W佐々木じゃあるまいし、自分たちのことは隠しておいて、俺たちの方ばかり見に来るつもりか?過去古泉も含めてバレーにも参加させろとか言うんじゃないだろうな?今回は古泉のドラマ撮影の関係でW古泉はほとんど出られないんだ。過去古泉まで出す余裕はない」
『ちょっと待ちたまえ。キミは僕のことをそんな風に見ていたのかい?』
「『キミはまた僕を焦らすつもりかい?』とか言う癖に、自分のこととなるといつも隠しているだろうが」
『やれやれ、キミにそう言われてしまっては、返す言葉が浮かんでこないよ』
「そうですね。バレーとなると、見ているだけでは収まりそうにありません。涼宮さん、明日の試合だけで戻りましょう。ただでさえ、彼の映画の試写会にも参加しているんです。この差を埋めるには我々も攻めていく必要がありそうです」
「古泉君、余計なこと言っちゃダメよ!とにかく、あたし達は一旦戻って明日の朝またここに来る。あんたがどれだけビッグになってるのかよく分かったわよ。絶対に負けないんだからね!みくるちゃん、帰りましょ」
「明日もお弁当づくり手伝わせて下さい」
「では、これで」
「また明日」
そういや、わざわざジョンや朝比奈さんに頼まなくても過去の朝比奈さんのタイムマシンでこっちに来ることができるのをすっかり忘れていた。しかし、これで確信が持てた。過去古泉の超能力も過去ハルヒの改変能力も完全に消えている。高校時代にあちこち引っ張り回された苦労は一体なんだったのやら。アイツも結婚して子供を産めばその子供に力が宿る可能性がないわけでもないか。過去俺は過去佐々木と既に結婚しているし、過去ハルヒが結婚したいと思える相手が見つかるとは到底思えないけどな。

 

「では、僕は夕食の支度に入ることにします。朝比奈さん、片付けをお願いしてもよろしいですか?」
「はぁい」
「じゃあ、さっさとビラ配りに行って、アンコール曲の練習するわよ!」
「あ、W佐々木、ちょっと残っててくれ」
青俺たち三人と双子は先に練習場所に向かった。身体の拡大なら青俺だってできる。ハルヒも有希も古泉も青有希もあの完成度ならこの後練習に時間をかける必要もないだろう。
『で、僕たちを残した理由をそろそろ聞かせてくれないかい?』
「前に話していた青古泉たちのドラマの俳優の件だよ。有希、冊子を出してくれるか?」
「分かった」
有希は同期しているし、他の三人もわざわざ一ページずつ読む必要もない。サイコメトリーだけで十分だ。青古泉は自室に戻ったか。さっきの青俺との会話を聞いた限りではライブにも来そうにないな。自室で妄想しているのが一番いいのかもしれん。俺たちの目の前に一冊の雑誌が置かれた。
「こいつをサイコメトリーして、それぞれ見たいドラマを一つずつ選んで欲しい。できるだけ被らない様にな」
しばしの間をおいてそれぞれが見たいドラマが決定。有希にこれまで放送されたものをDVDに収めてもらった。
「全部見終わったら四人で一度同期をする。今の段階で出演依頼をする俳優が決まってもおかしくない」
『どんな内容か今から楽しみだ。今日のライブが終わってから見始めることにするよ』
「じゃあ、あたしたちも練習に行きましょ」
「問題ない」
「お気をつけて」
「いってらっしゃい」
『僕はこれをしまってからビラ配りに行くよ』
「後を頼む」

 

 今日はライブを残すのみ。披露試写会でのバトルより、アンコール曲の動画の方で一面を飾ることになりそうだ。青チームの世界も俺たちの記事で埋まることになるだろうな。結局、録画した映像を見れずに来てしまったが、拡大された伊織がすでにミットをはめて青俺の球を受けている。
「キョンパパ!」
俺たちに気付いた美姫が駆け寄ってきた。
「わたしにもボール受けさせて!」
「それはいいが、あの速さにもう慣れたのか?」
「問題ない!」
やれやれ…さっき閃いたことを先に試してみたかったんだが……仕方がない。
「ハルヒ、幸に投げてやってくれないか?双子はおまえのセンスをそのまま受け継いでいるから大丈夫だろうが、幸はそうもいかんだろう。一段階前からスタートさせたい。頼めるか?」
「分かった」
結局その後は、W俺が双子に向かって投げ、W有希がバットを構えている状態。幸はハルヒが投げた球を受ける練習。真正面でレシーブするのが基本のバレーにおいて、子供たちにはまだその基本がほとんど定着していない状態だ。その分、OGと違って変化球を投げることが出来ず、どんなに剛速球でもどんどん打たれてしまい双子がW有希に対して文句を言うくらいだ。しばらくして幸も青俺の投球を受けるようになり、金属バットを青有希から受け取った伊織がバッターとして位置についた。ジョンの世界でボールを止めた状態でも上手く当てられなかったはずが、持ち前の集中力で今日の試合や青有希の姿を見ていたらしい。青俺のボールがミットに収まってからバットを振っていたのが次第にタイミングが合うようになり、ボールがバットに当たるようになった。
「伊織ばっかりずるい!有希お姉ちゃん、わたしもバットで打ちたい!」
美姫の一言を機に有希とキャッチャーを交代すると、情報結合した金属バットを持って美姫がバッターボックスに立った。何度か投げているところで子供たちがバッターとして球を打つのであれば、変化球でも問題ないだろうと美姫の方は一段階レベルアップ。それでも次第に当たるようになるんだから、この二人のセンスにはもはや呆れ果てるとしか言いようがない。今夜の練習でも拡大して打たせろなんて言わんだろうな……

 

『夕食の支度が整いました。ライブの時間も迫っていますし、そろそろ戻ってきてください』
古泉からの連絡を受けて、道具を片付けて戻ろうとしたのだが………早く試したい気持ちを制御しきれずに有希に声をかけた。
「有希、すまんが一球だけでいいから俺が投げる球を受けてくれないか?どれだけの威力になるのか試したいんだ。出来れば球速も教えて欲しい」
「分かった」
「よく分からないけど面白そうじゃない!あたしに打たせなさい!」
「どれだけの威力になるか俺にもよく分からん。それに、今から投げる球は試合では絶対に使えない反則技だ。金属バットでも折れるかもしれん」
「いいからさっさと投げなさいよ!」
結局青俺や青有希、子供たちも気になって残っていた。やれやれ、さっさと投げて終わりにしてしまおう。昨日は体内でハルヒの力をそのまま全開放しようとしてジョンに止められた。ハルヒの力を一か所にまとめていたから俺の身体がもたないとジョンに指摘されたんだ。血液と一緒にハルヒの力を心臓から身体の隅々まで行き渡らせるイメージをした。すべて解放したわけじゃないが俺の体内をハルヒの力が循環している。この状態で大きく振りかぶると、有希のミットめがけて球を投げた。グラウンドの芝生を削るように有希が後退り、ハルヒはぽっかり口を開けたまま身動き一つ取ろうとしていない。青俺たちも自分の目を疑っているような状態だ。
「何よ……今の……あんた、一体何をしたのよ!」
「今日の試合中に閃いてどうしても確認しておきたかったんだ。この二日間Wハルヒとバトルしたときの強さの一歩手前の状態で投げた。この前俺が見た映像が現実になったとき、すぐにフルパワーが出せるように色々考えていたんだ。今夜この状態からフルパワーまでもっていくのにどれだけ時間がかかるか試してみるつもりだ。まぁ、それについてはジョンの世界に行ってからだな。有希、球速は測れたか?」
「186km/h」
『186km/h――――――――――――――――!?』
「だから、反則技だって言ったろ?野球じゃありえないスピードだが、テニスの世界大会なんかじゃ200km/h台のサーブが当たり前のような話も聞くし、とりあえず、これで俺の用件は済んだ。閉鎖空間を解除して戻ろうぜ」

 

 本社ビルに戻ってもハルヒや青俺、青有希の表情は変わらず、それに違和感を持った青ハルヒが三人に問い詰める。
「あんた達、どうかしたの?」
「すまんが、今は聞かない方がいい。ライブが終わったら全部説明する。今話したら間違いなく全員吹き出して、ライブの準備に間に合わなくなる」
「くっくっ、面白いじゃないか。会場設営なら有希さん一人ですぐに準備できるし、着替えもテレポートで一瞬だ。キミが一体何を見たのか、何が起こったのかは僕にも分からないけれど、説明する時間ならまだあるとおもうんだけど、どうだい?」
「佐々木、説明する時間が無いこともないが、そのあと全員の質問に一つ一つ答えているほどの余裕はない。ジョンの世界で全員の前で見せるから、それまで待ってくれ。とりあえず夕食の片付けは愚妹にやらせるから気にする必要はない。みんなで先にライブ会場へ向かってくれ。俺と青俺が残って、本社の大画面をライブ会場の映像に切り替えたら広島マツダスタジアムに止めてある車を旅館まで戻しに行く。それが終わり次第合流する予定だ。青朝比奈さん、歌の方は大丈夫ですか?」
「多分、大丈夫だと思います。わたしは歌に集中していればいいだけですから」
「気になっているのは何も佐々木さんだけではありません。あなたの顔立ちを見る限り何かの実験に成功したようですし、それを期待してライブに臨むことにしましょう」
「ああ、それで頼む」
早々と夕食を食べ終えた有希が黄チームSOS団のドレスチェンジをして会場へと向かった。ENOZは既にステージ衣装姿で夕食を食べていたのだが、ENOZにもテレポートを習得してもらって朝比奈さんのようにドレスチェンジができるようにするか?バレー合宿後にでも聞いてみることにしよう。有希に対抗意識を燃やしていたのか二番目に食べ終えた青ハルヒも指を二回鳴らしてライブ会場へと向かった。一回目で青チームSOS団のドレスチェンジ、二回目は見た目では分からないが、おそらく青有希に催眠をかけたのだろう。有希に見えるようにな。青チームが最初にステージに立つのはダンスのとき。青鶴屋さんが青朝比奈さんのことを見つめていた。
「見た目は同じでもやっぱり未来のみくるの方が綺麗にょろよ」
「鶴屋さん、それじゃ、朝比奈さんのことを褒めているのか、けなしているのか分かりませんよ。俺も未来の黄朝比奈さんを実際に見たことはありませんけど、今以上に綺麗になっているなんて想像もつきません」
「みくるごめんにょろ!けなしたつもりは無いっさが…思ったことがそのまま口から出てきてしまったっさ!」
「大丈夫です。でも鶴屋さんがそこまで言うくらい綺麗になっているのなら、わたしも実際に見てみたいですね」
「青俺なら簡単にいけるぞ。ジョンが青俺についてタイムマシンで未来の時間平面上に向かえばいい。未来古泉と将棋を指してくるのも悪くないだろ。未来古泉と将棋を始めた頃は当時の朝倉や青古泉と三竦みの状態だったからな」
「そこまでのレベルに僕もなりたいものですが、なかなか実力が伸びなくて困っているんですよ。しかし、未来の朝比奈さんをただ見たいだけの理由で向こうに行くのは禁則になるのではありませんか?W鶴屋さんが行くということであれば、向こうにもメリットがありましたが、彼や青朝比奈さんでは……」
「そうですね、そんな理由で未来に行くというのは、未来人の立場としてあまり推奨できません。未来の古泉君のように未来から過去にくるのなら将棋を指すためだけの理由でもそこまで問題にはならないんですけど……」
「黄朝比奈さんがそう言うんじゃやめておくか。どの道数年後には、未来の黄朝比奈さんみたいにより綺麗になるってことだろ?」
『準備できた。客も入り始めている。撮影を始めるから大画面の映像を切り替えて』
『分かった。他のメンバーもすぐに向かわせる』
「有希から連絡が入った。準備が終わって客が入り始めているそうだ。食べ終わり次第すぐに向かってくれ。食器を運ぶのはW俺と子供たちでやる。三人ともお手伝いできるか?」
『問題ない』

 

 本社ビルの大画面の映像をライブ会場のものに切り替える頃にはW俺を除く全員が会場へと向かっていた。さっさと車を移動して俺たちも会場へ向かうことにしよう。有希のアップした動画も確認できた。ここまでクオリティが高いものなら青ハルヒが言っていた通り、盗撮してアップしたとしてもコメント欄が炎上しそうだな。日曜のライブを二部構成にする案を伝えてから青チームのダンスを黄チームで踊るなんて意見も出たが、練習時間がないとして結局青チームがそのまま踊ることになった。青チームがメインで演奏する方は、黄チームの出番はアンコールで朝比奈さんと古泉が出てくる以外なさそうだ。特にいつもと変わることなくライブを終え、アンコール曲の披露。楽器の関係上、最初は青チームからの演奏。背中に羽のついた女神の衣装を見に纏った青朝比奈さんに会場中がざわついていたが、演奏が始まるとともにぴたりと止み、曲に合わせて羽がバサッと広がった。上下に羽を動かしながら青朝比奈さんが宙に浮き、歌い始める。練習の成果が出ているようだ。有希に身体を預けた状態でもおくすることなく歌っている。観客全員が女神の声に耳を傾けていた。曲が終わると会場中に歓声が沸き起こり、楽器と一緒に青チームが消えていく。ステージが一度暗転し、スポットが当てられた。ゆっくりとテレポートで現れたのはマーメイド姿の衣装を着た朝比奈さんとバイオリンを持った古泉。古泉のバイオリンが会場の隅々まで行き渡ると朝比奈さんのハープが音を奏で始めた。曲目がハレ晴レユカイなだけに、踊る客も出るかと思ったが、こちらも朝比奈さんの美声とそのパフォーマンスに見惚れている。先ほどと同様、こちらも会場中が歓声に包まれる。SOS団スピンオフ 朝比奈みくるソロバラードベスト発売決定だな。
「片付けは僕がやっておきます。あなた方は家族の時間を堪能してきてください」
古泉の言葉に甘えてW俺の二世帯は旅館へと戻った。ライブをしていたハルヒや有希も、それを見ていた子供たちも興奮状態でゆっくり家族風呂に浸かるような状態ではなかったが「時間が限られている」からと、有希が強引に家族風呂へと俺たちを連れて行った。
「どっちのみくるちゃんのアンコール曲も最高だったわね!ドラマが始まって四話くらい終わらないとCDが出せないのがもったいないくらいよ。それに、青みくるちゃんが舞い上がるスペース、いつもの生放送番組のスペースで足りるかしら?」
「問題ない。その日に東京ドームでライブをすればいい。出番が来たらわたしが撮影した映像を流してもらうだけ」
「それ、いいわね!古泉君にドームを確保してもらいましょ」
「プロ野球の試合がなければいいんだが…まぁ、そのときは日本武道館か?ところでハルヒ。向こうの世界でも対芸能人戦が決まったんだ。こっちでもやらないか?例の国民的アイドルに挑戦状を送りつけて、練習風景を撮影したDVDをセットにすれば叶うかもしれん。青ハルヒがアンダースローでマウンドに立つ以上、催眠をかけるのがこちらでもハルヒになってしまうけどな。ジョンも日本全国だけでなく全米にその存在が広がってしまったからな。未来人がいい方向に活躍するなら朝比奈さんやジョンの時間平面上の禁則にも該当しないだろうし、何よりもジョンの時間平面上でジョンを罰することのできる奴なんて存在しない。ジョンが人類最後の生き残りなんだからな。俺が各国回っている間のイベントとしてどうだ?当然、今度は朝比奈さんやOGには催眠をかけなくてもいいし、青俺と青有希はそのまま出場できる。出場するかどうかにもよるが、青朝比奈さんと青朝倉、青佐々木をどうするかってところだ。青古泉はかける必要がありそうだけどな。Wハルヒ、W有希、ジョン、青俺、古泉、朝倉、佐々木で九人揃うだろ。都合が合えば鶴屋さんも呼べばいい」
「面白いじゃない!九月に入ったら早速挑戦状を叩きつけてやるわ!でも青涼子と青佐々木さんは辞退するかもしれないけど、青みくるちゃんには入って欲しいわね。それに、バレーであれだけ活躍してるんだし、こっちのみくるちゃんに催眠をかけた方がいいんじゃない?」
「OG達も言っていたが『バレーならまだいいけど野球はちょっと…』ってヤツだ。チアガール姿の朝比奈さんが応援しているシーンが映ればファンも喜ぶ」
「ふむ、それもそうね。打順とポジションはどうしようかしら…一番レフト有希、二番ショート佐々木さん、三番
サード古泉君、四番セカンドあたし、五番ライト涼子、六番センタージョン、七番ファースト青みくるちゃん、八番キャッチャー鶴ちゃん、九番ピッチャー青あたし。青古泉君の今までの采配を考えるとこんな感じになりそうね。青キョンは控えで青あたしと交代かな。青有希ちゃんは二順目以降に佐々木さんと交代させるわ」
『キョンパパ、わたしもう上がりたい』
「ああ、ちゃんと身体拭くんだぞ」
『分かった』
『あたしに任せなさい!』でも『問題ない』でもなかった。午前の試合、午後の野球練習、ライブと続けば疲れていて当然か。
「しかし、反則的な打順とポジショニングだな。圧倒的大差で勝ってしまうぞ。向こうのチームの点数×10くらいのハンデがないと成り立たないんじゃないか?まぁ、途中でこのままじゃやばいと思ってルール変えてくるだろうけどな。こっちもあんまりホームランを連発しない方がいい」
「『反則的』で思い出したわ。キョン、今夜はバトル無しでいいからさっきのあんたの球打たせなさい!」
「それは構わんが、有希が一球ごとにあんなに後退りしてたんじゃ練習にならんだろうが」
「問題ない。最初に見せたら、あとはわたしの後ろに閉鎖空間の壁をつけるだけ」
「フフン、そういうこと。あたし達もそろそろあがりましょ!」

 

 ジョンの世界に足を踏み入れたのもどうやら俺が最後らしい。残り全員が練習もせずに立ったまま話していた。
「やっときたわね!黄あたしから聞いたわよ。あたしにもその球打たせなさい!」
「そう来るだろうと思ってたよ。その前に一つ、ここでやりたい事があったんだ。それが終わってからな。一分もかからない」
『やりたい事?』
眼を閉じて血液と一緒にハルヒの力が体内を循環しているのを確認すると、すべての力を一気に解放するイメージ……素早く眼を見開くと何と表現していいのか分からない擬音と共に一気にフルパワーまで引き出すことに成功した。若干オーラが外に出ているが、この程度なら外に出ていても問題ないし、すぐに吸収できる。等身大の鏡を情報結合すると、やれやれ本当に超サ○ヤ人みたいになってしまった。擬音も通常の状態から超サ○ヤ人になるのとほぼ同じだったし、ジョンが何て言ってくるのやら。大体想像はつくけどな。
「一体何がどうなっているのか我々にもさっぱりです。ハルヒさんの力をフルパワーまで高めるというのは有希さんから聞きましたが、この三日間で何が変わったというんです?」
「フルパワーを引き出すための時間短縮の方法を探っていたんだよ。一昨日は全部解放してから吸収するまでの間にかなりの時間を使ったし、その状態をどれだけ維持できるか分かったもんじゃない。あんなやり方じゃ戦闘中に全開まで引き出したくても相手が攻撃してくるし、準備が完了するまでに味方が致命傷を負いかねない。それで昨日は身体の外には出さずに体内で一気に解放しようとしたんだが、それじゃ俺の身体が持たないとジョンに止められた。だが、二日間とも全身に力が行き渡って循環させているイメージは同じだった。今日の野球の試合を見ていてようやく閃いたんだよ。過去ハルヒの打順が終わったら巡り巡って打順は一番に戻って有希だと考えていたらピンときた。ハルヒの力を一か所にまとめておかないで、血液と一緒にハルヒの力を隅々まで循環させた状態からフルパワーにしたらどうなるかってな。今みんなが見ていた通りだ。あの時間でこの状態まで変身することができた。ただ、常に循環している状態を維持するとどうなるのか確認がしたくてな。それで試しに俺の投球がどうなるか有希に受けてもらったんだ。結果は聞いての通りだ。とりあえず、涼宮体がいつ来ても対応できるような対策を考えていてようやく上手くいったってことだ。同じ手が通じないのは前回の戦争で明らか。たった三体倒すのにあんなに時間がかかっていたらみんなやられてしまうからな」
「なんだか、あまりいい気がしないわね。あなたばっかり強くなっていくなんて」
「あくまで可能性だが、青古泉の分析ではあの映像はおそらく半年後。それまでにそれぞれで修行をつめばいい。今はみんな野球やバレーの練習に集中している中で、俺だけ別のことをしていたにすぎない。ああ、閉鎖空間を広げる訓練もついでに頼む。俺の場合は、ハルヒたちがバトルだと言い出したら試してみようと思っていただけだ」
「ということは、その状態ではまだ投げたことがないってことよね?有希、キャッチャーお願い。あんたも気になるんでしょ?さっさと実験してみようじゃない!」
「分かった」
「いいのか?金属バットでも折れるかもしれないんだぞ?」
『金属バットで折れる!?』
「ちょっと待ちたまえ。金属バットが凹んだり曲がったりするのは分かるけど、折れることなんてあるのかい?」
「くっくっ、実際に試してみればいいじゃないか。僕も金属バットが折れるところを見てみたい」
『あたしは金属バットなんて使う気はさらさら無いわよ!でも、あんたがその状態でいる以上、こっちもコーティングを固めさせてもらうわ』

 

 これまでつけてなかったキャッチャー用防具をつけて有希がミットを構える。ここまで来るとそんな防具なんてドラ○エで言うところの布の服とほぼ変わらんと思うんだが…ま、いっか。やるからには全身の筋肉を利用して思いっきりやってやる。俺が球をリリースした次の瞬間、後退りすることなく有希が後ろに転がっていった。状況を素早く判断した古泉がテレポートで有希を受け止める。
「黄有希、大丈夫か!?」
「問題ない。わたしもミットにコーティングを集めていたから勢いに負けただけ」
「それで有希、今の球、一体何km/hだったわけ!?あたしにはキョンが投げた瞬間ボールが光ったようにしか見えなかったわよ」
『くっくっ、面白いじゃないか。キミが超サ○ヤ人になっているにも関わらず、フ○ーザと同じ技を使うとはね』
『だから、僕の真似をするのはやめたまえ』
「それで、一体何km/hだったんですか?」
「221km/h」
『221km/h――――――――――――――――!?』
『すまないが、ちょっと俺と交代してくれないか?金属バットが折れるのかどうか試してみたい。キョンもさっき話していたが221km/hならテニスのサーブと変わりはない』
「有希、あたしがあんたのこと抑えているから後ろで見せて」
「問題ない。閉鎖空間の壁を作った。さっきのようにはならない。でも、見ている分には構わない」
「ハルヒさんが簡単にジョンに出番を譲るなんて、これまで似たような例なんて果たしてあったでしょうか?」
「それだけのスピードと威力だってことだろ。ジョンでも反応出来るかどうか分からん」
『先に言っておく。金属バットにコーティングはつけない。バットを振る方に回すからいい実験になるはずだ』
第二球、俺の投球とほぼ同じタイミングでジョンがバットを振った。まぁ、青俺の言っていたスピードと威力はどうあれ、ど真ん中のストレートには変わりはない。見事にボールにバットが当たったが、金属バットを『破壊して』そのままミットに収まった。
「これはまいったね。折れるどころの騒ぎじゃなくなってしまったよ。次元が違いすぎる」
「誰かキャッチャーを代わって欲しい。さっき彼が放った今のボールの一歩手前の球でバッティングの練習をする。明日わたし達と対戦するのは九州代表。相手ピッチャーの球速はプロ球団とほとんど変わりがない。でも、その分コントロールに乏しい。打球を見極めるためにも今まで以上の球に慣れておく必要がある」
「それならあたしも打ってみたいわね」
「あら、みんな気が合うわね。わたしも打ってみたいんだけど誰がキャッチャーをやるのかしら?」
「では、僕が引き受けましょう。これも対涼宮体対策と思えば、いい修行になります」
「古泉君、本当に大丈夫なんですか?」
「ミットを構えれば彼がど真ん中に投げてくれますから心配いりませんよ」
「やれやれ、同じ古泉でも……って、今後はみなまで言わないことにしよう」
「失敬な。とりあえず、この一歩手前の状態を確認したらそれぞれの練習に別れてください。あまりにも時間を使いすぎました。それに、黄有希さんのおっしゃった通りならスピードに慣れていても、威力がプラスされてきますから、自分の狙ったところに打つというのは難しくなってくるでしょう」
『問題ない』

 

 ハルヒの力を全開放した状態を解き、180km/h台の球を打とうと名乗りを上げたのがWハルヒと有希、朝倉の四人。バッターボックスに立つ一人を除いて、残り三人は古泉の後ろでスピードに慣れるところから始めるらしい。
「今日出場したのが有希さんだったから明日はわたしになったんでしょうけど……チームに貢献できるとは到底思えないわよ。有希さん代わってもらえないかしら?」
「それはいい。でも、それだと今後朝倉さんを出すことができなくなる。以前の古泉君のセリフじゃないけど、次にわたし達と試合をするのは今後闘う相手の中で最弱。そのチームに臆していたら今後出る機会がない」
「まったく、有希さんいつの間にこんなにたくましくなっちゃったのかしら?羨ましいな。じゃあ、やるだけやってみるから、そのあと有希さんにお願いしちゃおうかな」
「分かった」
「青俺、こっちは四人相手に手が離せなくなってしまった。佐々木に木製バットを持たせてバントとバッティングの練習をさせたいんだが頼んでいいか?」
「キョン、それはないだろう。僕が木製バットでハルヒさんたちのように飛ばせるわけがないじゃないか」
「だからこそ木製バットの方がいいんだよ。バントはそこまでサードまで届かないだろうし、バッティングをする場合は一二塁間を狙えばピッチャーが取りに行くより他はない。ライト前まで届いてしまうと逆に危ないんだ。今日のおまえの打席の話じゃないが、今の自分にできることをやればいい」
「黄佐々木、どうするつもりだ?」
「キミがそこまで言うのならやってみるけど、そこまで期待しないでくれよ?」
「おまえなら間違いないから大丈夫だ」
結局、子供たちはどうするのかと思ったら、バッティング練習のためにW俺に何人もついている状態で自分の番はそこまで来ないと判断したらしい。身体を拡大することもなく、朝比奈さんと一緒にゴムボールとプラスチックバットでいつものように練習をしていた。しかし、野球の練習も今日で最後か。やるとすれば来週の金曜日とその翌週の金曜の二回だけ。ジョンが古泉に時間だと告げても誰も止める素振りはしなかったのだが、青俺の「俺たちの世界の新聞がどうなっているか見てくる」という一言をきっかけに討議が始まった。

 

「キョン、かき集めるって言っても地域戦だから範囲が広すぎる」
「そのようですね。ですが、内容についてはおおよその見当がつきますよ」
「俺たちの試合が一面を飾るのなら青ハルヒの投球シーンで決まりだろうな」
「あたしが!?あんた、それが嘘だったら承知しないわよ!?」
「涼宮さんのインタビューもニュースで報道しているかもしれません。中○君が自らインタビューに来るくらいなんですから」
「こっちの方もみくるちゃん達の動画がどうなっているのか見てみたいわね」
「問題ない。両方の世界のニュースをモニターに出せばいい」
『くっくっ、面白いじゃないか。どっちの世界も僕たちのことが取り上げられているなんてね。是非見せてくれたまえ』
「一通り見終わったら昨日の生中継もみたい。今見ないと見る時間が無さそうだからな」
つかの間を経て現れた二つの巨大モニターには各社の新聞記事が映っていた。俺たちの世界の方は、『アクセス数Wミリオン突破!女神降臨』や『SOS団初のバラード曲!ボーカルは朝比奈みくる』など、やはりあのパフォーマンスがあってこそだろうな。青朝比奈さんの女神のドレス姿が一面を飾っていた。対して青チームの世界の方は『女のみで一回裏コールド!』だったり『中○自ら対戦依頼!黒○ラ復活か!?』などと対戦がすでに確定したようなことが書かれていたり『驚愕の3.5cm!美しきサブマリン現る!』など、こちらは全て青ハルヒの投球シーンだな。
「アメリカの規模でキョン先輩の映画がアクセス数100万件だったのに、日本だけでアクセス数200万件って青みくる先輩凄すぎます!」
「彼が衣装をわたしに提案してきたからこそ。あのパフォーマンスが無ければそこまでにはならない」
「青ハルヒのインタビューもちゃんと報道されているな。流石に毎年紅白出ていただけあって緊張感がまったく見られない」
「当然ですよ。我々の世界では初対面でも、黄チームの世界では何度も会って話しているんですから」
「そろそろ昨日の生中継に切り替えないか?」
「わかった」
生中継は試合開始直後からのスタート。青ハルヒの投球シーンが映し出されている。青ハルヒが完封した後、国民的アイドルが吠えていた。
「うっわ~~~~~!俺、あの球超打ってみたい!!ちょっとバッターボックスに立ってきていいですか?」
とコメント。有希たちが相手投手を困惑させている間に俺たちの練習風景が映っていた。
『みんな、時間だ』
「相手が九州男児なら、超高速送球の出番も多そうね」
「あたしが全部打ち取ってやるんだから、黄有希、采配お願いね!」
「問題ない。今日はわたしが一番目立つ」
「やれやれ…野球でもバレーと似たようなこと言うようになりやがって。いつからおまえはそんなに目立ちたがりになったんだ!?」
『わたし達も応援頑張ります!』
『キョン(伊織)パパ!わたしも!』
「さっさと準備してアップするわよ!あたし達の強さ見せつけてやろうじゃない!」
「諸注意は昨日お話したとおりです。皆さんよろしくお願いします」
『問題ない』

 
 

…To be continued